Coolier - 新生・東方創想話

~~博霊神社例大祭における春の昇華現象の考察~~『後編』

2005/04/29 22:33:48
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*タイトルに深い意味はありません。
*繰り返しますが、このSSはフィクションであり、実在の人物・団体・地名・創作物とは何ら関係無い事をご了承ください。
*しつこく繰り返しますが、色々と実在する何かに似ているものも出現しているように見えても、それもオマージュです。
*前編から読んでいただけると幸いです。
*許してください、つかごめんなさい。




○4月18日 午後2時半 会場内


 あれから1時間後……彼女達の先程までの勢いは全て消え失せた。
顔に疲労の色を浮かべて、隅っこに座り込んでいた。

「無駄に人が多すぎる~」
「……こいつらの無駄なまでに溢れる活力は何処から出てくるんだ?」
「噂以上……死ぬ……」

 恐るべきかな即売会。
初心者であろうが容赦無くエネルギー嵐の中心に巻き込み、参加するもの全ての保持している力を
最大限に放出するこの場所は、ある意味別の世界になっていた。
この手のイベント……いや、この世界その物に慣れていない彼女達にとっては、
ここはある意味苦行の場以外の何者でもないだろう。

「とりあえず……結界の設置終了……後は任せたわ」
「霊夢もダウン? ……私も少し休むわ」

 ぺたりと座り込んでしまった霊夢と咲夜を横目に、魔理沙が何かの冊子を取り出して読みふけっていた。

「……うぷっ♪」

噴出す声が聞こえる、声の発生源は魔理沙。
2人が振り向くと、魔理沙の口は歪みながらも釣りあがり、目が潤みつつも引き伸ばされて、
体の奥底から噴出してくる感情を押さえつけている様で、震えながらも何かを必死に堪えていた。

「?」
「くくっ……ふふっ……」
「???」
「あっはっは~~♪ よくこんな事考えつくな!」
「ちょ……ちょっと魔理沙!」
「中国が、中国が~~!」(ゲラゲラゲラゲラ)
「魔理沙! しっかりしてよ! ワライタケでも食べちゃったの?」

心配そうに見つめる2人をよそに、げらげらと爆笑する魔理沙。

「ああ、悪い悪い。ちょいと面白い物を手に入れたんでな」
「???」
「これこれ、読んでみ♪」

 読んでいた小冊子を渡された。
少々、いやかなり薄い冊子では有るが、それ自体の作りはさほど悪くは無い。
内容は墨では無い何か別の物で描かれている絵画だった。いや、絵画ですらない。
細かくコマ別けされた漫画であり、幻想郷には漫画が無いので彼女達には何なのかは解らないだろうが……

「…………」
「……………………ぷっ」
「魔理沙……これ……中国が……」

漫画が意図する内容は伝わったのだろう。
咲夜の肩がぷるぷると震えて、笑いをこらえてる。
疲れた表情だった霊夢も思わず吹き出してしまった、頬が紅く染まりつつある。

「あの、美鈴ですけど何か?」

ブローチから声が聞こえた、門番美鈴がさりげなく自分の名前をアッピールしながら問い掛けてくる。

「これこれ、見て」

ブローチを「目」に見立てて、見えやすいように小冊子、つまりは同人誌を開いて向ける。

「…………………………………これわなんディスカ?」
「見ての通り、あなたの本よ。中国♪」

それは、中国こと美鈴が主人公の冊子であり、中国イジメと呼ばれるジャンル(?)のギャグマンガだった。

「酷い……酷すぎる!!」

美鈴の声が震えている、半分涙声だった。

「さくやー、つぎにちゅーごくがミスしたらこのほーほーでおしおきしなさいな」
「レビリアざばぁぁぁ!!!」

レミリア・スカーレット非情、子供状態になっても非情さには変化が無いらしい。
咲夜がちょっと微笑んだ気がする。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!?????」

