「妖夢~ご飯まだ~?」
陽気な声が階段の上から聞こえる。
手には竹箒を持ち、長い階段の掃き掃除をしていた最中だった妖夢と呼ばれた少女が振り返る。
「もう少し待ってください。今掃除が終わったばかりです・・・ところで今日は何を作りましょう?」
少々幼い声、だが凛とした声が返事をする。
ふわふわと浮いて階段を下りてくる声の主。
「そうね・・・今日は暑いから素麺がいいわね。」
「わかりました・・・それじゃ用意しますね ゆゆ様。」
よろしく~と言うも束の間、少女に飛びかかるような感じで背中に乗る。
「わっ・・・とと・・・・・ゆゆ様・・・階段では飛びつかないでくださいよ・・・・」
そう言いつつ、しっかりと背負いながら階段をゆったりと上る。
半分の零体もふわふわと漂いながら上っていく。
ここ冥界の季節は夏。日差しが強まる前の朝方。
今日もゆったりと日が昇り、そして沈むだろう。
そう妖夢は思った。
「ごちそ~さま~」
「お粗末さまです・・・」
何時もの様に山のような空の茶碗を片付ける。
今回は単に素麺を茹でただけだったから料理は簡単だった。
「今度は流し素麺でもする~?」
先ほど山の様に食べたのに、まだ食べ物の話を・・・
まぁ、それがゆゆ様なんだけど・・・
軽くため息をつき答える。
「誰がその竹を調達してくるんですか?」
「や~ね~、貴方に決まってるじゃない。流すのも貴方よ?」
至極当然、という風に答える。
この場合、私は食べることができるのだろうか・・・。
まず無理だろう・・・。
「とりあえず、二人でやるのも寂しいですから、他の方も呼びましょうよ」
「そうね~・・・それじゃ30人前くらい用意しないとね~」
「30人って・・・そんなに呼ぶんですか?」
「いやいや、私の分が少なくならないようにするためよ」
うんうんと頷きながら、扇でパタパタと扇いでいる。
「まぁ・・・、そんなことでしょうとは思ってましたけどね・・・」
食器も片付け終わり、居間に戻る。
それにしても暑い。冥界は基本的に薄暗い。
それは天候が悪いとかではなく、元からこんな空なのだ。
その割に、四季がはっきりしているため、夏場はものすごく暑い。
「・・・・・・・・・・?」
そんなことを思いつつ、ぼーっと外を見ていると、何時もと違う感じを覚える。
霊がふわふわと浮いていた。それも10匹?程度。
「あれ・・・、ゆゆ様?また何かやらかしました?」
「ん?・・・・ぁぁ霊が増えてることかしら妖夢」
「そうですね。また変な事をすると、赤白の巫女とか白黒の魔女がやってきますよ・・・」
「私は何もしてないわよ・・・・・。ぁぁ・・・盆に入ったのかしら」
「盆・・・ですか・・・・」
それで霊も増えるわけだ・・・。
冥界、現世が繋がり、霊達が行き来する時。
だから冥界にも霊が溢れかえっているのだろう。
「そっか・・・もうこんな時季なのね・・・」
「・・・どうしたんですか?何か悪いものでも食べました?」
何時になく、黄昏ているゆゆ様を見て、ちょっと驚く。
「私だって黄昏る時くらいあるわよ・・・」
何を思ったのだろうか、そういって扇いでいた扇を、そっと空に泳がせる。
そうすることにより、扇から蝶が生まれる。それが彼女の力。
そして、その幻蝶が外に向かいひらひらと飛んでいく。
そして、空中で儚い光となり、消えていく。
「そうね・・・妖夢。くだらない昔話でも聞いてくれない?」
「ぜひともお願いします」
ゆゆ様が自分から何かをするということも珍しかったため、即答だった。
