霧の湖畔のほとりにある吸血鬼が主の紅魔館。
地下にある大図書館には大量の魔導書があり、それを読みながら暮らしているのが
ワタシ、パチュリー=ノーレッジである。
大量の蔵書の魔導書を狙って日夜黒い魔法使いがやってくるのであった。
「ういっすー♪」
ものすごく、ラフな感じで黒い魔法使いがやってきた。
「何しに来たのよ?」
彼女の名前は霧雨 魔理沙。
大図書館の蔵書を借りると称して強盗していく魔法使いだ。
「図書館に本を借りる以外に来るかよ?」
「いや、あるわ」
「なんだよ?」
「お、お弁当を食べにとか?」
最近、読んでいた恋愛小説では図書館でお弁当を食べあうシーンがあった。
その後主人公は弁当の中身に驚愕していたのだけど今は関係ない。
「本読みながら、モノ食うなよ。常識ないな?」
本を返さない奴に言われたくない。
「借りたモノを返さない奴が常識ないとか言わないでほしいわ?」
「死ぬ前くらいには返すから問題ないって」
魔理沙は悪びれる様子もなく明るく答える。
「それも困るのだけど」
「たまにはお前もそとに出かけたりしろよ。あんまり埃っぽいところにいると
身体弱くなるぞ?」
「もともと、弱いから気にもしないわ。埃っぽいんじゃなくて本の匂いよ」
古い魔導書になるとどうしてもそういう匂いになってしまう。
「いや、そうじサボっているんじゃねーの?」
「そうかしら」
小悪魔はワタシが読んだ本をせっせと運んでいる。
「あいつが掃除道具を持ってるの見たことないけどな」
「そう言われればそうかもしれないわね」
掃除道具などなくても、掃除くらいはできそうな気がする。
「大体、本だって陰干ししないとダメになるぜ?」
「いい顔しても、本は貸さないわよ?」
「けちだな」
手にしていた本を仕方なさそうに机の上に置いた。
「よし、我ながら渾身の出来だな」
魔理沙が紙とペンを借りて、『相談☆室長』と書いた立て札をワタシの机の上に置く。
「何かしら?」
「見ての通り、お前は『相談室長』になりましたー!」
テンション高めに手をたたく。
「で?」
相談室長って何なのだろうか?まったく、何をしたいのか理解できなかった。
「なんだよ。うれしくないのか?」
「うれしくないわよ」
何が楽しくてヒトの相談なんて聞いてやらないといけないのだろうか?
「人の弱みが簡単に握れて相手はストレス解消。いいことづくめだぜ!」
親指を立てていい笑顔をしている。
「いや、面倒なのだけど?」
ワタシはただ静かに本を読んでいたいだけなのだ。
「人見知りを治すいい機会だと思うぜ?」
「別に人見知りじゃないわよ!」
「本当かよ?」
「本当よ」
「引きこもりだろ?」
「引きこもりじゃないわよ」
外に出るようがとりあえずないだけだ。けして、お外が怖いわけじゃない。
「じゃあ、試しにアタシが相談されてやるよ」
どう考えても相談のなさそうな人生を送っているのに。
「何で、そうなるのよ?」
「アタシ、本が借りたいんだけど?」
随分と、素直なお悩みだった。
「一昨日出直してきなさい!」
「おとといから出直してきたぜ!」
「嘘おっしゃい」
「どうせ、三日後も来るからいいだろう?とりあえず、色々な奴に知らせておいてやるからなー!」
そう言って机の上に置いていた数冊の魔導書を持って図書館を出て行ってしまった。
「おい、ここで『うんめいのせんたく』ができるそうじゃぁないか?」
氷の妖精がワタシの机の前で腕を組んでいた。
「運命の選択?そんなのはウチではやっていないわ。博麗神社に行けば、
おねしょの下着くらいあらってくれるんじゃない?」
「そういうのは間に合ってますから」
氷の妖精を後ろから大きな妖精が抱き抱える。
「えと、どうやって入ったのかしら?」
まだ、朝だというのに門番は侵入者にやられたのだろうか?
