「ハイこれでメリーの罰ゲーム確定ね」
目の前のゲーム画面にはメリーが私達に負け、最下位が確定した画面が映し出されている。
「こ、これは罠だ‼」
突然立ち上がり声を荒げるメリーだったが対戦結果が変わることは無い。
「ハイハイ言い訳はいいから罰ゲーム執行だぞ」
「それじゃあ新型機械の実験台になってね」
抵抗するメリーを岡崎教授とちゆりさんが二人がかりで押さえつけ、謎機械の方へ引きずっていく。
「嫌だーー‼また猫になるのだけは嫌だーー‼」
「大丈夫。今回は別人格の貴女を呼び覚ますだけだから」
教授曰く今回の実験は「もう一人の自分を呼ぶ実験」との事だ。人間の深層心理を表へ引っ張り出そう、と言ったとてもとても恐ろしい物である。実験台を探していた教授だったが、当然ながら誰も引き受ける訳が無く結果ラボに置かれているゲーム機で最下位を取った人が実験台になろう、という事で話をつけたのだ。
「言い訳は見苦しいわよメリーさん?」
「普段からゲームばっかりしてる蓮子にだけは勝てないと思ってたけど、どうしてちゆりさんもあんなに強いの⁉」
機械へ押し込まれながらもメリーは自分がちゆりさんに負けるはずはない叫んだ。ちゆりさんは少し申し訳なさそうな顔で答えた。
「い、いやぁ流石に教授の実験台にはなりたくないからな……。そら死ぬ気で頑張るよ」
「さぁーーメリーさんは機械の中へ仕舞っちゃおうねーー?」
「嫌だーーーーーー‼」
抵抗虚しく機械の中へ閉じ込められてしまうメリー。果たして今回は何が起こるのだろうね?もう教授のやることだから何が起きてもおかしくないよね。
ゴゴゴ、という洗濯機を動かしているような音がラボ内に響く。
「た、助けて……苦しい……」
中からメリーの叫び声とドアを叩く音が聞こえる。私は教授にそろそろマズいのでは?と進言したのだが教授は満面の笑みで言う。
「科学に犠牲は付き物なのよ‼」
ですよね。半分メリーの生存を諦めているとチーンと音がした。どうやら実験は終わったみたいだ。
「メ、メリー?生きてる?」
私はそっと機械を開けるとそこにはメリーが”二人”いたのだ。
§
私の目の前には椅子に足を組んで座りながらお茶を飲んでいるメリーと、どうしたらいいか分からずにおどおどしているメリーが居る。お茶を飲んでいる方のメリーは少し目つきが悪いのですぐにいつものメリーではないと判別できる。私は彼女が何者なのか対話を試みたら、とんでもないことが発覚した。
「つまり貴女はメリーの能力ってこと?」
「何度も言わせるな」
なんともう一人のメリー(区別の為にいつものメリーを『マエリベリー』、もう一人のメリーを『ハーン』と言うようにしよう)は「メリーの能力そのもの」という事だった。マエリベリーの方は能力が使えなくなっているので、これは間違いでは無いのだろう。
「でも能力が分離して、自我を持つってある意味凄い事じゃない?」
「深層心理を表に出すってのはどうしたんだよ教授」
教授とちゆりさんは二人で機械のメンテナンスをしているのでこちらには構っていられない様だ。
ハーンの方はラボを始めてみるような輝いた目で見ている。
「この世に興味が無い訳では無いのだが、いざこうしてみると中々変な感じだな」
「あの、その、ごめんね?」
「気にするな。お前の所為じゃない」
もう一人の自分と対面しておどおどしているマエリベリーと、何事もなくお茶を飲むハーン。こうしてみると同じ人物が二人いる、と言うのは実に変な感じである。
「ねぇハーン?」
「何だ、宇佐見蓮子」
ハーンは私と話す時になると凄いキツイ表情になる。この表情はメリーが激おこの状態なので、私の心にグサグサと刺さってくる。
「今から街の散歩に行かない?」
「はぁ?何でお前と一緒に行かないと行けないんだ」
「岡崎教授ーー能力の方のメリー借りるよーー」
「ちょ、蓮子⁉」
