初めまして。初投稿です。
この作品には、主人公としてオリジナルキャラクターが登場します。が、半分自分だと思って読んで頂きたいです。
冒頭に書かれていますが、映姫からつけられた主人公の名前であるシンスは英単語のsinnerとdeceaseを合わせたものです。
容姿は、そうですね。画面の前の貴方のような。
すいません、ベタすぎました。普通の人です。かなり普通の。何となく想像してください。長いですが最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
─幻想郷一日旅行─
「そうですか、貴方も物好きですね。しかし貴方には悪いことをしました。謝罪はしなければいけません」
「ごめんな」
「真面目に謝りなさい。貴方の所為でこのようなことになっているのですよ」
「‥すいませんでした」
彼岸にて、小野塚小町に、四季映姫が男の前に立つ。
「‥さて、貴方の名前をこのまま幻想郷に持ち込むわけにはいきません。そうですね‥"シンス"」
映姫が悔悟の棒を男性に向けて言う。
「貴方の名前は"シンス"。幻想郷へはその名前で行きなさい」
「はい、分かりました」
「では、小町。後を頼みます」
「へいへい」
小町と呼ばれた死神は、面倒くさそうに受け答えた。
「シンス」
「はい」
「あちらで貴方の存在した証拠を残すことは決してあってはなりません」
「はい」
「貴方に与えた能力で幻想郷に関係するものを消してもいけません」
「分かりました」
「よろしい。それでは、行ってらっしゃい。幻想郷へ─」
───
暗みのかかった道を、八雲紫の式の式である橙が歩いていた。
「あーあ、遅くなっちゃった。藍様に怒られちゃう」
既に日は暮れかかっており、後30分も経てば辺りは真っ暗になるかというほどである。
「ん‥?」
橙はふと足を止めた。
「(人間の匂い?)」
嗅ぎ慣れない匂いだった。
「(霖之助さんかな?)」
辺りを見廻すが、それらしき人影は見えない。「気のせいか」、と橙は再び歩み始める。
しかし、フッと視界が暗くなった。
「にゃあ!」
ドスン、と何かに押しつぶされ、橙は仰向けに倒れる。
「痛ぁ!な、なによいったい─」
橙が言葉を切る。上を見ると、男が橙の顔の真上で呆然としていた。
「…」
「……」
「………」
「‥あ、えっと…」
「‥ひっ…ひゃあああっ!」
男がようやく口を開くと、目を見開いて沈黙していた橙が叫んだ。
男は慌てて橙の身体の上から身を起こし、退く。橙も急いで上半身を起こした。
「な、なんなんですか!誰なんですかあなた!」
「えっと…どうも初めまして」
「あ‥こちらこそ。‥‥ってちがーう!」
人差し指を男に向ける。
「あなた人間でしょ!なんで上から落ちてくるんですか!?っていうか誰なんですか!?」
「えーと‥。それより、八雲紫様の家ってどこにあるのかな?」
「人の質問無視ですか!?」
「あ、ごめん。僕はシンスって言うんだ。君は?」
「私は橙です!それより、なんで上から!」
「えーと‥なんでだろう」
橙は肩を落とし、深く溜め息をつく。
「わけが分かりません‥。もしかして、間違えて幻想郷に入ったとかですか?」
「いや、それは違うけど‥本当になんで空から落ちたのかは分からないんだよ」
「(‥だめだ、こんなやつを家に案内するわけにはいかない)」
橙はどうにかして男を引き離そうかと考える。
「‥ねぇ」
「…」
─しかし、もしここに置き去りにしてしまったら妖怪に食べられて死んでしまうのではないか?
いや、別に彼が死のうと私にとってはどうでもいいことなのだが。けどそれでは私が殺したみたいで何だか…
「ねぇ、聞いてる?」
「へっ!?」
ぼーっと考え込んでいたので、シンスの声に驚いて情けない声をあげる。
「そろそろ暗くなるから早く案内してほしいんだけど‥」
その言葉で、橙はすっかり辺りが暗くなっていることに気づく。
「あー!」
「うわっ」
「早く帰らないと怒られちゃう!」
橙が急いで立ち上がり、駆け出す。
「あっ、ちょっと─」
───
家に着く頃には、既に藍が夕食を作って準備していたところだった。
「た、ただいま戻りましたー!」
橙が玄関から入る。すると、キッチンの方から藍の声が聞こえる。
「橙、遅いよ。どこに行っていたんだ?」
そう言いながら姿を覗かせた藍は、橙のほうを見て目を見開き、沈黙する。
「…?」
藍が自分の方を見て驚いているわけじゃないことに気づき、振り返る。
そして、藍と同様に橙も目を丸くする。そして叫んだ。
「えええ!?な、な、なんであなたがいるんですか!!」
勿論後ろにいたのはシンスだった。
「あ、ここが紫様の家なの?」
「なんで私の質問を毎回無視するんですか!?」
「え、あ、ごめん。」
「‥そうか、橙もついに人間の異性というものに興味を持ち始めたのか‥。」
「違いますよ!勝手に勘違いしないでください!ていうか私は猫です!式神です!」
「ふつつかものですがよろしくお願いします」
「話をややこしくしないでください!」
橙がギャーギャー喚いていると、襖の向こうから声が聞こえた。
「うるさいわねぇ。いったい何の騒ぎよ‥」
気だるそうに紫が襖を開けてこちらを覗いてくる。
「あら、橙。おかえ…」
紫がシンスを見て、無表情のまま黙り込む。
しかし、やがてニヤリと笑うと襖の奥へと無言で引っ込んでいった。
「って何ですかその反応!?」
「ふつつかものですが」
「ちょっと黙っててください!ってちょっと!なに勝手にあがろうとしてるんですか!」
「紫様、ちょっと聞いてほしいことがあるんですけど」
シンスがそう言うと3人の近くに隙間が現れ、そこから紫が顔を出す。
「何かしら?彼氏さん」
「あ、はい。えっと…」
「ちょっと!何か言って下さいよ!その通りみたいになっちゃうじゃないですか!」
「橙、落ち着きなさい橙」
「藍さま!?」
「慌てては駄目よ、敵が現れた時は慌てず気づかれないように首を─」
「藍さまこそ落ち着いてください!!」
「‥で、話って何かしら」
「えーと、あの、紫様だけに話すように言われてるんですけど‥」
「あら、誰に?」
「あの、四季映姫様です」
映姫の名前を聞いた途端、紫の眉に少し皺が寄る。
「映姫に?‥分かったわ。入って頂戴」
「あ、はい。どうも」
「え?ちょ、紫様、そんな知らない人を家にあげるなど─」
「家じゃないわ、隙間よ。二人は先に食事にしてなさい」
そう言って紫とシンスは隙間の中へと消えていった。
藍は手を静かに下げて、橙に背中を向けたまま言う。
「‥橙」
「‥はい」
「ちょっと後で話があるからね」
「……」
───
「それで、話って何かしら」
「あ、はい。えーと、四季映姫様が」
「ええ」
「この紙を渡すように、と」
シンスは懐から封筒に入った紙を手渡した。
几帳面な字で書かれた手紙。字は達筆で、丁寧に判子まで押してある。
「うんうん、なになに…」
─突然の男の訪問にさぞ驚いたことと思います。申し訳ありません。その者の名はシンスといいます。
さて、手短に説明したいので簡潔に書かせていただきます。その者は手違いでこちらへ来たものです。
しかし諸事情により、そちらへ行っています。理由は後日話すので、一晩そちらに宿泊させて頂ければ有り難いです。
「‥ふーん」
「どうですか?」
「どうですかも何も、あの人にはあまり逆らいたくないのよねえ。結構怖いし」
紫がそう言って、後からボソッと「面倒くさいし」と付け足した。
「ま、開いてる部屋もあるし別に構わないけど」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「んじゃ、戻りましょうか。藍に怒られてしまうわ」
「あ、はい。どうかよろしくお願いします」
「はいはい」
そして二人は部屋へと戻った。
───
紫が隙間から出ると、藍が目の前にいた。
「紫様」
「あら、ご飯まだ食べてないの?」
「橙の話によると、その男は突然空から降ってきて、黙って家までついてきたそうなんですが」
「まさか。知らない人が突然空から降ってきたり、天空の城があったりなんかするわけないでしょう」
「で、でも本当だとしたらその男は危険です。敵かもしれません」
「なるほど。確かに幻想郷は常識に捕らわれないから、天空の城もあるかもしれないわね」
「真面目に聞いてくださいよ!私が言っているのはこの者のことです!」
藍が怪しげにシンスの方を見る。
「‥ねえ、藍」
「‥はい」
「この人、これから私たちの家に泊まることになったから」
「はい!!?」
藍が今まで聞いたことのないような驚きようで叫ぶ。
「な‥今なんて!?」
「だから、私たちの家に泊まるのよ」
「っ‥!」
「実はこの子、私の遠い親戚らしいのよねぇ」
藍は絶望のあまり何も言えずに、目を見開いている。
「さ、食事にしましょう。いらっしゃい」
「あ、はい。‥あの、藍‥さん?」
「はっ!」
藍は呼ばれて急に自己に戻る。
「突然ですいません。けど、どうかよろしくお願いします」
「あ─」
藍は言葉に詰まる。敵意は微塵も感じない。これだけ丁寧に言葉を発しているのだから冷たくあしらってはどうかと。
そんな風に悩んでいるうちに、シンスは藍の返答も聞かず部屋に入って行ってしまった。
そして迎えた夕食。
「…」
「…」
誰も何も言葉を発することなく、ただ黙々と食事を進めていた。
「‥あの」
「…」
「‥す、すいません」
