Coolier - 新生・東方創想話

時が解くとき鬨は上がる  第一幕

2004/11/25 05:39:10
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   ※※  この話は前回投稿作品「護るモノ、護られるモノ達」の続編です  ※※
   ※※  一応前作を読んでない方にも支障ないように書いたつもりですが  ※※
   ※※  やっぱり前作も読んで頂いたほうが、より楽しめるかと思います  ※※














 「・・・感じた?」

 「はい。かなり強大な力の波動ですね。恐らくは人間のもの」

 「そうね。だけど普通の人間のものじゃない。
  魔力でも妖力でも、ましてや生まれついた能力でもない。
  人間に使えるはずがないわ。あれほどの“永遠”を感じさせる力はね」

 「“永遠”を? 姫、まさか・・・」

 「ええ・・・ 遂に見つけたわ。まさかこんな所で会えるだなんて思ってもみなかった。
  永琳、さっきの力の発生源はわかる?」

 「特定は難しいでしょうが、おおよその位置は予測できます。
  ―――鈴仙、いる?」

 「はい、ここに」

 「一つ捜し物をお願いするわ。姫の大事な捜し物よ。
  多少時間が掛かってもいい。でも絶対に探し出して欲しいの」


月光が差し込む。空には丸い円い満月。私は思う。
満月は美しい。満月は懐かしい。満月は悲しい。満月は恐ろしい。


 「蓬莱人を、ね」


月からの使者。それは私にとって最大の恐怖。

――――自由。退屈。興味。過失。罪。罰。刑。
      死。生。死。生。死。生。死。生死生死生死生死生死生死生死生―――――


 「姫・・・? ひ、姫! 大丈夫ですか!?」


――――死にたくない。永遠を操れる。生き返ることが出来る。それが何だ。
      死にたくない。もう死にたくない。もうこれ以上死にたくない―――――!!


いつの間にか、体中が震えていた。上下の歯がガチガチと音を立てる。きっと顔も蒼くなっているのだろう。

 「!! ウドンゲ。姫は私に任せて、お前は床の用意を・・・」

 「大丈夫よ、永琳。イナバ。心配いらないわ。
  この想いをぶつける先が、ようやく見つかったんだから」

そうだ。この不安、この悪寒、この恐怖!

 「永琳。あなたは私が何に震えているかわかるかしら?」

 「姫、今日はもうお休みください。その話は明日にでも・・・」

 「私嬉しいの。私が代わりに・・・ そう、私が月からの使者になる。
  あいつにとっての“月からの使者”は私なんだから―――!!」











 「・・・あの時の姫、こわかったなぁ」

春うららかなある日の午後。差し込んでくる日差しはさしずめ悪魔の誘惑。
ここまで私を眠くさせるのだ。なにか魔力が含まれているに違いない。

鈴仙・優曇華院・イナバは、一人で森を歩いていた。

なんと心地良い日差しだろうか。こんな日にこうして外を歩き回る。
それだけでこれほどの幸福感に満たされるのだ。
私は自分で思っていた以上におめでたい頭をしているのかもしれない。

しかし今の私はそんな幸福に浸っている暇はない。
なぜなら私は今忙しいからだ。
一見優雅に森を散歩する薄紫の長髪が美しく、ちょっと曲がった大きな耳がチャームポイントで、
周囲とは一味違う抜群のファッションセンスを持ち・・・
と、話がズレた。

――蓬莱人を探してくること――
それがちょうど一年前の今頃、私の師匠・八意永琳から受けた命令である。

そう、あの命令からもう一年も経つのだ。
いくら手がかりが少ないとはいえ、私も月の兎のはしくれ。当初の予定ではとっくに見つけているはずなのだが・・・

 「参ったなぁ。これじゃまた師匠に怒られちゃうわ・・・」

私の耳はレーダーのような役割もある。
月の兎同士では、これを使ってどこでも会話が出来たりもするのだが、
姫の“永遠を操る能力”で、蓬莱人の“永遠”を探知できるようにしてもらっているのだ。
だからおかしい。これほど広範囲を捜索しているにもかかわらず、私の耳は何も感知しない。

