Coolier - 新生・東方創想話

姫様のハートを射止める程度の能力 ~迷いの竹林激闘篇~

2009/07/07 23:40:12
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ズタボロに破壊された身体が急速に再構成されていく。

止まっていた心臓が動き出し
血液が循環を始め
呼吸が戻り
意識が覚醒する。

自分の身体の中で、不条理且つデタラメな“奇跡”が作用しているのを自覚する時だ…

目を閉じていても、柔らかな光に照らされているのを感じる。
ああ、光…


こうして私はまた…復活した。


ゆっくりと瞼を開くと、夜空にぼんやりとまん丸の月が浮かんでいた。
そうだ、今宵は満月だった。

自分でも不思議なくらい気持ちが冴え冴えしている。気分の良い死に方をしたからだろう。
だが、のんびりと感慨に耽ってはいられなかった。痛覚が復活したからだ。

「くっ、ぁ痛たたた…!!」

不老不死だろうと痛いものは痛い。復活した直後は尚更だ。
なにしろ死ぬ程の目にあって…というか、事実一旦は本当に死んだんだからな。

痛む身体を起こして地べたに座り込んだ。

外見は元通りのようでも、身体機能はまだ万全ではない。
殺し合いで気力を使い果たしてしまった後は、完全回復までに若干時間がかかる。

…ま、いつものことだ。こういう時は観念して大人しく待つしかない。
尤も、気力が空っぽなので、大人しくするより他にないのだが。

「ふう…」

…そういや輝夜はどうしただろう?

不覚にも殺られてしまったが、輝夜にも最高にキッツイのをお見舞いしてやったはずだ。
宙を埋め尽くした弾幕の向こうで、やつが火ダルマになるのも見えたしな。

きょろきょろと辺りを見回す。…んー?未だ視界が不鮮明なのだが、
私のすぐ後に白っぽい物体が横たわっているのがぼんやりと見えた。

あ?なんだこれは??

じぃーっと見ていると、次第に視力が回復してきた。
曖昧だった輪郭が像を結び、謎物体の正体が明らかになる。
それは…

月光に照らされて暗闇に浮かび上がる、
透き通るように、白い…肌…


……
………ハダ!?

輝夜が倒れていた。し、しかも…

「はあぁぁ?!」

な、な、なんで?…なぜ全裸?!


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



タイトル

『姫様のハートを射止める程度の能力 ~迷いの竹林激闘篇~』



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


せ、整理しよう!

ここは迷いの竹林だ。
私はついさっきまで、こいつ…我が永遠の宿敵・蓬莱山輝夜と戦っていた。

気が遠くなるほどの永きに渡って繰り返されてきた、不老不死同士の壮絶な殺し合い…
ただ、今回はこれまでとは違う点があった。『スペルカード・ルール』というのを採用したのだ。

『スペルカード・ルール』とは、先日博麗の巫女が提唱した全く新しい決闘方法で、
最大の特徴はなんと言っても、攻撃を“弾幕”で表現する“弾幕勝負”であるということだ。

そう、“弾幕”…

その美しく幻想的で、術者の個性を120%発揮できる革命的なアイディアに、
ただでさえ自己主張の強い幻想郷の妖怪(&一部の人間)たちが我先にと飛びついて
そりゃあもう、あっという間に決闘方法のスタンダードになってしまった。

もちろん、私と輝夜も飛びついた。
この地(幻想郷)での運命的な再会からおよそ300年、馬鹿の一つ覚えの如くアナクロな
殺し合いを繰り返してきた私達だ。正直…さすがにモティベーションも落ちてくる。

先だっては、ついに輝夜の口から

「ねぇ、最近のわたし達って…ちょっとマンネリよね」

なんて言われてしまった!
あンの小娘がなんという失礼な言い草だ!

しかし実の所…
私もここ最近は、殺し合いに以前のような充実感を感じられなくなっていた。
何とかしなくてはと思っていたのだ。

そんな折も折っ!まるで計っていたかのようにタイミング良く発表されたのが
『スペルカード・ルール』だったのだ。これに飛び付かないわけがないだろう?


そういう訳で、私達は早速弾幕を創って勝負することにした。
無論、リザレクション無しの一発勝負にした。
不死者同士で復活ばかりしていてもキリがないからな。

私の弾幕は“不死鳥”だ。
燃え盛る紅蓮の炎!その絶大な火力で輝夜を追い詰める。
しかし、輝夜の弾幕は放射状に拡散する動きで宙を埋め尽くし、私に接近を許さない。

攻める私と、防御しながら罠を張る輝夜。
能力が互角の者同士で攻防がかみ合い過ぎると、どうしても膠着状態になり易い。
私と輝夜の勝負ではよくあることだ。

ダラダラした戦いになるのは御免だ。勿論、私が先に動いた。

輝夜の弾幕は緻密ではあるが、当然、動きに法則性はある。
弾幕の未来の動きを予測し、僅かなスキマに身体を滑り込ませて一気に距離を詰め、
渾身の力で“火の鳥~鳳翼天翔~”を叩き込んだ!

驚いた表情の輝夜が、炎に包まれるのが見えた。よしっ!着弾を確認!!


