<注意>まず初めに述べておくが、この作品の主人公はメルランである。
創世記に曰く、まず始めに言があった。闇があった。
主は言われた、「ガチャピンwwwテラ漢ラシスwwww」
ガチャピンがあった。ムックがあった。「ムックと」ガチャピンではなく、「ガチャピンと」ムックがあった。
ペギー葉山はそれを見て、よしとされた。
たまらぬ第一の日であった。
閑話休題。
独騒 第二小節
大晦日を目前に控えた、ある冬の日のことであった。お馬鹿な氷精が逞しすぎてバンジャイしちゃうほどの寒さにも関わらず、騒霊三姉妹の次女メルラン・プリズムリバーは、フリルをたっぷりとあしらった白いドレスをヒラヒラと舞い躍らせながら、いかにも、私絶好調ですというかのようにフワフワと飛んでいた。「絶好調もなにもないぜ、メルランは常にハイだろ」などと、幻想郷一の盗人がのたまってくれやがったりするが、メルランにも調子の悪い日くらいある。まあ、そのなんだ、ようはあの日である。分かるだろ?
ほんの数日前まで、そんな絶不調の谷の底を彼女は痛い痛いと言いながら飛んでいた。その間、姉を自慢のトランペットでホームランしたり、妹を日記でモズグズったり、さらには仕事の依頼に来た白玉楼の苦労人、魂魄妖夢をロードローラーだ! したりしたのであるが、「なんだ、いつもと変わらないじゃないか」などとは言ってはいけない。彼女は本当に絶不調だったのだ。彼女自身が言うのだから間違いない。
そんな灰色の日々を送っていたということが信じられないほど、彼女は好調だった。好調すぎて、姉をお空にHAIKUしたり、妹をピアノの鍵盤にみつしりと詰めたり、さらには、役に立たない従者に代わって、仕事の依頼に来た白玉楼の主、西行寺幽々子をあひゃらららと重いコンダラでマッサージしたりしたのであるが、いつものことなので誰も気にしていなかった。
ちなみに、プリズムリバー三姉妹を良く知る者達の間では、ルナサが絶好調の時のほうが危ないという見解で一致していた。半年ほどまえのある夏の日、妖夢がそれで酷い目に合わされたのである。
お盆も終わり、此岸に帰っていた幽霊達が冥界に戻ってきた。その時幽々子が、此岸の土産話を肴に一杯飲もうではないかと言い出した。突然の申し出であったが、楽しい事の大好きな白玉楼の住人がそれを拒むはずが無い。そうだそうだ、宴会をしようということになり、宴会に華を添えるための演奏の依頼をしに、妖夢はプリズムリバー三姉妹の元を訪れた。実に運の悪い事に、リリカがソロライブで出かけ、躁状態のメルランが「おきゃあああ、私のトランペットを聞いて~♪」と外に飛び出してしまっていたため、その時妖夢の応対をしたのは絶好調なルナサだったのだ。
普段、ようは鬱状態ならば、呼び鈴をならすとルナサが景気の悪そうな顔して現れ、「やあ、いらっしゃい。妖夢」と挨拶をしてくる。大抵パンツルックで、上下ともに黒を基調とした、よく言えばシックな、悪く言えば地味な服装である。さらに言えば、私根暗でーすと言わんばかりに下着も黒なのであるが、それを妖夢が知るはずも無い。話を元に戻そう。いつも通り妖夢が呼び鈴を押し、ルナサが玄関に出た。いつも通りの、いつもの光景のはずであった。しかし――
「おはよう、妖夢」
「どっしぇえ!」
妖夢は驚いた。自分の知人がスケスケのネグリジェ姿で出てくれば誰だって驚く。息子は喜ぶ。だが悲しいことに、妖夢は男の娘ではなかったから、息子は喜ばなかった。
閑話休題。
ルナサはスケスケのネグリジェに身を包んでいた。ブラジャーはしていない。薄いピンク色の生地を通し、より鮮明な赤い突起が透けて見えていた。使い込まれていないらしかった。下は、白のショーツだ。前面部に取り付けられた赤いリボンがアクセントとなっている可愛らしいものである。繰り返すが、妖夢は本当に驚いた。「ルナサ! 一体全体何て格好してるのよ!」だの「露出狂なの!? 露出狂になっちゃったの!?」だの言いたい事はいくらでもあったのだが、うぶなネンネであるところの妖夢は、ただ赤面し黙りこくるだけであった。ああ、可愛いなもう。
閑話休題。
しかし、ルナサの方はというと、そんな妖夢の様子も気にしていないと言った風に、とてもとても色っぽい声で
「入って、妖夢」
と言った。ルナサは声楽の方もいけるらしかった。男なら即座にピンコ立ちしてしまうような声だった。妖夢すら体がむずむずとしてしまった。実は妖夢は気がついていなかったが、妖夢にはそのケがあるらしかった。
閑話休題。
妖夢は応接室に通された。ここは、幸いな事にいつも通りだった。ところが、妖夢がソファーに腰掛けた所、ルナサが隣に座ってしまったのである。普通、こういう時は対面に座る。この日のルナサは普通ではなかった。しかし、だからといって座りなおすのも変なので、妖夢はそのままじっとしていた。宴会の話をきりだすわけにもいかず、しばらく部屋を沈黙が覆った。沈黙を先に破ったのは、ルナサだった。
「汗、かいちゃったでしょ?」
「ええ、まあ」
妖夢は困っていた。どうも調子が狂う。相手のペースに呑まれてしまう。妖夢は本当に困っていた。と、その時――
た。
れた。
された。
倒された。
し倒された。
押し倒された。
に押し倒された。
サに押し倒された。
ナサに押し倒された。
ルナサに押し倒された。
妖夢はルナサに押し倒された。
ソファーの大きく軋む音。ルナサの体の、どこかひんやりとした感触。妖夢は混乱していた。あるのは、淫靡な笑みをたたえたルナサの顔。感じるのは、どこかひんやりとしたルナサの体温。香るのは、甘ったるいルナサの体臭。妖夢は、五感のほとんどをフル稼働し、全身でルナサを感じ取っていた。
「ごめんね。驚かせちゃった?」
ルナサは言った。妖夢は、何も言えなかった。ただ、混乱していた。
「黙ってたら、判らないよ」
ルナサはぽつぽつと語った。
「驚きすぎてしゃべれなくなっちゃった? じゃあ、私がしゃべれるようになるおまじない、してあげる」
ルナサの顔が近づき――
「女の子だけの、おまじない」
唇と唇が触れた――
「!?」
妖夢の体が、瞬時に沸騰した。全身の神経が唇に集まっているかのように、衝撃が全身を駆け抜けた。
「えへへ、キスしちゃった」
肺が絞り上げられ、呼吸が出来ない。しゃべれるようになるもんか。これはとんでもない――
目を白黒させる妖夢を尻目に、ルナサは妖夢の手を取り、胸へと導いた。
「判るでしょ? 妖夢。私、こんなにドキドキしちゃってるの」
思ったよりも温かく、そして速い鼓動が手の平を通して伝わってきた。確かに、伝わってきた。
「私、妖夢が欲しい――」
「!?」
妖夢の混乱はピークに達した。欲しいって、それはつまり――
妖夢のベストのボタンを、ルナサは片手で器用にするすると外していった。もう一方の手で、スカートのホックを外す。しゅるりと音を立ててスカートが下ろされた。
「~~!?」
「ふふ、妖夢もこんなにドキドキしてる」
妖夢の胸に耳を当てて、ルナサが言う。世にも美しい声で言う。
ルナサの手がブラウスのボタンとドロワーズにかかった時、妖夢はついに爆発した。
「きゃああああああああ!」
ルナサを思いっきり跳ね飛ばし、肌ける服も直さずに、一目散にプリズムリバー邸を飛び出した。
妖夢は、この日レイプされかかったショックで情緒不安定となり、夜尿症を再発した。なぜこんなことをしたのかと問う幽々子に、ルナサはこう答えている。
「むらむらしたから襲った。妖夢だったら何時でも何処でも良かった。別に反省はしていない」
この言葉を聞いた幽々子は、ただ一言
「偉丈婦なり。されど、妖夢は我がおもちゃ」
とだけ言ったという。とんだ友人と主を持ったものである。
閑話休題。
さて、この話の主人公であるところのメルランはというと、ラッパを手にしてフワフワと飛んでいた。糞寒い冬の夜に何が可笑しいのかヘラヘラと笑いながら飛んでいた。澄んだ月光に照らされた彼女は、とても美しかった。気色の悪い笑みさえ消せば、であるが。今日、メルランは絶好調だった。絶好調すぎた。絶好調すぎるということは、すなわち調子が悪いということだ。彼女はいま、最高にハイってやつだった。ヤバイぐらいハイだった。そんな彼女がラッパを吹き鳴らせばどうなるか―― 想像するだに恐ろしい。
だが見よ!