ひょっとしてもうこの辺にはいないのではないだろうか。
そのことを師匠に相談してみると

 「私は『絶対に探し出してきて』と頼んだの。
  ウドンゲ、あなたは私のお願いが聞けないのかしら?
  大丈夫。きっと見つけられるわ。飛んで駄目なら歩きなさい。
  幻想郷の人間全員に会うまでは諦めちゃいけないわよ」

と、励ましたいのか絶望させたいのかわからない答えを出してくる始末。
仕方ないからひたすら歩き回っているのだが・・・

 「疲れた・・・ のど渇いた・・・ お腹空いた・・・ ニンジ・・・ん?」

うつむいていた私の前方には、いつの間にか古びた小屋が建っていた。
いや、元からあったのだろうが私にはそう見えたのだ。
いい匂いがする。きっと昼ご飯の準備をしているのだろう。
こんな森の中の一軒屋。住んでいるのは人間の真似事が好きな変わり者の妖怪か、それともかなりの力を持つ人間か。

結論から言うと、その両方であったのだが。









私、藤原妹紅は今とても腹が立っている。
その原因である物体Xが、それに気付きもせずに私の昼ご飯を食べまくっているからだ。
別に凄まじく腹が減っているわけではない。

私は“家庭料理”というものを食べた事がなかった。
生まれた時、いや、母が私を身篭ったその瞬間から家族に疎まれ、与えられる食事は質素だった。
与える側も、“食事を与える”というよりも“餌を与える”という感覚だったのだろう。
家族の視線は冷たく、家の外に自由に出る事もできず、話し相手もいなかった。
何故私がこんな仕打ちを受けなければならないのかと幾度も悩んだ。

しかし私はめげなかった。
よくもまぁあそこまで前向きだったな、と我ながら感心してしまう。
多分今の私なら面倒臭くなって自害するか、一家全員皆殺しだ。
そう考えると私も随分変わったものだ。
時の流れは人を変えるというが、これだけ生きれば別人になっていてもおかしくあるまい。
そういう意味では、遥か昔の藤原妹紅は死んだとも言えるかもしれなかった。

で、私を変えてしまった長い永い放浪生活でもやっぱり食事は質素だったわけで、
そんな私が一年程前に初めて“家庭料理”と呼べるものに出会ったわけで、
温かい食事を摂る暖かい団欒の時間は、私に激しい驚きと感動を与えたのであった。


それを邪魔する物体X。それは慧音が私に作ってくれた物ではないか。
何故それを貴様が食う。何故それを見て慧音さん、あなたは微笑んでいるのですか?

 「どうだ? 口に合えばいいが・・・
  まあ五日ぶりの食事だというし、何を食べても美味いか」

 「いえっそ・・・こと・・・ わた・・これ・・・い・・・・・し・・です!」

 「食いながら喋るんじゃないわよ。慧音、私もお腹空いたわー」

 「悪いな、少し待ってくれ」

そう言うと慧音はまた台所へ入ってしまった。
残されたのは私と、この何とも言えない妙ちきりんな珍生物。

 「・・・で、アンタは何なのかしら?
  ああちゃんと飲み込んでから話しなさい」

 「わた・・・し、はっ!・・・・・・と。
  私は見ての通り、つ・・・じゃなくてただの妖怪兎ですけど」

 「ただの妖怪兎、ね。それがどうして五日もロクな食事もせずに森をさ迷い歩くのよ?
  人間を食べようとか思わなかったの?」

 「えっ!? あ、いや、そのなんていうか・・・
  あっそう! 私人間食べないんです、ハイ!食べません!」

・・・なんか怪しい・・・
とにかく見た目が怪しく、行動も胡散臭く、今の動揺も意味不明だ。
何より、自称妖怪にしては妖気が薄すぎる。
その代わりに感じさせるのは、人間を狂わせるほどの禍々しい気。
明らかに普通ではない。

