「ねえねえ、こんな所で何をしてるの?」
暗闇の中から私がそう声をかけるとその子は大きな悲鳴をあげて逃げて行ってしまった。
「ありゃ、行っちゃった」
そう呟くとまたさっきまでのように夜の空を漂う。今ならまだあの子に追いつけるかもしれないが、今は別に食べたいという気分でもないので追うつもりはなかった。中空を漂いながらとりとめのないことを考え続ける。
(どこに遊びに行こうかな。チルノちゃんはもう寝てるかも。リグル君かミスティの所がいいかな。ミスティといえば、あの鰻屋でよく巫女と一緒に飲んでるのって誰だっけ。そうだ、確かいつか私と弾幕ごっこをした魔法使いだ。あの魔法使いは、私の格好を十進法がどうたらって言ってたけど他の人に見せたらどう言ってくれるかな。さっきのあの子に見せればよかった。そういえばあの子こんな時間に一人で何してたんだろ。リグル君たちにはまた人間を逃がしたって怒られちゃうかも。あいたっ)
漫然と色々なことを考えているといきなり何かに激突した。暗闇を解いて見てみると大きな木が目の前にある。痛みの残る頭を押さえながら、木の少ない方向に行き先を変える。
(まただなあ。この闇の中に何があるのか分かればいいのに)
少し自分の力である暗闇を不便に感じる。それでもこれを解いて散歩をしようとは思わない。今は夜だけど、この中にいたほうがなんとなく気分がいい。今向う先には、リグル君の家もミスティの店もない。でもまあいいかと考えてそっちの方に漂っていく。
(そういえば…)
いつだったかこんな風に夜を散歩している途中に、ある妖怪と話をしたことを思い出した。
(不思議な妖怪だったな。またいつか会えないかな)
そんなことを考えながら、あの時のことを思い出していた。
「あなた名前はなんていうの?」
突然そう声をかけると、その人は変な悲鳴をあげて気絶してしまった。自分が声をかけると、大抵は気絶するか逃げ出してしまう。自分の問いに答えてくれないことがちょっぴり不満だったけど、その人に何かすることもなくまた散歩を続けようとする。
「妖怪なのにその人間を食べないのかしら?」
その妖怪が声をかけてきたのはその時だった。振り返ってみると、傘を持った女性が笑いながらこちらを見ている。私は突然その妖怪があらわれたことに少し驚きながらも、いつものように挨拶をする。
「あなたは食べてもいい妖怪?」
そう言うとその女性は少し驚いたようだった。
「私にそんなことを言うなんて、度胸がある妖怪ね。それとも単に何も考えていないだけなのかしら?まあ、とりあえずは食べられたいとは思っていないわ」
「そーなのかー」
それだけ聞くと私はまた散歩に移ろうとする。そうすると、その女性は、まだ話は終わっていないというように、さっきと同じような質問をしてくる。
「私を食べようとする位なら、そこで気絶している人間を食べたほうがいいんじゃない?なぜ食べようとしないのかしら?」
そう言ってクスクスと笑う。私は質問の意味がよく分らなかった。だけど首をかしげながらもその質問に答えを返す。
「別に今は食べたいとは思っていないから」
「ならなぜ私には食べてもいいか尋ねてきたの?」
そんなことを言われても答えられない。別に理由があるわけじゃない。私がああやって誰かと会った時にかけている言葉は、いつもなんとなく頭に思い浮かんだことを言っているだけ。だからその言葉も理由があったわけじゃなく、その時に頭に浮かんだからだ。
「じゃあ質問を変えるわ。食事をしたい気分じゃないと言ったけれど、今はおなかいっぱいということかしら?」
「ううん、おなかはペコペコ。だから今もミスティの所に行こうと思ってるの」
「おなかが空いているのなら、その人間を食べればいいじゃない?」
またそう聞いてくる。
(そんなにこの人間を食べさせたいのかな?でもやっぱり食べたいとは思わないな)
私はそんなことを思いながら話を続ける
「おなかが空くのと食べたいのとは違うよ。だっておなかが空いてても、チルノちゃんたちを食べたいとは思わないもん。今はその人のことを食べたいとは思わないし、あなたのことも食べたいとは思ってないから」
そう言うと、その女性は何が面白かったのかまたクスクスと笑った。そうしてしばらく笑った後、なんとなくぞっとする目で私を見ながら質問をしてくる。
「ならあなたは食べたいと思ったら、そのチルノちゃんたちも食べちゃうのかしら?」
「わかんない。今まで食べたいなんて思ったことはないから」
本当のことだ。確かにミスティにはたまに食べちゃうということもあるけど、それは友達の中での冗談だ。本気で食べてしまいたいとは思ってない。ミスティの方も冗談だと分かってる。だから自分があの友達を食べている姿は想像できない。でも…
「食べたいと思ったら食べちゃうんじゃないかな?友達だし食べたいなんて思わないとは思うけど。そんなことは想像もつかないし」
そう言うとその女性は私の頭に手を置いた。どうやらリボンを触っているようだった。
「あなたは誰よりも妖怪らしい妖怪ね。天狗の新聞では妖怪失格であるように書いていたけれど、あの天狗ではそれを理解するにはまだ早すぎたようね。あなたは本当に恐ろしい妖怪。あの天狗やあなたの仲間たちなんかとは比べ物にならないくらいに。もしかしたら私よりも妖怪側にいるかもしれない。
あなたは決してこのリボンを取ってはいけないわ。霊夢がもっと成長してくれたら大丈夫かもしれないけれど、今のままではもしかしたら、あなたの本来の力なら博麗の巫女を殺せてしまうかもしれない。それはとてもとても恐ろしいこと。どんな妖怪もできないことを、あなたはやってしまうかもしれない。
この幻想郷を崩壊させたくなかったら、そしてあなたの仲間を守りたければ、このリボンを取らないように注意することよ」
そう言うとその女性は空に穴をあけて、その穴に消えていった。私はよく言われたことが分らなかったけど、チルノちゃんたちがいなくなるのが嫌ならリボンを取ってはいけない、ということだけは頭にとどめておくことにした。足下の男の人がうめき声をあげる。私はその声を聞くと今度こそミスティの店に向かったのだった。
(あれは一体何だったんだろう?)
