Coolier - 新生・東方創想話

チルノの引越し

2008/06/24 19:59:24
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 今朝はどうも肌寒い。布団の温もりが恋しくなるほどに肌寒い。布団から出ようにも出られない。もうすぐ夏だというのに、こういうこともあるものなのだろうか。今年は冷夏、そんな予兆も様子も見られないというのに、この肌寒さは――チルノしかいない。

 チルノ――バカな氷の妖精。幻想辞典で『馬鹿』と引けば、その名が見られるほど。⑨などとも呼ばれているが、それは隠語としての印象が強いように思える。

 布団を蹴り上げる。体を一気に起こす。顔を洗いに向かう。商売服に着替る。カーテンを開ける。動作間の暇を作らないようにして、体を動かす。気がつくと、チルノと思しき冷気は去っていた。途端に、蒸し暑さが体を襲う。服の隙間から湿気が入り込む。ここは元々湿気が高く、このままでは自身が腐ってしまいそうだ。チルノが冷気を調節できるようになればどれほど利用価値のあることか。そうすれば、夏は毎日それなりのお持て成しをするというのに。だが、それも無理な話。

 彼女は馬鹿だから。

 そのことを、本人はどう思っているのだろう。周りから馬鹿と罵られ、からかわれ、追いつくはずのない相手を追いかけ、勝てるはずのない相手に当たるはずのない弾幕を放つ。勿論、その度に返り討ち。服を千切り、髪を焦がし、負け惜しみを言って更なる追撃を受ける。千切れた服は僕がただで修理、製作してやっている。髪の手入れや慰めをすることもある。

 今日はそういう日になるのだろうか。面倒なことは極力避けたいのだが、チルノに吠えられるのも癪に障る。もしチルノが来たら、適当にあしらっておけば良いだろう。

 一人寂しく朝食を済ませ、玄関の鍵を開ける。妙に暗いと思ったら、空は入道雲で賑わっていた。遠くに小さな豆粒が見える。チルノか、それとも別の誰かか。豆粒はだんだんとこちらへ近づいてくる。速い、かなりの速度――魔理沙しかいない。僕の姿を確認してのことか、魔理沙は速度を落とし、地に降りる。壁への突進は何とか防ぐことが出来た。

 我が家のように足を踏み入れ、玄関に乱暴に箒を立て掛ける。こんな人物に使われる箒が可哀想になってくるが、不思議とこの箒は痛む様子を見せない。魔理沙が魔力を与えているのだろうか。

 魔理沙は適当に商品を掴み、奥の部屋へと持っていく。ちゃぶ台の上に『らじお』を置き、棒を伸び縮みさせたり、ダイヤルを適当に回している。『らじお』は様々な情報を与えてくれる物なのだが、いかんせん使い方が分からない。宝の持ち腐れというか、勿体無い話だ。

 机にある本を取り、しおりの挿んであるページを開く。この本は外の世界の経済について書かれている。『しょうひぜい』『しょうしこうれいか』等、意味の分からない言葉が並ぶが、どうも外の世界の経済はやや不安定ということは分かる。
 
 さあ本を読み始めようかという時に、外で風を切る音が鳴り響いた。間違いなく、この音はあのカラス天狗のもの。記事の内容を巡る何かがあったのだろうか。どうでも良いことに意識を散らしてはいけない。本に目を向ける――眼鏡の汚れが気になる。眼鏡を拭いていると、お騒がせな新聞記者が入って来た。僕の顔を見るや否や、重い溜息を吐く。自覚はしていなかったが、僕はそんなに酷い顔なのだろうか。

「何か面白い記事でもないですか、主人」
「珍しく魔理沙が暴れない、とか」
 
 文は口元に手を当て、小さく唸る。肩に留まるカラスも頭を垂れる。

「そんなの全然面白くないですよ、珍しいことですけど。なんかこう、今までの常識が覆されるような出来事とかないですかね」
「君の役目は嘘を振りまくことだろう。適当に『香霖堂の主人、悪質な商品偽装』とかとでも書いておけばいい」
「し、失礼な! 大体、そんなこと書いたら売り上げが落ちますよ? それでもいいんですか?」
「元からここの儲けは博麗神社の賽銭箱に劣らないよ」

 もう一度溜息を吐き、文は首をぐるりと回す。カラスは店内を飛び回り、頭蓋骨のインテリアに留まってカァカァと鳴く。僕のさっきの一言に同情をしてくれたのか、フィルムを売ってほしいと言ってお金をカウンターに置く。文は暫らくここにいると言った。特に何か命が出ているわけでもなく、暇なのだという。いつもなら記事のネタを探すはずなのに、今日は様子がおかしい。魔理沙が暴れない所為だろうか。

 再び読みかけの本に目を通す。一日二人が店のペースなので、今日は特に来客もないだろう。来たとしても、霊夢かアリス、場合によってはチルノが来るかもしれない。咲夜や妖夢、藍といった比較的珍しい面子は一週間に一人。今日は文が来たから、暫らくはその心配は必要ないだろう。まぁ、賑やかで儲かることは嫌いではないが。

 そんな矢先、引き戸が金切り声をあげた。嫌な音が暫らく耳に染み付いたまま、玄関口を見る。霊夢が震えながら引き戸を閉めている。今日は明日の分の来客を前借りしたのだろう、明日は暇な一日が送れそうだ。霊夢は自分の肩を押さえながら、小さく震えている。商品を吟味していた文は金切り音が耳に取り付いたのか、両耳を押さえてしゃがみ込んでいる。霊夢は震えたまま足を踏み入れ、奥の部屋に居る魔理沙を見てそちらへ向かった。