…しかし、私の身体もまた、有り得ない角度に二つ折りになっていた。
後方の死角から飛来した輝夜の弾幕が、私の背中を貫いたのだ。

「グシャリ」

自分の身体の“中”から聞こえてくる…絶望的な、ニブい音。
もはや痛みさえ感じない、完全に致命傷の一撃。

輝夜のやつ、やってくれたな…
またしても完全決着には至らなかったか…


……
………だが、


ははっ!

そうだよな!そうこなくっちゃ!!
それでこそ我が永遠の宿敵だ!!

薄れ逝く意識の中で、私は本当に久方振りに心からの充実感を味わっていた。
こんなに熱く、心躍るような殺し合いは100年ぶり…いや、下手したらそれ以上だ!

“弾幕”…こいつは良い!こいつは本物だ!!

全神経が悲鳴を上げて焼け付く寸前のようなギリギリの緊張感!
互いの精神と精神が火花を上げてぶつかり合っている確かな手応え!
私と輝夜が失いかけていたもの、そして一番欲していたものが…そこに、あった!!

ああ…“弾幕”…なんて素晴らしい!
こいつがあれば、あと数100年は輝夜と刺激に満ちた殺し合いをすることができそうだ…


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


…と、まあ、そんな感じで、
先程の私はこれ以上ないくらい希望に満ち溢れた死を遂げたわけなのだが…

それがまさかなぁ…(チラリ)

こんなことになるとは思いもしないだろ?!
せっかく良い気分で復活したのに、目が覚めたら輝夜が全裸ってなんだよそりゃ!?

しかもマズイことに、さっきまでは不鮮明だった視力が完全回復してしまった。

抜けるように白い肌が…
桜色の唇が…
月の光を浴びて濡れたように輝いている。
まだ成熟していない少女の身体には、痛々しくそれでいて儚い美しさがある。

うむむ…

…に、憎たらしい奴だが…
こうして…大人しく、死んでいる分には……
…やはり…か、可憐…と言わざるを、得まい…


……
…………はっ?!

いやいや、一般論だぞ?

あくまでも客観的な評価であって、断じて私の主観ではない!
私は敵だろうとなんだろうと、美しいものは美しいと正しく評価する“公平”な人間なのだ。
本当にそれだけだぞ!


…それにしても、なぜ??なんでこんなことに…?

輝夜とはこれまでにも何度となく殺り合ってきたが、こんな、全裸で復活するなど前代未聞だ。
やはりこれは今回新たに追加された要素…つまり“弾幕”に起因する現象と考えて間違いあるまい。
“弾幕”…“弾幕”…


……
………あ!そ、そうか!!

こいつはさっき不死鳥の“弾幕”で私が焼き殺した。…しかし輝夜は不老不死!
それで、私と同様に不死の力が働いて復活したのだが…
輝夜本人は復活しても、燃えてしまった“衣服”までは復活するわけないじゃないか!

な、なんてことだ…!

あぁぁぁ、私と輝夜の永い殺し合いの歴史の中でも、ダントツの名勝負になったと思ったのに、
なんだよこのオチ?とんだ珍プレーだよ…


…ん?ちょ、ちょっと待てよ?!

それじゃあ、私の不死鳥は…戦う度に輝夜を全裸にしてしまうってことか?!
なんだそりゃ?!“手を使わずに輝夜を全裸にする程度の能力”かよ?!
よりにもよって輝夜限定?!

うぐぐ…完璧を期したつもりだったのに、とんでもないバグが残っていたもんだ…
こんなハレンチな弾幕じゃ誇り高き不死鳥としての名誉に関わるぞ?

ま、まいったなあ、どうしよう…?


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「ん、んんん…」

うっ!輝夜の意識が戻りそうだ。
このままではいくらなんでもヤバ過ぎる!!

気が付いたら全裸でした?
下手人は誰?

…って、私しかいないんだからな。
後で輝夜に何を言われるか知れたもんじゃない。

っていうか…その…小ぶりだが形の良い胸や…
あの…お、女としての大切な部分?まで、バッチリ見えてしまっているんだぞ?
何かしら対処を施してやるべきだろう、同じ女性として!…いや人として!!

し、しかし、こういう時はどうすれば…?

慌てることはない。考えろ!思い出すんだ!!
私には1300年の永き時を生き抜いて獲得したあらゆる知識と経験がある。

さて…
一度死んで復活したら、隣に仇敵が全裸で復活してた時、どうすれば良いか?


……
………は、葉っぱか?

やはり葉っぱで隠すしかないよな、うん!

伴天連の書物に書かれているという神代の物語の中でも、
蛇に唆されて禁断の知恵の実を食したアダムとイヴは
イチヂクの葉で前を隠したというではないか!

古今東西、全裸のホモサピエンスが前を隠すなら葉っぱだ!
これは人類誕生以来連綿と受け継がれてきた、
伝統と格式に則った由緒正しい隠し方と言えるかもしれない。

それに、この禁断の実を食して罪を負うという話…
蓬莱の薬を飲んで不老不死になった私と輝夜にそっくり瓜二つではないか!

この見事すぎる符合は偶然とは思われない。運命的なものさえ感じる。
これこそ私が今現在置かれている危機的状況を打破する答に相違あるまい!


