Coolier - 新生・東方創想話

魔界メイド事情

2010/05/31 19:53:25
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「暇ねぇ……人間界に攻め入ろうかしら……?」
「また変な奴らが魔界に攻め込んで来るのは嫌なのでやめてください」
神綺の思い付きを夢子はすぐに却下する。魔界では日常となりつつある風景である。
魔界は今日もくっきりとした明るさを保っている。
神綺が「薄暗いと寂しいじゃない」と言って明るくしたのだ。
その明るさは、思っていた魔界のイメージが完全に崩壊するくらい明るい。昔はもう少し暗かった(それでも結構明るい)のだが、アリスがあちらに出てしまった時ぐらいに今の明るさになった。
「なら、何か楽しい事ないかしらね?」
「魔界神なのですから自覚をもって……」
「でも魔界神って名前ばっかりでやること無いのよねぇ……」
神綺は自分の指を見つめている。細くて綺麗な指だ。
「そう言われましても、ただのメイドである私にはなんとも……」
「立派なメイドさんじゃない。それにメイドだと職業っぽいけど魔界神だと遠回しに無職って言ってる感じしない?」
「…………そんな事無いですよ」
夢子は神綺の方を見ずに言う。
「あっ。夢子ちゃん何よ今の間は?そうだな~って考えてたでしょ?」
「……そんな訳無いじゃないですか……」
「夢子ちゃ~ん?こっち見て~」
神綺は夢子の肩を掴んで揺らす。
「それはともかく……そんなに暇なら、アリスの所に行ってみてはどうです?」
「夢子ちゃん!なんて素敵な名案なの!」
神綺は先程よりも強く夢子を揺する。
「ちょっ……神綺様……」
「お弁当を作っていってあげようかしら?久しぶりだから上手く作れるかしら~?」
「や……やめてくださ……」
神綺が夢子を揺するのがしだいに強くなっていく。
「服はこれで良いかしら?着替えた方が良い?」
「しんきさ……ま、気持ち悪く……なっ……て……」
「夢子ちゃん!私のサイドテールどうかしら?きまってる?アホ毛っぽくない?」
「う……ぇ……苦し……で……す……」
「アリスちゃん元気かしらね~?好きな人とか出来たのかしら?」
「………………」
「あれ?夢子ちゃん?夢子ちゃん!しっかりして~!」
夢子は涙を流しながら気を失っていた。



「全く……酷いですよ。まだ頭がズキズキします……」
「ごめんね夢子ちゃん……」
ベッドで休んで気を取り戻した夢子の横に神綺は申し訳なさそうに座っている。
「私だから良かったものの……アリスにはしないであげて下さいよ?彼女は、魔界人ではなくただの魔法使いなんですから……」
「分かってるわ。じゃあ早速出掛けて来るから夢子ちゃんはここでもう少し休んでて」
「あれ?そういえばここは……」
夢子は周囲を見渡す。見渡すまでもなくすぐにどこだか分かったが。
「まさか……ここは神綺様のベッド?」
「そうよ~」
「失礼しました!今すぐ出ます!」
立ち上がりベッドから出ようとする夢子を神綺は再びベッドの上に倒す。
「私のせいで具合悪くなっちゃったんだからこのくらいはさせて」
「ですが……」
「魔界神めいれーい」
神綺は夢子に向かって細い人差し指を向ける。
「……分かりましたよ。では、魔界の事はこちらで何とかしますから、どうぞ行ってらっしゃいませ。」
「夢子ちゃん。今日は休みで良いわよ」
「そうもいきません。少し休ませて頂いたら仕事に戻らせていただきます」
「ならせめてゆっくり休んでね。ママはいつでも見てるわよ」
そう言い残して神綺は部屋から出ていく。扉が閉まると夢子は静かに息を吐く。
実を言うと、夢子は朝から体調が悪かった。そんな重いものではなく、一日休めば治るくらいのものだった為、多少無理はしているが誰にも言わずにいつも通り仕事をしていた。
神綺にも気付かれていないと思っていたが、どうやらばれていたようだ。
神綺の好意をありがたく受け取り、夢子は枕に頭を乗せる。
当然だが、神綺の匂いがする。
夢子は神綺と一緒に寝ていた頃を思い出した。
懐かしさで胸がいっぱいになり、仕事はもういいかなと思ってもいた。
昔の記憶が蘇る。神綺の今と変わらない優しい声が。
「夢子ちゃん、寒くない?」
「うん。ママ……大丈夫……」
声が出たことにも気付かず、夢子は眠りについた。



