Coolier - 新生・東方創想話

東方大妖精  the Embodiment of Murderous

2013/11/28 15:36:02
最終更新
サイズ
87.55KB
ページ数
1
閲覧数
2347
評価数
2/13
POINT
260
Rate
4.07

分類タグ

プロローグ
 
 あの子に会ったのはいつだったろうか。
 たしか……白黒がこの館に来た時に、奴の攻撃がたまたま私の部屋に当たったのだ。
 私は神に『今夜だけ出させて下さい』と心から思い、誓って外に飛び出した。
 空を飛ぶのは何年ぶりだろう? 羽が羽ばたく度にまるで錆びが剥がれ落ちるような感覚。
 久しぶりに見る幻想卿は……昔とそんなに変わっていないように見える。懐かしかった。
 私は湖の畔へと降りることにした。
 湖はとても静かで綺麗だった、湖を見ると月が映っている。
 「今日満月だったんだ」
 湖に映った満月から顔を上げて本当の満月を見る。
 何だか力が湧いてきた、やはり私は吸血鬼なんだと実感した。
 不意に、楽しそうな声が聞こえてくる。
 「好き~、嫌~い、好き~、嫌~い……」
 女の子だ、女の子の声がする。
 何をしているのかと思い声のする方へ向かった。すると一面花いっぱいの場所に出たのだ。
 「うわ~」
 こんな綺麗な場所が館の近くにはあったのか……。  
 そんなことを思っていると、花畑の真ん中に女の子を見つけた。
 「好き~、嫌~い……」
 髪は濃い緑、背中には羽、右手で花を持ち左手で花びらを取っている。
 「懐かしい~! 花占いだ、昔やってたな~」
 どうやら彼女は妖精らしい、薄い羽がその証拠だ。
 「好き~、嫌~い……好き」
 どうやら最後の花びらが好きにあたる花びらだったようだ。嬉しいんだろうな~と思っていると。
 「へぇ~、リグルはチルノちゃんが好きなんだ~」
 何かを呟き花を上に投げる、そして立ちながら置いてあったらしい何かを掴んで花を見る。
 「リグルハチルノチャンノコトスキナンダ」
 何故か壊れた機械のような声で独り言を言い、一瞬にして手に持った何かで花をバラバラにする。
 「アハハハハ! 次はあんたよリグル!」 
 天に向かって指を立てて何か叫んだ!
 「その前に」
 天に向けていた指をこちらに向け。
 「あなたはだぁれ?」
 ニッコリ笑っている! 恐い! なんだこの妖精、妖精とは思えないほど恐い! 
 悪魔か何かじゃないのか!?
 彼女は突然こちらに向かって走ってくると、途中で一回転、そして二回転目で両手に持った何かが横顔に迫る。
 「ちょっ!」
 それを右に飛んで避けた。
 ズガッ! っという音がして何かが木に食い込んでいた。食い込んでそれが何かやっと分かった、手斧だ。
 「よく避けたね~、じゃぁ死の~か?」
 「ちょっと待ってちょっと待って! 私何もしてない何もしてない! 勝手に見たのを怒ったならごめんなさい!」
 私は身の危険を感じて早口に謝る。
 「……あれ? …………あぁこちらこそごめんなさい、つい殺意の波動に流されちゃった、修練が足りないわね。本当にごめんなさい」
 妖精は手斧を木から取ると頭を下げて謝った。
 「た、助かった」
 私は腰が抜けてしまい、その場にペタンと座ってしまった。
 「大丈夫? 向こうに座りやすい木があるから連れてってあげる」
 妖精は私をお姫様抱っこすると湖の近くに運んでくれた。何だか恥ずかしかった……。

 「私は大妖精、よろしくねフランドールさん」
 「えっ! 何で私の事……」
 「噂ぐらい聞いてるわ」
 大妖精は楽しそうにフランドールを見ながら言った。
 「なら、私の能力も知ってるんでしょ?」
 そう、私が誰なのか知っているなら私の能力も知っているはずだ。
 「えぇ」
 「じゃぁ何で……」
 「?」
 「じゃぁ何で私と接してくれるの?」
 昔からだった、私は何もしてないのに妖精メイド達に恐れられ、嫌になって地下に籠ったのだ。それなのに何で大妖精は私の能力を知っているのに恐れないのだろう、別に恐れられたい訳じゃない、むしろ皆と仲良くなりたいのに。
 「皆、私の能力を知ったら離れていくのに……、私が恐くないの?」
 「うん」
 ケロッと即答されて絶句する私。
 「私が唯一恐れるのは大事な人がいなくなってしまうこと、ただそれだけよ」
 私は、私はこんなに真っ直ぐすぎて恐いと思ったことは無かった。
 「それにあなた能力使う気全然ないでしょ? 見分けられないその子達が悪いんだから気にしちゃだめよ」
 この子は、この子は天使なのだろうか?
 「あのっ!」
 「はい?」
 私は勇気を出して言ってみた。
 「私と友達になってください!」
 言った、言ってしまった。
 「別にいいけど」
 またもケロッと言われてずっこけそうになる私。
 「よろしくね、フラン」
 「こ、こちらこそよろしく大……ちゃん」
 これが私達の友達になった瞬間だった。

 「あれからもう一ヶ月か……」
 友達になった後、私達は日が出るちょっと前まで話した、その後私は館に戻った。
 「どうしてるんだろ、大ちゃん」
 私は今日も何も無い天井を見ながら友達のことを思う。


 その頃大妖精は……。
 「よいしょ、よいしょ」
 包丁を研いでいた。
 「これで良しと」
 大妖精は包丁の刃を見ながら満足そうに言う。
 「吸血鬼を倒そうなんて初めてだからどれくらい研いだらいいのか解んないけど、きっと三日間ずっと研いでたから大丈夫よね」
 包丁を入れ物に入れて腰に提げた時、家のドアに何かがぶつかる音がした。
 溜め息をついて大妖精はドアを開けた。するとそこには真っ黒い球体が地面にめり込んでいる。
 「大丈夫? ルーミア」
 真っ黒の球体は突然消え、地面には金髪に赤いリボンの少女がおでこを抑えて座っている。
 「痛いのかー」
 ルーミアと呼ばれた少女は涙目になりながら言った。
 「もう、気をつけなさいよルーミア」
 手を差し出して起こし、服に着いた汚れを叩いて落としてあげる。
 「ありがとなのかー」
 「こちらこそありがとね、私の問題につき合わせちゃって」
 大妖精は少し俯くが、その顔をルーミアが掴んで上げる。
 「気にしないくていいのかー」
 ルーミアの笑顔を見た大妖精も同じく笑顔になった。
 「うん、分ったわ……行きましょうか!」
 ルーミアは紅魔館の方へと向かう。
 大妖精は紅魔館の方ではなく花畑の方へ向かった。

 花畑では氷の羽を持つ妖精とマントを着けているボーイッシュな妖怪が座って話していた。
 「リグル~、今日は何して遊ぶ~?」
 「なんかこんなこと話してると大ちゃんが……」
 「チ~ルノちゃん♪」
 「マジで来た!」
 リグルは咄嗟に後ろに飛んで逃げる。
 「今度こそやられてたまるか! ぶはぁぁ!」
 意気込んだと思った次の瞬間には上に吹っ飛んでいた。
 「意気込みはこのアッパー避けてから言ってね? 虫けら」
 大妖精がチルノの方を向いた時にリグルが地上に落ちた。
 「どうしたの大ちゃん?」
 チルノは吹っ飛ぶリグルを気にせずに大妖精に質問した。
 「何でもないよチルノちゃん♪ 今日は遊べないって言おうと思って」
 「「えっ!?」」
 リグルとチルノは同時に驚く、大妖精から遊べないなどという言葉が出てくるなど思いもしなかったのだ。
 「な、何で?」
 思わずリグルが聞いてしまった。
 「ちょっと友達の所に遊び行くの、じゃね」
 残った二人は呆然と見ていることしか出来なかった。

 所変わって紅魔館の門。
 紅い屋敷の前に作られた鉄の門の前では、チャイナドレスに身を包んだ女性が立っている。
 「ふぁぁぁぁあ、暇だな~寝たいな~、でも仕事だしな~」
 そんな独り言を紅 美鈴が言っていると、前方から何かを感じた。
 「んっ?」
 見ると何か黒い物が向かって来る。
 「黒白にしては白がない、何というか黒と紫で構成されているような?」
 美鈴は良く目を凝らした、すると見えた。
 「あれ? あの子いつもチルノといる……」
 大妖精は美鈴の十m先で地上に降りると美鈴を見据える。
 「ご用件は?」
 美鈴はここに来る誰に対してもする質問をした。
 「友達に会いに来ました」
 「友達?」
 何となく緊張していた美鈴の身体が緩む。
 「友達のフランちゃんに会いに」
 ニコッと笑う大妖精の目は笑っていなかった。
 「……すみませんが通せません」
 すぐさま美鈴は戦闘の構えをとった。
 「そうですか」
 大妖精はゆっくりと足を前に進めながら答える、とても嬉しそうに。
 「なら押し通るしかありませんね」
 「くっ!」
 妖精が出すとは思えない禍々しい殺気に耐えながら美鈴は踏ん張った。
 「うぉぉぉぉぉお!」
 美鈴は弾幕を出さずに大妖精に向かって行く。
 美鈴は思ったのだろう、弾幕を出せば大妖精は軽々と突破するに違いない、ならば自分が一番得意な接近戦に持ち込もうと。
 この時美鈴は正しい選択と間違った選択をした。正しい選択は弾幕を出さなかったことで、間違った選択は近接戦闘をしようとしたことだ。
 「わざわざ接近戦をしてくれるなんて嬉し!」
 大妖精の歩みは以前変わらない。
 「うおぉぉぉぉオラオラオラオラオラオラオラ!」
 美鈴はありったけのラッシュを大妖精に叩き込む。
 「風流『霞円花』(かすみかいか)」
 そう言って大妖精は目の前に手のひらで円を描く。 
 「えっ!?」
 気づいた時には美鈴の両手が頭の上に在った。
 「いつの間みぎゃぁっ!」
 美鈴の腹に大妖精の蹴りが入り後ろに飛ぶ。
 大妖精はスペルカードを持っていないが、その代わりに接近系の技をまぁまぁ持っているのだ。大妖精がさっき使った技、風流『霞円花』もそのうちの一つだ。
 「私に接近戦なんていい度胸ですね」
 本当なら美鈴のセリフなのだが……。
 「くそっ!」
 美鈴は焦っていた。今までに数回しかここまで強い敵には遭遇したことがない上に、
 相手はただの妖精よりちょっと強いだけの大妖精のはずなのだ。
 「ふぅーーー……」
 美鈴は息を吐いて気を落ち着け、目を閉じる。
 「それが静の気ってやつなんだ~。ふふふ、動の気とは大違いね」                                  
 大妖精はまるで初めて玩具を見た子供のように美鈴を興味津々と言った感じに見ている。
 だが美鈴はそんなこと気にしない。今気にしているのは自分の半径一mだ、この中に大妖精が入れば美鈴に勝機がある。
 「まぁこちらは普通に行きますか」
 大妖精は地面を蹴ると一気に美鈴へと向かった。
 さらに気を落ち着ける。
 どんどんどんどん美鈴に近づいて行く大妖精、その距離四m。
 美鈴は大妖精が数mm近づくだけで殺気が増して来るのが分かる。
 大妖精は美鈴まで後二mというところで薄く笑った。
 大妖精がどんどん距離を詰めて来ているいるのが分る、すでに一mは過ぎた。
 「今だ!」
 美鈴は内に溜めた力を爆発させると右手を突き上げ一気に大妖精の腹を貫く……はずだった。
 「あれ?」
 何故だか美鈴の拳には殴ったという感覚がない。
 「残念」
 その声を聞いた瞬間、美鈴の体は震え鳥肌が立っていた。
 美鈴は恐怖しながらも下を見る、するとそこには体を捻り、笑顔をこちらに向けた大妖精がいた。
 「またやりたいです、あなたとなら」
 そう言い大妖精は美鈴の心臓目掛けて掌底を打ち込む。 
 食らった美鈴は鉄門と一緒に吹っ飛んでから着地し、ニ・三m地面を抉りながら背中で進んでいった。
 「残念だけどあなたが攻撃したのは私の殺気です、風流『夏陽炎』(なつかげろう)、あれは私の殺気を固めて飛ばしたもの、だからあなたは私の殺気を攻撃して私の気配に気付けなかった」
 美鈴は何も言わない。
 「あぁそうか、気絶してたんですね」
 残念そうに呟いて美鈴の横を歩く。
 「さて、まずはフランちゃんが何処にいるか探さなきゃね」
 そう言って音もたてずに紅魔館に侵入する大妖精だった。


 狂気VS殺気

 紅魔館地下室
 「フラン様、お食事をお持ちしました」
 妖精メイドは食事を机の上に置くと、そそくさと出て行ってしまった。
 フランは何も言わずに聖書を見ていた、だがその行動に何の意味もない、そんな聖書何回も、何千回も、何万回も、それ以上読んだのだ。内容何てとっくの昔に覚えている。
 フランの能力は触ったものを何でも、ありとあらゆる物を破壊する能力、こんな能力を持っているから誤解されやすいが、フランは本当は平和が大好きな少女なのだ。だが言ったってメイド達は信じないだろう、だからフランは聖書を読んでるフリをしているのだ。
 (生きとし生きる者、証明が無ければ信じないものよ、もし能力が無くなろうとも証明しなければ意味が無い、だがそれは不可能、だってどうやって証明すればいいの? ……私がこの能力を得てしまった時点で私は恐怖の対象なのだ)
 「ふぅ……」                  
 (まぁ考えたってしょうがない、今日も又この部屋で一日を過ごしてしまうのだ、どうせ)
 この時フランは考えもしなかっただろう、まさかこの時紅魔館に初めて自分で作った友達、大妖精が侵入していようとは。