「どうかしたのかい?」
「いえ……またチルノが突っ込んできて、ちょっと手を抜いたら長引いちゃって。身体の芯まで冷えちゃった感じ」

 霊夢はそういうと、退屈そうにしている魔理沙に飛び掛った。魔理沙の腰にしがみ付き、腹部に頬を擦る。魔理沙は小さく悲鳴を上げ、霊夢を退けようと必死でもがいている。文の溜息が漏れ、そちらに目がいく。

「チルノちゃんですか。ここへ来る途中邪魔だったんで吹き飛ばしたんですが……それじゃ駄目なんですかね」
「当たり前よ、気絶しなきゃいつまでも吠え続けるのよ、ああいう馬鹿――ちょっ、どこ触ってんのよ!」

 文の声を聞いていたのか、霊夢は少し大きめの声でそう言った。魔理沙が霊夢のどこに触れたのかは分からないが、二人のじゃれあう様子は傍目にはいやらしく見えて仕方がない。こんな光景こそ、大袈裟モットーの文にとってはいいネタだと思うのだが。霊夢と魔理沙が動かなくなった。霊夢が魔理沙に覆いかぶさるようにして、微動だにしない。僕の視界を避けるようにして奥へ這っていく――思わず、よからぬ事を想像してしまう。

 気を紛らわすために本に目を走らせる。先程から一行も進んでいない。霊夢と魔理沙は視界の外、文は物色に忙しいようで、今度は集中して本を読むことが出来そうだ。ただ、カラスが僕の周りを無意味に飛び交うことを除いては。



 暫らくして、霊夢と魔理沙は顔を出してお茶をせがんだ。何故か、互いに頬が赤い。確かに今日は蒸し暑いが、火照るような熱さではない。僕の変な予想が的中したといったところか。お茶を差し出すと、二人はまた奥の部屋へ行き、今度は愉快に話し始めた。一方、文は外の品物に興味を持ったのか、商品棚と睨めっこを続けている。五月蝿いカラスは飛び疲れたのか、髑髏に留まって眠っている。

 本は読み終えた。新しい本はない。暇が潰せない。こういうときには来客がほしい。商品のやり取りでも、適当な世間話でもいい、文でも霊夢でも魔理沙でも、相手をしてくれないものだろうか。

 しかし、僕の心を読み取ってのことか、霊夢と魔理沙は早足に帰っていってしまった。文はカラスが気に入った髑髏を買い、玄関を出ていってしまった。

 静かな店内、蒸し暑さが行く当てのないストレスを後押しする。後ろ髪を掻き、眼鏡を手入れする。暇で仕方がない。



 時を同じくして、玄関から金切り音が響いてきた。来客と期待しつつ、振り返る――チルノだった。急に身体が震えた。服を破き、髪を乱し、スカートを切り。霊夢にやられた跡に違いない。頭を押さえながらおぼつかない足取りでこちらへ歩み寄る。外傷はない辺り、霊夢の情けを感じる。

「……霖之助、お願い」
「はいはい。ほら、服を脱いでこれを着て。……着替えたらここに座って」

 チルノに適当なシャツを渡し、奥の部屋まで背中を押してから着替えさせる。椅子を用意し、くしと裁縫道具も用意する。チルノは何を考えているのか、僕の視界から外れることもなく着替え始める。目は反らすが、どうも気になって仕方がない。着替え終わったのか、チルノはボロボロの服とスカート、そして何故かショーツまでも僕に渡す。

「チルノ、ショーツまで直してほしいのか?」
「あ……ごめん」 

 ショーツを取り上げ、目の前で穿き始める。今のチルノにはスカートもズボンも必要ない。大きすぎるシャツ一枚でどうにかなるから。こんなことは互いに慣れている。チルノは椅子に座り、大人しく両膝に手を置く。乱れた髪を優しく解き、なるべく痛みを与えないようにする。チルノは黙ったまま、口を開こうとはしない。いつものことだ。

 チルノと二人きりになる時は何故か寒さを感じない。チルノが冷気を操っているのだろうか。それなら、普段から抑えていてほしいものだが。

 髪を解き終えると、チルノはお礼を言って椅子から立ち上がった。目は口ほどにものを言う。チルノの目を見れば言いたいことはわかる。寝室に布団を引くと、チルノは倒れこむようにしてぐっすりと寝入ってしまった。面倒な来客だが、暇を潰すにはもってこいの相手であることに変りはない。破れた衣服を繕うため、小さな針穴に糸を通した。



 修理を終え、一息吐く。同色の布を使ったものの、つぎはぎが目立たないなんてことはない。直した後はよく見なくても分かる。

 寝室からチルノが出てきた。目を擦りながら、ゆっくりと歩き、僕の隣に座る。頬や腕にシーツの跡がつき、熟睡していたことを物語る。ただ、しょんぼりとした顔であることはいつも通りだった。服を渡すとチルノは俯く。

「ありがと……。んしょ……」

 目の前で脱ぎだすチルノ。わざとなのか、それとも馬鹿だからなのか、寝起きだからなのかは分からないが、目を反らす必要はありそうだ。目を反らしていると、ちゃぶ台の上にシャツを脱ぎ捨てていつもの服を着る。肩を回したりスカートを引っ張ったりしている。勿論、欠陥などはない。

 それにしても、チルノは毎日何を考えているのだろう。

 誰かに勝負を挑んではこてんぱんにされ、何ら接点もない男に繕われて、調子が戻れば自ら戦場を築き、また惨めな自分を作る。喉元過ぎれば熱さを忘れる、チルノは良き反面教師だ。近々、幻想辞典で『反面教師』と引けばチルノの名前を見ることが出来るようになるかもしれない。これは辞典に載るほどの偉業なのだろうか。