「‥君は食事の途中に喋るのか。口に物を入れたままじゃないゆえにまだマシだが、下品なことに変わりないぞ」
「‥すいません…」
「まぁまぁ、硬いこと言わないで。何だった?」
「いや、やっぱり博麗の巫女さん‥霊夢さんにも挨拶が必要かなと思って…」
「そうねぇ、やっぱり幻想郷に住む以上は挨拶は大事よねえ。」
「え?住むって‥。」
「でも夜に訪ねられても困るでしょう。明日の朝にでも行くといいわ」
「あ、はい。分かりました」
そして、また無言。
結局、橙が一言も喋らないまま食事は終わった。
───
「向こうの部屋に使ってない布団があったから、それで寝て頂戴」
「分かりました」
「それから、歯ブラシはあなた用のを洗面所に置いておいたから使って頂戴」
「はい。‥あの」
「何?」
シンスが申し訳なさ気に聞く。
「橙さん‥怒ってますかね」
「怒ってはないわよ。歓迎はしてないかもしれないけど」
「やっぱり、そうですか」
「子供はそういうものよ。よその者をすぐ受け止められるほど強くないのよ」
「‥あなたも、ですか?」
「あら、私は幻想郷に来たものは全部快く受け止めるわよ。平和を乱すものじゃなければね」
「そう、ですか。」
「ま、気にせず寝なさい。これから好かれる方法はいくらでもあるわ。‥って、今晩限りだっけ?」
「‥一応、明日一日はまだいる予定です。あの、何から何までどうもありがとうございます」
「どういたしまして。念のため言っておくけど、橙に手を出すと怖いお姉さんにボコられるわよ」
シンスはくすっと笑うと、言う。
「‥はい、分かりました。心得ておきます」
「よろしい。では、おやすみなさいね」
「はい」
紫が部屋へと戻っていく。シンスも部屋に入り、眠りについた。
───
その夜、夢を見た。
そうだ、あの日は川で遊んでいた。
深みに嵌って、必死で手を伸ばすけれど誰も掴んではくれなかった。
手が冷たい。次第に力が抜け、視界が暗くなる。
水の中だというのに、自分の涙が流れていく様子がなぜだからはっきり見えた。
ふと、前を見ると誰かの手があって…
───
「っ‥!」
シンスは飛び起きる。目の前には橙がいた。
「‥大丈夫ですか」
「あ‥橙さん」
「‥手、離してくれませんか?」
「え?」
気づくと、シンスの手は橙の手を掴んでいた。
「あっ、ごめん…」
「まったく‥あなたが泣いてなかったら噛みちぎってやったのに」
「え‥?」
「なんて、冗談ですよ。起きてください。朝ごはんですよ」
「あ、うん。ありがとう、わざわざ」
「なにか、いやな夢でも見たんですか?」
「‥え?」
まさか橙の方から話題を振って来るとは思わなかったので、しばらく無言になってしまう。
「‥また無視ですか?」
「あっ、違うんだ。その、昔の嫌なことを思い出して」
「…。」
「あの時は、誰にも手を掴んでもらえなくて。一人で苦しくて」
「…。」
「‥ごめん。わからないよね」
「‥まあ、よく分かんないですけど─」
橙が立ち上がって、襖の前まで歩くとこちらを振り返って言う。
「私も前、藍さまと紫さまがしばらく帰ってこなくて、一人でいて、とても寂しかったです」
「…。」
「だから、それで泣いてしまう気持ちは分かりますよ。‥は、早く来なさい!ごはん冷めますよ!」
自分の言ったことが恥ずかしかったのか、橙は慌てた様子で言う。
「あ、あの」
「‥なんですか?」
「ありがとう」
「…」
橙は何も言わず襖を開け、向こうへと歩いて行った。
───
食卓へ行くと、藍が食事をテーブル上へと並べているところだった。
「あ─」
「橙、来たばかりですまないが紫様を呼んでくれないか。さっき起こしたのになかなか─」
「おはようございます、藍さん」
「ああ、君だったか。おはよう」
「‥あ、どうも」
「‥どうした?私の顔に、何かついているのか?」
「いや、嫌われてると思ってたんですけど、案外普通に話してくれるな‥って」
藍は手を止め、シンスのほうを見て微笑む。
「完全には信じていないがね。一晩大丈夫だったし、君からは敵意を感じないからね。無理に嫌っても仕方ないだろう」
「そういうものですか」
「そういうものだよ。私は式神なんでな、紫様が君を歓迎しようという気持ちを重視しようとも思っている」
「‥さっき、橙さんから話しかけてきてくれたんです」
「そうか、それはよかったね」
くるりと向きを変え、また盆から食器を降ろす。
「あなたと同じ理由ですかね?」
「どうだろうね。少なくとも、あの子は君に興味を持っているようだよ」
「そう、ですか」
藍はきちんと返答してくれているように思えるが、その返事はどことなく適当に思える。
ま、知らない男が突然家に泊まったら不審がるよな、とシンスは思う。そこへ、橙が部屋に入って来た。
「藍さま、遅くなってごめんなさい」
「おや、橙。お帰り。紫様を起こしてくれていたのか」
「はい、やっと起きてくれました。顔を洗ったらすぐ来ると思います」
「分かった。君は顔とか洗ったのかい?」
「あ、いえ…」
「じゃあ洗っておいで。寝癖がひどいよ」
「あ、すいません。それじゃ、少し失礼します」
シンスはそう言うと、藍と橙にお辞儀をして洗面所へと向かった。
「‥藍さま」
「何だい、橙」
「‥いや、なんでもないです」
「‥そうか。じゃ、そっちに座りなさい」
「はい」
───
洗面所に行くと、紫と丁度行き違いになるところだった。
「あら、シンスも今起きたの?」
「いえ、紫様より先に」
それを聞いて紫は頬を膨らませる。
「ごめんなさいね、起きるのが遅いおばさんで」
「あ、いや、そんなことは全く…」
「冗談よ。それより、ほら。あなたも早く顔洗っちゃいなさい。味噌汁は温かいうちが一番美味しいのよ」
「はい」
───
シンスが顔を洗って部屋に戻ると、3人がシンスを迎え入れる。
「さっぱりしたかい?」
「あ、はい」
「座りなさい。食べる前の挨拶はきちんとしてもらうよ」
シンスが指定の場所につく。
「「「いただきます」」」
「あ、いただきます」
カチャカチャ…
会話も特になく、4人は黙々と朝食を食べる。
味噌汁、ご飯、海苔、軽いサラダ。いたって普通の食事だ。
「‥あの」
「なにかしら」
「静かなんですね」
「そうねえ。一応食事中は喋らないルールなのだけれど。藍、テレビでもつける?」
「ちょ、紫様‥。食事中にそのような他事は、食材に失礼です」
「‥ね?かったいでしょこの式神」
「紫様、ご飯噛みながら喋らないでください…」
「どう思う?」
「美人だと思いますよ」
「っ」
その言葉を聞いて藍がむせた。急いで箸を置き、口に手を当てて睨みつける。
「ゲホッゲホッ‥!急に何を言い出すんだ君は…」
「あらぁ、いいじゃない。面白い回答だわ」
ニヤニヤと紫が藍を細めで見る。
「あ、すいません。なんか言わないといけないと思って」
「‥思うが君は質問に答えるのが下手だな」
「そうですか?」
「そうだよ。君の返答は返答になっていない。言葉使いも下品だ─」
藍が言い終わる前に、橙が言う。
「藍さまも食事中に喋ってますよ」
「なっ…!」
まさか、自分の式神に指摘されるとは。
しかも橙がくすくすと笑っているもので、藍は恥ずかしさと怒りからシンスを睨みつける。
「くっ‥。やはり私は君が嫌いだ…!」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「なっ…!」
シンス本人からそう言われた藍は言葉を失って、不愉快そうに額にしわを寄せてまた食事を進める。
「藍、食べ方がお下品よ」
「そうですよ」
2人から更に追撃を受け、藍の顔がいっそう険しくなる。
「‥くっ…!」
「‥ふふっ」
「ん…?」
見ると、橙が口を押さえて笑いを堪えていた。
「‥橙、まさか私を笑っているのか?」
「ご、ごめんなさい‥。藍さまがあまりにも拗ねてて面白くて…」
「拗ねているんじゃなくて怒ってるんだよ!?」
ガシャッと箸を乱暴に置いて、藍は立ち上がる。
「それに主の不幸を笑うとは何事か?」
「あ、ご、ごめんなさい」
橙が慌てて謝った。しかし、紫が横やりを入れる。
「まーまー、落ち着きなさい。『橙の笑顔はあなたの宝物』なんでしょう?」
「ちょ‥!」
「へえ…」
シンスにニヤニヤと見られて、藍は目をぐるぐるにさせながら頬を真っ赤にする。
「ゆ、紫様…!何も、何もここで言わなくても‥!」
「あらあ、照れてる藍も可愛いわ~」
「うぅっ…」
藍の顔は先ほどまでの怒りとは一転して、恥じらいに変わる。
「大丈夫ですよ、あなたが橙さんを溺愛してるってのは知ってます」
「っ…」
「あははっ」
橙がまた笑うもので、藍はもう何か色々な感情が混じったような顔で目に涙を溜め、残ったご飯を口にかきこむと「ごちそうさまでした。」と言って、部屋を出て行ってしまった。
「あ、藍さま!」
「‥少しやりすぎましたかね」
「そうねえ。さ、シンス。ご飯を食べたら藍に謝ってきなさいね」
「あ、はい。紫様は?」
「私はいいのよ。主だから」
「そういうものですか」
「そういうものよ」
紫はふふっ、と可愛げに笑うと全く手をつけていなかった味噌汁を食べ始めた。
───
その後食事を終えて、シンスは縁側でぼーっと外を見ている藍を見つけた。
「からかわれるのは不愉快だな」
シンスが声をかける前に、藍のほうから声をかけてきた。
「あ、えっと。すいません…」
「けど─」
藍がこちらを向き、少し微笑んで言う。
「賑やかな食事もまた、いいものだな」