 大妖精は誰にも見つからないようにある部屋を探していた。
 「何処にあるのかしら?」
 紅魔館に初めて入った大妖精は道に迷っている。
 この紅魔館、館なので広い広い、どうしようかと悩んでいると話し声が聞こえてくるので物影に身を隠して聞き耳をたてた。
 「あ~もう本当に疲れた~」
 「ここの掃除って本当に大変よね~」
 どうやらここのメイド妖精達のようだ。
 「ねぇねぇあなた達」
 大妖精は殺気を抑えてにこやかに妖精達の前に出る。
 「わっ! ビックリした~」
 「大妖精さんじゃないですか」
 「どうしたんですか~?」
 大妖精は仲の良い者、又は仲の悪い者以外には優しい妖精の皮を被っているので妖精達から尊敬されている。
 「ちょっと聞きたいんだけど更衣室って何処にあるのかしら?」                    
 「更衣室ですか? 更衣室ならここ真っ直ぐ行くと更衣室ってゆう看板がぶら下がってるドアがありますからそこですよ」
 「でも何でそんなこと聞くんですか?」
 妖精の一人が当たり前な質問をする。
 「私今日からここで皆と一緒に働くからよ」
 大妖精はさも当然の如く嘘を吐く。
 「わ~そうなんですか!」
 「一緒に頑張りましょうね!」
 「えぇ」
 妖精達は一通り嬉しそうに言うと何処かに行ってしまった。
 「さてと」
 隠していた殺気を出すと足早に更衣室を目指す。
 (今は昔の自分が嫌いだが、たまに感謝する事もある。昔のなまっちょろくて人を恨んだことも無い自分のお陰でさっきのような場を回避する事が出来るのだから)
 「着いたっと」            
 大妖精は一応の為にドアに耳をあて中に誰かいないか確かめる。
 「誰もいない」
 ドアノブに手を掛けて開けた、中にはこれでもかとメイド服がいっぱいあった。
 大妖精は適当にメイド服を選ぶと着替える。
 「さて、これからどうしよ」
 (予想ではフランちゃんは地下にいるはずだけど階段が見あたらない、ということは階段は何処かのトビラの中にあるはずだ)
 この時大妖精は自分の後ろの方にいる者に気が付かなかった。
 「あら? あの子はたしか……」
 その者は大妖精に見覚えがあるのか近付いていく。
 そうとも知らず大妖精はどうやって階段を探すか考えていた。
 (一つ一つ調べていたら見つかってしまう、かといって誰かに聞けば怪しまれる、どうしたものか)
 「ねぇあなた」
 大妖精は驚きも慌てもせずに振り返る。
 「はい、何でしょう?」
 「あなたいつもチルノといる大妖精……だったわよね? どうしてメイド服着てここにいるのかしら?」
 声の主はこの紅魔館メイド長、十六夜 咲夜だった。
 咲夜の言葉には返答次第ではナイフが飛ぶという意思が感じられた。
 「あぁ、だから……」
 大妖精は困ったような顔をして言う。
 「だから何?」
 咲夜は尚もキツく聞く。
 「実は私二週間ほど前に美鈴さんに働きたいんですって言ったんです、そしたら美鈴さんが大丈夫、私が咲夜さんに言っておくから二週間後に来てと言われまして……」
 「美鈴が? 私は何も聞いてないけど」
 「はい、だろうと思いました。今日美鈴さんに会ったら何か焦った感じに更衣室に行って着替えてって言われて、私用事あるからと言って紅魔館に逃げるように入って行ったんです」
 「……あの糞門番め」
 小さく言って舌打ちすると、打って変わって笑顔になる。
 「ごめんなさいね疑っちゃって、ちょうど全員集合するから着いてきて」
 そう言うと咲夜は歩き出す。
 「解りました」
 大妖精もそれに笑顔で答えた。
 だが実際この二人の心境に笑顔など無かった。
 咲夜は笑顔を装いながらも大妖精の言ったことを疑い、大妖精自身から放たれる〝何か〟を感じとって怪しんだ。
 だがそんな事大妖精には筒抜け。
 大妖精は咲夜が自分のことを疑っており、隠そうとしてることも解っていた。

 「皆聞いて~」
 咲夜は手を叩いて妖精を集める。
 「今日から働くことになった大妖精よ、仲良くしてあげてね」
 隣にいる大妖精がペコリと頭を下げる。
 「よろしくお願いします」
 「「よろしくお願いしま~す」」
 妖精達は大きな拍手をして新しい仕事仲間を迎えた。
 「それじゃ皆持ち場確認して仕事してね」
 「「は~い」」
 咲夜の言葉で妖精達は散りじりになった。
 「あの、私の仕事は?」
 「あなたの仕事は挨拶も兼ねてパチュリー様のいる図書館と、レミリアお嬢様のいる寝室にお食事を置いてきて」
 「解りました」
 大妖精は咲夜に一礼すると厨房に向かった。
 「パチュリー様のお食事とレミリア様のお食事はどれかしら?」
 「これです、レミリア様のお食事は後で出来上がりますので少し図書館で時間を潰してからここに帰って来てください」
 指示された物をワゴンに乗せると近くにいた妖精に図書館の場所を聴いて向かった。
 (さっきの子、パチュリー様は狂ってるから気を付けてくださいとか言ってたけどどんな人なのかしら)
 言われた通り永遠に思える道を進んで行くと、図書館と書かれたプレートと大きなトビラが見えた。
 「ここか……」
 中に入るとそこにはたくさんの本棚があった。
 「へぇ~、こんなにあるんだ」
 さすがの大妖精もこの数には驚いた。
 (噂ですごい数とは聞いていたがまさかここまで多いとは)
 大妖精が関心しながら進むこと数分、道に迷っていることに気づいた。
 (この本確かさっきも見た……入り組み過ぎなのよね)
 大妖精がどうしたものかと腕を組んで考えていると爆発音が図書館に響いた。
 「そういうことか」
 大妖精は理解すると煙が出ている場所へと向かう。
 煙の出ている場所の近くに行くと誰かが何か言っているのが聞こえる。
 「フゥー、どうやら成功みたいね、後はあの子が帰ってくるの待つだけ」
 手に液体の入ったフラスコを持つ少女の声は聞いてるだけで落ち着く、そんな声だ。
 「それにしてもあの子遅いわね、何やってるのかしら」
 (どうやらあの子が言ってたのは他の人のことのようね、さしずめフランの噂と勘違いしたんでしょ、どう見てもまともに見えるもの)
 「あの~」
 大妖精は安全と判断しひょっこり本棚から顔を出す。
 「あら? 誰かしら?」
 「私今日からこちらで働かせていただく大妖精と申します」
 大妖精は軽く頭を下げた。
 「そう、食事よね? あっちの机に置いておいて」
 パチュリーは使ってる机とは反対の机を指差した。
 「畏まりました」
 カートを机の傍に寄せ、料理を机の上に置く。サンドウィッチと紅茶の軽食だ。
 「それでは失礼します」
 「ちょっと待って、ここに来るの初めてでしょ? せっかくだから本でも読んでいけば?」
 「いいんですか?」
 大妖精は少し目を輝かせて聞いた。
 「……えぇどうぞ、私は調べ物があるから好きな本を好きに読んでていいわ」
 それだけ言ってパチュリーはどこかに消えた。
 (ここなら何か良い勉強になる本があるかも、武術とか体術とか暗殺術とか)
 そんな事を考えながら大妖精はテンション少し高めでスキップしながら本棚を巡りに行った。
 「さて、小悪魔が帰ってきたら早速実験ね、いい実験対象も見つかったし」
 離れる大妖精を見て呟き、紅茶を口へと運ぶパチュリーであった。

 その頃紅魔館へ続く道では一人の少女がこの紅魔館へと向かっていた。
 「ふぅー、やっとここまで来れた。疲れた~」
 少女はどこにでもありそうなブロック塀を持ってパタパタと飛んでいる。
 彼女の名前は小悪魔、赤いロングヘアーの後頭部には小さな黒い羽、ベストの後ろからも同じく黒い羽が出てきており、その羽を上下させて体とブロック塀を支え飛んでいる。
 「思ったより時間掛かっちゃったな、パチュリー様きっと暇してるから早く持っていかなきゃ」
 そんな一人事を言ってる間に紅魔館前へと着いた、が。
 「なにこれ……」
 小悪魔は自分の目を疑った。
 門に鉄門が無く、奥の方には美鈴が倒れている。
 「あわわわわわわ、どどどうしよ! 誰かに知らせなきゃ! ででででも誰に……そうだパチュリー様! パチュリー様に言えば何とかなるはず!」
 パニックになりながらも小悪魔は主の下へと向かった。

 「へぇーこれが投げ技かー、そういえば師匠から投げ技教えて貰ってないわね」
 大妖精は“日本投げ技大全”と書いてある本を読んでいた。
 「ただいま戻りましたパチュリー様! 大変なんです!」
 ドアを開けてバタバタと誰かが図書館に入って来た。
 「どうしたの小悪魔? そんなに慌てて」
 パチュリーは読んでいた本を閉じると小悪魔の方へ向かった。
 「それが外の鉄門が壊されていて、美鈴さんも倒れていまして!」
 「ようは誰かが侵入したって事ね?」
 小悪魔は持っていたブロック塀を実験用の机に置き返事した。
 「はいそうなです! 咲夜さんに伝えた方がいいですよね? 侵入者に逃げられたら困りますし」
 「あぁいいわよ小悪魔、今から防御結界とかその他もろもろ張るから」
 「え?」
 行こうとする小悪魔を止め、呪文を唱えたパチュリー。図書館全体の壁に魔法陣が浮かび上がる。 
 「どうしたんですかパチュリー様?」
 異変に気づいた大妖精がパチュリー達の下へ来た。
 「あぁ大妖精丁度良かったわ、この子この図書館の司書やってる小悪魔。小悪魔、この子今日から入ったメイドの大妖精」
 「よろしくお願いします」
 「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
 お辞儀をしてから小悪魔は大妖精を訝し気な目で見る。
 「……それではそろそろレミリア様のところへ行かなければならないので失礼します」
 小悪魔の挙動不審な態度、そしてさっきパチュリーが言っていた「後はあの子が帰ってくるのを待つだけ」という言葉を思い出し扉の方へ向かおうとするが。
 「そう焦ることも無いでしょう大妖精、この図書館全域に防御結界その他もろもろ張ったから出られないわよ?」
 「……どうしてそんな事するんですか?」
 大妖精はパチュリー達に背を向けたまま振り向かない。
 「実験の為よ、それと侵入者を捕まえる為の、ね」 
 「それじゃぁこの妖精さんが……!」
 「えぇ、侵入者さんよ。ねぇ大妖精?」
 「……ふぅ、いつから気づいてたんですか?」
 振り向いた大妖精は殺気を放った。
 「ヒッ!?」
 「私が本読む?って言ったところからよ、妖精は普通本なんか読まないわ、少なくともここの妖精達は読まないわね。この数百年で初めてよ、私が薦めて本を読んだ妖精は」
 「まさかそんな受け答えが罠なんて思いもしなかったわ、さすが本物の魔女ですね」
 「本物の魔女は私なんかよりもっとすごいわよ……、悪いけど侵入者ほっとく程薄情じゃないのよね、私」
 右手のフラスコを構える。
 「まぁどっちにしてもあなたを倒さないとここの結界取れないみたいですしね」
 大妖精も構えた。
 「小悪魔!」
 叫んでフラスコを投げるパチュリー。
 「了解ですっ!」
 そしてパチュリーの呼びかけに答え、小悪魔が投げられたフラスコを取ってブロック塀に中の液体をかける。
 「いったい何を……?」
 「このブロック塀、ただのブロック塀じゃないの」
 大妖精に背を向け呪文をブロック塀に唱え始める。
 「レアなマジックアイテムで名前をゴーレムの欠片と言うわ、どうやら魔理沙は気づかなかったみたいだけどね」
 ゴーレムの欠片の下に魔法陣が展開する。
 「あの汚い家から探すの大変でしたよ」
 小悪魔はしみじみと言った。
 「あなたも妖精なら知ってるんでしょ? ゴーレムのこと」
 ゴーレムの欠片は魔法陣の中にズブズブと入って行く、まるで底無し沼のようだ。
 「少しは。昔々、妖精だけの世界があった時代、外からの侵入者を世界に入れないためにいたという番妖ゴーレム、話でしか聞いてなかったから嬉しいです」
 「それはそれは、実験相手に不足は無いようでよかったわ! あはははははははは!」
 先ほどまでとは別人のように満面の笑みを浮かべており、目は狂気に満ちている。
 「こういうことか」
 つまりパチュリーはいつもはまともだが実験になると狂い始めるタイプということをあの妖精は言いたかったのだろうと大妖精は考えた。
 そして完全にゴーレムの欠片が沈んだ時、パチュリーは叫んだ。
 「我が前に姿を現せ! ゴーーレムッ!」
 初めは手だった、魔法陣から人二人分はありそうな手が出てきたのだ。次に頭、左手、体、左足と出て来て全身を現したゴーレムはとにかく大きかった、身長は十mあるんじゃないだろうか。
 「このゴーレムはあなたが言った番妖ゴーレムとは違うわ。このゴーレムは昔の魔法大戦で造られ、使用されたと言われているゴーレムよ。正式名称は魔力式改良型ゴーレム(対大型魔法兵器用)、まぁこれじゃぁ長いということでついた呼び名がキング・ゴーレム、王の名に相応しい力見せてあげる!」
 大妖精は目を輝かせ舌なめずりした。
 「そんな大物出してくれたんだし、こっちも見せてあげますよ。風流系最高の技、風流『七草連技』を」
 「さぁその妖精を倒しなさいキング・ゴーレム!」
 「グォォォォォォォォォォ!」
 キング・ゴーレムはパチュリーの命令に答えるように叫ぶと、大妖精に向かってその巨大な拳を降り下ろす。
 「さすがに流せないかな……」
 大妖精は後ろに飛んで拳を避けた。
 拳が地面に当たると、その場所が窪んで地が揺れる。
 思わず大妖精も転んでしまった。
 「馬鹿力ね」
 「お褒めの言葉ありがとう」
 パチュリーは余裕の表情で皮肉を言う。
 大妖精の殺気が増す! なんてことは無い、以前変わらぬ殺気の量だ。
 「さぁどんどん行くのよゴーレム!」
 「グォォォォォォ!」
 ゴーレムは一歩一歩大きく大妖精に近づいて行く。
 「風流『七草連技』(ななくされんぎ)、撫火(なでしこ)」
 大妖精は手を上に挙げると、前を撫でる仕種をする。すると撫でた場所からいきなり火球が出てきた。
 「いきなり火の玉が現れた!?」
 「何ですって!?」
 火球は出始めは遅かったものの前に進むに連れてスピードが上がり、大きくなっていく。
 「ゴーレムは力があるし体も堅い、だけどスピードが遅いから大体の攻撃は避けれ無い」
 大妖精の言った通りゴーレムは火球を避けることが出来ず、体にもろに当たり動きを止めた。
 風流『七草連技』、それは七つの異なる技の集まり。
 「次、行きますよ?」
 大妖精はゴーレムに向かって走り出す。
 「押し潰すのよゴーレム!」
 「グォォォォォォォ!」
 ゴーレムは手を開くと真下にいる大妖精目掛けて突き下ろす。
 「潰れなさい!」
 スピード、手の大きさからして避けることは出来ない。大妖精がどう対処するかと思えばその場に止まりあろうことか向かって来るゴーレムの手に逆に向かっていく。
 「風流『七草秋技』、風茨刃苅凪(ふじばかな)」
 大妖精は手を後ろに引くと一気に斜め下に突き出す、するとその手を追うように風が流れ込み、ゴーレムの手を削ぐ。
 「ゴガァァァァァァ!?」
 どうやらゴーレムにも感覚があるらしく、思わず手を上に挙げてしまっている。
 その隙に大妖精はゴーレムの足下へと向かう。
 「ハァァァァァァァ……」
 大妖精は走りながら右手に殺気を集め始めた。
 「やばいっ! 下がってゴーレム!」
 パチュリーは何かを感じたのだろう、ゴーレムを下がらせようとするが。
 「遅い」
 時すでに遅し、大妖精の右手に殺気が集まってしまったのだ。
 大妖精は一歩踏み込むと手刀でゴーレムの左足を斬る。
 とても綺麗に、その音は響いた。
 ゴーレムはあまりにも綺麗に斬られすぎて斬られたことに気づいて無い。
 「何でただの手刀でゴーレムの足を!」
 「ただの手刀じゃないからですよ」
 大妖精は自分の右手をパチュリーに向けて見せる。
 「黒くなってる!?」
 「風流『七草連技』刃技(はぎ)、手に気を集めることによって手は鋭利な刃物になり、手刀は本当の刀になる」
 その時ゴーレムが僅かに動いてしまい左足と体がずれ、バランスを崩して大妖精の方に倒れる。
 「これは嬉しい誤算だわ! このままゴーレムの下敷きになっちゃいなさい!」
 「それはどうかしら?」
 大妖精薄く笑い、そして体を捻る。
 「何をしたって無駄よ! さっきの手刀であろうと防げない!」
 「ハァァァァァァァァァァ……!」
 さっきよりもすごい勢いで右手に殺気を集める。
 殺気はどんどんどんどん集まってボール大の大きさになる。
 「昔、私の師匠はこれで鬼と喧嘩してたらしいわ」
 「な、まさか!?」
 「風流『七草連技』!」
 ゴーレムはスピードを増して大妖精に迫る。
 大妖精は距離を見計らうとその場で一回転。
 「鬼狂(ききょう)!」
 その勢いで落ちてくるゴーレムに右手を突き挙げる。
 大妖精の集めた殺気とゴーレムが激突した瞬間、ゴーレムはバラバラになって飛び散った。大妖精の勝利だ。
 「そうか、あれの弟子か……」
 パチュリーは運よく着地に成功していた。
 「知ってるんですかパチュリー様?」
 心配して小悪魔が駆け寄る。
 「あんたも知ってるでしょ? 風見 幽香よ」
 「うぇっ! 風見 幽香ですか!?」
 風見 幽香、彼女は幻想郷一の武闘派と言われている妖怪だ。今は落ち着きのあるように見えるが、昔はその姿を見たら殺されると言われるほどすごい危険人物で、闘い方は自己流の接近戦を得意としている。
 「そうよ、私の師匠は風見 幽香よ」
 「そう、まさかあの風見 幽香が弟子をとるなんてね」
 パチュリーは小さく笑い大妖精と向き合った。
 「あなたここに何しに来たの?」
「友達を、フランちゃんを助けに」
「フランですって? そう、あなたあの子の友達なの、フフフ」
 パチュリーはさらに嬉しそうに笑った。
 「でもまぁ悪いけど、やっぱりすんなり通すのは無理」
 パチュリーは手の平の上に火球を作って大妖精へ飛ぶ。
 「なら押し通るまで」
 大妖精もパチュリーに向かって飛んだ。
 「風流『七草連技』」
 「パチュリー様!?」
 「又会いましょう大妖精? 今度はキング・ゴーレムより強いの用意しといてあげる」
 「それは楽しみ」
 二人の距離が一mと迫った時、大妖精の人差し指がパチュリーの眉間を押して止める。
 「汚華(おばな)」
 二人はそのまま地上へ降り、パチュリーは動かず、大妖精はその横をスタスタと歩いていった。
 何が起きたのか小悪魔が考えていると、突然パチュリーは耳、鼻、目、口から血を噴き出して後ろに倒れた。
 「パ、パチュリー様っ!」
 「大丈夫、死にはしないわ、そのまま安静にしとけば直ぐ目を覚ますでしょ」
その言葉を残し大妖精は図書館を出た。
 パチュリーの顔は穏やかだった。

