オリキャラが居ます、それでも宜しければお願いします。
「アリス、久しぶりね」掃き掃除の手を止めて、気だるそうに見上げ声をかける。
「相変わらずね、霊夢」
「平和でもすることが無くならないのは憂鬱だわ」
「掃除くらいで憂鬱とか言ってるようじゃ修行不足もいい所ね」
「まあいいわ、上がっていくでしょ、お茶くらいは出すわよ」
今日も幻想郷は大きな異変もなくゆったりと時は過ぎてゆく。
「あなたがここに来てだいぶ経つけど、ここの生活は慣れたかしら?」
「ええ、研究しやすい良い環境ね」
「それはなにより、まぁがんばってね」
「他人事ね、実際そうだけど」そう呟くとお茶に口をつける。
「実際、他人事だもん」そう言いながら上海を見る。
「やり遂げないといけない、私はそう思うの」
そう言ったアリスの隣で上海人形は日の光を受け、気持ちよさそうに空を見上げている。
以前、魔理沙が自分で動かしているなんて物凄く嘘くさいと言って居たが上海を見る限り
霊夢も同じような感想を持つ、魂が宿っていると思うほどに。
「アリス、上海って、まるで生きて居るみたいよね」
「……そうね、生きてるわよ」そう言うと上海の髪を撫でながら霊夢を見る。
「へぇ、そういえば上海の誕生ってどんなだったのかしら?」
「隠すほどの事じゃないけど、長いわよ?」
「どうせ暇だし、聞いてあげるわよ」珍しく興味を示す。
「あれは私が幻想郷に着いたばかりの頃になるかしらね」
霊夢らがアリスと初めて戦い、アリスが幻想郷にたどり着く切っ掛けとなった出来事。
魔界で2体の妖精と共に戦い、撃墜された事により禁忌の力を使う事となる
最も強力な力……Grimoire of Alice、この事がアリスの中に眠る力を暴走させて行く。
戦いが終わり、魔界への侵略者が去るとアリスはその後を追うように魔界を去り、幻想郷にたどり着く。
「その後再び私に会った時、あなた、どう見ても別人……というより、成長しすぎでしょう?」
「その間が今から話す重要な事なのよ……長いって言ったでしょう、短気ね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アリスは幻想郷にたどり着いた時、偶然の悪戯か深い森の一軒家を見つける。
「こんなじめじめとした暗い所に住むなんて、どんな人なのかしらね?」
なぜか興味を惹かれその家に近づき中を覗いてみる。
「ほれ、お前達それは2階に……、お前は外掃除を頼もうかの」
なんと見たこともない人形が老婆の指示で忙しなく動いているのが見える。
呆気に取られているとドアが開き箒を持った人形がトコトコと出てくる。
「あ、あなた何なの?」
思わず話しかけてしまった事に戸惑うも返答を待って見つめる。
しかし人形は意を返さず作業に入る。
……
…………
「誰かね? そこに居るのは」
アリスは今目の前で起こる事態について躊躇わず尋ねる。
「これは小さいお客じゃの……まぁ、あがって行きなさい」
「む……、じゃ……じゃぁお邪魔します」
アリスは数体の人形が黙々と作業する家に好奇心と不安の入り混じった表情を浮かべながら入る。
「あの子、なんなの? どうやって動いてるの?」
「元気なお嬢さんじゃな、見かけたことはない子じゃが迷ったのかの?」
「違うわよ……! って、そんな事はいいから教えてよ」
「そうじゃの……あの子達はワシの魔法で動いておるのじゃよ、4体が限界じゃがな」
「魔法? そう言えば……あの子から僅かにあなたと同じ力を感じたのはそれね」
「ほう? お嬢ちゃんは解るのかの?」老婆は僅かに表情を変えアリスを見据える。
「ええ、私は魔法を使えるのよ……これを見てよ」
Grimoire of Aliceを得意げに老婆の前に差し出す。
「お嬢……この本の力、おぬし解っておるのかの?」
「もちろんよ、最強の力なんだから!」
「ふむ……お嬢、その力使っておるな……何もまだ起きておらぬらしいが……」さらに表情を変える。
「……な、何なのよ……何も起きてないわよ」
「お嬢、ワシの所でしばらく魔法の勉強をしては行かぬか?」
(どこにもまだあてが無いのよね……ここであの人形魔法を手にするのも良いかも)
「うん、どうしてもって言うならちょっと勉強させて貰うわ」
「そうかそうか、あの魔法はおぬしには今後必須かも知れんしな、がんばるのじゃぞ」
アリスは自分の身に降りかかっている危険にまだ気がついていない。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「そんな事がねぇ……そこで魔法を覚えた訳ね」
「だから、そこからが長いのよ……本当にせっかちな巫女ね」
「はいはい、で、そこからどうなったのよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~
この森の家での生活を始めて数日が経ち老婆より魔法の媒体たる人形の作成を指示された。
「よいか? おぬしの分身たるこの魔法はその媒体をおぬし自身で作らねばならぬ」
「人形を作るのね? 私の起用さ見せて上げるわ!!」
「器用なだけでは駄目じゃ、おぬしの心を写しおぬしと共にある分身を作らねばならぬ」
「ふむ……解ったわよ、私の全身全霊を懸けて作り上げて見せるわよ」
「よろしい、出来たら魔法の勉強に入るからの……良き物を作り上げるのを待っておるぞ」
……
…………
………………
それから更に数週が経ち、アリスは一体の人形を作り上げる事が出来た。
「この子、どうかしら?」
金髪にリボンを結わえた愛らしい少女の人形をアリスは自信を持って老婆に見せる。
「ほほう、これは見た目も見事ながらその器も見事じゃ……よく出来たの」
笑顔でアリスの頭を撫でながら人形を返す。
「と、当然よ! 私が本気で作ったんだから」照れながらも嬉しそうに言葉を返す。
「さて、おぬしが作ったその人形に今から言う法印を組み込むのじゃがこの人形はそれだけでいかん」
「どういう事?」
「この人形には魔力を共有ではなく、おぬしの力の多くを与えもう一人の自分とするのじゃ」
「……え? そんな事したら私が弱くなるじゃないの」