「大丈夫、夜までには戻るわ‼」
私は少し強引にハーンの方をラボから引っ張り出した。
§
「……なぁお前」
「うーーん甘い物はやっぱりいいわね」
私はハーンを連れてクレープ屋を訪れていた。気持ちをほぐすには甘い物が一番で、メリーも甘い物で簡単に落とせるので私はそれを実践してみたのだが。
「さては甘い物で、私の気持ちを引き出す魂胆だったな?」
バレてやーーんの。流石はもう一人のメリーといったところだろうか。
「やっぱメリーには敵わないなぁ」
私が両手を上げ、降参と呟くと彼女は理解できないと言いたそうな顔で言った。
「私はお前が知っているマエリベリー・ハーンではないのだぞ?何故そこまでする」
どうやら、ハーンの方はメリーよりもかなりお固い系みたいだ。
私は彼女の額を指で軽くつついてから言った。
「貴女がメリーの能力だろうが、それもメリーなのだから私は受け入れるわよ。寧ろ折角自我を持って出てきたのだから、楽しまなきゃ損でしょ?」
私がそう言うと彼女はとても驚いた顔をした後クスッと笑った。
「やはり、蓮子は蓮子だな」
「何よそれ」
気になる一言だったので私が詳しく聞こうとすると、彼女は表情を曇らせて言った。
「私は心配していた。自分へ向けられた関心は全て『能力』に対するものなのではないかと」
彼女の言っている事はすぐに理解できた。メリーの言おうとしている事もわかる。きっと能力が無かったら私達が巡り会う事は無かったかもしれない。
私は彼女の問いにすぐ答える事は出来なかった。だが、暫く考えて私は言った。
「確かに、メリーへの興味に能力が関係しているってのは事実ね。否定しないわ」
「それはそうだろうな」
「でも、仮に今能力が失われたとしてもメリーを嫌いになったり捨てたりはしないわ」
私は完全にそう言い切った。
「ほう、それはどうして?」
「だって私達、秘封倶楽部でしょ?」
秘封倶楽部、それは私とメリーが岡崎教授にスカウトされる前まで名乗っていたサークル名である。メリーと出会った日の事はとても鮮明に覚えている。
私が思い出に浸っていると彼女は満面の笑みで答えた。
「何よそれ、疑ってた私が馬鹿みたいね」
「やっぱりメリーは考えすぎなのよ」
私は笑いながら言うが、その途中で彼女の輪郭がぼやけている事に気づいた。
「ふむ、一時的な顕現だとこれが限界か」
「え?」
情況がわからないで動揺している私だったが、彼女は冷静だ。
「私は無理やり本体から剥がされたからな。本体に引き寄せられているんだ」
「そっか」
確かにこのままメリーが二人というのは私としても困るので、元に戻るのが理想的ではあるのだがこのまま戻される彼女の事が少し可哀想だ。
「私への同情は不要だぞ。私はそういうものだからな」
「貴女がそういうなら、それでいいけど……」
私がそう言いかけると彼女は私に突然近づいてきてキスをした。今までチョコと肉料理の味のキスを経験はしたが、今度はクリームの味がした。
「蓮子から十分な思い出を貰ったからね、満足だよ」
そう言い、少し恥ずかしそうに笑う彼女はいつものメリーとなんら変わらない笑顔だった。
§
私達はラボへ戻った。そこには機械の調整を終えた教授たちと心配そうな顔をしたマエリベリーが居た。
「おかえり。その様子だと機械に入る必要はなさそうだね」
「あぁ。時期に私は消え、本体の中へ戻るからな」
教授は消えかけているハーンを見て、察したらしく満足そうに頷いた。
「あれだ。実験自体は失敗だったのだろうけど、私は今日とても楽しかった」
少し照れくさそうに笑うハーン。教授はどや顔でハーンを見つめ言う。
「うん‼何はともあれ結果オーライって事でヨシ‼」
「偶々結果が良かっただけで、毎回こう丸く収まるとは限らないからな?」
いつも通りの憐みの目を教授に向けるちゆりさん。
夢ちゆコンビが賑やかにやっているうちに、ハーンが真面目そうな顔で言う。