 いい加減、こんなチルノが哀れで仕方がない。肩を持とうにも、僕は戦闘に関してはチルノ以下だ。せめてもの情けとして、こうして処理をしてあげているだけだ。暇が潰れる相手としてはもってこいの相手だが、傷ついたチルノを見て何とも思わないほど、僕は無情ではない。

「チルノ、一つ聞いていいかな」
「いいけど……何?」
「どうしていつも馬鹿な真似ばかりするんだ?」
「……霖之助だけはバカとか言わないって信じてたのに」

 チルノに元気がないのは明白だった。いつもならぎゃあぎゃあと騒いで反論するというのに、今はさっぱりその様子もなく、瞳の湿度を最高に維持しながら青菜に塩をかけたような状態になっている。一言一言、注意を払う事を心がけ、僕はゆっくりと口を開いた。

「いくら戦ったって勝てないのは明らかだろう? とてもじゃないが、正常な行動とは思えない」
「うるさいなっ! 霖之助は黙っててよ! あたいは最強なのにどうしてバカなんて言うのさ!」
「君が馬鹿だといわれているのはね、客観的事実と言われても否定は出来ないんだよ。いい加減、猿みたいな考えは――いや、済まない」

 そんな意識も、ほんの十秒も持たなかった。自分の決心の弱さに呆れつつも、僕は黙り込んだ。一方、チルノは歯を食い縛り、僕を睨んだ後、バカと罵って部屋を出て行った。僕の言ったことを全て理解したはずはないと思うが、『馬鹿』と言う一単語だけで、チルノに激情を与えることには変わりなかった。玄関口が悲鳴を上げ、足音がいつまでも室内に篭り続けているような気がした。

 一体、チルノは何を考えているのか。本質からの、根っからの馬鹿、いや、もしかすると先天的なものかもしれない。馬鹿を気取っているようには思えない。あの怒り方も演技ではない。チルノが何を考えているのか、僕には分からない。他の誰も分からない。もしかすると、自分でも何を考えているのか分かっていないのかもしれない。

 雨の降りそうな空を眺める。入道雲が顔色を変え、ざわついている。梅雨の時期である今、空が雲で賑わうのも不思議ではない。次の日、そのまた次の日も、バケツをひっくり返したような大雨が降った。その二日間来客もなかったし、何より、蒸し暑さが先行して無気力人間と化していたから、暇で暇で仕方がなかった。

 ただ、どろどろとした灰色の雲を見るたび、チルノのことを思い返してしまうことだけは僕の無気力を救ってくれた。















 梅雨の時期にしては珍しく、太陽がこの世を焼き尽くすような勢いでギラギラと大地を照らしつけている。一歩でも外へ出たらそれこそ姿や気になってしまうのではないかというほどである。幸いにも風は心地良く、窓を開ければ湿気の高い店内でも蒸し焼きになることだけは避けられる。こんな日には来る客も少ないだろう。いや、梅雨を見越してまとめ買いに来る人もいるかもしれない。それはそれで、儲けとなるので良いのだが。

 暇を潰す為に、トランプを持ち出してきた。生憎、本はもう全て読み終えてしまったので読む気にはなれない。今は何十種類もあるソリティア――トランプ一人遊びの代名詞と名高い――の一つ、スパイダーで時間を潰している。九のカードが欲しいというのに、なかなか顔を出してくれない。諦めて手札を配ると、三人仲良く顔を出す。この理不尽さはどうにかならないものか、僕の物欲に反比例しているようにしか思えない。

 トランプをぐしゃぐしゃにしたい衝動を抑えていると、店内に足音が響いた。今日は玄関を開けっ放しにしているから、引き戸の五月蝿いお知らせもなく、店内に客が入り込むのは当然のことだった。

 眼鏡を掛け直して振り向くと、アリスが顔をしかめて服を仰いでいた。周囲を漂う人形たちにも元気がなく、蓬莱人形は首だけをだらんと垂れ、上海人形はぶんぶんと腕を振り回している。

「本当に暑いわね……そんな厚い服着ないでよ、見ていてイライラするわ」
「随分と不純な理由だな。で、わざわざそんなことを言いに来たわけでもないんだろう?」

 自分でも、僕は人にストレスを与えるのが上手いと思っている。現に、アリスは胸糞悪そうに歯軋りしている。これは人に誇ることが出来るようなことなのかと言われれば、それは違うだろう。むしろ邪魔な能力である。皮肉や嫌みだけでなく、もう少し思いやりのある言葉を使えるようになりたいものだ。適当に冗談と言って、小さく笑う。アリスは表情を緩め、溜息を吐く。

「本当にイライラしているんだから止めてよね。もう少し度が過ぎていたら魔理沙みたいになるところだったわ。用件についてだけど、白と黒の布、あるだけ買うわ」
「はいはい、少し待っていてね――これしかないんだが、足りるかな?」
「それで充分よ、ありがとう」

 僕が代金を言う前に、アリスは値段に見合わない量のお金を差し出した。僕が求めていた金額を二割程上回っている。アリスはその事を分かりきっていたのか、小さく笑顔を作って僕の視線を手で払った。僕も笑み返し、アリスを見送る。すると、強風が店内に駆け込み、並べてあったトランプを紙吹雪のように吹き飛ばした。……自分に対する、やり直しの口実に出来る。 