「夢子ちゃ~ん」
「ん……あ、あ。はい神綺様!すみません!寝てしまいました!」
目を擦り上半身を起こすと、辺りはもう真っ暗だった。
「もうこんなに暗く……。申し訳ありません……」
「いいのよ。夢子ちゃん今日具合悪かったでしょ?夢子ちゃんの仕事は他の子に任せておいたから今日はもう寝なさい」
「……神綺様。とてもありがたいのですが、何故私の隣で寝ているのでしょう……?」
神綺は夢子の隣で微笑みながら寝転んでいる。
その服装は完全に就寝態勢に入っており、服はパジャマに着替え、髪は一つにまとめている。簡単に言えば、サイドテールのボリュームが日中よりアップしている。
「だって私の部屋だもの」
「そうでしたね……。では、失礼します」
夢子が立ち上がろうとすると、スカートの裾を神綺に捕まれる。
「神綺様、まだ何か?」
「今日はママと一緒に寝ましょうよ」
「…………」
「およよ?ノーコメントは辛いわ……」
神綺は両手で顔を覆い、泣く真似をする。
「急に何を言い出すんですか……。」
夢子はスカートの裾を掴む神綺の手を離そうとするが、なかなか離さない。
「久しぶりに夢子ちゃんの寝顔見ちゃったらママ、ムラムラ……じゃないわ母性本能が……」
「……寒気がするので結構です」
「冗談よ。ムラムラしてないから。ほーら、まだ具合良くないんでしょ?」
夢子は諦めたように神綺の隣に座る。
「……神綺様には敵いません」
「当たり前じゃない。娘がママに勝てると思う?可愛い娘の事は全部お見通しよ」
神綺がウィンクをする。
「あ、そういえば夢子ちゃん。まだウィンク出来ないの?」
「はい……。出来ません……」
「あんなに練習したのにねー」
小さい頃からウィンクが出来なかった夢子は、毎日寝る前に神綺と練習していた。ちなみにまだ続けているのは内緒だ。これだけは神綺にばれていない。
「今も続けて立派立派」
ばれていた。
「神綺様は……なんで私の事なんでも知ってるんですか……?」
なんて答えが返ってくるか、だいだい予想はついた。
「だってママだもの」
やっぱりだ。
でも、『魔界神』ではなく『ママ』と言う所が神綺らしい。
「そうですね。ママですものね」
夢子は神綺の横に倒れる。
「夢子ちゃん……珍しく素直ねえ」
「私は疲れてるんです。」
「疲れてるならしょうがないわね。」
神綺は夢子の頬に優しく触れる。
「相変わらず柔らかいほっぺたね。ちっちゃい時と変わらない」
「そうやって……いつまでも子供扱いするんですね……」
「何回も言うけど、私は夢子ちゃんのママなのよ」
神綺はそう言って夢子の頬を引っ張る。
「びよーん」
「痛いです……痛いです……」
「反応がイマイチね……。さっきまで寝てたのにもうおねむさんかしら?よっぽど疲れが溜まっていたのね」
神綺は頬を引っ張る強さを強くする。
「痛い……ママ、痛い……」
「!……夢子ちゃん……ママなんて何年ぶりかしら……」
神綺は嬉しそうに頬を引っ張るのを止める。
「ママ……寒い……」
夢子は小さな声でぼそぼそと呟く。
その夢子に神綺は優しく掛け布団をかける。
「あったかい……」
「これ以上、体調悪くしないようにね」
「うん……ママ……」
夢子は神綺の胸にうずくまる。
「おやすみ……」
「はい、おやすみなさ~い」
夢子はすぐに寝息をたてる。
その夢子を見つめながら神綺は微笑んでいた。
「……夢子ちゃんもいつの間にかこんなに大きくなったのね……」
神綺はそう言いながら夢子の胸を見ている。
「もしかして私より……?いや、そんなはず……」
神綺はぶつぶつ呟いていたが、やがて寝ている夢子の胸を触りはじめた。
「悔しいけど……私より大きいわね……」
神綺は一人でもうなだれる。
「アリスちゃんも大きくなってたし、もちろん身長よ?胸はそんなに……って私は誰に言ってるのかしら?」
独り言にしては大きい声で神綺は喋っている。
「……そこに誰かいるわね。出てらっしゃい」
神綺は扉の方に視線を向けて言い放つが、誰も現れない。
「誰もいないのに適当に言ったしね……出てくる訳ないか」
夢子が起きていない為、異様に空回りする神綺だった。
「ママ……うるさい……」