「なぁ本体よ。お前が思っているより、お前の相棒は単純だ。信じてやれよ」
「……なんでもお見通しなのね」
マエリベリーは少し恥ずかしそうな顔で答える。ハーンはニヤリとしてから続けた。
「そりゃあそうだ、私はお前でお前は私なのだからな」
さっきよりもハーンの輪郭が薄くなっている。時期に彼女は消えるだろう。
「じゃあな蓮子。少しの間だったけど楽しかったぞ」
その言葉を最後にハーンは消えた。
マエリベリーは、優しく自分の胸の辺りに手を置き言った。
「おかえり、私」
§
メリー分裂騒動から3日が過ぎた。
「おはよう。メリー」
今日もラボに向かう途中の廊下でメリーと合流した。メリーは何故か頬を赤らめていて、私と目を合わせようとしない。
「メリー?」
私はメリーの顔を覗き込む。するとメリーは私を見つめて真剣そうな顔つきで言った。
「ねぇ蓮子。もう一人の私と何をしたの?」
「え?」
ハーンとマエリベリーが再び一つになることで、記憶が共有されるかは私もわからなかった。いや寧ろあれだけ恥ずかしいセリフを言ったので共有されないほうが私としては非常にありがたいのだが、メリーの態度からするにきっと知ってしまったのだろう。
「答えて」
メリーの顔が目の前に迫る。私は意を決してメリーとの距離を狭めた。
「ちょ蓮子」
「えい」
私は初めて自分からメリーとキスをした。
「こういう事したのよ」
「……」
メリーはその場で固まっている。
「メリー?」
私が肩をゆすると彼女はそのまま後ろへ倒れてしまった。頬を真っ赤にしているのできっと恥ずかし過ぎて気絶したのだろう。私だって恥ずかしかったのだが、いつもやられっぱなしなのも癪なので今回は私から仕掛けた。
「全く、私がいないとダメなんだから」
私はメリーの腕を肩にかけ、ずるずると引きずり出した。メリー少し太ったかな?
そして今日はどんな一日になるかを考えながらラボへ向かった。
目の前のゲーム画面にはメリーが私達に負け、最下位が確定した画面が映し出されている。
「こ、これは罠だ‼」
突然立ち上がり声を荒げるメリーだったが対戦結果が変わることは無い。
「ハイハイ言い訳はいいから罰ゲーム執行だぞ」
「それじゃあ新型機械の実験台になってね」
抵抗するメリーを岡崎教授とちゆりさんが二人がかりで押さえつけ、謎機械の方へ引きずっていく。
「嫌だーー‼また猫になるのだけは嫌だーー‼」
「大丈夫。今回は別人格の貴女を呼び覚ますだけだから」
教授曰く今回の実験は「もう一人の自分を呼ぶ実験」との事だ。人間の深層心理を表へ引っ張り出そう、と言ったとてもとても恐ろしい物である。実験台を探していた教授だったが、当然ながら誰も引き受ける訳が無く結果ラボに置かれているゲーム機で最下位を取った人が実験台になろう、という事で話をつけたのだ。
「言い訳は見苦しいわよメリーさん?」
「普段からゲームばっかりしてる蓮子にだけは勝てないと思ってたけど、どうしてちゆりさんもあんなに強いの⁉」
機械へ押し込まれながらもメリーは自分がちゆりさんに負けるはずはない叫んだ。ちゆりさんは少し申し訳なさそうな顔で答えた。
「い、いやぁ流石に教授の実験台にはなりたくないからな……。そら死ぬ気で頑張るよ」
「さぁーーメリーさんは機械の中へ仕舞っちゃおうねーー?」
「嫌だーーーーーー‼」
抵抗虚しく機械の中へ閉じ込められてしまうメリー。果たして今回は何が起こるのだろうね?もう教授のやることだから何が起きてもおかしくないよね。
ゴゴゴ、という洗濯機を動かしているような音がラボ内に響く。
「た、助けて……苦しい……」
中からメリーの叫び声とドアを叩く音が聞こえる。私は教授にそろそろマズいのでは?と進言したのだが教授は満面の笑みで言う。
「科学に犠牲は付き物なのよ‼」
