Coolier - 新生・東方創想話

Remember…Winter comes true

2006/12/18 11:18:52
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もうすぐ、冬がやってくる。
森の色が新緑でも紅葉でも無くなった時、これから来るのは冬であるという事をあたいは知っていた。


今年こそはあいつに文句を言ってやる。
いつもいつも、あいつが居なくなってからあのことを思い出す。だからあたいは、ずっと言いそびれていた。

どんな風に切り出そう?
…あぁ! そうだ。
もうあんたはあのことを忘れてるかもしれない。文句を言ったはいいけど、そんなの知らないわ、と言われちゃ余計腹が立つ。

じゃあどうしたらいいの?
妖精は眠らない。時間はたっぷりあった。


あたいは再び思い起こす。
レティとの時間。初めて出会った時の、あのことについて。













「…あぁ、もうっ!」
あたいは疲れていた。
というのも、あたい達妖精や妖怪には、自分の縄張り――テリトリーと言うんだって。そんなの関係ないわよ――というのがあるのだけど、あたいとしたことがそこへ戻れなくなってしまったのだ。
その縄張りの中では妖精が最強だ。時折やってくる生意気な外敵にさえ気をつければ、どんな相手にだって負けない。
けれども逆に、自分の縄張りを出ると何かと他の奴らから睨まれる。縄張りから出てみて始めて解ったけど、どうやら他の奴らも自分の縄張りを持っているらしい。
だからあたいは他の妖精の縄張りを荒らしていると難癖を付けられ、随分と弾幕を吹っ掛けられた。
まぁ、全員返り討ちにしたけど。あたいったら、やっぱり最強ね。

…それにしたって。
「ここは一体どこなのよぅ~」

見慣れない土地。自分の縄張りで無い場所。
最初の内はとてもワクワクして楽しかったけど、もうそろそろ帰りたい…。
ここは一面の雪原がただ広がっているだけで、吹雪が邪魔でしょうがない。
雪の上で寝っ転がっているとすぐに雪に囲われてしまう。さらに雪はあたいの冷気で固まってしまい、凄く息苦しい。

「はぁ…」
いくら氷精といえど、寒すぎて損をすることは無い、とまでは思っていない。
それにあたいに雪は似合わない。だって鬱陶しいんだもの。

…それにしたって、本当に真っ白ね。
辺りを見回しても、雪、雪、雪。
空さえも吹雪に覆われていて、真っ白だった。

「あーぁ、つまんないわ」
やることも思い浮かばず、膝を抱えて座り込む。
すると、放っておいてくれればいいのに、雪はすぐにあたいを取り囲んでしまう。
ほんっと邪魔だわー、と思いながら重心を前に傾ける。
 ゴロ…
ん?
雪に囲まれた状態で転がると、凄く自然に回りだした。
ちょっと面白いかも。
 ゴロ… ゴロ…
でんぐりがえりの要領で回ってみる。
自分を囲っている雪のお蔭で凄くよく転がる。
 ゴロゴロ… ゴロゴロゴロ…
転がるにつれて、なんだか空でぐるぐる宙返りをしているような感じになる。
ぐわんぐわんと、目が回るような感触。これは…チルノ力が働いているのだろう。
え? もしかしてチルノ力を知らないんじゃないでしょうね?
もし知らなかったら可哀想だから特別に教えといてあげるけど、チルノ力っていうのはぐるぐる回っているとだんだん外側によろめいてしまうときに作用する力のことよ!
ぐるぐる回っているとだんだん気持ち悪くなって、必ず外側によろけちゃうでしょ? 嘘だと思うならやってみて頂戴。そのときには、ある力が働いているということを発見したわ。
名付けてチルノ力。良かったわね、あたいのお蔭で一つ賢くなったんじゃない?
…って、何だか回転が止まらなくなってきた。これはどういうこと??
 ゴロゴロゴロゴロゴロ…!
キャー! 目が回るぅ!! 誰か止めてー……。
………。

 ド ー ン !

