昨日も、私の歌声に惑わされて人間がまた妖怪に食われていった。
鳥目になって、さらには歌に惑わされ・・・人ってのは本当に哀れなものだね。
夜雀はそう考えながら、今日も同じことを繰り返すばかりだと思っていた。
◇
『もしも同じ動きが続くと思ったなら、それは続かない。』
―――ある偉人の著作物より抜粋。
◇
Ⅰ
夜の闇の中、私は屋台をしまい終えたところだった。
森の奥から気配がする。
「人間ね。・・・それも一人。」
私はすぐさま木の上に飛び、いつものように歌を歌った。
この歌は人の目を闇にしずめ、混乱させる力がある。
魅力的なものには、凡人は近づくことすらできない。
薔薇に棘があるように。花に毒があるように。
歌を歌い、惑わされた人間はどうなるかと言うと・・・
大抵の場合、ルーミアに食われるか、リグルの蟲の餌食になる。
逃げる手立てなんて無い。
だが・・・人間は誰しも恐怖にかられるのか、歩くのが速くなるのだ。
惑わせて、鳥目にしてきた人間は皆そうだった。
―――今回を除いて。
歩いて来た人間が、いきなり歩くのを止めた。
丁度、私の居る木の下あたりだ。
最初は鳥目になって呆然と立ち尽くしているのかと思ったが、何か雰囲気が違う。
人間は、私の歌を聴いていた。
惑わされることなく、ただ私の歌を聴きこんでいた。
・・・おかしい。
私の歌を聴けば、混乱に陥るはず。それを防ぐ手立てはあるそうだが・・・
それ以前に鳥目になって、目が見えなくなっているはずだ。
ついに私の歌が終わった。
魔力を使えるわけでもなく、巫女でもなく、ただの人間が、最後まで私の歌を聴いた。
何が起きているのか、頭の中で整理をつけようとしていたところだった。
「おーい」
下から声がした。
「あんたが歌ってたんだろう?夜雀さん。」
はっきりと、私に向かって言っている。
私は恐る恐る下に降り、その人間の顔を見た。
若い顔立ちの青年で、髪は若干茶色がかかったような色だった。
「ああ・・・あんたの歌、とても心地が良かったよ。ありがとう。」
・・・初めてのことだった。
私の歌の効力に全く耐性のない人間にお礼を言われたのは。
「貴方、本当に人間・・・?
私の歌を聴けば、惑わされる上に目が見えなくなるはず・・・」
「それは知っているよ。」
知っているのに何故・・・?死にに来る様なものだ。
そう思っていると、その人間の手が私の肩に触れた。
「―――!?」
「ああ、すまない。驚かせてしまって。でも、こうしないとどこに居るかわからないんだ。」
まさか―――
「人間を鳥目にさせるんだったね。でもあいにく僕は―――」
「既に、見えてないんだ。」
Ⅱ
元から盲目の人間と出会ったのは初めてだった。
「もうこの目には光が無いんだ。鳥目以前の問題ってことさ。」
「・・・じゃあ、なんで私の歌に惑わされなかったの?」
人間は嫌いだ。だが、疑問が私の口を動かす。この人間に問いたくなる。
「私は小さい頃から目が見えなくてね、必ず歌を聴くようにしていたんだ。
あんたの歌は、今まで聴いた中では最高の歌だったね・・・だからじゃないかな?」
・・・そんなことあるはずが―――
そう思っていると、私の背中に何かが当たった感触がした。
「いてっ」
「・・・ルーミア?」
人食い妖怪であり、闇を操る能力を持つ。私の背中にぶつかったのはそんな妖怪だった。
「みすちー、その人間は食べてもいいのかー?」
起き上がるなり、そう言ってくる。
「えっと・・・」
なぜだろう。私は口ごもった。
いつものように、『食べていいわよ。』―――と言うだけのはず。
「む、食べちゃだめな人間なのかー?」
「あ、いや・・・なんていうか・・・」
「食べてもいいよ。」
私はびっくりして人間の方に振り返った。
食べてもいい?この人間は何を言っているんだ?
「おー、食べてもいいのかー!」
「どうぞ。かまわないよ。」
「ま、まって!」
私は咄嗟に声を出していた。
何を言っているのだろうか。自分でもよくわからない。
しかし、私が言うと同時にルーミアは人間の首筋を噛んだ。
「・・・食べないのかい?」
ルーミアは、甘噛みしただけで、すぐに辞めてしまった。
「むー、なんかまずそうな感じがしたから。
それに、みすちーが嫌そうにしてるからやめたのだー」
危なかった・・・あともう少しでルーミアによって食われているとこだった・・・
だが、人間はますます私を混乱させるような態度を取った。
「残念だね・・・ルーミアという妖怪は、人間なら誰でも食べると聞いたんだが。」
「実を言えば、私は今お腹いっぱいだったりするのだ。」
そして、人間の顔が綻んだ。
「なら、また出直すとしよう。
それに、ここに来ればまたあんたの歌が聴けるからね。」
なにがなんだかわからない。
「えっと・・・あんたの名前は確か・・・
そうだ。ミスティア・ローレライと言ったか。」
「みすちーでいいわ。皆そう呼んでる。」
「そうか・・・じゃあみすちー、また明日。」
そういって、盲目の人間が森の中へ消えていく。
「まって!貴方の名前は?」
そう叫んだが、もう人間の姿は無かった。
Ⅲ
次の日の夜、その人間はまたここへ来た。
丁度、屋台をしまっている最中だった。
「ん、そこに居るのは・・・みすちーかい?」
人間がこっちに歩いてこようとする。
「まって!・・・今屋台を片付けてるから、足元が危ないわ。」
「ああ、すまない。助かるよ。」
私は急いで屋台を片付け、座りやすい切り株のところへ人間を誘導した。
「みすちーは屋台をやってたのかい?」
「ええ。・・・鰻屋をやってるわ。」
「鰻屋か・・・今度はもう少し早く来るとしようかな。」
「やめておいたほうがいいわ。来るのはほとんど妖怪だし。
・・・まぁ、時々巫女とかも来るけどね。」
「そうか・・・なら明日は屋台をやっている時間に間に合うようにしよう。」
「・・・私の話聞いてた?」
そういえば、この人間は根本から生きようとしていない気がする。
「貴方、昨日だってそうだったけど・・・死に急ぐようなものよ?」
「ああ。それでいいんだよ。」
・・・え?