メルランがラッパに口をつけ――
そして、メルラン・プリズムリバーが第一のラッパを吹いた。
紅魔館に、奇妙なラッパの音が響く。メルランのラッパの音だ。それを聞いて、紅魔館の主にして、永遠に紅い幼き月レミリア・スカーレットは「うるさいわね」とだけ言った。雪のように白い肌に、白い服を羽織り、豪奢な椅子に腰掛けて、夜の王は自室でワインを飲んでいた。傍らには完全で瀟洒な紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が控えている。きっちりとアイロンを当てた青のエプロンドレスをきっちりと着こなしていた。一見、普段と何も変わりなく見える。
しかし、違った――
レミリアの目の紅がいつもより深く、禍々しい。
躁の音を操る程度の能力――
メルランの能力により、気分が高揚しているのだ。こんな時は、無性に血が飲みたくなるものだ。だから、レミリアは咲夜に言った。
「咲夜、血が飲みたいわ」
「判ったわ」
咲夜の手元に瞬時にナイフが現れ、ためらう事もなく自分の指に切り傷をつけた。血が紅い玉となって結実した。咲夜はそれをワインに入れようとして――
「やめなさい」
止められた。
「今日はちょっと変わった飲み方がしたいの。ひざまづきなさい」
咲夜が言われた通りにすると、レミリアは立ち上がった。こうすると、二人の背はほぼ同じになる。レミリアの紅い瞳と咲夜の蒼い瞳が絡み合う。
「お嬢様?」
レミリアは咲夜の顎に右手を添え、顔を近づけ――
おもむろに唇を奪った。
「んんっ」
唇で咲夜の唇をついばみ、紅い舌で唇の合わさった所をねぶる。咲夜の唇を割り開こうと何度も何度も。何度かそうやっているうちに、咲夜がそれに答えた。唇を開き、遠慮がちに桃色の舌を突き出す。
二人の舌と舌が触れあい――
そして絡みついた。咲夜の手がきゅっとレミリアを抱きしめる。レミリアもまた、咲夜の背に手を回し、しっかりと抱きしめた。唇と唇をぴったりを密着させ、二人はお互いの舌を絡み合わせる。ピチャピチャという水音と、あらい鼻息、お互いの背を撫で回す衣ずれの音、そして己の血潮の音以外、何も聞こえない。
レミリアが口の中に溜めた唾液を、咲夜に流し込む。咲夜はためらうことなく、のどをこくこくと動かしてそれを飲んだ。背筋がざわつく。食道が、胃が、焼けたように熱い。下腹部がじんじんとし、頭がくらくらする。
それがとても―― 心地よい。
舌をねぶられるのが心地良い。
歯茎をなぞられるのが心地良い。
上顎を蹂躙されるのが心地良い。
頬の内側をこそげられるのが心地良い。
荒々しく聞こえるお互いの呼吸音が心地良い。
背を撫で回されるのが心地良い。
唇の周りが、唾液でベトベトであることすらもが心地良い。
全てが、心地良かった。
しかし、レミリアは唇を離してしまった。二人の間を、唾液が糸となってつなぐ。
「気に入らないな。咲夜ばっかり飲んでいるじゃないか」
「それは、お嬢様が――」
「うるさい」
ぴしゃりと言い放つ。
「口答えする狗は要らない。お前は私の言うとおりにしていれば良いんだ」
何も言っていないにもかかわらずこういうことを言う。たまらぬ理不尽であった。
「舌を出しなさい」
「はい」
そう言って、咲夜は舌を出した。息を荒げ、舌を突き出すその姿は、犬に似ている。レミリアは再び咲夜に顔を近づけ、牙でおもむろに舌を噛んだ。
「~~!!」
咲夜は慌てて舌を引っ込めようとするが、牙に縫いとめられてしまい、うまくいかない。痛みのあまり目が潤む。レミリアを抱く手に力が篭る。牙が抜かれると、舌に血が滲み出してきた。それをレミリアは舌先でぺろりとすくいとる。
「ん、美味しい」
そういって、レミリアは再び咲夜の舌に舌を絡めた。血と唾液をねっとりと絡め、すすり上げる。楽しげに、本当に楽しげにレミリアはその作業を続けた。
そして、メルラン・プリズムリバーが第二のラッパを吹いた。
冥界にメルランのラッパの音が響く。白玉楼。幽々子の部屋。そこで、西行寺幽々子と魂魄妖夢は向かい合っていた。幽々子の目には、涙が滲んでいた。
「幽々子様。あの方は、戻ってきません」
「――――」
「もう一度言います。あの方は、戻ってきません」
「黙りなさい!」
パシッと乾いた音が部屋に響いた。幽々子が、妖夢の頬を張ったのだ。
「妖夢に何が判るというの! 妖夢に紫の何が判るというの!」
「あの方の事など、何も判りません。けれども、これだけは判ります」
妖夢は、幽々子に正面から向かい、そして言った。
「あの方は―― 戻ってきません」
「うそよ! 紫が私のことを捨てるはずはないわ! いいかげんなことを言わないで! 紫は私の友達なの! 友達以上なの!」
「この世の物事は全て諸行無常。友情といえど、もろくも消え去ってしまうものなのです」
「黙りなさい! 黙れ! 黙れ!」
また、幽々子は妖夢の頬を張った。妖夢の口中に血の味が滲む。頬の内側が切れたのだ。普段、幽々子がこのように激怒する事はない。メルランのラッパにより、高揚しているのだ。しかし、妖夢はひるむことなく言った。
「幽々子様――」
「――――」
「人は誰しも片翼の鳥です。二人で寄り添わないと大空を駆けることは出来ません」
「何が言いたいの? 妖夢」
「幽々子様―― 私が貴方の翼となりましょう」
「ふざけないで!」
幽々子の顔に凶相が浮かび上がる。
「貴方は私の何? 答えなさい!」
「私は――」
妖夢は跪いて言った。
「私は貴方の信奉者です。私は貴方の下僕です。私は貴方の玩具です。私は貴方の履物を揃える価値すらありません」
「よく判っているじゃない――」
幽々子は足を上げ――
おもむろに妖夢の頭を踏みつけた。畳に額がぶち当たり、皮膚が切れて血が滲む。しかし、妖夢の顔に浮かぶものは、喜悦――
「貴方はゴミよ! 私によって生かされている蛆虫よ! その程度の存在が私の側に立とうなど百年早いわ!」
幽々子が妖夢の頭を踏みにじる。頭を踏みにじられ、罵倒されながら――
妖夢は、喜んでいたのである。
そして、メルラン・プリズムリバーが第三のラッパを吹いた。
女が、手術器具を並べている。女の名は、八意永琳。永遠亭の誇る狂医である。赤と青に染め分けられ、星座の形の飾りを付けた奇妙な長衣に身を包んでいる。胸のところがパンパンに張り詰めている。乳房だ。乳房が、服を押し上げているのである。見事な乳房だ。ひとたび揉めば、とろけるように柔らかく指に絡みつく乳房だ。童貞など、すぐにしゃぶりつくされてしまうであろう―― そんな乳房だ。その乳房が、彼女の動きにあわせてタポタポと揺れ動いている。ブラジャーをしていないらしかった。この女、さそっている―― 訳ではなかった。
面白そうだから。
彼女なら、そう答えるであろう。それこそが彼女を常人と異ならしむるものであり、狂医の名を欲しいままにする行動原理であった。
面白そうだから。
面白そうだから姫の食事の中にクスリを放り込み、面白そうだから弟子に動物実験を繰り返し、面白そうだから人里に薬を売りに言って人助けをしてみる。
面白そうだから。
永遠の時を過ごす永琳にとって、行動原理などそれで十分であった。故に、本日も面白そうだから弟子に動物実験をしようとしていた。あわれなモルモットの名は鈴仙・優曇華院・イナバ。正確には、モルモットではなく兎である。とにもかくにも、この兎は永琳の実験室で縛り上げられていた。てゐがやったことだった。地上の兎を犠牲にはできない―― そういう判断だった。兎にしては、妙に折れ曲がった耳をしたウサギである所の鈴仙は、ブレザー姿で縛り上げられていた。下はスカートを穿いていない。ショーツだけだった。その理由を問われても、永琳はこう答えるであろう。
面白そうだから。
面白そうだから、鈴仙はブレザーにショーツというマニアックな格好で縛られる事となった。猿ぐつわをかまされているためにしゃべることはできないが、いかにも不満そうな顔で永琳を睨んでいた。対する永琳は満面の笑みだ。すっげえ嬉しそうな笑みだ。「おら、ワクワクしてきたぞ」とでも言いそうな素晴らしい笑みだった。その笑みが、手元に並ぶグロテスクな手術器具といやにマッチしている。これから何をされるのか、鈴仙は判らなかったし、想像できなかったし、想像したくもなかったが、今日の実験がいつもよりハードなものになることくらい想像が出来た。半分はメルランのラッパのせいだ。メルランのラッパのせいで、永琳がハイになってしまったのである。だが、残り半分は間違いなく永琳自身のせいである。永琳は狂医なのだ。狂医に真っ当な判断を期待するほうが間違っている。助けは無い。差し出した生贄を哀れむ奴などいるはずが無い。兎は臆病なのだ。鈴仙はこれから何をされるのか――
「ふふ、うどんげ。準備は良いようね」
「ん~ん~(良くありません!)」
「今日はね、貴方の尻尾について調べたいの」
「ん~ん~(いやです! 止めてください!)」
「そのために、直腸から触診するわね」
「!?」
直腸。
触診。
確かに聞こえた。
その残酷な響きは、確かに鈴仙の耳に聞こえた。
ウンチの穴に指を突っ込んでぐりぐりすると確かに聞こえた!