「‥許してくれますか?」
「そうだな、橙の笑顔と君の謝罪に免じて許すとしよう。ただし─」
「ただし…?」
藍は黙り込み、こちらを向く。表情が真剣だ。
何を言われるんだろうかとシンスは不安になる。が、藍は浅く溜め息をつき、少し俯いて言う。
「茶碗洗いを手伝ってくれ。放置してきてしまったから、手早く片づけないと。紫様に怒られてしまう」
「‥分かりました。手伝わせていただきます」
───
結局、藍とは食器を洗うことを条件に仲直りした。と思う。
洗い物が終わって居間に行くと、どうやら2人に話があるようで、紫と橙が並んで立っていた。
「ご苦労様。藍、シンス。ちょっと話があるのだけど」
「はい、なんでしょう」
「さっき映姫がきて、少し用事があるから手伝ってくれって言われたの。藍、ついてきてくれる?」
「はい」
「で、シンスは霊夢に挨拶に行ってきなさい。私が伝えといたから」
「あ、どうも」
「で、橙はあなたの付き添い」
「な─」
藍が何か言おうとした気がするが、紫は構わず続ける。
「橙、シンスを守ってあげなさいね」
「分かりました。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ついに藍は異論を申し立てた。
「何?2人で行くのは不服かしら?」
「駄目ですよ!幻想郷に人間が移住することを嫌う妖怪もいるんですから、二人では危なすぎます!」
「でも映姫の頼みを断ると、色々面倒でしょ?」
「でも…。そ、そうだ!私がこの者に付き添おう!」
「あら。でも、映姫から『二人で来い』って直々の指名なのだけれど」
「ええ!?」
「じゃあ、こうしましょうか」
紫は「てってれー」という効果音とともに、懐から発信機を取り出す。
「妖怪の山の河童に作ってもらった発信機よ。これを持っていなさい」
「あ、分かりました」
「何かあったら場所を知らせれば隙間を使ってすぐ行くわ。これでいいでしょう?」
「‥まあ‥それなら…」
藍はしぶしぶ了承した。
「じゃ、行くわよ。藍」
「は、はい。橙!危なくなったらすぐ呼ぶんだよ」
「分かってますよ」
屋敷を出るまで何度も藍が振り向いたが、やがては姿が見えなくなっていった。
「‥それでは、行きましょうか」
「あ、うん」
シンスと橙も屋敷を出て、博麗神社へと向かった。
───
「本当に、幻想郷はいい場所だね」
「外の世界は悪い場所なんですか?」
「ううん。だけど、外の場所がいい場所だとしたら、ここはもっといい場所だよ」
どことなく寂しそうにシンスが言った。
「‥あなたは─」
「あ、あのさ」
「はい?」
「よければ、シンスって呼んでくれないかな。紫様も呼んでくれてるし、あなただと何か…」
「‥そうですね、私も『橙さん』って呼ばれるとなんだか気持ち悪いし、橙でいいです」
「ほんと?ありがとう」
橙はくるりとシンスの方を向き直ると、ぺこりとお辞儀をして言う。
「改めてよろしくお願いします、シンスさん」
「あ、うん。よろしく、橙さん」
言ってからシンスは「あっ」と気づく。
「‥人の呼び方はすぐには変えれないものですよ。これから何度も何度も呼んで、変えていけばいいです」
橙が少し微笑んで言った。
「うん」
「‥けど、藍さまに名前を呼んでもらうのはしばらく無理かもしれませんよ」
橙がくすくすと笑いながら言った。シンスも「確かに」と言って笑う。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん、橙」
「え…?」
「え、あっ、ごめん‥。やっぱさんづけを─」
「あ、いや、違うんです!」
橙は慌てて手をぶんぶんと振る。
「急に呼ばれて少しびっくりしただけです。さあ、行きましょう」
「うん」
「その流れ、なんてエロゲ?」
「「うわっ!?」」
不意に後ろから声をかけられて2人は飛び退く。
見ると、黒い大きな帽子をかぶった少女、霧雨魔理沙が立っていた。
「ま、魔理沙さん!脅かさないでくださいよ!」
「突っ込まないとどこまでいくか分からんだろ?」
「え…?どういう─」
橙が怪訝そうな顔をして言うが、魔理沙は無視してシンスに話しかける。
「お前か。文が見かけたって言ってた男は」
「あ、初めまして。シンスです」
「私は霧雨魔理沙だ。よろしくな」
「よろしく」
2人ががっちりと握手した。橙はその横で、「私ってよく無視されるなぁ…」とぶつぶつ呟いている。
「霊夢さんの従者さんですか?」
「いやいや、私はただの友達さ。お前ら霊夢んとこ行くんだろ?」
「そうですよ。」
「私が護衛してやるよ。丁度霊夢んとこに行こうとしてたんだ。外の世界の話聞かせてくれよ」
「本当ですか?それは助かります」
「そうだろそうだろ?さ、行くぜ橙」
「あ‥はい」
そう行って3人は博麗神社のほうへと歩みを進めた。
道中は魔理沙とシンスが幻想郷と外の世界の話を交互にしていった。
「僕らの世界には、世界中と繋がれるインターネットってものがあるんですよ」
「へー、つまりそのパソコンってやつをインターネットってやつとリンクすると世界中にいけるってわけか」
「まあそんな感じです」
「すげぇな、外の世界ってのは!」
「こっちには無いんですか?そういう、遠くの人と何かできるもの」
「んー…。橙、何かあるか?」
「え‥あ、あの‥糸電話とか」
魔理沙が黙る。
「‥そういえば、外の世界から何か色々拾ってくるやつならいるぜ」
「ちょ、わたしこれでも真面目に答えたんですよ!」
「テレビとかはあるんですか?」
「シンスさんまで…!」
むうっと橙が頬を膨らませる。
「悪い悪い、まさか糸電話とか言うとは思わなくてさ。テレビならこーりん‥いや、森近霖之助って奴の店にあるぜ」
「へえ、あるんですか」
「ああ、最近落ちてんのを見かけるやつが沢山いてな。けど残念なことに…」
「残念なことに?」
「テレビで見れるのが一つだけなんだ。射命丸文っていう天狗が放送してるやつ」
「そうなんですか。その文さんっていう人は何を放送してるんですか?」
「色々だな。インタビューとか、紅魔館ってとこに住んでる奴らと放送してたり、時には幻想郷の下にある地霊殿をレポートしたり」
「顔が広い人なんですね」
「天狗だけどな」
はは、と2人が笑う。
「なぁ、橙。前あいつお前の家に『突撃!妖怪の朝ごはん』なんて言って突っ込んでったよな」
「ああ、ありましたね。いい迷惑でした」
「その時にさ」
ぷくく、と魔理沙が手で口を押えて笑い声で言う。
「ゆ、紫が超スッピンで髪もっさもさでさ!ゆ、紫が怒り狂って、なぜかそいつの後輩の椛がひどい目にあってな…!」
「放送事故ですね」
「そうそう!んで、紫のスッピンの顔と来たらもうそりゃ犯罪級に─ぐはっ!」
ゴッと魔理沙にダンボールが直撃した。ダンボールが飛んできた方を見ると、隙間が開いていた。
「…」
シンスは無言で橙の方を見る。橙は何食わぬ顔で木と木の間を見ている。
「い、痛ぇ…」
「魔理沙さんが悪いんですよ。紫さまの悪口言うから」
「あ、あいつホントいつでも見てんな…」
「紫様の能力って凄く怖いですね」
「まぁ、あいつは実力は相当のものだからな…」
いてて、と体を起こして魔理沙がフッと言う
「紫は私が本気で凄いと思う妖怪の一人だぜ」
「もう隙間消えてますよ」
「あんにゃろー…」
魔理沙がムスッとする。
「まぁいいや、早く行こうぜ」
「あ、はい」
その後は幸いにも襲撃するような妖怪もおらず、博麗神社まで辿り着いた。
───
「ここが博麗神社…。」
「そうだよ。貧乏臭さがひしひしと伝わって来るだろ?」
「魔理沙さん、霊夢さんに失礼ですよ」
「いやぁ、悪い悪い。貧乏臭いのは霊夢であって、神社じゃなかったな」
橙がまた魔理沙に何か言おうとしたところに、割り込みが入る。
「誰が貧乏腋出し巫女ですって?」
シンス達が声のかかった方に振り向くと、赤と白の巫女装束を身にまとった少女、博麗霊夢が立っていた。
「おう、腋出し巫女とは言ってないぞ…?」
「あら、そう。それは失礼」
そして霊夢はシンスのほうに向きなおると、やけに強気な口調で言う。
「あんたがシンスね。紫から聞いてるわ。けど、あんたみたいな人間がどうして─」
ふとシンスの姿がないことに気づく。
「ん‥?あれ?あいつは?」
「あ、あそこです」
橙が賽銭箱の方を指さした。
「‥ってなに勝手に奥に進んでるのよ!」
「えっ?あ、すいません」
「おいおい、その賽銭箱にはパンが買えるかも微妙な金額しか入ってないぜ?」
「魔理沙は黙って!ちょっとアンタ、こっちに来なさい!」
「はい」
シンスが霊夢の場所に来ると、霊夢はシンスと一定の距離をとって立ち直す。
「えっと…?」
「見せなさい」
「え?」
「幻想郷の住人は各々様々な力を持ってるわ。アンタはどんな力を持ってるの?見せてみなさい」
「えーと、僕はそういうのは…」
「‥じゃあ聞くけど、弾幕は撃てる?」
「いや、撃てないです」
「嘘ね」
ゴオッと、霊夢の周りで魔力が渦巻いた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
魔理沙と橙が驚きの声をあげる。が、シンスは全く動揺していない。
「アンタ、何者なの。今の威圧が通じないのはおかしいわ」
「えっと…」
「アンタ、本当は─」
「何か、」
「ん…?」
「何か、僕に弾幕かスペルカードを撃ってもらえませんか。どんな強さでもいいです」
「はぁ?」