私は葉っぱを探した。

葉っぱなら…ある。
いくらでもある。山ほどある。
あるにはあるのだが…

私は手近な竹から葉を一枚取って、しげしげと見詰めた。

「…って、隠せるのか?この細長い葉っぱで?!」

私は竹が大好きだ。
真っ直ぐに伸びた立ち姿、青々と茂る葉々、爽やかな香り、何もかもが清清しい。
植物の中で一番好きだと言ってもいいだろう。
だからわざわざこんな所(迷いの竹林)に居を構えてるんだからな。

しかし…こればっかりは断言できる!
横幅に限りのある竹の葉っぱは、今求められている極めて特殊な用途に於いては
正直、フテキセツであると!


他に…他に無いのか?…


……
………ホタテ貝、とか…

…って、あるわけねーだろ!竹林だぞ?竹しかねーよっ!!

あークソっ!今ほど竹を恨めしく思ったことは無い。
…あ、いや、竹に罪はないのだが。


し、仕方ない、試しにこの竹の葉で隠してみるか?

しかし…このプランを実行するには、勇気とか以上に私の中のタマシイ的な何かを
犠牲にする“覚悟”が必要な気がする…

そこで、私はまず頭の中で、竹の葉を使用した場合の完成予想図を思い描いてみた。
こことここにのっけて…あそこにものっけて…


ぽわぽわぽわわ~ん(←想像中)


……
………はぅあ?!

い、いいのかこれ?

いやいや!…これはマズいだろう。
大体、隠れてる面積がこれっぽっちってのがダメだ。作為的な演出めいていてイカン。
何かの極めてマニアックな羞恥プレイにしか見えないだろう。

ぅぐぐ…
葉っぱは、ダメなのか…?

…いや!何もピンポイントで隠す必要はないじゃないか!
わざわざ問題の箇所のみを隠そうとするから、かえってあらぬ方向性に傾いてしまうんだ。
固定観念に囚われるな!人の世は常に質ばかりが問われるとは限らない。
時として質より量が要求されることもある。

そうだよ!つまり、こう…全体的に葉っぱのお布団?で包んでやるようにすれば良いんだよ!
要するに『木の葉隠れの術』ってやつだ!

そうと決まれば行動あるのみ。
私は手当たり次第に竹の葉っぱをむしり取っては、輝夜の身体に積み重ねていった。

無論、そんなことをせずとも足元には長年に渡って堆積した大量の落ち葉があるのだが、
多分に水気を含んでいるので使い物にならない。そんなモノで包んだら風邪をひいてしまうからな。
ここはやはり竹から直接むしり取るしかないのだ。


……
………

程なくして私特製の『葉っぱお布団』?…或いは『木の葉隠れ(隠し)の術』?は完成した。
輝夜は葉っぱの山で全身を覆われ、顔だけがちょこんと出た状態になっている。

…ははっ!こりゃまるで蓑虫みたいだな。

困難な仕事をやり遂げ、私はとても満足していた。
とにかく、これでいつ輝夜が目覚めてもまずは問題あるまい。
爽やかなそよ風も、労働で火照った身体を優しく労ってくれる。

そよそよそよ…

気付けば、周囲の竹はすっかり丸坊主になってしまっていた。
竹林としての美観は損なわれたが…まあ、たまにこうした方が風通しがあって良いだろう。
そういうことにしとこう。


…ん?…風?!

ビュォォォォォォォォォォォォォォォ

「わ!ちょ、待て…ぅわぷっ!」

突然の強風に襲われ、私は葉っぱまみれになった。
葉っぱは袖の中に、襟元から背中に、そして口の中にまで飛び込んできた。ぺっぺっ!

ようやく全てを払い除けて、下を見ると…

ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!!

『木の葉隠しの術』敗れたり?!
全身を覆っていた葉っぱをイタズラなつむじ風に吹き飛ばされ、
輝夜は再びその裸体を惜しげもなく晒していた。

フ、フリダシに戻ってしまった…

がっくりと膝をつく。うぐぐ、また最初からやり直しなのか…?
しかし周辺の竹は既に丸坊主なので、葉っぱを用意するならかなり遠くまで取りにいかねばならない。
それに風だ!また妙なイタズラ心を起こされては堪らない。葉っぱで覆ったらさらに土で重しをするなど、
風で飛ばされないための工夫が必要だ。こりゃ、けっこう時間かかるな…。

そんな事を考えていたら、輝夜が突然ブルブルっと大きく震えた。

「?!」

ついに意識が戻ったのかと一瞬肝を冷やしたが…どうやらまだ…大丈夫?みたいだな。
私としては助かったが、これでも目覚めないとはなんて図々しいヤツだ!

しかしまあ、それ程寒い季節でないとはいえ、全裸ではさすがに肌寒くも感じるに違いない。
ん?よく見たら…なんだこいつ、鳥肌たってるじゃないか?!

…ちなみに、1300年の永き時を生き抜いて獲得した知識と経験からすると、
寒さで震えている子供には、自分が着ている服を脱いで肩にかけてやる…というのが正解だ。

…ちっ、仕方ない。このシャツをかけてやるか。
私はさっきの労働で身体が暖まってるし、幸い下にはサラシも巻いているしな。


……
………あれ?