「!!!!!!!!」
「安心して、直接指を入れたりはしないわ」
「?」
「貴方の相手をしてもらうのはこれよ」
永琳は、ペリカンのくちばしのような形をした器具を手に取り、持ち上げた。肛門鏡である。永琳は、うっとりした目で肛門鏡を見つめ、何度も口を開閉させた。
「これを奥の奥まで突っ込んで、限界まで広げてあげる」
「ん~ん~(誰か! 助けて!)」
「さあうどんげ、覚悟なさい」
そして、メルラン・プリズムリバーが第四のラッパを吹いた。
白のワイシャツと赤のもんぺを羽織った娘が庵の中を行ったり来たりしていた。少女の名は藤原妹紅。変なラッパの音を聞いて以来、妹紅はそわそわとしていた。そわそわとしているのは、なにもメルランのラッパの音がしたからというだけではなかった。
慧音が来る。
妹紅の住む、人里離れた庵に、慧音が来るのである。慧音との付き合いは、長くは無いが濃密なものであった。一緒に料理を作り、ご飯を食べ、たわいの無い話をし、一緒に寝る。その一瞬一瞬のなんと素晴らしい事か。そわそわするのは当然だった。そこにメルランのラッパの音。居ても立ってもいられなかった。何度も何度も囲炉裏の周りを回り、まだかまだかと呟いていた。そしてついに、想い人が来た。
「待たせてしまったか。遅くなってすまん。妹紅」
「待ってないよ。全然待ってないよ。だからレイプする」
「とりゃあ!」
「ぶへ!」
頭突かれた。情け容赦のない頭突きだった。
「もう一丁!!」
「えぶ!!」
もう一度頭突かれた。慧音もまた、メルランのラッパにより高揚しているらしかった。
「まったく、年頃の娘がそんな言葉を使うんじゃない」
「いや、私年寄りだし良いよ」
「良くない!」
「うう、判ったよ。それじゃあ――」
妹紅は指を唇に当て、悪戯っぽく微笑んだ。ほおは僅かに上気している。
「ねえ。しよっか?」
勃った。
慧音の感情を一言で言い表すとそうなる。慧音もまた男の娘ではなかったが、代わりに勃つものくらいいくらでもあった。
だから勃った。
慧音は黙ったまま、靴を脱いだ庵の中に入った。沈黙はイエス―― そういうことだった。慧音はいつもの格好をしていた。奇妙な形の帽子、妙な切れ込みの入ったブルーのロングワンピース。そして―― 黒のストッキング。肌寒い冬にピッタリの服装だった。妹紅は、慧音の足にすり寄る。そして――
「きゃっ!!」
足の甲にキスをした。それだけではない。ぺろりと舌で舐め上げたのだ。
「な、なにをするんだ! 妹紅!」
慧音の顔は耳まで赤くなっていた。そんな慧音の顔を見て、妹紅は満面の笑みを浮べた。この娘は一体何を考えているというのか――
「えへへ、慧音。座って」
慧音は戸惑いながらも言われた通りにした。座った慧音のストッキングに包まれた足に、妹紅はいとおしげにほお擦りをする。そしてそれを持ち上げ―― おもむろに指をしゃぶった。
「きゃあ!!」
足の指に唾液をたっぷりと絡め、ねっとりと舐め回していく。一本一本丁寧に。そして、時には音を立てて自分の唾液をすすり上げた。黒いストッキングが、唾液にまみれて黒味を増し、テラテラと光っている。
「妹紅! なっ何を!」
「んふふ、慧音? 気持ち良い?」
「――――」
「感じちゃったんだ。いやらしいね、慧音って」
「い、いやらしくなんかない!」
「いいや、いやらしいよ。だって――」
妹紅は、慧音のふくらはぎにほお擦りをした。それだけでなく、両手で撫で回す。その曲線を楽しむかのように、何度も何度も。そして―― 段々と上に上っていって――
「ほうら、やっぱりいやらしいじゃない。慧音ったらエッチだね」
「――――」
「ね、慧音」
妹紅はもう一度言った。
「しよ?」
そして、メルラン・プリズムリバーが第五のラッパを吹いた。
魔法の森にあるとある家のとある部屋で、二人の少女が向かい合っていた。一人の少女は白黒の服に身を包み、見事な金髪をウェーブさせていた。霧雨魔理沙だ。もう一人の少女は、青色のツーピースに身を包み、こちらも見事な金髪をショートカットにしていた。アリス・マーガトロイドだ。二人は対峙していた。それだけではない。二人の間には、剣呑な空気が漂っていた。なにが、二人をそうさせるのか――
「私、霊夢と寝たのよ」
「――――」
そういうことだった。爆弾発言だった。
「私、霊夢を犯したの。いつもの神社のいつもの部屋で。何度も何度も獣みたいにむさぼりあったわ。何日も何日も――」
メルランのラッパで高揚しているらしく、アリスにしては珍しく、早口でまくし立てた。
「それが何だって言うんだ?」
黙って聞いていた魔理沙が口を開いた。
「私も霊夢と寝た――」
「――――」
「霊夢を抱いた。霊夢に抱かれた。朝も、昼も、夜も。雨の日も、風の日も。何度も何度もイかせた。何度も何度もだ。私が――」
魔理沙は熱に浮かされたように続けた。
「私が一番霊夢を喜ばせられるんだ。私じゃないと駄目なんだ。私も霊夢じゃないと駄目なんだ。今日も明日も明後日も―― 霊夢を抱いていたい。霊夢に抱かれたい。私が――」
「うるさい!」
アリスの顔に、凶相が膨れ上がる。
「うるさいうるさい! あんたに霊夢の何が判るって言うの! 霊夢は私の全てなの! 私は霊夢の全てなの! あんたなんか! あんたなんか死んじゃえば良いのに!」
「そうかい――」
魔理沙が、恐ろしいほど乾いた表情をして言った。
「ここじゃ部屋が汚れる。外へ行こうぜ、アリス。久しぶりに―― キれちまったよ――」
「望む所よ――」
二人は距離をとったまま外へと出た。冬の夜気が肌を切り刻むのも構わずに。体に、熱があった。狂おしい熱だ。狂おしい感情が、二人のみを焦がしているのである。
憎しみ。
妬み。
怒り。
悲しみ。
その他諸々の感情が二人のみを焦がす。熱かった。ただただ、熱かった。上着も要らぬほどに。そして、二人がゆっくりと距離を詰める。硬質なガラス球がひび割れながら圧縮されるかのように、二人の間の空間が軋んだ。その軋みが最大に達した時――
「ふひゅう!」
「おきゃあ!」
星。
形。
星。
避。
形。
流。
星。
星。
受。
流。
形。
形。
「じゃっ!」
「ごぉう!」
目にも止まらぬ連撃。それをお互いに受け、避け、流し、かわした。一撃一撃が、たまらなく重い。それもそのはずだ。これは弾幕ごっこではないのだから――
愛する女をかけた決闘。
相手の死をもって終結する、決闘。
何が、二人をそこまで駆り立てるのか?