「‥あなたは、僕に攻撃を当てることはできません」
「…」
スッと霊夢がスペルカードを構える。
「いいわ、やってあげる。アンタの力で、これをどうにかしてみなさい!!」
霊夢がスペルカードを唱えると、巨大なレーザーがシンスへと向かう。
ゴオッとレーザーが通過、シンスの姿が光に包まれて見えなくなる。
「シンスさん!」
「霊夢!やりすぎだぞ!」
「やば、やりすぎたか‥─え!?」
霊夢が目を見開く。魔理沙と橙が、霊夢が目を見開いている方向を見る。
シンスは、全くの無傷だった。しかも、その場から一歩も動いていない。
「なっ‥!」
シンスが無表情のまま、霊夢の元へと1歩1歩近づいていく。
「あ、アンタ何をしたの!?‥くっ、霊符"紅白弾幕連撃舞"!」
赤と白の弾幕が、シンスに大量に迎い、土煙を大きく上げる。
だが、やはりシンスには何事もない。そして、霊夢の目の前に立つ。
そして、シンスは手を霊夢に伸ばす。霊夢は背筋に悪感を感じて、その場にへたり込んでしまう。
「あ、あ…」
「霊夢!!」
魔理沙が飛び出し、スペルカードを構える。シンスが魔理沙の方を振り向く。
「…。」
「あ、あの」
「‥お前、何をしたんだ?」
「これは…。」
「結界を張ったわけじゃない。ボムも使ってない。そんな様子は見えなかった。一体、何をしたんだ?」
「消した、んですか?」
橙がたじろぎながら聞いた。
「あ、そう、それです」
「消した?弾幕を?ボムも使わず?」
「そんな、そんな能力ありえない…!」
霊夢がキッとシンスを睨みつける。
「だって、そんな能力反則よ!ゲームルールからしてもそんなの許されないわ!」
「え、えっと。制限があるんです」
「制限?」
「なんていうか、僕の残りの魔力分しか弾幕は消せないんです」
「‥つまり、魔力が無くなったら弾幕消せないし弾幕出せないと?」
「そうです」
「‥なるほど、凄い能力だわ」
霊夢が手を額に当てて溜め息をつく。そこに、魔理沙がシンスに言う。
「なぁ、もう一つ聞いてもいいか?」
「え?あ、はい」
「物とか人も消せたりするのか?」
「えっと、物は消せないです」
「人は?」
「分からないです」
「まぁ、そうだよな」
魔理沙が苦笑する。
「あ、でも物が消せないんで多分人も消せないかと」
「けど、魔力があるものは消すことができると考えると有り得るんじゃないか」
「なるほど‥そう考えるとあるかも」
「どういう理屈で消えたのかも気になるわね」
「お前さんが同じだけの魔力を出して相殺したか、弾幕そのものをないことにしたのか」
シンスが何も言わないので、霊夢が話を切り替える。
「‥まぁ理屈はいいわ」
「お前が気になるって言ったんじゃないか」
「‥それで、何の用だったんだっけ?」
霊夢がシンスに向きなおって言う。
「え?」
「だから、紫から用事があるからあんたが来るって聞かされてたんだけど」
「あ、いえ。挨拶に来たたけです」
「あ、そうなの?」
「はい。けどあんま歓迎されてないみたいなんで帰ります」
「え‥ちょちょちょ、待って待って!」
霊夢が慌ててシンスを引き留める
「いや、帰ります」
「いやいやいや、別に私はあんたを邪魔者とかそんな風に思ってないから!」
「え?でもさっき…」
「あれはホントにあんたの能力とかが気になったのよ!ほんとよほんと!」
「こいつは話を聞かないからな」
「アンタは黙ってなさい!」
「うーん、でも挨拶以外にすることもないので」
「そ、そう?」
「あの素敵な賽銭箱に賽銭入れて帰ります」
「そう、ありがとう。あんたいい奴ね。また来なさいよ」
「それはどうも」
「(こいつ‥分かってやがる…!)」
シンスがあまりにも手馴れて霊夢を制するので、橙と魔理沙が目をぱちくりとさせる。
「あの、橙」
「あっ、はい」
「次は永遠亭に行きたいんだけど、いいかな?」
「はい。分かりました」
「もう行くのか?」
「はい。道中はありがとうございました」
シンスが魔理沙にぺこりとお辞儀をする。そして、霊夢の方にも一礼。
「私はほんとアンタが嫌なわけじゃないし、気をつかってるならまだいてもいいわよ?」
「いや、大丈夫です。どうせ、もうないですから」
「…?」
「ま、気をつけてな」
「‥道中危なくなったら、忘れず能力を使いなさいよ」
「はい。じゃ、橙」
「ええ、行きましょう」
橙とシンスが歩みだし、鳥居のくぐり石段を降りようとする。そこに、霊夢が声をかけた。
「ねえ!あんたさー!」
シンスが振り返る。
「あんた別に悪い奴でもなさそうだし、私はほんとにあんたを嫌ってないわよ~!」
それを聞いてシンスは、こくりと頷いて石段を降り始める。やがて、姿は見えなくなった。
「必至だな」
「嫌ってないのに嫌われてるって思われるのってなんか凄く嫌じゃない」
「まぁな」
───
博麗神社を出発して15分ほど経ったところで、藍から通信が入る。
『橙、何事もないか?』
通信機の向こうでは何かの荷物を運んでいるのか、ゴトンという音が聞こえる。
「大丈夫ですよ。今のところ妖怪も襲ってきていませんし」
『本当に大丈夫なんだね!?怖かったら私もそっちに行くよ!』
「大丈夫です、本当に。私ももう子供じゃないんですから」
その言葉が藍にはなぜか捻じれ伝わったらしい。藍が怒鳴る。
『な、何!?子供じゃないだと!?橙、おまえその人間に何かされたのかい!?』
「えっ?」
「‥なんか勘違いしてるみたいだね」
『シンス!私の橙に手を出してみろ、私が─』
通信機の向こうでゴスッという音が聞こえ、声が途切れる。
「…」
「‥藍さま?」
しばらくして、紫の声が聞こえてきた。
『ああ、気にしないで。藍がなんか突然倒れたから介護してくるわ』
「ええっ!?大丈夫ですか!?」
『大丈夫よ、全然大丈夫。それじゃ、また後でね』
プツンと通信が途切れた。
「‥藍さま大丈夫かなぁ」
「‥僕も全然大丈夫だと思うよ」
そう言って再び歩き出した。
───
「暇だなぁ」
頭の後ろで手を組んで、藤原妹紅は竹林の近くを歩いていた。
「輝夜の奴でもからかいに行ってやるか」
それがいい、と言いながら妹紅は永遠亭の方に向かおうとするが、すぐ立ち止まる。
「いや、こないだのアイツの日記を見てあいつらの前で朗読したのは少しやりすぎたからな‥。気づいたら竹林の入り口に放置されてたし、今度は何か凄い攻撃を喰らうかもしれない」
悩んでいると、やがて2人の人影が見えた。
「ん‥?あれは八雲のところの式と‥人間か?‥永遠亭に行くところみたいだな。案内してやるか」
「ここの竹林を通ると、すぐです」
「なるほど」
「それで、この人は藤原妹紅さんです。竹林の案内人です」
「なるほど。初めまして」
「やあ」
妹紅は片手をあげてかっこよくポーズを決めた。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん」
すたすたと妹紅の前を通り過ぎていく。
「って案内頼めよ!」
「いいツッコミですね」
「だって私、竹林で迷いませんし…」
「油断大敵だ。私が案内してやろう」
「え…。あの、ホントに大丈夫ですよ?」
「油断大敵だ。私が案内してやろう」
「あ、これはいを押さない限り会話が進まないパターンだ」
「‥分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」
橙は妹紅が苦手なのだろうか、あんまり気が進んでいない様子だった。
「で、お前さん人間だろう?怪我でもしたのかい?」
「いえ、観光ですよ」
「観光?永遠亭にかい?これまた不思議な奴もいるもんだねえ」
ははは、と笑いながら今度は橙の方を見て言う。
「お前さんは?」
「私は付き添いですよ。あなたみたいに襲ってくる人がいるかもしれませんからね」
「私は襲ってないぞ」
「冗談です」
「冗談か。ところで、永遠亭に観光に行ってどうするんだ?」
「永琳様たちに挨拶しようかと」
「ほうほう。だがお前さん知ってるか?」
「え?」
にやにやしながら妹紅が続ける。
「あそこのお嬢様の蓬莱山輝夜はホントにぐうたらした奴だからな。見て驚くぞ」
この蓬莱人、どこか嬉しそうである。
「そうなんですか」
「そうだよ、あいつはホント見て驚くからな。凄いぞ」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか?」
「ん?いや、気のせいだろう」
「気のせいですか」
そして話しているうちに、永遠亭が見えてきた。
───
「お~い、輝夜~!邪魔するぞ~!」
「ちょ、妹紅さん。せめて正面口から入りましょうよ」
「ん?いいんだよ別に。どうせアイツのことだから『玄関行くの面倒くさい~』とか言うに決まってるさ」
「はあ…」
すると間もなく蓬莱人、蓬莱山輝夜が姿を現した。
「いらっしゃい。ようこそ、永遠亭へ」
「よう輝…」
長くて黒い髪が風でそよぐ。衣装に乱れはなく、歩き方も口調もまさにお嬢様だった。
「どうぞ、中にお入りください」
「お、おい輝夜!」
「妹紅さんも、是非中へ」
そう言って輝夜は中へと入っていく。妹紅が急いで輝夜を追いかけていったので、シンス達もついて行った。
「おい、輝夜!おいってば!」
「妹紅。こないだは申し訳なかったわ。あんな酷いことをされたとは言え、永琳の薬で眠らせた挙句に勝手に竹林の外に野放しなんて、あまりにも品がない対応でした。」
「…!」
妹紅の返事がない。いや、口を開いて固まっていた。
