※前作『咲夜と手品師の秘技』を読んでおくと、当社比1.5倍楽しめます。
常に咲夜の弾幕をイメージしてお楽しみください。
私はその世界でいつも独りだった。
ほんの僅かにずれた世界。
写真の中に入ったような世界。
ある瞬間を切り取った、停止した世界。
誰も何も動かない世界。
不自然に、あるいは滑稽に凝固した世界。
『それ』は私の力が創った世界。
その世界の支配者は私。
そこではナイフも私を傷付けられない。
そこでは炎も私を脅かせない。
そこでは何者も私に抗えない。
だから私はそこに逃げ込んだ。
そこでは誰も私を認識できない。
そこでは誰も私に話し掛けられない。
そこでは誰も私の言葉を聞けない。
だから私はそこを逃げ出した。
私はその世界でたった一人の頂点であり――たった独りの住人だった。
その世界は物心つく頃には私と共にあった。
泣く時にはそこへ逃げ込んだ。
寂しくなってそこを逃げ出した。
そこは私だけの密室だった。
その頃はその程度にしか考えていなかった。
その世界は、この世界の私に利を与えるものだと気付いた。
刹那の時間でも私はあらゆる事を支配する王になる。
それはいつしか他人をして私を神童と呼ばせた。
両親は私を誇りだと言った。
この世界での期待と必然が、その世界へ私を誘った。
この世界での嫉妬と羨望が、その世界で私を泣かせた。
この世界での私は、冷静で瀟洒な神童。
その世界での私は、泣き虫で平凡な小娘。
二つの世界を繋ぐ糸は、私を決して自由にはしてくれなかった。
きっかけは何だったのだろうか。
この世界の私が完璧すぎたからだろうか。
この世界の私が泣かなかったからだろうか。
覚えたての手品を披露して見せたときの挙動だろうか。
誰にも教えなかったことなのに。
誰もわからないはずのことだったのに。
でも、いつかはそうなる気がしていた。
――手足が伸び始めた頃、私の力がばれた。
一度ばれてしまえば、後は早かった。
流石と言うべきか、大人は――私以上に――私の力の弱点をわかっていた。
つまり、不意打ちには対抗できない。
悪魔、魔女、鬼子、そして卑怯者。
罵倒に目覚めて目に入ったのは、平凡な牢と頑丈な足枷だった。
――ああ、なるほどね。
時を止めたところで、小娘の力ではこの枷は外せない。
静かに理解した。
――私は思ってたよりずっと、無力だった。
最初の二月はいろんな人が私を訪れた。
この世界でかけて貰える言葉は、ほとんど変わらなかったけど。
父親は牢屋越しにステッキで私を打った。
母親は頭を掻き毟って私に呪いの言葉をかけた。
――ごめんなさい、おとうさま。咲夜は悪いことをしました。
――ごめんなさい、おかあさま。咲夜はおかあさまを裏切りました。
誰も私を責めないその静寂の世界で、私は独りで泣いた。
人が誰もこなくなった。
ずっと同じ景色。
ずっと同じ静寂。
私はこの世界では泣かなかったつもりだけれど、『ここ』は『どちら』の世界だろう。
試しに時を止めてみた。
ずっと同じ景色。
ずっと同じ静寂。
時を動かしてみた。
ずっと同じ景色。
ずっと同じ静寂。
わからない。
私は、どちらの世界で泣けばいいんだろう。
私はどちらの世界で人を待てばいいんだろう。
――すいません。誰かいませんか。
――どなたかいらっしゃいませんか。
――誰か応えてくれませんか。
静寂。
もしこちらが『その世界』なら、私は永遠に待ち続けないとならない。
身体が震える――寒くなんかない!