 始動

 紅魔館外
 「まったく、あのおサボり門番は何処に行ったのかしら?」 
 咲夜はさっきから美鈴を探しているのだが、何回館の中を探しても見つからないので外を探しに来たのだ。
 「ん?」
 咲夜が外を見ると地面を抉った跡があり、その先に見覚えのある者が仰向けで寝ていた。
 近寄ってみるとその人物の確実性が上がった。
 「ちょっと美鈴!」
 揺らして起こそうとするが中々起きない。
 溜め息をつくとナイフを美鈴の頭に突き刺す。
 「痛ーーーーっ!」
 美鈴は飛び起きた。
 「どうしたのよ、あんたが寝るなんて珍しい」
 「いや寝てた訳じゃ……あーーーっ!」
 ビクッと咲夜は驚く。
 「な、何よ、いきなり大声出したらびっくりするじゃない」
 「すすすすいません、でもそれどころじゃないです! 侵入者です!」
 「何ですって?」
 侵入者という言葉で咲夜の顔が変わる。
 そしてその侵入者に該当する人物が一人いるのに気づく。
 「もしかして大妖精かしら?」
 「そうです! 大妖精です! って、何で知ってるんですか?」
 「あんたが働いていいって言ったって言って今働いてるわよ」
 咲夜は舌打ちして紅魔館を見た。
 「でも何の目的で侵入なんか……」
 そこで考えるポーズをしていた美鈴が手を叩く。
 「思い出した! 友達に会いに、そう、フランドール様に会いに来たと言っていました!」
 咲夜の顔が蒼白になった。咲夜ははっきり言ってフランドールが苦手だった、何を言っても生返事、何をやっても無反応、それに加えて主であるレミリアに絶対にフランドールを外に出すなと言われている。
 「美鈴、何としてでも大妖精を捕まえてフランドール様との接触を阻むのよ!」
 「了解しました咲夜さん!」
 美鈴と咲夜は紅魔館に入った。


 扉を二回叩く音が寝室に響く。
 「何だい?」
 レミリア・スカーレットは淹れたての紅茶を飲みながら答えた。
 「お昼食をお持ちしました」
 聞かない声に驚きながらも新人メイドであろうと予測する。
 「いいよ入って」
 入るのを了承すると濃い緑色の髪をした妖精メイドが入って来た。
 「お昼食は何処に置けばよろしいでしょうか?」  
 「そこの机の上に置いといて」
 机を指差すと外を見る。
 「今日は天気がいいねぇ、嫌になっちゃうよ」
 「……お労しいかぎりです」
 妖精メイドは緊張しているのか口調が何だか堅い。
 主の魅せ所とばかりにレミリアは喋った。
 「緊張しなくてもいいよ? ここは皆が自由に働き行動することを許しているからね」
 「自由?」
 妖精が驚いた表情をしたのを見たレミリアは、妖精が自分の言葉に対して嬉がっているものと思い薄く笑った、瞬間窓に刃物を持った妖精メイドが切りかかって来るのが見えた。
 「くっ!?」
 前に転がりどうにかその一刀を避ける、だがソファーは見事なまでに真っ二つになった。
 「自由ねぇ」
 妖精メイドは何かに怒っているようで、殺気が溢れんばかりに出ている。
 今まで見たことの無い妖精に出会い、レミリアは何とも言えない喜びに包まれた。
 「どうしたんだいお嬢さん? この館のルールに不満でも?」
 「大アリね」
 妖精メイドは構え直して言う。
 「全ての者に自由? それは嘘よね、私の友達が自由じゃ無いもの」
 「友達?」
 レミリアはまず妖精メイドのことを思い浮かべたがそれは無い、次々に思い浮かべては消していき最後に残ったのはたった一人だけだった。
 フランドールだ。
 そこでふとフランドールが友達ができたと嬉しそうに話して来たのを思い出す。
 「たしかフランが言ってた……」
「そういえば名前をまだ言ってませんでしたね。大妖精といいます、以後お見知りおきを」
 スカートの裾を掴み、チョコンとお辞儀する。
 「ご丁寧にどうも、紅魔館の主、レミリア・スカーレットだ。よろしく」
 妹が嬉しそうに言っていた名前を思い出しテーブルの上のワインを掴む。
 「うちのフランに何か用かな?」
 「助けに来たわ、シスコンの姉が閉じ込めていると聞いて」
 レミリアはワインをコップに移すと一気飲みした。
 「ふむ、ここに来た用件は解った。だがフランの場所を教える気もないしみすみすフランを誘拐させる気も無い」
 いつのまにか紅魔館の周りに赤い霧が立ち込めて日を遮り、強制的に夜の帳が降りている。
 「悪いけど君……」
 その時夜の闇は完全に紅魔館を包み、レミリアの時間が来た。夜の王の時間が。
 「失せろ」
 レミリアからさっきまでの優しさが消えた。
 今のレミリアは夜に染まったのだ。
 「悪いけど、せっかくここまで来たんだから引けないわ」
 だが大妖精もさっきまで残っていた余裕のような物が消えていた。
 今の大妖精は本気だ、本気でレミリアを殺しにかかろうとしている。
 「ルーミアッ!」
 大妖精が呼ぶと、窓の外にルーミアが現れる。
 「そーなのかー」
 レミリアが後ろを振り向いた時、すでに周りは暗闇だった。
 「これが噂に聞く闇を操る能力か、でもこれじゃ誰も何も見えなくて意味無いんじゃないかな?」
 「ご心配なく」
 闇の何処かから大妖精は答えた。
 「それにだ、僕に刃物は意味無いよ?」 
 「やってみなくちゃわからない!」
 大妖精は闇の中膝を曲げて構えをとった。
 「……そこだ!」
 レミリアは殺気に気づき、爪で応戦する。が腕を斬られたのを感じ、瞬時にレミリアは後ろに下がるがさらに体が斬られていく。
 闇が解除された時、そこには数個に分割され、血溜まりの中に落ちたレミリアがいた。
 「どうかしら? 三日三晩研いだ包丁の味は」
 大妖精はカーテンで包丁の血を拭き、腰の入れ物に入れた。
 「ルーミア、後は好きにしちゃっていいわ。ありがとね」
 「了解なのだー」
 ルーミアを残し、フランの部屋を探すため寝室を出た。
 ルーミアは帰ろうかと思ったが、お腹が空いたのでレミリアを食べる事にした。
 「食べるのだー」
 ルーミアはレミリアを食べようと思った。だが血溜まりの中にレミリアの死体はすでに無かった。
 「っ!」
 急いで闇を展開し、脱出の準備をし始める。
 「いい判断だね、しかし」
 ルーミアはルーミア自身解っていなかったが震えていた。そして後ろを向いて窓へ逃げようとするが方向が変わった、前ではなく上へ向う。
 「夜の王をなめない方がいい、暗闇であろうと気配で位置は分かる」
 闇が解除された。そしてルーミアは理解した、今の自分の絶望的状況を。
 ルーミアはまるで狩りの時の槍で刺された小動物のようだった。レミリアの右手がルーミアの腹を貫通して天井に向いている。
 ルーミアが逃げようとした時、レミリアが後ろから突き上げたから方向が変わったのだ。
 「さて、大妖精を止めなきゃね」
 右手からルーミアを取るとお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
 「かわいい服を破ってしまったね、弁償は必ずするから」
 「そー…なの……か…」
 ルーミアは呟き気絶してしまった。
 レミリアが指を鳴らすと何時の間にか咲夜がいた。
 「お呼びでしょうか?」
 「彼女の看護にメイドを一人よこしてくれ、後解ってると思うけど侵入者見つけて。見つけたら大広間にお通ししてくれ」
 「了解しました」
 咲夜はすでに消えていた。
 レミリアはいつもの服に着替えると、メイドが来るのを確認して大広間に向かった。


 「大妖精ちょっといい?」
 後ろから呼ばれ、振り向くと咲夜がいた。
 「あなたに仕事を頼みたいの」
 「いいですよ咲夜さん、隠さなくても」
 大妖精は咲夜を見ただけでバレたのが解った、咲夜から殺気が出ているからだ。
 「ごめんなさい、嘘ついちゃって」
 「別にそんなこと気にしてないわ、お嬢様があなたを呼んでるの」
 咲夜は一応のためナイフを持っておく。
 大妖精は両手を上げて咲夜に近づく。
 「連れてって下さる?」
 「ではこちらへ」
 咲夜は大広間に向かって歩き出す、その後ろを大妖精がついていく。
 妖精メイド達は何事かとその様子を見ていた。
 「どうぞ」
 咲夜が開けた扉の先にはとても広い部屋が広がっていた。
 「ようこそ大妖精」
 大広間の奥の方に玉座のような物があり、そこにさっき殺したはずのレミリアが座っていた。その隣には咲夜がいつの間にかに立っている。
 「やっぱり死んで無かったのね」
 大妖精は薄く笑っている。
 「さっきのは素晴らしいね、包丁のおかげかな?」
 「さぁね、腕かもよ?」
 その時大妖精の後ろの扉が開き美鈴が入ってくる。
 「ハァ…ハァ…、ひどいじゃないですか咲夜さん! 何で置いて行くんですか!?」
 「お嬢様に呼ばれたの、しょうがないでしょ?」
 美鈴は大妖精を横目で睨み通り過ぎてレミリアのところへ向かう。
 「すいませんお嬢様、私のせいで侵入されてしまいました」
 美鈴はレミリアの前で頭を下げる。
 「それはしょうがないさ、大妖精は強いからね」
 「それでも止めなければいけませんでした」
 美鈴は悔しそうに拳を握った。
 「それじゃぁ挽回のチャンスをあげよう、咲夜と一緒に侵入者を撃退するんだ」
 「「了解しました」」
 咲夜と美鈴が同時に答え大妖精を見る。
 美鈴は先ほど戦った者とは同一人物とは思えない凛々しい顔をしている。
 咲夜は感情を抜いた冷酷な顔をしている。
 どうやら本気のようだ。
 「あぁそうだ、その前に」
 レミリアが飛び上がり右手に赤い槍のような物を創り出す。
 「神槍『スピア・ザ・グングニル』、さっきのお礼をしなくちゃ、ね!」
 レミリアは渾身の力を込めてグングニルを投げた、グングニルは大妖精目掛けて真っ直ぐ進んで行く。
 「パーティーの始まりね」
 大妖精の口は薄く開いていた。