けど、シンスにはこれが演技だと分かっていた。後ろには見守るように永琳がいて、襖の間からてゐが覗いていた。
「初めまして、シンスです。あの‥新しく幻想郷に来たんで、挨拶に来ました」
「それはそれは。わざわざありがとうございます」
ぺこり、と永琳がお辞儀をする。
「てゐ、そこで覗いてないでこちらに来なさい」
永琳がてゐに呼びかける。が、てゐはこちらを見た後襖を閉めてしまった。
「‥ごめんなさいね、あの子恥ずかしがり屋で」
「いえいえ。こちらこそ突然お邪魔してしまって申し訳ないです」
「まぁせっかく来たんだからお茶でも飲んでいきなさい。そこの式神さんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さ、輝夜。行くわよ。‥輝夜?」
返事がないので永琳が輝夜のほうに目をやると、妹紅と並んで立っていた。
「‥輝夜?」
「え?いった!‥いどうしたの?」
「いや、お茶を飲みに奥に…」
「え、ええ分かったわ。痛っ‥。お客様が来たんだし痛っもてなしをしな痛たたた!」
よく見ると、輝夜が妹紅の足を踏み、妹紅は輝夜の指をひねっていた。
───
「‥はぁ、だからどうせバレると言ったのに…」
茶の間で永琳が溜め息をつきながら言った。
「うっさいわね!こいつがいなきゃ上手くいったのよ!」
「へんだ、お前にそんな演技最後まで続けられるわけないだろ!」
なぜ指をひねられた時に我慢して演技を続けなかったのだろうか、と思うが言わないでおいた。
と、そこに鈴仙が襖を開けて入ってくる。
「お師匠様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、うどんげ」
はい、と鈴仙はお茶を配る。
「それにしても輝夜、お前なんであたしらが来ることが分かったんだ?」
「あらもこたん、ここには偵察兎がいるのをお忘れ?」
「もこたん言うな!」
「何よ、いつぞやのお笑いみたく言ってみなさいよ!ほ~ら、もこたんインしたよっつって!」
「輝夜お前コラァァ!」
妹紅が湯呑みを掴み、輝夜は近くにあった筆を持つ。
あ、これはバトルになると思ったその時、二人の手を突然ロープが縛り付けた。
「な、なんだ…!?」
「ちょっとてゐ!邪魔しないでよ!」
ロープが飛んできた方を見ると、てゐが立っていた。
「二人とも、暴れるのはいいけどお客様来てるよ」
「「はっ、そうだった!」」
永琳がまた溜め息をつく。
「ごめんなさいね、静かにお茶も飲めないで」
「あ、いえ。お二人とも仲がいいみたいで」
「「どこが!」」
「ピッタリですね」
「ピッタリでしょ」
「くっ‥おい輝夜、真似すんなよ!」
「あんたこそ!」
「はいはい、落ち着いてください」
鈴仙が阻止に入る。
「てゐ、貴方もお茶飲んでいったら?」
「あいにくあたしゃ忘れ物を取りに来ただけだよ」
てゐはそういうと襖を閉めてどこかへ行ってしまった。
「ごめんなさいね、無愛想な子で」
「いえいえ」
「式神さんがいるのに、ご主人様はいないようね?」
「はい。紫さまと藍さまは映姫様に呼ばれて用事を片づけていますよ」
「あら、あの人から頼み事なんて珍しいわね。死神がまたどこかへ消えたのかしらね」
永琳がふふっと笑い、橙も共に笑う。
「そうですね、前も『匿ってくれ』って突然押しかけてきてびっくりしましたよ」
「何度連れ戻されても全く懲りずに。あそこまでいくとむしろ関心すらしてしまうわ」
「まったくです」
2人が談笑しているのを、シンスはじっと見ている。ふと横を見ると、輝夜と妹紅も間にうどんげを入れ、割かし普通に会話をしている。
「シンスさん?」
「えっ?」
「いえ、もう4時ですから、他にどこか行くのかなと思って」
「ああ、そうだね‥。魔理沙さんが言ってた‥霖之助さんだっけ?」
「はい」
「その人のところに行きたいと思うんだけど」
「霖之助さんのところですか。分かりました」
「もう行くのかしら?」
永琳が茶を飲み終え、机に置きながら言う。
「あ、はい。すいません、お茶ごちそうしてもらったのに‥」
「いえいえ。それじゃ、見送りに行くわ。うどんげ、湯呑みの片づけをお願いするわね」
「はい、お師匠様」
こくりと頷くとうどんげは急いで立ち上がった。すると、もたれかかっていた輝夜が倒れる。
「痛っ!ちょっと因幡!起きるなら起きるっていいなさいよ!」
「あ、すいません」
たたっと走りながら適当に返事をする様に、輝夜はむすっとする。
「へっ、不細工な顔だな」
「黙れ竹林ホームレスに、歴史フェチ!」
「なっ、お前慧音の悪口まで‥!」
「しかも二重人格の癖に!」
「お前コラアアア!」
また喧嘩が始まった。
「はぁ‥。てゐ、その2人を縛り上げておいてちょうだい」
永琳が溜め息交じりに言った直後、天井から縄が飛んでくる。縄は二人に巻きついた。
「うわっ!」
「キャー!」
二人の体が素早く上に上がってゆく。
「‥さて、行きましょうか」
「あ、はい」
永琳がスタスタと玄関の方に歩いてゆく。シンスと橙も立ち上がり、付いて行った。
「ちょ、降ろしなさいよ!永琳!ねぇ!」
「やべ、血が昇って死にそう」
「てゐ!ほら、こんなか弱い女の子が死にそうだって!降ろして!」
「あ、私ら死なないんだった」
「死ね!」
───
3人は玄関先へとついた。
「それじゃ、またね」
「‥はい、また」
「竹林は抜けれますか?」
「だいじょうぶですよ、任せてください」
「橙さんはちゃんと分かってるみたいなので、大丈夫だと思います」
「そう。もしも迷ったら大声で叫びなさい。あの子は無愛想だけど、ちゃんと来てくれるわよ」
永琳はそう軽く微笑んで言った。
「‥幻想郷は」
「うん?」
「幻想郷では、いつだって誰かが見ててくれるんですね」
シンスがそう言うと永琳が少し驚いた顔をしたが、やがてニコリと笑う。
「ええ。幻想郷(ここ)はそういう所よ」
「‥いい所です」
いつの間にか向こうの方まで行った橙が呼びかける。
「シンスさーん!行きましょう!」
「‥では」
「ええ、さよなら」
シンスが橙の元に歩いてゆく。途中ふと中庭の方を見ると、てゐがこちらを見ていた。気づいたのか、軽く手を上げるとさっと身を隠してしまった。
「どうしました?シンスさん」
「‥ん?いや‥子供って素直じゃないなって思って」
「‥シンスさんも適当な人じゃないですか」
「君もね」
「私は素直ですよ!」
言い交わしながら、2人は竹林のほうへと歩いて行った。
───
竹林を無事抜けると、出迎えるように正面から元気な声が聞こえてきた。
「こんにちはー!」
見ると黒い髪に頭に帽子。手にカメラを持った女性。射命丸文だ。
「清く正しい─」
「射命丸文さん‥何をしてるんですか」
「あやややや、橙さん困りますよ。"清く正しい射命丸"で一文なんですから!」
「知りませんよ‥」
「おお、冷たい冷たい。式神にこんな冷たくされて泣きそうな私ですが頑張って取材していきます!」
「(取材?)」
気づけば文の後ろには、文が手に持っているのよりも大きなカメラが。そして、背後には文より小柄な白髪の女性。犬走椛が立っている。
「椛、ちゃんとカメラ回ってますか~?」
椛はこくこくと頷く。
「は~い、ならオッケーです。シンスさん、さっそくですが─」
文が言いかけた時、シンスが突然カメラに向かってダッシュしだした。そしてダイブ。
「!!?」
ガシャーンという音と共に、カメラが倒れた。椛が隣で唖然としている。
「ちょちょ、何をしてるんですか!?」
「…」
「大丈夫ですかシンスさん!?」
「あの、撮影はNGで」
「口で言えよ!」
あまりにビックリした文が、口調を変えて突っ込む。
「あ、すいません。やらなきゃやられると思って」
「まぁ、やりますけど」
「ですよね」
シンスはそう言ってカメラを起こす。
「えーと、椛さん」
びくっと呼ばれた椛がシンスの方を見る。
「撮影は無しでお願いできるかな」
「‥わ、わかりました…」
「えっ」
「‥え?」
「‥へぇ、君ちゃんと喋るんだねぇ」
「‥え、えっと…」
椛がそれにどう言えばいいのか分からず、まじまじとシンスの顔を見ている。
「‥あ~…。なんと‥またまた不思議なお方のようで」
「シンスさんってたまに変なんですよね…」
「‥それで、撮影はNGということで聞き込みでもしようかと思うのですが」
「あ、すいませんがわたしたち少し急いでるので」
「どこか行かれるのですか?」
「まぁ、香霖堂まで」
「ほう。よければ私のスペルカードで送ってあげましょうか?」
「え?そんなことできるんですか?」
「できますよ。シンスさん、ちょっとこちらへー!」
文がシンスに呼びかけると、橙の所まで走って来た。
「何ですか?」
「いえ、私のスペルカードで香霖堂まで送って差し上げようかと」
「‥何か失敗フラグ立ってません?」
「いきますよ~!」
「あの、わたしまだ送ってもらうとは一言も─」
【風符"ウィンドロード"!】
「うわっ」
「にゃあああああああ」
ふわっと二人の体が浮き、香霖堂の方へ一気に飛んで行った。
「‥椛、あの二人ちゃんと飛んでる?実はこのスペル、初使用なんだけど」
「‥角度が‥若干…」
「椛、追跡。行くわよ」
そういうと文は飛び上がる。椛ははぁと軽く溜め息をついた。
───
飛ばされた二人は何かに受け止められ、そこから地面に落とされた。
「痛っ!‥たた」
「あうう‥シンスさん、大丈夫ですか…?」
「うん‥なんとか」