 突如魔理沙が絶叫を上げた、それは絶叫より歓声と取れた。

「魔理沙、どしたの?」
「……??」
「見ろ見ろ見ろ見ろみろミロMIRO!! これすげーよ!」
「どら」
「どれどれ?」





 3人の動きが停止した、ちなみに咲夜の能力によるものではない。

「きゃぁぁぁぁあ!! 私が、私が裸に裸にぃ!!」
「うわー…………凄い」
「だろ? だろ?」
「不潔よ、不潔!! こんな不届きな代物は封印してくれる!!!」
「まあまあ、これは愛されている事の裏返しだぜ? こんなに綺麗に書いてもらえるのはある意味光栄だぜ?」
「(なんて正確な情報を伝える本があるのかしら、ちゃんと私のボディラインが再現されている……)」

魔理沙が手に取り、霊夢が憤慨し、咲夜が感心したこの本の内容の説明は、とりあえず説明を省かせていただきます。

「ねーねー、このほんさくやがすっぱだかになってるよ?」
「え? あ? うあっ!? レミィ、見ちゃだめ!!」

 ブローチが興味津々と言った様子で明滅している。

「さくやー、はやくページをめくって~」
「わわわわわっ!? レミリア様! 見てはいけません! これは無かった事にさせていただきます!」
「なんで? なんで? なんで?」

 何とか本を見ようと、ブローチが自分からチョロチョロと動いて位置を変える。
それをさせまいと咲夜の手がカバー。

「みせてーみせてーみせてー」
「ああもう、お嬢様! これは有害な本で御座います! 高貴な種族であるお嬢様が見るべきものでは……」
「みせてよーーー!!」

ビイン!

 あまりにも無理な移動をした為か、弾けるような音を立てて、咲夜の服からブローチが吹き飛んだ。
紅い宝石は弧を描いて宙を飛んだ。

「あぶねーーーーー!!」

何処からとも無く箒を取り出して、ブローチを受け止める魔理沙。
しかし……

パコーン!

間違って堅い柄の方で受け止めた為、逆に遠くへ弾く結果となってしまった。

カン! コン、カラカラカラカラカラ……メキイッ!

ブローチはそのまま地面を滑って遠くに転がり、近くを通りかかった参拝者に……踏まれた。

ミキッ! ミキミキミキッ!

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!! 鏡が、鏡がぁ!」
「かがみがわれちゃうよぅ!」
「え? え? なんだこりゃ?」

 ブローチを踏んでしまった参拝者が驚いてその場を飛びのく。
何処からとも無く女の子の声が聞こえてきたのだから無理はないのだろうが……

「駄目! 鏡が割れる!! みんな逃げ……」

ビキビキビキビキ!
ズン!
ズドドドどん! ドコドコドコどぎゅぐらわドドドドドドドドドドドドド!!!

 重たい家具が高い場所から落下して、完全に粉砕されるようなやかましい音と共に、会場の一角に噴煙が立ち上った。
いやよく見れば、よく見なくても、なにかの家具だったものの残骸があたり一面に散らばっていた。

「あうー、重たいよう」
「大変! 一部が転移しちゃった!」
「あれー? ここ何処?」
「人が一杯~わは~♪」

 その瞬間、ざわりっ!!っと空間が震えるような振動と共に恐ろしい勢いで周囲の雰囲気が変わった。
周りの空気が一瞬にして別のものにすり変わった。

「あ……」

誰も声が出せなかった。
その場にいた霊夢・魔理沙・咲夜も、参拝者達も、当の本人達も。

 先程の非ではない、巨大な質量が、大多数の人型の存在が露呈され、周囲と彼女達との均衡が崩れた。
皆がこちら側の世界に取り込まれた。
それはもう、簡易結界如きでは抑え様も無く、修復不可能なくらいの勢いで。

「「「うおおおおおおおおお!!!???」」」

周囲が一斉に唸り出し会場がパニック状態になる。
そりゃ当然だろう、今まで架空の存在だと思っていたものがそこにいるのだから。
しかも、ここにいる者達は皆彼女達に好意を持って集結しているのだから。

 会場が興奮の大渦に巻き込まれ、沸き立ち沸騰した人間の感情によって大パニックになりつつある。
向こう見ずなのか、それとも怖いも知らずなのか、一人の人間が彼女達に対して歩み寄ると、
一人、二人、又一人と、次から次へと最初はゆっくり、次第に早く、ついには雪崩のように集まってきた。