「そ、それでいいって・・・」
「僕は元より、死ぬためにここに来たんだからね。」
・・・死ぬために?
「でも死ぬのなら、ずっと気になっていた夜雀の歌を聴いてみたくてね。
昨日は、聴いてそのあとルーミアに食べられて終わるはずだったんだが・・・
何故か生きてるし、またみすちーの歌が聴きたくなってしまったんだ。」
こんなにも自分の歌を褒められるのは初めてだったので、どうしていいかわからない。
どうにも調子が狂う。
「・・・また、歌ってはくれないかい?」
「え、ええ。また歌ってあげる。」
そう言って少し離れ、いつものように私は歌いだした。
森の中に、優しいメロディが流れる。
空気から木に、森に私の歌が伝わっていく。
特殊な波長の歌声につられて、妖怪などが集まってきた。
私の目の前に居る人間のことに気づかず、妖怪達は私の歌を聴いている。
盲目の人間もまた、私の歌に聴き入っていた。
歌が終わり、妖怪達が人間に気づいた。
「おい、ここに人間が居るぞ。」
「何?本当だ!」
「食ってしまおうか。どうする?」
私は声を荒げて言った。
「皆、この人間に手を出さないで!」
妖怪達が不思議そうな顔をする。
「みすちー、何故人間をかばうんだ。」
「それは・・・その・・・」
なんて言えばいいんだろう。
『この人間が私の歌を聴いてくれるから』?
何を考えているんだろうか私は。そんなことで納得するはずがない。
そう思っていると、奥に居る妖怪の叫び声が聞こえた。
「巫女が来たぞ!」
一部の妖怪達はどよめき、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
博霊霊夢だ。
「ったくあいつら・・・いつもは私の神社でやる宴会にさりげなく参加してる癖に・・・」
「霊夢、どうしてここに?」
「ちょっと魔理沙の家に用があってね。ここを通りかかったらあんたの歌が聞こえてきたのよ。」
霊夢は博霊の巫女だ。私の歌に惑わされたり、鳥目にされるほど弱くはない。
目と耳に特殊な結界を張っているらしい。
「―――で、なんでこんなとこに人間が居るわけ?」
霊夢が盲目の人間を指差して言う。
「ああ・・・この人ね、元から目が見えない上に、私の歌を聴いても惑わされないの。」
「こんばんは、霊夢さん。」
人間が霊夢にそういうと、霊夢は顔に疑問を浮かべる。
「・・・あんた、人里の人間?」
「いえ、人里には住んでませんよ。」
「あのねぇ、ここらへんうろついてると妖怪に食われるの。知らないの?」
「知ってますよ。」
「じゃあなんで・・・」
「霊夢、あのね・・・」
私は霊夢に事情を説明した。
「ああ・・・そういうことね。
で、みすちーの歌を聴きに来た・・・と。」
続けざまに霊夢が言った。
「どんな理由があるにしろ、一回慧音のとこに行ってみたらどう?
慧音は最近、そういう相談受けてるし・・・」
「いや、それはちょっと・・・」
人間が口ごもった。
「・・・とにかく、慧音のとこに行ったほうがいいわ。
今日は私、魔理沙のとこに行かないといけないから・・・
明日、案内するわ。」
そう言って、巫女は森の中へ消えていった。
「慧音・・・か。」
人間がつぶやく。
「慧音を知ってるの?」
「うん。知ってるよ。一回相談したんだ。
でも、やっぱり解決しなかった・・・だからここに来てるんだ。」
もう手詰まりだったってことね・・・
「今日も、綺麗な歌だったよ。ありがとう。」
「いや、別に・・・」
私は人間の隣に座り、昨日聞けなかったことを聞いた。
「昨日聞き忘れたんだけど・・・貴方、名前は?」
「・・・明助と呼んでくれ。」
どうしてだろうか。
明助という人間の隣に私は座り、小一時間ぐらい話した。
人間は好きになれない。あまり親しくしたいとも思わない。
だけど、なんでだろうか。
今はとても楽しい気がする。
明助と話すのが、楽しい気がする。
「じゃあ、また来るよ。」
「うん。またね、明助。」
―――また明日も、私の歌を聴くために来てくれる。
そう思うと、つい口元が綻んだ。
私はもう、この気持ちに対して疑問を持たなくなった。
Ⅳ
昼間、森の中にある自分の家で過ごしていると、ドアを叩く音がした。
こんな昼間から誰だろう・・・
そう思い開けてみると、そこには霊夢と慧音が居た。
「霊夢・・・慧音・・・?」
「みすちー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
霊夢が言い、それに続けるように慧音が言った。
「ミスティア。お前の歌を聴きにくるという、人間についてだ。」
「・・・とりあえず中に入って。」
「あの人は普通の人間よ。・・・目が見えないけどね。」
「その人間の名前は?」
「えっと・・・確か、『明助』って言ってたはずだけど・・・」
慧音の顔が急に強張った。
「明助がどうかしたの?」
慧音が言う。
「よく聞いてくれ。その明助という人間は・・・」
「もうこの世には居ないはずなんだ。」
え?