それは、想い――
霊夢に対する想い。
霊夢が居るからこそ、人生がこんなにもキラキラと輝くのだ。霊夢が居ないのなら、生きていてもしょうがない。だからこそ、己の生をかけて闘う。霊夢と過ごす、明日のために闘う。
二人は、脇目も振らずに攻撃を繰り出した。
ただ、相手を殺すために。
ああ、なんとその闘いの美しいことか――
二人は、何時までも何時までも闘い続けた。
そして、メルラン・プリズムリバーが第六のラッパを吹いた。
幻想郷の端に存在する博麗神社。その裏手、社務所の中にある霊夢の部屋に、紫のワンピースに身を包んだ少女が
「今晩は、霊夢」
と現れた。冬眠しているはずの幻想の境界、八雲紫である。
「紫! 来てくれたのね!」
この神社の主、博麗霊夢は薄いピンクの寝巻き姿のまま布団から飛び起き、紫に抱きついた。紫と霊夢の長い髪の毛が押されて宙を舞う。二人は見つめあい、キスをした。二人は、そういう仲だった。しかし、せっかく紫が来たというのに、霊夢は浮かない顔をしていた。
「せっかく、冬に起きて来てあげたっていうのに、何がそんなに不満なの?」
「寂しかったんだから、馬鹿……」
そう言って、霊夢は紫の豊かな胸に顔をうずめた。ついでに顔をぐりぐりと動かして、その柔らかさと甘い女香を楽しむ。実に楽しそうだ。
「えへへ、むにゅむにゅ~」
「あんっ、何するのよ霊夢。赤ちゃんに戻っちゃったの?」
「む~。だって、ぷにゅぷにゅしてて気持ち良いんだもん」
「もう……しょうがない娘ねぇ……」
そういう紫もまんざらではないのか、霊夢をひしっと抱きしめ、その黒髪を手で梳いてやる。すると、少し青さの残る体臭が石鹸の香りと混ざり合ってふわりと鼻腔をくすぐり、すいぶん背は伸びたけれど、まだまだ子供なのねと紫に思わせた。背中をゆっくりとさすってやると、頬を赤く染めた霊夢が心地よさそうに目を細め、んっ……と溜息を漏らす。
「なんだか紫って、お母さんみたい」
「あらそう? じゃあいいのよ、もっと甘えても。」
「……うん、じゃあ、もっと、ぎゅってしてくれる?」
「うふふ、もちろん」
そう言って、紫は霊夢を強く抱きしめた。お互いの体温と鼓動がはっきりと分かるほどに。
「強すぎるよ、馬鹿……」
「あらあら、霊夢がこうしてって言ったんじゃないの。」
しばらくそうやってお互いの温もりを感じていると、霊夢から立ちのぼる匂いにやや甘ったるいものが混じりはじめ、紫の胃がついついくうっと鳴ってしまった。
「なんだ紫、お腹すいてるの?」
「……え~っと、ご飯食べずにきちゃった……。」
ちょっと不満げな霊夢に、ぺろりと舌を出して誤魔化す紫。すると、霊夢は微笑みを浮べ
「じゃあ待ってて。お夕飯の残りがあるから持ってくるわ。ちゃぶ台を用意しておいてね」
と言って台所の方に向かった。紫はいそいそと布団をたたみ、ちゃぶ台をどんと置いた。
「おまたせ。ごめんね、残り物で」
食事の用意はすぐに整った。大根の葉を混ぜた麦ご飯。豆腐と大根と白菜の味噌汁。たくあん。切干大根の煮付け。質素だが、その分一つ一つに丁寧に味付がなされていることが判る。冬だけに、大根がメインとなっている。霊夢が神社の裏手で育てた大根だ。霊夢の真心が一杯に詰まった料理だった。
「いただきま~す。ん、美味しい」
美味しかった。しかし、紫は一口食すと箸を置いてしまった。
「食べないの?」
「ん~美味しいんだけど」
紫は言った。
「霊夢に食べさせてもらったら、もっと美味しくなるかなって」
「もう、紫の方こそ甘えん坊じゃないの。良いわよ、別に」
「ありがとう♪」
「はい。あーん」
「あーん。うん、最高♪」
たまらぬ新婚夫婦であった。
閑話休題。
食事を終えた紫は、居間に寝転がっていた。傍らには霊夢。霊夢が、膝枕をしているのである。霊夢は指先で何度も何度も紫の髪を梳いていた。紫は気持ち良さそうに目を閉じている。食後のゆったりとした時間が流れる―― そう思われた。
「紫―― ごめんなさい」
「なあに? 霊夢。あらたまって」
「私、魔理沙と寝たの」
「――――」
「魔理沙だけじゃない、アリスとも」
「――――」
「でも、駄目だったの。何度も何度も抱いても抱かれても、心が寒いの。心に空いた穴が塞がらないの。魔理沙に抱かれても、アリスに抱かれても、魔理沙を抱いても、アリスを抱いても駄目なの。いっつも紫の事を考えちゃう。紫はこうキスしてくれたとか、紫はこんな体位が好きだったとか、紫からはどこか懐かしい甘い香りがしたっけと考えちゃうの。朝でも、昼でも、夜でも。私、駄目なの――」
霊夢の独白は止まらない。メルランのラッパで高揚しているのか――
「紫じゃないと駄目なの。紫じゃないと駄目なの! 紫に抱かれてないと、私、駄目になっちゃうの!」
霊夢の何処に――
いつもにこやかな笑みを浮べている霊夢の何処に、こんなにも激しい感情が秘められていたのだろうか――
霊夢は涙していた。
愛する紫に会えたことに涙していた。
愛する紫に会えなかったことに涙していた。
「だから、お願い、紫。私を―― 私をめちゃくちゃに犯――」
言わせない。
そんな言葉、言わせない。
言わせてあげない。
紫は無理矢理霊夢の唇を奪った。
舌を絡め、歯茎を舐り、上顎をさする。
唇で唇を、蹂躙する。
久しぶりに味わう霊夢の唇は、とても甘く感じられた。
紫は思った。
許さない。
絶対に許さない。
絶対に他の女に抱かれた事を許さない。
だから――
霊夢の体に、私を刻み付けてやる。
もう、他の女のことなんて考えられないように、何度も何度も犯し尽くしてやる。
私の全てを使って、霊夢を蹂躙してやる。
四肢を、胸を、口を、脳を、心臓を、子宮を、蹂躙し尽くしてやる。
ああ、かわいそうな霊夢――
今日、貴方は死ぬ。
一度死んで、生まれ変わる。
私の女として、生まれ変わる。
こうして、二人の影は重なり――
そして、メルラン・プリズムリバーが第七のラッパを吹いた。
博麗神社から巫女が飛び立った。そして――
「人がよろしくやってるときにやかましいわ! ぼけぇ!」
「PO!」
おもいっきりどついた。関西弁で言うとしばき倒した。ガッするとも言う。
こうして、メルラン・プリズムリバーの騒がしい一日は、終わった。
独騒 第二小節 完
創世記に曰く、まず始めに言があった。闇があった。
主は言われた、「ガチャピンwwwテラ漢ラシスwwww」
ガチャピンがあった。ムックがあった。「ムックと」ガチャピンではなく、「ガチャピンと」ムックがあった。
ペギー葉山はそれを見て、よしとされた。
たまらぬ第一の日であった。
閑話休題。
独騒 第二小節
大晦日を目前に控えた、ある冬の日のことであった。お馬鹿な氷精が逞しすぎてバンジャイしちゃうほどの寒さにも関わらず、騒霊三姉妹の次女メルラン・プリズムリバーは、フリルをたっぷりとあしらった白いドレスをヒラヒラと舞い躍らせながら、いかにも、私絶好調ですというかのようにフワフワと飛んでいた。「絶好調もなにもないぜ、メルランは常にハイだろ」などと、幻想郷一の盗人がのたまってくれやがったりするが、メルランにも調子の悪い日くらいある。まあ、そのなんだ、ようはあの日である。分かるだろ?