「問題ない……というより、おぬしの体がその力に耐えられなくなる前に力を分散できる器が居るのじゃよ」
「力って何? あの魔法書を見せた時に言ってたけど……」
「うむ……あの魔法書はな、おぬしの為に作られておりそれ自体は問題ない……が」
「がって何よ……聞かせて」
「早すぎた……と言うべきなのじゃ、あれはもっとおぬしの体が成長し魔力の流れを操れるようになって
その時、封を解くべきだったのじゃ……魔法書の力がここ数日さらに強くなっておる」
「でも、私は何も起きてないのよ」
「恐らく、まだおぬしの器を越えておらんのだろう……大した物だが、それも何時超えてもおかしくない訳じゃ」
「それで、この子に魔力を逃がし私の器を増やす……と言う訳ね?」
「そうじゃ、よほどいい出来なのじゃろう、この人形はかなりの器を持って生まれたようじゃ」
「そうよ……私の最高傑作、上海なんだから」
「ほう、名前も与えておったのじゃな……それに答えたと言う訳かの……良い子じゃな」
「うん、良い子よ」
人形、いや上海に法印を施すと輝き一瞬アリスに微笑みかけたように見えた。
だが、その後は魔力の流れは感じる物のまったく動かない。
「……どういうことかしら?」
「ふむ……やはりおぬしにはまだこの魔法は扱いきれないのやもしれぬな」
「魔力は確かにこの子に流れているのが解るのよ、使えてないわけじゃ……」
「ワシもここにある人形達に魔力を込め、ある程度の自立させるにはかなりの時が掛かったのじゃ
まだ幼いおぬしにはまだその域には辿り付けてないじゃろう」
「……ふん! こんなのすぐに完成させてやるんだから!!」
「……そうじゃな……素質は素晴らしい物があるのは解る、だが焦らぬ事じゃな
……ひとまずこの道具で操ってみる事から始めるかの」
老婆は数個の指輪をアリスに渡してきた。
「……これは?」
「指にはめて上海に魔力を送るイメージを浮かべるのじゃ」
まだ良く解らないが言われた通り集中してみると……
上海が宙に浮くとたどたどしいが操れている事に気づく。
「これならあっという間に使いこなせるわ」自信に満ちた目を老婆に向けそう言い放つ。
「それでも、焦ってはならぬぞ」
しかし、大いなる力は止まる事をしない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「上海の誕生、そして自画自賛……ね」
「それだけ、この子は特別なのよ」
そう言いながら頭を撫でると、上海は嬉しそうにしているのが感じ取れる。
「……ふ~ん、でここからがその上海との生活と……」
「……そうね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔術を組み大きな魔力の流れ込む人形、上海の操作をアリスは渡された道具によって日々上達していった。
それでも、アリスは老婆のように意思を持たせ言葉、いや……それすら要らない完全な自立する人形を作りたいと
思っていた。
それから数ヶ月が経った時、いよいよ禁断の書が牙を剥く。
「アリス、おぬしも大分上海を操れるようになってきたからの……ワシの人形と軽い実践をしようかの」
「良いわよ、どれだけ使えるようになったか見せてあげるわ……ねぇ、上海」
そう呼びかけに意思を持たない上海が答えたようにアリスは思った。
老婆の操る、いや魔法によって半自立と言える人形が舞うように上海の前に飛び出ると鋭い打撃を打ち込んで来る
。
アリスは上海に魔力を混め、盾をイメージしその打撃を受け流し反撃を試みる。
だが、人形は上海の攻撃を緩やかにかわすと隙をつきその魔力の糸を断ち切る。
上海は文字通り糸の切れた操り人形のようにポトリと落ちる。
「あー、卑怯よ!」アリスは老婆に抗議する。
「卑怯ではないぞ……その道具による操術の弱点こそがこれと後はおぬしじゃよ」
「私?」アリスはきょとんと老婆を見つめる
「操っている間はおぬし、自分の体、思うように動かせるかの?」
老婆は人形を見ながらアリスに問う。
「……あ、無理かも……」
アリスは人形を操る時、上海の動きをよりイメージしやすくするため上海に意識を集中する。
その為、自身に対する意識はほとんど残っていない、これこそが最大の弱点であった。
「そうじゃろ、まぁ……これだけ動かせると言うのはさすがじゃな」
「ふん、当然よ!」
「さて、今日はこれくらいで良いじゃろう……戻ろうかの」
そう言って振り向いた時、アリスの周りの空気がざわめいた。
「ぐぅ……」
アリスは苦しそうにしゃがみ込んでいる。
「アリス!」
近づこうとした時、アリスの傍に浮かび上がる魔術書が光を放つ。
その光を人形がとっさに弾くと別の人形が魔術書に光弾を放つ、だが壁に弾かれるように消滅する。
「まさか、もうアリスの力を超えておるのか……しかしあやつはまだ戻せぬ」
そう呟くと老婆は3体の人形に魔術書からアリスを引き離すように指示する。
しかし、魔術書の力はあまりに巨大で思うように状況が変わらない。
その時、新たな魔力の流れが起こる。
「ア……リ……ス……」
それは糸を断たれ、地に落ちていた上海が今まで込められていた魔力を放出しゆっくりと浮かび上がる姿であった
。
「……ぜぇ、ぜぇ……しゃ……上海、た…助け…て」
自らの危機に秘められていた才が引き上げられたのか、その魂に上海が反応したのか上海はうなずき飛ぶ。
魔術書から放たれる魔力の塊を上海は手に現れた剣と盾で弾き、アリスの下へ飛ぶ。
上海が届くと思われた瞬間、魔術書は防衛の為かアリスを自らの空間に取り込もうとした。
だが、それは成功しない。
その時、老婆の人形が空間に飛び込むとアリスを抱え魔術書から引き離す事に成功したのである。
だがその代償は老婆が払う事となる。
魔力をほとんどこの人形に注いだ為、魔術書の放つ力に耐えられず体が崩壊を起こしていた。
魔術書も大きな力を使った為か今は封が戻り地に落ち、アリスは意識を失い傷だらけの人形に抱えられ眠る。
やがて意識が戻ったアリスは老婆の最後を看取ることとなる。
「……嘘でしょう、ねえ、まだ教えられてない事ばかりじゃない!」