強い衝撃と共に、回転は止まった。
「あいたたた…」
何かに当たったみたい。外に出てみよう。
自分の上に覆い被さっている雪を掻き分け、上(だと感じる方向)に向かって雪の中を飛ぶ。

 ズザザザザザザ……  ズボッ

「うわっ、眩しっ」
外は晴れていた。あたいは空の太陽をうっかり直視してしまう。
辺りを見回すと、やっぱり一面の雪。後ろには下り斜面に一筋の雪溝が出来ていた。
ここを転がってきたのかな?
下を見ると、自分が出てきた穴を頂上とした小さな雪山。

「ただの雪弾かと思って壊してみたのだけど……」

そして、斜面の下には妖怪が一人飛んでいた。
この妖怪にぶつかったのだろうか?
その表情は、さっき太陽を直に見てしまったために目がくらんでよく見えない。
そうでなくとも、一帯の雪原が反射する光によって、ここはやたら眩しかった。

「あ、あんた…えらく体重が重いのね!」
「え?」
「ぶつかったとき、すごく痛かった」
「あぁ、あれは…こう…やったのよ」

こう…、といいながら紫っぽい妖怪は、とす、とチョップする。

「嘘だぁ~」
「まぁ、それはいいとして…あなた、どうしてこんなところに?」
「さぁ」

紫っぽいのは、ちょっと困ったように笑う。

「じゃあ、どこから来たの?」
「あっちから」

斜面の上を指差す。

「それは知ってる」

妖怪は更に困ったように、そして笑う。
何よ! なんだかあたいがバカにされているみたいじゃない! ムキーッ!!

「困ったものね。まあいいわ。ここの寒さにも平気みたいだし」
「平気じゃないわ! 寒いわよ!!」
「ああ、そうなの?」

そりゃそうだ。幾ら氷精だって、この寒さはちょっと辛い。
日光こそ照っているけども、さっきよりもここは格段に寒いし。
もしかして、この妖怪の所為?

「ま、とにかくこっちへいらっしゃい。えぇと…あなた名前は?」
「チルノよ。氷精チルノっていうの」
「氷精?」
「あんたバカね! 氷の妖精、略して氷精よ!」
「…よう、せい」

何を目の前の紫っぽいのは驚いているのか。何だかますますバカにされた気がする。

「そうよ! 湖上の氷精チルノ!! で、あんたは?」
「え…あ、いや。レティ・ホワイトロックよ。そう、あなたはチルノね。はじめまして」

レティは、あたいに手を伸ばす。

「フン!」
「ん?」
「何だか、あんたの態度が気に入らないわ!」
「あらあら、それじゃどうしたらいいかしら?」
「うるさいわよっ! とりあえず、あたいは帰りたいんだから放っておいて頂戴! …えぇ、っと…そこの紫っぽいの!!」
「レティだってば。そう、チルノは帰りたいのね。ねぇ、だったら私も連れて行ってもらえる?」
「え? な、何でよ?」
「気になって放っておけないやつを見つけちゃったから、今さっき」
「だ・か・らっ! そういう態度が気に入らないって言うのよっ!」
「ふふ…いいじゃない、いいじゃない……あら、さっきからあそこであなたのことを見ている人がいるけど、知り合い?」

と言って、レティは凍りつくような真っ青な空を指差す。
その先には、天狗が寒そうにしながら空を飛んでいた。

「あー、あいつは新聞配達の文っていう天狗よ。きっとまたあたいのことを新聞に書くつもりね」
「そうなの? チルノは有名人なのねぇ」
「まぁね! でも、パパラッチ行為は許せないわ! レティ、あんたもちょっと来て」
この寒い中、文のいる場所まで風を切って飛んでいく。
近付いてみると、文は相当寒そうにしながら両手を擦り、肩を震わせていた。

「ちょっと! あんたまたありもしない嘘新聞書こうって思ってるんじゃないでしょうね!」
伝統の幻想ブン屋こと射…えーっと、なにがし文は、やっぱり寒そうに震えながら返事する。
「いやいや、そんな人聞きの悪い。今日は氷精が遭難したと聞いて、これは記事になる。見出しは『御転婆が過ぎた! 氷精(の癖に)、永久凍土の雪山で遭難!』で決まり! と思い飛んできたのですが…」
「遭難なんてして無いわよ!」
「それは読者の人が私の記事を読んで判断します。それより、ここは本当に寒いです。耳の穴から寒気が入ってきて頭が痛いし」
「まぁ、そんな格好だとね」
一人笑顔の妖怪が横槍を入れる。
「おや、あなたは?」
「私はレティ・ホワイトロック。冬の妖怪よ」
「えぇっと、つまり雪女さん?」
「間違ってはないけど、語弊があるんじゃないかしら」
「それは読者の人が判断します」
「投げやりねぇ」
「いいえ、それが報道の有るべき姿なのですよ」
ふーん、まぁそれはいいのだけど…と、レティは言葉を続ける。