だが、そんな違和感など慧音が台所から出てきた事に比べればどうでもいいことだ。
どうでもいい事は気にしないでいいだろう。
今は食事を楽しめばそれでいい、と私は思った。

しかし私はしばらくして、それが間違いだった事に気付く。
腹が膨れて眠くなったからといって、すぐに眠ってしまった事も。


―――そして私は、二度とこの家で目覚める事はなかった。












 「・・・妹紅?」

 「眠ってしまったようですよ」

いつもなら返ってこない筈の返事が返ってきた。
この家に普段いない第三者の声。その珍しい容姿と相俟って、まるでここが自分の家ではないみたいだ。
しかし少し視線を左にずらせば、そこには床に寝転がり、自分の二の腕を枕にして眠っている同居人。
その無防備さと見慣れた光景に、ここが何処なのか思い知らされる。

 「全く。お前は食べて寝てれば幸せなのか・・・」

とはいえ、まさに「ぽかぽか」という表現がぴったり合う天気なのだ。
気が抜ければ、恐らく私も同じ格好になってしまうだろう。

 「いつもこうなんですか? 幸せそうですね」

 「ああ。ここまで満ち足りた寝顔をされると、起こす事も出来ないな」

人間の里に降りない時は、妹紅の寝顔を観察するのが私の日課になりつつある。
涎でも垂らしそうなほど大口を開けているかと思えば、
突然「私幸せよ」と言わんばかりの笑みを浮かべる事もある。
そして決まって、妹紅の寝顔に見惚れている自分に気付き、いかんいかんと正気に戻る頃には夕日が差しているのだ。

しかし今日はいつも通りにはならなさそうだ。珍しく客がいる。
客とは言っても、家の前で凄まじい腹の虫を鳴らしていたので食事を出してあげただけなのだが。
聞けば五日もまともな食事をしていないと言う。
助けてみたのはほんの気紛れだ。
とても礼儀正しく、妖気もかなり薄かったので、多分人間を襲う事はないだろうと判断した為である。

 「でも、本当にありがとうございました。助かりました」

 「ただの気紛れだ。気にしないでくれ・・・ と、もう行くのか?」

立ち上がろうとした“客”を引き止める。
随分と疲れているようだし、もう少し休んでいってもいいぞ、と勧めるが・・・

 「ありがとうございます。私も休んではいたいのですが、
  捜し物があって、早く見つけなくちゃいけないんです」

 「五日間食事を抜いて倒れそうになっても探し続ける物、か。
  よかったら相談にのろうか? これでも知識はあるほうでな。
  有名なものなら私が知っている“歴史”に載っているかもしれない」

 「え!? 本当ですか・・・ っていいのかなぁ・・・ 人に聞いちゃって・・・
  口外するなって一応言われてるけど・・・ でもなぁ・・・」

と、嬉しそうな顔を見せたと思ったら突然うんうん唸り始めた。
なかなか表情豊かな兎だ。見ていて飽きない。
これは絶対、周囲にからかわれるタイプだろう。

 「そうよ・・・ このままじゃ・・・ 思い切って・・・
  はい! 聞きます! 相談してみます!」


私は愚かだったのだろうか。注意が足りなかったのだろうか。ただ運が悪かったのだろうか。
一日に起こした二度の気紛れが、こんな事になるとは思ってもいなかった。


 「あの、蓬莱人って知ってますか?」


何故よりにもよってその単語が出てくるのか。
あまりの偶然にため息も出よう。

 「・・・・・・そうか。最近この近くに漂っている禍々しい気の原因はお前か」

 「え? あ、まあ私そんな力も持ってますけど・・・?」

 「予想はしていた。こいつは自分の力に対する警戒心が無さ過ぎる・・・
  力の痕跡は残らず食べて正解だったようだ」

 「あの、もしもし?」

 「大方生き肝でも狙っていたんだろうが、私もこいつも今の生活が好きなんだ。
  厄介事は御免でね。悪いがここに来た歴史は食べさせて貰う」

 「えーと、すいません。何の話を・・・」


妹紅も妹紅だが、この兎もまた随分と警戒心が足りなさ過ぎる。
私は全力で“力”を使った―――












 「・・・あの時の姫、こわかったなぁ」

鈴仙・優曇華院・イナバは、一人で森を歩いていた。

なんと心地良い日差しだろうか。こんな日にこうして外を歩き回る。
それだけでこれほどの幸福感に満たされるのだ。
私は自分で思っていた以上におめでたい頭をしているのかもしれない。