涙をぬぐう事も忘れ叫ぶ。
「……そうだねぇ……でも、今まで教えた事がこの魔法の基本であり、全てなのじゃよ……」
「……まだだよ! ……私、まだ使えてない……教えてよ……ねぇ……」
「それより……、今から言う事をよく聞くのじゃ……」
「…………」
「ワシが死ねばこの子達もやがて魔力が尽き眠るように動かなくなる、実はワシの最後の人形がある魔物を封じて
おる
今ならその人形におぬしの魔力を込め魔物を倒し、さらに魔術書の力をかなり抑えられやもしれぬ」
「……うん」
「本当はもっとおぬしが操術を身に着けてから会わせたかったがもはや時間が足りぬ
その人形に会うのじゃ……名はキャロル、唯一名を与えた人形じゃ」
「……解った」
「案内はワシの人形がしてくれる、短い間であったが楽しかった……さらばじゃな」
老婆は最後にアリスに言葉をかけると静かに息を引き取った。
「うっぅ……うわぁあああ…………」
残された人形達は静かにアリスを見つめ、眠るように息を引き取った主人の言葉を待っている。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「……ちょっと、アリス……」
「……え?」
「気づいてないの? ……ほら」
ハンカチを無言で渡してくる。
「……あ……ありがとう」
話している間に自然と涙が溢れていたようだ。
上海もアリスと同じように悲しげな雰囲気を感じさせていた。
「……さぁ、続き聞かせてもらうわよ」
「……うん」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「……待っててね、必ずキャロルに会って、無事に戻ってくるから」
アリスは案内を指示された人形の手を取ると着いてくるようにと言うかのようにこちらを見る。
しばらく飛んでいくと洞窟の入り口に降り立つ。
「ここにキャロルがいるというのね?」
質問には答えない、主人でなければこの人形達は何も行動をしないのだろうか。
「まぁ、いいわ……あなたはここで待ちなさい、おばあさんの願いは叶えるから」
そう言った時、人形が答えたような気がして振り返る。
その表情は変わらない、だがアリスにはなんとなく解る物があった。
しばらく進むと外から見たよりもずっと大きな空間が広がっていた、そして不自然な明るさが目を引いた。
そこに佇む柱とその傍にその柱を見つめる人形、キャロルがアリスに目線を移す。
その姿は真っ赤なドレスを着た女性の姿をしている。
「あなたがキャロルね……初めまして、かしらね?」
「直接では初めまして……あなたがアリスね」
その人形は今まであの家で接してきた人形とは違い、まるで生きているような印象を受ける
「話せるとは、驚いたわ……おばあさん、一体何者なのかしらね……今更だけど」
「マスターからここに来た時の指示は受けています、そしてマスターがお亡くなりになった事も」
恐らく、人形達で情報を共有しているのだろうとアリスは思った。
「時間もありません、私の使命、それを完遂する為にあなたの力お借りしてよろしいですか?」
「……情報を知っているなら、この力があなたの主人を殺した事も解って居るのでしょう」
「……力は正しく使えば良いのです、マスターは望んでその力の道を示したのです」
「そう……解ったわ、この力と私達で封じられた魔物を完全に倒して、望みを叶える」
アリスは法印を組み、キャロルに力を注ぐ。
魔法書の力によって限界まで力を得たキャロルが封印を破壊する。
現れたものはアリスの持つ魔法書と似たような、いや、むしろもっと禍々しさを放つ魔法書だった。
「アリス、この魔法書こそ、マスターが手に入れ、必死に封じた悪意の塊です」
「キャロル! この力……勝てるの?」
恐怖に足がすくむのを必死に耐え問う。
「私は勝て……無いでしょう、ね」
アリスに視線だけを一度移したのち書を見据え答える。
そうこうしてる間にも封を解かれた書は力を取り戻してゆく。
「え? どういうことよ?」
「マスターは私にあの書に対する破壊属性を付けてくださいました、ですがそれは多くの魔力を使う
だけではないのです」
「私の魂その物があの書物を破壊できるのです、マスターはこうおっしゃっていたはず
操術をしっかり身に付けさせたかった、と」
「あなたの魂と多くの魔力をあわせあの魔法書に取り込ませることが破壊条件と?」
「そうです、マスターはあなたを見たとき、きっとこの書物を壊せるだけの魔力を秘めていると感じました
ですがその源たる魔法書はあなたに扱い切れなかった……そこであなたの資質を見抜いた上で訓練を課した」
「そんな……あばあさんがあなたを犠牲にするだけしか考えてないはずはない」
「ええ、もしあなたが力を扱え、操術を使えるなら力で対抗できたでしょうが、その時間はないのです」
「そんなの私は嫌! もう何も犠牲にしたくない!!」
「……優しいのですね、そんなあなただから私も頼みたいのです、私を使ってあの書を破壊してください
私はどちらにしても、マスターの居ない以上この魂もやがて消えていくでしょう」
「そんな……」
アリスにもそれは解っていた、老婆よりそれは言われていたのだから……だが、この人形は魂がある
いや、案内してくれた人形にも今家で指示を待つ人形にも魂、心というべきものがある。
それを犠牲になどしたくない。
だが、目の前で封を解かれた書は今の未熟なアリスではどうする事もできない、キャロルの心を武器に戦うしかな
い……
「アリス!! もう迷っている暇はありません」
書はいよいよその力のほとんどを目覚めさせ攻撃態勢に入っている。
「それでもっ!!」
迷い続けるアリスを書は見逃すつもりは無かった。
キャロルより今の力が弱いアリスを書が狙いを定め光を放つ。
「アリス!!」
アリスを狙った光はキャロルの防壁に阻まれ霧散する、だが、キャロルはこれで勝算がほとんど無くなった事を悟
った。
「アリス、残念ですが……書の力は私達の想像を超えていたようです……もう誰も止められないかもしれない」
「せめて、ここはもう一度私が何とか封印します……一時でしょうが時を稼げます、その間に協力者を募り