 「ねぇリグル」
 「何チルノちゃん?」
 リグルとチルノは花畑で遊んでいた。
 「大ちゃんのとこに行かない?」
 「はぁ!?」
 あまりの突発的な発言にリグルは驚いた。
 「チルノちゃん解ってんの? 大ちゃんが向かってったの紅魔館だよ? あんなとこ行ったら私とチルノちゃんバラバラにされちゃうよ!」
 リグルは紅魔館に行ったことは無いが、その恐ろしさは嫌というほど聞いている。
 「リグル、あたい大ちゃんが本当は優しい子だって知ってるよ。いつも大ちゃんは怒ってるように見えて怒って無いんだ、でも今日は違った。怒ってることを私達に知られないように怒って無いように見せてた」
 「私だって解ってるよ!」
 顔を伏せ、拳を握りリグルは叫んだ。
 リグルはよく大妖精に殺されかけているが、リグルだってそれが大妖精なりのスキンシップだと解っている。だが今回ばかりは殺されかけるのではなく本気で殺される可能性があるのだ。
 その時紅魔館から轟音が聞こえてくる。
 「あたい行くよ、リグル」
 「どうして、どうして行く気になれるの? チルノちゃんは恐くないの?」
 「恐いよ? 妖精だからって痛くないわけじゃないし、でもね、それよりあたいは大切な人がいなくなってしまう方がずっと恐いよ」
 ハッとなって顔を上げると、そこには覚悟を決めたチルノの背中が見えた。
 「……私も行く、大ちゃんは友達だ」
 そしてリグルもまた覚悟を決めた。
 二人は目を合わせ頷くと、紅魔館に向かって飛んだ。


 「ふぅ……、パーティーの開始花火にしては盛大ね」
 さっきまで大妖精のいたところの後ろの壁、そして扉は無くなっていた。
 「そうかな? 僕はこれぐらいが好きだけど」
 玉座に降りてどっかり座る。
 「さぁ二人共いいよ、やりなさい」
 言い終わる前に美鈴が動いていた、今度は弾幕を出しながら大妖精に向かっている。
 「今度は気絶じゃすまないかもよ?」
 大妖精は構え、来るのを待つ。
 「私をお忘れで?」
 上からの声に反応すると数十本のナイフが降って来るのが見えた。
 「前もダメ上もダメときたら……後ろしかないわね」
 大妖精はレミリアのグングニルが当たり、ポッカリ穴の空いた場所から大広間を出た。
 美鈴の弾幕と咲夜のナイフがぶつかり相殺される。
 「追うんだ」
 レミリアの言葉に頷いて二人は大妖精を追った。
 「運命を変える事は大変なんだよ大妖精、君は運命に抗えるかな?」

 「チッ」
 大妖精は焦った、どうにか広い場所に出れないかと考える。 
 そんなことを思っているとたまたま応接間に出る事ができた。
 「咲夜さん援護お願いします」
 「いいわ」
 咲夜は大妖精目掛けてナイフを飛ばし、美鈴は真上からラッシュをくりだす。
 この状況、美鈴の拳を防いでも咲夜のナイフにやられ、ナイフを防げば美鈴のラッシュにやられる。絶望的状況だ。
 だがそれでも大妖精は何か良い案があるのか薄く笑い。
 「全てぶっ潰すわよ」
 両手に殺気を集めて構え、一歩下がってからラッシュを放つ。
 「風流『剛雪崩打』!」
 最初の数秒で前へ殺気を飛ばしまくってナイフをできるだけ落とし、十分落としたと判断すると今度は上へ向けてラッシュを放って美鈴とラッシュ比べになる。
 「ラッシュ比べなら負けない!」
 「くっ……」
 さすがの大妖精も互角の勝負になっている。そしてその大妖精に追い撃ちをかけるようにさっき打ち落とし損ねたナイフが数本刺さった。
 「やばっ!?」
 「そこだっ!」
 ナイフが刺さったことを気にしてしまったせいでラッシュが疎かになる。そこにすぐ気がついた美鈴は大妖精の手を払って腹を思いきり蹴り飛ばした。
 「ぅがっっ!」
 「さっきのお返しだっ!」
 大妖精はふっ飛ばされて壁にぶつかる。
 「バラバラになりなさい、傷魂『ソウルスカルプチュア』」
 咲夜は両手のナイフで目の前を切りまくり斬撃を発生させながら大妖精へ進んで行った。
 「負ける訳にはいかない!」
 腰の入れ物から包丁を出すと、片手で襲い来る斬撃を相殺するため幾重にも斬撃を繰り出す。
 「両手と片手じゃ勝負は見えてるわね!」
 「それはどうかしら?」
 咲夜の斬撃は確かに量は多い、だが範囲が広いために大妖精は小さい範囲に斬撃を放つことによって少ない力で相殺している。
 「でもそれじゃ勝つことは不可能よ?」
 いきなり咲夜は斬撃を止めて後ろに飛ぶ、するとタイミング良く咲夜の下を抜けて大妖精の懐に美鈴が入ってくる。
 「あなた一人じゃ私達には勝てない」
 大妖精は蹴りを入れようと思ったが美鈴の方が速い。
 壁にぶつかる衝突音がして大妖精は床に落ちた。
 「こっちは数百年武道やってんだ、あんたみたいなにわかに負ける訳にはいかない!」

 (……“にわか”?)

 大妖精の指が動いた。
 「終わりね、さようなら大妖精」
 咲夜は時を止めずに一本のナイフを大妖精の頭目掛けて投げる。

 (……にわかか、そうかもね。私は師匠みたいに殺る時は殺るなんて割り切れないもの、にわかって言われてもしょうがないかも)

 ナイフは何に邪魔されることなく大妖精の頭に向かう。

 (でも、でも少しだけ、少しだけ割り切ってもいいかもしれない、少しだけ思ってもいいかもしれない)

 咲夜と美鈴はレミリアのところに向かうことにした。終わったのだ。

(“殺したい”と)

 咲夜と美鈴は止まった。心配する必要などないのに、終わったのだ、全て終わらした、なのに何故か二人は止まった。
 いや、動けない。
 「本当に自分の甘さが嫌になるわ」
 まるで耳元で言われたように、二人にはハッキリ聞こえた。そして言葉が体中を駆け抜けるような錯覚を覚え鳥肌が立つ。
 恐ろしい、それが二人の心境だった。
 「いるはずが無いわ! 刺さったもの、刺さったもの!」
 咲夜は自分に言い聞かせるように言うと振り向いた。
 まず最初に見えたのは顔に汗がだらだら流れている美鈴、そしてその向こうにはナイフを中指と人差し指で挟んで立っている大妖精が見えてしまった。
 「師匠はよく言ってたわ、あなたはまだまだ甘すぎるって」
 何もない天井を見て話す。
 目が虚ろだ。
 「関係無いわ! 時を止めてしまえば関係など無い!」
 咲夜は腰の懐中時計に手をかけ開ける。
 「ようこそ、私の世界へ」
 咲夜以外の全てが止まった。美鈴の汗も、時計の針も、全ての時間が止まる。
 咲夜はだんだん落ち着いてきた。この世界に入ってしまえば咲夜は絶対的なのだ。
 「これで、絶対に、避けれ無い!」
 咲夜は大妖精を囲むようにナイフを設置した。
 「そして時は動き出す」
 懐中時計が閉じられると同時にナイフも、汗も、針も動き出す。
 「チェックメイトよ!」
 大妖精に数十のナイフが向かって行く。
 「模倣」
 挟んでいたナイフを左手に持ち、包丁を右手に持って呟く。
 「傷魂『ソウルスカルプチュア』」
 「あれは!」
 両手で向かってくるナイフを次々と打ち落としていった。
 「あれは咲夜さんの技じゃないですか!」
 やっとの思いで振り返った美鈴が叫んだ。
 設置したナイフは突破され、残ったナイフは壁に刺さったりナイフ同士がぶつかって落ちた。
 「スペルカードではないけど威力はスペルカード並だわ」
 咲夜はほぼ放心状態になった。一度見た技を大妖精はやったのだ、しかも咲夜自身の技を。
 大妖精は動きを止めるとナイフと包丁を咲夜に向けて投げる。
 「咲夜さん!」
 「えっ?」
 美鈴の声で放心状態から戻った瞬間、何かに後ろに引っ張られて壁にぶつかる。
 見ると服の両肩にナイフと包丁が突き刺さり壁に固定されていた。
 「しまった!」
 この状況では大妖精にどうぞ殺ってくださいと言ってるも同じだ。
 「やらせない!」
 美鈴が咲夜を守るため大妖精に突っ込む。
 「風流奥義『四季・」
 美鈴は渾身の力を右手に込めて大妖精に突き出す。
 「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」
 「春(霞円花)」
 その拳は軽く流された。だがそんな事を予測出来ない美鈴ではない、流された時には蹴り始めていた、が。
 「夏(夏陽炎)」
 大妖精に殺気の塊をぶつけられて動きが止まる。
 「んなっ!」
 「秋(七草連技)・刃技・汚華・崩」
 殺気を集めた手で美鈴の腹を切る、続けて顔と体の点穴を突く事により顔の穴から血が出て体が鈍くなる。
 「体がっ!」
 「撫火・圧水回矢・風茨刃苅凪」
 目の前を撫でることにより火球が発生し、美鈴に当たって爆発する。
 「ぐゅぼっ!」
 さっき美鈴が噴き出した血を右手に集めていたらしく、大妖精の右手には小さな血の池ができている。
 「……」
 無言でそれを見ていると、いきなりその水が回り出す。大妖精はそれを確認すると右手の血を美鈴目掛けて飛ばした、すると飛んでいった血は矢の形となって美鈴の腹部に刺さり壁に固定した。
 「美鈴逃げなさい!」
 咲夜はどうにかしてナイフを取ろうと試みるが全然取れない。
 大妖精は走り出して美鈴の所へ向かい、途中で右手を後ろに引く。
 「かはっ」
 ダメージが大きいのか血を吐く、前を見ると大妖精が追ってきていた。どうにか逃げ出そうと身体を動かすが固定されてしまっていて逃げられない。
 大妖精は美鈴の前で止まると一気に左手を斜め下に突き出す、するとその手を追うように風が発生して美鈴の体を削る。
 「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」
 美鈴の体はズタズタになって血の矢が消えた、前に倒れるが。
 「鬼狂」
 大量の殺気を集めた右ストレートが美鈴の水月にクリティカルヒットして後ろの壁にぶつかりクレーターができる。
 これで終わりかと思ったが、終わりでは無かった。
 「冬(豪雪崩打)』」
 両手に殺気を込めてラッシュしまくる。
 美鈴は壁に押しつけられた状況で何度も何度も殴られた。
 「……ハァ…ハァ…」
 殴り終わった大妖精は疲れていた、風流奥義を使ったためだ。
 (体が……動かない、こんなベタなことが実際あるもんなのね)
 美鈴がゆっくりと壁を伝って落ちる。
 (私一人の力なんてこんなものなのか、にわかと言われて当然だ)
 「美鈴良くやってくれたわ、あなたの敵は私が討つ!」
 突き刺さっていたナイフをどうにか取り、咲夜が大妖精を見下す。
 「その様子だと動けないみたいね、だけどもう油断はしない」
 咲夜の周りに大量のナイフが現れる、切っ先はもちろん大妖精に向かって。
 「終わりね、やっと」
 (私の敗因は、この二人のように仲間がいなかったことなんだろうか? まぁ私を助けに来る仲間などいないんだからしょうがない)
 咲夜は全神経を大妖精を殺すということに注いだ。
 だから気づけなかったのかもしれない、外から聞こえる声と天井を壊そうとしている音に。
 「リグルいけそう?」
 「うん、行くよ!」
 (チルノちゃんと虫けらの声が聞こえる、死に際のフラッシュバックってやつだろうか)
 「リグル……」
 「チェックメイトよ」
 咲夜の周りに浮かぶナイフが一気に放たれる、と同時に天井が崩れる。
 「キーーーック!」
 「「なっ!」」
 ナイフは崩れた天井に刺さり、大妖精はゆっくり天井を崩した者を見る。
 「虫けら……虫らしく地味に登場したら?」
 「皮肉が言えるなら大丈夫みたいだね」
 リグルは嬉しそうに笑うと咲夜を睨む。
 「悪いが私が相手だ!」
 「クッ、リグルだったっけ? 私にとってあなたはただの虫けらにすぎない!」
 そう言って咲夜は次々にナイフを投げていく、だがリグルはそれを軽々とかわした。
 「何!?」
 「蟲のスピード舐めるなよ?」
 リグルのスピードに疲れきった咲夜は追いつけない。
 「ならば!」
 咲夜が懐中時計に手をかける。
 「リグル! そいつは時を止める!」
 大妖精が必死に叫ぶ。
 「もう遅い!」
 懐中時計が開かれ時が止まった。
 「大妖精は後でも殺せる、今はリグルのみ殺すことに集中する!」
 リグルの周りを囲むようにナイフが設定される。
 「死ねーーっ!」
 時が動き出し、ナイフが刺さる音がした。
 「何…だと…?」
 「残念だったね」
 ナイフはたしかに刺さった。だがリグルではない、リグルを囲む何かに刺さったのだ。
 「氷符『アイスキューブ』」
 「チルノちゃん!?」
 壊れた天井からチルノが入ってくる。
 「大丈夫大ちゃん?」
 チルノは大妖精の元へ行くと手を握った。
 「力の使いすぎだよ大ちゃん! オーバーフロートしてる!」
 「オーバーヒートだよチルノちゃん……」
 大妖精の顔が和らぐ、チルノのおかげで体が冷めているのだ。
 「小賢しい真似を!」
 咲夜はリグルをほっとくことにしてチルノと大妖精へと向かう。
 「させない! 氷符『アイシクルフォール・eary』!」
 チルノの氷の弾幕が咲夜の両側を通りすぎて行く。
 「アハハハ! あんた本当に馬鹿なのね! その攻撃は真ん中に入れば当たらない!」
 咲夜はスピードを上げてチルノに突っ込む。
 「当てる気なんて元より無いわ、あたいバカだけどそれぐらい知ってる、それに……」
 咲夜がチルノの言葉に疑問を感じた時、背中に痛みが走って咲夜は床に叩きつけられた。
 「ぐがっ!?」
 「言っただろ、蟲のスピード舐めるなって」
 咲夜のいた場所にはリグルがいる。
 「ナイスキック!」
 「チルノちゃんこそナイスアシスト!」
 「……死ね」
 リグルの背中に寒気が駆け抜けた。
 「ひぃっ! 怒んないでよ大ちゃん!」
 リグルは必死に訴える。
 「まぁいいわ、ありがとチルノちゃん、もう大丈夫よ」
 大妖精はチルノに顔を近づけると頬にキスをした。
 「も、もう大ちゃんたら、あたい溶けちゃうよ~!」
 チルノは顔を赤らめて顔を手で隠す。
 「こ、こんな時に何やってんだよ!」
 リグルも顔を赤らめながら怒鳴った。
 「虫けら、私が囮になってあげるからあんたがあいつ倒しなさい」
 咲夜の方を見ながら言う。
 「……解った」
 リグルは何か、大妖精の思いのようなものを理解し覚悟する。
 「くっ…そ……」
 咲夜は立ち上がり、三人を見た。
 「次で終わりにするわ」
 「上…等…!」
 先に動いたのは大妖精だった。咲夜のナイフを持ち、大きく振りかぶって咲夜に向かって飛ぶ。
 「あんたを斬る!」
 「飛んで火に入る夏の虫ね!」
 咲夜は懐中時計を開いて時を止めた。
 「氷の壁があろうとこれなら貫く!」
 咲夜はナイフを回転させながら何十本ものナイフを投げる。
 「消えなさい、妖精」
 親指を立てて首を切る真似をした。
 時が動き出し、ナイフが回転しながら大妖精へと向かう。
 「考えたわね咲夜さん、でもね」
 大妖精の前に氷の壁などなかった。チルノは氷の壁など作っておらず、変わりに大妖精の持っているナイフを氷でコーティングし、氷の大剣を造っていた。
 「私に防御なんて考え無いわ!」
 氷の大剣を天高く振り上げ、一気に降り下ろす。
 「氷斬『タイタニックブレイク』!」
 数十本のナイフが一本の氷の大剣に打ち落とされた。                               
 「チッ、だがまだチャンスは……」
 「飛んで火に入る夏の虫、なるほど、その通りだ」
 咲夜は全身を虫に這われたような感覚に襲われた。下を見ると足が見えた。
 「リグルキック」
 リグルは下から咲夜の腹目掛けて蹴りを入れる。
 咲夜の体は上へとふっ飛ぶがまだ意識がある。
 「まだ、まだ終わらな……」
 「いいや、終わりだよ」
 いつの間にかリグルが咲夜より上にいた。
 「ツヴァイ!」
 今度は咲夜の背中を蹴って地面に突き落とす。
 「レミリア…様……」
 薄れゆく意識の中、咲夜は自分の主人の名前を呼んだ、わずかな希望を思って。
 「チャンスなんて僅かなものさ、そう何回もあるもんじゃない」
 「あんたにしては頑張ったじゃない、リグル」
 「まぁ…えっ!?」
 リグルは驚愕して大妖精に迫った。
 「いいい今何て言った?」
 大妖精はキョトンとしている。
 「あんたにしては頑張ったじゃない」
 棒読み気味に言いながら首を回す。
 「その後その後!」
 「はぁ? リグル」
 手首足首を回しながら言う。
 「それそれ! うわっ、何だか涙出そう、マジ嬉しい!」
 リグルは一人名前を呼ばれたことに歓喜していた。
 「まぁいいわ、これはお礼よ」
 大妖精はこちらに背を向け大喜びしているリグルの頭を掴んでこちらに向ける、グキッという音がしたが気にしない。そしてリグルの頬にキスをする。
 「なななななな何をっ!?」
 今にも流れそうだった涙が引っ込む。
 「だからお礼だって言ったじゃない」
 「いや、まぁ、そう…だけど……」
 さっきの大喜びは何だったのか、今度はボショボショと独り言を言い始めた。
 「忙しいのねあんた」
 冷めた目でリグルを見てから空いた天井を見上げ。
 「あんたも大変ね、弱い部下を持って」
 リグルとチルノがハッとなって上を見上げる、するとそこにはレミリアがいた。
 「まぁね、にしてもやるね。大妖精」
 「あれがレミリア・スカーレット……」
 リグルの呟く声は震えている。
 「リグルとチルノちゃんはここにいて」
 そう言い残して大妖精は飛翔した。
 「さて大妖精、君の師は誰だい?」
 「風見流接近戦闘術創設者、風見 幽香」
 「やはりあの人か……」
 「知ってるの? あの人を」
 大妖精は意外そうな顔をしている。
 「そりゃね。幻想郷の妖怪の中で接近戦で勝るものなし、というかあの人を越せる奴なんていないと思うけどね」
 何だか嫌そうに言っている。
 「昔一度だけ闘ったことがあってね。僕はいつも吸血鬼って弱点多いし何だか面倒~みたいなことを思ってるんだけど、あの人と闘った時は違ったね。吸血鬼で良かったなんて初めて思ったよ」
 大妖精は何となくその状況を想像できた。
 「あの人あんたに本気で闘いにいったんでしょ」
 「できれば思い出したくないんだけどね、思わず僕逃げちゃったよ」
 「まぁそれが普通の反応ね」
 大妖精も何かを思い出したのか嫌そうに言う。
 「まぁ昔話はこれくらいにして、そろそろ始めようか、改めまして自己紹介さしてもらうよ。紅魔館主レミリア・スカーレット、よろしく大妖精」
 「いいわ、私もちゃんとした名前を言ってあげる、風見 幽香唯一の弟子、風見 大香よ、命名者は師匠だから」
 二人共構える。
 「さぁ殺ろうか、大香」
 「本気で行くわよ、レミリア」
 赤い月の下、闘いは始まった。