ほんの数日前まで、そんな絶不調の谷の底を彼女は痛い痛いと言いながら飛んでいた。その間、姉を自慢のトランペットでホームランしたり、妹を日記でモズグズったり、さらには仕事の依頼に来た白玉楼の苦労人、魂魄妖夢をロードローラーだ! したりしたのであるが、「なんだ、いつもと変わらないじゃないか」などとは言ってはいけない。彼女は本当に絶不調だったのだ。彼女自身が言うのだから間違いない。
そんな灰色の日々を送っていたということが信じられないほど、彼女は好調だった。好調すぎて、姉をお空にHAIKUしたり、妹をピアノの鍵盤にみつしりと詰めたり、さらには、役に立たない従者に代わって、仕事の依頼に来た白玉楼の主、西行寺幽々子をあひゃらららと重いコンダラでマッサージしたりしたのであるが、いつものことなので誰も気にしていなかった。
ちなみに、プリズムリバー三姉妹を良く知る者達の間では、ルナサが絶好調の時のほうが危ないという見解で一致していた。半年ほどまえのある夏の日、妖夢がそれで酷い目に合わされたのである。
お盆も終わり、此岸に帰っていた幽霊達が冥界に戻ってきた。その時幽々子が、此岸の土産話を肴に一杯飲もうではないかと言い出した。突然の申し出であったが、楽しい事の大好きな白玉楼の住人がそれを拒むはずが無い。そうだそうだ、宴会をしようということになり、宴会に華を添えるための演奏の依頼をしに、妖夢はプリズムリバー三姉妹の元を訪れた。実に運の悪い事に、リリカがソロライブで出かけ、躁状態のメルランが「おきゃあああ、私のトランペットを聞いて~♪」と外に飛び出してしまっていたため、その時妖夢の応対をしたのは絶好調なルナサだったのだ。
普段、ようは鬱状態ならば、呼び鈴をならすとルナサが景気の悪そうな顔して現れ、「やあ、いらっしゃい。妖夢」と挨拶をしてくる。大抵パンツルックで、上下ともに黒を基調とした、よく言えばシックな、悪く言えば地味な服装である。さらに言えば、私根暗でーすと言わんばかりに下着も黒なのであるが、それを妖夢が知るはずも無い。話を元に戻そう。いつも通り妖夢が呼び鈴を押し、ルナサが玄関に出た。いつも通りの、いつもの光景のはずであった。しかし――
「おはよう、妖夢」
「どっしぇえ!」
妖夢は驚いた。自分の知人がスケスケのネグリジェ姿で出てくれば誰だって驚く。息子は喜ぶ。だが悲しいことに、妖夢は男の娘ではなかったから、息子は喜ばなかった。
閑話休題。
ルナサはスケスケのネグリジェに身を包んでいた。ブラジャーはしていない。薄いピンク色の生地を通し、より鮮明な赤い突起が透けて見えていた。使い込まれていないらしかった。下は、白のショーツだ。前面部に取り付けられた赤いリボンがアクセントとなっている可愛らしいものである。繰り返すが、妖夢は本当に驚いた。「ルナサ! 一体全体何て格好してるのよ!」だの「露出狂なの!? 露出狂になっちゃったの!?」だの言いたい事はいくらでもあったのだが、うぶなネンネであるところの妖夢は、ただ赤面し黙りこくるだけであった。ああ、可愛いなもう。
閑話休題。
しかし、ルナサの方はというと、そんな妖夢の様子も気にしていないと言った風に、とてもとても色っぽい声で
「入って、妖夢」
と言った。ルナサは声楽の方もいけるらしかった。男なら即座にピンコ立ちしてしまうような声だった。妖夢すら体がむずむずとしてしまった。実は妖夢は気がついていなかったが、妖夢にはそのケがあるらしかった。
閑話休題。
妖夢は応接室に通された。ここは、幸いな事にいつも通りだった。ところが、妖夢がソファーに腰掛けた所、ルナサが隣に座ってしまったのである。普通、こういう時は対面に座る。この日のルナサは普通ではなかった。しかし、だからといって座りなおすのも変なので、妖夢はそのままじっとしていた。宴会の話をきりだすわけにもいかず、しばらく部屋を沈黙が覆った。沈黙を先に破ったのは、ルナサだった。
「汗、かいちゃったでしょ?」
「ええ、まあ」
妖夢は困っていた。どうも調子が狂う。相手のペースに呑まれてしまう。妖夢は本当に困っていた。と、その時――
た。
れた。
された。
倒された。
し倒された。
押し倒された。
に押し倒された。
サに押し倒された。
ナサに押し倒された。
ルナサに押し倒された。
妖夢はルナサに押し倒された。
ソファーの大きく軋む音。ルナサの体の、どこかひんやりとした感触。妖夢は混乱していた。あるのは、淫靡な笑みをたたえたルナサの顔。感じるのは、どこかひんやりとしたルナサの体温。香るのは、甘ったるいルナサの体臭。妖夢は、五感のほとんどをフル稼働し、全身でルナサを感じ取っていた。
「ごめんね。驚かせちゃった?」
ルナサは言った。妖夢は、何も言えなかった。ただ、混乱していた。
「黙ってたら、判らないよ」
ルナサはぽつぽつと語った。
「驚きすぎてしゃべれなくなっちゃった? じゃあ、私がしゃべれるようになるおまじない、してあげる」
ルナサの顔が近づき――
「女の子だけの、おまじない」
唇と唇が触れた――
「!?」
妖夢の体が、瞬時に沸騰した。全身の神経が唇に集まっているかのように、衝撃が全身を駆け抜けた。
「えへへ、キスしちゃった」
肺が絞り上げられ、呼吸が出来ない。しゃべれるようになるもんか。これはとんでもない――
目を白黒させる妖夢を尻目に、ルナサは妖夢の手を取り、胸へと導いた。
「判るでしょ? 妖夢。私、こんなにドキドキしちゃってるの」
思ったよりも温かく、そして速い鼓動が手の平を通して伝わってきた。確かに、伝わってきた。
「私、妖夢が欲しい――」
「!?」
妖夢の混乱はピークに達した。欲しいって、それはつまり――
妖夢のベストのボタンを、ルナサは片手で器用にするすると外していった。もう一方の手で、スカートのホックを外す。しゅるりと音を立ててスカートが下ろされた。
「~~!?」
「ふふ、妖夢もこんなにドキドキしてる」
妖夢の胸に耳を当てて、ルナサが言う。世にも美しい声で言う。
ルナサの手がブラウスのボタンとドロワーズにかかった時、妖夢はついに爆発した。
「きゃああああああああ!」
ルナサを思いっきり跳ね飛ばし、肌ける服も直さずに、一目散にプリズムリバー邸を飛び出した。
妖夢は、この日レイプされかかったショックで情緒不安定となり、夜尿症を再発した。なぜこんなことをしたのかと問う幽々子に、ルナサはこう答えている。
「むらむらしたから襲った。妖夢だったら何時でも何処でも良かった。別に反省はしていない」
この言葉を聞いた幽々子は、ただ一言
「偉丈婦なり。されど、妖夢は我がおもちゃ」
とだけ言ったという。とんだ友人と主を持ったものである。
閑話休題。
さて、この話の主人公であるところのメルランはというと、ラッパを手にしてフワフワと飛んでいた。糞寒い冬の夜に何が可笑しいのかヘラヘラと笑いながら飛んでいた。澄んだ月光に照らされた彼女は、とても美しかった。気色の悪い笑みさえ消せば、であるが。今日、メルランは絶好調だった。絶好調すぎた。絶好調すぎるということは、すなわち調子が悪いということだ。彼女はいま、最高にハイってやつだった。ヤバイぐらいハイだった。そんな彼女がラッパを吹き鳴らせばどうなるか―― 想像するだに恐ろしい。
だが見よ!