「ちょっとあなた達」
「ん?」
声のかかる方を見ると、金髪の女性。傍らには人形が浮かんでいる。アリス・マーガトロイドだ。
「いきなり上から降ってくるなんて非常識じゃない?」
「あ、アリスさん」
「こんにちは、八雲の式の式さん。そっちは─人間?」
「あ、初めまして。シンスです」
「初めまして」
「私たち、香霖堂に行こうと思って」
「へぇ、飛行でも失敗した?」
「失敗されました」
「‥よく分かんないわね。ま、私急いでるからまたね」
そういうとアリスは足早に森の方へと駆けて行った。
「あ、行っちゃった」
「‥うーんと、この辺は‥。あっちですね」
橙が辺りをきょろきょろ見廻した後、言った。
「え?」
「あっちに行くと香霖堂があります。行きましょう」
「あ、うん。分かった」
シンスと橙は、香霖堂に向けて歩き始めた。
───
「霖之助さん、これとこれを。‥そう、『一円札きっかり』ね」
「‥あら、『他にも何か買っていってくれないかな』ですか。残念ながらこれ以上の買い物は必要なくて」
「‥お世辞を思っても駄目です。」
「便利だな、本を読みながらでもきちんと読み取ってくれる」
「あら、本の内容もきちんと読み取れますよ。今、その須和名って人の会話を2度見しましたね」
そう言われて霖之助はパタンと本を閉じる。
「もう読まないのですか?森近霖之助さん」
「後で読むよ、古明地さとりさん」
さとりから一円札を受け取り、それを懐にしまう。
「今更だけど珍しいね、君が香霖堂まで来るとは」
「お燐からどうしても欲しい物があると言われて。今日は、私以外出かけれる人がいなかったんです」
「そうかい。妹さんは?」
「気づいたらいなくなっていました」
「それはやれやれだね」
ギイっと扉が開く音がした。
「ん‥?今日は客がよく来るな」
「『まだ1人だけど』」
「霊夢も入れると、2人だ」
「『客じゃなかったけど』」
「お客さんの逆なでだけはやめてくれよ」
「ええ、私もそこまで酷い奴ではありません。‥そうだ、買い忘れがありました」
そう言ってさとりは少し離れた棚へと向かった。
「霖之助さーん」
「お邪魔します」
扉を開けて入った二人が声をかける。
「‥おや?誰かと思えば橙さんじゃないか」
「ぐらんぷり以来ですね」
「久しぶりだね。そっちの人は…」
「シンスさん、こちらが森近霖之助さんです」
「初めまして、シンスです」
「新しく幻想郷に住む人かい?」
「えーと、まあ」
「よろしく。森近霖之助だ。一部からはこーりんと呼ばれている」
そう言い、二人は握手をする。
そしてシンスがふと、さとりに視線を合わせる。
「─‥?」
「……」
「─なっ‥!?」
さとりがシンスを睨みつける。
「あ、貴方いきなり何を考えて─!」
「え?何がですか?」
「シンスさん、何を考えたんですか?」
「いや、何も考えてないけど…」
「考えてます!凄く失礼なこと考えてます!ちょっと、霖之助さんも考えてることを考えようとしないでください!」
「ふむ。初対面にそんな失礼なことを考えられるとは」
「だってこの人─」
「それで、今日はどんな用事で来たんだい?」
さとりが暴露しようとしたところで、霖之助は無理矢理会話を橙たちに戻す。
「あ、いえ。こちらのシンスさんが霖之助さんに会いたいって」
「ほう?それはまたどうして?」
「いえ、幻想郷には男性が少ないらしいので、どんな人なのかなと思って」
「変な理由だね」
「そうですか?あ、じゃあこれ差し上げます」
シンスはポケットから紙幣を出す。
「ん?これは何だい?」
「一万円札です」
「一円札じゃなくて?」
「はい、一万円札です。外の世界にあるとても貴重な物です」
「つまり、これだけで一円札の一万倍の価値があると?」
「ええ、まあ。ここ的には」
「それは凄い。いい物を貰った。お礼に、何かあげよう。店内を見ていくといい」
「ありがとうございます」
「ちょっと貴方!」
さとりがシンスに再び話しかける。
「えっ?」
「『まだいたの?』とか思わないでください!」
「すいません。ただ買い物終わったのになんでまだいるのかと…」
「同じじゃないですか!あまりにもあんまりです!」
「まあまあ。シンスさん、こんな人でもウチのお客さんなんだ。あまり虐めないであげてくれ」
「心の中で謝るなら最初から言わないでください」
「すまないな。お茶を出すから機嫌直してくれ」
「‥あなたが持ってるお茶の中で一番高級なお茶を出してくれたら許しましょう」
「仕方がないな」
そう言うと霖之助は店の奥に歩いて行った。
「‥橙」
「何ですか?」
「これが、テレビかな?」
「あ、そうですよ。電源も入ってるし、映ると思います」
「さとりさん、映してもいいかな?」
「何で私に聞くのですか。常識的に考えたら他人の物を勝手に使ったりするのは駄目です」
「ああ、別にいいよ」
奥から茶を乗せた盆を持ちながら、霖之助が答える。
「ただチャンネルは一つしかない。天狗がやっている生中継のみだ」
「あ、はい。知ってます。魔理沙さんから聞きました」
「そうか」
シンスがカチッとテレビの電源ボタンを押す。
「‥あ、映った」
『─というわけで、今回は紅魔館の前に来ております』
『‥あ、文さん‥。あの二人は…』
『分かんなくなっちゃったからしょうがないでしょ』
『…』
「‥滅茶苦茶ですね」
「うん…」
橙とシンスが溜め息をつく。
「何かあったのかい?」
霖之助が茶を二人の前に置きながら言う。
「あ、どうも」
「いえ、別に‥大したことではないです…」
「そうか」
霖之助は茶を置くと、また向こうへと戻って行った。さとりは何が起こったのか分かったらしく、ジト目で二人を見ている。
二人はテレビに視線を戻す。
『さぁ、てなわけでいつも通り紅魔館にお邪魔しようと思ってるのですが─』
文がカメラに視線を向けると、数人の少女が。
『イエーイ、誰か見てるぅー!?』
『これがカメラなのかー』
『あやややや‥チルノさん、ルーミアさんおやめください』
『チルノちゃん、ルーミアちゃんもやめなよ~』
『それよりあっちで弾幕ごっこしようよ~』
『お、いいね。今日は負けないよ!』
チルノは大妖精に連れられて森へと歩いてゆく。その後をミスティアとリグルがついていった。
『‥さて、入りましょう』
『いらっしゃいませ、文さん!』
『あ、門番さん。いつもお疲れ様です』
そう言うと、美鈴は文と椛と共に紅魔館に入って行った。
「‥門番なのに入って行っちゃったけど」
「文さんの放送は紅魔館の主のレミリアさん公認なんですよ」
「‥そうなんだ」
「いつも門番としての仕事はしてないと聞いていますけどね」
「へ~‥」
ちらっと横に目をやると、霖之助は本を読み、さとりは茶を飲みながらボーっとテレビを見ている。
「‥なんですか?」
「あ、いえ、別に…」
さとりにきつく問われ、テレビに急いで視線を戻す。
『はい、いつも通りのレミリアさんです!』
気づけば内部が映し出され、紅魔館の面子が並んで立っていた。フランドールが画面に手を振っている。
『ふふ、こんばんは。テレビの前の皆さん。カリスマの王と言えば私のこと、レミリア・スカーレットよ』
『それで、今日は何を紹介してくれるのでしょうか?』
『くくく‥。そうね、パチェ。アレを持ってきなさい』
『アレって何よ』
『咲夜、アレを持ってきなさい』
『アレって何ですか』
『‥うー!アレって言ったらあれでしょ!こないだ描いた宣伝ポスターよ!』
『ああ、アレですか。分かりました』
咲夜は一瞬消えると、またスッと画面に現れた。
『これですね』
『そうそう、これよ!』
レミリアは持ってこられたポスターをバサッと画面に向けて広げる。
『なんと、私たち紅魔館メンバーで特撮映画を作ることにしました!』
『ぱちぱちぱち~』
『タイトルは"GTA紅魔館"!Great Touhou Another storyよ!』
『StoryのSはどこに?』
『何となく消したわ』
『Touhouの意味はなんでしょう?』
『何となく付けたわ』
『‥そう』
『何はともあれ、妖怪の山の天狗が協力してくれるらしいから皆見に来てね!』
レミリアが画面にグッドサインをする。
『おねーさまー、私も出れる~?』
『ええ、適役の敵役よ』
『わーい、敵役だ~!』
『ちなみに私も美鈴も咲夜もこあも敵役よ』
『全員敵じゃないですか』
『で、天狗が主人公よ』
『ええ‥?GTA紅魔館なのに…』
『ずるーい!フランが主人公がいいよ、お姉さま!』
『大丈夫よ、フランの出番は一番多いわ。(ボソッ)分裂するから』
『本当!?やったー!』
『それで、敵役のボスが私!ぱちぇは面倒くさいからって出てくれないのよ』
『違うわよ、喘息を甘く見ないでちょうだい』
『言い訳とかいいわけ?』
『死んじゃえ』
『皆さん、是非見に来てくださいね!』
美鈴がカメラに手を振ると、カメラに文が映る。
『はい、そろそろ次の取材場所に映りたいと思います。紅魔館の皆様、ありがとうございました!』
『絶対見に来なさいよ~!』
レミリアの台詞と共に、画面がブラックアウトする。
「楽しい放送だね」
「あはは、そうですね」
「もうすぐ誰かが自由に放送できるチャンネルを、にとりという河童の子が設定すると言っていたが‥今のところはまだのようだな」
霖之助は本を置き、立ち上がるとさとりの方へと歩いてゆく。見ると、さとりは座ったまま寝ていた。
「‥寝てる間は第三の目もきちんと閉じるんだね」