 途端に、轟音。店内を貫き、僕の鼓膜に激突する。瞬間、耳を塞ぐ。耳の中で轟音が暴れているような錯覚に陥る。玄関口でも、アリスが布を抱えながら両耳を押さえつけている。人形たちは力なく地に落ち、身体をぴくぴくと震わせている。轟音は数秒続き、暫らくすると店内はいつもの静けさを取り戻した。

 アリスの驚く声と、何かが叩きつけられる音。気が付いて振り向くと、魔理沙がアリスに覆いかぶさっていた。箒と二枚の布も、全く同じような状況で傍に横たわっている。アリスはひどく頬を赤らめていたが、魔理沙はそれを弄ぶようにして頬を擦り付けている。アリスは顔を退けようと必死だが、どこか表情は緩んでいる。

「ははっ、今日は暑いからなぁ、ん? それだけ赤くなるのも仕方ないよなぁ」
「わ、分かっているならさ、さっさと退きなさいよっ!」

 魔理沙の今日の相手はアリスだろうか、彼女の不敵な笑みは傍目には恐ろしい。魔理沙は箒を取って店内へ、アリスは帰ろうとしたところを魔理沙に引き寄せられた。

「香霖、布団借りるぜ!」
「……汚すのだけは勘弁してくれよ」

 魔理沙はにっこりと笑い、アリスは困惑した表情で自分の顔を熟したトマトにしている。魔理沙にはかまをかけたつもりだったのだが、効果は薄かったようだ。人形たちを放ったまま、アリスは魔理沙に引っ張られ、寝室へと消えていった。

 散らばったトランプを掻き集め、スパイダーを再開する。開始早々、Kが踏ん反り返って四つの場を制圧する。こういう理不尽さも、面白いと思えるようになれば幸せなのだろうか。


 
 スパイダーの成功を拝むよりも早く、アリスが顔を出した。頬は赤いままだが、何かを吹っ切ったような表情を見せている。後ろには後頭部を押さえた魔理沙が目に涙を浮かべている。まだ数分も絶っていない事から、事後とは考えにくそうだ。大方、アリスの制裁を受けたのだろう。あのアリスが素手で殴りつけたのだろうか。

 アリスは僕に一言謝罪を申し入れた。僕は首を振って笑ったのだが、最終的に僕はアリスに睨まれた。僕が仲介に入らなかったことに腹を立てているのだろうか。

 一方、魔理沙はコロッと態度を変え、傍に置いてあった『えんちょうこーど』を盗っていき、光の速さで店を後にした。あんな使い道のないものを盗っていくのも物好き、ゴミを持っていってくれたようなものである。いやはや、無知とは哀れなことだ。その様子を見ていたアリスは魔理沙を捕まえようと腕を伸ばしたが、後の祭りだった。

 アリスは呆れたように溜息を吐き、適当にお金を置いた。僕は首を振りながら苦笑いを見せるが、アリスも首を振って譲らなかった。僕は使い道のないものに金を請求するほど貪欲でもないし、先程の余分なお金で充分だった。ここまで親切にされると後が怖いが、アリスはそんな人でないことは知っている。心配は要らない。

 動かない人形たちを拾い上げ、アリスはお辞儀をして帰っていった。



 アリスが戻ってきたのはこれまた数分もなかった。違うことは背中にチルノを抱えているということ。頬や腕に小さな傷をつけて伸びている――先程の轟音の理由はこれだったということか。僕はこれ以上アリスに迷惑を掛けたくなかったので、早々に家へと帰した。チルノの心配をしていたようだが、適当に理由を言って返すことに成功した。チルノを受け渡してもらい、静かに布団へ寝かせつけた。

 不思議と、服はどこも傷ついていなかった。その代わりに、体全体に小さな切り傷や擦り傷、火傷の跡が目立つ。一つ一つ丁寧に手当てを施す。消毒液をつける度、チルノはうなされるようにして蚊のような声をあげる。絆創膏が足りず、ガーゼを当ててテープで貼り付ける。軟膏を塗り、包帯を巻き付ける。大きな傷は無いようで安心した。

 頬を赤くしているが、この暑さで風邪でも引いてしまったのだろうか。額に手を当てるがそんな感じはしない。頬の赤みが気になって仕方がないが、それも無駄なことだった。チルノはいつの間にか目を覚ましていたのだ。

「ありがと。今日は勝てると思ったん――」
「チルノ」

 チルノの言葉を遮った僕の声は、自分でも震えるほどの冷たいものだった。もし、自分の声が気温になるなら、どれだけ涼しいことか分からなかった。勿論、チルノは体をピクンと跳ね、口をつぐんだ。僕は咳き込む振りをしたが、それも虚しいものだった。

「この前は言いすぎたかもしれない……済まなかった」
「……別にいいよ。霖之助がいなくなっても、あたいが本気を出せばいいだけだからさ」
「なぁ、チルノ」

 今度は柔らかい声を出すことが出来た。首を傾げるチルノを諭すように、頭の中で言葉をシミュレートする。

「君はどうして誰かと戦おうとするんだい? 君が最強なら、戦わなくてもいいんじゃないのか?」 
「……誰もあたいを強いって思わない。だから、あいつらに勝ってあたいの強さを教えるんだ」
「だけど、君は一度も勝とうとしないじゃないか」
「そ、それは……油断させておいてあとでぎゃふんと――」
「チルノ」

 極寒の北風など屁とも思わない程の、凍えるような冷たい声。沈黙が漂う。自分で場を白けさせておいて無責任さを感じながらも、僕の脳内では様々な言葉が縦横無尽に駆け回っていた。

「そういう人達には勝手にそう思わせておけばいいだろう。君が強いことに変りはないじゃないか」
「……あたいは最強だから、それを教えないといけないんだ――誰も歯向かう奴がいなくなるくらいに」

