「なぜだ!? なぜ、反転した世界の中で弾幕を避けられる!?」
嵐の中を逆さまに浮かぶ謎の城、輝針城。
異変の原因を見つけるべく突入した霊夢を待ち受けていたのは、何でもひっくり返す程度の能力を持った天邪鬼、鬼人正邪だった。
そして……。
「こんな小細工で私に立ち向かおうと思うなんて」
正邪が繰り出す左右反転のスペルカードをも、霊夢はいとも容易く打ち破ったのだった。
「そんな浅はかだから、下克上なんて碌でもないこと思いつくのよ」
「なんだと? ではお前は何者だというのか」
「あら、知らずに戦っていたの」
「……ふん、知らせなくともよい。次のカードでお前は果てるのだからな!」
そう言い放つやいなや、正邪は一回転して宣言の構えをとった。
「画面をも裏返す小槌の魔力。今一度受けてみろ!」
逆符「天地有用」。左右はそのまま、今度は上下が入れ替わった。
だが……。
「やっぱり、小細工が過ぎるわね。肝心の弾幕が疎かじゃない」
まるで反転などしていないかのように、やすやすと身を躱していく霊夢。
いよいよ、正邪にとどめが刺されようとしていた。
「待て、どういうことだ! お前は人間なのか? どうしてこんなことができる?」
「はあ。言うことまで二転三転なのね。それじゃ教えてあげる」
そう言いながら、霊夢はお祓い棒を投げ捨て。
「……あんたが反転させているのは世界じゃない。視界よ」
「何を――」
スペルカードを構え――。
「夢符『二重結界』」
宣言した。
途端、霊夢の周りに二つの境界が現れ、広がっていく。
そして、その間の空間が、弾幕が……反転する。
「座標系を保ったまま、弾幕と景色だけが裏返る。小細工なしの世界の反転って、こういうことよ」
「はっ、何をしでかすのかと思いきや、中間だけが裏返るとは無意味なことを。逆転の美を理解していないな? 猿真似を見せびらかしたいのか――」
なおも強がる正邪に、霊夢は結界の広がりを緩め、問いかける。
「……ねえ、時間が切れ目なく続いているのは、どうしてだと思う?」
「……?」
突拍子もない質問に、正邪は一瞬、うろたえた。
「いきなり、何を訊いている?」
「例えば、私の動き。あんたの動き。弾幕の動き。ある時点ではここにあったこの御札が、次の瞬間には別の位置にある」
霊夢は懐から護符を取り出し、それを適当な方向に投げ飛ばして説明する。
もちろん、その護符は二重結界を通ってワープしながら飛んでいくのだが。
「飛行する御札は、どんなに隣り合った二つの須臾を取り出してみても、異なる座標で静止しているわ。でも、それじゃあ、最も隣接した須臾と須臾のその間に、どうして『運動している』という須臾が存在しないの? 御札の座標は、いったい、『いつ』『動いて』いるというの?」
「……その問いには答えないぞ。飛んでいる矢は止まっている。アキレスは亀に追いつけない。逆説が孕む矛盾こそ、我が力の源泉だ!」
「安っぽい力ね。じゃあ私が答えてもいいのね?」
一息つき、霊夢がつぶやく。
「それは……この世界が二重だからよ」
霊夢の言うことの真意が汲めない正邪。
数秒の沈黙が流れた。
設置された二重結界は、未だ輝針城の内装を裏返して映している。
「世界が、二重……?」
「この世界――物理・心理・記憶でいうと物理の層のことだけど――は、陰と陽の二つの世界が裏表になっているの。陽の……目に見える世界では静止しているけども、陰の世界ではその間、座標の移動、力の増減、物の生滅……そういった、世界の『更新』が行われている」
霊夢が、周りに浮いている陰陽玉をひとつ掴みとり、突き出す。
「そして、裏側の陰の世界が更新されたとき、世界は裏返る。裏が表になり、世界は次の須臾を迎える。その繰り返し」
話している間、霊夢は手首を半回転させた。すると、陰陽玉の黒と白が入れ替わる。
「世界をひっくり返したって、一つの須臾の半分にも満たない。だからあんたは小物なのよ」
「……信じるものか。そんな、根拠もない理屈を並べてどうだと」
「そんなに死に急ぐなら、根拠を見せてあげてもいいわ」
そう言うやいなや、霊夢の手中の陰陽玉が光り輝いた。
結界がふたたび拡張を始める。
「……博麗の巫女は、何もない所に必ずある『裏側』を視ることができる。それが陰陽の力、そして幻想郷を成り立たせる力の一つ、二重結界(ダブルバッファリング)」
「お前が……いや、待て」
反転した空間の護符弾幕が、正邪に迫り来る。
「だから、あんたの手口は私には効かない」
「ふん、得意気のところ悪いが、お前の負けだよ。この天邪鬼に口を滑らせたことでな」
何やら水を得た様子の正邪を、霊夢の結界が包み込もうとした、その時。
「世界をどう裏返したところで、回転には無力のはずだ!」
逆転「リバースヒエラルキー」。
今度は画面が裏返らず、180度ひっくり返る。
結界内の高密度の弾幕を避けきり、中の霊夢に不可避の一撃を与えるべく。
「――!!」
直後。
正邪は見てしまった。
下手に抗ったばかりに、境界面が放つ眩い光の中、目を開けて。
二重結界の内側、陰の世界を、直視してしまったのだ。
「何故だ――大小を入れ替える夢幻の力、何故お前が――」
止まった須臾の中、目の前が暗転し。
「勘違いしていたようね。私が視ているのは、“加工される前の世界”よ」
小さかった画面が、大きくなった。