「ああ、トイレって言ってた。なんか、わるいものでもくったんじゃねーの?」
氷の妖精は鼻水をたらしながら笑っていた。
「ああ、チルノちゃん。鼻水出てるよ。ちーんしようか」
大きい妖精はチルノを背後から抱くのをやめて向き合う。
「うん、ちーん」
鼻をかむ。
鼻をかんだティッシュを笑顔で服のポケットにしまっていた。
「えと、悩みがないのなら、帰っていただきたいのだけど?」
この二人に悩みなんてなさそうだ。
そもそも、このちびっこ妖精に悩むなんて言葉は理解されていない気がする。
「アタイ、サイキョーになりたいの!」
「ああ、そう」
随分なお願いだ。
「できますよね?なれますよね?」
大きい妖精は若干くい気味でこちらを見ている。
「なれるんじゃない?」
すごく、どーでもよかった。
「もう少し、真剣に考えてあげてくださいよ!」
「大きくなったら理解すると思うわ」
子供のウチは好きなことを言わせておいてあげればいいと思う。
「アタイ、サイキョーになって大ちゃんとケッコン、するんだ!」
「……ああ、そう。頑張って、お幸せに」
意味わかってないんだろうなとおもう。それにしても、大きい妖精は終始笑顔
だったので余計なコトを言わないようにしておく。
「ありがとうございましたー♪いこう、チルノチャン。帰って、結婚式の練習しよ♪」
チルノの腕を掴んで大きい妖精が鼻歌を歌いながら図書館を出ていく。
「強引さってありすぎると困りものよね?」
小悪魔に尋ねると苦笑いをしていた。
昼食を食べ終わった後、緑色の瞳をした耳の長い少女がこの図書館に入ってきていた。
「ここが、願いを叶えてくれる『魔法の相談室』ですか?」
確か、不審者は入れないはずだと思うのにココの門番はどうしたのだろうか。
先ほど咲夜に連絡したのでおしおき中なのだろうか?
「ええ、『相談室』ではあるわ」
「わたしの相談も聞いてもらえる?」
「ええ、聞くわ」
相談というのは悩みを解決させるわけではなく、ただ相手にいかに自分の思っていることを喋らせるかがカギだ。相手が言いたいことを言わせて満足させればいいとさっき読んだ本に書いてあった。
「わたしの名前、知ってる?」
「ええ、初対面ですもの。教えてもらえると助かるのだけれど?」
「水橋パルスィ。あなたもあったことあるはずだけど。あーあ、人気者はそうやって他人のことを覚えてすりゃ居ないのかよ。あー、妬ましい」
「ちょっと、待ってほしいのだわ」
「何かしら、人気者さん?」
彼女は明らか皮肉めいたいいようだった。
「いやいや、ワタシの顔見たことしょう?」
「あー、やだやだ。有名人だからって自分の顔を見たことあるか?だって、はぁ?有名人ぶってんじゃねーよ。妬ましいったらありゃしない!」
「あの、水橋さん?」
このタイプはやばい。
何を言っても自分のことを悪く考えていく。
口を開いたら口を開いた分だけ罵詈雑言と被害妄想が思いつくタイプだ。
「何でしょうか、『引きこもりの大図書館』さん?」
明らかに嫉妬心を燃やしながらこちらを見つめている。
「少し、落ちつきましょうか。お茶でも飲んでください」
さっき、自分で飲もうと思ったお茶を勧める。
パルスィははすすめられるままにお茶を一気に飲み干す。
「はあ、いいお茶使っているんでしょう?おいしいですね」
ここで、『そんなことないです』と言っても、『そうですね』と言っても
悪い方向にしか思考が傾かない。彼女の目は世界を憎んでいるような濁った眼をしていた。
「それで相談とはなんでしょうか?」
本題に話を戻す。これならば、少しは時間を稼げるはずだ。
「ああ、相談ですか。いまだに、名前を間違えられるんですよ?地霊殿いつ出たと思っているのだが?」
「えっと、水橋パルシィさんですよね?」
「パルスィです」
名前を間違えたせいで見るからに不機嫌な表情になっていた。
「はは、ごめんなさい。生まれが田舎なもので発音がおかしかったですねパルスィさん」
これならば、ごまかせるはずだ。
「田舎?こんないい所に住んでやがってわたしをバカにしているのか?」
すべてに対して悪いようにしか考えていないらしい。
「少し、落ちついてください。橋姫さん」
「水橋だ!」
別に間違えたわけではないというのに何という面倒な相手だろう。
どうしてこんな相手を魔理沙は連れてきたのだろうか?