 チルノの声は僕の言葉に冷まされていた。そして、だんだんと弱々しく、元気のない声になっていった。

 沈黙。ゆったり流れる黒い霧。無邪気に漂う冷気。その三つを追い払うのは僕とチルノの声だけ。だが、それも途絶える。それぞれが混ざり合い、乱れ、居心地の悪い場を生み出す。行き場を失った白い空気は天井へと追いやられている。そんな中、謎の混合物はチルノの一声でかき消された。

「……いつもありがと。今日はもう帰るね」
「……無茶はしないようにね」

 チルノはいつもの決まり文句――あたいは最強――は言わず、代わりに悲しげな笑みを見せて布団から立ち上がった。頬に付いた絆創膏をいじりながら、チルノは小さく頭を下げて姿を消した。

 チルノのあんな悲しげな表情は初めてだった。ぽつりぽつりと、チルノの言葉と表情が脳内で再生される。首を傾げて僕の顔を覗きこみ、俯いて肩を震わせ、顔を歪ませて口を開く。あたいの強さを教えるんだ、歯向かう奴がいなくなるくらいに――。

 空虚な理想か、無邪気な夢か、――それとも、届かぬ目標か。

 それが何なのかは分からない。ただ、チルノは馬鹿――ただその一言でそうまとめてしまうのは、いささか短絡的であるようにも思えてきた。

  

 遠目に、真っ白な入道雲が戯れているのが見える。雲はまだまだ遠い。雨が降るまで三日といったところだろうか、それまで客足はありそうだ。その三日間で、大雨分の暇を潰しておくことにしよう。















 予想通り、三日間は客足はあった。霊夢と魔理沙の二人が顔を覗かせ、僕の存在を他所にいちゃいちゃしていたことは覚えている。暇を潰すという計画は果たせなかったが、何だかんだで三日が過ぎてしまった。空模様は怪しく、青空があるなら灰空という単語も作るべきではないかと思えてくる。一本の糸が空の天井を吊るし、その糸がいつ千切れてもおかしくはない程、天井裏には大量の水が溜まっている。

 その間、チルノの冷気は感じられなかったし、ここに直接訪れたこともなかった。先日のやり取りで、チルノを傷つけてしまったのだろうか。――いや、考えていても仕方がない、チルノはここの客ではないのだ。自分に利益をもたらしてくれる人とそうでない人、どちらを取るかと訊かれれば答えは明白だ。

 運良く、手元には新しい本が三冊ある。いずれも小説で、作者は皆同じ。最後のページに書いてある内容からすると、それなりに有名な作家のようだ。本の内容は人様にお勧めできるようなものではないが。金、欲望、暴力、暗い人間関係――目を反らしたくなる内容でもあったが、こういった別視点の外の世界を拝むのも教養の一つだ。

 それらの本に目を奪われていると突然、体中を冷気が襲った――チルノしかいない。久しぶりの寒さに、変な気分になった。懐かしいというか、安心というか、少なくともこの近くをうろついているという事実が嬉しく感じられた。冷気は暫らく残り、瞬間、あたり一体の熱という熱を吸い取ってしまったかのように、店内が震え上がった。



 途端に、冷気が消えた。いつもの蒸し暑い――いや、違う。

 冷気が消えたのではない、何者かに『消された』のだ。

 弱々しく引いていく寒さとは違う、一瞬で冷気が遮断された。寒さという概念さえも消し去るような、記憶から消されてしまったかのような――胸騒ぎがする。本を置き、店内を見回す。自分でも落ち着かなかった。  

 店内に何者かの足音が吸収された。静かな二人の足音。玄関口の知らせがなかったことに疑問を持ったが、振り向いた視線の先には咲夜が立っていた。二人分の足音だったと思ったのだが、勘違いだろうか。

 大事なお客。優先順位はチルノよりも高い。高い紅茶を買ってくれる良きお客。冷静を装い、呼吸を整える。眼鏡を掛け直し、椅子に腰掛ける。

「……珍しいね、一人で来るなんて」 
「それ、私に喧嘩を売っているのかしら?」

 レミリアの声だった。同時に、ダンッと床を蹴る音が鳴り、レミリアはカウンターの上に乗り上げた。驚いて引き下がってしまったが、咲夜の平然とした表情を見たら急に心が落ち着いた。軽く頭を下げると、レミリアは踏ん反り返って食器の並べてある棚に目を向けた。

 咲夜がレミリアの後ろを付いていく時、赤い染みが目に映った。咲夜の右手と太股に付着した赤い液体。液体はまだ乾ききっておらず、蛍光灯の光をゆらゆらと反射させる。

「咲夜、何だいその染みは? ……血か?」
「え? あぁ、これですか。血ですよ」
「誰の?」

「冷たい子どもの血ですわ」



 背筋が凍った。細胞一つ一つの熱までもが、咲夜に持っていかれた気がした。レミリアは何かを思い出したかのように宙を仰ぎ、小さく鼻で笑った。

「私が気が付いたらあの餓鬼、血まみれだったんだもの、びっくりしたわ」
「いえ……邪魔者を排除したまでですわ」
「――どこでチルノに会った」

 冷たく、暗い声。咲夜とレミリアが瞬間的にこちらを振り返った。二人の表情からは何も読み取ることが出来なかったが、一瞬の間を置いて、咲夜は苦笑いを見せた。 そのまま窓へ寄り、外を見た。