ですよね。半分メリーの生存を諦めているとチーンと音がした。どうやら実験は終わったみたいだ。
「メ、メリー?生きてる?」
私はそっと機械を開けるとそこにはメリーが”二人”いたのだ。
§
私の目の前には椅子に足を組んで座りながらお茶を飲んでいるメリーと、どうしたらいいか分からずにおどおどしているメリーが居る。お茶を飲んでいる方のメリーは少し目つきが悪いのですぐにいつものメリーではないと判別できる。私は彼女が何者なのか対話を試みたら、とんでもないことが発覚した。
「つまり貴女はメリーの能力ってこと?」
「何度も言わせるな」
なんともう一人のメリー(区別の為にいつものメリーを『マエリベリー』、もう一人のメリーを『ハーン』と言うようにしよう)は「メリーの能力そのもの」という事だった。マエリベリーの方は能力が使えなくなっているので、これは間違いでは無いのだろう。
「でも能力が分離して、自我を持つってある意味凄い事じゃない?」
「深層心理を表に出すってのはどうしたんだよ教授」
教授とちゆりさんは二人で機械のメンテナンスをしているのでこちらには構っていられない様だ。
ハーンの方はラボを始めてみるような輝いた目で見ている。
「この世に興味が無い訳では無いのだが、いざこうしてみると中々変な感じだな」
「あの、その、ごめんね?」
「気にするな。お前の所為じゃない」
もう一人の自分と対面しておどおどしているマエリベリーと、何事もなくお茶を飲むハーン。こうしてみると同じ人物が二人いる、と言うのは実に変な感じである。
「ねぇハーン?」
「何だ、宇佐見蓮子」
ハーンは私と話す時になると凄いキツイ表情になる。この表情はメリーが激おこの状態なので、私の心にグサグサと刺さってくる。
「今から街の散歩に行かない?」
「はぁ?何でお前と一緒に行かないと行けないんだ」
「岡崎教授ーー能力の方のメリー借りるよーー」
「ちょ、蓮子⁉」
「大丈夫、夜までには戻るわ‼」
私は少し強引にハーンの方をラボから引っ張り出した。
§
「……なぁお前」
「うーーん甘い物はやっぱりいいわね」
私はハーンを連れてクレープ屋を訪れていた。気持ちをほぐすには甘い物が一番で、メリーも甘い物で簡単に落とせるので私はそれを実践してみたのだが。
「さては甘い物で、私の気持ちを引き出す魂胆だったな?」
バレてやーーんの。流石はもう一人のメリーといったところだろうか。
「やっぱメリーには敵わないなぁ」
私が両手を上げ、降参と呟くと彼女は理解できないと言いたそうな顔で言った。
「私はお前が知っているマエリベリー・ハーンではないのだぞ?何故そこまでする」
どうやら、ハーンの方はメリーよりもかなりお固い系みたいだ。
私は彼女の額を指で軽くつついてから言った。
「貴女がメリーの能力だろうが、それもメリーなのだから私は受け入れるわよ。寧ろ折角自我を持って出てきたのだから、楽しまなきゃ損でしょ?」
私がそう言うと彼女はとても驚いた顔をした後クスッと笑った。
「やはり、蓮子は蓮子だな」
「何よそれ」
気になる一言だったので私が詳しく聞こうとすると、彼女は表情を曇らせて言った。
「私は心配していた。自分へ向けられた関心は全て『能力』に対するものなのではないかと」
彼女の言っている事はすぐに理解できた。メリーの言おうとしている事もわかる。きっと能力が無かったら私達が巡り会う事は無かったかもしれない。
私は彼女の問いにすぐ答える事は出来なかった。だが、暫く考えて私は言った。
「確かに、メリーへの興味に能力が関係しているってのは事実ね。否定しないわ」
「それはそうだろうな」
「でも、仮に今能力が失われたとしてもメリーを嫌いになったり捨てたりはしないわ」
私は完全にそう言い切った。
「ほう、それはどうして?」
「だって私達、秘封倶楽部でしょ?」