「ところで、あなたはジャーナリストならカメラを持っているんじゃないかしら」
ええ、まあ。と、文は胸元からカメラを取り出す。
「ちょっとだけそのカメラを貸して欲しいの。4、5枚撮影したら返すから」
「うーん、ジャーナリストにとってカメラは真実を写す眼ですから。自分の目を他人に貸す訳にはいきません」
「そこをなんとか、ね」
「いや、こればかりは何ともなりません」

なにやら、レティは文の持っているカメラが気になるのか、しつこく貸してくれる様にお願いしているみたい。
あんなの、見たものがそのまま写るだけなのに。なにが面白いのやら。
…そうだ! 文ならここからあたいの湖までどう行けばいいか、知っているかもしれない。
文に道案内してもらうことにしよう。もう、本当にここは寒いし、まったく疲れたわ。早く帰りたい…。

「ねぇ文、悪いんだけど……」

「三下の妖怪風情が、誇り高き天狗であるこの私に敵うと思っているのですか?」
「うーん、どうかしら。でも、ここは私のテリトリー。地の利は断然私のものだし」
二人は険悪なムードになっていた。というよりは、文は大分怒っているみたいだけども、レティの方は全然そのことにすら気付いてないみたいに、ずっとニコニコしてる。こいつ、空気読めないのかしら?
あたいは、キランとレティの方に飛んでいき、耳打ちする。
「ちょっと、カメラかキャラメルか知らないけど、そんなのどうでもいいじゃない。あいつは女子中学生みたいな格好してるけど、結構強いからあんたじゃ敵わないってば」
実際、あいつはあたいでも手こずる。
「そう、チルノも前からあのカメラを狙っていたの。じゃあ好都合じゃない。挟み撃ちにして強引に借りましょう」
「言って無いでしょ、そんなこと」
「それでは仕方ありません。言論の自由を脅かす方々にはそれ相応の報いを受けてもらわなくてはなりません」
「だっ…だからあたいは!」
辺りが暗くなる。それはスペルカードの前兆だった。
(私が合図したら、チルノはあの女子中学生をシャーベットにしてね)
「えっ?」
レティが、あたいの耳元で囁く。

 疾風「風神少女」

「きゃ」
ズボッ
文のスペルカードによって、一瞬のうちに氷原の上にぶち込まれるレティ。
あたいは何とか避けれたけど、あのニコニコしてていかにもとろそうなレティが文の高速の一撃を避けられないのは、当然と言えば当然だった。

「チルノ、あなたもどうしても私のカメラを盗むというのならお相手しますが」
「い、いや。あたいは知らないって。ホントホント」
「でも、先ほど挟み撃ちにするとか何とか…」
「あれはレティが勝手に言ってたんでしょ! それより、あたいの湖まで案内して欲しいだけど」
次第に辺りが元の明るさに戻ってゆく。文がスペルカードを解除したのだ。

「うーん…そうですねぇ」
文は、なにやら口に手を当て(唇が紫色になっていた。変わった化粧だ)ちょっとの間考えていた。
「ね! カメラもキャラメルもノーギブミーだから!!」
「解りました。ただしその代わりに今までこの雪山で思っていたことを聞かせてください」
「別にいいわよ」
何でそんなことを聞きたがるのだろう。ま、それで帰れるのだからいいけど。
この雪山で思っていたことなんて、湖に早く帰りたかったけど帰り道が解らなかったので困っていた、ってだけだもの。
…と、その時異常な寒気が下からすーっと上がって来る感触があった。

 冬符「フラワーウィザラウェイ」

「え?」
またも辺りが暗くなる。もちろん、あたいがスペルカードを発動したわけではない。
「あの雪女。まだやるつもりみたいですね」
文は、レティが飛んでいった雪原の穴を睨む。
その雪原の上に、サクッと何かが落ちてきた。それは、6角形の形をした大きな氷で、花みたいな形をしててとてもきれいだった。