私が消えた後目覚めた書を破壊してください」
「そんなことさせないよ……」
アリスは心の中から湧き上がる言葉を口にする。
「上海!! あなたとなら私は戦える!!」
魔道具によって再び操術を繰り出すと書に向って光弾を放つ。
書はその全ての光弾を弾き、そのお返しとばかりに狙いを定め光を放ち続ける。
上海は次々とそれらを弾く、その戦いをキャロルは意外な物を見るように見続けていたがやがて気を取り直したよ
うにその戦いに参戦する。
「アリス、呆けてました……あなたは急速に成長している、もしかすれば勝てるかもしれない」
だが、実際は時間稼ぎにしかなって居なく隙を突いて封ずる、そうキャロルは考えていた。
「私だって、強くなってるんだ! もう負けたくない!!」
しかし、この戦いの要。
魔法書が再び力を強め、アリスを包む。
「アリス!!」
キャロルも書の攻撃を防ぐのが精一杯でアリスに手を貸せずいよいよ全ての手詰まりかと思われた時、それは起き
る。
「アリス……怖がらない…で、魔法書はあなたを守りたいだけ」
その声は優しくアリスに語り掛ける。
「誰? あなたは魔法書の心?」
「いいえ、違うわ……でも、この魔法書はあなたの為の物、怖がらず心で受け入れて」
「皆が助けられるなら私はどうなっても良い…………魔法書、私に力を貸して!」
アリスがそう心で思うと、魔法書はアリスを暖かな光で包み込み、激しく輝く。
……
…………
「アリス!! これは……」
光が広がり、それが収束した所に立ちあがる人影をキャロルは目を凝らし見つめる。
「キャロル、後は私に任せて!!」
そこには少女ではなく成長し魔法書の力を引き出すことに成功したアリスの姿があった。
「アリス、あなた……なのです、か?」
「そうよ、魔法書の力を完全に引き出せるように体が成長したけど……私よ」
魔法書より発せられる力はとても安定し、アリスの力となっていることがキャロルには解った。
「後は私があの書を壊すから、安全な所に下がってなさい」
「…………解りました、お願いします」
「上海、あなたは手伝ってよ」
指輪からつながる魔法の糸により強い力を込め、呟く。
上海もそれに答えるように振り向きすぐさま書を睨む。
アリスと上海が戦闘体勢を整え戦闘を開始する。
魔法書の力なのか上海がアリスの意思を先読みするように動き
書の攻撃を防壁で防ぎ、アリスは自分の意識を魔力集中に向ける。
書の攻撃は激しさを増すが、その全てを書の力により力を限界以上に上げていた上海には効かない。
そして、最後の時が迫る。
劣勢に書は自らを最低限維持出来る力を残し、アリス目掛け光線を発する……だが、光線はアリスに届かない。
上海がその力を身をもって防ぎきったのである。
「上海!! このっ……もう終わりよ!!」
アリスは最後の手段を無に帰した書に集めた力を放つ。
光弾は書の防壁を軽々と砕き全てを巻き込むように大爆発を起こした。
書から抜け出た黒い影が苦しそうに手を伸ばすがそれは光に飲まれ消滅してゆく。
そして、全てが終わり静寂が辺りを包むと同時にアリスは上海に駆け寄る。
最後の反撃に体の半分を吹き飛ばされながらもアリスの無事な姿に安心し静かに魔力が抜けていく。
「上海! ありがとう……でも無茶しすぎよ……
それに、あなたにはまだ私の傍に居続けてもらうんだから休ませないわよ」
上海を優しく抱えるとその髪を撫で労をねぎらう。
「アリス、ありがとう」
全てが終わった事を確認したキャロルがアリスに声をかける。
「ええ、これでおばあさんの願いも全て叶ったわ、あなたも帰りましょう」
「……はい」
洞窟の入り口で無名の人形がアリスとキャロルの姿を確認すると一礼する。
……
…………
家に戻るとキャロルは主人の眠るベッドに近づき最後の報告をする。
「マスター……無事、書を滅する事が出来ました、アリスによって」
キャロルはそう一言伝えると他の人形に目配せをしアリスの目を見て語る。
人形達は部屋を後にし、キャロルとアリスだけが残る。
「アリス、運命……という訳じゃけど、あなたがここに来て良かった」
「それは私のほうこそよ、この魔法はあなたの主人が私にくれた物」
「上海……マスターの言っていたようにすばらしい子だな」
「ええ、この子が居なければきっと私達は負けていたわね」
「……さて、私達はもう数日もすれば魔力を失い物言わぬ人形に戻る……ここにある書物は良ければ自由に使って
くれて良い
マスターの完成させていなかった完全な命を持った人形を作り上げて欲しいといったらどうかしら」
「そうね……目的は必要よね、いいわ、引き継いで研究してあげる」
「……ありがとう、これで思い残す事はないわ……さようなら、アリス」
「まだ時間があるのでしょう? あなたの事教えてもらうわよ、いろいろね」
「…………解ったわ、私の力が尽きるその時まで」
「……眠ったら、今度は私が起こしてあげるわよ」
キャロルは嬉しそうな表情で微笑んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふ~ん、それが上海誕生と研究の目的……な訳ね」
「そう、それが私の幻想郷最初の先生と……友達との約束」
「私も見てみたくなったわ、がんばりなさいね」
「ええ、もちろんよ」
アリスは上海と共に霊夢に笑顔でしっかりと答える。
「アリス、久しぶりね」掃き掃除の手を止めて、気だるそうに見上げ声をかける。
「相変わらずね、霊夢」
「平和でもすることが無くならないのは憂鬱だわ」
「掃除くらいで憂鬱とか言ってるようじゃ修行不足もいい所ね」
「まあいいわ、上がっていくでしょ、お茶くらいは出すわよ」
今日も幻想郷は大きな異変もなくゆったりと時は過ぎてゆく。
「あなたがここに来てだいぶ経つけど、ここの生活は慣れたかしら?」
「ええ、研究しやすい良い環境ね」
「それはなにより、まぁがんばってね」
「他人事ね、実際そうだけど」そう呟くとお茶に口をつける。
「実際、他人事だもん」そう言いながら上海を見る。
「やり遂げないといけない、私はそう思うの」
そう言ったアリスの隣で上海人形は日の光を受け、気持ちよさそうに空を見上げている。