「あまり知られてはいないが・・・人や妖怪が知らぬうちに消えていく異変があってな。
明助という人間の仕業で、紫が殺した。
その後、明助の居たという歴史を私が喰った・・・でもな。」
慧音の言葉に恐怖を覚える。
「明助の死体が見つからなかった。紫が仕留め損ねるとは思わんが・・・」
「そんな異変があったの・・・?」
「ああ。どこから身につけたかはわからんが、高度な方術を使う奴でな。
人も妖怪も、ところかまわず殺し回っていたそうだ。・・・それも秘密裏に。」
そんな・・・そんなことはありえない・・・
だって、明助は私の歌を聴きに来てくれて・・・
優しい顔で私に話しかけてくれて・・・
それで・・・
「とにかく」
霊夢が私に一喝した。
「明助という人間に近づかないほうがいいわ。
それに・・・今日の夜、明助が現れたのなら―――」
聞きたくない・・・!
「私たちは全力をもって殺すわ。」
霊夢と慧音が去り、私はどうすればいいかわからなくなった。
明助は言った。
『じゃあ、また来るよ。』
だって、おかしい。
もし、慧音の話が本当なら・・・
慧音が来るとわかっていて、また来るなんて言わないはずだ。
明助は、私の歌を聴きに来てくれる優しい人間だ。ただ、それだけだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
だが、こびりついて離れない不安を抱えながら夜を迎えることになった。
Ⅴ
いつも私が屋台をやっている場所に、既に慧音と霊夢、それから紫が居た。
「ミスティア。貴方は家に居なさい。」
紫にそう言われ、私は明助を待つことは出来なかった。
・・・もし、このまま明助があの場所に来たら?
紫に殺される?
だけど、あの妖怪賢者には逆らえない。強すぎるのだ。
どうしよう。
私に何か出来ることは?
出来れば、明助を助けたい。
私の歌を真正面から褒めてくれた、明助を―――
そう思っていたとこだった。
玄関をノックする音が聞こえる。
・・・誰?
私は恐る恐る、玄関を開けた。
明助が立っていた。
「やぁ、みすちー。」
「明・・・助・・・?」
私の頭の中で混乱が起きる。
慧音の話は本当?それとも嘘?
嘘だったなら、明助さんは私の歌を聴きに来ただけ。
本当だったら―――
「みすちー。」
明助の声で、頭の中に嫌な疑問が生じた。
「明助・・・聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「なんで私の家がわかったの?」
明助は、私の質問に対して悩んだりするような事もなく、すぐに返事を返した。
「方術で家の在処を突き止めたのさ。」
方術・・・
『高度な方術を使う奴でな。』
慧音の言葉が脳裏によみがえってくる。
「ねぇ・・・みすちー。みすちーには、僕は今どう見える?」
「あ・・・明助は・・・」
殺戮者?
普通の人間?
私の中で二つの答えが右往左往する。
「・・・いや、答えなくていいよ。」
そう言うと、笑いながら明助が手をこっちに伸ばしてくる。
少しずつ、ゆっくりと私の顔に手が伸びてくる。
冷や汗が流れる。
明助・・・その笑顔は、一体どっちなの?
明助の手が私の頬に触れた。
「みすちー。」
「今日でお別れだ。・・・ごめんね。」
明助がそう言った瞬間だった。
明助の腹に誰かの手が刺さっていた。
「かはっ」
貫通した手が抜き取られ、明助の後ろに紫が立っていた。
紫の手は、明助の血で真っ赤に染まっていた。
「危なかったわね。
まさか、私たちを出し抜くなんてね・・・」
明助の手が、私の頬からずり落ちていく。
明助は静かに床に倒れた。
そこに、霊夢と慧音が遅れて来た。
「紫、こいつは前に仕留めたんじゃなかったの?」
霊夢が聞き、紫が答える。
「・・・仕損じたみたい。信じられないけどね。
恐らく、目の光を代償に生き延びたんでしょう。」
「さて、明助の死体を運ぼ―――」
「まって!」
私は慧音の言葉を遮って言った。
「・・・この人はまだ、私に何もしてないわ。ほら、無傷よ!」
「馬鹿ね・・・今殺されかけてたじゃない。
頬まで手を伸ばされた時点で、貴方は死んでいたかも知れないのよ。」
紫が恐い顔で私に言う。
「お願い・・・明助をどこかに連れて行かないで・・・」
慧音が困ったように言う。
「ミスティア、もしそいつが後で起き出したら・・・
お前の無事は保障できないんだぞ。」
「かまわないわ。」
どんどん私の口調は強くなっていく。
霊夢が言った。
「・・・どうする?紫。慧音。
私としては、スキマをここに仕込んで、明助が動いたら即刻止めを刺す・・・
これが一番妥当だと思うけど。」
「何故そんな面倒なことをするのかしら?」
紫の問いに、霊夢が断言する。
「明助にはもう、力がほとんど無いわ。
多分、もう持たないでしょ。紫の一撃も喰らってるんだし。」
霊夢が私を気遣ってくれている・・・?