波長が合うとでも思ったのだろうか。
「水橋 パルスィさん」
「なんだよ?」
「あなた、疲れているんだと思います」
「別に疲れてなんかいない」
口ではああ言っているが目のくまが尋常じゃない。
炭を塗りたくっているのではないかと思いたくなるくらい真っ黒だった。
「ゆっくり、寝たら嫌なことも忘れられますよ?」
確か、睡眠薬があったはずだ。
「もし、わたしが寝ている間に世界が滅んだらどうしてくれるんだ?」
いいがかりと言うよりは妄言だった。そんなことを考えるならずっと
眠っていたほうがいいと思う。
「そんな簡単に世界は壊れませんよ?」
こんなことなら、さっきのお茶に睡眠薬でも混ぜておけばよかった。
「いいや違わないね。わたしだけを残して世界が崩壊するんだ。パルパルパルパル……」
呪いの呪文のようにつぶやき始める。
どうしてこんな、電波なヤツをどうやって相手にすればいいのだろうか?
「はあ」
扱いに困ってため息をつく。
「ぁあ!さっき飲んだ飲み物にも毒が!吐かなきゃ!!」
被害妄想も甚だしく、パルスィは自分の喉に手を突っ込んでお茶を吐き出そうとしていた。
「こあ、強制退場よ!」
「はい、喜んで♪」
扉の前でスタンバイしていた小悪魔がパルスィの後頭部を思いきり金づちのようなもので殴りつける。
「ぐへっ」
鈍器で殴られる音と変な声をあげて床に倒れる。
「どうしますか?」
「そのまま睡眠薬を飲ませて、地霊殿に送っておいて頂戴」
「わっかりましたー」
小悪魔が笑顔で気を失ったパルスィを運んで行った。
誰もいなくなった図書館でワタシはため息をつく。
何でこんなことをしているんだろうと思う。
ただの魔法使いでしかないというのに、なんでこんなことをしているのだろうか?
「なかなか、繁盛しているみたいだな」
魔理沙がノックもせずに部屋に勝手に入ってくる。
「勝手に入ってこないでよね?」
「どうだ?金になりそうか」
にこにことしながら尋ねてくる。それはこのアイディアを出したのが自分だという自身から来るものなのだろうか。
「なるわけないでしょ?」
こんなのでお金を取るくらいなら、よほど『占い』でもやったほうが儲かりそうな気がする。
「えー、ナイスアイディアだと思ったのに。ちぃ、霊夢の家で見てたテレビで『悩み相談』ってのが面白そうだったのにな」
魔理沙が悔しそうにしていた。
「別にお金になんか困っていないわよ?」
「え?そうなのか?」
「そうよ」
「じゃあ、なんだ。『世界は小説よりも奇なり』ってね」
「『事実は小説もよりも奇なり』よ」
「まあ、どっちだっていいじゃないか。お茶くれよ」
相談者用に置いてある丸椅子に腰を下ろす。
「何様のつもりよ?」
「きまってるじゃん、オレ様だよ」
歯を見せて笑う。
「バカじゃないの?」
「じゃあ、何さ。『魔法使い様』とか」
「調子に乗っているのね?」
「この椅子背もたれがなくてだるいんだけど?」
「ウチは休憩所じゃないのよ」
「じゃあ、何かオレ様も相談してやるよ」
どうして一人称がオレなのだろう。いつもはアタシのはずなのに。
「最初に聞いてあげたでしょうが?」
「違う、違う本当のことよ」
魔理沙はふてぶてしく笑っていた。
「本当って何よ?」
「それはアナタが本当にパチュリー=ノーレッジかということよ」
目の前の魔理沙の輪郭がぼやけて紫色の髪をした少女の姿に変わっていく。
「あなたは?」
「見てわからないのかしら?アナタと同じでパチュリー=ノーレッジよ」
ワタシが二人いるというのはどういうことなのだろうか?
「貴女も魔法使いなのだから聞いたことがあるでしょう?
そうね、貴女なら一度くらいは本で読んだことがあるんではないのかしら?