以前、魔理沙が自分で動かしているなんて物凄く嘘くさいと言って居たが上海を見る限り
霊夢も同じような感想を持つ、魂が宿っていると思うほどに。
「アリス、上海って、まるで生きて居るみたいよね」
「……そうね、生きてるわよ」そう言うと上海の髪を撫でながら霊夢を見る。
「へぇ、そういえば上海の誕生ってどんなだったのかしら?」
「隠すほどの事じゃないけど、長いわよ?」
「どうせ暇だし、聞いてあげるわよ」珍しく興味を示す。
「あれは私が幻想郷に着いたばかりの頃になるかしらね」
霊夢らがアリスと初めて戦い、アリスが幻想郷にたどり着く切っ掛けとなった出来事。
魔界で2体の妖精と共に戦い、撃墜された事により禁忌の力を使う事となる
最も強力な力……Grimoire of Alice、この事がアリスの中に眠る力を暴走させて行く。
戦いが終わり、魔界への侵略者が去るとアリスはその後を追うように魔界を去り、幻想郷にたどり着く。
「その後再び私に会った時、あなた、どう見ても別人……というより、成長しすぎでしょう?」
「その間が今から話す重要な事なのよ……長いって言ったでしょう、短気ね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アリスは幻想郷にたどり着いた時、偶然の悪戯か深い森の一軒家を見つける。
「こんなじめじめとした暗い所に住むなんて、どんな人なのかしらね?」
なぜか興味を惹かれその家に近づき中を覗いてみる。
「ほれ、お前達それは2階に……、お前は外掃除を頼もうかの」
なんと見たこともない人形が老婆の指示で忙しなく動いているのが見える。
呆気に取られているとドアが開き箒を持った人形がトコトコと出てくる。
「あ、あなた何なの?」
思わず話しかけてしまった事に戸惑うも返答を待って見つめる。
しかし人形は意を返さず作業に入る。
……
…………
「誰かね? そこに居るのは」
アリスは今目の前で起こる事態について躊躇わず尋ねる。
「これは小さいお客じゃの……まぁ、あがって行きなさい」
「む……、じゃ……じゃぁお邪魔します」
アリスは数体の人形が黙々と作業する家に好奇心と不安の入り混じった表情を浮かべながら入る。
「あの子、なんなの? どうやって動いてるの?」
「元気なお嬢さんじゃな、見かけたことはない子じゃが迷ったのかの?」
「違うわよ……! って、そんな事はいいから教えてよ」
「そうじゃの……あの子達はワシの魔法で動いておるのじゃよ、4体が限界じゃがな」
「魔法? そう言えば……あの子から僅かにあなたと同じ力を感じたのはそれね」
「ほう? お嬢ちゃんは解るのかの?」老婆は僅かに表情を変えアリスを見据える。
「ええ、私は魔法を使えるのよ……これを見てよ」
Grimoire of Aliceを得意げに老婆の前に差し出す。
「お嬢……この本の力、おぬし解っておるのかの?」
「もちろんよ、最強の力なんだから!」
「ふむ……お嬢、その力使っておるな……何もまだ起きておらぬらしいが……」さらに表情を変える。
「……な、何なのよ……何も起きてないわよ」
「お嬢、ワシの所でしばらく魔法の勉強をしては行かぬか?」
(どこにもまだあてが無いのよね……ここであの人形魔法を手にするのも良いかも)
「うん、どうしてもって言うならちょっと勉強させて貰うわ」
「そうかそうか、あの魔法はおぬしには今後必須かも知れんしな、がんばるのじゃぞ」
アリスは自分の身に降りかかっている危険にまだ気がついていない。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「そんな事がねぇ……そこで魔法を覚えた訳ね」
「だから、そこからが長いのよ……本当にせっかちな巫女ね」
「はいはい、で、そこからどうなったのよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~
この森の家での生活を始めて数日が経ち老婆より魔法の媒体たる人形の作成を指示された。
「よいか? おぬしの分身たるこの魔法はその媒体をおぬし自身で作らねばならぬ」
「人形を作るのね? 私の起用さ見せて上げるわ!!」
「器用なだけでは駄目じゃ、おぬしの心を写しおぬしと共にある分身を作らねばならぬ」
「ふむ……解ったわよ、私の全身全霊を懸けて作り上げて見せるわよ」
「よろしい、出来たら魔法の勉強に入るからの……良き物を作り上げるのを待っておるぞ」
……
…………
………………
それから更に数週が経ち、アリスは一体の人形を作り上げる事が出来た。
「この子、どうかしら?」
金髪にリボンを結わえた愛らしい少女の人形をアリスは自信を持って老婆に見せる。
「ほほう、これは見た目も見事ながらその器も見事じゃ……よく出来たの」
笑顔でアリスの頭を撫でながら人形を返す。
「と、当然よ! 私が本気で作ったんだから」照れながらも嬉しそうに言葉を返す。
「さて、おぬしが作ったその人形に今から言う法印を組み込むのじゃがこの人形はそれだけでいかん」
「どういう事?」
「この人形には魔力を共有ではなく、おぬしの力の多くを与えもう一人の自分とするのじゃ」
「……え? そんな事したら私が弱くなるじゃないの」
「問題ない……というより、おぬしの体がその力に耐えられなくなる前に力を分散できる器が居るのじゃよ」
「力って何? あの魔法書を見せた時に言ってたけど……」
「うむ……あの魔法書はな、おぬしの為に作られておりそれ自体は問題ない……が」
「がって何よ……聞かせて」
「早すぎた……と言うべきなのじゃ、あれはもっとおぬしの体が成長し魔力の流れを操れるようになって
その時、封を解くべきだったのじゃ……魔法書の力がここ数日さらに強くなっておる」
「でも、私は何も起きてないのよ」
「恐らく、まだおぬしの器を越えておらんのだろう……大した物だが、それも何時超えてもおかしくない訳じゃ」
「それで、この子に魔力を逃がし私の器を増やす……と言う訳ね?」
「そうじゃ、よほどいい出来なのじゃろう、この人形はかなりの器を持って生まれたようじゃ」