嵐の中を逆さまに浮かぶ謎の城、輝針城。
異変の原因を見つけるべく突入した霊夢を待ち受けていたのは、何でもひっくり返す程度の能力を持った天邪鬼、鬼人正邪だった。
そして……。
「こんな小細工で私に立ち向かおうと思うなんて」
正邪が繰り出す左右反転のスペルカードをも、霊夢はいとも容易く打ち破ったのだった。
「そんな浅はかだから、下克上なんて碌でもないこと思いつくのよ」
「なんだと? ではお前は何者だというのか」
「あら、知らずに戦っていたの」
「……ふん、知らせなくともよい。次のカードでお前は果てるのだからな!」
そう言い放つやいなや、正邪は一回転して宣言の構えをとった。
「画面をも裏返す小槌の魔力。今一度受けてみろ!」
逆符「天地有用」。左右はそのまま、今度は上下が入れ替わった。
だが……。
「やっぱり、小細工が過ぎるわね。肝心の弾幕が疎かじゃない」
まるで反転などしていないかのように、やすやすと身を躱していく霊夢。
いよいよ、正邪にとどめが刺されようとしていた。
「待て、どういうことだ! お前は人間なのか? どうしてこんなことができる?」
「はあ。言うことまで二転三転なのね。それじゃ教えてあげる」
そう言いながら、霊夢はお祓い棒を投げ捨て。
「……あんたが反転させているのは世界じゃない。視界よ」
「何を――」
スペルカードを構え――。
「夢符『二重結界』」
宣言した。
途端、霊夢の周りに二つの境界が現れ、広がっていく。
そして、その間の空間が、弾幕が……反転する。
「座標系を保ったまま、弾幕と景色だけが裏返る。小細工なしの世界の反転って、こういうことよ」
「はっ、何をしでかすのかと思いきや、中間だけが裏返るとは無意味なことを。逆転の美を理解していないな? 猿真似を見せびらかしたいのか――」
なおも強がる正邪に、霊夢は結界の広がりを緩め、問いかける。
「……ねえ、時間が切れ目なく続いているのは、どうしてだと思う?」
「……?」
突拍子もない質問に、正邪は一瞬、うろたえた。
「いきなり、何を訊いている?」
「例えば、私の動き。あんたの動き。弾幕の動き。ある時点ではここにあったこの御札が、次の瞬間には別の位置にある」
霊夢は懐から護符を取り出し、それを適当な方向に投げ飛ばして説明する。
もちろん、その護符は二重結界を通ってワープしながら飛んでいくのだが。
「飛行する御札は、どんなに隣り合った二つの須臾を取り出してみても、異なる座標で静止しているわ。でも、それじゃあ、最も隣接した須臾と須臾のその間に、どうして『運動している』という須臾が存在しないの? 御札の座標は、いったい、『いつ』『動いて』いるというの?」
「……その問いには答えないぞ。飛んでいる矢は止まっている。アキレスは亀に追いつけない。逆説が孕む矛盾こそ、我が力の源泉だ!」
「安っぽい力ね。じゃあ私が答えてもいいのね?」
一息つき、霊夢がつぶやく。
「それは……この世界が二重だからよ」
霊夢の言うことの真意が汲めない正邪。
数秒の沈黙が流れた。
設置された二重結界は、未だ輝針城の内装を裏返して映している。
「世界が、二重……?」
「この世界――物理・心理・記憶でいうと物理の層のことだけど――は、陰と陽の二つの世界が裏表になっているの。陽の……目に見える世界では静止しているけども、陰の世界ではその間、座標の移動、力の増減、物の生滅……そういった、世界の『更新』が行われている」
霊夢が、周りに浮いている陰陽玉をひとつ掴みとり、突き出す。
「そして、裏側の陰の世界が更新されたとき、世界は裏返る。裏が表になり、世界は次の須臾を迎える。その繰り返し」
話している間、霊夢は手首を半回転させた。すると、陰陽玉の黒と白が入れ替わる。
「世界をひっくり返したって、一つの須臾の半分にも満たない。だからあんたは小物なのよ」
「……信じるものか。そんな、根拠もない理屈を並べてどうだと」
「そんなに死に急ぐなら、根拠を見せてあげてもいいわ」
そう言うやいなや、霊夢の手中の陰陽玉が光り輝いた。
結界がふたたび拡張を始める。
「……博麗の巫女は、何もない所に必ずある『裏側』を視ることができる。それが陰陽の力、そして幻想郷を成り立たせる力の一つ、二重結界(ダブルバッファリング)」
「お前が……いや、待て」
反転した空間の護符弾幕が、正邪に迫り来る。
「だから、あんたの手口は私には効かない」
「ふん、得意気のところ悪いが、お前の負けだよ。この天邪鬼に口を滑らせたことでな」
何やら水を得た様子の正邪を、霊夢の結界が包み込もうとした、その時。
「世界をどう裏返したところで、回転には無力のはずだ!」
逆転「リバースヒエラルキー」。
今度は画面が裏返らず、180度ひっくり返る。
結界内の高密度の弾幕を避けきり、中の霊夢に不可避の一撃を与えるべく。
「――!!」
直後。
正邪は見てしまった。
下手に抗ったばかりに、境界面が放つ眩い光の中、目を開けて。
二重結界の内側、陰の世界を、直視してしまったのだ。
「何故だ――大小を入れ替える夢幻の力、何故お前が――」
止まった須臾の中、目の前が暗転し。
「勘違いしていたようね。私が視ているのは、“加工される前の世界”よ」
小さかった画面が、大きくなった。
楽しませていただきました。こういう感じの
好きです