「・・・仕方ないわね。
ミスティア、くれぐれも最後まで気をつけなさい。
まぁ、これで貴方が殺されたとしても自業自得だけど。」
紫が不満げに言った。
「もっと賢くなることね。」
そう言い、三人は去っていった。
三人の気配が遠くなったのを確認して、私は明助に駆け寄った。
「明助!明助!」
「ぐっ・・・」
!
「み・・・すちー」
「今ベッドに運ぶから!」
明助をベッドに運び、傷を見た。
腹に穴が開いている。絶望的な状況―――
「明助・・・さっき、私の頬に触れて・・・何をしようとしたの・・・?」
明助がゆっくりと喋った。
「・・・殺されるのはわかっていたんだ
慧音が君に説明したように・・・僕は殺戮者だよ。」
明助の声がかすれてきた。
「なんで・・・なんでそんなことを・・・」
「僕が方術を完璧にマスターした時、自分の寿命が1年しか無いことに気づいたんだ・・・」
明助の話によれば、禁術のひとつに、生者の命と引き換えに寿命を延ばす術があるそうだ。
「僕は生きることに必死だった・・・とにかく死にたくなかった。
紫達に殺されかけても、僕は生き延びた。・・・目は見えなくなったけどね。」
そして、明助がこっちを向いて言った。
「慧音に僕の歴史を喰われて、皆から忘れ去られて・・・
僕はなんの為に生きてるのかわからなくなった。」
私の目から涙がこぼれ始めた。
「死に場所を求めるようになって行き着いたのが・・・みすちーなんだ。」
私は泣いていた。
胸がズキズキと痛む。
「みすちーの歌を聴いてる時はとても落ち着いたよ・・・
短い間だけど、ありがとう・・・」
「・・・方術で生き延びることは出来ないの?」
生きて欲しい。
「いや・・・もうそんな力も無いし、僕はここで死ぬつもりだよ。」
「嫌よ!」
私は叫んだ。
「もっと話したい事も・・・私の屋台でのご馳走も振舞ってない・・・!
生きてよ・・・お願い・・・」
こんな気持ちになるのは初めてだ。
とにかく生きて欲しい。
生きていれば、また話が出来て・・・また会えて・・・
「・・・みすちー、ひとつお願いがあるんだ。」
「な、何?なんでもするわ。」
「また・・・歌を歌ってはくれないかな・・・」
「・・・ええ、歌うわ。今までよりも綺麗な歌を・・・!」
私は、明助の為に、明助の為だけに歌を歌った。
声が枯れそうになっても、必死に歌った。
明助が心地よいと言ってくれたこの歌を聴けば、明助はきっと復活すると・・・
そう、思い込みながら、歌った。
歌い終えた時、明助の息は既に無かった。
優しい笑顔をしたまま、ベッドに横たわっていた。
Ⅵ
「最近、みすちーが新しい歌を歌うようになったわね。」
「ああ。かなり好評らしいぜ?色んなとこで噂になってる。
何があったかはわからんが、新しい歌なんて久々だぜ。」
「何があったか・・・ねぇ。」
霊夢が意味深な顔をする。
魔理沙が聞いた。
「なんだよ、霊夢はなんか知ってるのか?」
「何も。」
そう話していると、どこからか綺麗な歌声が聞こえてくる。
「お、これってみすちーの歌じゃないか?」
「なんで神社まで聞こえるのよ・・・
ちゃんと聴いたことないし、少し聴いてみましょうか。」
霊夢が歌詞を慎重に聴いている。
「・・・!」
「霊夢、どうしたんだ?」
「成程・・・ね・・・。」
「?やっぱ何か知ってるんじゃないか?」
「何も。」
魔理沙は不思議そうな顔をして、夜雀の歌をまた聴き始めた。
「ん、歌が終わったな。」
「そうね。」
「霊夢、途中に『助けを求める明け方の陽』っていう歌詞があったけどよ・・・
あれって、どういう意味なんだ?」
「・・・それは言伝ね。」
「言伝?」
「ま、きっとアンタにはわからないでしょ。」
「えー・・・教えてくれたっていいじゃないか。」
「言ったってわかるわけないわよ。」
霊夢が立ち上がった。
「だって皆忘れたもの。」
魔理沙はますます霊夢の言っている言葉の意味がわからなくなるだけであった。
ミスティア・ローレライの家の近くに、墓が出来た。
誰の墓かは、誰も知らない。
鳥目になって、さらには歌に惑わされ・・・人ってのは本当に哀れなものだね。
夜雀はそう考えながら、今日も同じことを繰り返すばかりだと思っていた。
◇
『もしも同じ動きが続くと思ったなら、それは続かない。』
―――ある偉人の著作物より抜粋。
◇
Ⅰ
夜の闇の中、私は屋台をしまい終えたところだった。
森の奥から気配がする。
「人間ね。・・・それも一人。」
私はすぐさま木の上に飛び、いつものように歌を歌った。
この歌は人の目を闇にしずめ、混乱させる力がある。
魅力的なものには、凡人は近づくことすらできない。
薔薇に棘があるように。花に毒があるように。
歌を歌い、惑わされた人間はどうなるかと言うと・・・
大抵の場合、ルーミアに食われるか、リグルの蟲の餌食になる。
逃げる手立てなんて無い。
だが・・・人間は誰しも恐怖にかられるのか、歩くのが速くなるのだ。
惑わせて、鳥目にしてきた人間は皆そうだった。
―――今回を除いて。