「一応、"目"ですからね」
「それより、橙。そろそろ帰りだしたほうがいいかな?」
「あ‥そうですね。今から帰れば丁度7時頃には着くかと」
「もう帰るのかい?」
霖之助が聞く。さとりは既に起こされて、ボーっと突っ立っていた。
「ええ、遅くなると二人が怒るので」
「そうかい。一万円札の礼だ、テレビを持っていってもいいよ」
「いや、要らないです」
「そうか?何か他に?」
「いえいえ。美味しいお茶、有難うございました」
「ああ。また来ておくれよ」
シンスは少し躊躇って、「はい、また来ます」と言った。
「─あ」
「え?」
「そういえば橙さん。紫さんから頼まれていた注文品があったんだ」
「ああ、そう言えば言われてました」
「ちょっと、来てくれるかい?」
「あ、はい。すいません、シンスさん。少し待っていてください」
「あ、うん」
そう言うと橙は霖之助と共に店の奥へと歩いて行った。
「‥貴方、ちょっと来なさい」
「えっ?」
突然さとりから声がかかる。何やら怒っているようで、シンスは店の外まで引っ張って連れて行かれた。
───
店のすぐ前まで来ると、さとりはこちらを向いて言う。
「なんで隠す必要があるんですか?」
「‥え?何が?」
「何がじゃありません。貴方の心を見れば丸分かりです。『幻想郷に入れるのは今日限り』だということが」
「‥は、はあ‥」
「はあじゃなくて!私はそういうのが気に入らないんです。突然貴方が消えて困惑するのもあの子達なんですよ!」
きっ、とシンスを睨みつける。
「‥今も僕の心が読めますか?」
「‥何を当然なことを─‥!?」
さとりは自分の第三の目を見る。目は開いている。なのに、心が読めない。
「よ、読めない!?なんで!?さっきは読めたのに‥!」
「僕の能力は、"それを無かったことにする能力"です」
「無かったことに!?じゃ、じゃあ私の能力は─」
ふと、シンスの考えがさとりの頭に入ってきた。
「え‥!?」
「あなたの能力を無かったことにしたことを無かったことにしました」
「…」
はぁっと息をつくと、さとりは「なるほどね」と言った。そしてシンスが再び口を開く。
「1日だけだというのを言いたくなかった理由は、僕と真面目に会話をしてほしかったから」
「真面目に会話…?」
「例えば、霊夢さん。彼女に1日だけですがと言っても、きっと『はいはい』で終わっちゃいます。けれど、これからよろしくと言えば、『じゃあ能力を確かめてやろう』って言うと思って」
「‥貴方、あの巫女と戦ったの?しかも脳内には勝ったという記憶まで‥」
「戦ってはいません。弾幕が当たったことを無かったことにしただけです」
「‥全て分かっていたのですね」
シンスはその一言を聞くと、少し笑って言う。
「さとりさん、お願いがあります」
「なんですか?」
「橙が来ても、このことを言わないでください」
「…」
さとりは一瞬香霖堂に目を向け、再び視線を戻して言う。
「‥それでいいんですか?」
「はい。僕が居たことは、明日の朝に目が覚めた頃には忘れていると思います」
「本当にそれでいいんですか?」
さとりは少し口調を強めて言った。目はジト目ではなく、こちらを真剣に見ていた。
「貴方の存在が消えたとしても、その行為はあの子を傷つけることになるかもしれないんですよ」
「事前に別れを告げても、何のプラスにもなりません」
「それでも!きっと貴方が後悔することになる!」
突然、さとりが口調を強めた。
「あの時の私と同じように!」
さとりが叫ぶ。そして、しばしの沈黙。
何十秒かの沈黙の後、シンスは静かに口を開いた。
「‥さとりさんは優しいんですね。では、もう一つお願いを聞いてもらえますか?」
「‥なんですか」
「少し橙さんを呼んできます。それで、やっぱり話します。だから待っていてください。あなたにも、聞いていてほしい」
シンスは「お願いします」と言って、ぺこりと頷く。
「‥分かりました」
そう言うとシンスは、香霖堂へと入っていった。
「─嘘つき」
シンスが香霖堂に入った直後に、さとりが呟く。
─彼女の中から、僕の存在を消した。
「‥あら?」
さとりは辺りをきょろきょろ見渡す。
「おかしいわね‥。確かに香霖堂に買い物にきた筈だけれど、途中から記憶が…」
空をふと見上げると、既に暗くなりかけている。
「あ‥早く帰らないと。お燐を待たせちゃってる」
くるりと体の向きを帰ると、妖怪の山に向かって歩き始めた。
さとりの姿が遠くへと消えた直後、シンス達は香霖堂から出てきた。
「あれ?さとりさんは帰ったのかい?」
「はい、僕が香霖堂に入る前に帰って行きました」
「そうかい」
「さあ、橙。帰ろう」
「はい。帰ったら8時ですよ」
橙が苦笑しながら言う。
「足早に、戻りましょうか」
「うん」
「2人とも、帰りに気をつけてくれ」
「ありがとうございます。では」
シンスと橙がお辞儀をして、紫の屋敷へと向かって歩み始めた。
───
「ねぇ、橙」
「なんですか?」
香霖堂を出て1時間。後1時間ほどで着くだろうという所で、シンスは橙に訪ねる。
「その、さ。橙は最初僕のことあんまり良く思ってなかったでしょ」
「…」
「だから、今朝は嬉しかった。話しかけて来てくれて」
「そう、ですか」
「なんで?」
「はい?」
「いや、こんな僕にどうしてこんなに親しく接してくれているのかと思って」
「それは─」
橙は一瞬顔を伏せた。が、また少し顔をあげる。
「ずっと、見ていてくれた気がしたんです」
「え?」
「どうしてかは分からないけど、誰なのかは分からないけど‥」
スッと前を指さす。
「いつもこの辺で、誰かが私を見てくれていて。一人で寂しい時も、みんなで楽しい時も。その見ていてくれた気がする人に、シンスさんの雰囲気が似ているんです」
「…」
「だから、私ももっと仲良くなりたくて─」
橙の顔は少し照れていて、嬉しそうな顔だった。
「だから、これからもっと仲良くしてください」
ぺこり、とシンスの方を見てお辞儀。シンスは何も言わない。
ふと橙が顔を上げると、地面に雫が落ちた。
「‥え?」
ふと顔を上げると、雨がぽつりぽつりと降ってきた。
「わわ、シンスさん!雨ですよ!急ぎましょう、どしゃ降りになったら風邪引いちゃいます!」
「─‥」
「えっ?何か言いましたか?」
シンスは静かに顔を上げる。
「ううん。さあ、走ろう」
タッとシンスが駆け出す
「はい!」
橙もシンスを追いかけるように走り出した。
『本当にそれでいいのですか?』
帰り道、その言葉が何度も何度も頭に浮かんだ。
───
家へは、走ったので予定より少し早く着いた。
玄関の戸を開けると、藍が出迎えて、紫が隙間から覗く。
部屋に戻り、夕飯を食べて、風呂に入り、談笑して─
明日になれば全て消える。消えてしまう。
でも、それでいい。そうでなければいけない。
─『本当にそれでいいのですか?』
それでいいんだ。
─『あの子を傷つけることになるかもしれない』
だから消すんだ。自分の存在を。
「─シンス」
「えっ?」
気づけば、橙と藍は就寝部屋に行ったらしく、紫は居間でぼーっとしていたシンスに話しかけたらしい。
「ずっとボーっとしてるわね。聞いたわ、映姫から。恐らく、橙には言ってないんでしょうけれど」
「…」
「私も藍には言ってないわ。言って気を遣わせても嬉しくないでしょう?」
「‥はい。ありがとうございます」
「それでいいのかしら?」
間が入る。
「まだ明日の朝があります。その時に言おうかと思ってます」
「あら、そう。なら大丈夫ね。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい。また、明日」
「ええ。また明日」
そう言うとシンスは立ち上がる。
「寂しいわね」
ふと、紫が呟いた。
「えっ?」
「もうすぐお別れよ」
紫は顔だけをこちらに向けている。どうしてか、紫の目は何かを哀れんでいるようにも見えた。
「‥そう、ですね。僕も、寂しいです」
「‥それじゃあね」
紫は寝室へと向かった。シンスもまた、部屋へと向かう。
───
チチチ、と鳥が鳴いた。外が明るい。
橙は珍しく起きるのが遅かった。
「藍さま」
「ああ、おはよう橙。起きたばかりですまないが、紫様を呼んできてはくれないか?」
「‥あの、藍さま」
「なんだい?」
「シンスさんは?」
嫌な予感はした。ここに来るまで、シンスのことが思い出せなかった。
「シンス‥?って、誰のことだい?─ちょっと、橙!?」
そう言ってほしくなかった。橙は急いで洗面所の方へと駆け出す。
洗面所からは丁度、紫が出てくるところだった。
「紫さま!」
「あら、橙。どうしたの?慌てて」
「シンスさんはどこにいるんですか!?」
「シンスって誰かしら?」
「っ…!」
「あ、でも─」
スッと指先で何もない方向を指す。
「あっちの方に、何か見知らぬ男の人が歩いて行ったのは見たけれど。知り合いかしら?」
紫の質問に返答する間もなく、橙は紫が指さした方へと走って行った。紫はそれを何も言わずに見つめていた。
───
紫の家の近くの道。
妖怪が通ることもまずない道で、シンスはただひたすらに映姫の到着を待っていた。
彼は自分の存在を無かったことにしたことで、自分に関わった全ての妖怪の記憶から自分を消した。
思えば、1人1匹、自分と別れた直後に関わった相手の記憶を無かったことにすればよかったのかもしれない。
だけどそうしなかったのは、少しでも長く覚えてほしかったら。『例え明日消えようと、今日だけは─。』そう思った。
