天邪鬼。
妖怪の一種であり、私が生まれ持った種族。
「鬼」という名前が付きながらも、私に爆発的な妖力がある訳ではない。
気性が荒い訳じゃないからね、あの山の鬼共みたいに。
力だけで戦うことの何が楽しいのやら。
それよりも、相手を困らせたり、忌み嫌われたりする方がずっといいさ。
そんな私の元へと、しつこく訪れる変わり者もいる。
……まぁ、私から足を運ぶこともあるけどね。
理由など知らない。
そんな中でも小賢しい……じゃなかった、よく会う奴と言えば。
「正邪ー、糸引いてる」
「あー? うわっ忘れてた! ――あー……」
一瞬何か強い力に引っ張られたと思えば、すぐになくなった。
そうか、こいつに誘われて川釣りの最中だったっけ。
あーあ、貴重な川魚が。
「天邪鬼が想いにふけるなんてね、珍しいこともあるもんだ」
「ちっぽけなお前さんには分からんだろうね。 天邪鬼は繊細な種族なのさ」
これは嘘。
そんな面倒なことなんか、考えてたまるか。
「早く釣れないかなー。 山女魚っていう川魚が美味しいんだって」
「お前を餌に釣れば釣れるかもよ」
「……本気で言ってるそれ?」
「己で考えるんだね」
「分かった。 今の正邪の言葉は嘘だね」
そう、私が組む足の隙間に立つ小さなお姫様は告げる。
少名 針妙丸。
彼女の名前だ。
弱者が強者を支配する、下克上が跋扈する世界。
それが私の企みであり、その為に利用したのがこの小人だ。
口巧みにこいつを騙したが、結局その計画は失敗。
こいつも更に小さくなり、今では小動物にすら追われるという始末。
厄介な巫女の元に住んでいるのだが、度々抜け出しては私の元へとやって来るのだ。
……本当に馬鹿だと思う。
自分の正義心を踏み躙る様なことを、今すぐ近くに居る妖怪にされたんだぞ?
それなのに関わらずこいつは、私の元を訪れ、変わらない幻想郷の景色を見せてくれる。
いや、私はこの景色を知っているはずなんだ。
私だってもう長く生きている。
妖怪という種族の寿命は、果て無く長い。
人々が行き交う活気ある場所。
静かに佇む妖怪の山に建てられた社。
怪しく聳える、真っ赤な館。
他にも様々な場所がある。
それらを誰にも悟られることもなく、誰からも望まれぬ様に見てきた。
それこそが、私にとっての「普通」だった。
……こいつと出会ってからはどうだ?
相変わらず憎まれ口を叩かれることもあった。
しかし、今までとは見え方が違っている気もする。
私が今まで見てきた世界に、こいつが色を添えたとでも言う気?
いやーないない、こいつにそんな大層なことが出来てたまるもんか。
本来の大きさに戻ることが出来るとはいえ、所詮小人族の一人。
私と対等なんて、そんなことないんだよ。
「――あっ!! 正邪引いてる引いてる!! これは大物だよきっと!!」
っといけないいけない、次は釣り上げないと。
簡易に作った竿をしっかりと握り、タイミングを計る。
何せ、その辺の木の枝に糸を括り付けただけだ。
無理に引っ張ればすぐに壊れそうだし。
引っ張る力が強くなっているから……ここだな。
軽々と竿を引き上げ、川魚とご対面だ。
釣り上げられた水飛沫が、こちらへと飛んでくる。
「わーっ!! 冷たっ!?」
私にはあまり害はないが、小さなお姫様は別みたい。
いい気味いい気味。
「あっ、正邪が笑ってる」
「うるさい、餌にするぞ」
「そんなことするつもりない癖に。 おぉ、これが山女魚かな?」
うーん、私はあまり詳しくないから分からない。
とにかく魚だろう、食べられれば何でもいい。
「まだ釣るの?」
「一匹じゃ味気ないだろうに」
「じゃあ私が集めてこよっと」
何処から取り出しのか分からない、お椀。
そっか、これが船代わりか。
そそくさとお椀に乗り、モールに似た何かを構えている。
あー私が浮かべろってことか。
すっと持ち上げ川へと浮かべてやる。
投げてやってもいいが、溺れたら面倒だな。
……遊んでいるようにしか見えないのは気のせいかあいつ。
まぁ、こっちもやることをやろう。
適当に小さな虫を針に付け、川へと落とす。
そういえばあいつ、巫女の根城ではどうしているんだろう。
あそこなら家主以外外敵は居なさそうだが。
あいつと住むと苦労するだろうに。
まぁ、私が他人の心配するなんて柄じゃないし、ほっとけほっとけ。
「正邪ー!! 引っ掛かったー!!」
あぁもう!