「どこって……あら、ここから見えるじゃない。ほら、あそこに転がっている赤い――」

 咲夜の一言で、反射的に体が動いた。手元に置いてあった本を放り投げ、眼鏡は顔面から振り下ろされた。滅多に動かさない足が滅茶苦茶に暴れ、引きこもりがちな肺が内側から圧迫された。空模様、雨は――そんなことを確認できるほど、気が気ではなかった。玄関からは確かに何かが見えた。青々とした草木の近くに、赤く染まった青い塊が見える。

 僕にはどうして空を飛ぶ力がないのだろうか、どうしてもっと速く走れないのだろうか。この時ばかりは、自分の力のなさに怒りを感じた。チルノの横たわる場所まで数百メートルもないというのに、一向に近づく様子がない。メロスは決して亀を追い抜くことが出来ない――ふざけた外の情報が、嘘のようではない感じもしてくる。

 何分もの時が経った気がする。一刻も早く治療をしなくてはならないのに、このタイムロスは大きすぎた。

 



 やっとの想いでチルノの目の前に足を止める――いっそのこと、このまま知らぬ振りをしたかった。

 色白の肌はすっかり生気を失い、指一本さえ動く気配を見せない。血の出所は下腹部のようだった。小さなお腹は血に浸り、赤いペンキで染められたように真っ赤だった。混乱、恐怖、悲嘆、絶望――そんな気分になっている暇はない、一刻も早い応急処置が必要だった。

 服を脱ぎ、大雑把に血を拭き取る。拭いた直後、切り口から血が滲んできたが、大した出血量ではなかった。幸いにも、傷は浅い。服で傷口を縛り、出血を押さえる。僕の服は赤く滲んでくるが、多量失血はこれで防がれた。

 チルノを抱え、香霖堂目指して足を運ぶ。チルノを抱えているというのに、足が軽い、体が軽い。先程の走る遅さが同一人物とは思えないほど、速く走ることが出来る。数秒も経たないうちに、香霖堂は僕とチルノを迎え入れた。

 店内にはもう、咲夜とレミリアの姿はなかった。ふつふつと湧き上がる、彼女らの不条理さに対する憤り。しかし、そんな感情は後回しだ。今はチルノの治療を優先せねばならない。

 寝室へ向かうと、聞きなれた声が僕の名を呼んだ。

「おい、香霖」
「ま、魔理沙? 今は忙しいんだ、後で――」
「……理由は咲夜とレミリアから聞いたぜ。素人は引っ込んでな」

 魔理沙は床に横たわるチルノの様子を見て、僕の巻き付けた服を引き千切り、静かに腹部に手を当てた。僕が凝視を続けていると、魔理沙は気が散ると言って、僕を部屋から追い出した。不安で仕方がなかったが、魔理沙がチルノに治療を施してくれることに偽りはないように見えた。今は魔理沙を信用して、大人しくしておく他に、術はなかった。





 治療を終えたと知らされた時、僕は瞬時に部屋へと乗り込んだ。腹部の傷口、染み付いた血、蒼白い肌――服が破れたことを除けば、いつも通りのチルノが畳の上で小さく呼吸を繰り返していた。布団を敷き、その上に寝かし付け、露出した腹部をタオルケットで覆う。

 急に、足が痛み出した。珍しく全速力で走ったからだろう。引きこもりの僕にとっては辛い仕事だった。

「ふっ……明日は筋肉痛、か……」

 チルノの寝顔を傍らに、自嘲する形で独り言を呟いた。





 









 一時間、二時間、三時間――いつの間にか太陽は空を降り、代わりに月が夜空を支配する。いつの間にか魔理沙はいなくなり、代わりにチルノが僕の前に現れた。三日分の水を溜め込んだ空の天井の糸はついに切れ、車軸を押すような雨が幻想郷を襲った。

「……チルノ」

 声が震えていた。何を考えている、チルノは助かったのだ。それなのに、体と声の震えは止まらなかった。

「りん……のすけ?」
「どこか痛い場所はないか? 気分は悪くないか?」
「うん……大丈夫……」
「もう夜だし、雨も降っている。今日はここに泊まっていいから……もうあんな真似は止めてくれ」
「……あんな真似?」

 チルノの言及に僕は答えなかった、いや、答えたくなかった。チルノもまた、追究しようとはしなかった。地を打ち付ける強い雨音だけが、ぼやけて室内を侵食していた。





 夕食も入浴も適当に済ませ、一服ついた。チルノは溶けると言って、風呂には入ろうとしなかった。いつもは近くの湖で体を洗っているとのことだった。チルノは終始、目を垂れたままだった。殆ど口を開かなかった。

 寝る前の一時間ほど、本がない時を除いて僕は毎日のように本を読む。だが、今日はその時間を割いて、チルノと向き合った。どうしても話をつけておきたかった。僕とチルノの布団を敷き、その上に腰を下ろす。これ以上、僕に迷惑をかけるのは――いや、僕を心配させないでほしい。俯くチルノを諭すように、優しい声で話しかけた。 

「チルノ、今日も負けたんだな?」
「……」
「もう充分じゃないか。君はよくがんばった。けど、このままじゃ……いずれ死ぬぞ」
「……霖之助、知ってる? 妖精がどういう生き物か」

 僕は首を振った。チルノの開き直ったような表情と、思いのほかはっきりとした声に、胸が圧迫された。



「男の子はみんな血まみれでね、女の子はみんな裸なの」
「……」
「妖精ってね、弱いんだ。だから……いろんな妖怪に虐められるんだ。あたいはいいよ……最強だから」

 チルノの言葉は一つ一つ、重りとなって僕の胸にぶら下がる。思いがけないチルノの告白に、頭痛に襲われた。



「だからね、最強のあたいがね……みんな……守らなきゃ――」
「……チルノ、もういい。分かった、分かったから……」
「そうしなきゃ……みんな……みんなが……死んじゃう――あっ……霖之助?」