「あああ!カメラカメラ!チルチルがいるよあれってやばい結界が壊れた美鈴?本物だよおい背中の羽がキュートみょんム
ーンライトレイ惜しいお嬢様?もうちょっとでおぱんつそら飛んでるよみろみろ誰かお持ち帰りえーんさくやーちくしょう
なんでこんな時にカメラおなかすいたなボボボボボボキの家に来るんだ!子悪魔さんは何処?つまずいたよ、畜生服が!俺
大妖精タン頂きますおいあっちには霊夢!ヤッホー私もいるぞパチュリーだ!パチュリーがいる!!やばいロックオンされた
?ハァハァ……たまんねえこいつら何?みんな氷付けにして誰か捕獲網もってこい!やだー!中国は僕のものああもううっさい
どこだよ?どこ?あ、ちゃんとドロワーズ穿いてるんだスペルカード見せてよー!お嬢様離れてはいけませんこれは集団心
理の一つ?おいそんな事より彼女達を口説くかチルノちゃんこわいよ我ら咲夜さん親衛隊はこれより突撃を敢行する!うわ
~い♪咲夜タン戦闘態勢で殺人ドール!刺して刺してパチュリー急いで次の結界ぐはあっ!美鈴だ美鈴だルーミアちゃん僕と
お菓子食べ……」
「あー!! もうお前等うっさい! ちったあ静かにしやがれ!」

 怒号悲鳴歓声罵声、その他もろもろが一緒くたに交じり合い、何がなんだか解らなくなった。
霊夢の静止も届かず、動きを封じる符を2、3枚投げても滝の如くの人の群れを押し留める事は出来なかった。

「霊夢、これはやばいぜ!」
「言われるまでも無く、ってあ、こら、みんな何処に行くのよ!」

 霊夢たちが行動を起す前に、幻想郷側のメンバーが散り散りに、好き勝手に散開し始めた。
目の前の人間の群集から逃れようと物陰へ、むしろ好奇心一杯の表情を浮かべて自分から人込みの中へ、
それに追従する形で人込みの中へと突っ込む者もいる。
現状を理解していないのか、そのまま突っ立ているうちに人間に囲まれてしまう者もいた。

「やばいやばいやばい! 双方の世界の均衡が崩れたらえらい事になる!! こいつらそんな事も解らないのか!?」

その原因を作ったのは彼女達なのだが、自分達の行動はさて置いて。

「とりあえずこの場を軽封印するわよ! 魔理沙そっち側w……きゃああっ!」
「霊夢ターーーーーーーン!」
「この馬鹿たれ! 抱きつくな! キモイ、抱きつくなーー!!」
「ああ、霊夢タン……もっと殴って、もっと蹴って、僕をいじめて!」
「気味悪いよコンチクショウが! って……あ、おい待て!」

 巫女としての慎み深さが崩壊しつつある時、その横を白い何かが通り過ぎて、空に舞った者がいる。

「あ、こら、そこの春妖精! 空飛んだら余計まずい事になるだろうが!」

春妖精こと、リリー・ホワイトが服をはためかせながら、会場の広い天井へ目掛けて舞い上がった。
ちなみに、スパッツ等の防御手段を装着していないので、下から覗くと春になれます。(男子限定)

「あーもう! 空飛ぶんじゃふげえっ!?」
「霊夢たーーーーーーん!」
「調子に乗るなこのバカタレ!!」(ザクザクザク)

大きなお兄さんのハグを巫女針で沈黙させた頃、当のリリー・ホワイトは天井近くで目を潤ませながら感激していた。

「人が、人がこんなに一杯いますぅ……春の伝え甲斐がありますぅ!」

「やばい、あの兆候は!」と、霊夢が構えた時は既に、春妖精が体を丸めて力を溜め込み始めていた。
一か八かで投げた御札が、

「御札ゲットだぜ!」

ファンその1が取り出した虫取り網で取られてしまう始末である。
何故祭りに虫取り網なんぞが存在するのかと気を取られ、追撃が一瞬遅れてしまった。
その一瞬は十分に致命的だった。