言わんこっちゃない。
幸いにも浅瀬な為、緩やかな水流の中を歩き、水難中の小舟を救出。
ほんっとにこいつは……。
「あー危なかったー……」
「大物が釣れたかもしれないのに、なんてことするんだ」
「でも助けてくれたでしょ?」
「お前が助けてくれって言った癖に」
「あ、あれは危なかっただけで。 何もしなくても、正邪は私を助けてくれたと思うよ」
なんだこの満面の笑み。
あー見るのが辛い。
このまま流してやろうか、しないけど。
……気分が変わった、もう釣りはいいや。
「あれ、帰るの?」
「気分じゃない」
「じゃあ城に帰ろうよ。 久しぶりに正邪と話したいし」
「面白い話題なんかないぞ」
「それでもいいよ。 じゃあ、輝針城までよろしく!」
次は馬車代わりか。
妖怪の山にでも捨ててやる、捨てないけど。
「次は何するの?」
「何も考えてない。 ……今のままでもいいかなって、ちょっと思った」
「私のお陰だね、光栄に思うといいよ!」
……うっさい。
その通りなのが、本当に頭に来る。
図体は小さい癖に、言うことだけは大きいなこいつ。
それにしても輝針城か……。
あの異変以来とはいえ、何も変わっていないだろうね。
こいつも変わっていないんだし。
よくも異変の主犯である妖怪を招くもんだ。
嫌われ者の私をね。
……こいつの中では、私はどう映っているのだろう。
私には眩しいよ、こいつという存在が。
それでも、傍に居るのは悪くないかなって思っている。
いい番狂わせ者だよ、お姫様。
……じゃなかった。
こいつには、そういう態度はもういらないんだった。
言葉を崩しても、何とも思わない。
いい悪友、そう言ってしまうのも悪くないかもね。
「私もいつか飛んでみたいなぁ」
「お椀ごと、私が投げてやろうか?」
「……本当?」
「嘘。 まぁその時が来たら、私も一緒に飛んであげるよ」
目を輝かせるな眩しい。
まぁ、精々頑張りなよ。
傍にはいてあげるよ、針妙丸。
妖怪の一種であり、私が生まれ持った種族。
「鬼」という名前が付きながらも、私に爆発的な妖力がある訳ではない。
気性が荒い訳じゃないからね、あの山の鬼共みたいに。
力だけで戦うことの何が楽しいのやら。
それよりも、相手を困らせたり、忌み嫌われたりする方がずっといいさ。
そんな私の元へと、しつこく訪れる変わり者もいる。
……まぁ、私から足を運ぶこともあるけどね。
理由など知らない。
そんな中でも小賢しい……じゃなかった、よく会う奴と言えば。
「正邪ー、糸引いてる」
「あー? うわっ忘れてた! ――あー……」
一瞬何か強い力に引っ張られたと思えば、すぐになくなった。
そうか、こいつに誘われて川釣りの最中だったっけ。
あーあ、貴重な川魚が。
「天邪鬼が想いにふけるなんてね、珍しいこともあるもんだ」
「ちっぽけなお前さんには分からんだろうね。 天邪鬼は繊細な種族なのさ」
これは嘘。
そんな面倒なことなんか、考えてたまるか。
「早く釣れないかなー。 山女魚っていう川魚が美味しいんだって」
「お前を餌に釣れば釣れるかもよ」
「……本気で言ってるそれ?」
「己で考えるんだね」
「分かった。 今の正邪の言葉は嘘だね」
そう、私が組む足の隙間に立つ小さなお姫様は告げる。
少名 針妙丸。
彼女の名前だ。
弱者が強者を支配する、下克上が跋扈する世界。
それが私の企みであり、その為に利用したのがこの小人だ。
口巧みにこいつを騙したが、結局その計画は失敗。
こいつも更に小さくなり、今では小動物にすら追われるという始末。
厄介な巫女の元に住んでいるのだが、度々抜け出しては私の元へとやって来るのだ。
……本当に馬鹿だと思う。
自分の正義心を踏み躙る様なことを、今すぐ近くに居る妖怪にされたんだぞ?
それなのに関わらずこいつは、私の元を訪れ、変わらない幻想郷の景色を見せてくれる。
いや、私はこの景色を知っているはずなんだ。
私だってもう長く生きている。
妖怪という種族の寿命は、果て無く長い。
人々が行き交う活気ある場所。
静かに佇む妖怪の山に建てられた社。
怪しく聳える、真っ赤な館。
他にも様々な場所がある。
それらを誰にも悟られることもなく、誰からも望まれぬ様に見てきた。
それこそが、私にとっての「普通」だった。
……こいつと出会ってからはどうだ?