終局

 「いい桜ね~」
 人里を少し離れた所に人気の無い神社がある。その代わり妖怪の出入りは多いハチャメチャな神社だ、その名を博霊神社と言う。
 「それに良い満月だぜ」
 その博霊神社の前に敷物を敷いて座る二人がいる。一人は誰が見ても魔女だと言いそうな黒白の服を着ている、もう一人は紅白の服を着ている。
 「そういえば魔理沙、あんたレミリアと闘ったんだって?」
 紅白の服はお茶を飲んでから黒白、魔理沙に聴く。
 「まぁな、一応勝ったがスペルカードルールだし」
 「スペルカードルールねぇ……あの子にもそれやらせようかしら」
 紅白の服が独り言を言っていると、神社の裏から紅白の巫女服を来た少女が料理を持ってくる。
 「お前ら何で手伝わねぇんだよ! あたしばっか働かせやがって……」
 「悪いとは思ってるんだぜ? 霊夢」
 魔理沙は酒ビンから直接飲んで謝る。どう見ても悪いと思ってるように思えない。
 「ごめんね霊夢、次は手伝うわ」
「あぁ頼…待った! お前絶対皿割るなよ! お前の軽く握るは岩を砕くって忘れんなよ!?」
 霊夢は必死に訴える。
 「私を何処ぞの鬼と一緒にしないでよ!」
 紅白の服は頬を膨らませて抗議した。
 「その何処ぞの鬼と喧嘩した化け物は何処のどいつだよ」
 魔理沙はボソッと独り言を呟きまた酒を飲んだ。
 「何か言った? 魔理沙」
 紅白の服は近くに置いた傘を持って立ち上がる。
 「ななな何でもないんだぜ幽香!」
 魔理沙は必死に手と首を振って否定した。
 「ならいいけどね」
 ニッコリ笑ってまた座り、傘を置く。
 魔理沙はホッと一息ついた。
 「そういえばお前、何でここで桜見てんだ? いつも違う場所で一人ひっそりやってなかったっけ」
 霊夢は料理を置いて敷物に座る。
 「あそこの近くの桜ってここしか無いのよ」
 幽香は遠くに見える館を指差した。
 「紅魔館? お前何か用あんのか」
 「いいえ、私じゃないわ、弟子がね…」
 「「お前に弟子!?」」
 霊夢と魔理沙は驚いて幽香を見る。
 「あれ、知らなかったっけ?」
 「初めて聞いたっつーの」
 「お前の弟子ねぇ…誰なんだ?」
 魔理沙から聞きたいオーラが出ている。
 「あなた逹も知ってると思うけど、大妖精よ」
 「大妖精っていつもチルノといる?」
 「そうそう」
 「でも何で妖精なんだ? 妖怪なら妖怪を弟子にするもんじゃないのか?」
 魔理沙は料理を食べながら聴いた。
 「別に決まってないわよ、それにあそこまで優しい子は人間にも妖怪にもいなかったわ」
 微笑んで紅魔館の方を見る、その顔は師匠と言うより母親に近い気がする。
 「それは扱い易いってことか?」
 「違うわよ! 優しいからこそ殺意を抱いた時の恐ろしさはすごいのよ」
 「ふぅん、そんで今大妖精の強さはどれくらいなんだ?」
 霊夢は入れたてのお茶を飲んで聴く。
 「そうねぇ、たしかなことは言えないけど私の百分の一ぐらいかしら」
 「あんたじゃ強すぎて解んないわよ、もうちょっと具体的な例ないの?」
 「そうねぇ~、まぁレミリアよりちょっと弱いぐらいじゃないかしら?」
 魔理沙と霊夢がそれぞれお茶と酒を吹いた。
 「キャッ! もう何やってんのよ二人とも~」
 幽香が二人と少し距離を置く。
 「ゲホゲホッ、ちょ、ちょっと待て、大妖精を弟子にしたのはいつだ?」
 「大体二ヶ月前ぐらいかしら」
 幽香はケロッと言った。
 二人の顔は青ざめていく。
 「これは大妖精に才能があるってことか?」
 「それとも幽香が地獄の特訓をしているのか、どっちか解らないぜ」
 「どっちもよ」
 又も幽香はケロッと言う。
 「能力無し、スペルカード無し、弾幕も下の中、一見するとただの雑魚まとめ役、だけどあの子も知らない才能があった」
 「近接戦闘のか?」
 「いいえ、違うわ」
 「じゃぁ何?」
 魔理沙と霊夢は答えを聴きたくてうずうずしている。
 「あの子滅茶苦茶器用なのよ」
 幽香は真面目な顔で言った。
 「「は?」」
 二人は思わずハモって聞き直す。
 「だからめちゃくちゃ器用なの」
 「器用なのは分かったが、それが何で強くなった理由なのか解らん」
 「そうそう、そういうこと」
 「ようはね、めちゃくちゃ器用だから真似するのが上手なの、だから私の技を覚えるのに半月かからなかったわ」
 呆れたように溜め息をつく。
 「何となく弟子にしたらいつの間にか本気で弟子にしてたわよ」
 「ふぅん、そんなもんかね……ッ!」
 突然だった、突然三人は立ち上がって紅魔館の方を見た。
 「何これ、霊力じゃ無い」
 「魔力でも無いぜ」
 「妖力でもないわ、これは……殺気ね」
 幽香は嬉しそうに紅魔館の上の方を見る、そこには夜の空より黒い何かがいるのが見えた。
 「これはレミリアが出してるの?」
 「いいえ、これは大妖精の物だわ、暴走してるけどね」
 幽香は傘を広げると紅魔館に向かってフワフワ飛んでいく。
 「何処行くの?」
 「近くで見てくるわ、あなた逹もどう?」
 二人は顔を会わせ、首を横に振る。
 「ゆっくりしてるわ」
 「まだ命を捨てたくないんでな、料理食いながら観戦してるぜ」
 「あらそう、じゃね」
 幽香はヒラヒラと手を振って飛んでいった。
 「あいつあたし逹が人間だって分かってんのか?」
 「忘れてるだろ」
 二人は肩を竦めると花見を再開した。


 時間は少し戻る。
 「さぁ殺ろうか、大香」
 「本気で行くわよ、レミリア」
 (さっきの感じ、あれが師匠の言ってた殺意の境地ってやつか、昔の師匠あんなのをほぼ毎日使ってたなんて信じられない……でもさっきのじゃたぶんまだレミリアには劣る。幸いレミリアは吸血鬼、本気で殺しに掛かれるわね)
 「……」
 大妖精は殺気を一旦収め、精神を集中させる為目を閉じた。
 「……」
 レミリアは動かない。
 (私は絶対にフランを助ける。何が何でも助けて皆で遊ぶんだ! だから私は……力を求める!)
 静寂を破ったのは大妖精だった。
 「あんたを、殺す」
 目を開けてそう言い放つ大妖精は正気に見えない。
 レミリアは薄く笑う。
 「力に溺れたか、まぁそれも一つの選択肢」
 大妖精は全身が殺気に包まれ真っ黒になり、体からうねうねと殺気が何本も出ている。
 (殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!)
 目は爛々と赤く輝き、羽は悪魔の様な形になっている。
 「あれが、大……ちゃん?」
 リグルは友の変わり果てた姿を見て驚いた。いつもの大妖精の出している殺気というのは何となく見える程度だったのが、今ははっきりとその殺気が見え、その強大さも解る。
 「がんばれ大ちゃ~ん!」
 不意にチルノが叫んだ。
 「チルノちゃん恐く……」
 応援しているチルノを見ると、汗をダラダラかいて身体が震えていた。
 「恐い訳無いよ、だってあたい最強だもん! それに大ちゃんは友達だしね」
 引き攣った笑顔をリグルに見せ、又大妖精を応援し始める。
 「そうだね、友達だもんね」
 リグルもチルノと一緒に応援し始めた。

