君の話をしよう
三日月の夜、淡い藍色の髪が濡れるほどの泣き顔を見せながら、君は生まれてきたね。いつまでも泣き続け、周りの村人を困らせていたね。
よく食べ、よく寝て少しずつ大きくなっていく君。小さな事に感動し、その日の事を忘れないようにスケッチしていたね。零れ落ちてしまいそうな記憶を、一生懸命思い出そうとしていて、眉間に山のようなしわが寄せていたね。
ささいな事で他の子とケンカをし、負けそうになったら、涙目で頭突きをして相手の子を泣かせていたね。
色々な子と出会い、色々な事を記憶していった君。そんな中、私と初めて私と会ったのは、君が寺子屋を始める少し前のことだった。
村の中の自警団で中心的な存在になっていた頃、竹林で私と偶然鉢合わせたね。
あの時の君は、村の外に人間がおらず、人の形をしているのは妖怪だと思っていたよね。そして、初めての場所で出会った妖怪に少々混乱してしまい、私の話を聞く前に、思い切り斬りつけていたね。
何度も私がよみがえるものだから、さらに何度も私を痛めつけていたね。
君の後ろにいた自警団の人たちは、手が付けられないほどの君の暴走に、顔が真っ青になっていたよ。
何十回目かのリザレクションの後、やっと君は話を聞いてくれたね。でも、私の話を聞いていた時の君の顔は、不審者という疑いの感情が、顔に張り付いて取れていなかったよ。
お詫びと言って君は、すまなさそうに君の家で夕飯を振舞ってくれた。そのまっすぐな気持ちと温かさがとてもありがたかった。数十年ぶりに食べた他人の手料理は、死んでしまう程のおいしさだったよ。
それからしばらく、私は君の家にお世話になっていた。寺子屋を開こうと日々忙しく動いていた君に代わり、いつの間にか私が家事を行うようになっていたね。
君はとても心苦しそうな顔をしていたけれど、気にしないで寺子屋のほうに集中してほしかった。私は君の頑張る顔に、惹かれていたんだ。
いざ寺子屋が始まると、ますます君は忙しさに拍車がかかっていたね。日々どう子どもたちと接すれば良いのか、悩みながら夕飯を食べていた君。時折、考えていることと眠気で箸に乗っていたごはんが床の上で迷子になっていたね。
しばらくの間、悩み続け、段々と今の教え方になっていったね。その頃には、私と君は家族のようになっていた。
君の温かさがとても気持ち良かった。
彼女と戦い、負けた日は、君からとどめの頭突きをもらっていた。簡単に死ぬことができない痛みの生き地獄は、今となってみると君なりの私への心配の仕方だったのだと思っている。
寺子屋に通う子どもが増えてきて、私も寺子屋に手伝いを始め、より君の近くにいる事がなっていった。
そして、独り立ちした子どもたちも寺子屋へ戻ってきて、より大きな家族の雰囲気になったね。でも、段々と寺子屋が自分の手から離れていくような感じになり、君は少し寂しそうな顔を見せていた。
寺子屋が本格的に君の手から離れてきた頃、段々と子どもたちを教えることが少なくなっていった。
幾多の教え子たちとの別れを経験していき、そして君自身も、いつの間にか体がついていかなくなっていた。
しかし、私は変わることがなく、君のそばにいた。
最近は眠り続けることが多くなってきたね。
今度は君自身との別れを、私が経験しなければならない。
けれど、私にはそれは堪えられない。
君と、今、別れを告げる。
些細なことでケンカをし、時に君のツノ付きの頭突きで死に、必死に謝られたのもいい思い出でした。
私はどこかでずっと煙を上げ続ける。細く、長く、消えることなく上げ続ける。
いつかきっと、君が見つけるまで。
瞬く人生の一瞬に、燃え続ける君。いつまでも忘れないようにしていく。
誰もいなくなっても、君のそばに居続ける。だから、おやすみなさい。
村の教え子たちが彼女の最後を看取る時、彼女は小さな声でこうつぶやいていたらしい。
「バカ……最後まで寄り添わないか」
そう言う彼女の顔は、とても満足そうな笑顔だった。