歩いて来た人間が、いきなり歩くのを止めた。
丁度、私の居る木の下あたりだ。
最初は鳥目になって呆然と立ち尽くしているのかと思ったが、何か雰囲気が違う。
人間は、私の歌を聴いていた。
惑わされることなく、ただ私の歌を聴きこんでいた。
・・・おかしい。
私の歌を聴けば、混乱に陥るはず。それを防ぐ手立てはあるそうだが・・・
それ以前に鳥目になって、目が見えなくなっているはずだ。
ついに私の歌が終わった。
魔力を使えるわけでもなく、巫女でもなく、ただの人間が、最後まで私の歌を聴いた。
何が起きているのか、頭の中で整理をつけようとしていたところだった。
「おーい」
下から声がした。
「あんたが歌ってたんだろう?夜雀さん。」
はっきりと、私に向かって言っている。
私は恐る恐る下に降り、その人間の顔を見た。
若い顔立ちの青年で、髪は若干茶色がかかったような色だった。
「ああ・・・あんたの歌、とても心地が良かったよ。ありがとう。」
・・・初めてのことだった。
私の歌の効力に全く耐性のない人間にお礼を言われたのは。
「貴方、本当に人間・・・?
私の歌を聴けば、惑わされる上に目が見えなくなるはず・・・」
「それは知っているよ。」
知っているのに何故・・・?死にに来る様なものだ。
そう思っていると、その人間の手が私の肩に触れた。
「―――!?」
「ああ、すまない。驚かせてしまって。でも、こうしないとどこに居るかわからないんだ。」
まさか―――
「人間を鳥目にさせるんだったね。でもあいにく僕は―――」
「既に、見えてないんだ。」
Ⅱ
元から盲目の人間と出会ったのは初めてだった。
「もうこの目には光が無いんだ。鳥目以前の問題ってことさ。」
「・・・じゃあ、なんで私の歌に惑わされなかったの?」
人間は嫌いだ。だが、疑問が私の口を動かす。この人間に問いたくなる。
「私は小さい頃から目が見えなくてね、必ず歌を聴くようにしていたんだ。
あんたの歌は、今まで聴いた中では最高の歌だったね・・・だからじゃないかな?」
・・・そんなことあるはずが―――
そう思っていると、私の背中に何かが当たった感触がした。
「いてっ」
「・・・ルーミア?」
人食い妖怪であり、闇を操る能力を持つ。私の背中にぶつかったのはそんな妖怪だった。
「みすちー、その人間は食べてもいいのかー?」
起き上がるなり、そう言ってくる。
「えっと・・・」
なぜだろう。私は口ごもった。
いつものように、『食べていいわよ。』―――と言うだけのはず。
「む、食べちゃだめな人間なのかー?」
「あ、いや・・・なんていうか・・・」
「食べてもいいよ。」
私はびっくりして人間の方に振り返った。
食べてもいい?この人間は何を言っているんだ?
「おー、食べてもいいのかー!」
「どうぞ。かまわないよ。」
「ま、まって!」
私は咄嗟に声を出していた。
何を言っているのだろうか。自分でもよくわからない。
しかし、私が言うと同時にルーミアは人間の首筋を噛んだ。
「・・・食べないのかい?」
ルーミアは、甘噛みしただけで、すぐに辞めてしまった。
「むー、なんかまずそうな感じがしたから。
それに、みすちーが嫌そうにしてるからやめたのだー」
危なかった・・・あともう少しでルーミアによって食われているとこだった・・・
だが、人間はますます私を混乱させるような態度を取った。
「残念だね・・・ルーミアという妖怪は、人間なら誰でも食べると聞いたんだが。」
「実を言えば、私は今お腹いっぱいだったりするのだ。」
そして、人間の顔が綻んだ。
「なら、また出直すとしよう。
それに、ここに来ればまたあんたの歌が聴けるからね。」
なにがなんだかわからない。
「えっと・・・あんたの名前は確か・・・
そうだ。ミスティア・ローレライと言ったか。」
「みすちーでいいわ。皆そう呼んでる。」
「そうか・・・じゃあみすちー、また明日。」
そういって、盲目の人間が森の中へ消えていく。
「まって!貴方の名前は?」
そう叫んだが、もう人間の姿は無かった。
Ⅲ
次の日の夜、その人間はまたここへ来た。
丁度、屋台をしまっている最中だった。
「ん、そこに居るのは・・・みすちーかい?」
人間がこっちに歩いてこようとする。
「まって!・・・今屋台を片付けてるから、足元が危ないわ。」
「ああ、すまない。助かるよ。」
私は急いで屋台を片付け、座りやすい切り株のところへ人間を誘導した。
「みすちーは屋台をやってたのかい?」
「ええ。・・・鰻屋をやってるわ。」
「鰻屋か・・・今度はもう少し早く来るとしようかな。」
「やめておいたほうがいいわ。来るのはほとんど妖怪だし。
・・・まぁ、時々巫女とかも来るけどね。」
「そうか・・・なら明日は屋台をやっている時間に間に合うようにしよう。」
「・・・私の話聞いてた?」
そういえば、この人間は根本から生きようとしていない気がする。
「貴方、昨日だってそうだったけど・・・死に急ぐようなものよ?」
「ああ。それでいいんだよ。」
・・・え?