ってゆうか、最初っからこうすれば良かったんじゃないかーーー!!

まったく私としたことが!
こんな簡単なことに気付かないなんてどうかしてるぞ!

う、所々破れているが…まあ良し!
こいつが(弾幕で)やった事だしな。無いよりましだ。文句は言わせん。
これで全裸の問題も寒さの問題も一挙にかたが付くんだからな。

では早速…
肩からサスペンダーを外し、シャツを脱ぎかけて、ふと視線を下ろした時…

…輝夜と、目が合った。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「きゃあああああああああああああああああああっっっ!!!!」

キィィィィーーーーン!!
絹を引き裂くような悲鳴!しかも鼓膜が弾け飛ぶか?と思うくらいの大音量だ!!

…い、いかん…頭が、クラクラする…だが、根性で持ち直す!
しかし、こいつ何時の間に意識を取り戻してたんだ?!全く気付かなかった!!

「も、妹紅…あ、あなた、まさか?!」
「ちょっと待て!『まさか?』ってなんだ?!私は何もしていない」
「何もしてなくて、どうしてわたしこんな格好なのよ?…しかもあなた、ふ、ふ、服を脱ごうとしてるしっ!」
「いや、これはだな、お前にかけてやろうと…」
「言い訳は聞きたくないわ!わたしが死んでいるのをいいことに、何をしようとしたの?このヘンタイっ!!」

ガーン!ヘ、ヘンタイと言われてしまった…!!

「ま、待て!違う、誤解だ!」
「それ以上近寄らないで!へ、変なことしたら…し、し、舌を噛んで死んでやるんだからっ!!」

いや、お前死なねーだろ。つーか、すぐ復活するだろ。
心の中でツッコむが、もちろん実際にそんな事を言える状況ではない。

「分かった。近付かないから。落ち着け。な?」

完全にパニクってるようなので、刺激を与えないよう距離をとった。

輝夜は未だ足が効かないようで、胸と下腹部を隠して座り込んだまま、
今にも泣き出しそうな顔で辺りをきょろきょろしている。

「わ、わたしのお洋服は?」
「…燃えた。」
「えぇぇ?!なんで?!」
「わ、わざと燃やしたわけじゃないぞ?弾幕で燃えて、お前だけ復活したんだ」
「そ、そんなぁ…」

輝夜はしゅんと俯いて、黙り込んでしまった。
まあ一応、誤解も解けた…よな?

「とにかく落ち着け。ほら、これを着ろ。後向いててやるから」

脱いだシャツを肩にかけてやり、後を向く。
女が着替えているんだから、それぐらいはマナーってもんだ。
…まあ、全裸を見ておいて今更な気もするが。

「………」
「…もういいかー?」

返事がないので恐る恐る振り返る。輝夜は固まったままだ。
せっかくかけてやったシャツに袖を通そうともしない。

「おい輝夜?どうした」
「…わたし、もうお嫁にいけないわ」
「はぁ!?」

いく気だったの?!今更??

「妹紅っ!今『嫁になんかいく気だったのか?』って思ったでしょっ?!(ギロっ)」
「!?(ドキっ)いや、そんなことは思ってないぞ?」

チッ、余計な所でスルドいな、こいつ。

「嘘!」
「いやいやいや!ホント、絶~っ対そんなこと思ってないです。」
「嘘よ!妹紅ってポーカーフェイス気取ってるけど、けっこう本音が顔に出るんだから!!」

ええっ?!そ、そうなのか、私?!

「ほら、その顔!図星って顔よ!!」
「う…」

うむむ…さすがに1300年来の付き合いは伊達ではないということか。

「妹紅のバカっ」
「す、すまん…」
「…えうっ」
「お、おい輝夜…」
「…ぇ、えうっ、えうっ」
「な、泣くなよ…」
「…ぇ、えうっ、ぇええええううううぅぅぅ~~~」

ついに本格的に泣き出してしまった。あああ…


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


輝夜が泣いている。

昔から『泣く子と地頭には勝てぬ』などと言ったもんだが、それどころではない。
泣いてて、姫で、しかもそれが輝夜で、と三拍子揃ったら破壊力が違う。

「ぇえううううぅぅぅ~~、ぇっく、ぇっく」
「ス、スマン…」

輝夜に謝罪するのはちょっとシャクだが、今回ばかりはそうも言ってられない。
決して故意でないとはいえ、直接の原因は間違いなくこの私だ。
例え相手が輝夜だろうとソレはソレ。きっちり侘びを入れるのが筋ってもんだろう。

だが…くっ!
さっきから必死になだめているのだが、一向に泣き止みそうな気配もない。
誰はばかることなく声を上げて無く姿はまるっきり子供のそれだ。
つーか、今時本物の子供でもこんなふうに泣くか?いい年しておかしいだろ?

もはやお手上げだ。…一応筋は通したんだし、義理は果たしたはずだよな?
もう、こっそり帰っちゃおうかな~?と気持ちが揺らがないでもなかったのだが…
チラリと輝夜を見る…

いやいやいや!
この格好だぞ?一人きりにして、もし悪い奴に捕まりでもしてみろ…?
あークソっ!放ったらかしにして帰るわけにいかないではないか!!