ザアアと風が吹く。
「─シンスさん!」
聞き慣れた声。一番多く話を交わした声。
シンスが振り向く。そこにいたのは、確かに橙だった。一番見たかった相手。一番自分を覚えていてほしかった相手。
「なんで、なんで…」
なんでの後は何も言わなかった。それでも彼女には、僕が消えることは何となく分かっているのだろう。
そして、伝える。今だからこそ言える言葉を。橙に近づき、静かに話し出す。
「ずっと見ていたんだ」
橙の頭に、手を乗せる。橙はびくりと目を瞑った。
「向こうの君たちはいつも楽しそうで─」
乗せた手で、橙の頭を優しく撫でる。
「僕たちが辛いことがあっても、君たちが笑顔をくれた」
「‥な、何を言って…」
「僕たちが君たちを泣かしてしまうことがあっても、君たちは僕たちをいっぱい笑わせてくれたんだ」
シンスは微笑みながら言う。
「僕はもうここにいられないんだ」
「な、なんで…」
「ここにいましたか」
振り返ると、映姫が立っていた。
「え、閻魔さま!?」
「‥映姫さん」
「行きますよ、シンスさん」
「‥はい」
シンスはちらっと橙の方を見ると、映姫の方に歩いていく。
「待ってください!」
橙が叫んだ。
「なんで、なんでシンスさんを連れて行くんですか!?」
映姫がそれを聞いて、シンスの方を見る。
「‥まだ言ってなかったんですか」
「…。」
「説明しないと、納得なんてできませんよ」
「‥僕は─」
シンスは少し間を置き、言う。
「僕は天国に行くところを間違えて地獄に送られたんだ」
「そ、それでどうして幻想郷に…?」
「お詫びに幻想郷に連れていってほしいって言ったら、連れて来てくれたんだよ」
「へ…?」
橙は驚き、映姫の顔を見る。
「小町が余計なことを言わなければよかったのですが。所詮は忘れてしまうわけですし、あまりに─」
「わ、忘れるってどういうことですか!?」
「‥この者が天国へ行ったら、貴方はもう間もなくこの者を‥シンスを忘れるのです」
「な、なんで…?」
「彼は元々幻想郷にいてはならない外部の人間だからです。現に八雲紫の式神も、博麗の巫女も忘れていたでしょう。死んだとはいえ、存在してはいけない者が存在しては、歴史が変わってしまう」
「でも忘れなくてもいいじゃないですか!」
目に涙を溜めて橙が叫ぶ。
「‥言っておきますが、私には貴方たちが彼の存在を忘れるかどうかをどうにかすることはできません。あくまで、そうなると決まっているものですから」
「な、なんで…」
橙が今にも泣きだしそうで、映姫が説明に困っている。そこへ、シンスが口を開く。
「お約束だよ」
「‥約束…?」
「そう。未来に行って帰ったら、その人は未来を忘れる。夢の中で起こった出来事は忘れる。この世界はそういう風にできてるんだ」
「また適当な説明を…」
映姫が呆れた顔で言う。
「夢は覚めたら、意味のないものですから」
「‥そうですね」
「‥それじゃ、僕はもう行くよ。橙、元気でね」
シンスが片手をあげて、その場から去ろうとする。
「ま、待って!!」
「ん…?」
「忘れちゃうなら、消えちゃうなら、最後に─」
橙はそう言いかけた時、シンスに抱きしめられた。
「ありがとう」
「ぁ…。」
「でも、もう行かなきゃ。君に逢えてよかったよ」
「…」
シンスの体に包まれた橙は、ついに涙を流してしまう。けれど橙は子供のように泣き叫んだりせず、シンスの服をぎゅっと掴む。
「‥わたしも、あなたとあえて…。短かったけれど一緒にいれて嬉しかったです。ありがとう…」
そういって、いっそう強く服を掴むと、顔を伏せて、ひたすらに泣いた。
───
「─ん。橙」
「ん…」
藍に声をかけられて、橙は起きた。どうやら木にもたれ掛って寝ていたらしい。
「‥あ、あれ…。わたしは…」
「こんなところで寝てると風邪を引くよ」
「あ‥ごめんなさい‥」
藍が手を伸ばす。
「ほら、立って」
橙は立ち上がり、お尻をぽんぽんとはらって言う。
「‥あの、なんで私こんなところで寝てたんでしょう?」
「さあ、おまえに分からないことは私にも分からないよ」
藍がははっと笑いながら答える。
「さ、帰ろうか。家へ」
「─はい」
───
「幻想郷はどうでしたか?」
閻魔に問われて、男は言う。
「とてもいい場所でしたよ」
「そうですか」
「けど、どうして僕は自分の存在を消したのに橙は覚えてたんでしょう」
「幻想郷の中で、貴方の存在を一番強く想っていた者だったからです。だから、貴方の存在が完全に消えるまで橙は貴方を忘れなかったのです」
「…」
「それでは、行きましょうか。貴方の帰るべき場所に」
「‥はい」
シンスはもう、ここに戻って来た時の迷いはなかった。全て吹っ切れたような顔で、はっきりと答えた。
───
─拝啓 八雲紫様─
名も無い手紙を突然すいません。どうしても、お礼が言いたくて書かせて頂きました。
幻想郷は素晴らしい場所でした。外の世界の情報も、あながち間違っていませんでした。
皆とても楽しそうに、幻想郷という場所で過ごしていました。
昨日、1日だけ幻想郷を見て回りました。博麗神社、永遠亭、香霖堂等々に行かせて貰いました。
遠すぎて行けませんでしたが、地霊殿の方ともお話できました。
後1日あれば妖怪の山の神様達ともお話ができたのですが、残念です。
また、貴方様の家も場所が分からず挨拶に伺えませんでした。申し訳ありません。
もしもう一度、また来ることができたならその時は挨拶に伺わせて貰います。
いつまでも素敵な幻想が続くことを願っております。本当に有難うございました。それでは、また。
─敬具─
机の上に置かれた手紙を読み終え、肩肘をつく。
「面倒くさいやつね。住居が分からないのに、どうやって手紙を机の上に置くのよ」
そう言うと、手紙を丁寧に封筒へと戻すと、棚の上に置いた。
「そうねえ」
手紙の方を向いて、独り言を言う。
「いつかまた、来ればいいんじゃないかしら」
紫は振り向き、帰ったきた2人を出迎える。
「お帰りなさい」
あと推敲とかちゃんとしようよ…よくこんな状態で出せたね?
このサイト内に東方自信作というSSがあるからそれを一読してみると良いと思いますよ。きっと参考になるはずです。
次からはもう少し読み手の事を考えて投稿してみましょう。
三点リーダーは二つ繋げて使うとか
基本的なこと諸々がなってなくて、上にもあったけど読んでて苦痛
また新たな低レートオリキャララグ作品が生まれたな
ニコ動の幻想入りシリーズなんかもそうだけど。
あ、上のは感想として流してもらって結構ですよ。
言いたいのはこれからなんです。大体が私の体験談ですけどね(ぇ
まず最初に、他の作品を読むことです。
読んで自分の作品と比べて見てはいかがでしょうか?
次に、何が人を惹き付けるかを知りましょう。
自分が面白いと思った作品、本、ゲームでも構いません。
何が自分を“面白い”と感じさせたか。それを知りましょう。
基礎的な能力に対してはなんとも言えません。川Orz
そして、最後に。
大体、初投稿でズダボロにされた人は作品を削除し、投稿しなくなります。
ですが、そんな程度で執筆をやめるぐらいなら“何故書いた?”ってなります(きっと)。
そもそも、初投稿で高評価を得られる人は少ないと思います。
さて、貴方は挫けて書くのをやめるのか?それとも、この失敗を糧に上段に飛び上がるのか?
とても気になる次第です。
ここまで長々と素人風情が失礼しました。
あなたの作品は、そういう人の癇に障ったんです。すなわち地雷を踏んでしまった。
次の作品を書くにあたっては、
地雷が何を嫌うのかを調べて、それを書かないように気を配ってあげたほうがいいです。
そら、分別のあるほうが折れるしかないじゃないですか。
それで感想のほうですが、
表現が簡潔で、改行もうまく使っておられたので読みやすかったです。
ただ、どうして橙が主人公に好意をもったのか、その理由がわからない。
文章自体は読んでてもまあそんなに不快ではないかなと思えます。そして普段の会話パートも少しクスリとくるような部分もありました。が、それをシンスという異界人がぶち壊しにしているように思えました。これがもし、幻想入りではなくただの八雲家の話だったならもう少し評価は変わっていたように思えます。
また、橙やさとりなどの主人公への主張もよく分かりませんでした。もし主人公が一年単位で彼女らと密接に接していたなら話は別ですが、やはりただシリアスな場面を作りたかっただけというような意図が見えました。
結局は、自分を重ねたオリキャラを幻想入りさせて自己満足で終わっているのではないでしょうか。次回はもう少し考慮して、投稿してくれるのを楽しみにしてます
それはそれとして、何をしたかったのかが分かりません。
主人公の目的は明言されてます。「幻想郷に行きたかった」 じゃあ、何で? さっぱりです。
伏線らしきものは一瞬だけ見えた気がします。橙との邂逅でしょうか。せめてそれを語って欲しかった。
結局この作品は、幻想郷をちょっとだけ紹介してみました(三次創作で作られたイメージも)、といったところでしょうか。
それならそれで突き抜けて欲しかった。妖怪の山だって冥界だって残ってますし。
でも一日ツアーなんですよね。これは無理だ。
目標を決めて書いてみてはいかがでしょうか。そうしたら物語として成立すると思います。
次に繋げていけばいいと思うますので頑張ってください