Coolier - 新生・東方創想話

画面に作用する小槌

2013/08/17 15:46:59
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「なぜだ!? なぜ、反転した世界の中で弾幕を避けられる!?」

 嵐の中を逆さまに浮かぶ謎の城、輝針城。
 異変の原因を見つけるべく突入した霊夢を待ち受けていたのは、何でもひっくり返す程度の能力を持った天邪鬼、鬼人正邪だった。
 そして……。

「こんな小細工で私に立ち向かおうと思うなんて」

 正邪が繰り出す左右反転のスペルカードをも、霊夢はいとも容易く打ち破ったのだった。

「そんな浅はかだから、下克上なんて碌でもないこと思いつくのよ」
「なんだと? ではお前は何者だというのか」
「あら、知らずに戦っていたの」
「……ふん、知らせなくともよい。次のカードでお前は果てるのだからな!」

 そう言い放つやいなや、正邪は一回転して宣言の構えをとった。

「画面をも裏返す小槌の魔力。今一度受けてみろ!」

 逆符「天地有用」。左右はそのまま、今度は上下が入れ替わった。
 だが……。

「やっぱり、小細工が過ぎるわね。肝心の弾幕が疎かじゃない」

 まるで反転などしていないかのように、やすやすと身を躱していく霊夢。
 いよいよ、正邪にとどめが刺されようとしていた。

「待て、どういうことだ! お前は人間なのか? どうしてこんなことができる?」
「はあ。言うことまで二転三転なのね。それじゃ教えてあげる」

 そう言いながら、霊夢はお祓い棒を投げ捨て。

「……あんたが反転させているのは世界じゃない。視界よ」
「何を――」

 スペルカードを構え――。

「夢符『二重結界』」

 宣言した。
 途端、霊夢の周りに二つの境界が現れ、広がっていく。
 そして、その間の空間が、弾幕が……反転する。

「座標系を保ったまま、弾幕と景色だけが裏返る。小細工なしの世界の反転って、こういうことよ」
「はっ、何をしでかすのかと思いきや、中間だけが裏返るとは無意味なことを。逆転の美を理解していないな? 猿真似を見せびらかしたいのか――」

 なおも強がる正邪に、霊夢は結界の広がりを緩め、問いかける。

「……ねえ、時間が切れ目なく続いているのは、どうしてだと思う?」
「……?」

 突拍子もない質問に、正邪は一瞬、うろたえた。

「いきなり、何を訊いている?」
「例えば、私の動き。あんたの動き。弾幕の動き。ある時点ではここにあったこの御札が、次の瞬間には別の位置にある」

 霊夢は懐から護符を取り出し、それを適当な方向に投げ飛ばして説明する。
 もちろん、その護符は二重結界を通ってワープしながら飛んでいくのだが。

「飛行する御札は、どんなに隣り合った二つの須臾を取り出してみても、異なる座標で静止しているわ。でも、それじゃあ、最も隣接した須臾と須臾のその間に、どうして『運動している』という須臾が存在しないの? 御札の座標は、いったい、『いつ』『動いて』いるというの?」
「……その問いには答えないぞ。飛んでいる矢は止まっている。アキレスは亀に追いつけない。逆説が孕む矛盾こそ、我が力の源泉だ!」
「安っぽい力ね。じゃあ私が答えてもいいのね?」

 一息つき、霊夢がつぶやく。

「それは……この世界が二重だからよ」

 霊夢の言うことの真意が汲めない正邪。
 数秒の沈黙が流れた。
 設置された二重結界は、未だ輝針城の内装を裏返して映している。

「世界が、二重……?」
「この世界――物理・心理・記憶でいうと物理の層のことだけど――は、陰と陽の二つの世界が裏表になっているの。陽の……目に見える世界では静止しているけども、陰の世界ではその間、座標の移動、力の増減、物の生滅……そういった、世界の『更新』が行われている」

 霊夢が、周りに浮いている陰陽玉をひとつ掴みとり、突き出す。

「そして、裏側の陰の世界が更新されたとき、世界は裏返る。裏が表になり、世界は次の須臾を迎える。その繰り返し」

 話している間、霊夢は手首を半回転させた。すると、陰陽玉の黒と白が入れ替わる。

「世界をひっくり返したって、一つの須臾の半分にも満たない。だからあんたは小物なのよ」
「……信じるものか。そんな、根拠もない理屈を並べてどうだと」
「そんなに死に急ぐなら、根拠を見せてあげてもいいわ」

 そう言うやいなや、霊夢の手中の陰陽玉が光り輝いた。
 結界がふたたび拡張を始める。

「……博麗の巫女は、何もない所に必ずある『裏側』を視ることができる。それが陰陽の力、そして幻想郷を成り立たせる力の一つ、二重結界(ダブルバッファリング)」
「お前が……いや、待て」

 反転した空間の護符弾幕が、正邪に迫り来る。

「だから、あんたの手口は私には効かない」
「ふん、得意気のところ悪いが、お前の負けだよ。この天邪鬼に口を滑らせたことでな」

 何やら水を得た様子の正邪を、霊夢の結界が包み込もうとした、その時。

「世界をどう裏返したところで、回転には無力のはずだ!」

 逆転「リバースヒエラルキー」。
 今度は画面が裏返らず、180度ひっくり返る。
 結界内の高密度の弾幕を避けきり、中の霊夢に不可避の一撃を与えるべく。

「――!!」

 直後。
 正邪は見てしまった。
 下手に抗ったばかりに、境界面が放つ眩い光の中、目を開けて。
 二重結界の内側、陰の世界を、直視してしまったのだ。

「何故だ――大小を入れ替える夢幻の力、何故お前が――」

 止まった須臾の中、目の前が暗転し。

「勘違いしていたようね。私が視ているのは、“加工される前の世界”よ」

 小さかった画面が、大きくなった。
初めまして。
昨日1.00bで修正された正邪戦のバグ技(Alt+Enterで元通りになる)が題材です。一発ネタでSS投稿に手を出してごめんなさい。
もちろん輝針城の霊夢は二重結界を使いませんが、画面反転って斬新なようで既に永夜抄で霊夢がやっていたな、とか思いながら書きました。
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コメント



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1.70神社音削除
確かに霊夢も反転させてましたね。
楽しませていただきました。こういう感じの
好きです
3.100名前が無い程度の能力削除
そんな酷いバグ技があったなんて…。回転直後に自機を見失ってピチュるなんて、よくありますよね。
6.80奇声を発して喉を痛める程度の能力削除
目の付け所がシャープですね
7.80奇声を発する程度の能力削除
この発想は面白いですね
10.803削除
一発ネタ大変結構。むしろそのような小さなアイデアをこのように形に出来るというのを尊敬します。