「春を……伝えに……」
「やめれー! このばかたれー!」

そう、リリー・ホワイトの春を伝える方法と言えば……

「春を伝えに……来ましたっ!!」

ぶわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
水飛沫が弾け飛びさわやかに消えるような音と共に、色彩鮮やかな弾幕となって天井一面に展開した。

「あああああああ……」

 霊夢が絶望的な声を上げる。
今まで騒いでいた参拝者達も、この一見美しい動きの弾幕に見とれている。
誰もが無言、奇妙な沈黙が一瞬場を支配した。
そして……

「みんな……逃げてーーーーー!!!!!」

 霊夢の脳裏には、この後弾幕により起こるであろう恐るべき惨劇の結末を浮かべていた。
これだけの人口密度と、この規模の弾幕では、数十人単位の死者は避けられまい。
無駄だと解りつつも、彼女は叫ばずにはいられなかった。
悲痛な絶叫が響くのと同時に、春妖精から放出された弾幕は、ゆっくりと動き始めた。
弾幕としての役割を果たす為に、目標を撃破するために。
弾幕を放出した本人にその気が無くても、弾は動き始めた。




○4月18日 午後5時 会場外 バスの中


「………………」
「………………」
「………………」

 ワンマンバスのディーゼルエンジンが立てる細やかな振動が背中に響く。
乗客が殆どおらず、ガラガラになったバスの後部で5人乗りの座席を独占しつつ、
偵察組3人はお互いに肩を寄せつつ無言で揺られていた。

「………………」
「………………」
「………………」

 帰路へと向かう彼女達の表情には既に精気無く、目は何も映していない。
身にまとう服装はそこかしこが煤け、破れ、ほつれている。
例えるなら、まるで戦いに敗れ何とか逃げ延びた敗残兵の如くであり、見るも無残な姿であった。

「………………」
「………………」
「………………なあ」

 黒いとんがり帽子を深く被った魔理沙が弱弱しい呟きを漏らした。

「…………何?」

問い返す霊夢の声も限りなく弱弱しい。

「結局の所……あそこは一体何だったんだ?」
「………………」
「…………人外魔境よ」

 咲夜が答えを出した。
それは、あの場所で発生した事を一言で表すに十分すぎるほどの意味を持っていた。
それっきり彼女達は沈黙し、優しく揺れるバスの振動に身を任せた。
それ以降彼女達が言葉を口にする事も無く、事件を解決した達成感と疲労感。
そして、無事に生きて帰れた事に対して、運命に感謝していた。

そう……あの後起こったあの惨劇を終息させて、無事に帰ることが出来た事に……。




○午後2時半 再び会場内


「春を伝えに……来ましたっ!!」

 ぶわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
水飛沫が弾け飛びさわやかに消えるような音と共に、色彩鮮やかな弾幕となって天井一面に展開した。

「みんな……逃げてーーーーー!!!!!」

霊夢の絶叫が響く。
目の前で発生するであろう悲劇を少しでも回避する為に霊夢は絶叫した。
しかし、春妖精から放出された弾幕は、無常にも徐々にスピードを上げて地面の人間達に迫る!

「よしみんな!」

 誰かが声を上げた。
正気に返ったものがいたのか、その者は周囲の参拝者にもよく聞こえるようにはっきりとした声で語る。
我に返ったものがいるのか? 霊夢が淡い期待を持つ。
しかし、その参拝者はただ一言だけで、その淡い期待を打ち破ってしまった。
ただ一言だけで。


「気合で避けろ!!!!」

『『『『『『『『『『応!!!!!!』』』』』』』』』』





「ほへ?」


「ふはははははははははははははーーーーーーーーー!!!!!! ヌルイわこの程度!!!」

ある者は波打つように体を捻り、器用に弾幕を避けていく。

「う~~~ん、味わい深いけどまだまだ未熟な弾幕だニャ~」

ある者はわざと弾幕を引き寄せながら、回転を加えて弾幕を回避していく。

「リリーた~~~~~~~~~~~~~ん♪♪♪♪♪♪」(シャリシャリシャリシャリシャリシャリ♪)
「きゃああぁぁぁぁぁぁ!! 何かわかりませんけど、こっち来ないで下さい!! しかもカスリながら!!」