ガサガサガサ

どうしたら良いか分からず途方に暮れていると、遠くから竹薮を掻き分ける音が近付いてくる。
こんな時に一体誰かと思えば、この辺りで時々見かける永遠亭の妖怪ウサギだった。

「…姫様?」
「てゐ!」

輝夜は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、妖怪ウサギにしがみついた。

「…姫様、ハダカんぼだ。どうしてそんな格好してるの?」
「えうっ、えうっ、…も、妹紅がね、…妹紅が」

てゐと呼ばれた妖怪ウサギは、その可愛らしくつぶらな瞳でチラリと私を見て…

「…レイプ?」
「!?ち、違う!」

なななな、なんてことを言うんだ?!

「…?じゃあ同意の上??」
「違う!そういう意味じゃない!私は何もやってない」

同意の上も下もあるかっ!!
清純そのものです~みたいな顔をして、このウサ公はトンデモないことを言いやがる!

その上、輝夜まで無駄に元気を取り戻してしまった。

「ほ、ほんとに何もしてないんでしょうねっ?」
「ちょ、お前まで何言い出すんだ?!自分のことだろ?否定しろよっ!!」
「だ、だって…わたし死んでたんだもん。その間に何をされたかなんて分かんないわよ」
「何もされてないっ!つーかしてないっ!!」
「…怪しいよね」
「怪しいわっ」

な、なんだそのジト目は?

「お前らなー!私は女だぞ?女同士で…そ、そんなことするわけないだろっ?!」
「…最近はそういう人も多いらしいよ?」
「わ、わたしも聞いたことあるわっ!…ゆ、百合?とかいうんでしょ?妹紅…あなた、そうなのね?」
「私は違うわっ!!」

クソっ、なにが百合だよ?!
ほとんど永遠亭に引きこもってばっかのくせに、そういう無駄な知識どこで聞いてくるんだよ?


「…じゃあ、実は男の子?」

はぁ?!

「そうよ!そもそも、ほんとに女の子かどうか怪しいわ!わたしは妹紅の身体見たことないんだから」
「ちょ?!女に決まってるだろ?ほら?胸あるだろ?胸っ!」
「そんなのパットかもしれないわ!」
「んなわけねーだろっ!生だ!ナマっ!!」

「…ホルモンのバランスが偏ると、男の子でもそれくらいになるよ?」
「それくらいで悪かったな!成長止まっちゃったんだよ!大きくなる前にっ」
「いいから証拠を見せなさいよっ!」
「うわ!ちょ、ヤメロ!!」

私のサラシを脱がそうと輝夜がメチャクチャするので、つい足払いで投げ飛ばしてしまった。
ドッスーン!
あ、しまった!と気づいた頃には時既に遅し。

「ス、スマン。つい」
「…」
「だ、大丈夫か?」
「…」
「おい輝夜…」

「…ぇうっ」
「わ!ちょ、泣くなって」
「ぇぇええううううえええええええええええぇぇ~~~~~っっっ」

まーたーかーよー


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


夜の迷いの竹林に、再び輝夜の泣き声が盛大に響き渡る。
なんかもうヤケクソ気味な泣き方だ。もはや手がつけられない…

立ち尽くす私の横で、てゐが「やれやれ」といったふうに呟いた。

「…あ~あ、また泣かしちゃったね」

ちくしょう!こっちが泣きたいよっ!

「…ホントに何もしてないの?」
「当たり前だ!天地神明に誓って何もしてないっ!」

私はてゐに事の顛末を説明した。
お互い初めての弾幕だった事、勝負は相打ちに終わった事、輝夜は私の弾幕で焼死した事、
輝夜が復活しても焼けてしまった衣服は復活しなかった事…

「…ふ~ん、そうゆうことだったんだ」
「これは事故なんだ!そうだろ?私は弾幕勝負をしてただけで、まさかこんなことになるなんて…」
「…まあまあ、妹紅さん落ち着いて。これは大問題だよ?」

んなこたぁわかってるよ!
問題じゃない所があるなら教えてほしいぐらいだよ!

「…うちの姫様は一度こうなったら、ご機嫌が直るまで止まらないんだよ」
「お前、なんとかできないのか?」
「…無理だね。…それでだよ?姫様がこのまま永遠亭に帰ったらどうなると思う?」
「ど、どうって…?」
「…この格好だよ?」
「うっ」

…全裸に白シャツ一枚。
しかもそのシャツは所々ビリビリに破れている。
この格好でオイオイ泣きながら帰ったら…

「…悪い人に乱暴されたようにしか見えないよね?」
「ぐぐっ」

まったくだ。私が見てもそう思うだろう、間違いなく。

「ど、どうしたら…?」
「…妹紅さんがなんとかしてなだめるしかないよ。原因は妹紅さんなんだから」

やっぱそれしかないのか?
でも…私に出来るかなあ?…いや、悩んでる場合ではない!