相変わらず憎まれ口を叩かれることもあった。
しかし、今までとは見え方が違っている気もする。
私が今まで見てきた世界に、こいつが色を添えたとでも言う気?
いやーないない、こいつにそんな大層なことが出来てたまるもんか。
本来の大きさに戻ることが出来るとはいえ、所詮小人族の一人。
私と対等なんて、そんなことないんだよ。
「――あっ!! 正邪引いてる引いてる!! これは大物だよきっと!!」
っといけないいけない、次は釣り上げないと。
簡易に作った竿をしっかりと握り、タイミングを計る。
何せ、その辺の木の枝に糸を括り付けただけだ。
無理に引っ張ればすぐに壊れそうだし。
引っ張る力が強くなっているから……ここだな。
軽々と竿を引き上げ、川魚とご対面だ。
釣り上げられた水飛沫が、こちらへと飛んでくる。
「わーっ!! 冷たっ!?」
私にはあまり害はないが、小さなお姫様は別みたい。
いい気味いい気味。
「あっ、正邪が笑ってる」
「うるさい、餌にするぞ」
「そんなことするつもりない癖に。 おぉ、これが山女魚かな?」
うーん、私はあまり詳しくないから分からない。
とにかく魚だろう、食べられれば何でもいい。
「まだ釣るの?」
「一匹じゃ味気ないだろうに」
「じゃあ私が集めてこよっと」
何処から取り出しのか分からない、お椀。
そっか、これが船代わりか。
そそくさとお椀に乗り、モールに似た何かを構えている。
あー私が浮かべろってことか。
すっと持ち上げ川へと浮かべてやる。
投げてやってもいいが、溺れたら面倒だな。
……遊んでいるようにしか見えないのは気のせいかあいつ。
まぁ、こっちもやることをやろう。
適当に小さな虫を針に付け、川へと落とす。
そういえばあいつ、巫女の根城ではどうしているんだろう。
あそこなら家主以外外敵は居なさそうだが。
あいつと住むと苦労するだろうに。
まぁ、私が他人の心配するなんて柄じゃないし、ほっとけほっとけ。
「正邪ー!! 引っ掛かったー!!」
あぁもう!
言わんこっちゃない。
幸いにも浅瀬な為、緩やかな水流の中を歩き、水難中の小舟を救出。
ほんっとにこいつは……。
「あー危なかったー……」
「大物が釣れたかもしれないのに、なんてことするんだ」
「でも助けてくれたでしょ?」
「お前が助けてくれって言った癖に」
「あ、あれは危なかっただけで。 何もしなくても、正邪は私を助けてくれたと思うよ」
なんだこの満面の笑み。
あー見るのが辛い。
このまま流してやろうか、しないけど。
……気分が変わった、もう釣りはいいや。
「あれ、帰るの?」
「気分じゃない」
「じゃあ城に帰ろうよ。 久しぶりに正邪と話したいし」
「面白い話題なんかないぞ」
「それでもいいよ。 じゃあ、輝針城までよろしく!」
次は馬車代わりか。
妖怪の山にでも捨ててやる、捨てないけど。
「次は何するの?」
「何も考えてない。 ……今のままでもいいかなって、ちょっと思った」
「私のお陰だね、光栄に思うといいよ!」
……うっさい。
その通りなのが、本当に頭に来る。
図体は小さい癖に、言うことだけは大きいなこいつ。
それにしても輝針城か……。
あの異変以来とはいえ、何も変わっていないだろうね。
こいつも変わっていないんだし。
よくも異変の主犯である妖怪を招くもんだ。
嫌われ者の私をね。
……こいつの中では、私はどう映っているのだろう。
私には眩しいよ、こいつという存在が。
それでも、傍に居るのは悪くないかなって思っている。
いい番狂わせ者だよ、お姫様。
……じゃなかった。
こいつには、そういう態度はもういらないんだった。
言葉を崩しても、何とも思わない。
いい悪友、そう言ってしまうのも悪くないかもね。
「私もいつか飛んでみたいなぁ」
「お椀ごと、私が投げてやろうか?」
「……本当?」
「嘘。 まぁその時が来たら、私も一緒に飛んであげるよ」
目を輝かせるな眩しい。
まぁ、精々頑張りなよ。
傍にはいてあげるよ、針妙丸。
レジスタンスが楽しそうで何よりでした
このシーンを想像するだけでほっこりしました。
素敵な可愛らしいお話をありがとうございます。