どうしましょう……。
私は朝から恥ずかしさで真っ赤になった顔を両手で覆っていた。
昨日は具合が悪かったとはいえ、神綺様に甘え過ぎた……。
夢だと思いママ、ママと連呼していたが、冷静になってみればあれは夢じゃない。現実だ。
本来なら部屋から走って立ち去りたい所だが、そうもいかない。
神綺様が私に抱き着いて寝ているからだ。
しかも力が強く、解けない。神綺様を起こそうとしても、起きない。よって脱出は不可能だ。
時間が経っても恥ずかしさは消えず、それどころか増してるような気もする。
気の持ちようなのだろうが、どんな気持ちになればいいのかは分からなかった。
「ん……うふふ……夢子ちゃんったらぁ……」
神綺様がにやにやしながら寝言を漏らす。
「ママと一緒に寝たいの……?しょうがないわねぇ……」
神綺様の夢の中の私。冷静になって。早まらないで。
「朝ごはん……?……サラダはいらないわぁ……ハンバーグ……そう……ハンバーグ……ハンバーグがいいわ……ハンバーグハンバーグ……」
というか、
「神綺様。おはようございます」
「あらら、ばれちゃった?」
神綺様はぱっちりと目を開ける。
「いくら神綺様でも、ここまで自己主張の強い寝言は言わないはずです。むしろ言わないで下さい。というか、朝からハンバーグってどれだけハンバーグ好きなんですか?」
「夢子ちゃん絶好調ね。ちなみにハンバーグより夢子ちゃんの方が好きよ」
「………………とにかくですね!まずは離れて下さい!いつまで抱き着いてるんですか!」
私は神綺様から離れようとするが、神綺様はぴったりくっついて離れない。
「いや~、もう少し夢子ちゃんの温もりを~」
「……もう!神綺様!やめてください!」
それでも神綺様は離れようとしない。
「久しぶりなんだしいいじゃない。こんなに長時間夢子ちゃんと密着したのなんて何十年ぶりかしらね~。昔は夢子ちゃんの方から寄ってきてくれたのに……」
「昔の話はやめてくださいよ……」
私が何かを断ったりすると、神綺様は昔の話を始める。
昔の私は……そう、純粋で幼かったのだ。だから、当然……母親に、神綺様に甘えていたりもした……。まだ子供だったのだ。しょうがない。うん、しょうがない。
そんな過去の話をされれば、私に勝ち目は無い。
「ならもう少しこのままね~」
神綺様が抱き着いてくる中で、今日の朝食のメニューを考える。
ハンバーグは無い。いくら魔界神と言えども、朝からハンバーグなんて贅沢は許しません。
だけど、あまりにも食べたい物がある時には、私よりも先に起きて作っている。毎日作っていただけるとありがたいのですが……。、
そんなことを考えながら、朝の大まかなメニューを決定する。
「神綺様……いい加減離れてくれませんか?朝食の準備が出来ません」
「え~?しょうがないわね……」
神綺様は名残惜しそうに私から離れる。
「朝食が出来たらお呼びしますので、それまでお待ち下さい」
「せっかくだし、今日は私も手伝うわよ」
私に続き神綺様も立ち上がる。
「それでしたらご自分で髪を整えて頂いてると助かるのですが……」
神綺様の髪はいつも私が整えている。ただ整えるだけなら構わないのだが、神綺様はサイドテールに異常なまでのこだわりがあり、毎朝セットにとても時間がかかる。
毎回あーでもないこーでもないと言い、何回もやり直してセットするのだが、実際何が違うのか全く分からない。魔界神独特のこだわりというものなのだろうか?
「これは夢子ちゃんにやってもらいたいの」
わがままにしか聞こえないのに嬉しいのはどうしてだろう?
「ずるいですよ……」
「何がかしら?」
そうやって気付かないふりをするのも、ずるい。
「分かってらっしゃるくせに……」
「うふふ」
神綺様は笑うだけだった。
やっぱり私はこの人の子供なんだ。絶対に敵わない。
「……なら、朝食の用意を手伝っていただけますか?」
「もちろんよ」
神綺様の笑顔は凄く眩しい。
私は地上に出た事が無いから分からないが、天から降り注ぐ光もこのぐらい眩しいのだろう。
魔界でその眩しさを、母親によって知ることが出来る私は幸せなのだろうな。
目の前でそそくさと腕まくりをする神綺様を眺める。
そして、心の中で呟いた。
神綺様。
今日の朝食の目玉焼き、神綺様のは黄身を二つにしておきますね。
それが、今の私の精一杯です。
今回は旧作の夢子ちゃ~ん小説を書いてみました。

夢子はなんとなくいじられ役だと思うんです。

書いた理由はそれだけです。

教授の小説も書いてみたいのですがそれはまた次の機会に……


最後まで読んでいただきありがとうございました。
鹿墨
http://haisuinozin.jugem.jp/?PHPSESSID=479d7147dcae8034bf57cd1f3fb0d33f
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コメント



0.1620簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
こういうかわいい夢子さんもありだと思う
5.100奇声を発する程度の能力削除
とっても素敵でした!!
13.90名前が無い程度の能力削除
教授!
期待してます
14.100たびびと。削除
夢子さんがすごく可愛かったです。
次回も期待してます!
21.90名前が無い程度の能力削除
これはあたたかい魔界。
教授!これは期待