「じ、自信ないが、やるしかないんだよな」
「…とにかくがんばって!私は先に永遠亭に帰って、誤解が無いようみんなに事情を説明しておくから」
「す、すまんな。よろしく頼む」

てゐはニッコリと微笑むと、ピュ~っと帰っていった。ウサギなだけあって足が早い。

何もかも予想外のハプニングでほとほと困り果てていたが、味方してくれるやつがいると思うと心強い。
最初はかなりムカツいたけど、あいつ…意外とイイやつなのかもしれないな。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


意を決して輝夜に対峙する。

あれだけ派手に泣きじゃくってさすがに泣き疲れたのか、
輝夜はムッツリしてしゃがみ込んだままだ。

ううっ、この沈黙が怖い…

「お、おい輝夜…だ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないっ」

あああ…完全にヘソを曲げている。

「帰ろう、な?送っていってやるから」
「…歩けない。おんぶして」
「ええっ?!なんでだよ?もう歩けるだろお前?」
「ヤダ!わたし、裸足でなんて歩いたことないもん!」

ぐぎぎ…こぉ~ンのお姫様めぇ

「わかったよ。ほら」
「ホント?やったぁ!」

輝夜を背負って立ち上がる。
復活したばかりの身体には少々キツい労働だが致し方ない。
輝夜の身体からは…ふんわりと甘い香りがした。

「ふふふ、楽ちん楽ちん」
「まったく…世話の焼けるガキだ」
「?!ガキじゃないもん」
「はいはい」
「分かってな~い!」
「ぁイたっ」

ツネられた…

「も~、ちゃんとレディとして扱ってよね?」
「ったく…分かりましたよ、お・姫・様っ」
「ふふ、よろしい♪」

かー!何がレディだよ?!
さっきまでガキみたいにピーピー泣いてたくせに。レディが聞いて呆れるよ。

永遠亭に向かって歩き出す。ここからだとけっこう距離があるんだよなぁ…
着くまで何を言われるか不安だったが、意外なことに輝夜は大人しかった。
なんだか私の様子を伺いながらモジモジしている。
このモジモジは…あ、そうか!

「どうした?おしっこか?」
「バ、バカ!違うわよ」
「ぃでっ」

またツネられた。
一体なんだっつーんだよ?わけわからん。

「ね、ねえ…お、重たく…ない?」
「バーカ、これくらいなんてことないよ」
「そ、それならいいけど…あの、」
「ん?」
「さ、さっきは…悪かったわね。…取り乱して」

意外に殊勝なことを言う。

「…ま、気持ちは解るから。気にすんな」
「うん…」

そうだよな。殺し合いしてただけなのに、復活したら全裸だもんな。
こいつは筋金入りの箱入りお姫様だし、人前で全裸を晒したことなどなかったに違いない。
まあ、ショックで取り乱すのも無理はないよな、うん。

とにかく、輝夜のご機嫌が直ったようで何よりだ。私もやっと気持ちに余裕が生まれた。
そうなると思い返さずにいられないのが、さっきの弾幕勝負のことだ。

はぁ~、これからどうすりゃいいんだろうなあ?
せっかく最高のおもちゃ(弾幕)を手に入れたと思ったのに、復活する度に全裸ってぇんじゃあ
安心して弾幕勝負なんてやってらんないよ…

私がそんなことを考えていたら、輝夜がやけにつんけんした声で問うてきた。

「…それで?…ど、どうだった?」
「はぁ?何が??」
「『何が?』じゃないわよ、…み、見たんでしょ?わたしのカラダ。…どうだった??」


は?

…な、何ぃーーーーーーーー?!
突然何を言い出すかと思えばっ?!

「み、帝にだって、見せてあげなかったんだからね!」

そんなの知るか!!
なんで私がこいつの…ら、裸体を、ひ、批評せねばならんのだ?!

「ね、ねえ…」

輝夜が背中から身を乗り出して、私の顔を覗き込んでくる。

恐る恐るチラ見すると…ぐぐっ、この顔はマジだ!
滅多なこと言ったら、こいつまた全力で泣きわめくに違いない!

…くっ、こんな事を言うのは、シャク…なんだが…

「き、キレイだった…ぞ」
「ほんと?」
「あ、ああ」
「やだもう…」

グヘっ!そんなにきつく抱きつくな!息ができん。
でも満足してくれたかな?…ふ~う、これでひと安心か?

「…ねぇ、どこがキレイだった?」

えーーー?!その話、まだ引っ張るのかよ?!しかも、質問がよりグタイテキになってるし!
くっそう、せっかく上手くいきかけてるんだ。この調子をキープせねば。

「え、えーと、そ、そうだな…か、髪かな?」
「ええ~?!髪はいつも見てるでしょ~?」

あからさまに不満げな声が返ってきた。

「そうじゃなくって、いつもは見てない所で!」
「え?!」

おい!?ちょっと待てーーーーーー!!

“いつも見てる所”じゃダメなのかよ?!
だ、だって“いつも見えてない所”ってのは、そりゃつまり“見ちゃイケナイ所”なワケで…
って、いや、見ちゃったんだけど…あ、だから聞いてんだよな。ナルホド納得、納得…

…って、納得してる場合じゃねーよ!
そ、そんなの言うのかよ?言わせるのかよ?!


…い、“いつも見えてない所”…

もわわ~ん(←回想中)

ひっ!?
無理無理無理!言えるわけないって、絶ぇ~対っ無理っ!!