メルランがラッパに口をつけ――
そして、メルラン・プリズムリバーが第一のラッパを吹いた。
紅魔館に、奇妙なラッパの音が響く。メルランのラッパの音だ。それを聞いて、紅魔館の主にして、永遠に紅い幼き月レミリア・スカーレットは「うるさいわね」とだけ言った。雪のように白い肌に、白い服を羽織り、豪奢な椅子に腰掛けて、夜の王は自室でワインを飲んでいた。傍らには完全で瀟洒な紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が控えている。きっちりとアイロンを当てた青のエプロンドレスをきっちりと着こなしていた。一見、普段と何も変わりなく見える。
しかし、違った――
レミリアの目の紅がいつもより深く、禍々しい。
躁の音を操る程度の能力――
メルランの能力により、気分が高揚しているのだ。こんな時は、無性に血が飲みたくなるものだ。だから、レミリアは咲夜に言った。
「咲夜、血が飲みたいわ」
「判ったわ」
咲夜の手元に瞬時にナイフが現れ、ためらう事もなく自分の指に切り傷をつけた。血が紅い玉となって結実した。咲夜はそれをワインに入れようとして――
「やめなさい」
止められた。
「今日はちょっと変わった飲み方がしたいの。ひざまづきなさい」
咲夜が言われた通りにすると、レミリアは立ち上がった。こうすると、二人の背はほぼ同じになる。レミリアの紅い瞳と咲夜の蒼い瞳が絡み合う。
「お嬢様?」
レミリアは咲夜の顎に右手を添え、顔を近づけ――
おもむろに唇を奪った。
「んんっ」
唇で咲夜の唇をついばみ、紅い舌で唇の合わさった所をねぶる。咲夜の唇を割り開こうと何度も何度も。何度かそうやっているうちに、咲夜がそれに答えた。唇を開き、遠慮がちに桃色の舌を突き出す。
二人の舌と舌が触れあい――
そして絡みついた。咲夜の手がきゅっとレミリアを抱きしめる。レミリアもまた、咲夜の背に手を回し、しっかりと抱きしめた。唇と唇をぴったりを密着させ、二人はお互いの舌を絡み合わせる。ピチャピチャという水音と、あらい鼻息、お互いの背を撫で回す衣ずれの音、そして己の血潮の音以外、何も聞こえない。
レミリアが口の中に溜めた唾液を、咲夜に流し込む。咲夜はためらうことなく、のどをこくこくと動かしてそれを飲んだ。背筋がざわつく。食道が、胃が、焼けたように熱い。下腹部がじんじんとし、頭がくらくらする。
それがとても―― 心地よい。
舌をねぶられるのが心地良い。
歯茎をなぞられるのが心地良い。
上顎を蹂躙されるのが心地良い。
頬の内側をこそげられるのが心地良い。
荒々しく聞こえるお互いの呼吸音が心地良い。
背を撫で回されるのが心地良い。
唇の周りが、唾液でベトベトであることすらもが心地良い。
全てが、心地良かった。
しかし、レミリアは唇を離してしまった。二人の間を、唾液が糸となってつなぐ。
「気に入らないな。咲夜ばっかり飲んでいるじゃないか」
「それは、お嬢様が――」
「うるさい」
ぴしゃりと言い放つ。
「口答えする狗は要らない。お前は私の言うとおりにしていれば良いんだ」
何も言っていないにもかかわらずこういうことを言う。たまらぬ理不尽であった。
「舌を出しなさい」
「はい」
そう言って、咲夜は舌を出した。息を荒げ、舌を突き出すその姿は、犬に似ている。レミリアは再び咲夜に顔を近づけ、牙でおもむろに舌を噛んだ。
「~~!!」
咲夜は慌てて舌を引っ込めようとするが、牙に縫いとめられてしまい、うまくいかない。痛みのあまり目が潤む。レミリアを抱く手に力が篭る。牙が抜かれると、舌に血が滲み出してきた。それをレミリアは舌先でぺろりとすくいとる。
「ん、美味しい」
そういって、レミリアは再び咲夜の舌に舌を絡めた。血と唾液をねっとりと絡め、すすり上げる。楽しげに、本当に楽しげにレミリアはその作業を続けた。
そして、メルラン・プリズムリバーが第二のラッパを吹いた。
冥界にメルランのラッパの音が響く。白玉楼。幽々子の部屋。そこで、西行寺幽々子と魂魄妖夢は向かい合っていた。幽々子の目には、涙が滲んでいた。
「幽々子様。あの方は、戻ってきません」
「――――」
「もう一度言います。あの方は、戻ってきません」
「黙りなさい!」
パシッと乾いた音が部屋に響いた。幽々子が、妖夢の頬を張ったのだ。
「妖夢に何が判るというの! 妖夢に紫の何が判るというの!」
「あの方の事など、何も判りません。けれども、これだけは判ります」
妖夢は、幽々子に正面から向かい、そして言った。
「あの方は―― 戻ってきません」
「うそよ! 紫が私のことを捨てるはずはないわ! いいかげんなことを言わないで! 紫は私の友達なの! 友達以上なの!」
「この世の物事は全て諸行無常。友情といえど、もろくも消え去ってしまうものなのです」
「黙りなさい! 黙れ! 黙れ!」
また、幽々子は妖夢の頬を張った。妖夢の口中に血の味が滲む。頬の内側が切れたのだ。普段、幽々子がこのように激怒する事はない。メルランのラッパにより、高揚しているのだ。しかし、妖夢はひるむことなく言った。
「幽々子様――」
「――――」
「人は誰しも片翼の鳥です。二人で寄り添わないと大空を駆けることは出来ません」
「何が言いたいの? 妖夢」
「幽々子様―― 私が貴方の翼となりましょう」
「ふざけないで!」
幽々子の顔に凶相が浮かび上がる。
「貴方は私の何? 答えなさい!」
「私は――」
妖夢は跪いて言った。
「私は貴方の信奉者です。私は貴方の下僕です。私は貴方の玩具です。私は貴方の履物を揃える価値すらありません」
「よく判っているじゃない――」
幽々子は足を上げ――
おもむろに妖夢の頭を踏みつけた。畳に額がぶち当たり、皮膚が切れて血が滲む。しかし、妖夢の顔に浮かぶものは、喜悦――
「貴方はゴミよ! 私によって生かされている蛆虫よ! その程度の存在が私の側に立とうなど百年早いわ!」
幽々子が妖夢の頭を踏みにじる。頭を踏みにじられ、罵倒されながら――
妖夢は、喜んでいたのである。
そして、メルラン・プリズムリバーが第三のラッパを吹いた。
女が、手術器具を並べている。女の名は、八意永琳。永遠亭の誇る狂医である。赤と青に染め分けられ、星座の形の飾りを付けた奇妙な長衣に身を包んでいる。胸のところがパンパンに張り詰めている。乳房だ。乳房が、服を押し上げているのである。見事な乳房だ。ひとたび揉めば、とろけるように柔らかく指に絡みつく乳房だ。童貞など、すぐにしゃぶりつくされてしまうであろう―― そんな乳房だ。その乳房が、彼女の動きにあわせてタポタポと揺れ動いている。ブラジャーをしていないらしかった。この女、さそっている―― 訳ではなかった。
面白そうだから。
彼女なら、そう答えるであろう。それこそが彼女を常人と異ならしむるものであり、狂医の名を欲しいままにする行動原理であった。
面白そうだから。
面白そうだから姫の食事の中にクスリを放り込み、面白そうだから弟子に動物実験を繰り返し、面白そうだから人里に薬を売りに言って人助けをしてみる。
面白そうだから。
永遠の時を過ごす永琳にとって、行動原理などそれで十分であった。故に、本日も面白そうだから弟子に動物実験をしようとしていた。あわれなモルモットの名は鈴仙・優曇華院・イナバ。正確には、モルモットではなく兎である。とにもかくにも、この兎は永琳の実験室で縛り上げられていた。てゐがやったことだった。地上の兎を犠牲にはできない―― そういう判断だった。兎にしては、妙に折れ曲がった耳をしたウサギである所の鈴仙は、ブレザー姿で縛り上げられていた。下はスカートを穿いていない。ショーツだけだった。その理由を問われても、永琳はこう答えるであろう。
面白そうだから。
面白そうだから、鈴仙はブレザーにショーツというマニアックな格好で縛られる事となった。猿ぐつわをかまされているためにしゃべることはできないが、いかにも不満そうな顔で永琳を睨んでいた。対する永琳は満面の笑みだ。すっげえ嬉しそうな笑みだ。「おら、ワクワクしてきたぞ」とでも言いそうな素晴らしい笑みだった。その笑みが、手元に並ぶグロテスクな手術器具といやにマッチしている。これから何をされるのか、鈴仙は判らなかったし、想像できなかったし、想像したくもなかったが、今日の実験がいつもよりハードなものになることくらい想像が出来た。半分はメルランのラッパのせいだ。メルランのラッパのせいで、永琳がハイになってしまったのである。だが、残り半分は間違いなく永琳自身のせいである。永琳は狂医なのだ。狂医に真っ当な判断を期待するほうが間違っている。助けは無い。差し出した生贄を哀れむ奴などいるはずが無い。兎は臆病なのだ。鈴仙はこれから何をされるのか――
「ふふ、うどんげ。準備は良いようね」
「ん~ん~(良くありません!)」
「今日はね、貴方の尻尾について調べたいの」
「ん~ん~(いやです! 止めてください!)」
「そのために、直腸から触診するわね」
「!?」
直腸。
触診。
確かに聞こえた。
その残酷な響きは、確かに鈴仙の耳に聞こえた。
ウンチの穴に指を突っ込んでぐりぐりすると確かに聞こえた!