言われた言葉は私には難しすぎた。このリボンがとれたら、私はあの巫女を食べてしまうということだろうか?でもあの巫女と幻想郷に何の関係があるんだろう?それに今はあの巫女とも仲は結構良いのに。やっぱりあの巫女を食べようとする光景は想像がつかない。
そこまで考えて私は、たまに巫女の機嫌がいいと私に蒲焼を一本おごってくれることを思い出す。一緒にいる魔法使いも弾幕ごっこをした時は怖い人間だと思ったけど、話してみれば意外に優しい人間だった。お腹が空いたときに尋ねて行ったら大量のキノコをくれたこともあった。
(やっぱりミスティの店に行ってみよう。巫女や魔法使いにもあの時の話をしてみようかな。どんな反応をするだろ)
そう考えて方向転換をすると、少し離れた所に女の人が一人歩いている姿が目に入った。私はいつものようにその人間に近付き、いつものように自分がこの人間をどう思うのか確認をする。
「ねえ、あなたは食べてもいい人間?」
暗闇の中から私がそう声をかけるとその子は大きな悲鳴をあげて逃げて行ってしまった。
「ありゃ、行っちゃった」
そう呟くとまたさっきまでのように夜の空を漂う。今ならまだあの子に追いつけるかもしれないが、今は別に食べたいという気分でもないので追うつもりはなかった。中空を漂いながらとりとめのないことを考え続ける。
(どこに遊びに行こうかな。チルノちゃんはもう寝てるかも。リグル君かミスティの所がいいかな。ミスティといえば、あの鰻屋でよく巫女と一緒に飲んでるのって誰だっけ。そうだ、確かいつか私と弾幕ごっこをした魔法使いだ。あの魔法使いは、私の格好を十進法がどうたらって言ってたけど他の人に見せたらどう言ってくれるかな。さっきのあの子に見せればよかった。そういえばあの子こんな時間に一人で何してたんだろ。リグル君たちにはまた人間を逃がしたって怒られちゃうかも。あいたっ)
漫然と色々なことを考えているといきなり何かに激突した。暗闇を解いて見てみると大きな木が目の前にある。痛みの残る頭を押さえながら、木の少ない方向に行き先を変える。
(まただなあ。この闇の中に何があるのか分かればいいのに)
少し自分の力である暗闇を不便に感じる。それでもこれを解いて散歩をしようとは思わない。今は夜だけど、この中にいたほうがなんとなく気分がいい。今向う先には、リグル君の家もミスティの店もない。でもまあいいかと考えてそっちの方に漂っていく。
(そういえば…)
いつだったかこんな風に夜を散歩している途中に、ある妖怪と話をしたことを思い出した。
(不思議な妖怪だったな。またいつか会えないかな)
そんなことを考えながら、あの時のことを思い出していた。
「あなた名前はなんていうの?」
突然そう声をかけると、その人は変な悲鳴をあげて気絶してしまった。自分が声をかけると、大抵は気絶するか逃げ出してしまう。自分の問いに答えてくれないことがちょっぴり不満だったけど、その人に何かすることもなくまた散歩を続けようとする。
「妖怪なのにその人間を食べないのかしら?」
その妖怪が声をかけてきたのはその時だった。振り返ってみると、傘を持った女性が笑いながらこちらを見ている。私は突然その妖怪があらわれたことに少し驚きながらも、いつものように挨拶をする。
「あなたは食べてもいい妖怪?」
そう言うとその女性は少し驚いたようだった。
「私にそんなことを言うなんて、度胸がある妖怪ね。それとも単に何も考えていないだけなのかしら?まあ、とりあえずは食べられたいとは思っていないわ」
「そーなのかー」
それだけ聞くと私はまた散歩に移ろうとする。そうすると、その女性は、まだ話は終わっていないというように、さっきと同じような質問をしてくる。
「私を食べようとする位なら、そこで気絶している人間を食べたほうがいいんじゃない?なぜ食べようとしないのかしら?」
そう言ってクスクスと笑う。私は質問の意味がよく分らなかった。だけど首をかしげながらもその質問に答えを返す。
「別に今は食べたいとは思っていないから」
「ならなぜ私には食べてもいいか尋ねてきたの?」