ある者は弾幕などは物ともせず、逆に危険行為である「カスリ」を行いながらリリーに向かって突撃していく。

「な? な? な? な? な? 」

 霊夢はこの事態にあっけに取られて、「な」の一言を連呼することしか出来ない。
周囲の参加者達は、そんな霊夢の様子を気にすることも無く、降り注ぐ弾幕を起用に避けていく。

「あ、あ、あ、あ……」

 霊夢達は一つ忘れていた事がある。いや、一つ気が付かなかった事があった。
ここにいる人間達は、この例大祭に参拝する人間達は普通の人間と違い……

「ふんふんふーん♪」(すかすかすかっ)
「お、踊りながら……」

そう、ここに集う人間達は皆、弾避けが上手かったのである。

「ああ……そこのちょっと太めで運動が苦手そうなおにーさん! はよ逃げて!」

 たまたま視界に入った肥満体型の男性が殆ど動いていないので、突き飛ばしてでも回避させようとタックルを試み。
しかし間に合わず、その男性にも直撃コースで弾が接近する!!

「食らいボム~~~~~~」

チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

「ギャーーーース!?」

今まさに駆け寄ろうとした霊夢は、モロに爆風に巻き込まれて吹っ飛んだ。
会場全体に目を向けてみると、あちらこちらで阿鼻叫喚や歓喜の声と共に恐るべき事態が進行しつつあった。


 - - - ☆ - - - ☆ - - -


『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』

 ルーミアの前に小さい箱型のボタンがあった。
いわゆる「へえボタン」と呼ばれる物を改造した代物であるらしい。
それをルーミアが「ぺしっ」っと叩くと、

『そーなのかー』

と、ボタンが喋ります。
それを聞いたルーミアが、

「そーなのかー」

と、感心した様子で頷いて再度ボタンを叩きます。
すると、

『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』
「そーなのかー」(ぺしっ)
『そーなのかー』

……おーい、こりゃ誰か止めないとずっと続くんじゃねえのか?


 - - - ☆ - - - ☆ - - -


「く、来るなぁぁぁ!!!」
「ちるちるだ……ちるちるだ~……ちるちるだ!」

 ちるちることチルノが、一部のファン達に詰め寄られていた。
あまりにも身長差が有りすぎる為、彼女にとっては大男たちに詰め寄られているとしか取られない。

「あ、アイシュクリルフォ~ル!!」

必死でスペルカードを使用するが、どもって変な発音になった。

「無駄だよ~」
「ギャァァァァァァァ!!!!」

 気が付いた時には、すでに目の前に接近されてた。
どうやら、とっさに使ったスペルカードはEasyの効果しか再現しなかったらしい。

「さ、おにーさんと楽しい事しようね~♪」
「た、た、た……助けて……」

 チルノ危うし!
このままこの大きなお兄さん達にもて遊ばれて、あーんな事やこーんな事や、目も当てられない事をされてしまうのか!?


 - - - ☆ - - - ☆ - - -


「「「紅・美・鈴! 紅・美・鈴!!!」」」

 門番美鈴が多数の人間に囲まれて、名前を合唱されていた。
当の本人は、うつむきながら頬を紅く染めて背中に手を回し、恍惚とした表情でブラジャーのホックを外していた。
って、おい! 貴様は何をやってるのだ!!

「ああ、もっと……もっと!!」

 ついに服からブラを抜き出して、それを周囲の群衆の中に投げ捨てる。
それを見た観衆は歓声を上げて、彼女の名前を連呼する。

「「「紅・美・鈴! 紅・美・鈴!!!」」」

「大サービスですよぉ。だから、もっと……もっと私を名前で呼んでぇ!!」

「「「紅・美・鈴! 紅・美・鈴!!!」」」

胸元のボタンを外して大きく広げたり、スリットを無造作にずり上げてきわどいところまで持ち上げたり……
考え付く限りのありとあらゆる方法で、周囲の気を引いて次第に大胆になっていく。