「これは…雪の結晶みたいですね。しかし、こんなに大きく成長することは通常ありえないのですが」
その氷の花は、あたいの顔よりも大きかった。これが雪の結晶? あたいと文は、揃って空を見上げる。
「わっ」
空から降ってきた氷の花が当たりそうだったので慌てて避けた。良く見ると氷の花はとげとげしていて刺さったら痛そうだったのだ。
サクッ…サクッサクッ
次第に氷の花が空から降ってくる量が多くなる。
サクサクサクサクサクサクッ
雪原に刺さった氷の花が徐々に雪原自体を見えなくするぐらいに、その量は増えだした。
「ちょ、ちょっと! このままじゃいつか避けきれなくなるじゃない。何とかしてよ!!」
「確かにそうですね。私も流石に、雪が降るぐらいの密度でこの結晶が降りだしたら避け切れません。その前に原因を懲らしめないといけませんね。まぁ、これはこれでスクープには違いありませんが、異常気象の原因が妖怪の類だったというのは読者の皆さんもいい加減マンネリに感じているでしょうし…」
「そんなことはどうでもいいわよ! それよりも!!」
解ってますよ、と文は葉団扇を取り出した。

 風符「風神一扇」

下の雪原に向かって強風が起こる。その風によって積っていた雪があたりに吹き飛んだ。吹き飛んだ雪の中には…

「ここは私のテリトリー。雲を発生させてその水蒸気で雪を降らせるぐらいどうってことないわ」

雪原の雪を吹き飛ばしたそこには、腕を組んで文を見上げるレティがいた。相変わらずニコニコしている。
それにしてもあの風の中で立っていられたなんて、やっぱりレティは重たいわね。

「あんな大きな氷の結晶は既に雪とは言わないでしょう。どう見てもそっちの方が問題です」
「そんなの簡単よ? 結晶が形成される速度は雲を形成する水蒸気の濃度で決まるのだから。確かに私はぶ厚い超飽和水蒸気層を呼んできたわ。けれど、この結晶はその結果の副産物に過ぎない」
「副産物…ま、まさかッ!」
急に辺りが湿っぽい冷たさになる。これは、雲の中に入ったときのような感触。
「チルノ、今よ!」
「え? …あ、ああ!!」
そういえば、合図があったら文をシャーベットにするんだった。なんだか良く解らないけど、とりあえず…

 凍符「パーフェクトフリーズ」
 寒符「コールドスナップ」

あたいとレティのスペルカードを避けようと、文はいつもの俊足で飛ぼうとしたけどそれよりも空中を伝わる冷気の方が早く、文は体内の水分が凝固してシャーベットになった。
ひゅー…ズボ、と文は吹き飛ばしたにもかかわらず未だ残っている雪の上に落ちた。

「バカね、自分で扇いで下降気流を作った癖に。比熱の大きい水はより強力に体温を奪うわ。…さ、カメラを拝借しましょう」
「え、ええ…」

こいつは敵に回さない方がいいかも。と、そう思った。




「さて、それじゃ写真を撮りましょう。でも、普通に撮ったんじゃ面白みにかけるわねぇ…チルノは、誰か気に入らない人とか居ないの?」
「え!? いや、そんなこと急に言われても」

凍っている文からカメラを借りたレティは、何故かあたいの写真を撮りたがろうとしていた。どうせなら自分の写真を撮ればいいのに。それに、気に入らない人?
「そうね。そういえばこの前紅魔館のメイド長に追い掛け回されたわ。ちょっと館に入ってみようと思っただけなのに、あいつったら人間の癖に強すぎよ! あと刃物持った時の顔怖すぎ!!」
「まぁそうなの。で、その人はこの中にいる?」
レティはカメラと一緒にガメた写真をあたいに見せながら、この中に咲夜がいないか、と聞く。あたいはペラペラとその写真をめくっていく。
その写真は、巫女が賽銭箱を泣きながら磨いていたり、魔法使いが八卦炉で怪しいキノコをあぶりながら、そのキノコを見る目の焦点があっていなかったりと、怪しい風景ばっかりだった。
その中で、咲夜の写真を見つけた。

「あ、これだ」
それは咲夜が床に這いつくばって何かを探している写真だった。

「いいんじゃない。ちょっと貸してみてくれない?」
「うん」
あたいが咲夜の映っている写真を渡すと、レティは人差し指と中指に氷の板をくっ付けて、ジョキジョキと写真を器用に切っていく。