秘封倶楽部、それは私とメリーが岡崎教授にスカウトされる前まで名乗っていたサークル名である。メリーと出会った日の事はとても鮮明に覚えている。
私が思い出に浸っていると彼女は満面の笑みで答えた。
「何よそれ、疑ってた私が馬鹿みたいね」
「やっぱりメリーは考えすぎなのよ」
私は笑いながら言うが、その途中で彼女の輪郭がぼやけている事に気づいた。
「ふむ、一時的な顕現だとこれが限界か」
「え?」
情況がわからないで動揺している私だったが、彼女は冷静だ。
「私は無理やり本体から剥がされたからな。本体に引き寄せられているんだ」
「そっか」
確かにこのままメリーが二人というのは私としても困るので、元に戻るのが理想的ではあるのだがこのまま戻される彼女の事が少し可哀想だ。
「私への同情は不要だぞ。私はそういうものだからな」
「貴女がそういうなら、それでいいけど……」
私がそう言いかけると彼女は私に突然近づいてきてキスをした。今までチョコと肉料理の味のキスを経験はしたが、今度はクリームの味がした。
「蓮子から十分な思い出を貰ったからね、満足だよ」
そう言い、少し恥ずかしそうに笑う彼女はいつものメリーとなんら変わらない笑顔だった。
§
私達はラボへ戻った。そこには機械の調整を終えた教授たちと心配そうな顔をしたマエリベリーが居た。
「おかえり。その様子だと機械に入る必要はなさそうだね」
「あぁ。時期に私は消え、本体の中へ戻るからな」
教授は消えかけているハーンを見て、察したらしく満足そうに頷いた。
「あれだ。実験自体は失敗だったのだろうけど、私は今日とても楽しかった」
少し照れくさそうに笑うハーン。教授はどや顔でハーンを見つめ言う。
「うん‼何はともあれ結果オーライって事でヨシ‼」
「偶々結果が良かっただけで、毎回こう丸く収まるとは限らないからな?」
いつも通りの憐みの目を教授に向けるちゆりさん。
夢ちゆコンビが賑やかにやっているうちに、ハーンが真面目そうな顔で言う。
「なぁ本体よ。お前が思っているより、お前の相棒は単純だ。信じてやれよ」
「……なんでもお見通しなのね」
マエリベリーは少し恥ずかしそうな顔で答える。ハーンはニヤリとしてから続けた。
「そりゃあそうだ、私はお前でお前は私なのだからな」
さっきよりもハーンの輪郭が薄くなっている。時期に彼女は消えるだろう。
「じゃあな蓮子。少しの間だったけど楽しかったぞ」
その言葉を最後にハーンは消えた。
マエリベリーは、優しく自分の胸の辺りに手を置き言った。
「おかえり、私」
§
メリー分裂騒動から3日が過ぎた。
「おはよう。メリー」
今日もラボに向かう途中の廊下でメリーと合流した。メリーは何故か頬を赤らめていて、私と目を合わせようとしない。
「メリー?」
私はメリーの顔を覗き込む。するとメリーは私を見つめて真剣そうな顔つきで言った。
「ねぇ蓮子。もう一人の私と何をしたの?」
「え?」
ハーンとマエリベリーが再び一つになることで、記憶が共有されるかは私もわからなかった。いや寧ろあれだけ恥ずかしいセリフを言ったので共有されないほうが私としては非常にありがたいのだが、メリーの態度からするにきっと知ってしまったのだろう。
「答えて」
メリーの顔が目の前に迫る。私は意を決してメリーとの距離を狭めた。
「ちょ蓮子」
「えい」
私は初めて自分からメリーとキスをした。
「こういう事したのよ」
「……」
メリーはその場で固まっている。
「メリー?」
私が肩をゆすると彼女はそのまま後ろへ倒れてしまった。頬を真っ赤にしているのできっと恥ずかし過ぎて気絶したのだろう。私だって恥ずかしかったのだが、いつもやられっぱなしなのも癪なので今回は私から仕掛けた。
「全く、私がいないとダメなんだから」
私はメリーの腕を肩にかけ、ずるずると引きずり出した。メリー少し太ったかな?
そして今日はどんな一日になるかを考えながらラボへ向かった。