ドッペルゲンガーというものを」
「ああ、そういう類のものなのね」
不意に自分と瓜二つの姿のものが現れたせい手取り乱していただけだ。
大丈夫、もう大丈夫。
「何が、大丈夫なのかしら?パチュリー=ノーレッジさん」
表情は相変わらず不敵な笑みを浮かべていて自分が本物と言わんばかりだった。それではここにいるワタシが偽物みたいではないか。
「何でもないわよ、で、用件は何なのかしら?ドッペルゲンガーさん」
できるだけ言葉に皮肉をこめる。
「用件は簡単よ。貴女はいい加減、お眠りなさい」
目の前のドッペルゲンガーが魔法陣を右手に展開する。
「ちょっと、どういうことよ!」
ワタシがワタシであるはずなのにどういうことなんだろう。
「勝手にヒトの姿でうろつかれるのはウザいのよ」
魔法陣から光が収束されていく。
「違うわ、ワタシはパチュリー=ノーレッジ。動かない図書館よ!」
ワタシはそれ以外の何物ではないはずだ。
目の前のドッペルゲンガーのように魔法陣を展開しようと試みるがうまく生成されない。
「あれ?なんで?」
体調が悪いからなのだろうか?
「ドッペルゲンガーって言うのにはその本人になり変ってしまうために
本来持ち得ていた記憶も捨ててしまうそうよ。そうやって、他人の場所を
奪うなんて最低ね」
「でも、なんで魔法が?」
「それは貴女が時間を浪費している最中に色々細工したのよ」
「そんな」
ワタシハダレナンダロウ?
なんのために、生きているのだろうか。
「Adios.Hasta luego!(さようなら、また逢う日まで)」
ワタシの視界は白に塗りつぶされて何も分からない世界へと還されてしまった。
「ちょっと、調子にのってしまったかもしれないわ」
自分であけた大穴と焼き焦げてかろうじて原形をとどめている人形を一瞥する。
「あれ、魔理沙さんはどうしたんですか?」
お茶菓子を手にして小悪魔が部屋に入ってきた。
「あのねー、使い魔なのだから。本人と偽物の区別くらいつけなさいよ」
「ほへ?」
小悪魔は気づいていなかったらしい。
「バカでしょう?」
「わたしはここにいるパチュリー様にお仕えしていただけですよ?」
「……そう」
同じ姿をしたものならマスターと認識してしまうらしい。
それほどまでに偽物は精巧にできていたらしい。確か、『数日空ける』と言ったのにそんなことすら忘れていたのだろうか。もしかして、ワタシが外を出ないとでも思ったのだろうか?確かに、すぐ帰ろうと思ったのだけど博麗神社で数日ワタシのために宴会を催してくれたのだ。それはいなくてはなるまい。
「にしても、魔理沙さん大穴をあけてどこに行ったんですかね?」
時々、小悪魔がとぼけているのか天然なのか分からなくなる。
「本当に貴女にはしつけが必要ね」
「何か悪いことしましたっけ?」
小悪魔が冷や汗をかき始めていた。
「その体に忘れられないように刻みつけてあげるわ」
ワタシは不敵に笑みを浮かべた。
地下にある大図書館には大量の魔導書があり、それを読みながら暮らしているのが
ワタシ、パチュリー=ノーレッジである。
大量の蔵書の魔導書を狙って日夜黒い魔法使いがやってくるのであった。
「ういっすー♪」
ものすごく、ラフな感じで黒い魔法使いがやってきた。
「何しに来たのよ?」
彼女の名前は霧雨 魔理沙。
大図書館の蔵書を借りると称して強盗していく魔法使いだ。
「図書館に本を借りる以外に来るかよ?」
「いや、あるわ」
「なんだよ?」
「お、お弁当を食べにとか?」
最近、読んでいた恋愛小説では図書館でお弁当を食べあうシーンがあった。
その後主人公は弁当の中身に驚愕していたのだけど今は関係ない。
「本読みながら、モノ食うなよ。常識ないな?」
本を返さない奴に言われたくない。
「借りたモノを返さない奴が常識ないとか言わないでほしいわ?」
「死ぬ前くらいには返すから問題ないって」
魔理沙は悪びれる様子もなく明るく答える。
「それも困るのだけど」
「たまにはお前もそとに出かけたりしろよ。あんまり埃っぽいところにいると
身体弱くなるぞ?」
「もともと、弱いから気にもしないわ。埃っぽいんじゃなくて本の匂いよ」
古い魔導書になるとどうしてもそういう匂いになってしまう。
「いや、そうじサボっているんじゃねーの?」