 無意識に、チルノに手が伸びた。肩に手を回しゆっくりと引き寄せた。チルノは驚いた表情を見せたが、抵抗することもなく、すっぽりと僕の胸に収まった。冷たいはずの身体が、不思議と温められているような気がした。

「大丈夫……君は僕が守ってあげるから、君はみんなを守れるように……強くなってくれ、チルノ」
 
 途端、チルノは今までにないくらいの大声を上げて泣き出した。この雨音をかき消してしまうほどの大声で、チルノは泣いた。室内に大雨を降らすように、チルノは泣いた。僕は泣きじゃくるチルノを抱きかかえ、優しく背を撫でた。





「……ありがと」

 チルノは顔を胸に押し付けたまま、篭った声でそう言った。髪を撫で、うなじに手を添える。自主的にチルノは離れ、目を擦り、おぼつかない笑顔を見せた。

「なぁ、チルノ……君の言う『強い』って、何かな」 
「負けないこと……だと思う」
「弾幕勝負に?」
「……色んなこと。勉強も、弾幕ごっこも……でも、よく分かんない」
「それじゃあチルノ、一緒に勉強するかい?」
 
 困惑した表情を見せ、チルノは俯いた。そして、肩を縮こまらせて小さく呟いた。

「バ、バカにしないって……約束してくれる?」
「当たり前さ。がんばる人を馬鹿にするなんて、最低の人間だと思うよ」

 チルノは大きな笑みを見せた後、僕の布団へ寝転がった。明かりを消し、チルノに催促されるようにして、僕は隣へ体を置いた。チルノは安堵の表情のまま、猫のように丸まって僕の胸元に体を寄せた。















「えっと……八十一! へへ、合ってるでしょ?」

 九×九、答えは八十一。チルノは腰に手を当て、誇らしげに胸を反らしている。

「すごいじゃないか、君がここまで覚えが早いとは思わなかったよ」
「当たり前じゃない、あたいは最強だからねっ!」

 その一言に僕は思わず笑みが零れ、チルノもつられて頬を緩めた。

 チルノの勉強と聞いて、当初はからかっていた魔理沙や霊夢にも親切心があったのか、弾幕勝負練習に付き合うようになっていた。チルノは日に日に賢くなり、二人によると、以前とは見違える強さになったと言っていた。その二人は今、相変わらず奥の部屋でいちゃいちゃしている。勉強が終った今、今度は霊夢先生と魔理沙先生の授業が始まる。

 霊夢と魔理沙は口惜しそうな表情でこちらへ来る。魔理沙はチルノの後ろに回り込み、肩に首を置いて両腕をチルノの下腹部に置く。チルノは小さく悲鳴を上げたが、それはすぐに笑い声へと変換された。

「私たちの授業から今日で一週間、そろそろ次のステップへとだな……なんだよ香霖」
「はいはい、そういったおふざけは要らないから」
「あら、何言っているの? チルノもいずれ大人になるのよ?」
「いや、だからと言ってそんな――」
「魔理沙……教えて」

 僕は思わず吹き出した。唾液が詰まり、大きく咳き込んだ。涙まで浮かんでくる。魔理沙と霊夢も驚いた表情で互いの顔を見る。チルノは俯いたまま紅潮している――まさかとは思うが、本気だろうか。

「お、おう! 夜になったらここでじっくりと教えてやる……ぜ」
「まぁ、今は弾幕の授業ってことで……」

 どうしようもない二人を鼻で笑うと、二人はおどおどした様子でチルノを外へ連れて行った。



 これで、チルノも幸せだろうか。

 霊夢や魔理沙には及ばなくても、チルノは強くなった。

 簡単に馬鹿と言われることはなくなった。

 そしてチルノは――淡い恋心を抱いているように思えた。









 ある日、チルノは一枚の紙切れを渡してきた。もじもじしながら、四つに折畳んだ紙を差し出した。紙を広げると、そこには大きな四つの文字が書かれていた。



 『すきてす』、と。



「チルノ」
「な、何よ……」

 反抗的な目付きで、チルノは僕を睨み返してきた。

「……やっぱり君はバカかもしれないな」
「バ、バカって言うなぁ!」

 チルノはそう言うと、僕の胸を叩き、もつれるようにして身体を任せた。

 チルノは頬を膨らませたかと思うと、すぐに表情を緩めて太陽のような笑顔を見せた。



 最後に、チルノは柔らかな感触を、確かに僕の頬へ残した。















 チルノの受講から一ヶ月。チルノの偉業とも思える行動は文々。新聞で取り上げられた。確かに、今までの常識を覆すような出来事だった。

「主人、見てくださいよ」

 文は新聞と手乗りサイズの分厚い本を僕の前に差し出してきた。新聞を広げるとチルノも気になったようで、顔を覗かせるが、漢字が読めないようですぐに挿絵に目を向けた。阿求と書かれる着物姿の女性が筆を握って執筆中の写真だった。見出しには『幻想辞典、十年ぶりの改訂』と書かれていた。 

 しかし、傍にある小さめの見出しには目を疑った。





『【馬鹿】という項目からチルノ消える』



 僕はすぐさま辞書の『馬鹿』を引いた。



 ① 頭の働きが鈍いこと。また、その人。

 ② つまらないこと、何の益もないこと。



 ③ チルノ、⑨の死語→念力岩をも通す。



『念力岩をも通す』

 一心不乱に行えば、どんなことでも必ず成し遂げられるということ。


  