「!!!!!!!!」
「安心して、直接指を入れたりはしないわ」
「?」
「貴方の相手をしてもらうのはこれよ」
永琳は、ペリカンのくちばしのような形をした器具を手に取り、持ち上げた。肛門鏡である。永琳は、うっとりした目で肛門鏡を見つめ、何度も口を開閉させた。
「これを奥の奥まで突っ込んで、限界まで広げてあげる」
「ん~ん~(誰か! 助けて!)」
「さあうどんげ、覚悟なさい」
そして、メルラン・プリズムリバーが第四のラッパを吹いた。
白のワイシャツと赤のもんぺを羽織った娘が庵の中を行ったり来たりしていた。少女の名は藤原妹紅。変なラッパの音を聞いて以来、妹紅はそわそわとしていた。そわそわとしているのは、なにもメルランのラッパの音がしたからというだけではなかった。
慧音が来る。
妹紅の住む、人里離れた庵に、慧音が来るのである。慧音との付き合いは、長くは無いが濃密なものであった。一緒に料理を作り、ご飯を食べ、たわいの無い話をし、一緒に寝る。その一瞬一瞬のなんと素晴らしい事か。そわそわするのは当然だった。そこにメルランのラッパの音。居ても立ってもいられなかった。何度も何度も囲炉裏の周りを回り、まだかまだかと呟いていた。そしてついに、想い人が来た。
「待たせてしまったか。遅くなってすまん。妹紅」
「待ってないよ。全然待ってないよ。だからレイプする」
「とりゃあ!」
「ぶへ!」
頭突かれた。情け容赦のない頭突きだった。
「もう一丁!!」
「えぶ!!」
もう一度頭突かれた。慧音もまた、メルランのラッパにより高揚しているらしかった。
「まったく、年頃の娘がそんな言葉を使うんじゃない」
「いや、私年寄りだし良いよ」
「良くない!」
「うう、判ったよ。それじゃあ――」
妹紅は指を唇に当て、悪戯っぽく微笑んだ。ほおは僅かに上気している。
「ねえ。しよっか?」
勃った。
慧音の感情を一言で言い表すとそうなる。慧音もまた男の娘ではなかったが、代わりに勃つものくらいいくらでもあった。
だから勃った。
慧音は黙ったまま、靴を脱いだ庵の中に入った。沈黙はイエス―― そういうことだった。慧音はいつもの格好をしていた。奇妙な形の帽子、妙な切れ込みの入ったブルーのロングワンピース。そして―― 黒のストッキング。肌寒い冬にピッタリの服装だった。妹紅は、慧音の足にすり寄る。そして――
「きゃっ!!」
足の甲にキスをした。それだけではない。ぺろりと舌で舐め上げたのだ。
「な、なにをするんだ! 妹紅!」
慧音の顔は耳まで赤くなっていた。そんな慧音の顔を見て、妹紅は満面の笑みを浮べた。この娘は一体何を考えているというのか――
「えへへ、慧音。座って」
慧音は戸惑いながらも言われた通りにした。座った慧音のストッキングに包まれた足に、妹紅はいとおしげにほお擦りをする。そしてそれを持ち上げ―― おもむろに指をしゃぶった。
「きゃあ!!」
足の指に唾液をたっぷりと絡め、ねっとりと舐め回していく。一本一本丁寧に。そして、時には音を立てて自分の唾液をすすり上げた。黒いストッキングが、唾液にまみれて黒味を増し、テラテラと光っている。
「妹紅! なっ何を!」
「んふふ、慧音? 気持ち良い?」
「――――」
「感じちゃったんだ。いやらしいね、慧音って」
「い、いやらしくなんかない!」
「いいや、いやらしいよ。だって――」
妹紅は、慧音のふくらはぎにほお擦りをした。それだけでなく、両手で撫で回す。その曲線を楽しむかのように、何度も何度も。そして―― 段々と上に上っていって――
「ほうら、やっぱりいやらしいじゃない。慧音ったらエッチだね」
「――――」
「ね、慧音」
妹紅はもう一度言った。
「しよ?」
そして、メルラン・プリズムリバーが第五のラッパを吹いた。
魔法の森にあるとある家のとある部屋で、二人の少女が向かい合っていた。一人の少女は白黒の服に身を包み、見事な金髪をウェーブさせていた。霧雨魔理沙だ。もう一人の少女は、青色のツーピースに身を包み、こちらも見事な金髪をショートカットにしていた。アリス・マーガトロイドだ。二人は対峙していた。それだけではない。二人の間には、剣呑な空気が漂っていた。なにが、二人をそうさせるのか――
「私、霊夢と寝たのよ」
「――――」
そういうことだった。爆弾発言だった。
「私、霊夢を犯したの。いつもの神社のいつもの部屋で。何度も何度も獣みたいにむさぼりあったわ。何日も何日も――」
メルランのラッパで高揚しているらしく、アリスにしては珍しく、早口でまくし立てた。
「それが何だって言うんだ?」
黙って聞いていた魔理沙が口を開いた。
「私も霊夢と寝た――」
「――――」
「霊夢を抱いた。霊夢に抱かれた。朝も、昼も、夜も。雨の日も、風の日も。何度も何度もイかせた。何度も何度もだ。私が――」
魔理沙は熱に浮かされたように続けた。
「私が一番霊夢を喜ばせられるんだ。私じゃないと駄目なんだ。私も霊夢じゃないと駄目なんだ。今日も明日も明後日も―― 霊夢を抱いていたい。霊夢に抱かれたい。私が――」
「うるさい!」
アリスの顔に、凶相が膨れ上がる。
「うるさいうるさい! あんたに霊夢の何が判るって言うの! 霊夢は私の全てなの! 私は霊夢の全てなの! あんたなんか! あんたなんか死んじゃえば良いのに!」
「そうかい――」
魔理沙が、恐ろしいほど乾いた表情をして言った。
「ここじゃ部屋が汚れる。外へ行こうぜ、アリス。久しぶりに―― キれちまったよ――」
「望む所よ――」
二人は距離をとったまま外へと出た。冬の夜気が肌を切り刻むのも構わずに。体に、熱があった。狂おしい熱だ。狂おしい感情が、二人のみを焦がしているのである。
憎しみ。
妬み。
怒り。
悲しみ。
その他諸々の感情が二人のみを焦がす。熱かった。ただただ、熱かった。上着も要らぬほどに。そして、二人がゆっくりと距離を詰める。硬質なガラス球がひび割れながら圧縮されるかのように、二人の間の空間が軋んだ。その軋みが最大に達した時――
「ふひゅう!」
「おきゃあ!」
星。
形。
星。
避。
形。
流。
星。
星。
受。
流。
形。
形。
「じゃっ!」
「ごぉう!」
目にも止まらぬ連撃。それをお互いに受け、避け、流し、かわした。一撃一撃が、たまらなく重い。それもそのはずだ。これは弾幕ごっこではないのだから――
愛する女をかけた決闘。
相手の死をもって終結する、決闘。
何が、二人をそこまで駆り立てるのか?