「そうかしら」
小悪魔はワタシが読んだ本をせっせと運んでいる。
「あいつが掃除道具を持ってるの見たことないけどな」
「そう言われればそうかもしれないわね」
掃除道具などなくても、掃除くらいはできそうな気がする。
「大体、本だって陰干ししないとダメになるぜ?」
「いい顔しても、本は貸さないわよ?」
「けちだな」
手にしていた本を仕方なさそうに机の上に置いた。
「よし、我ながら渾身の出来だな」
魔理沙が紙とペンを借りて、『相談☆室長』と書いた立て札をワタシの机の上に置く。
「何かしら?」
「見ての通り、お前は『相談室長』になりましたー!」
テンション高めに手をたたく。
「で?」
相談室長って何なのだろうか?まったく、何をしたいのか理解できなかった。
「なんだよ。うれしくないのか?」
「うれしくないわよ」
何が楽しくてヒトの相談なんて聞いてやらないといけないのだろうか?
「人の弱みが簡単に握れて相手はストレス解消。いいことづくめだぜ!」
親指を立てていい笑顔をしている。
「いや、面倒なのだけど?」
ワタシはただ静かに本を読んでいたいだけなのだ。
「人見知りを治すいい機会だと思うぜ?」
「別に人見知りじゃないわよ!」
「本当かよ?」
「本当よ」
「引きこもりだろ?」
「引きこもりじゃないわよ」
外に出るようがとりあえずないだけだ。けして、お外が怖いわけじゃない。
「じゃあ、試しにアタシが相談されてやるよ」
どう考えても相談のなさそうな人生を送っているのに。
「何で、そうなるのよ?」
「アタシ、本が借りたいんだけど?」
随分と、素直なお悩みだった。
「一昨日出直してきなさい!」
「おとといから出直してきたぜ!」
「嘘おっしゃい」
「どうせ、三日後も来るからいいだろう?とりあえず、色々な奴に知らせておいてやるからなー!」
そう言って机の上に置いていた数冊の魔導書を持って図書館を出て行ってしまった。
「おい、ここで『うんめいのせんたく』ができるそうじゃぁないか?」
氷の妖精がワタシの机の前で腕を組んでいた。
「運命の選択?そんなのはウチではやっていないわ。博麗神社に行けば、
おねしょの下着くらいあらってくれるんじゃない?」
「そういうのは間に合ってますから」
氷の妖精を後ろから大きな妖精が抱き抱える。
「えと、どうやって入ったのかしら?」
まだ、朝だというのに門番は侵入者にやられたのだろうか?
「ああ、トイレって言ってた。なんか、わるいものでもくったんじゃねーの?」
氷の妖精は鼻水をたらしながら笑っていた。
「ああ、チルノちゃん。鼻水出てるよ。ちーんしようか」
大きい妖精はチルノを背後から抱くのをやめて向き合う。
「うん、ちーん」
鼻をかむ。
鼻をかんだティッシュを笑顔で服のポケットにしまっていた。
「えと、悩みがないのなら、帰っていただきたいのだけど?」
この二人に悩みなんてなさそうだ。
そもそも、このちびっこ妖精に悩むなんて言葉は理解されていない気がする。
「アタイ、サイキョーになりたいの!」
「ああ、そう」
随分なお願いだ。
「できますよね?なれますよね?」
大きい妖精は若干くい気味でこちらを見ている。
「なれるんじゃない?」
すごく、どーでもよかった。
「もう少し、真剣に考えてあげてくださいよ!」
「大きくなったら理解すると思うわ」
子供のウチは好きなことを言わせておいてあげればいいと思う。
「アタイ、サイキョーになって大ちゃんとケッコン、するんだ!」
「……ああ、そう。頑張って、お幸せに」
意味わかってないんだろうなとおもう。それにしても、大きい妖精は終始笑顔
だったので余計なコトを言わないようにしておく。
「ありがとうございましたー♪いこう、チルノチャン。帰って、結婚式の練習しよ♪」
チルノの腕を掴んで大きい妖精が鼻歌を歌いながら図書館を出ていく。
「強引さってありすぎると困りものよね?」
小悪魔に尋ねると苦笑いをしていた。
昼食を食べ終わった後、緑色の瞳をした耳の長い少女がこの図書館に入ってきていた。
「ここが、願いを叶えてくれる『魔法の相談室』ですか?」
確か、不審者は入れないはずだと思うのにココの門番はどうしたのだろうか。
先ほど咲夜に連絡したのでおしおき中なのだろうか?