 「早めに決着を着けなきゃね」
 レミリアは手に力を込める。
 「神槍」
 「模倣、神槍」
 大妖精も手に力を込める、二人はほぼ同時に大きな槍を作り出した。
 「「『スピア・ザ・グングニル』!」」
 そしてそれは同時に投げられぶつかり、爆発を起こす。
 「威力はほぼ同じか……」
 「殺す!」
 大妖精は煙の中を突っ切りレミリアに迫る。
 だが待ってましたと言わんばかりにレミリアは笑った。
 「来たね! 紅符『不夜城レッド』!」
 レミリアは両手を開いて十字架を模したポーズをとる、するとそこを起点に赤い魔力が噴出し、大きな十字架を作り出す。
 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 大妖精は右手に力を集め、不夜城レッドに立ち向かう。
 「やばいチルノちゃん! ここにいたら巻き込まれる!」
 「でも大ちゃんが……」
 その時、二人は何かに掴まれて紅魔館の外に移動させられていた。
 「へ? 何が……」
 「応援するのはいいけど、あそこにいたら死ぬわよ?」
 上を見ると、そこには見たことのない妖怪が自分達を小脇に抱えている。何か誰かに雰囲気似てるなとリグルは感じた。
 「大ちゃんのお師匠さん!」
 「あら、やけに冷たいと思ったらあんただったのね」
 どうやら二人は知り合いらしい。
 そこでリグルはチルノの〝お師匠さん〟という言葉に疑問を持った。
 「えっとチルノちゃん、この人は……?」
 「リグル会うの初めてだっけ? この人大ちゃんのお師匠さんの幽香」
 「歳上にはさん付けろって言ってるでしょうが。あんたがリグルね、大香からよく聞いてるわよ」
 リグルはなんとなく大妖精と幽香が似ていると思った。
 「大香って大ちゃんのこと?」
 「そうよ、聞いてない? あの子意外と恥ずかしがり屋だからね~」
 紅魔館から少し離れた場所で止まると二人を放す。
 「あんたらで最後、他の奴らはもう外に出したし、これでもう大丈夫ね」
 肩を揉んで腕を回す。
 「まぁいいわ、三人で見ましょ? 大香の勝負を」
 幽香の目は本当に楽しんでいる目だった。
 戦いに目を戻すと大妖精が弾かれているところだ。
 「まだ使いこなせて無いわね」
 幽香が呟く。
 「大ちゃんは一体どうしちゃったんですか?」
 リグルが心配そうに聴いた。
 「今あの子は殺意の境地に入ってるわ」
 「「殺意の境地?」」
 リグルとチルノが聞き返す。
 「殺意の境地ってのはね、ようは相手を本当に殺したいとか思うことによって感情を強制的に落ち着かせると同時に殺意を増幅させる技なのよ。問題は使い馴れてないと体力と精神力を大きく削られるってことかしら。そして大香は今さっきちょっと使って力の増幅を体感して、今それより大きな力をほしいと考えて暴走してるわ」
 二人の顔が青ざめた。
 「このままじゃ大ちゃんどうなるんですか?」
 「自爆するわね」
 「そんな!」
 チルノが泣きそうになる。
 「私達にできることはあの子を信じることよ、ちゃんと戻ってくるってね」
 「信じようチルノちゃん、大ちゃんが戻ってこないはずがないよ」
 「そうだね、あたい信じる!」
 チルノは涙をふいて大妖精の方を見た。
 (殺す! 何がなんでも殺す! 絶対殺す!)
 「がぁぁぁぁぁ!」
 大妖精はがむしゃらにレミリアへ攻撃するが、レミリアのスピードは早くまったく当たらない。
 「アハハハハ! どうした大香? 殺すんじゃなかったのかい?」
 大妖精は殺気に完全支配されてしまったのだろうか? 否、そんなことは無い。
 「がぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぁ、あぁぁぁ!」
 大妖精は突然止まり苦しみ始める。
 (……私としたことが馬鹿やったわね、まさか精神乗っ取られるとは)

 そこは暗かった、いや真っ黒で何もない、何も見えない。
 闇が支配するところ、そこに一つの白がいる。大妖精だ。
 「ここが私の心の中……黒すぎない?」
 そんなことを言っていると、前の方に周りの黒よりは明るい黒の大妖精が現れる。
 「私にこのまま任せなよ? 私ならちゃ~んと殺してあげる、跡形もなくバラッバラにね!」
 どうやらこれは殺意が具現化したものらしい。
 「はぁ…どうしてあの人こういうことちゃんと言ってくれないんだろ」
 溜め息をついて自分を睨む。
 「悪いけど任せられないわね、あなたの闘い方は乱暴すぎる」
 「ふぅ~ん、まぁいいわ。私があんたを倒して本物になってやる!」
 黒大妖精は瞬時に白大妖精の前に移動して腹に一発入れる。
 「ぐっ!」
 白大妖精は上に吹っ飛ぶが何も無いので吹っ飛び続ける。
 「アハハハハ! どうしたの~? こんなんで私を拒否するの? 私の方が強いのに?」
 「チッ、やるじゃない」
 両手両足を広げてスピードを緩和し、黒大妖精に向かって飛ぶ。
 黒大妖精はゲラゲラと下品に笑いながら右手を握る。
 「まさか」
 「そのまさか!」
 黒大妖精の手には殺気が集まり、固まる。鬼狂だ。
 舌打ちして白大妖精も鬼狂を使う。
 「ハッ!」
 「アッハ!」
 二人は同時に鬼狂を放ち、衝撃と共に止まる。
 「同じ…力」
 「そうかしら?」
 黒大妖精が薄く笑った時、彼女の鬼狂が少しばかり大きくなった。
 「これは…!」
 徐々に白大妖精の腕は後ろに引いていく。そして黒大妖精が腕を振り切り白大妖精をまた吹っ飛ばした。
 「残念、私の方が上でした! アヒャハハハ!」
 (同じ姿同じ声、なのに向こうの方が殺意が上)
 黒大妖精との距離が離れながら白大妖精は驚きを隠せなかった。
 「お次は……」
 腕を上げ、前を擦るように振り下ろす。撫火だ。
 「これよ!」
 擦れた空間から黒炎が姿を現し白大妖精へと飛んでいく。黒炎は白大妖精との距離を詰めれば詰めるほど大きさと速さを増して迫る。
 (でも負ける訳にはいかない、さっさと勝って帰らなきゃ)
 無言で右手を掲げ殺気を集める。
 「ハッ!」
 刃技にて撫子を斬り裂き回避するが裂かれた炎の先に黒大妖精の姿は見えない。目を動かし探すがそれらしき姿は見えない。
 「ざ~んねん」
 耳元で囁かれ裏拳をかますが空を切る。そして逆に顔面へ蹴りを貰い転倒した。
 「集中力足りて無いんじゃな~い? 今は私との殺し合いに集中した方がいいと思うけどね~。アヒャハハ!」
 (……う~ん、強い。何でこの子こんなに早く動けるんだろ、早すぎるんだよね)
 「よっと」
 白大妖精はネックスプリングして立ち上がると構えもせずに黒大妖精を見つめる。
 「? 何?」
 しばし無言だったが。
 「あなた、ズルしてるでしょ?」
 「は!? し、してないし」
 突然の発言に黒大妖精は動揺した。
 白大妖精は黒大妖精の目を見つめ続ける。
 黒大妖精は最初しっかりと目を見ていたが、徐々に目を反らしはじめた。
 「私の理解してないことをあなたは理解してるみたいね、それってもしかして……」
 悪戯な笑みを浮かべた瞬間、黒大妖精の目の前から白大妖精の姿が消える。
 「なっ!?」
 「やっぱりね」
 いつのまにか白大妖精は黒大妖精の真後ろに移動していた。
 「よくよく考えれば精神世界だもんね、そりゃ現実じゃできない動きも出来るわよ」
 白大妖精は最高に楽しそうに笑っている、白より混沌の方が合っていそうだ。
 「だだだだからって何ができるって言うのよ!」
 黒大妖精は右フックを白大妖精におみまいするべく放つ、だがその拳は白大妖精の手で止められる。
 「こんな事ができるわ」
 白大妖精はその拳を握り潰した。血が出ることは無く、まるで元から何も無かったかのように消えた。
 「んなっ!?」
 「ねぇ、もうやめにしない? そろそろ私レミリアと闘いたい、フランを助けたいの」
 大妖精の目は敵と戦う者のする目では無い。子供と話す時のような優しい目をしていた。
 「……」
 「私一人の力じゃレミリアに遠く及ばない、だからお願い、あなたの力を貸して?」
 白大妖精は両手を広げ笑顔を見せた。
 「……アヒャ、アヒャハハハ! それ本気で言ってるの?」
 「本気も本気」
 邪悪な顔をする黒大妖精に対し、白大妖精は変わらない笑顔で答える。
 「アヒャハ……はぁ、本気なんだ」
 さっきまでとは別人のようなテンションになった黒大妖精はゆっくり白大妖精に近付いていく。
 「もうちょっと遊んでいたかったんだけどなぁ~」
 「いつでも遊べるじゃない、私達は同じなんだから」
 「まぁね……殺意の初歩はお分かりになって?」
 黒大妖精は白大妖精に抱きつく。
 「さっき言ったじゃない、私達は同じ、でしょ?」
 「ふふふ、初級は合格ってところね。まだまだ先は長いよ?」
 話す黒大妖精は白大妖精に少しづつ溶け込み始める。
 「上等よ、乗り越えてみせる。師匠も、レミリアも」
 「いつになるのやら。まぁ頑張ってね、私」
 黒大妖精は完全に白大妖精へと溶け込み、暗黒の中一人灰色の大妖精が立っている。
 「解ってるわよ、私。……さてと、そろそろ出なきゃね」
 何処が上だか分からないが、大妖精は上を向く。
 「今行くわよレミリア」
 大妖精は覚醒した。

 苦しんでいた大妖精は今はもう苦しんでおらず、さっきとは逆に静かである、いや静かすぎる。
 「大ちゃん……」
 チルノは必死に両手を胸の前で組み、念じていた。
 「もう終わりにしよう」
 ずっと待っていたレミリアはあきらめ、手に力を集める。
 「神槍『スピア・ザ・グングニル』、さよなら大妖精」
 レミリアは顔には出していなかったが悲しかった、やっといいライバルを見つけたと思ったのだ。
 レミリアの手からグングニルが放たれて大妖精に向かう。
 「大ちゃん!」
 チルノの悲鳴のような叫びが響く。そして重なるように異音が響いた。
 「……ほぅ」
 さすがのレミリアも驚いた、自分のスペルカードの中でも上の方にあるグングニルが片手で折られたのだから。
 「パーティー終了の時間にしては早すぎじゃないかしら?」
 もう暴走などしていない、殺気に包まれながらも殺気に支配などされておらず、逆に支配している大妖精がそこにいる。
 「大ちゃん!」
 チルノが感激して涙を流し。
 「心配させないでよ!」
 リグルも泣きながら笑っている。
 「遅かったね大香」
 レミリアは満足げに話す。
 「ちょっと手こずっちゃってね、もう大丈夫よ」
 何も変わっていない、いつもの大妖精と同じに見える。
 「大香、殺意って何?」
 突拍子もなく幽香が大妖精に質問した。
 「あら師匠いたの、殺意は私よ」
 ケロッと大妖精は答える。
 「あらそう、なら合格ね」
 軽く笑い手を振った。
 「頑張ってね」
 「はいはい」
 少し顔を赤らめて流した大妖精だった。
 「それじゃ行くわよ」
 「いつでもど……」
 すでに大妖精は消えている。
 「どうしたの?」
  大妖精はいつの間にかにレミリアの側面にいた。
 「やるね大妖精、でもこれは避けられるかな?」
 レミリアは全方位に大量の弾幕を展開させる。
 「避けるのは難しいわね」
 そう言いながら手首をくっつけ手を開く。
 「流せはできそうだけど」
 そして二つの手を同時に右へ回して円を描く。
 「何でなんだ……」
 レミリアは驚いた。
 弾幕はまるで大妖精を避けるように通りすぎて行くのだ。
 「真風流」
 「『霞回花』」
 幽香は歌うようにその技名を言った。
 「まさかまだ覚えているとはね、いえ、それとも無意識のうちに出したのかしら?」
 「弾幕がダメなら……しょうがないか」
 「風流『七草連技』」
 大妖精は右腕に殺気を集め始める。
 「神槍」
 レミリアも手に力を集め始める。
 「刃技」
 大妖精はレミリアを真っ二つにするべく平行切りで切りに行く。
 「『スピア・ザ・グングニル』」
 だがそれを発動させたグングニルで防御し、弾き返す。
 「グングニルは投げるだけが使い道じゃない」
 そう言い大妖精目掛けて突いてくる、だが大妖精はそれを軽くかわした。
 楽そうに視えるが次の突きが来る、それを避けても又突きが向かってくる。しかもそのスピードは突くごとに早くなっていく。
 「これ以上はちょっと……なら」
 かろうじて避けながら右手に殺気を込める。
 「鬼狂!」
 溜まったところを見計らい、グングニルを殴って下を向かせ、レミリアの腹にまず一発蹴りを入れる。
 「がっ!」
 そして間髪入れずに鬼狂状態で背中に拳を振り下ろす。
 「ぐぁぼぅっ!」 
 レミリアは流星のように館に突っ込んだ。

 「二人共ここにいなさいね、私ちょっと用事あるから」
 幽香はそう言って紅魔館に行く。
 「あ、はい」
 「勝って、大ちゃん」
 チルノは集中していて聞いてないようだ。
 幽香は感じるままに紅魔館内部を進む、すると一つのドアの前で止まり、開ける。そこには部屋がなく、代わりに地下に続く階段があった。
 「まだまだね大香、これぐらいの気配も分からないなんて」
 階段を降りる音が木霊する。
 下まで降りると扉が見えてきた、どうやら魔法がかけられているようだ。
 「一応ノックしてみようかしら」
 軽く二度ノックする。
 「どうぞ」
 中からは少女の声がした、どうやら中には入れるらしい。
 扉を開けて中に入るとやけにスッキリしている部屋が目に入った。
 「今日は遅いのね、それに上がやけに五月蝿いんだけど何かあっ……」
 少女は聖書を読みながら喋っていたが、顔を上げた瞬間黙る。
 「あなたがフランドールね?」
 「はい、そうですけど……あなたは?」
 フランドールは聖書を閉じて立ち上がる、どうやら幽香を警戒しているようだ。
 「私の名前は風見 幽香、大妖精から聞いてないかしら?」
 「大ちゃんから?」
 フランドールは二人で話した時のことを思い出した。