それ以前に、私はゆゆ様についてほとんど知らないから、というのもあった。
「ふふ・・・そうね・・・」
そう微笑を浮かべ、語りだした。
懐かしむように、悲しむように・・・
私はとある村のお嬢様として生まれた。
それは生まれる前から、決められた運命の輪の中に入れられて
何不自由なく生きていた。
だからだろうか。
神様は人を平等にしたがる所為なのか、私には他の人にはない力を授かった。
気品を持った人間というより、死人に近かった。
肌は死人のように白く、人ならぬ人と触れ合い、
死霊の群れの中にいつも私はいた。
人ならぬ存在として、他人から、家族から、疎まれた。
物心つく頃には私はひとりぼっちだった。
なんで生きているのだろう。
人は生まれてきた時点で運命が決まっている。
ならば私の運命はなんなのだろうか。
人から疎まれ、貶され、挙句には自分で命を絶つ事が私の運命なのだろうか。
常に死の香に包まれる事で何を生み出すのだろうか。
ある日、一人の少女に出会った。
少女は、今まで出会った人とは違った。
なぜか彼女は私を恐れなかった。
私の傍にいると死を誘う。それは家族であろうと例外ではない。
だから疎まれた。なのに彼女は私に寄り添ってくれる。
私はうれしかった。今まで闇の中にいた私に光を教えてくれた。
だから、余計に悲しかった。
その光を、自らの手で闇に埋めたのだ。
彼女は私を待っていたのだろう。桜の幹に寄りすがるに眠っていた。
首を、手を、足を、体を、全てを無くして。
なぜ、彼女が死ななければならない。
そう思うのと同時に、私がいつまでも彼女という光を頼っていたからだと。
心の底から嘆いた。
なぜこんな望んでいない力を持っているのかと。
死を誘う呪い。これは私自身を侵食していく呪い。
悲痛、嘆き、悲しみ。
全てを、少女の血を啜る桜にぶつけた。
幸せを願えないのか
ただ人として在りたいだけなのに と。
涙は枯れ、泣き言も全て吐いた。
未だに覚えている。
彼女の亡骸を桜の木の下に埋めてあげた事を。
いつも彼女が持っていた扇を戒めとし、生きていくことを。
この桜、西行妖を、彼女のために咲かせようと。
光る蝶を彼女の元へ
黒染めの桜の前で彼女を送る為に
闇を覆いし扇で舞おう
彼女の・・・名も知らぬ彼女のために
「とまぁ・・・前世の事を思い出してね・・・」
少し長かったわね、と冷めたお茶を飲み干す。
「・・・・・・・・・」
ちょっとショックだったかしら・・・こんな昼間からこんな話をしたのは。
私と比べてまだほんの少しの生を受けていない彼女には酷だったかもしれない。
「・・・それで、ゆゆ様は舞われたのですか?」
先の話の続きだろう。彼女の為に舞う事は毎年かかしていない。
「そうね・・・今年はまだかしら」
「それでしたら私も一緒によろしいでしょうか?」
「意外ね・・・というか貴方舞えたの」
扇を妖夢に渡す。
「そうですね・・・確かに私は舞うことはできないかも知れませんけど、
今のゆゆ様が楽しんでいる、という事が彼女を安心させる事にもなると思いますよ」
一瞬、彼女の笑う顔に重なった。
「確かにそうね・・・」
それじゃ行きましょう。と先に玄関へ向かう妖夢。
扇を揺らし、輝く蝶を空に羽ばたかせる
桜は既に青々とした葉
それをほんの少しだけ残っていた春を使う
満開とまではいかないが、花が咲き誇る
その中で、私と妖夢は舞う
不器用でも、楽しければいいのだ そう教えてくれた彼女と共に
貴方は、何をしていますか?