「ええ、『相談室』ではあるわ」
「わたしの相談も聞いてもらえる?」
「ええ、聞くわ」
相談というのは悩みを解決させるわけではなく、ただ相手にいかに自分の思っていることを喋らせるかがカギだ。相手が言いたいことを言わせて満足させればいいとさっき読んだ本に書いてあった。
「わたしの名前、知ってる?」
「ええ、初対面ですもの。教えてもらえると助かるのだけれど?」
「水橋パルスィ。あなたもあったことあるはずだけど。あーあ、人気者はそうやって他人のことを覚えてすりゃ居ないのかよ。あー、妬ましい」
「ちょっと、待ってほしいのだわ」
「何かしら、人気者さん?」
彼女は明らか皮肉めいたいいようだった。
「いやいや、ワタシの顔見たことしょう?」
「あー、やだやだ。有名人だからって自分の顔を見たことあるか?だって、はぁ?有名人ぶってんじゃねーよ。妬ましいったらありゃしない!」
「あの、水橋さん?」
このタイプはやばい。
何を言っても自分のことを悪く考えていく。
口を開いたら口を開いた分だけ罵詈雑言と被害妄想が思いつくタイプだ。
「何でしょうか、『引きこもりの大図書館』さん?」
明らかに嫉妬心を燃やしながらこちらを見つめている。
「少し、落ちつきましょうか。お茶でも飲んでください」
さっき、自分で飲もうと思ったお茶を勧める。
パルスィははすすめられるままにお茶を一気に飲み干す。
「はあ、いいお茶使っているんでしょう?おいしいですね」
ここで、『そんなことないです』と言っても、『そうですね』と言っても
悪い方向にしか思考が傾かない。彼女の目は世界を憎んでいるような濁った眼をしていた。
「それで相談とはなんでしょうか?」
本題に話を戻す。これならば、少しは時間を稼げるはずだ。
「ああ、相談ですか。いまだに、名前を間違えられるんですよ?地霊殿いつ出たと思っているのだが?」
「えっと、水橋パルシィさんですよね?」
「パルスィです」
名前を間違えたせいで見るからに不機嫌な表情になっていた。
「はは、ごめんなさい。生まれが田舎なもので発音がおかしかったですねパルスィさん」
これならば、ごまかせるはずだ。
「田舎?こんないい所に住んでやがってわたしをバカにしているのか?」
すべてに対して悪いようにしか考えていないらしい。
「少し、落ちついてください。橋姫さん」
「水橋だ!」
別に間違えたわけではないというのに何という面倒な相手だろう。
どうしてこんな相手を魔理沙は連れてきたのだろうか?
波長が合うとでも思ったのだろうか。
「水橋 パルスィさん」
「なんだよ?」
「あなた、疲れているんだと思います」
「別に疲れてなんかいない」
口ではああ言っているが目のくまが尋常じゃない。
炭を塗りたくっているのではないかと思いたくなるくらい真っ黒だった。
「ゆっくり、寝たら嫌なことも忘れられますよ?」
確か、睡眠薬があったはずだ。
「もし、わたしが寝ている間に世界が滅んだらどうしてくれるんだ?」
いいがかりと言うよりは妄言だった。そんなことを考えるならずっと
眠っていたほうがいいと思う。
「そんな簡単に世界は壊れませんよ?」
こんなことなら、さっきのお茶に睡眠薬でも混ぜておけばよかった。
「いいや違わないね。わたしだけを残して世界が崩壊するんだ。パルパルパルパル……」
呪いの呪文のようにつぶやき始める。
どうしてこんな、電波なヤツをどうやって相手にすればいいのだろうか?