 「大ちゃんは何でそんなに強いの?」
 「私今修行してるの、風見 幽香っていう妖怪のところで、それでね……」

 フランドールはハッとなって幽香を見る。
 「あなたが大ちゃんのお師匠さん……」
 「やっぱ聞いてたのね、良かった。無駄な戦闘してる暇は無いからね」
 幽香はそう言ってベットに座る。
 「あの、上で何かやったのは……」
 「私じゃないわ、大妖精よ」
 「大ちゃん!?」
 フランドールが驚いて幽香に詰め寄る。
 「どうして大ちゃんがここに!?」
 「あなたの為よ」
 「え?」
 「大妖精はあなたを助ける為に、今あなたのお姉ちゃんと闘ってるわ」
 「お姉ちゃんと!?」
 フランドールの顔が青冷めてよろよろと後ろに下がってイスに座る。
 「そんな……、お姉ちゃんと闘うなんて無謀よ! お姉ちゃんは強い……」
 「そうね、でも大妖精も強いわよ? 今あなたのお姉ちゃんと互角に闘ってるわ」
 「……あなたから見てお姉ちゃんと大ちゃんの力の差は?」
 幽香は腕を組んで考えるポーズをし。
 「うーんそうねぇ、大妖精がレミリアよりちょっと弱いぐらいかしら」
 「それはお姉ちゃんが遊んでいる時ですよね? 本当のところはどうなんですか?」
 「あら、良く解ってるじゃない。そうね、今大妖精もパワーアップしたけど、それでもレミリアが本気を出したら……大妖精の五、六倍の強さはあるでしょうね」
 幽香は不気味なほどニッコリ笑って言った。幽香は解っていたのだ、レミリアが遊んでいたことも大妖精が勝てないということも。
 「あなたは解っているのに止めなかったんですか?」
 フランドールは幽香を睨みつける。
 「止めたって聞かないだろうし、それにこれはあの子にとっても良いチャンスなのよ」
 幽香は立ち上がってフランドールに近づく。
 「あの子はこれでやっと目標を見つけられるのよ」
 「目標?」
 「そう、目標、あの子は今まで私を目標としてきたみたいだけど、まだ私には遠すぎる。だからもっと近い目標を見つけてほしかったの」
 「でもそれじゃぁ大ちゃんはがっ!?」
 幽香は片手でフランドールの首を絞めて持ち上げる。
 「ぐ…がっ……」
 フランドールは幽香の腕を叩いてギブを伝えるが、幽香の力は弱まらない。
 「ねぇ、あなたは大妖精を助けようとは思えないの?」
 「!」
 「私はね、最初大妖精に新しい友達ができたって聞いた時嬉しかったわ。あの子友達少ないからね、そしてさっきも嬉しかった。幻想郷の中でも弱い方にいる氷の妖精チルノと蟲の妖怪リグル、この二人は友達の大妖精を助ける為にここのメイド長と戦ったらしいわ、なのにあなたはどう? あなたはチルノやリグル、それに大妖精より強いのにここに籠りっきり、お姉ちゃんが強いから勝てるはず無いと決め込んでいる。大妖精が相手の力量を計れないとでも思ってるの? あの子は知ってるわよ、レミリアが本気を出してないことぐらい」
 「な、なら何で、大ちゃんは戦って……」
 「言ったでしょう、あなたの為だって」
 フランドールを思いっきり壁に投げて傘の先を向ける。
 「フランドール・スカーレット、あなたはどうしたいの?」
 「私、私は…」




 「ふぅ……」
 レミリアは二階の客室で溜め息をつくと立ち上がる。
 「遊び相手としてはこれほど十分な相手はいないね……しかし、本気でやるには足りないかもな」
 服の埃を叩いて上に飛び立つ。
 「やっと本気を出してくれるのね」
 上に上がると大妖精が嬉しそうに言ってきた。
 「あれ? もしかして知ってた?」
 「えぇ、あなたに本気を出されたら勝てないことぐらいとっくに」
 正直レミリアは大妖精をなめていたが、力量を計れてしかも本気にさせるように闘っていたことを知り、見る目が変わった。
 「やっぱり君は良いライバルになれそうだ」
 小さく呟き羽を大きく広げる。
 「では本気でいかせてもらおうかな、君なら二分もてば良い方だろう」
 「あら、言ってくれるわね」
 大妖精が一気にレミリアに近づこうと突っ込む。
 「神罰『幼きデーモンロード』」
 レミリアから大量の弾幕とレーザーが展開される、レーザーは大妖精の動きを封じ、前から大玉と中玉の弾幕が迫ってくる。
 だが大妖精はそれをうまく回避する。
 「意外と楽に避けられ……」
 そこで上を向くとレミリアが急降下して来ている。
 「くっ!」
 それをギリギリで避けてレミリアを追う、だがレミリアのスピードに大妖精は追いつけない。
 「大香、君は何で僕に勝てないと解っていて闘いを挑む?」
 十分離れてから大妖精の方を振り向く。
 「勝てないと解ってしまっても思ってしまうからよ! もしかしたら勝てるかもとか、勝ちたいとか!」
 「ならばその願い、絶望と言う名の針でスカスカにしてあげるよ!」
 レミリアは一瞬にして大妖精の真上に飛んで月を背にする。
 「獄符『千本の針の山』! 避けれるものなら避けてみろ!」
 クナイ型弾とナイフ型弾がそれぞれ連なって弾幕を奏で大妖精に迫る。
 「やってみせる! 真風流『霞回花』!」
 両手を前に出して回転させ弾幕を弾く。
 「続けて風流『七草連技』! 撫火! 風茨刃苅凪!」
 霞回花で玉を弾いている間に撫火を放って前の弾幕を爆破し突破、次に来る弾幕も風  茨刃苅凪で風を発生させて削除する。
 撫火の爆煙に紛れながら移動して両手に殺気を集める。
 (たぶんここが勝負の決め手だ、何が何でも一発奴に入れる!)
 「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
 レミリアはグングニルを出して投げる構えをとる。
 「レミリアー!」
 大妖精は叫び、レミリアに迫る。
 「突き抜けろ!」
 レミリアは迫ってくる大妖精に向けてグングニルを投げた。
 グングニルは風を切り大妖精に向かうが、それに対し大妖精は右手で対応する。
 「鬼狂!」
 レミリアの思惑通りグングニルと鬼狂は相殺される。
 「さよなら大香」
 いつの間にかに大妖精に近づいていたレミリアが大妖精の首目掛けて手を突き出す。
 「あんたがね」
 それを読んでいたのかそれを紙一重でかわし、左手でレミリアの顔面へ殴り掛かる。
 「鬼狂!」
 「おぉ恐い恐い」
 鬼狂はレミリアの顔面に当たることなく空振りした。
 レミリアは当たる寸前に自分の体を数十匹の蝙蝠に変えて避け、大妖精の横に表れたのだ。
 「何でそこに!? がっ!」
 大妖精が驚いてこちらを向いた時に首を掴む。
 「これはさっきのお返しだ!」
 そのまま一回転して自分が落ちたところと同じ客室に投げる。
 あまりの力に大妖精は抗うことが出来ずに客室に突っ込んだ。
 「又今度来なよ大香、何度でも相手をしてあげるよ。だが何も変わらないし変えさせないけどね!」
 レミリアは両手を挙げて力を集中させる、するとそこにグングニルとは比べ物にならないほど大きく、赤いグングニルとは対の白い槍が出現する。
 「聖槍『ロンゴミアント』、夜はまだ長いが終わりにしよう」
 「まだ…終われないわね」
 大妖精はゆっくり起き上がってレミリアを見上げた。
 「ぶっ潰れろ!」
 「ぶっ壊す!」
 レミリアはロンゴミアントを渾身の力で投げる。
 「ハァァァァァァァァァァァァァァ!」
 大妖精は渾身の殺気を両手に込めてロンゴミアントに突っ込んだ。
 「双鬼狂!」
 両手を同時に突き出してロンゴミアントと衝突する。
 「くぅぅぅぅ……」
 力一杯元張ったものの、大妖精は内心諦め掛けていた。
 「大ちゃん! リグルはここにいて、あたい大ちゃんを助けに行ってくる!」
 「そんな無理だよチルノちゃ……待ってチルノちゃん! あれ見て!」
 リグルが指さす方向を見ると、何か赤い物が大妖精に近づいている。
 「何……あれ?」
 赤い何かはロンゴミアントに突っ込みロンゴミアントを消し去った。
 「大ちゃん、お待たせ!」


 「私は……」
 フランドールは昔を思い出していた。

 (私は皆が恐がるからここに入ったんだ……だけど本当に皆恐がっていたんだろうか?)

 フランドールは立ち上がる。

 (私も皆と同じなんだ、皆が恐がっていると思い込んで皆に心を開けなかった。だから皆も心を開いてくれないんだ)

 フランドールの目に決意が見えた。
 「私は、心を開いて幻想郷の皆と仲良くなりたいです!」
 「なら自分のやることも解るでしょ?」
 幽香は傘を肩に担いで扉に向かう。
 「姉妹喧嘩はしとくものよ、たまにはね」
 「はい!」
 フランドールは元気良く返事をすると天井を見た。
 「今行くからね、大ちゃん」
 フランドールは右手に力を集める。
 「大丈夫、私ならできる、やれる! 禁忌『レーヴァテイン』!」
 手を天井に向けて叫ぶ。すると手から赤い光が放たれ炎を纏った大剣が天井を燃やし破る。
 「お先に失礼します!」
 フランドールは背中ごしに軽く頭を下げると飛び立った。
 「私もそろそろ出ようかしら」
 幽香も扉から出ようとするが、扉が開かない。
 「もう、しょうがないわね」
 すると小指に少し殺気を集め。
 「えいっ」
 チョコンっと軽く扉に触れる。
 「それじゃ行こうかしら」
 幽香の通った後には粉々になった扉が散らかっていた。

 奇妙な音がしたかと思うと部屋が紅蓮の焔に包まれて爆発した。
 「もう外に出たのかな?」
 フランドールが爆煙から出ると、白い大きな槍とそれを止めようとしている何かが目に入る。
 「あれはお姉ちゃんの技……ということはあれは大ちゃんだ!」
 フランドールは嬉しそうな顔をすると大妖精の所に向かって急発進する。
 「これで大香は終わ……! あれはまさか!?」
 「どいて大ちゃん!」
 大妖精は突然の声に驚いたが、聞き覚えのある声だったので横に避ける、すると自分の目の前を赤い大剣が通り過ぎていったのが見えた。
 「てりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 赤い大剣はロンゴミアントとぶつかったと思うと、ロンゴミアント共々消滅する。
 「大ちゃん、おまたせ!」
 「「フラン!」」
 大妖精とレミリアはハモって驚いた。
 「こちらこそおまたせね、助けるつもりが助けられるなんて」
 「いいのよ大ちゃん、元々私がいけなかったんだし」
 「何で……」
 レミリアの顔は青冷めている、相当焦っているようだ。
 「何で出てきたんだフラン! 外は危険だって言っただろう! それにお前だって外に出たく無いって!」
 「言ったわお姉ちゃん! でも、私は知ったもの! 外には色々な人がいて、色々な景色があるって! 四百九十五年前は気づかなかった、気づけなかった! 私ね、お姉ちゃん、四百九十五年かかってやっと解ったの、こちらが心を開けば相手も心を開いてくれるって!」
 「だからといってこのままお前を外に行かせる訳には行かない! 大香共々眠ってもらう!」
 レミリアはジグザグに高速移動して二人に近づいて行く。
 二人は目を合わせると左右せれぞれに飛んで避けた。
 「チッ! しゃらくさい!」
 レミリアは腕を交差させて一気に開く、すると大量の弾幕がレミリアの周りを、いや、紅魔館の周りを覆いつくす。
 「あの月のように赤く赤く染め上げろ! 『紅色の幻想郷』!」
 大小それぞれの弾幕が紅魔館付近にいる者に襲い掛かる。
 「残りの体力を考えるとここで技を使うのは止めておいた方がいいようね」
 大妖精は必死になって弾幕を避けていく。
 「大ちゃん!」
 フランドールは弾幕をレーヴァテインで薙ぎ払いながら大妖精の元へと向かおうとするが。
 「待つんだ、フラン」
 レミリアが行く手を阻む。
 「どいてお姉ちゃん!」
 フランドールはレミリアに切っ先を向けて構える。
 「神槍『スピア・ザ・グングニル』、フランと喧嘩するのは二回目かな?」
 「いいえ、三回目よ」
 フランドールは瞬時にレミリアの背後に移動して回転斬りをおこなう、だがその攻撃は空を切り風を起こしただけだった。
 「そうだそうだ、人形を取り合ったのと絵本を取り合ったのがあったね」
 レミリアはいつの間にかフランドールと背中合わせしていた。
 「えぇそうよ!」
 今度は振り向き様にレーヴァテインを斜め下に降り下ろす。
 「たしかどちらも僕が勝った」
 今度はフランドールの上に現れる。
 「今回は私が勝つわ!」
 「フラン、僕達は吸血鬼だ、何も変わらないんだよ!」
 フランドールは上へ、レミリアは下へ高速移動して攻撃しあう。

 「どうしようチルノちゃん! 僕あんなの避けれないよ!」
 「あ、あたいだって無理~!」
 紅魔館近くで大妖精を見ていたリグルとチルノは今最大のピンチを迎えていた。
 「「死ぬ~!」」
 「真風流『霞回花』」
 死を覚悟した二人の前に突然誰かが現れて傘を開いて回したかと思うと、追って来ていた大量の弾幕が吹き飛ばされる。
 「ゆ、幽香さん!」
 幽香は傘を閉じて振り返る。
 「危ないところだったわね」
 「ありがと幽香~!」
 チルノは涙と鼻水を滴ながら幽香に抱きつく。
 「だからさんを付けなさい! それに泣くんじゃないわよ、まったく」
 迷惑、というよりかは嬉しそうに笑う幽香であった。
 「あ、あああの幽香さん…」
 リグルが震えながら幽香の後方を指差す。
 「何かしら?」
 振り返ると大妖精が見えた。目が赤く光ってるような気がする。
 「あの糞師匠~!」
 大妖精の殺気が膨れ上がる。
 「いい感じじゃない」
 ヒラヒラと手を振ってチルノの頭を撫でた。
 「解ってるわよ!」
 左手を横に出すと、片手で霞回花をやって弾幕を弾く。
 「早々に終わらせろって言うんでしょ?」
 大妖精は横から来る弾幕を避けながらフランドールとレミリアの場所へと向かった。