「そ、それでいいって・・・」
「僕は元より、死ぬためにここに来たんだからね。」
・・・死ぬために?
「でも死ぬのなら、ずっと気になっていた夜雀の歌を聴いてみたくてね。
昨日は、聴いてそのあとルーミアに食べられて終わるはずだったんだが・・・
何故か生きてるし、またみすちーの歌が聴きたくなってしまったんだ。」
こんなにも自分の歌を褒められるのは初めてだったので、どうしていいかわからない。
どうにも調子が狂う。
「・・・また、歌ってはくれないかい?」
「え、ええ。また歌ってあげる。」
そう言って少し離れ、いつものように私は歌いだした。
森の中に、優しいメロディが流れる。
空気から木に、森に私の歌が伝わっていく。
特殊な波長の歌声につられて、妖怪などが集まってきた。
私の目の前に居る人間のことに気づかず、妖怪達は私の歌を聴いている。
盲目の人間もまた、私の歌に聴き入っていた。
歌が終わり、妖怪達が人間に気づいた。
「おい、ここに人間が居るぞ。」
「何?本当だ!」
「食ってしまおうか。どうする?」
私は声を荒げて言った。
「皆、この人間に手を出さないで!」
妖怪達が不思議そうな顔をする。
「みすちー、何故人間をかばうんだ。」
「それは・・・その・・・」
なんて言えばいいんだろう。
『この人間が私の歌を聴いてくれるから』?
何を考えているんだろうか私は。そんなことで納得するはずがない。
そう思っていると、奥に居る妖怪の叫び声が聞こえた。
「巫女が来たぞ!」
一部の妖怪達はどよめき、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
博霊霊夢だ。
「ったくあいつら・・・いつもは私の神社でやる宴会にさりげなく参加してる癖に・・・」
「霊夢、どうしてここに?」
「ちょっと魔理沙の家に用があってね。ここを通りかかったらあんたの歌が聞こえてきたのよ。」
霊夢は博霊の巫女だ。私の歌に惑わされたり、鳥目にされるほど弱くはない。
目と耳に特殊な結界を張っているらしい。
「―――で、なんでこんなとこに人間が居るわけ?」
霊夢が盲目の人間を指差して言う。
「ああ・・・この人ね、元から目が見えない上に、私の歌を聴いても惑わされないの。」
「こんばんは、霊夢さん。」
人間が霊夢にそういうと、霊夢は顔に疑問を浮かべる。
「・・・あんた、人里の人間?」
「いえ、人里には住んでませんよ。」
「あのねぇ、ここらへんうろついてると妖怪に食われるの。知らないの?」
「知ってますよ。」
「じゃあなんで・・・」
「霊夢、あのね・・・」
私は霊夢に事情を説明した。
「ああ・・・そういうことね。
で、みすちーの歌を聴きに来た・・・と。」
続けざまに霊夢が言った。
「どんな理由があるにしろ、一回慧音のとこに行ってみたらどう?
慧音は最近、そういう相談受けてるし・・・」
「いや、それはちょっと・・・」
人間が口ごもった。
「・・・とにかく、慧音のとこに行ったほうがいいわ。
今日は私、魔理沙のとこに行かないといけないから・・・
明日、案内するわ。」
そう言って、巫女は森の中へ消えていった。
「慧音・・・か。」
人間がつぶやく。
「慧音を知ってるの?」
「うん。知ってるよ。一回相談したんだ。
でも、やっぱり解決しなかった・・・だからここに来てるんだ。」
もう手詰まりだったってことね・・・
「今日も、綺麗な歌だったよ。ありがとう。」
「いや、別に・・・」
私は人間の隣に座り、昨日聞けなかったことを聞いた。
「昨日聞き忘れたんだけど・・・貴方、名前は?」
「・・・明助と呼んでくれ。」
どうしてだろうか。
明助という人間の隣に私は座り、小一時間ぐらい話した。
人間は好きになれない。あまり親しくしたいとも思わない。
だけど、なんでだろうか。
今はとても楽しい気がする。
明助と話すのが、楽しい気がする。
「じゃあ、また来るよ。」
「うん。またね、明助。」
―――また明日も、私の歌を聴くために来てくれる。
そう思うと、つい口元が綻んだ。
私はもう、この気持ちに対して疑問を持たなくなった。
Ⅳ
昼間、森の中にある自分の家で過ごしていると、ドアを叩く音がした。
こんな昼間から誰だろう・・・
そう思い開けてみると、そこには霊夢と慧音が居た。
「霊夢・・・慧音・・・?」
「みすちー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
霊夢が言い、それに続けるように慧音が言った。
「ミスティア。お前の歌を聴きにくるという、人間についてだ。」
「・・・とりあえず中に入って。」
「あの人は普通の人間よ。・・・目が見えないけどね。」
「その人間の名前は?」
「えっと・・・確か、『明助』って言ってたはずだけど・・・」
慧音の顔が急に強張った。
「明助がどうかしたの?」
慧音が言う。
「よく聞いてくれ。その明助という人間は・・・」
「もうこの世には居ないはずなんだ。」
え?