――誰か応えて。
――誰か来て。
――誰か。
静寂。
カチカチと歯が鳴る。
うまく声が出せない。
曳きつく喉を抑えてうずくまった。
暗い。暗い。暗い。
怖い。怖い。怖い。
――誰か――
――時を、教えて――
気が狂う――いや、狂っていただろう。
だけど、私は見つけた。
伏せた視界の中で確かに――時を刻む月影を。
僅かな石牢の隙間から射す、か細い光の筋。
ほんの十数秒、床に青白い影を落とし、消えた。
それはつまり、月が動いていること。
――ああ、ここはこちら側だ――
私は安心して、意識を手放した。
私は救われたのだろう。
気まぐれにしか約束を守らないその友人に。
たった十数秒、晴れた月夜のみ役割を果たすその月時計に。
それ以来私は『その世界』へは行かなかった。
怖かったのだ――ただ、怖かった。
それから三年を月時計を見て過ごした。
幽閉から四年になろうかという秋、私は突然罪一等を減じられた。
どこかの誰かが保釈金に保証金まで払って、私の身柄を引き取るという。
――つまり、私は売られた。
私は自分でも意外なほどに――両親に詫びていた。
名門とまでは言えないが、私の家は決して恥を売ってまでお金に困る家ではなかったはずだった。
――ごめんなさい。おとうさま。おかあさま。
私が壊したのだ。
ああ、良かった。
こんな私が今一度、両親のためになれる。
幸せだ。きっと私は幸せだ。
――だからほら、こんなにも涙が出る。
話を伝えに来た牢番は、顔をしかめて私を見た。
伸びたままの銀髪、くすんだ肌、痩せ衰えた身体。
――涙に濡れた紅い瞳――
牢番は私を直視しないまま、何か言っておくことはないか、と訊いた。
それは哀れみか情けか罪悪感か。
遠慮しようかと思ったが、私はこの幸運に賭けてみようと思った。
――時計が、欲しいです――
牢番は少し考えた後、詰め所から一つの懐中時計を持ってきてくれた。
それはとても平凡な物だったが、大切に使われていた事がわかる古い物だった。
もう古くなったからやるよ、と牢番は私にそれをくれた。
十数年使っていたらしいそれを、こんな罪人にくれた牢番の彼に、私は疲れて眠るまでありがとうと言い続けた。
知らない町。
知らない屋敷。
知らない新しい主人の元で、私は奉公をする――はずだった。
屋敷に入った私はすぐにバスで身体を洗われた。
髪を整え十分に梳り、爪を整え、香草の液を肌に塗りこみ、奉公服を着せられて――
――また、鎖に繋がれた。
わからなかった。
私は奉公に来たはずだった。
確かに私は罪人だが、まだお仕置きを受けるような事は何一つしていない。
私は理解していなかった――無知だった。
私がする『奉公』の意味を全く、私は知り得なかった。
身体に張り付くほどきつめの奉公服と、首に繋がれた鎖の意味がわからなかった。
午後七時――小さな灯りの中で時計を確認した直後、扉が開かれた。
後はよく覚えていない。
捕まれて、振り払って、弱った手足では振りほどけなくて。
叫んで、殴られて、血の味がして。
暴れて、奉公服が引き裂かれて、懐中時計が手を離れて。
怖くて。怖くて。怖くて。
怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。怖くて。
――懐中時計が踏まれて、私が、叫び声をあげた――
懐かしい感覚。
世界がカチリと音を立てて切り替わる。
――ああ、『それ』は『私の世界』だ――
『こないで』
叫びに空間が応えて男と――そう、男だった――と私の間を無限の距離に置き換える。
これで、届かない。
『もどれ』
嘆きに時間が応えて、壊れた懐中時計の針と共に、私の服と時計が二分前に戻る。
逃げよう――でもこの身体じゃあ――
『もっともどれ』
祈りに世界が応えて、狂ったように懐中時計の針が戻る。
身体は一回り小さい四年前の――囚われる前の――健康な身体に戻る。
鎖が邪魔。
『うんとすすめ』
願いに全てが応えて、異常な速度で時計の針が進む。
錆びて朽ちて、鎖が落ちる。
――武器が要る。
『こい』
命令に応えて、手にナイフが現れる。
四年前、ずっとジャグリングを練習したナイフ達。
――敵を、倒す。
距離は――意思に応え――ダーツ投げと同じ程度。
前に向かってナイフを――投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。
投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。
投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。投げた。
ヒトガタに当たった。当たった。当たった。当たった。当たった。当たった。
当たった。当たった。当たった。当たった。当たった。当たった。当たった。
ヒトガタが跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。
踊るように跳ねる。踊るように跳ねる。踊るように跳ねる。踊るように跳ねる。
踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。踊る。
踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。踊れ。
――踊れ――――――!