三日月の夜、淡い藍色の髪が濡れるほどの泣き顔を見せながら、君は生まれてきたね。いつまでも泣き続け、周りの村人を困らせていたね。
よく食べ、よく寝て少しずつ大きくなっていく君。小さな事に感動し、その日の事を忘れないようにスケッチしていたね。零れ落ちてしまいそうな記憶を、一生懸命思い出そうとしていて、眉間に山のようなしわが寄せていたね。
ささいな事で他の子とケンカをし、負けそうになったら、涙目で頭突きをして相手の子を泣かせていたね。
色々な子と出会い、色々な事を記憶していった君。そんな中、私と初めて私と会ったのは、君が寺子屋を始める少し前のことだった。
村の中の自警団で中心的な存在になっていた頃、竹林で私と偶然鉢合わせたね。
あの時の君は、村の外に人間がおらず、人の形をしているのは妖怪だと思っていたよね。そして、初めての場所で出会った妖怪に少々混乱してしまい、私の話を聞く前に、思い切り斬りつけていたね。
何度も私がよみがえるものだから、さらに何度も私を痛めつけていたね。
君の後ろにいた自警団の人たちは、手が付けられないほどの君の暴走に、顔が真っ青になっていたよ。
何十回目かのリザレクションの後、やっと君は話を聞いてくれたね。でも、私の話を聞いていた時の君の顔は、不審者という疑いの感情が、顔に張り付いて取れていなかったよ。
お詫びと言って君は、すまなさそうに君の家で夕飯を振舞ってくれた。そのまっすぐな気持ちと温かさがとてもありがたかった。数十年ぶりに食べた他人の手料理は、死んでしまう程のおいしさだったよ。
それからしばらく、私は君の家にお世話になっていた。寺子屋を開こうと日々忙しく動いていた君に代わり、いつの間にか私が家事を行うようになっていたね。
君はとても心苦しそうな顔をしていたけれど、気にしないで寺子屋のほうに集中してほしかった。私は君の頑張る顔に、惹かれていたんだ。
いざ寺子屋が始まると、ますます君は忙しさに拍車がかかっていたね。日々どう子どもたちと接すれば良いのか、悩みながら夕飯を食べていた君。時折、考えていることと眠気で箸に乗っていたごはんが床の上で迷子になっていたね。
しばらくの間、悩み続け、段々と今の教え方になっていったね。その頃には、私と君は家族のようになっていた。
君の温かさがとても気持ち良かった。
彼女と戦い、負けた日は、君からとどめの頭突きをもらっていた。簡単に死ぬことができない痛みの生き地獄は、今となってみると君なりの私への心配の仕方だったのだと思っている。
寺子屋に通う子どもが増えてきて、私も寺子屋に手伝いを始め、より君の近くにいる事がなっていった。
そして、独り立ちした子どもたちも寺子屋へ戻ってきて、より大きな家族の雰囲気になったね。でも、段々と寺子屋が自分の手から離れていくような感じになり、君は少し寂しそうな顔を見せていた。
寺子屋が本格的に君の手から離れてきた頃、段々と子どもたちを教えることが少なくなっていった。
幾多の教え子たちとの別れを経験していき、そして君自身も、いつの間にか体がついていかなくなっていた。
しかし、私は変わることがなく、君のそばにいた。
最近は眠り続けることが多くなってきたね。
今度は君自身との別れを、私が経験しなければならない。
けれど、私にはそれは堪えられない。
君と、今、別れを告げる。
些細なことでケンカをし、時に君のツノ付きの頭突きで死に、必死に謝られたのもいい思い出でした。
私はどこかでずっと煙を上げ続ける。細く、長く、消えることなく上げ続ける。
いつかきっと、君が見つけるまで。
瞬く人生の一瞬に、燃え続ける君。いつまでも忘れないようにしていく。
誰もいなくなっても、君のそばに居続ける。だから、おやすみなさい。
村の教え子たちが彼女の最後を看取る時、彼女は小さな声でこうつぶやいていたらしい。
「バカ……最後まで寄り添わないか」
そう言う彼女の顔は、とても満足そうな笑顔だった。
少々「ね」という語尾?がくどく感じました。