「はあ」
扱いに困ってため息をつく。
「ぁあ!さっき飲んだ飲み物にも毒が!吐かなきゃ!!」
被害妄想も甚だしく、パルスィは自分の喉に手を突っ込んでお茶を吐き出そうとしていた。
「こあ、強制退場よ!」
「はい、喜んで♪」
扉の前でスタンバイしていた小悪魔がパルスィの後頭部を思いきり金づちのようなもので殴りつける。
「ぐへっ」
鈍器で殴られる音と変な声をあげて床に倒れる。
「どうしますか?」
「そのまま睡眠薬を飲ませて、地霊殿に送っておいて頂戴」
「わっかりましたー」
小悪魔が笑顔で気を失ったパルスィを運んで行った。
誰もいなくなった図書館でワタシはため息をつく。
何でこんなことをしているんだろうと思う。
ただの魔法使いでしかないというのに、なんでこんなことをしているのだろうか?
「なかなか、繁盛しているみたいだな」
魔理沙がノックもせずに部屋に勝手に入ってくる。
「勝手に入ってこないでよね?」
「どうだ?金になりそうか」
にこにことしながら尋ねてくる。それはこのアイディアを出したのが自分だという自身から来るものなのだろうか。
「なるわけないでしょ?」
こんなのでお金を取るくらいなら、よほど『占い』でもやったほうが儲かりそうな気がする。
「えー、ナイスアイディアだと思ったのに。ちぃ、霊夢の家で見てたテレビで『悩み相談』ってのが面白そうだったのにな」
魔理沙が悔しそうにしていた。
「別にお金になんか困っていないわよ?」
「え?そうなのか?」
「そうよ」
「じゃあ、なんだ。『世界は小説よりも奇なり』ってね」
「『事実は小説もよりも奇なり』よ」
「まあ、どっちだっていいじゃないか。お茶くれよ」
相談者用に置いてある丸椅子に腰を下ろす。
「何様のつもりよ?」
「きまってるじゃん、オレ様だよ」
歯を見せて笑う。
「バカじゃないの?」
「じゃあ、何さ。『魔法使い様』とか」
「調子に乗っているのね?」
「この椅子背もたれがなくてだるいんだけど?」
「ウチは休憩所じゃないのよ」
「じゃあ、何かオレ様も相談してやるよ」
どうして一人称がオレなのだろう。いつもはアタシのはずなのに。
「最初に聞いてあげたでしょうが?」
「違う、違う本当のことよ」
魔理沙はふてぶてしく笑っていた。
「本当って何よ?」
「それはアナタが本当にパチュリー=ノーレッジかということよ」
目の前の魔理沙の輪郭がぼやけて紫色の髪をした少女の姿に変わっていく。
「あなたは?」
「見てわからないのかしら?アナタと同じでパチュリー=ノーレッジよ」
ワタシが二人いるというのはどういうことなのだろうか?
「貴女も魔法使いなのだから聞いたことがあるでしょう?
そうね、貴女なら一度くらいは本で読んだことがあるんではないのかしら?
ドッペルゲンガーというものを」
「ああ、そういう類のものなのね」
不意に自分と瓜二つの姿のものが現れたせい手取り乱していただけだ。
大丈夫、もう大丈夫。
「何が、大丈夫なのかしら?パチュリー=ノーレッジさん」
表情は相変わらず不敵な笑みを浮かべていて自分が本物と言わんばかりだった。それではここにいるワタシが偽物みたいではないか。
「何でもないわよ、で、用件は何なのかしら?ドッペルゲンガーさん」
できるだけ言葉に皮肉をこめる。
「用件は簡単よ。貴女はいい加減、お眠りなさい」
目の前のドッペルゲンガーが魔法陣を右手に展開する。
「ちょっと、どういうことよ!」
ワタシがワタシであるはずなのにどういうことなんだろう。
「勝手にヒトの姿でうろつかれるのはウザいのよ」
魔法陣から光が収束されていく。
「違うわ、ワタシはパチュリー=ノーレッジ。動かない図書館よ!」
ワタシはそれ以外の何物ではないはずだ。
目の前のドッペルゲンガーのように魔法陣を展開しようと試みるがうまく生成されない。
「あれ?なんで?」
体調が悪いからなのだろうか?