 「どうしたフラン? スピードが落ちてるぞ」
 フランドールはレミリアの攻撃をレーヴァテインで防ぐので精一杯だった。
 レーヴァテインとグングニルがぶつかるたびに火花が散る。
 「くそっ!」
 「やはり変われないんだよフラン!」
 「違うわね」
 大妖精がフランドールの前に立ってグングニルを掴む。
 「変われないのは思え無いからよ、変わりたいってね!」
 「くっ、だか君だけじゃ僕には勝てない!」
 「えぇ、私一人じゃね」
 大妖精が手を離し、上に飛んだと同時にレーヴァテインが下から出てきてレミリアを斬るに来る。
 「くっ!?」
 ぎりぎりでそれをグングニルで防ぐが反動で上に飛んだ。
 「私一人じゃ勝てない、だけどフランと二人なら互角かそれ以上!」
 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ぶち切れたレミリアは急降下しながら大妖精に向かう、だがそれをフランドールがレーヴァテインで受け阻止する。
 「ふざけてないよお姉ちゃん、一人じゃ無理でも二人ならできることがいっぱいあるんだもん!」
 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 レミリアのグングニルとフランドールのレーヴァテインは何度もぶつかり合って火花を散らし、二人は一度離れる。
 「これで、これで終わらせてやる!」
 「今度こそ、今度こそ負けない!」
 お互い武器を握り直し、全力をもって同時に突っ込む。
 「「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
 レミリアはスピードを乗せた全力の突きを出し、フランドールは下段からの斬り上げを行う。攻撃は同時に繰り出され、レミリアの一撃はフランドールの左肩を持って行き、フランドールの一撃はレミリアを上空へと斬り上げる。
 「がっっ!」
 「たしかこれで合ってたはず」
 上で待ち構えていた大妖精は胸の前に両手で黒い球を作っていた。そしてそれをレミリアに投げ飛ばす。
 「なんだこんなも……動けないだと!?」
 「あれは真風流『夏夢意』、まさか自分でやるとはね」
 幽香は呆れて言う。
 「フラン!」
 「えぇ!」
 フランドールは無事な右手でスペルカードを発動させた。
 「禁忌『フォーオブアカインド』!」
 フランドールの手からカードが消え、左手がちゃんとあるフランドールが三体現れる。
 「何かヤバいみたいね」
 「ま、あたし達が来たからには」
 「もう大丈夫!」
 分身のフランドール達は同時にレーヴァテインを出し、動けなくなったレミリアへと一直線に向かう。
 「こんな物!」
 レミリアは身体に力を込め、夏夢意の呪縛を解いた。
 「こぉのー!」
 一人目のフランドールが斬り込むがその一撃はレミリアの手によって防がれる。
 「嘘!? まだそんな力が!」
 「こんな一撃……屁でもない!」
 レーヴァテインを素手で握り潰し、そのままフランドールの胸を貫く。
 「がはっ…かかったねお姉ちゃん……」
 その手を両手で掴みニヤリと笑う。
 気づいた時には遅かった。
 「「二撃ならどうだ!」」
 フランドールの後方から二人フランドールが出て来てレミリアを斬り飛ばした。
 フランドール達はしてやったりと言った顔で消えていく。
 「んなっっっっ!」
 傷は決して浅くなく、吸血鬼のレミリアとはいえその顔には汗を滲ませていた。
 そしてレミリアがどうにか身体を制御して止まり、顔を上げた先には。
 「これでやっと……互角かしら」
 レミリアと同じくらいボロボロの大妖精がいた。
 「これで互角? ハッ! これでもまだ互角じゃないさ!」
 「そう? なら……」
 両手を握ると、大量の殺気がその拳を包み込む。
 紅い満月を背にした大妖精は、それこそ悪魔のようだった。
 「決着をつけましょうか」
 「……いいよ大香、その勝負買ってやる!」
 レミリアは腕を広げると妖気を溢れんばかりに出し、両手を握った。
 「「こんなに月が紅いから」」
 大妖精は目を瞑り歌うように、レミリアは目を見開いて呪うように。
 「狂喜な夜になったわね」
 「凶気な夜になった!」
 言うと同時にレミリアが動き大妖精に突っ込む。
 大妖精は目を開けて遅れながらもレミリアに向かう。
 二人の拳は激突し両者共に吹っ飛ぶ、だが直ぐに立て直しまたぶつかる。
 ぶつかる度に拳は傷ついていく、だが二人はやめない。何度ぶつかり何度傷ついても決着するまで二人はやめる気が無いのだろう。
 「そろそろね」
 幽香が楽しそうに眺めながらさらに楽しそうに言った。
 「……しぶといわね」
 「……そっちこそ」
 十数回目に突入しそうになったところで二人は止まった。そして二人は同時に全ての力を自分の右手に注ぎ始め。
 「これがきっと」
 「お互い最後の一撃だろうね」
 二人は改めてお互いを見た。
 「「………」」
 そこにいて、その闘いを見ていた者皆が息を飲んだ。
 二人は同時に動き、二人の全てを込めた一撃はぶつかった。 
 「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
 二つの力はぶつかると共に相手の力を消す為爆発した。爆発は見ていた者達の目を反らさせ当事者達には力の跳ねっ返りが来る。だがそれでも二人はふんばり続け、服の所々が破れようともただ相手を倒すために己が全てを賭けた。
 結果、二人の拳から力が消えて二人は地上へ真っ逆さまに落ち始めた。
 「お姉ちゃん! 大ちゃん!」
 フランドールは叫び、レミリアを片手で捕まえる。大妖精も掴もうとするが左腕は
 まだ再生しきっておらず掴めない。
 「大ちゃん!」
 「大丈夫」
 その言葉がフランドールの耳に入った時には大妖精を抱く幽香の姿があった。
 「幽香さん!」
 「一旦地上に降りましょう、お話はそれからでも遅くないわ」
 安心させるようにウィンクし、幽香は先に地上に降りた。
 「フ…ラン」
 どうやらレミリアは起きたらしく、かすれながらもフランドールの名を呼ぶ。
 「あのねお姉ちゃん、私思うんだ」
 真っ直ぐにレミリアの目を見つめた。
 「大ちゃんが妖精なのにあんなに強いのは幽香さんの弟子だからってだけじゃなくて私達よりも心が強いからじゃないかな? 私達の身体はこれ以上成長しない、でも心っていうのはいくらでも成長できるんだよ」
 「……そうかも…しれない」
 レミリアはゆっくりと腕を動かし、フランドールの顔を撫でた。
 「フランは、大香のおかげで…心が成長したんだな」
 「ううん、私だけじゃないよ、お姉ちゃんも成長できたよ!」
 レミリアは少し目を開き。
 「……そうだな」
 嬉しそうに顔を綻ばせて呟いた。
 「大香、起きなさい大香」
 大妖精の頬を軽く叩きながら優しい声で囁く。
 「ん、ん~…」
 大妖精はゆっくりと目を開けると周りを見た。
 「フランとレミリアは?」
 「あっちで色々話してるわ、こうして見るとやっぱり姉妹なのね」
 「えぇ、この世にたった二人の姉妹よ……はぁ、それにしても私はまだまだだわ、いつか私一人でもレミリアを倒せるようにならなきゃ」
 「そうね、そのためにもさらなる修行をしなさいな」 
 二人は笑い、大妖精はよろよろと立ち上がるとレミリアとフランドールのところに行って手を差し出した。
 「また闘っていただけると嬉しいのだけど?」
 「上等さ、何時だって受けてあげるよ」 
 差し出された手を握り返し、レミリアは笑った。
 こうして大妖精の起こした裏紅魔異変は終わりを告げたのだった。

エピローグ

 あれから三週間がたった。あの戦闘によって所々壊れていた館は直され、レミリアも完全復活を遂げていてバルコニーでティータイムを満喫していた。
 「咲夜、紅茶のお代わりくれる?」
 「畏まりました」
 紅茶はいい臭いを漂わせながらカップに入っていく。
 まだ少ないが蝉が鳴いている、本格的な夏はもう間近だ。
 「いいねこの紅茶冷たくて美味しい、何が入ってるの?」
 「ダージリンをベースに、AB型の血液と林檎、それと蝉を少々」
 「ぶふぁっ!」
 レミリアは勢いよく口から紅茶を吐き出して自分の手にあるカップを見る、よく見ると紅茶の表面に何かが浮かんでいるのが見えた。
 「君は何でこんなの入れるの!」
 ガタガタと震えながら咲夜の方を見る。
 「夏の風物詩である蝉を飲んで夏の気分を味わってもらおうかなと」
 「味わえないよ! どうせならかき氷の方が夏の気分味わえるよ!」
 一通り言いたいことを言うと一旦落ち着くために深呼吸する。
 「ふぅ~、まぁいいや別に死ぬ訳じゃないんだし、そういえばフランは?」
 「朝から大妖精達と出かけています、森で遊ぶとか何とか」
 「そうかい、それじゃぁ昼食の後皆でティーパーティーでもやろうか、ちゃんとした紅茶とケーキ、それとクッキーを用意してくれ」
 「かしこまりました」
 それだけ言うと咲夜は姿を消した。
 「楽しそうね、レミィ」
 パチュリーが小悪魔に本を持たせて現れた。
 「珍しいねパチェ、どうしたんだい?」
 「咲夜に頼まれたミキサー持ってきてたの」
 「君は共犯か……」
 頭を押さえて深い溜め息をつく。
 「溜息をつくと幸せが逃げちゃいますよ、レミリアお嬢様」
 「原因は君の主なんだけどね、君は幸せそうだねパチェ」
 「そうね、大妖精のお陰でゴーレムはやられちゃったけど貴重なデータが手に入ったし、今そのデータを元に新しいゴーレムを作っているところなの、まぁそういうことで私はティーパーティーパスね」
 そう言ってパチュリーと小悪魔は歩いて行った。
 「皆忙しいんだね、暇なのは僕と美鈴だけか」
 門の方を見ると、美鈴が暇そうに一人オセロをやっている。
 「僕は本でも読んでようかな」
 レミリアはコテージを後にして図書館に向かった。

 「やっべ、一人オセロつまんねぇ~」
 美鈴は一人黙々とオセロをやっている。
 「美鈴」
 美鈴が振り返ると咲夜が買い物バックを持って立っている。
 「何ですか咲夜さん?」
 「今日の午後ティーパーティーすることになったわ、今からそれの買い物しに行くんだけどあんたも行く?」
 「行きます行きます! 暇で死にそうだったんです!」
 立ち上がって咲夜の隣に行く。
 「荷物多いだろうからあんた持ってね」
 「やっぱその為でしたか」
 二人は雑談しながら人里へ歩いて行った。

 二人が森の中を歩いているとフランが前を通る。
 「妹様~!」
 美鈴が呼ぶとフランドールは気づいて近づいて来る。
 「咲夜! 美鈴! どうしたの?」
 「午後ティーパーティーをやるとお嬢様が決めまして、今からその買い物に行くのです」
 「そうなんだ~、そう言えばお昼ご飯何?」
 「オムレツですよ」
 「「ワーイワーイ!」」
 フランドールと美鈴は万歳して喜ぶ。
 「そういえば妹様、何して遊んでるんですか?」
 「えっと、今拉致鬼ごっこして…」
 「逃げろフランちゃん! 鬼がすぐそ…」
 突如リグルが横から来てフランドールに警告する、そしてその警告の途中にリグルは言葉を失った。何かに触角を掴まれたのだ。
 「そん、うあああぁぁぁぁ……」
 そのままリグルは悲鳴を上げながら何処かに連れていかれ、悲鳴は段々と小さくなって聞こえなくなった。
 「えっと、何ごっこをしていると?」
 「拉致鬼ごっこ、チルノちゃんがやろうって言って始まったんだけど、まさか大ちゃんが鬼になるなんて思わなくて……」
 そこでフランドールは震え始める。
 「始めはチルノちゃんが優しく捕まったの、でもそれが惨劇の合図だった。最初の被害者はミスティアちゃん、空を飛んで逃げているところ を見つかっちゃって、どうなったかは知らないけど悲鳴は聞こえたの。次はルーミアちゃんだった、うまく影に隠れてたんだけど見つかっちゃって、そして今はリグルちゃんが……」
 口に手を当てて涙を流す。
 「咲夜さん、これごっこというよりか」
 「マジの拉致よね、たぶんこの遊びにつけられる正しい名前は、『そして誰もいなくなった』ね」
 近くで木が倒れる音がする。
「ヒッ!」
 「行きましょう美鈴、昼食に遅れてしまうわ、妹様、必ず生きて昼食の時間ぐらいには帰ってきてくださいね」
 フランドールを抱き締めて咲夜は走り去った。
 「ご武運祈っております!」
美鈴はフランドールの手を握って走り去った。
「ちょっ! 咲夜! 美鈴!」
 二人を追い駆けようとした時、背中の羽の根元を二つとも掴まれる。
 「……大ちゃん、私達って友達よね?」
 後ろを見ずに言う、というか見れないようだ。
 「……そうねフラン、私達は友達よ、でもね」
 ぐいっとフランは引っ張られて耳元で言われる。
 「今の私は…鬼よ?」
 「キャアアアアアァァァァァァァ……」
 こうして今日も大妖精達は(大妖精だけ)楽しく(大妖精だけ)愉快に遊ぶのでした。
                    END
 どうも初めまして! F・密氏と申します。
 こちらの作品はもう5年前程に書き終え、それからちょこちょこ直していた物になります。
 うちの大妖精は如何でしたでしょうか? たぶんあまり見ない肉体派大妖精だと思うのですが、楽しんで頂けたら幸いです。
F・密氏
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.230簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
作品に関してではないので恐縮ですが
不特定多数が目にする場で個人的なメールアドレスを載せるのはあまり薦められたことじゃありませんよ
5.無評価名前が無い程度の能力削除
創想話の規約に「創想話が初出の作品である事」というものがあります。この作品はどうやらpixivのほうに先にアップされているようなので、残念ですが規約に引っかかる形になってしまいます。
ちなみに、創想話に先に投稿してからpixivにアップするのはOKらしいです。
6.10名前が無い程度の能力削除
残念ながら、私にはこの大妖精は「大妖精」という名前を借りただけのオリキャラにしか見えません。
そのため、微塵も魅力を感じませんでした。
7.20名前が無い程度の能力削除
ストーリー自体は楽しめましたが、他の方も言われているように大妖精がもはやオリキャラでした。途中から戦闘がマンネリ化してきてたように思えます。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
情景描写、戦闘描写、心情描写、その全てが圧倒的に不足してます。
そのため作者さまの作り上げた大妖精に魅力が生まれず、結果読者に嫌われる原因となってます。
ここにある作品に目を通したり、いろいろな本を読んだりして小説の知識をもっと養ってください。
ただ、作者さまの大妖精愛は伝わってきました。同じ大妖精好きとして、それだけは嬉しく思いました。
次の作品も期待してます。
11.無評価F・密氏削除
見てくださった皆様ありがとうございます。
コメントを残してくださった方々はさらに感謝しております。

自分の実力不足故に不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
これに懲りずに書き続け精進したいと思います。
13.無評価名前が無い程度の能力削除
これは作品無しの設定集だけで事足りるかなぁと思います