「あまり知られてはいないが・・・人や妖怪が知らぬうちに消えていく異変があってな。
明助という人間の仕業で、紫が殺した。
その後、明助の居たという歴史を私が喰った・・・でもな。」
慧音の言葉に恐怖を覚える。
「明助の死体が見つからなかった。紫が仕留め損ねるとは思わんが・・・」
「そんな異変があったの・・・?」
「ああ。どこから身につけたかはわからんが、高度な方術を使う奴でな。
人も妖怪も、ところかまわず殺し回っていたそうだ。・・・それも秘密裏に。」
そんな・・・そんなことはありえない・・・
だって、明助は私の歌を聴きに来てくれて・・・
優しい顔で私に話しかけてくれて・・・
それで・・・
「とにかく」
霊夢が私に一喝した。
「明助という人間に近づかないほうがいいわ。
それに・・・今日の夜、明助が現れたのなら―――」
聞きたくない・・・!
「私たちは全力をもって殺すわ。」
霊夢と慧音が去り、私はどうすればいいかわからなくなった。
明助は言った。
『じゃあ、また来るよ。』
だって、おかしい。
もし、慧音の話が本当なら・・・
慧音が来るとわかっていて、また来るなんて言わないはずだ。
明助は、私の歌を聴きに来てくれる優しい人間だ。ただ、それだけだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
だが、こびりついて離れない不安を抱えながら夜を迎えることになった。
Ⅴ
いつも私が屋台をやっている場所に、既に慧音と霊夢、それから紫が居た。
「ミスティア。貴方は家に居なさい。」
紫にそう言われ、私は明助を待つことは出来なかった。
・・・もし、このまま明助があの場所に来たら?
紫に殺される?
だけど、あの妖怪賢者には逆らえない。強すぎるのだ。
どうしよう。
私に何か出来ることは?
出来れば、明助を助けたい。
私の歌を真正面から褒めてくれた、明助を―――
そう思っていたとこだった。
玄関をノックする音が聞こえる。
・・・誰?
私は恐る恐る、玄関を開けた。
明助が立っていた。
「やぁ、みすちー。」
「明・・・助・・・?」
私の頭の中で混乱が起きる。
慧音の話は本当?それとも嘘?
嘘だったなら、明助さんは私の歌を聴きに来ただけ。
本当だったら―――
「みすちー。」
明助の声で、頭の中に嫌な疑問が生じた。
「明助・・・聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「なんで私の家がわかったの?」
明助は、私の質問に対して悩んだりするような事もなく、すぐに返事を返した。
「方術で家の在処を突き止めたのさ。」
方術・・・
『高度な方術を使う奴でな。』
慧音の言葉が脳裏によみがえってくる。
「ねぇ・・・みすちー。みすちーには、僕は今どう見える?」
「あ・・・明助は・・・」
殺戮者?
普通の人間?
私の中で二つの答えが右往左往する。
「・・・いや、答えなくていいよ。」
そう言うと、笑いながら明助が手をこっちに伸ばしてくる。
少しずつ、ゆっくりと私の顔に手が伸びてくる。
冷や汗が流れる。
明助・・・その笑顔は、一体どっちなの?
明助の手が私の頬に触れた。
「みすちー。」
「今日でお別れだ。・・・ごめんね。」
明助がそう言った瞬間だった。
明助の腹に誰かの手が刺さっていた。
「かはっ」
貫通した手が抜き取られ、明助の後ろに紫が立っていた。
紫の手は、明助の血で真っ赤に染まっていた。
「危なかったわね。
まさか、私たちを出し抜くなんてね・・・」
明助の手が、私の頬からずり落ちていく。
明助は静かに床に倒れた。
そこに、霊夢と慧音が遅れて来た。
「紫、こいつは前に仕留めたんじゃなかったの?」
霊夢が聞き、紫が答える。
「・・・仕損じたみたい。信じられないけどね。
恐らく、目の光を代償に生き延びたんでしょう。」
「さて、明助の死体を運ぼ―――」
「まって!」
私は慧音の言葉を遮って言った。
「・・・この人はまだ、私に何もしてないわ。ほら、無傷よ!」
「馬鹿ね・・・今殺されかけてたじゃない。
頬まで手を伸ばされた時点で、貴方は死んでいたかも知れないのよ。」
紫が恐い顔で私に言う。
「お願い・・・明助をどこかに連れて行かないで・・・」
慧音が困ったように言う。
「ミスティア、もしそいつが後で起き出したら・・・
お前の無事は保障できないんだぞ。」
「かまわないわ。」
どんどん私の口調は強くなっていく。
霊夢が言った。
「・・・どうする?紫。慧音。
私としては、スキマをここに仕込んで、明助が動いたら即刻止めを刺す・・・
これが一番妥当だと思うけど。」
「何故そんな面倒なことをするのかしら?」
紫の問いに、霊夢が断言する。
「明助にはもう、力がほとんど無いわ。
多分、もう持たないでしょ。紫の一撃も喰らってるんだし。」
霊夢が私を気遣ってくれている・・・?
「・・・仕方ないわね。
ミスティア、くれぐれも最後まで気をつけなさい。
まぁ、これで貴方が殺されたとしても自業自得だけど。」
紫が不満げに言った。
「もっと賢くなることね。」
そう言い、三人は去っていった。
三人の気配が遠くなったのを確認して、私は明助に駆け寄った。
「明助!明助!」
「ぐっ・・・」
!