「「「紅・美・鈴! 紅・美・鈴!!!」」」

「ああ、もう……幸せぇ」

「「「紅・美・鈴! 紅・美・鈴!!!」」」

 恍惚を通り過ぎて、表情が蕩けきっている。
今の彼女は、幸せの絶頂だった。

「この中国、バーチャルよりはるかにリアルだな!」
「中国言うなーーー!!!」


 - - - ☆ - - - ☆ - - -


「…………うわー」

 図書館の魔女と司書小悪魔のコンビが、顔を赤くして本を読みふけっている。
読んでいるのはもちろん同人誌であるが……

「パチュリー様?」
「これ……貰っていくわね?」

 ブース側に座っている人間が無言で頷き、もう一冊の本を差し出してきた。

「……はうっ!」
「凄い…………」
「こ…………これは……霖之助×魂魄妖忌!?」
「図書館に保存しておきなさい!!」

 なにやら周囲一面に妖しげな雰囲気を作り出して、他の人間が近寄れなくなっている。
意図的にではなく、魔法的にでもないのだが、これは多分結界の一種なのでは無いだろうか?
そう、同じ嗜好を持つものだけが通過できる妖しげな結界であろう……。


 - - - ☆ - - - ☆ - - -


「レミリア様~~~レミリア様はいずこに~?」

 咲夜はその頃、執拗なファンの追撃を受けた為、時を止めながらはぐれてしまった主人を探し回っていた。
ちなみに、空を飛ぶとスカートがはためいて、ちょっとアレな事になってしまうので徒歩である。
数分探し回ると、ちょっとした人だかりの中に、見慣れたこうもりの翼を見つけて安堵する。

「レミリア様……なにかお怪我は御座いませんか?」
「あ、さくや~。いまおもしろいことをおしえてもらったの~」

咲夜の心配そうな面持ちを余所に、レミリアはなにやら奇妙な動作を始める。

「みてて~みてて~♪」
「お嬢様? ここは危のうございます。ささ、早く……」

「れみ・りあ・う~☆」

ズギューーーーーーーン!!!

 何かが咲夜のハートを貫いた。
いかなる精神的苦痛や、恐るべき困難な任務等を受けてもびくともしないメイド長のハートを貫いた。

「お……お嬢さ……」
「れみ・りあ・う~☆」
「はうっ!!!!!」

ドズギューーーーーーーーーン!!!

某戦艦の46センチ砲だろうが、魔理沙の魔砲が直撃しようがヒビ一つ入らないメイド長のハートがやすやすと貫かれた。
もう、ぶっすりともの凄い勢いで。

 メイド長の体全体、つま先の爪の先端から頭のてっぺんの髪の末端までを、愛、又は萌えと言う名の神経を麻痺させて
ふにゃふにゃに変化させる謎の物体が駆け巡った。例えて言うなら「レミリア様萌え萌え因子」とでも言うべき物が。

「れみ・りあ・う~☆」

ドドドズギューーーーーーーーーーーーーーン!!!

 体をぴんと真っ直ぐに伸ばした状態で、両手をダンサーのように真上に伸ばし、バレエのように体をクルクルと回転させながら
体中を駆け巡る怪しい萌え萌え因子の作り出す快感に酔いしれ、鼻から真っ赤な液体を噴水のように噴射しながらその場にぶっ倒れた。

「はううぅぅぅぅ~~~~~~ん☆」

メイド長は沈没した……自らが作り出した鼻血の血の池地獄の奥底に……。


- - - ☆ - - - ☆ - - -

 
「うわぁぁぁぁぁぁん! 霊夢~霊夢~ぅ!」

魔理沙が半ベソかきながら霊夢にしがみついてきた。

「あそこの人間、縦移動だけで全部弾を避けている~~! 怖ぇよ~~~」

しかし、霊夢も半泣きで魔理沙に抱きついてくる。

「あっちは横移動だけで全部避けてるよぉ……うあぁぁぁぁん!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 怖いよぉぉぉ!!」
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇん!! 助けてぇぇぇ!!」