私は元気にやっています
貴方のおかげで、光を見つけることが出来ました
これから先も、貴方が教えてくれた光を忘れずに
私を支えてくれる彼女と歩みたいと思います
陽気な声が階段の上から聞こえる。
手には竹箒を持ち、長い階段の掃き掃除をしていた最中だった妖夢と呼ばれた少女が振り返る。
「もう少し待ってください。今掃除が終わったばかりです・・・ところで今日は何を作りましょう?」
少々幼い声、だが凛とした声が返事をする。
ふわふわと浮いて階段を下りてくる声の主。
「そうね・・・今日は暑いから素麺がいいわね。」
「わかりました・・・それじゃ用意しますね ゆゆ様。」
よろしく~と言うも束の間、少女に飛びかかるような感じで背中に乗る。
「わっ・・・とと・・・・・ゆゆ様・・・階段では飛びつかないでくださいよ・・・・」
そう言いつつ、しっかりと背負いながら階段をゆったりと上る。
半分の零体もふわふわと漂いながら上っていく。
ここ冥界の季節は夏。日差しが強まる前の朝方。
今日もゆったりと日が昇り、そして沈むだろう。
そう妖夢は思った。
「ごちそ~さま~」
「お粗末さまです・・・」
何時もの様に山のような空の茶碗を片付ける。
今回は単に素麺を茹でただけだったから料理は簡単だった。
「今度は流し素麺でもする~?」
先ほど山の様に食べたのに、まだ食べ物の話を・・・
まぁ、それがゆゆ様なんだけど・・・
軽くため息をつき答える。
「誰がその竹を調達してくるんですか?」
「や~ね~、貴方に決まってるじゃない。流すのも貴方よ?」
至極当然、という風に答える。
この場合、私は食べることができるのだろうか・・・。
まず無理だろう・・・。
「とりあえず、二人でやるのも寂しいですから、他の方も呼びましょうよ」
「そうね~・・・それじゃ30人前くらい用意しないとね~」
「30人って・・・そんなに呼ぶんですか?」
「いやいや、私の分が少なくならないようにするためよ」
うんうんと頷きながら、扇でパタパタと扇いでいる。
「まぁ・・・、そんなことでしょうとは思ってましたけどね・・・」
食器も片付け終わり、居間に戻る。
それにしても暑い。冥界は基本的に薄暗い。
それは天候が悪いとかではなく、元からこんな空なのだ。
その割に、四季がはっきりしているため、夏場はものすごく暑い。
「・・・・・・・・・・?」
そんなことを思いつつ、ぼーっと外を見ていると、何時もと違う感じを覚える。
霊がふわふわと浮いていた。それも10匹?程度。
「あれ・・・、ゆゆ様?また何かやらかしました?」
「ん?・・・・ぁぁ霊が増えてることかしら妖夢」
「そうですね。また変な事をすると、赤白の巫女とか白黒の魔女がやってきますよ・・・」
「私は何もしてないわよ・・・・・。ぁぁ・・・盆に入ったのかしら」
「盆・・・ですか・・・・」
それで霊も増えるわけだ・・・。
冥界、現世が繋がり、霊達が行き来する時。
だから冥界にも霊が溢れかえっているのだろう。
「そっか・・・もうこんな時季なのね・・・」
「・・・どうしたんですか?何か悪いものでも食べました?」
何時になく、黄昏ているゆゆ様を見て、ちょっと驚く。
「私だって黄昏る時くらいあるわよ・・・」
何を思ったのだろうか、そういって扇いでいた扇を、そっと空に泳がせる。
そうすることにより、扇から蝶が生まれる。それが彼女の力。
そして、その幻蝶が外に向かいひらひらと飛んでいく。
そして、空中で儚い光となり、消えていく。
「そうね・・・妖夢。くだらない昔話でも聞いてくれない?」
「ぜひともお願いします」
ゆゆ様が自分から何かをするということも珍しかったため、即答だった。
それ以前に、私はゆゆ様についてほとんど知らないから、というのもあった。