停止した時間の中でヒトガタが踊る。
既にナイフの数は数えられない。
刺さるナイフで神経を刺激され、ただの反射でヒトガタが踊る。
倒れない――縫いとめられた時間では倒れられない。
それはまるで操り人形のように不自然に、滑稽な踊りを踊る。
半狂乱になってナイフを投げ続けて、とうとう息があがった。
それでもナイフは殺意と共に手に現れる。
どうして倒れな――ああ、そうか。
『うごけ』
そして時は動き出す。
糸が切れたようにヒトガタは倒れ臥した。
――はぁ――はぁ――はぁ――
息が荒い。
開きすぎて目が痛い。
腕は疲労でもう上がらない。
何をしたのかわからない。
わからないと思う。
ヒトガタは知らない。
女の叫び声が上がった。
人が集まってくる。
何が起きているかわからない。
わからないが――逃げないと。
それだけははっきりと自覚できた。
『とまれ』
時計が、銃弾が、刃物が、ヒトガタが、止まる。
――踊れ。
八方に放ったナイフが標的に向かう。
軌道は出鱈目。
『ゆがめ』
空間が歪んでナイフの軌道が変わる。
ヒトガタが踊る。
曲目は紅い円舞曲八重奏。
紅い円舞の中央で、ナイフを携えて踊る。
両手を広げて狂々と。
青の奉仕服はいまや紫。
踊り踊れ、私も踊るよ。
操り人形は私が繰ろう。
殺人人形は私が演ろう。
踊り踊れよ狂々と。
――見れば紅、もう終幕。
『うごけ』
残るは私ただ独り。
――時間も空間も私のもの――
――私は自由に――
逃げた。逃げた。逃げた。
時間を渡り、空間を越えて逃げ続けた。
もはや今いるのがどちらの――いやどの世界なのかわからない。
三日三晩休みなく逃げ続けて、どこかに着いた。
大きな湖。
なんとなく、遠くまで――誰も来れない遠くまで来た気がした。
疲れていた、とても疲れていた。
巻き戻しても進めても、身体はともかく目が痛い。
力を使うことで消耗しているのは確かだった。
目が痛い。
疲れているんだ、それとも紅い色を見すぎたせいだろうか。
――ほら、とうとう月まで紅く見えてきた――
「あら、可愛らしいお客様」
世界が、悲鳴をあげた。
私の世界が、悲鳴をあげた。
全てが私のものだった世界が恐怖に軋んで絶叫している。
「貴女は外の人かしら? 幻想郷へ、紅魔館へ、生身の自力で来れるなんて凄いわね」
怖かった。
理由もなく。
紅い月を背負う少女が、たまらなく怖かった。
「紅い悪魔の庭へようこそ、お嬢さん。貴女とは特別な縁があるようね」
――悪魔? 悪魔って言った?
力が抜けた。
震えもない。
くすり、と笑みがこぼれる。
「あら? 何か気に障ったかしら?」
悪魔は私、でしょ?
瞳に力を込める。
両足で地を蹴って立ち上がり、両手にはナイフを呼ぶ。
「凄いわね。非生物とはいえ瞬時に複数を召喚。ほんとに人間かしら?」
「生憎ね。紅い悪魔さん。私も悪魔なのよ」
「そうなの。奇遇ね。そういえばいかにもな服装ね。貴女も少食なの?」
「一つだけ訊くわ。ノーならさようなら」
「楽しい悪魔さんね。イエスなら?」
「その瞬間にじっくりと考えるわ」
「ほんとに楽しい悪魔さん。どうぞお尋ねくださいな」
「紅い悪魔のお嬢さん、貴女は私を縛る人?」
「人で悪魔のお嬢さん、私は縛る事しかできないわ」
『とまれ』
時計が、時間が、世界が止まる。
『たくさん、こい』
ナイフを投げる。
紅い悪魔の姿が見えないほど。
『ゆがめ』
空間が歪む。
ナイフが悪魔の体を完全に包囲した。
『うごけ』
そして時は動き出す。
「さようなら」
ナイフの球が閉じた。