「そうよ……私の最高傑作、上海なんだから」
「ほう、名前も与えておったのじゃな……それに答えたと言う訳かの……良い子じゃな」
「うん、良い子よ」
人形、いや上海に法印を施すと輝き一瞬アリスに微笑みかけたように見えた。
だが、その後は魔力の流れは感じる物のまったく動かない。
「……どういうことかしら?」
「ふむ……やはりおぬしにはまだこの魔法は扱いきれないのやもしれぬな」
「魔力は確かにこの子に流れているのが解るのよ、使えてないわけじゃ……」
「ワシもここにある人形達に魔力を込め、ある程度の自立させるにはかなりの時が掛かったのじゃ
まだ幼いおぬしにはまだその域には辿り付けてないじゃろう」
「……ふん! こんなのすぐに完成させてやるんだから!!」
「……そうじゃな……素質は素晴らしい物があるのは解る、だが焦らぬ事じゃな
……ひとまずこの道具で操ってみる事から始めるかの」
老婆は数個の指輪をアリスに渡してきた。
「……これは?」
「指にはめて上海に魔力を送るイメージを浮かべるのじゃ」
まだ良く解らないが言われた通り集中してみると……
上海が宙に浮くとたどたどしいが操れている事に気づく。
「これならあっという間に使いこなせるわ」自信に満ちた目を老婆に向けそう言い放つ。
「それでも、焦ってはならぬぞ」
しかし、大いなる力は止まる事をしない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「上海の誕生、そして自画自賛……ね」
「それだけ、この子は特別なのよ」
そう言いながら頭を撫でると、上海は嬉しそうにしているのが感じ取れる。
「……ふ~ん、でここからがその上海との生活と……」
「……そうね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔術を組み大きな魔力の流れ込む人形、上海の操作をアリスは渡された道具によって日々上達していった。
それでも、アリスは老婆のように意思を持たせ言葉、いや……それすら要らない完全な自立する人形を作りたいと
思っていた。
それから数ヶ月が経った時、いよいよ禁断の書が牙を剥く。
「アリス、おぬしも大分上海を操れるようになってきたからの……ワシの人形と軽い実践をしようかの」
「良いわよ、どれだけ使えるようになったか見せてあげるわ……ねぇ、上海」
そう呼びかけに意思を持たない上海が答えたようにアリスは思った。
老婆の操る、いや魔法によって半自立と言える人形が舞うように上海の前に飛び出ると鋭い打撃を打ち込んで来る
。
アリスは上海に魔力を混め、盾をイメージしその打撃を受け流し反撃を試みる。
だが、人形は上海の攻撃を緩やかにかわすと隙をつきその魔力の糸を断ち切る。
上海は文字通り糸の切れた操り人形のようにポトリと落ちる。
「あー、卑怯よ!」アリスは老婆に抗議する。
「卑怯ではないぞ……その道具による操術の弱点こそがこれと後はおぬしじゃよ」
「私?」アリスはきょとんと老婆を見つめる
「操っている間はおぬし、自分の体、思うように動かせるかの?」
老婆は人形を見ながらアリスに問う。
「……あ、無理かも……」
アリスは人形を操る時、上海の動きをよりイメージしやすくするため上海に意識を集中する。
その為、自身に対する意識はほとんど残っていない、これこそが最大の弱点であった。
「そうじゃろ、まぁ……これだけ動かせると言うのはさすがじゃな」
「ふん、当然よ!」
「さて、今日はこれくらいで良いじゃろう……戻ろうかの」
そう言って振り向いた時、アリスの周りの空気がざわめいた。
「ぐぅ……」
アリスは苦しそうにしゃがみ込んでいる。
「アリス!」
近づこうとした時、アリスの傍に浮かび上がる魔術書が光を放つ。
その光を人形がとっさに弾くと別の人形が魔術書に光弾を放つ、だが壁に弾かれるように消滅する。
「まさか、もうアリスの力を超えておるのか……しかしあやつはまだ戻せぬ」
そう呟くと老婆は3体の人形に魔術書からアリスを引き離すように指示する。
しかし、魔術書の力はあまりに巨大で思うように状況が変わらない。
その時、新たな魔力の流れが起こる。
「ア……リ……ス……」
それは糸を断たれ、地に落ちていた上海が今まで込められていた魔力を放出しゆっくりと浮かび上がる姿であった
。
「……ぜぇ、ぜぇ……しゃ……上海、た…助け…て」
自らの危機に秘められていた才が引き上げられたのか、その魂に上海が反応したのか上海はうなずき飛ぶ。
魔術書から放たれる魔力の塊を上海は手に現れた剣と盾で弾き、アリスの下へ飛ぶ。
上海が届くと思われた瞬間、魔術書は防衛の為かアリスを自らの空間に取り込もうとした。
だが、それは成功しない。
その時、老婆の人形が空間に飛び込むとアリスを抱え魔術書から引き離す事に成功したのである。
だがその代償は老婆が払う事となる。
魔力をほとんどこの人形に注いだ為、魔術書の放つ力に耐えられず体が崩壊を起こしていた。
魔術書も大きな力を使った為か今は封が戻り地に落ち、アリスは意識を失い傷だらけの人形に抱えられ眠る。
やがて意識が戻ったアリスは老婆の最後を看取ることとなる。
「……嘘でしょう、ねえ、まだ教えられてない事ばかりじゃない!」
涙をぬぐう事も忘れ叫ぶ。
「……そうだねぇ……でも、今まで教えた事がこの魔法の基本であり、全てなのじゃよ……」
「……まだだよ! ……私、まだ使えてない……教えてよ……ねぇ……」
「それより……、今から言う事をよく聞くのじゃ……」
「…………」
「ワシが死ねばこの子達もやがて魔力が尽き眠るように動かなくなる、実はワシの最後の人形がある魔物を封じて
おる
今ならその人形におぬしの魔力を込め魔物を倒し、さらに魔術書の力をかなり抑えられやもしれぬ」
「……うん」
「本当はもっとおぬしが操術を身に着けてから会わせたかったがもはや時間が足りぬ
その人形に会うのじゃ……名はキャロル、唯一名を与えた人形じゃ」
「……解った」
「案内はワシの人形がしてくれる、短い間であったが楽しかった……さらばじゃな」
老婆は最後にアリスに言葉をかけると静かに息を引き取った。