「ねぇ、どうしたのぉ?」
「へ?…あ、おう!なんでもないぞ」
「だったら早くぅ」

うわー!焦らせないでくれよーーー!!

「え、えーとだな…」

お、落ち着け私!こんな時こそ深呼吸だ。スースーハー

…あ、そうか!“いつも見えてない所”といっても、
女の子のナイショでヒミツな部位に限ったわけではない!

「は、肌が…キレイだった。すごく白くて!」
「でっしょー?わたしね、昔っから色白なんだ」

よし!とおぉぉーーーーーーーし!!

「ねぇ、他には?」

ぶごふっ!まだ言えっつーのかよ?!

あ、慌てるな。落ち着いて思い出せ!
輝夜のキレイなところ、輝夜のキレイなところ…


……
………ぅぐっ!!

ダメダメっ!
禁止!エッチな想像禁止!エッチなところ以外っ!!

えーと、えーと…

「…へ、へそ。」
「え~?!おへそ?!」
「お、おう!」
「そんな所キレイとかあるの??」
「バッカ、お前のへそはちょーカワイイんだよ!な、なんつーか、慎ましやかで…気品があって?」
「そっか~、妹紅って変わった所チェックしてるんだね」

あぁ、何とでも言え!コンチクショー!

「他には?」

あぁぁぁ、それは言わないで~(涙)


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


なんでこんな展開になってしまったんだ…

輝夜の機嫌も直って、あとは永遠亭に送り届ければミッション・コンプリートだと思っていたのに、
今となっては私の返答次第でいつ爆発してもおかしくない爆弾を背負っているようなものだ。

…大体!なんで私が輝夜のキレイな所を列挙してやらねばならんのだ?!
しかも“普段は見えてない所”限定って、そんなのポンポン言えるわけねーだろ!!

「ねぇってば、他は?」

だがワガママ姫様はさらなる賞賛の言葉をご所望だ…

「え、えーと、さ、鎖骨…」
「さ、鎖骨ぅ??」
「…の、くぼみ。」
「えええ~?!鎖骨のくぼみぃ?!そんなの何処がキレイなのぉ??」

せっかく褒めてやってるのに、輝夜は明らかに納得いかない様子だ。
私とて、有形無形の縛りの中から、散々な苦労の末にキレイな所をひねり出しているのだ。
ここで負けるワケにはいかない!

「お前は解ってない!鎖骨のくぼみが描く甘やかな曲線の官能美をっ!!」
「ワカンナイよそんなの」
「いいか、よく聴けよ?鎖骨のくぼみってのはだな、女性が生来持つ極めて本能的な美を…」
「んもー!妹紅のバカっ!!」

ゴリ押しで語りに入ろうと企てたのだが、輝夜のヒステリックな声に遮られた。

「どうしてそう女心が解らないの?女の子の身体を見たんだよ?もっと他に言うべき所があるでしょっ?」

!?
ぎゃーっっ!キターーーーーーーーーーー!!

つ、ついに言われてしまったっ!!
そこだけはなんとしても回避したかったのだが…!

「バ、バッカお前、そ、そんな所、い、言えるワケないだろ?」
「…見たくせに」
「う…」
「わたしのカラダ見たくせにぃ!」
「いや、しかし、その…」

「…ぇっく」
「わーーー!待て、泣くな!!わかった、言う!言うから!!」

あわわわ、踏み込めってか?!禁断の領域に?踏み込んじゃうの~?!
しかし…あれを言われてしまった以上、もはや万事休すだ。チェックメイトだ。
勝負は決した。

…私は、覚悟を決めた。

「む、胸とか…」
「胸?」
「ああ」
「あの、でも…ちょっと小さく…ない?」

んあーー!知るか!!…いやいや、我慢だ、我慢。

「そ、そんなことないと思うぞ?」
「ほんと?」
「あ、ああ。えっと…なんかこう…女の子らしいっていうか、」
「そ、そう?」
「お、おう、形が、良くて…」
「うん」
「…や、柔らかそうで。」
「!?」

背中を通して、輝夜がビクっと身を固くするのが分かった。
そして間髪入れずに…

「も、もぅ…バカバカっ!…妹紅のエッチぃ!!」

ポカポカとロボコンパンチ(弱)の連打がきた。

ブチっ!!

…今、額の血管がキレる音がした。
コ・ロ・シ・タ・イ!
今すぐこいつを殺してやりたい~~!!でもそういうわけにもいかない~~~(涙)

湧き上がる殺意と、それを100万倍上回る恥ずかしさで、もう何がなんだかワカランくらい
葛藤している私の気持ちなど少しも知らず、当の輝夜はすっかりご機嫌だ。

「うふふ。…ありがと」
「あ、いや」

…とにかく落ち着こう。深呼吸だ。ヒーヒーフー
機嫌が直ってひと安心だ。これでいいんだ。よくやった私!

「妹紅って…わたしのこと、すっごく解ってくれてたんだね」
「あ、いや…ははは」

ってゆうか、よくやり過ぎて懐かれてしまったような気もするが…

「で、でも…色々気付いてくれてるのは嬉しいけど…おへそとか鎖骨とか、妹紅ってちょっとマニアックだよ」

マ、マニアック呼ばわりされてしまった…!