何故だろう。物凄く気分がいい。
まさに身も心も充実したような・・・ってあれ?
さっきまでとてもお腹が空いていたような気がするが、
今は全然そんな不快感が無い。

もしや私は無意識のうちに拾い食いでもしていたのだろうか・・・
と後ろを見てみると、なんだか私が歩いてきた地面の雑草が心なしか少ない気がしなくもない・・・
まずい。もしや落ちるとこまで落ちてしまったというやつかも・・・

身震いがした。ちょっと想像してみよう。
意識を朦朧とさせ、虚ろな目で雑草を頬張る私―――
・・・・・・ちょっと似合うかもしれない・・・
って駄目じゃん私!!

そんなことを考えていたら、永遠亭でまともな食事がしたくなってきた。
そうだ、そういえば五日も帰っていなかったのだ。
帰って「手掛かりなし」の報告をして師匠に怒られるのが嫌で、なんだか帰り辛かった。
別に叱られるのが嫌なのではなく、大好きな師匠の怒った顔を見たくなかった。
私は、師匠にはいつも笑っていて欲しいのだ。

しかしまあお腹を壊すのも嫌だし、薬飲もうかな。
今から急いで帰れば、昼ご飯の残りにでもありつけるかもしれない。
師匠にする報告はいつも通りなのが残念だが。
近いうち、永遠亭に帰るなり「見つけました!」と叫びたいものだ。
師匠はきっと満面の笑みで迎えてくれるだろう。

 「うん、帰ろう」

その光景を想像して、師匠の笑顔を思い浮かべて、私は帰路に着くのだった。












一方こちら永遠亭。
二人の女性が向かい合って話している。

 「はぁ・・・ 長かったわね。一年も待ったわ」

 「そうですね。我々が一年を“長い”と言うのも滑稽ですが」

 「長かったわよ。想いと時間は比例しないもの。
  ・・・それにしても“それ”。面白いわね」

一人の女性の手には小さな機械が握られている。
その機械から「うん、帰ろう」と、誰かさんの声がした。

 「てゐが持っていたんです。あの子変な物ばかり集めていますから」

 「イナバは、あぁ鈴仙のほうね・・・は、それの事を知らないんでしょう?」

 「ウドンゲはああ見えてプライドが高いですからね。
  こんなものを付けようとしたら絶対に嫌がります。
  『師匠、私を信じてください! こんなもの要りません!』ってね」

 「・・・想像できるわね。
  それで、永琳。これからどうする気?」

 「考えてあります。姫はここでお待ちください。
  丁度ウドンゲは帰って来るようですし・・・」

日光が差し込む。空には燃える灼える太陽。私は思う。
あの太陽は私よりも永い時を過ごしている。
私から見ればいつも変わらぬ姿でいる太陽。
あちらから見れば、私のもうすぐ成就するであろうこの想いも、ちっぽけなものに過ぎないのだろうか。

 「必ずや、蓬莱人を姫の御前に差し出してみせましょう」



今まで過ごした長い時間。これから過ごすであろう永い時間。
永遠という時間の流れすら和がせなかった憎しみは、遂に凪がれる事をやめる―――


前作品を読んで頂いた方、またお会いしましたね。EVOです。
前作品を読んでおられない方、はじめまして。EVOと申します。

冒頭にも書いた通り、この話は「護るモノ、護られるモノ達」の続編です。
まあコレもまだ続きますので、もしよろしければ続きも読んでみてください。
次回はギャグです。はい嘘です。

長々と読んで頂いてありがとうございました。
機会があればまたお会い致しましょう。
EVO
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