「うっぅ……うわぁあああ…………」
残された人形達は静かにアリスを見つめ、眠るように息を引き取った主人の言葉を待っている。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「……ちょっと、アリス……」
「……え?」
「気づいてないの? ……ほら」
ハンカチを無言で渡してくる。
「……あ……ありがとう」
話している間に自然と涙が溢れていたようだ。
上海もアリスと同じように悲しげな雰囲気を感じさせていた。
「……さぁ、続き聞かせてもらうわよ」
「……うん」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「……待っててね、必ずキャロルに会って、無事に戻ってくるから」
アリスは案内を指示された人形の手を取ると着いてくるようにと言うかのようにこちらを見る。
しばらく飛んでいくと洞窟の入り口に降り立つ。
「ここにキャロルがいるというのね?」
質問には答えない、主人でなければこの人形達は何も行動をしないのだろうか。
「まぁ、いいわ……あなたはここで待ちなさい、おばあさんの願いは叶えるから」
そう言った時、人形が答えたような気がして振り返る。
その表情は変わらない、だがアリスにはなんとなく解る物があった。
しばらく進むと外から見たよりもずっと大きな空間が広がっていた、そして不自然な明るさが目を引いた。
そこに佇む柱とその傍にその柱を見つめる人形、キャロルがアリスに目線を移す。
その姿は真っ赤なドレスを着た女性の姿をしている。
「あなたがキャロルね……初めまして、かしらね?」
「直接では初めまして……あなたがアリスね」
その人形は今まであの家で接してきた人形とは違い、まるで生きているような印象を受ける
「話せるとは、驚いたわ……おばあさん、一体何者なのかしらね……今更だけど」
「マスターからここに来た時の指示は受けています、そしてマスターがお亡くなりになった事も」
恐らく、人形達で情報を共有しているのだろうとアリスは思った。
「時間もありません、私の使命、それを完遂する為にあなたの力お借りしてよろしいですか?」
「……情報を知っているなら、この力があなたの主人を殺した事も解って居るのでしょう」
「……力は正しく使えば良いのです、マスターは望んでその力の道を示したのです」
「そう……解ったわ、この力と私達で封じられた魔物を完全に倒して、望みを叶える」
アリスは法印を組み、キャロルに力を注ぐ。
魔法書の力によって限界まで力を得たキャロルが封印を破壊する。
現れたものはアリスの持つ魔法書と似たような、いや、むしろもっと禍々しさを放つ魔法書だった。
「アリス、この魔法書こそ、マスターが手に入れ、必死に封じた悪意の塊です」
「キャロル! この力……勝てるの?」
恐怖に足がすくむのを必死に耐え問う。
「私は勝て……無いでしょう、ね」
アリスに視線だけを一度移したのち書を見据え答える。
そうこうしてる間にも封を解かれた書は力を取り戻してゆく。
「え? どういうことよ?」
「マスターは私にあの書に対する破壊属性を付けてくださいました、ですがそれは多くの魔力を使う
だけではないのです」
「私の魂その物があの書物を破壊できるのです、マスターはこうおっしゃっていたはず
操術をしっかり身に付けさせたかった、と」
「あなたの魂と多くの魔力をあわせあの魔法書に取り込ませることが破壊条件と?」
「そうです、マスターはあなたを見たとき、きっとこの書物を壊せるだけの魔力を秘めていると感じました
ですがその源たる魔法書はあなたに扱い切れなかった……そこであなたの資質を見抜いた上で訓練を課した」
「そんな……あばあさんがあなたを犠牲にするだけしか考えてないはずはない」
「ええ、もしあなたが力を扱え、操術を使えるなら力で対抗できたでしょうが、その時間はないのです」
「そんなの私は嫌! もう何も犠牲にしたくない!!」
「……優しいのですね、そんなあなただから私も頼みたいのです、私を使ってあの書を破壊してください
私はどちらにしても、マスターの居ない以上この魂もやがて消えていくでしょう」
「そんな……」
アリスにもそれは解っていた、老婆よりそれは言われていたのだから……だが、この人形は魂がある
いや、案内してくれた人形にも今家で指示を待つ人形にも魂、心というべきものがある。
それを犠牲になどしたくない。
だが、目の前で封を解かれた書は今の未熟なアリスではどうする事もできない、キャロルの心を武器に戦うしかな
い……
「アリス!! もう迷っている暇はありません」
書はいよいよその力のほとんどを目覚めさせ攻撃態勢に入っている。
「それでもっ!!」
迷い続けるアリスを書は見逃すつもりは無かった。
キャロルより今の力が弱いアリスを書が狙いを定め光を放つ。
「アリス!!」
アリスを狙った光はキャロルの防壁に阻まれ霧散する、だが、キャロルはこれで勝算がほとんど無くなった事を悟
った。
「アリス、残念ですが……書の力は私達の想像を超えていたようです……もう誰も止められないかもしれない」
「せめて、ここはもう一度私が何とか封印します……一時でしょうが時を稼げます、その間に協力者を募り
私が消えた後目覚めた書を破壊してください」
「そんなことさせないよ……」
アリスは心の中から湧き上がる言葉を口にする。
「上海!! あなたとなら私は戦える!!」
魔道具によって再び操術を繰り出すと書に向って光弾を放つ。
書はその全ての光弾を弾き、そのお返しとばかりに狙いを定め光を放ち続ける。
上海は次々とそれらを弾く、その戦いをキャロルは意外な物を見るように見続けていたがやがて気を取り直したよ
うにその戦いに参戦する。
「アリス、呆けてました……あなたは急速に成長している、もしかすれば勝てるかもしれない」
だが、実際は時間稼ぎにしかなって居なく隙を突いて封ずる、そうキャロルは考えていた。
「私だって、強くなってるんだ! もう負けたくない!!」
しかし、この戦いの要。
魔法書が再び力を強め、アリスを包む。