「あ、あのね?妹紅もね…この白い髪、」
「?私の髪がどうかしたか?」
「カブキみたいでとってもクールよ?」

えっ?!…か、歌舞伎?!

「ほらこうやってぇ…グルングルン回すの。ね?すっごいクール!」

髪をぐるぐる回すって…
そりゃもしかして『連獅子』とかでやる“髪振り”のことか?!

「あ、ああ。…ありがとな」

か、歌舞伎かよ…それ褒めてるのか?もしかしてお礼のつもり??
嬉しくない。ちっとも嬉しくないよ…

「あはは~♪グルン、グル~ン!」

楽しそうに人の髪をグルグル回している輝夜を背負って歩きながら、
私はもはや怒る気力さえ失っていた。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


輝夜は何時の間にやらすやすやと眠っていた。

はぁぁぁぁぁぁ、…や、やっと落ち着いたか!
ここに至るまでが大変だったのなんのって!!

裸足で歩くのがヤダとか言うから、人がおんぶしてやってるというのに、
「どこがキレイ?」が終わった後も、やれ「お話しろ」だの、やれ「歌を歌え」だの、
さんざっぱら我侭の言い放題!

お話?ああ、しましたよ!…恥ずかしかったけど歌も歌ったよ!!
「妹紅、歌ヘタだね」とか言われちゃったよ!こんチクショーーー!!

ちょっと大人しくなったかな?と思ったら、私の髪を引っ張ってケラケラ笑ってるし、
何がしたいんだ?お前は子供かーーーー?!

はあ…一体何やってるんだろう?
なんだか殺し合い以上に身も心もクタクタだよ…


……
………

やっとの思いで竹林を抜けた。

広大な迷いの竹林の最深部、そこだけぽっかりと拓けた空間に、和洋折衷ならぬ
和中華折衷風?の意匠を施した奇妙に新しいバカでかい屋敷がある。永遠亭に到着だ。

ん?門の前に大小二つの人影…ではなく、ウサ影…
もとい、二匹の妖怪ウサギが待ち構えていた。

お、小っこい方はてゐだ。
永遠亭のやつらに事情を説明して、待っていてくれたんだろう。ありがたい。

なにしろ、亭の主(輝夜)がほぼ全裸で送り届けられるという極めて異常な事態だ。
てゐが予め事情説明をしてくれてなかったら、一体どんな騒ぎになっていたことか。

うん、ウサギのくせに気が利く良いヤツだ。あいつにゃ感謝しないとな。

「おーい、輝夜届けにきたぞー」

私はのんきにそう言った。
予想外のハプニングで予想外の労働を強いられたけど、
これでやっと開放されるんだと思えば安心するのも無理ないだろ?

だが、そこでさらに予想外のことが起こったのだ!

「てゐ!姫様をレイプしたという、凶悪な異常性犯罪者はあいつですか?」
「…うん、あいつだよ」

なななな、なんだってぇぇぇええ?!

「き、貴っ様ぁ!何ウソ言ってるんだ」

「…こ、怖い。犯される!鈴仙、早くやっつけて!!」
「任せときなさい!今宵は満月。月の狂気をた~っぷり味わわせてあげますっ!」
「バカ、違う!話を聞けぇ!!」
「問答無用です!」

妖怪ウサギ(大)から異様な妖気が膨れ上がる!

輝夜を背負っているため自由に動きをとれない私は
その紅い瞳が妖しい光を放つのを、まともに見てしまった!
瞬間…グニャリと視界が歪む。

せ、世界が…あ…紅く…染まる…


……
………

紅い…紅い…月のように紅い…
月の光…紅い光…血に飢えた…獰猛な…肉食の光に…蝕まれる…

月にはウサギ。
黄色、オレンジ、緑色。極彩色のウサギたち…
ニヤニヤ笑いながら…鋭い乱杭歯で…私に、喰らい付く…

バリバリ…ボリボリ…ガリガリ…

「ぁぁぁぁぁあああああーーーーーーーっっ!!!!!!」

それは…かなり強烈な、狂い死にだった。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

後編『姫様のハートを射止める程度の能力 ~永遠亭大宴会篇~』につづく
ほとんどの方には初めまして。黒沢と申します。
ちょうど一年前にプチの方でひっそりとデビューしまして、
今作が創想話デビューとなります。
初めての長編という事で、至らぬ点は多々あるかとは思いますが
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
黒沢
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コメント



0.1240簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
こういうドタバタしたノリは嫌いではないですし、結構面白いのですが、もわわ~んなどの過度な擬音、(涙)などの表現は体力を削られますorz
文体もエロゲのテキスト抜き出してきたみたいな感じになってるので、もう少し小説っぽいほうが読みやすいかと。
6.90名前が無い程度の能力削除
気が付いたら殺し合いがラブコメになっていたが、てるもこではいつものことだった。
8.90名前が無い程度の能力削除
少しだらけた感があったけど、てるもこなら仕方ない。
12.60名前が無い程度の能力削除
ちょっとノリについていけない所もあったが、「カブキみたいでクール」にはさすがに耐えられなかったw
16.100名前が無い程度の能力削除
テンポが良くてすらすら読めた
表現がどこか古臭いのも妙にあってたし、何より二人がウブくて可愛かった
次も期待大!