 泣きじゃくる2人の傍に、やや小柄な凛々しい容姿の少女が降り立ち、しっかりと芯の通った声で語りかけてきた。

「難儀しているようだな、手を貸そうか?」
「ぐすっ……貴女は?」




○4月20日前後頃(詳細な日時不明) 昼下がり 博麗神社


「………………」
「………………」
「………………」

 場所は博麗神社の縁側。
いつもの3人は、咲夜が持ち込んだお手製のお茶菓子をモソモソと口に運びながら、無言でお茶菓子を消費していた。

 こんな光景はめったに見る事ができないのか、いたずら好きの妖怪が時折ちょっかいを出してくるが、
彼女達は終始無言で何の反応も示さない為、そのうち相手が飽きて帰ってしまう……。
実に彼女達らしからぬドス暗い雰囲気があたり一面、博麗神社の境内を覆っていた。

 あの大騒動は、デビューしたばかり(?)の上白沢慧音が自ら助力を申し出てくれた為、
なんとかあの事態収める事が出来た。
本人曰く「無かった事にすればよいのだな?」と、あの会場内の全てを一旦無かった事にして、
新しく作られた「例大祭は何事も無く普通に終わった」との無難な歴史に塗り替えてもらった。
事前に会場周辺に張り巡らせておいた結界があった事も幸いし、非情に強引な方法ではあるが、
結果がよければ全て良し。と、自分達を納得させる事にした。
納得させなければ、収まらなかった。

 余談だが、少々歴史を消しすぎてしまったらしく、例大祭の後に行われたジャンケン大会の司会の記憶から
「美鈴」の名前が消失してしまった為、思いっきり「みすず」と呼ばれたらしいが、それは実に些細な事の為
問題なしと判断されて、そのまま修正される事無く放置されている。
(美鈴談:思いっきり重大な問題じゃないですか~~~~~(号泣))

「………………」
「………………」
「………………」

 彼女達の表情からは、精気が感じられなかった。
人間はあまりにも自らの認識からかけ離れた事態に遭遇すると、恐ろしく精神力を消耗する。
可哀想に……あの悪夢から数日経過しているが、まだ完全には回復しきっていないらしい。
もっとも、紅魔館の主人レミリア・スカーレットからすれば、それは人間が貧弱な精神しか持ち合わせていない
からだとか……(レミリア曰く「人間だけよ、脳で物を考えるのは」……だそうで)

「………………」
「………………」
「………………なあ」

 頬ばった素甘を飲み干して、気だるさを含んだ声を絞り出したのは魔理沙だった。

「………………何か?」

それに答えたのは咲夜、彼女の声も弛んだ旗のように貼りが無かった。

「……この大量の菓子は何だね?」
「……この前のお詫びを含めた精気充填の為の消費カロリーよ」
「…………? ……ちょっと待って」

疑問を含めた声を出したのは、魔理沙では無く霊夢だった。

「今、何て言った? 私には「含めた」って聞こえたけど……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………実はね、一つ伝えなければならない事があるの」

霊夢と魔理沙の二人は、そろってごくりとつばを飲み込む。

「あの後の調査で解ったことが一つ有るの……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

少しの沈黙後、咲夜は思い切った様に胸の内に溜め込んだ言葉を吐き出した。

「……あの例大祭、来年もまたやるらしいの!!!!!」





「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」」

よく晴れた春の空に、少女達の絶叫が響き渡った。
御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!

( `Д´);y=ー( ゚д゚)・∵. ドギュウム!

もう、半分叩かれ覚悟での投稿です。
この世界と幻想郷とのクロスオーバって、難しい代物だと思います。
そして、それを表現するだけに及ぶ力が私にあったかと言うと……
ちょっと反省点が多い代物になってしまいました。
やはり修行不足ですね……

追加:誤字修正しました、指摘有難う御座います。
TUKI
[email protected]
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コメント



