フラン人形作者: O乃

　嘘つきは嫌いだ。嘘つきは嫌い。嘘つきは嫌。
　紅い館で４９５年生きた少女は溜め息を吐く。

「いつでも遊びに来るっていったのに・・・」

　約束を交わした相手はしばらくの間現れてない。
　夏が過ぎ、冬が過ぎ、春が過ぎ、夏になり、もうすぐ秋になる。

「飽きちゃったのかな・・・」

　そんなことはないと思いつつも、不安に駆られる。また一人ぼっちの日々を過ごすのか。
もう遊んではくれないのか。あれ？もしかしたらアイツは死んでしまったのではないか・・・

「イヤ・・・」

　そんなのは嫌だ、もうたくさんだ。でも霊夢は現れない、もしかしたらもしかしたら・・・

「フラン、久し振りね。元気だった？」

　不吉な想像膨らむ中、おめでたい格好をした人間はひょっこり現れた。

「霊夢！・・・」

　一瞬にして胸の中の不安は消え、その姿に飛びつこうとしたフランだが一歩踏み出したところで足
を止めてそっぽを向く。

「ん？何かご機嫌斜めね」
「・・・しばらく来てくれなかったじゃない」
「ごめんごめん。神社の仕事が忙しくてね」
「嘘つき」
「まあ、嘘だけど。それより今日はあんたにお土産があるのよ」

　霊夢は懐から取り出した人形をフランに見せた。

「何これ？霊夢の人形」
「そうみたいね。それで、この人形をよーく見てなさい」

　そう言ってから、霊夢は乱暴に人形を殴る。

『ムソーフイーン』
「！？」

　いきなり喋りだした人形にフランは目を丸くした。

「な、何これ？」
「さあ？でもよくできてるでしょ。気持ち悪いくらいに」
「うん、すっごく気持ち悪い人形」

（・・・私の人形が気持ち悪いのか、喋る人形が気持ち悪いのか・・・どっちだ）

「ねえ霊夢、この人形私にくれるの？」
「そのつもりだけど。私はこんなモンいらないし、まして持ち主に返す気はないし」
「・・・・・・」
「どうしたの？」
「・・・ありがとう」
「ま、最近あんたに会いにきてなかったからね」
「・・・・・・」

　フランは人形を抱きしめ、うつむいた。

「ん？どうしたの？」
「忘れてたわけじゃなかったんだ」
「あたりまえでしょ」
「よかった・・・今夜にでも神社ぶっ飛ばしに行こうかと思ってたの」
「ああ、そりゃ間に合ってよかったわ。あんたが来たら周りに迷惑かかるもの」
「うん」
「さてと。じゃ私は帰るわね」
「もう？今日は遊ばないの？」
「今日は神社に妖怪が来る予定なのよ」
「何、ソイツ」

　フランはぶー、と頬を膨らませる。

「さあ？よくわかんないけど大事な用らしいわ。月がどうのこうの」
「ふーん・・・」
「まあ、大事な用って言うくらいだからきっとどうでもいい用事なのよ」
「ん。わかった」
「じゃあね。おとなしくしてるのよ」
「霊夢」
「？」
「気をつけてね」
「まあ、人並みには」

　よくわからない返答をして、紅白の巫女は出て行った。

「月・・・」

　フランにもわかっていた。月が真円を描かない事に。そしてそれが自分にも匹敵するかも
しれない力を持つ者の仕業であろうことも。

「・・・バカみたい」
『ムソーフイーン』

　ぽかり、と人形を叩いて喋らせる。ああ、ほんとにバカみたいだ。

「霊夢が負けるわけないもん」
『ムソーフイーン』

　だから待っていよう。月を戻して、また遊びに来てくれるまで。

「・・・結構可愛いかも」

　ばふ、とフランはベッドに寝転がった。胸には人形を抱いて。

「むそーふいーん」

　声真似をして目を瞑る。まあ、今日遊べないのはこの人形で我慢しよう。次に目を開けた時
にはきっと何もかも元通りになっているだろうから。

　余談

「おーい早くしろよ」

　魔法の森の某館には魔法使いが二人。

「ちょっと待って、大事な人形が見つからないのよ～」
「大事な人形？どんな？」
「もちろん100％手造り霊夢型人形よ！」
「・・・その大事なモンで何するつもりだ？」
「今日の使い魔にするのよ」
「なんだ、あの人形も使い魔だったのか？」
「そうよ。特別な魔法をかけて作ったから、私が使役すれば夢想封印が無限に撃てるわ」
「な、何だって！？」
「だからあれがあればいざという時も困らないのに、もう！」

（まさかあれにそんな力があったとは・・・）

「どうかした？」
「私は知らないぜ」
「別に聞いてないわよ。あ～も～どこよ～・・・」
「おい、その人形は諦めて（私が霊夢にやっちまったからな）もう行くぞ。夜が明けちまうぜ」
「はぁ・・・仕方ないわね・・・上海人形で行くわ」

　・・・永い夜はもうすぐ始まろうとしている