「み・・・すちー」
「今ベッドに運ぶから!」
明助をベッドに運び、傷を見た。
腹に穴が開いている。絶望的な状況―――
「明助・・・さっき、私の頬に触れて・・・何をしようとしたの・・・?」
明助がゆっくりと喋った。
「・・・殺されるのはわかっていたんだ
慧音が君に説明したように・・・僕は殺戮者だよ。」
明助の声がかすれてきた。
「なんで・・・なんでそんなことを・・・」
「僕が方術を完璧にマスターした時、自分の寿命が1年しか無いことに気づいたんだ・・・」
明助の話によれば、禁術のひとつに、生者の命と引き換えに寿命を延ばす術があるそうだ。
「僕は生きることに必死だった・・・とにかく死にたくなかった。
紫達に殺されかけても、僕は生き延びた。・・・目は見えなくなったけどね。」
そして、明助がこっちを向いて言った。
「慧音に僕の歴史を喰われて、皆から忘れ去られて・・・
僕はなんの為に生きてるのかわからなくなった。」
私の目から涙がこぼれ始めた。
「死に場所を求めるようになって行き着いたのが・・・みすちーなんだ。」
私は泣いていた。
胸がズキズキと痛む。
「みすちーの歌を聴いてる時はとても落ち着いたよ・・・
短い間だけど、ありがとう・・・」
「・・・方術で生き延びることは出来ないの?」
生きて欲しい。
「いや・・・もうそんな力も無いし、僕はここで死ぬつもりだよ。」
「嫌よ!」
私は叫んだ。
「もっと話したい事も・・・私の屋台でのご馳走も振舞ってない・・・!
生きてよ・・・お願い・・・」
こんな気持ちになるのは初めてだ。
とにかく生きて欲しい。
生きていれば、また話が出来て・・・また会えて・・・
「・・・みすちー、ひとつお願いがあるんだ。」
「な、何?なんでもするわ。」
「また・・・歌を歌ってはくれないかな・・・」
「・・・ええ、歌うわ。今までよりも綺麗な歌を・・・!」
私は、明助の為に、明助の為だけに歌を歌った。
声が枯れそうになっても、必死に歌った。
明助が心地よいと言ってくれたこの歌を聴けば、明助はきっと復活すると・・・
そう、思い込みながら、歌った。
歌い終えた時、明助の息は既に無かった。
優しい笑顔をしたまま、ベッドに横たわっていた。
Ⅵ
「最近、みすちーが新しい歌を歌うようになったわね。」
「ああ。かなり好評らしいぜ?色んなとこで噂になってる。
何があったかはわからんが、新しい歌なんて久々だぜ。」
「何があったか・・・ねぇ。」
霊夢が意味深な顔をする。
魔理沙が聞いた。
「なんだよ、霊夢はなんか知ってるのか?」
「何も。」
そう話していると、どこからか綺麗な歌声が聞こえてくる。
「お、これってみすちーの歌じゃないか?」
「なんで神社まで聞こえるのよ・・・
ちゃんと聴いたことないし、少し聴いてみましょうか。」
霊夢が歌詞を慎重に聴いている。
「・・・!」
「霊夢、どうしたんだ?」
「成程・・・ね・・・。」
「?やっぱ何か知ってるんじゃないか?」
「何も。」
魔理沙は不思議そうな顔をして、夜雀の歌をまた聴き始めた。
「ん、歌が終わったな。」
「そうね。」
「霊夢、途中に『助けを求める明け方の陽』っていう歌詞があったけどよ・・・
あれって、どういう意味なんだ?」
「・・・それは言伝ね。」
「言伝?」
「ま、きっとアンタにはわからないでしょ。」
「えー・・・教えてくれたっていいじゃないか。」
「言ったってわかるわけないわよ。」
霊夢が立ち上がった。
「だって皆忘れたもの。」
魔理沙はますます霊夢の言っている言葉の意味がわからなくなるだけであった。
ミスティア・ローレライの家の近くに、墓が出来た。
誰の墓かは、誰も知らない。
ただちょっと、ノリに任せすぎな気もします。特に設定面は、ところどころ腑に落ちませんでした。説明不足なのか、設定の段階でミスしているのかはわかりませんが。
腰を落ち着けてじっくり書いたらきっと、もっと面白いものが書けると思います。今後に期待したいです。
三時間しかかけてなかったので、かなり辛い文章になってしまったようですね・・・
今度はじっくり時間をかけて書いてみようと思います
>>5
それはわかっていますよ
私の文章能力の低さで誤解を与えてしまったようですね・・・気をつけます。
初投稿の補正で読むとかそんなことしないから、発想も設定も既にありふれすぎてるし筆力で正直お話は面白くなかったけど、起源にある書くまでの想いは想像出来たし、一介のミスティア好きとして、ミスティアSSを書いてくれたことに感謝します。
ミスティア好きはお互い笑顔で鼻歌を歌いながら喉元にナイフを突きつけ合うような楽しいコミュニティです。次にミスティアSSがもしまた来たのなら、読みに来るので楽しみに待っていますね。
ただ、みすちーが明助に想い入れを抱く(またその逆も)には、展開が急すぎて説得力が足りないように感じました。この分量に納めるには仕方ないことかもですがー
なんとなく理解できただけで、話にのめり込めなかった。
あと、『・・・』は『…』にしてほしい。
結構読みづらい。