「あ、あー…それって、文がストックしてた結構レアな写真なんじゃない?」
「あそこで凍っているから、大丈夫よ」
レティは作業をしながら、ちょっと向こうで凍っている文のことを言う。
あたいはちょっと不安になって文の方を見てみる。確かに文は凍っていた……。
…パキッ
「ひっ」
「どうしたの、チルノ?」
「い、今…文の目が動いたような」
「あらそう、じゃあ急いで写真を撮りましょう。ほら、セッティングは終りましたよ。チルノはあそこに立って」
あたいは、そういう問題なのかな? と思いながらレティの言うとおりの場所に行く。

「えっと、もうちょっと右足を右前に出して…その方が手を踏んでるように見えるから。それと、もっとふんぞり返っている感じの方が雄大さが出ていいと思うわ」
「う、うん…」
ファインダーを覗きながら良く解らない指示をされる。でも早く帰りたかったのでとりあえず素直に聞いておく。
「うん。じゃあ撮るよ」

 カシャ



その後も、何かと指示されながら合計5枚くらい撮った。その撮影中にレティは、このカメラすごいわね~、とかなんとか言っていた。
「ねぇ、もうあたい帰りたいんだけど…」
「解ってるわ、私も連れて行ってくれるなら」
「というか、あんたあたいの湖知ってるの?」
「うーん、まぁそこまでは知らないけれど、この山を降りたらチルノの知っている所だと思うわ。とりあえず着いて来て」


レティの後を付いて行くと、次第に暖かくなってくると同時に、下の景色が見え始めてきた。地平線には、紅魔館がうっすらと見える。
「あ! あの館の側にある湖があたいの縄張りよ!」
「へぇー、随分立派なところなのねぇ」



それから、あたいはレティに蛙を凍らせる遊びを教えたりしながら湖へ向かった。
レティは、そんなことをしては蛙が可哀想だ、とか言っていたけど、いざやり始めると凍らせた蛙を割ってその額に尖った石を入れてから解凍し、やっぱりニコニコしながらユニコーンとか言っていた。レティのほうが鬼畜だと思う。
「…チルノは、おてんばなのね」
「え?」
「私には昔、おてんばで、だけど寂しがり屋の小さい従妹がいたわ。その子は小川で遊びたがっていたの。でも、小川で遊ぶと服が汚れるから怒られるでしょ? だから私は随分苦労させられたわ」
「ふーん、あたいには良く解んないけど、若いうちの苦労は買ってでもするものよ!」
「え、まぁ……そうね。というよりも、よくそんな言葉を知っているわね。偉いわよチルノ」
「ちょ、やめなさいよ! あたい子供じゃないんだから、頭撫でられたってあんたみたいにニヤニヤしないわよ、別に!」


そうこうしている間に、あたいの縄張りである、紅魔館を覆う湖にたどり着く。

「ここがあたいの湖よ! どう、素敵でしょ?」
「ええ、いい所ね。ところで下は随分と暑いのね」
「そりゃあ、今は夏だからね! 暑いのは当たり前じゃない」
「夏? ああ、そうだったの。道理で暑いはずね。実は私、暑いのには弱いのよ」
「ふーん、そうなの。まぁ、あたいもそんなに好きじゃないけど」
「だから、ちょっと休みたいの。それでチルノにお願いが有るのだけど、いいかしら?」
「何よ?」
「この手紙を小説を書いているような人に届けて欲しいの」
「小説を書いている人? そんなの、幻想郷にいないわよ」
「あら、そうなの? 困ったわねぇ…じゃあそうねぇ、手品師の人はいる?」
「…ま、いないことは無いけど」
「じゃあ、その人でいいわ。この手紙を届けて頂戴」
「え~」
手品師と言ったら、咲夜のことじゃない。こいつはあたいが咲夜のことを嫌いだってことをもう忘れたのだろうか?