 また、チルノのこと。





 
チル×霖っぽくなったけど、趣旨は間違っていないから……まぁいいでしょう。後半のダッシュの乱用が気になって仕方がないですね。精進します――というのでしょうか。

ところで、今回が一番進行速度が速かった作品。僅か三日で仕上げられるとは思っても見ませんでした。まぁ、量も内容も薄いので当然といえば当然ですが(笑)

次回作は時間がかかりそうですなぁ。


投下三時間後の追記

咲夜とレミリャ、妖精という設定、メロスをアキレスと間違える。最後の失敗が一番心にきているというのは内緒の話。
誤字は直しましたが、上記の内容は修正しません。自分への戒めとして残しておきます。

ついでに、ほのめかすエロスと小さなグロは自分の趣味なので今後の作品もこういった場面は出てくると思います。
CO2
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コメント



0.3030簡易評価
4.80ななしのようなもの削除
面白かった。
妖精はずっと子供のままなのではなかろうかという疑問はさておくとして、
香霖堂はいつからHOTEL(あくまでアルファベット)と化したのであろうか・・・
6.100煉獄削除
これは素敵な二人組み。
いいなぁ、この二人・・・雰囲気が良いっていうか、ベタベタしずぎないところが良いです。
しかし、霊夢と魔理沙・・・他所様の家で何をしているんでしょう?
とても素敵なお話でした。
8.100名前が無い程度の能力削除
純粋なバカってのはどうしてこんなにも胸にくるんだッ……。

と途中の部分、メロスではなくアキレスでは。
9.70名前が無い程度の能力削除
更に、妖精は自然の具現化だから死なないということもさておいて

最後、れみりゃと咲夜さんはほっぽられっぱなしですか?
そりゃ店の物盗り放題(ry w
12.無評価月樹削除
魔理沙、何人喰ったんだほんとに…
いい、チルりんでした。
最後に一言、霖之助何で稼いでるんだ!!
14.無評価ななしのようなもの削除
2回投稿になってしまうので、すまないのだけど、下記はたぶん誤字かもしれない

③ チルノ、⑨の死後→念力岩をも通す。   ではなく
③ チルノ、⑨の死語→念力岩をも通す。   なのでは。

指摘がもし間違ってたらごめん・・・
16.80名前が無い程度の能力削除
実に微笑ましく、優しいお話でした。霖之助もチルノも好きな自分としては、とても楽しめました
17.100名前が無い程度の能力削除
eroi
20.70名前が無い程度の能力削除
> 自分に利益をもたらしてくれるとそうでない人

脱字です。
前の「人」が抜けています。

どう見てもチルリンです。本当に(ry
ストーリーは面白かったです。
チルノの今後の成長と霖の字との関係が楽しみ。
それと、タラシ魔理沙に屈さないアリス、マジかっこいいよ!!
ただ、グロはともかく妙なH描写は邪魔に感じました。
21.80名前が無い程度の能力削除
>霊夢と魔理沙が動かなくなった
>霊夢が魔理沙に覆いかぶさるようにして、微動だにしない。
>僕の視界を避けるようにして奥へ這っていく
魔理沙が捕食された!w
24.60久我削除
あぁ、チルノをバカバカ言い過ぎ~っと読んでいきましたが、
最後に良かった良かった、と♪
あんまり可愛いそうなのは、やめてほしいですよ~
25.90名前が無い程度の能力削除
チルノかわいいなぁ
幻想郷において妖精は最弱の生命だからなぁ
自然の具現であり、自然があれば無限大に蘇生する蓬莱人並の不死性を兼ね備える
されど力は無く、弾幕ごっこにおいては道中の雑魚扱いですからねぇ

ただ霖之助に一言
このロリペドがっ!
27.100名前が無い程度の能力削除
生まれつき弱い種族の皆を守りたいから最強を目指してるって、その時点でもうチルノたんは馬鹿じゃないよ! そんじょそこらの人間の大人顔負けの君子だよと言いたい。
そして妖精種族に与えられてる暴行と差別に、幻想郷も人間社会である以上、ダークサイドが生まれる事は避けられんのかなと。
少女の直向きで純粋な心が、冷めた男の心を甦らせたハートフルで素敵なお話をありがとうございました。

しかし、残されたレミ咲は気まずかっただろうなぁ……
29.100名前が無い程度の能力削除
このロリペドが・・・っ!
いやはやいい作品でした。レミ咲の非道さが、このssの世界での妖精の扱われ方を
よく表せてたと思います。この二人、もしくは霖之助の知り合いである必要があったでしょうね。
この後どういう風に二人の関係が発展していくのか、番外編とかあると嬉しいですねw
44.80名前が無い程度の能力削除
⑨じゃないチルノなんて、⑨じゃないチルノなんてぇええ!
・・・まあ、それもまたよし

そうか・・・魔理沙も霊夢には勝てなかったか
56.90名前が無い程度の能力削除
妖精嫌いのあきゅんも唸らせるチルノのひたむきさに感動しました。
63.80マイマイ削除
チルノって妖精にしては強すぎるとか映季さまが言ってましたね。そういえば
本来、人間に劣るはずの妖精が下位とは言え、妖怪レベルに悠々と食い込んでるのはどうもおかしいんだとか。つまり、妖精でいえば間違いなく最強クラス
話はよかったと思うんですけど、チルノに元気がなかったのでー20点
どう考えても好みの問題です本当にありがとうございました
79.100削除
よかったねチルノ、と思わず言いたくなるような話でした。
誰かのために強くなっている信念がある時点で、彼女は充分”偉い”。