『 時計 』
――― 時刻を示したりする機械の総称である
― * ―
『 Ⅰ 』
時計には、3つの針が存在する。
1つ目は、時を知る上で最も重要な要素である長針。
2つ目は、最も人の視線を集め、悩ます短針。
3つ目は、時計を動かす力を持つ秒針。
時計はこの三つが存在していた。
さながら、時計という世界に住む住人のようである。
『 Ⅱ 』
遠い昔、時計はこれらによって構成されていた。
長針、短針、秒針。
それが時計のあり方だと誰もが疑わなかった。
秒針が一周すると、長針は一つ進む。
長針が一周すると、短針は一つ進む。
当たり前であり、それが時計のあり方であった。
それぞれが何の疑問を持たずに動いていた。
しかし、時が進むにつれて時計に変化が生じてきた。
『 Ⅴ 』
時計の中で指針たちは暮らしていた。
それぞれが一定の戒律を守りながら、時計の中で歩き続けた。
時に彼らは出会い、同じ時を過ごす。
そして別れていく。
その繰り返しであった。
長針と短針は長い時を共にした。
しかし秒針だけは彼らと出会う事を避けるかのようにすぐに過ぎ去っていく。
彼らはそんな秒針の態度を見て思った。
「秒針は、私達とはなにか違う。」
『 Ⅵ 』
秒針は常に動き続けるしかなかった。
時計の文字盤の上を孤独に歩き続けた。。
『Ⅰ』という場所を過ぎ、すぐに『Ⅱ』という場所を後にする。
ほんの一瞬、遠くから彼らを見つめるだけである。
秒針も本当は彼らと話したいと思っていた。
しかしそれはかなわぬ願いである。
同じ時計の中にいるのに秒針が彼らと交わる事は無かった。
だから、いつも孤独であった。
秒針はとても悲しく、涙を流した。
『 Ⅶ 』
秒針は立ち止まれなかった。
立ち止まってはいけなかった。
自分が止まれば、時計が壊れてしまう。
狂ってしまう。
一人でいれば、何も壊す事は無い。
そう心に決め、正確に時を刻み続けるため一人で歩き続けた。
彼らと交わる事は自分も彼らも滅ぼしてしまうからだ。
秒針はそんな事を望んでいなかった。
だから、秒針は誰にも関わろうとしなかった。
『 Ⅸ 』
時計はさらに時を刻み発展していった。
長針と短針は姿形を大きく変えていった。
時には煌びやかな物で自身を飾り、とても美しかった。
土地も豊かになり、様々な物が出来ていった。
しかし、秒針は何も変わらずに文字盤を歩き続ける。
変わろうと思わなかったのか、変われなかったのか。
秒針はそんな彼らを見つめるだけで、またひとりで廻り続けた。
『 Ⅹ 』
長針と短針は言った。
「時計に、何でお前は存在する?」
時を正確に知るなら、『時』『分』で十分である。
彼らだけでも時計は動き続ける事が出来るのだから。
長針と短針は同じ指針である秒針を激しく責め立てた。
秒針は彼らの言葉を聞き、愕然とした。
時計の中で暮らしてきた三つの指針。
長針、短針、秒針。
同じ存在であるはずなのに、秒針は存在する事を許されなかった。
秒針は、悲しみに泣き叫んだ。
「私は、要らない存在なの?」
秒針は悲しみの中、彼らに捕まり初めてその足を止めさせられた。
『 ⅩⅡ 』
秒針は時計を壊した。
長針も短針も文字盤も全てを壊した。
立ち止まってしまったから。
全てが狂ってしまった。
時計も、自分も狂ってしまった。
結果、時計は動かなくなった。
壊れた時計は時を刻む事は無い。
秒針ももう歩く必要が無かった。
真ん中で折れた秒針は、時計から力無く零れ落ちた。
秒針が存在する理由はその世界に残っていなかったから。
何処までも、何処までも落ちていった。
――― 壊れた月時計がもう時を刻む事は無い
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
『 ⅩⅢ? 』
折れた秒針が気がついた時、そこには信じられない光景が広がっていた。
一言で言うなら、そこは奇妙な時計であった。
数字の書かれていない白地の文字盤。
無数に存在する自分と似て否な秒針。
不思議な形をした長針と短針のある時計である。
それぞれが気ままに時を刻む。
時に速く、時には遅くと皆が気まぐれに動いていた。
それは、幻のような場所であった。
「いらっしゃい、壊れた秒針さん。」
ゆっくりと時を刻む紅い針が折れた秒針の前で止まっていた。
折れた秒針は初めて他の指針と接した。
折れた秒針は嬉しくて涙が零れた。
堰を切ったように溢れる涙。
そんな折れた秒針を紅い針は優しく寄り添っていた。
折れた秒針は時を刻む事は出来ない。
しかし、共になら時を刻む事が出来る。
そう、この紅い針となら。
この何も書かれていない文字盤を何処までも歩いて行ける。
この何も書かれていない文字盤の上を自分は歩いて行ける。
折れた秒針は再び歩き始めた。
――― 紅い針と共に・・・
>短針が一周すると、長針が一つ進む。
長針と短針が逆になってるような・・・あれ? あってる?
どっちだっけ・・・?
こうして名前を挙げるだけでも、秒針だけが仲間はずれだ。
全ては数字であらわされてますから。
私には秒針が咲夜さんに思えました。
時代の流れと共に発達する文明は長針・それと共に変化するが人の心。
今の人間界に咲夜の能力は恐怖以外のなにものでもない。
それは人の心に受け入れられるはずも無く。
そして・・・・・秒針は仲間はずれとなる。
・・・・と解釈してみる。