「ふふ・・・そうね・・・」
そう微笑を浮かべ、語りだした。
懐かしむように、悲しむように・・・
私はとある村のお嬢様として生まれた。
それは生まれる前から、決められた運命の輪の中に入れられて
何不自由なく生きていた。
だからだろうか。
神様は人を平等にしたがる所為なのか、私には他の人にはない力を授かった。
気品を持った人間というより、死人に近かった。
肌は死人のように白く、人ならぬ人と触れ合い、
死霊の群れの中にいつも私はいた。
人ならぬ存在として、他人から、家族から、疎まれた。
物心つく頃には私はひとりぼっちだった。
なんで生きているのだろう。
人は生まれてきた時点で運命が決まっている。
ならば私の運命はなんなのだろうか。
人から疎まれ、貶され、挙句には自分で命を絶つ事が私の運命なのだろうか。
常に死の香に包まれる事で何を生み出すのだろうか。
ある日、一人の少女に出会った。
少女は、今まで出会った人とは違った。
なぜか彼女は私を恐れなかった。
私の傍にいると死を誘う。それは家族であろうと例外ではない。
だから疎まれた。なのに彼女は私に寄り添ってくれる。
私はうれしかった。今まで闇の中にいた私に光を教えてくれた。
だから、余計に悲しかった。
その光を、自らの手で闇に埋めたのだ。
彼女は私を待っていたのだろう。桜の幹に寄りすがるに眠っていた。
首を、手を、足を、体を、全てを無くして。
なぜ、彼女が死ななければならない。
そう思うのと同時に、私がいつまでも彼女という光を頼っていたからだと。
心の底から嘆いた。
なぜこんな望んでいない力を持っているのかと。
死を誘う呪い。これは私自身を侵食していく呪い。
悲痛、嘆き、悲しみ。
全てを、少女の血を啜る桜にぶつけた。
幸せを願えないのか
ただ人として在りたいだけなのに と。
涙は枯れ、泣き言も全て吐いた。
未だに覚えている。
彼女の亡骸を桜の木の下に埋めてあげた事を。
いつも彼女が持っていた扇を戒めとし、生きていくことを。
この桜、西行妖を、彼女のために咲かせようと。
光る蝶を彼女の元へ
黒染めの桜の前で彼女を送る為に
闇を覆いし扇で舞おう
彼女の・・・名も知らぬ彼女のために
「とまぁ・・・前世の事を思い出してね・・・」
少し長かったわね、と冷めたお茶を飲み干す。
「・・・・・・・・・」
ちょっとショックだったかしら・・・こんな昼間からこんな話をしたのは。
私と比べてまだほんの少しの生を受けていない彼女には酷だったかもしれない。
「・・・それで、ゆゆ様は舞われたのですか?」
先の話の続きだろう。彼女の為に舞う事は毎年かかしていない。
「そうね・・・今年はまだかしら」
「それでしたら私も一緒によろしいでしょうか?」
「意外ね・・・というか貴方舞えたの」
扇を妖夢に渡す。
「そうですね・・・確かに私は舞うことはできないかも知れませんけど、
今のゆゆ様が楽しんでいる、という事が彼女を安心させる事にもなると思いますよ」
一瞬、彼女の笑う顔に重なった。
「確かにそうね・・・」
それじゃ行きましょう。と先に玄関へ向かう妖夢。
扇を揺らし、輝く蝶を空に羽ばたかせる
桜は既に青々とした葉
それをほんの少しだけ残っていた春を使う
満開とまではいかないが、花が咲き誇る
その中で、私と妖夢は舞う
不器用でも、楽しければいいのだ そう教えてくれた彼女と共に
貴方は、何をしていますか?
私は元気にやっています
貴方のおかげで、光を見つけることが出来ました
これから先も、貴方が教えてくれた光を忘れずに
私を支えてくれる彼女と歩みたいと思います
当方に語彙が無くて上手く言えないけど、次もがんばってくださいな。