「ドッペルゲンガーって言うのにはその本人になり変ってしまうために
本来持ち得ていた記憶も捨ててしまうそうよ。そうやって、他人の場所を
奪うなんて最低ね」
「でも、なんで魔法が?」
「それは貴女が時間を浪費している最中に色々細工したのよ」
「そんな」
ワタシハダレナンダロウ?
なんのために、生きているのだろうか。
「Adios.Hasta luego!(さようなら、また逢う日まで)」
ワタシの視界は白に塗りつぶされて何も分からない世界へと還されてしまった。
「ちょっと、調子にのってしまったかもしれないわ」
自分であけた大穴と焼き焦げてかろうじて原形をとどめている人形を一瞥する。
「あれ、魔理沙さんはどうしたんですか?」
お茶菓子を手にして小悪魔が部屋に入ってきた。
「あのねー、使い魔なのだから。本人と偽物の区別くらいつけなさいよ」
「ほへ?」
小悪魔は気づいていなかったらしい。
「バカでしょう?」
「わたしはここにいるパチュリー様にお仕えしていただけですよ?」
「……そう」
同じ姿をしたものならマスターと認識してしまうらしい。
それほどまでに偽物は精巧にできていたらしい。確か、『数日空ける』と言ったのにそんなことすら忘れていたのだろうか。もしかして、ワタシが外を出ないとでも思ったのだろうか?確かに、すぐ帰ろうと思ったのだけど博麗神社で数日ワタシのために宴会を催してくれたのだ。それはいなくてはなるまい。
「にしても、魔理沙さん大穴をあけてどこに行ったんですかね?」
時々、小悪魔がとぼけているのか天然なのか分からなくなる。
「本当に貴女にはしつけが必要ね」
「何か悪いことしましたっけ?」
小悪魔が冷や汗をかき始めていた。
「その体に忘れられないように刻みつけてあげるわ」
ワタシは不敵に笑みを浮かべた。
特にキャラクターの心理描写が抜けているので、行動が一々唐突な印象を受けました。その所為で物語が細切れとでも言いましょうか、一本のスムーズな流れが出来ていない、そう感じました。
まず文章レベルでの話。
>「地霊殿いつ出たと思っているのだが?」
>「いやいや、ワタシの顔見たことしょう?」
など、日本語としておかしい箇所や、それ以外にも文章の繋がりがおかしいところが散見されました。ここら辺はもっと丁寧に推敲すればすぐにでも直せる部分だと思うので、次回からは頑張ってください。
それと、構成レベルの話。
ぶっちゃけ、三つの相互に関係の無い話で三分割されている印象を強く受けました。冒頭の魔理沙とパチュリーのやり取り、中盤の相談室の話、そしてドッペルゲンガー。それらの三つのパート、三つの要素が溶け合わずに独立していて、結果的に全体としてまとまりに欠けたちぐはぐな話に感じてしまいました。
……素直に感想を書こうと思ったら、ずいぶんと上から目線な感じになってしまった。
私自身偉そうなこと言える身分じゃないので、適当に聞き流してくださいませ。
ストーリーの発想、展開はとても個性的かつ興味深く、そそる内容でした。
つまり材料選びは上手なんです。
しかし、素材を生かしきれてない。
それが際立っていると感じたのは、パルスィの場面。
恐らく、作者様はキャラの設定だけで人物を表現してしまっているのではないでしょうか。
ゲーム原作のパルスィの会話を一度確認してみれば、この場面の違和感に気付くかと思います。
魔理沙も男口調で喋りはしますが、一人称に「俺」を使うことはまずありません。
原作キャラを使う際は如何に原作キャラに近い状態を保つか。これだけで大分不自然さは
なくなるはずです。
あとは情景描写。文字を読むだけでその風景、キャラの指先にまで至る動きが読者に伝わるよう、視覚を刺激する文章表現を心掛ければ、よりよい作品になると感じました。
自分も未熟ですからあまり偉いことは言えませんが、今後の執筆活動の参考になればと思い、アドバイスさせていただきました。
次回作に期待しています。
面白い話なんだろうけど、読者に伝わってないです。
次回作に期待しますね
全く相談訳になっていませんね。