「…でも、本当に妖精に会えるなんて思わなかったわ」
「え? どっちかって言うと幻想郷は妖精で溢れかえってるじゃない」
「そうみたいね。私、あの山から降りたことが無かったから。…私は妖精が居たらいいな、ってずっと思ってたの」
「そりゃ、どこにでもいるわよ。あたいもその妖精だし」
「とても素敵ね、羨ましいわ。私なんか、昔遊びに行くとき『妖精に会いに行く』と嘘を付いて遊びに出ていたもの。お母さんを納得させるために妖精の写真まで撮ったわ」
「お母さん? 納得??」
「とても放っておけない従妹に苦労させられた時の話よ。だから、実際に妖精を見るとあの時を思い出して」
「??」
「でもあなたは妖精に生まれてよかったわね」
「そうね。まぁ妖精で悪かったと思ったことはないわね」
「そう――」

レティはニコニコしながら、あたいの方をずっとみつめている。今は昼と夜との間の時間――たがそれ時というのよ――なので、夕日を背に向けたレティの顔は湖が反射する光によって、ほんのりとだけ照らされていた。
その優しい視線は…何か、懐かしい感じがする。けれど、思い…出せない。

「それと、もう一つお願いなんだけど、この湖のちょっとだけでいいから私のテリトリーにしてくれないかしら?」
「でも、あんたあの雪山が自分の縄張りなんじゃないの」
「あそこじゃ、いちいちチルノに会いに来るのに時間がかかっちゃうじゃない。遠すぎるわ」
「じゃあ、あたいが倒した妖精たちの縄張りをあげるよ。そこはあたいの縄張りからかなり近い」
「ありがとう。これでチルノとまた会うことができそうね。…じゃあ、私は少し休むから、その間に手紙を手品師の人に渡してきてね」
「まぁいいけど、一体何の意味があるの?」
「一種の降霊術(テーブルターニング)よ」
「降冷術?」
「うーんと、例えば会いたかった人が目の前に居ても、自分のことを全く忘れているんじゃ会った事にはならないでしょ? 思い出してもらわなくちゃいけないわ。そのためには、昔と同じ事をしてみるとかね」
良く解らない。レティは言葉巧みにあたいをはぐらかそうとしているみたいに思えた。ええっと、こーいうのってなんて言うんだっけ? 悪役? 違うわね……そうよ!
「あんたって、黒幕みたいなやつね!」
「く、黒幕?」








あたいはそれから、紅魔館の門番に手紙を託けて(別にメイド長から逃げてるわけじゃないわよ?)湖に帰った。けれども、そこにはレティは居なかった。


この後、何故か咲夜に追い掛け回されることになる。全く身に覚えが無かったけど、なにやら写真がどうとか言っていた。
後になって考えると、その写真ってレティがあたいを撮った写真のことだと思う。レティが咲夜に渡した手紙には、きっと写真が入っていたんだろう。

そう! だからあいつに、レティに会ったら今度こそ文句を言ってやらなくちゃ気が修まらないわ。全く、どうやったら咲夜を怒らせるような写真を取れるのよ?
あぁ、そうだ! そういえばあの後、文からも復讐されたんだった。あたいは関係ないってのに。全部悪いのはレティじゃないのよ。


もうすぐ雪が降るだろう。そうすれば、あいつはあたいがあげた縄張りに帰ってくる。何故か前のことを忘れてるみたいだけど、初雪と共にレティは間違いなく戻ってくるのだ。

「あー、早く雪の降る冬にならないかなぁ」
「あれ、こんなところに写真が?」
年末という事もあって、ヴワル図書館では小悪魔が本の整理をしていた。
「どうしたの?」
「いえ、パチュリー様。実はこんなものが」
「…これは昔咲夜に宛てられた封書に入っていた写真じゃない。咲夜が湖の氷精に負けて手を踏みつけられてるところ」
「違いますよ! どう見てもコラージュじゃないですか」
ヴワル図書館の魔女は、最近手に入れた、咲夜曰く稀少品であるという眼鏡をかけた。
「こ、これは……!」
「ど…どうされました?」
「これはまさしく、≪コティングリー妖精事件≫ね」

# 12/20 加筆修正しました。
CEn
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コメント



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2.無評価nanashi削除
鬼畜黒幕♪
10.無評価スカーレットな迷彩削除
チルノ力www
チルノが必死に説明するところがとても好きです
11.80スカーレットな迷彩削除
点数忘れた↓
12.80徹り縋り削除
なるほど元祖コラージュは幻想郷入りってことですか
15.100nanashi削除
>鬼畜黒幕
点数入れ忘れました