「アリス!!」
キャロルも書の攻撃を防ぐのが精一杯でアリスに手を貸せずいよいよ全ての手詰まりかと思われた時、それは起き
る。
「アリス……怖がらない…で、魔法書はあなたを守りたいだけ」
その声は優しくアリスに語り掛ける。
「誰? あなたは魔法書の心?」
「いいえ、違うわ……でも、この魔法書はあなたの為の物、怖がらず心で受け入れて」
「皆が助けられるなら私はどうなっても良い…………魔法書、私に力を貸して!」
アリスがそう心で思うと、魔法書はアリスを暖かな光で包み込み、激しく輝く。
……
…………
「アリス!! これは……」
光が広がり、それが収束した所に立ちあがる人影をキャロルは目を凝らし見つめる。
「キャロル、後は私に任せて!!」
そこには少女ではなく成長し魔法書の力を引き出すことに成功したアリスの姿があった。
「アリス、あなた……なのです、か?」
「そうよ、魔法書の力を完全に引き出せるように体が成長したけど……私よ」
魔法書より発せられる力はとても安定し、アリスの力となっていることがキャロルには解った。
「後は私があの書を壊すから、安全な所に下がってなさい」
「…………解りました、お願いします」
「上海、あなたは手伝ってよ」
指輪からつながる魔法の糸により強い力を込め、呟く。
上海もそれに答えるように振り向きすぐさま書を睨む。
アリスと上海が戦闘体勢を整え戦闘を開始する。
魔法書の力なのか上海がアリスの意思を先読みするように動き
書の攻撃を防壁で防ぎ、アリスは自分の意識を魔力集中に向ける。
書の攻撃は激しさを増すが、その全てを書の力により力を限界以上に上げていた上海には効かない。
そして、最後の時が迫る。
劣勢に書は自らを最低限維持出来る力を残し、アリス目掛け光線を発する……だが、光線はアリスに届かない。
上海がその力を身をもって防ぎきったのである。
「上海!! このっ……もう終わりよ!!」
アリスは最後の手段を無に帰した書に集めた力を放つ。
光弾は書の防壁を軽々と砕き全てを巻き込むように大爆発を起こした。
書から抜け出た黒い影が苦しそうに手を伸ばすがそれは光に飲まれ消滅してゆく。
そして、全てが終わり静寂が辺りを包むと同時にアリスは上海に駆け寄る。
最後の反撃に体の半分を吹き飛ばされながらもアリスの無事な姿に安心し静かに魔力が抜けていく。
「上海! ありがとう……でも無茶しすぎよ……
それに、あなたにはまだ私の傍に居続けてもらうんだから休ませないわよ」
上海を優しく抱えるとその髪を撫で労をねぎらう。
「アリス、ありがとう」
全てが終わった事を確認したキャロルがアリスに声をかける。
「ええ、これでおばあさんの願いも全て叶ったわ、あなたも帰りましょう」
「……はい」
洞窟の入り口で無名の人形がアリスとキャロルの姿を確認すると一礼する。
……
…………
家に戻るとキャロルは主人の眠るベッドに近づき最後の報告をする。
「マスター……無事、書を滅する事が出来ました、アリスによって」
キャロルはそう一言伝えると他の人形に目配せをしアリスの目を見て語る。
人形達は部屋を後にし、キャロルとアリスだけが残る。
「アリス、運命……という訳じゃけど、あなたがここに来て良かった」
「それは私のほうこそよ、この魔法はあなたの主人が私にくれた物」
「上海……マスターの言っていたようにすばらしい子だな」
「ええ、この子が居なければきっと私達は負けていたわね」
「……さて、私達はもう数日もすれば魔力を失い物言わぬ人形に戻る……ここにある書物は良ければ自由に使って
くれて良い
マスターの完成させていなかった完全な命を持った人形を作り上げて欲しいといったらどうかしら」
「そうね……目的は必要よね、いいわ、引き継いで研究してあげる」
「……ありがとう、これで思い残す事はないわ……さようなら、アリス」
「まだ時間があるのでしょう? あなたの事教えてもらうわよ、いろいろね」
「…………解ったわ、私の力が尽きるその時まで」
「……眠ったら、今度は私が起こしてあげるわよ」
キャロルは嬉しそうな表情で微笑んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふ~ん、それが上海誕生と研究の目的……な訳ね」
「そう、それが私の幻想郷最初の先生と……友達との約束」
「私も見てみたくなったわ、がんばりなさいね」
「ええ、もちろんよ」
アリスは上海と共に霊夢に笑顔でしっかりと答える。
おばあさんの口調がステレオタイプかな...某マンがのファーザーみたいに思えました。
詰まるつまらないとは別の問題で、楽しめませんでした。理由を書きます
・情景描写、人物描写が少なすぎる、移入できないので、感動しない
・プロットをそのまま投稿しちゃった感じがする。もっと情景と心理の描写で肉付けを
・ストーリーに沿うようキャラの動きを強制してる。素直すぎ。
・三人称アリス視点だが説明的。もっとアリス寄りに感情を混ぜていいのでは
・語彙がかなり足りない
・起承転結できてるが、面白く読ませるための構成ができてない
自分が書いたのとプロの小説と何が違うのか分析するとよさそう。
一人称、三人称神視点じゃない本がいいかも。
あと、このストーリーだと移入できる描写を入れたら2~3倍ぐらいの長さになると思う。
過去の投稿作のアドバイスをさらに読み解くこともおすすめ。上達お祈りします。
ストーリーは面白かったです!
私個人としては、もっと平易な文章と大げさな表現を使って「村の子供達に人形劇としてみせている」ような感じにしてもいいような気もしました。
駆け足ですか、そうですねちょっと作ることだけを考えすぎたようです。
3さん>
細かい意見ありがとうございます。
過去の作品が起承転結が出来てないものが多く、それを考える事に集中しただけのようで
面白くするという基本ができてなくまだまだでした。
また参考になる物を見つけて、面白い作品を上げたいとおもいます。
6さん>
なるほど、その様な見せ方を考えることも出来るのですね。
今後の参考にさせて頂こうと思います。
意見、コメントありがとうございました。