相変わらずだ、と、入った瞬間に思った。
神社の境内は片づいているようだが、掃除まではできていない。よくみるとあちこちに埃がたまっている。
「・・・・あの子達は。祀られる方の身にもなったらどうだい」
ま、祟り神はそんなこと気にしないけどね。怪しげな理屈でまとめてしまい、私は上がり込む。その時、
「大きなお世話だぜ。魅魔様んとこだっていい荒れっぷりじゃないか」
奥から声が。いないと思いこんでいたので、ちょっと驚いた。
「まったく・・・・しばらく見ないうちにいろいろ言うようになったね・・・・魔理沙?」
「・・・・は?魅魔様、何言ってんだい?」
しかし返ってきたのは間抜けな声。奥から出てきたのは・・・・
「霊・・・・夢・・・・?」
思わず口から出た言葉に眼前の──紅白の巫女はますます変な顔をする。
「だから違うって・・・・。ったく、もしかしてもうボケたのか?」
誰がボケたって、と怒鳴ろうとした瞬間。ああ──と思った。こんな大事なことを、なんで今まで忘れて
いたのだろう。
「ああ、来た早々で悪いけどさ、用事ができたから帰るよ」
「・・・・へ?ちょっと魅魔さ・・・・」
巫女が慌て始める前に、私は神社から飛び去っていた。
「ここも──相変わらず、だね」
神社の周りにはいくつも山があるが、それでも幻想郷中を見下ろせる山はそう多くない。私はその一つの
上にいた。
かっぱらってきた・・・・もとい、借りてきた箒で、あたりを掃く。落ち葉があまりに積もり放題だ。期待は
してなかったけど。
「──自分の子と・・・・弟子のしつけぐらい、きちんとやってからにして欲しかったね」
口から自然に愚痴が漏れる。わかってるんだけど・・・・つい、ね・・・・。
ひととおり終えると、半ば埋もれていた二つの石が上に出てくる。持参の酒を出した。口をつけてみる。
少し、甘い。
・・・・ちょっと待った。こんなに甘い酒があるのかい?
「・・・・変わったもんになっちゃいないはずだけど、まあ気をつけて飲みなよ」
そう言って、酒をその石の上にかけた。それからもう一つに。酒で表面が洗われ、刻まれた文字が浮かぶ。
「・・・・なんだい、嫌そうな顔だね。顔を見に来ちゃダメだってのかい?」
文字を見ながら話しかける。相手なんていやしない。それでも私には、口をへの字に曲げてるあいつらの
姿が見える。
「ふん、あたしだってそう何回も来やしないよ。今日は特別だろ?」
憎まれ口を叩いても、目の前が滲んでしまいそうになる。ったくかっこ悪い。でも仕方ないか、とも思う。
だって・・・・。
「魔理沙だってそう思うさ。あっちで聞いてみな。霊夢はあたしにつれなすぎるって」
だって・・・・。石に刻まれてるのは、「あの二人」の名前なんだから。
口をつけた酒は、少ししょっぱくて──苦かった。
「あら、魅魔じゃない。ついに祭殿から追い出された?」
「言ってくれるねえ、そう言うあんたは完全に場違いじゃないか」
「部下の弟子を悪く言うといいことないわよ」
そういってずず、とお茶を飲んだ。そんな彼女の格好は──白黒。
「あ~!魔莉紗、なに私のお茶飲んでるんだ~!!」
「いいじゃない霊玖。細かいこと気にすると成長が止まるわよ」
出てきた巫女にしれっと返す。・・・・この性格は誰に似たのかねえ。なんというか、心当たりがすっごいあ
るんだけど。
「お前には言われたくないな。お師匠さんと同じぺったんこのくせに」
「あら?あなたとあなたの母親よりは成長してたと思うけど?」
ぴき、と音がした気がした。ああ、こんなときは大抵、
「弾幕らないか?」
「上等!あんたが負けたら夕食寄越しなさいよっ!!」
聞き慣れた──懐かしい──セリフとともに、二人は空へと上がっていく。私はそれを見送って、そっと
呟いた。
「二人とも・・・・見てる? あの二人、昔のあなた達みたい・・・・」
見えない向こうから、あの子達の苦笑いが流れてくる──気がした。