0.3760簡易評価
6.50名前が無い程度の能力削除
図書館が腐る!後で私のオフィスに。評価は低いようですが私は嫌いなノリじゃないですね。
7.70名前が無い程度の能力削除
すいません、めっちゃ楽しかったです。
ええ、もう抱腹絶倒でした。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
妖鬼じゃなくて妖忌でっせダンナ…
14.50TAK削除
↓のかたも言っておられますが、嫌いなノリではないですね~。
楽しませていただきました。
17.60雪羅奈界削除
れみ・りあ・う~☆で咲夜さん同様撃沈、というか轟沈されました。れみりゃ様最高!
もしかして彼女達の天敵ってシューターの皆様じゃないんですか!?
23.70削除
性格的にも外見的にも、中国こそ派遣メンバーに妥当な気がします。目立たないし。…やはり、メンバー検討の時点で忘れ去られていたのでしょうか?
それはそうと、こういうノリ好きです。すごく楽しかったです。そして、私は5機設定で紅魔EXをようやく出せたヘタレシューターですので、あの場では被弾者累々の中にいるだろうなと思ってしまいました(笑)
34.無評価名前が無い程度の能力削除
画面上では平面でしか見れない弾幕って3次元空間ではどうなるんだろうって常々思ってる疑問はさておき。

……とりあえずディスプレイがコーヒー牛乳まみれになってしまいましたw
「こちらの人間が幻想郷に行ったら?」なんて設定は考えたことがありましたが、その逆の発想なんてしたこともありませんでしたorz

永遠亭メンバーや萃香がいないのは仕様でしょうか?
もし良かったら是非とも追記していただきたく候(黙れ
35.70名前が無い程度の能力削除
↓スイマセン、うっかりフリーレスで投稿してしまいましたorz
点数入れときますね(´・ω・)つ
38.70名前が無い程度の能力削除
参拝者の皆さんがいい味出しすぎです。
春が伝わって、なにか目覚めさせちゃいけないものが目覚めたんでしょうかw
47.80名前が無い程度の能力削除
地方在住で例大祭に行けない自分にも、祭りの雰囲気がよく解りました(違
とても面白かったです。今年のも読みたいなぁ、とも思ったり。
50.無評価TUKI削除
こ……こんなに大量のレスが(涙
評価に貴重なお時間を割いていただき、誠に有難う御座います。
この場でお礼を申し上げると共に、少々補足をば……

>性格的にも外見的にも、中国こそ派遣メンバーに妥当な気がします。目立たないし。
ご指摘の通り、メンバー検討の時点で忘れ去られたのだと思われます。
作戦立案者のレミリアが、中国だと任務遂行に不安が残ると考えたのかもしれませんが……

>あの場では被弾者累々の中にいるだろうなと思ってしまいました
そこで食らいボムです。
食らいボムる時は、周囲に人がいない事を確認してから行いましょう。

>永遠亭メンバーや萃香がいないのは仕様でしょうか?
明確に記しませんでしたが、一つ補足をば……
開催日付や場所から推測すると、実はこのSSは、去年の例大祭がモデルになってます。
去年の例大祭は、永夜抄の体験版が配布されたばかりですので、永遠亭メンバーや萃香はこの時点では、まだ発表されていないのです。(爆)
機会があれば、彼女達が活躍するSSも書いてみたいものです。
又、他にも登場していないキャラもいますが、ちょっと思うところがあって意図的に抜いた人もいます。(登場させるのを忘れた人も……)(銃声)

>春が伝わって、なにか目覚めさせちゃいけないものが目覚めたんでしょうかw
皆さんも、春の出しすぎには注意しましょう。
56.80沙門削除
 5/4の例大祭でお会いした沙門です。帰ってきてから、駅前のネットカフェ
で、笑いをこらえながら読み終えたところです。昨年,私は遅い時間に行ったので、じゃんけん大会にしか参加できなかったんですが。そんな事があったとは・・・。
 今回の例大祭にも彼女たちは来ていたのか非常に気になります。(笑)てな訳で続編を希望します。でわでわ。 
62.90ξ・∀・)削除
ボムアイテムはどこで入手したんディスカ普通っぽいお人ー
80.80名前が無い程度の能力削除
読み返して、今気づいた
何気に天帝がいないか?
93.80名前が無い程度の能力削除
ネタと言うのは、疑問を持たず最後まで突っ走った人の勝ちだと思います。
101.100(゚д゚ )乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんたらかんたら削除
面白かったです