そう思えるほどに一点に全てのナイフが殺到した。
悪魔も人もなく、これで終わり。
――のはずだった。
「ああ、驚いた。貴女凄いことができるのね。切り裂きジャックも形無し」
抱えるほどのナイフの塊のすぐ隣。
紅い悪魔が変わりなくそこにいた。
「時間停止に空間操作。時空の支配なんて知り合いの魔女でもできないわよ」
尋常じゃない。
並みの化け物どころじゃない。
「でも無理よ。あなたのナイフは私を殺さない。そう見えてるもの」
――ならば。
『こい』
さらに召喚。
「無理だってば」
――投げる、そして。
『すすめ』
時計の針が見えないほどの速さで進む。
手から離れたナイフは、それこそ瞬間移動の速度で悪魔に迫る。
狙いは甘いが、これは見てかわせない。
「見えてるんだってば。ナイフの軌道は私のと交わらない。でも――」
それでも悪魔は涼しい顔で前へ出てくる。
「――時間の先送りまで――なるほどね。その時計は貴女のドッペルみたいね。それを触媒にこんな無茶ができるわけ」
どれほど時間を操作してもナイフは当たらない。
――間違いない、この悪魔には私の見えない何かが見えている。
私が『その世界』を見れるように。
それを見極めなければ当たらない。
「ドッペル?」
会話に乗ってみる。
疲労が激しい。
息をつくタイミングが必要だった。
「知らないで使ってたの? その時計は貴女と運命を共にする存在なのよ。同じ時に生まれ、同じ時に生き、同じ時に死ぬ。同じ過去を刻み、同じ現在に在り、同じ未来に至る。貴女の時空操作は、その時計と貴女の二重存在が摩り替わって起こす奇跡なのよ。――見えるわ。貴女と全く同じ運命の流れが」
「これが――私と共に在るもの・・・?」
まさか――私は偶然にこれを手に入れたはず。
一瞬、紅い悪魔の瞳が私の目を覗き込んだ。
「――そう。縁は奇なるもの。私はそれを読み、操り、契約し履行する」
一歩。
思わず足が下がった。
「運命を繰る紅い悪魔。幼きデーモンロード。紅い月の吸血鬼――レミリア・スカーレット」
『こないで!』
紅い悪魔が無限遠に飛ぶ。
「無駄。私に距離は関係ない。既に貴女との縁を掴んだわ」
声だけがどこまでも追ってくる。
怖い。
『とまれ』
「時間も無意味よ。因果は全てを繋いでいるわ」
停止した世界で、私の独りだけのはずの世界で、私以外の声が聞こえる。
ここですら、私は独りではいられない。
怖い。
「――さあ、鬼ごっこの始まりよ。逃げてみせて。私は追うわ。もちろん捕まったら――鬼になってもらうわよ――」
逃げた。逃げた。逃げた。
時間を越えても。
空間を渡っても。
追われている実感がある。
独りじゃない実感がある。
私がどれほど独りになろうとしても。
ずっと服の裾を掴まれているような感覚がある。
独りになれない。
怖い。怖い。怖い。
独りにしてくれない。
怖い――笑ってしまうほどに。
足を止めた――感覚的に。
とっくに追いつかれている。
「出てきな」
「あら? もう終わり?」
「ええ。ここで終わり」
「あら、潔いわね。ちょっと物足りないけど」
「紐を掴んだままの鬼ごっこなんて反則よ」
「そうかしら」
「だからね」
「でも、せっかくだし」
「断ち切らせてもらうわ、紅の運命!」
「絡め取ってあげるわ、銀の刃!」
『いっぱい、こい』 『すすめ、すすめ、すすめ』
形を成してすらいない何かを大量に召喚。
極大の時間加速を加えて、解き放つ――!
『紅の霧に染まれ』 『紅き先達よ来れ』
世界が紅く侵食される。
さらに悪魔の周囲に、もっと濃密な紅が幾つも現れる――!