それは、想い――
霊夢に対する想い。
霊夢が居るからこそ、人生がこんなにもキラキラと輝くのだ。霊夢が居ないのなら、生きていてもしょうがない。だからこそ、己の生をかけて闘う。霊夢と過ごす、明日のために闘う。
二人は、脇目も振らずに攻撃を繰り出した。
ただ、相手を殺すために。
ああ、なんとその闘いの美しいことか――
二人は、何時までも何時までも闘い続けた。
そして、メルラン・プリズムリバーが第六のラッパを吹いた。
幻想郷の端に存在する博麗神社。その裏手、社務所の中にある霊夢の部屋に、紫のワンピースに身を包んだ少女が
「今晩は、霊夢」
と現れた。冬眠しているはずの幻想の境界、八雲紫である。
「紫! 来てくれたのね!」
この神社の主、博麗霊夢は薄いピンクの寝巻き姿のまま布団から飛び起き、紫に抱きついた。紫と霊夢の長い髪の毛が押されて宙を舞う。二人は見つめあい、キスをした。二人は、そういう仲だった。しかし、せっかく紫が来たというのに、霊夢は浮かない顔をしていた。
「せっかく、冬に起きて来てあげたっていうのに、何がそんなに不満なの?」
「寂しかったんだから、馬鹿……」
そう言って、霊夢は紫の豊かな胸に顔をうずめた。ついでに顔をぐりぐりと動かして、その柔らかさと甘い女香を楽しむ。実に楽しそうだ。
「えへへ、むにゅむにゅ~」
「あんっ、何するのよ霊夢。赤ちゃんに戻っちゃったの?」
「む~。だって、ぷにゅぷにゅしてて気持ち良いんだもん」
「もう……しょうがない娘ねぇ……」
そういう紫もまんざらではないのか、霊夢をひしっと抱きしめ、その黒髪を手で梳いてやる。すると、少し青さの残る体臭が石鹸の香りと混ざり合ってふわりと鼻腔をくすぐり、すいぶん背は伸びたけれど、まだまだ子供なのねと紫に思わせた。背中をゆっくりとさすってやると、頬を赤く染めた霊夢が心地よさそうに目を細め、んっ……と溜息を漏らす。
「なんだか紫って、お母さんみたい」
「あらそう? じゃあいいのよ、もっと甘えても。」
「……うん、じゃあ、もっと、ぎゅってしてくれる?」
「うふふ、もちろん」
そう言って、紫は霊夢を強く抱きしめた。お互いの体温と鼓動がはっきりと分かるほどに。
「強すぎるよ、馬鹿……」
「あらあら、霊夢がこうしてって言ったんじゃないの。」
しばらくそうやってお互いの温もりを感じていると、霊夢から立ちのぼる匂いにやや甘ったるいものが混じりはじめ、紫の胃がついついくうっと鳴ってしまった。
「なんだ紫、お腹すいてるの?」
「……え~っと、ご飯食べずにきちゃった……。」
ちょっと不満げな霊夢に、ぺろりと舌を出して誤魔化す紫。すると、霊夢は微笑みを浮べ
「じゃあ待ってて。お夕飯の残りがあるから持ってくるわ。ちゃぶ台を用意しておいてね」
と言って台所の方に向かった。紫はいそいそと布団をたたみ、ちゃぶ台をどんと置いた。
「おまたせ。ごめんね、残り物で」
食事の用意はすぐに整った。大根の葉を混ぜた麦ご飯。豆腐と大根と白菜の味噌汁。たくあん。切干大根の煮付け。質素だが、その分一つ一つに丁寧に味付がなされていることが判る。冬だけに、大根がメインとなっている。霊夢が神社の裏手で育てた大根だ。霊夢の真心が一杯に詰まった料理だった。
「いただきま~す。ん、美味しい」
美味しかった。しかし、紫は一口食すと箸を置いてしまった。
「食べないの?」
「ん~美味しいんだけど」
紫は言った。
「霊夢に食べさせてもらったら、もっと美味しくなるかなって」
「もう、紫の方こそ甘えん坊じゃないの。良いわよ、別に」
「ありがとう♪」
「はい。あーん」
「あーん。うん、最高♪」
たまらぬ新婚夫婦であった。
閑話休題。
食事を終えた紫は、居間に寝転がっていた。傍らには霊夢。霊夢が、膝枕をしているのである。霊夢は指先で何度も何度も紫の髪を梳いていた。紫は気持ち良さそうに目を閉じている。食後のゆったりとした時間が流れる―― そう思われた。
「紫―― ごめんなさい」
「なあに? 霊夢。あらたまって」
「私、魔理沙と寝たの」
「――――」
「魔理沙だけじゃない、アリスとも」
「――――」
「でも、駄目だったの。何度も何度も抱いても抱かれても、心が寒いの。心に空いた穴が塞がらないの。魔理沙に抱かれても、アリスに抱かれても、魔理沙を抱いても、アリスを抱いても駄目なの。いっつも紫の事を考えちゃう。紫はこうキスしてくれたとか、紫はこんな体位が好きだったとか、紫からはどこか懐かしい甘い香りがしたっけと考えちゃうの。朝でも、昼でも、夜でも。私、駄目なの――」
霊夢の独白は止まらない。メルランのラッパで高揚しているのか――
「紫じゃないと駄目なの。紫じゃないと駄目なの! 紫に抱かれてないと、私、駄目になっちゃうの!」
霊夢の何処に――
いつもにこやかな笑みを浮べている霊夢の何処に、こんなにも激しい感情が秘められていたのだろうか――
霊夢は涙していた。
愛する紫に会えたことに涙していた。
愛する紫に会えなかったことに涙していた。
「だから、お願い、紫。私を―― 私をめちゃくちゃに犯――」
言わせない。
そんな言葉、言わせない。
言わせてあげない。
紫は無理矢理霊夢の唇を奪った。
舌を絡め、歯茎を舐り、上顎をさする。
唇で唇を、蹂躙する。
久しぶりに味わう霊夢の唇は、とても甘く感じられた。
紫は思った。
許さない。
絶対に許さない。
絶対に他の女に抱かれた事を許さない。
だから――
霊夢の体に、私を刻み付けてやる。
もう、他の女のことなんて考えられないように、何度も何度も犯し尽くしてやる。
私の全てを使って、霊夢を蹂躙してやる。
四肢を、胸を、口を、脳を、心臓を、子宮を、蹂躙し尽くしてやる。
ああ、かわいそうな霊夢――
今日、貴方は死ぬ。
一度死んで、生まれ変わる。
私の女として、生まれ変わる。
こうして、二人の影は重なり――
そして、メルラン・プリズムリバーが第七のラッパを吹いた。
博麗神社から巫女が飛び立った。そして――
「人がよろしくやってるときにやかましいわ! ぼけぇ!」
「PO!」
おもいっきりどついた。関西弁で言うとしばき倒した。ガッするとも言う。
こうして、メルラン・プリズムリバーの騒がしい一日は、終わった。
独騒 第二小節 完
ううう。。。。
う~ん、ハイテンションはハイテンションなのですが、何かベクトルが別な方向に行ってしまってる気がします。
本当、紙一重なんですけどね。
あと、出来るだけ作者からのメッセージは残した方がいいですよ。
それでは
でもおもしろかった
百合がアブノーマルだってことが麻痺してくる感じ
エッジが利きすぎてるのかな……なにもかも。
ペンネームが……単なるネタなんでしょうけど、ちょっと際どいかなと思う個人的趣味。
偉そうですけど、点数はメッセージと同じ意味で。
何もかも壊れているようで、でも実は中途半端な感じ。
ネタでしょうけれど、ペンネームは変えられた方がいいのでは。
消されないってことは問題ないのかも知れませんけれども。
でもさ、一話ごとにペンネーム変えてんじゃねえよ。シリーズごとでさえなく、一話でころころ変える馬鹿ははじめてだ。話がよかろうがわるかろうが、評価なんざできるか
話自体は60点ぐらい
お気軽に筆者名は変えない方が
あと倫理的に微妙にセウト
場所間違えたオレ?
自分を裸にするって意味かもしれないけど。はっきり言ってネタとして微妙。
夜伽に池とは言わないけど。もっと行って欲しいの今まで一杯あったし。
笑えるところはあった。次期待してる。
なんかもう色々ぶっ飛んでますけど、面白かったです。
第一話と第二話で名前が違うことが我慢ならん
それなりの理由があって変更したんだろうな?
話自体は好きだったんだけどなあ
別にこの一連の投稿が初じゃなくて、結構前から接頭句無しの名前で投稿してる作者サンだし。
いやまぁ接頭句の部分に問題はあると思うけども。
それはそれとして、寸止めとは言え表現が割と危険だから、個人的にはアウトかなぁと…
でも、シリーズ連載中に名前変更する人は嫌い
というわけで、この点数で(点数のコメントもちょうどいいし)
名前に関しては、検索のとき面倒なことになるとは思いますが変えること自体は問題ないと思います。同じ方だとわかりますし。実際作品によってペンネームを変える作家はいらっしゃいますよ。ローマ字にして順序入れ替えなどというわかりにくいことをしている方も・・・。
内容がここにはふさわしくないと思います。フォントサイズ18以上でR18指定していただきたいくらいです。
元ネタは聖書の「ヨハネの黙示録」でしょうか?
…コメントを書く人ももう少し言葉遣いを気をつけた方がいい気がします。
あとネチョ表現はどう考えてもアウトだと思うのですが。
いや、カオスとネチョの両立そのものは素晴らしいと思うのですけれど、お子様に見せられるかと言うと……。