そんなことを言われても答えられない。別に理由があるわけじゃない。私がああやって誰かと会った時にかけている言葉は、いつもなんとなく頭に思い浮かんだことを言っているだけ。だからその言葉も理由があったわけじゃなく、その時に頭に浮かんだからだ。
「じゃあ質問を変えるわ。食事をしたい気分じゃないと言ったけれど、今はおなかいっぱいということかしら?」
「ううん、おなかはペコペコ。だから今もミスティの所に行こうと思ってるの」
「おなかが空いているのなら、その人間を食べればいいじゃない?」
またそう聞いてくる。
(そんなにこの人間を食べさせたいのかな?でもやっぱり食べたいとは思わないな)
私はそんなことを思いながら話を続ける
「おなかが空くのと食べたいのとは違うよ。だっておなかが空いてても、チルノちゃんたちを食べたいとは思わないもん。今はその人のことを食べたいとは思わないし、あなたのことも食べたいとは思ってないから」
そう言うと、その女性は何が面白かったのかまたクスクスと笑った。そうしてしばらく笑った後、なんとなくぞっとする目で私を見ながら質問をしてくる。
「ならあなたは食べたいと思ったら、そのチルノちゃんたちも食べちゃうのかしら?」
「わかんない。今まで食べたいなんて思ったことはないから」
本当のことだ。確かにミスティにはたまに食べちゃうということもあるけど、それは友達の中での冗談だ。本気で食べてしまいたいとは思ってない。ミスティの方も冗談だと分かってる。だから自分があの友達を食べている姿は想像できない。でも…
「食べたいと思ったら食べちゃうんじゃないかな?友達だし食べたいなんて思わないとは思うけど。そんなことは想像もつかないし」
そう言うとその女性は私の頭に手を置いた。どうやらリボンを触っているようだった。
「あなたは誰よりも妖怪らしい妖怪ね。天狗の新聞では妖怪失格であるように書いていたけれど、あの天狗ではそれを理解するにはまだ早すぎたようね。あなたは本当に恐ろしい妖怪。あの天狗やあなたの仲間たちなんかとは比べ物にならないくらいに。もしかしたら私よりも妖怪側にいるかもしれない。
あなたは決してこのリボンを取ってはいけないわ。霊夢がもっと成長してくれたら大丈夫かもしれないけれど、今のままではもしかしたら、あなたの本来の力なら博麗の巫女を殺せてしまうかもしれない。それはとてもとても恐ろしいこと。どんな妖怪もできないことを、あなたはやってしまうかもしれない。
この幻想郷を崩壊させたくなかったら、そしてあなたの仲間を守りたければ、このリボンを取らないように注意することよ」
そう言うとその女性は空に穴をあけて、その穴に消えていった。私はよく言われたことが分らなかったけど、チルノちゃんたちがいなくなるのが嫌ならリボンを取ってはいけない、ということだけは頭にとどめておくことにした。足下の男の人がうめき声をあげる。私はその声を聞くと今度こそミスティの店に向かったのだった。
(あれは一体何だったんだろう?)
言われた言葉は私には難しすぎた。このリボンがとれたら、私はあの巫女を食べてしまうということだろうか?でもあの巫女と幻想郷に何の関係があるんだろう?それに今はあの巫女とも仲は結構良いのに。やっぱりあの巫女を食べようとする光景は想像がつかない。
そこまで考えて私は、たまに巫女の機嫌がいいと私に蒲焼を一本おごってくれることを思い出す。一緒にいる魔法使いも弾幕ごっこをした時は怖い人間だと思ったけど、話してみれば意外に優しい人間だった。お腹が空いたときに尋ねて行ったら大量のキノコをくれたこともあった。
(やっぱりミスティの店に行ってみよう。巫女や魔法使いにもあの時の話をしてみようかな。どんな反応をするだろ)
そう考えて方向転換をすると、少し離れた所に女の人が一人歩いている姿が目に入った。私はいつものようにその人間に近付き、いつものように自分がこの人間をどう思うのか確認をする。
「ねえ、あなたは食べてもいい人間?」
友達だから食べないけど友達さえも食べ物とみなす。
ルーミアのマイペースっぷりにそんな解釈があったとは。
幽香だと思ったら紫でしたか!
「ああ、紫か」と納得しました
ルーミアって、確かにこんな感じでしょうね
リボン(お札)が取れたらどうなるのでしょうか・・・
まさに紫の言うとおり、これが妖怪のスタンスなのかもしれない。