叫んだ。
体の奥から全てを吐き出すように。
殺されるのが怖かったから。
勝てないのが悔しかったから。
鬼になるのが悲しかったから。
独りじゃないのが嬉しかったから。
全部出し切れるのが気持ちよかったから。
鬼ごっこが本当に楽しかったから――
「気分はいかがかしら、お嬢さん」
「――悪く、ない」
――カチ
「あら、それは良かった。じゃあ、鬼になってもらいましょうか」
――カチ
「・・・・・・・・・ぃ・・・・・・ょ・・・っぐっ!」
血で咽た。
仰向けに倒れ、手足は動かず、内臓が幾つか死んでいる。
目は痛いし脳は沸騰しそう。
しゃべろうとすれば咽ておかしくない。
私は、それでも一つ、この悪魔に言いたい事があった。
――カチ
「辞世の句? 聞いてあげるわよ」
悪魔が屈んで私の口元に耳を寄せる。
私がもう動けないことをよくわかっているようだった。
――カチ
「・・・・・・・・・ぃ・・・・・・ょ・・・」
――カチ
「なあに?」
――カチ
思わず私の口の端が上がった。
悪魔が目を見開いて体を引く。
――が、遅い。
「ミスディレクション、だ」
――カチ
紅くて暖かいものが私の体に降りかかった。
目の前の悪魔の胸からは、一本の銀のナイフ。
さっきの撃ち合いの前に投げておいた、遥か遠方からの超加速ナイフだった。
目を見開いて悪魔が傾いた。
――カチ
悪魔の口が、信じられない、と動いた。
――カチ
悪魔の膝が折れて。
――カチ
私に覆い被さるように倒れこんだ。
――カチ
ああ、疲れた。
――カチ
なんで鬼ごっこなんてやってたんだっけ
――カチ
眠、い――
――カチ
時計はそのまま、時を刻みつづけた。
目が覚めると、お屋敷だった。
「――――――え?」
さすがに言葉を失った。
殺し合って相討ちになって死んだはずが。
二人とも――一人と一匹?――生きている。
「おはよう、お目覚めはいかがかしら?」
さらに和やかに挨拶されてしまった。
「死んだ――はず」
「私のことなら、銀のナイフで刺されたくらいじゃ死なないわ。貴女のことなら、うちには優秀で便利な魔女がいるの」
「どうして――?」
「その前に、訊かせてもらうわ。昨夜はどうだった?」
考える。
とてもとても怖かったけれど――結局のところ――
「――――楽しかった――ような気がするわ」
そこでこの悪魔は、にこりと、とても可愛らしい笑みを浮かべた。
「ようこそ紅魔館へ。私が貴女を気に入ったから、貴女は今日からここの住人よ。貴女は何をする人かしら?」
「――悪魔」
「これ以上いらないわ」
「――魔女」
「それも間に合ってるわね」
「――――メイド」
「ええ。それでいきましょう」
「はい。お嬢様」
私は停止した時間の中で、紅魔館の掃除をする。
「咲夜、紅茶をもらえるかしら」
「はい。かしこまりました」
姿無き主の声は、今日もこの停止した時間の中で私に届く。
私の誰も立ち入れない個室には、今では少女趣味な糸で繋がった電話がある。
お嬢様曰く、縁、というものらしい。
懐中時計を片手に紅茶を淹れて、程なくお嬢様を見つけた。
「紅茶をお持ちしました。お嬢様」
「あら、私は居場所を教えたかしら?」
「いいえ。でも見つけますよ。私は鬼ですから。」
スペルの表現もカッコイイ。
満点は「その上がない」と言う意味と考えているので。
今まで読んだ中で最高の東方SSです。
最初に牢へ入れられたときに、何かしたのでしょうか。能力を恐れて牢に入れたと解釈していたのですが、買われた際に保釈金などの言葉が出てきて違和感を感じたものでして。罪を犯していたのでなければ、出てこない単語だと思います。
素敵な時間をありがとう。
その言葉を二つ名に頂く咲夜さんを、見事に「完全」かつ「瀟洒」に表現し切ったお話でした。
素晴らしい、の一言に尽きる。
これは凄い、の一言です。
レミリアも咲夜さんも文章も
こんな素晴らしい作品に出会えるから古い作品を漁る事はやめられない。
それでもやっぱりこの作品は最高です。咲夜さんが好きだから余計に。また、こういったものを書いてくださいね。
たった。思わずipodでセプテット流しちゃったよ!
上手い!
鼻血が垂れそうになった部分を挙げようとしたらキリがなかった
これが6~7年前の作品であることがまた怖い、そして面白い
そして運命操作の解釈が活かす
この感情をなんと申しあげればよいか分からなくて辞書を調べたが言葉が見つからない。
名作は色あせませんね
見習いたいです