最近、と言っても2ヶ月ほど前からだが、新しい茶飲み仲間ができた。
名前を聞いたら大抵の人間・妖怪が驚くのではないだろうか。
ほらをふくな、とまで言われるかもしれない。
なぜなら、その新しい茶飲み仲間というのは、八雲紫だからだ。
八雲紫―― 幻想郷でも、一位二位を争う実力を持つ、スキマの大妖である。
そんな大妖が、なぜわざわざ僕の辺鄙な店なんかに来て茶を飲んでいるのかというと、
「私、暇なんですわ」
ということらしい。たしかに、ほとんど毎日のように来ているから、よほどやることがなく、暇なのだろう。僕も暇な時は、本当にやることがなく、どうやって時間を潰そうかと困るから、よくわかる。
うちに来てお茶を飲むことでそんな暇が潰れるなら、まぁいいのではないかな、と思うので、僕はやってくる彼女のために、入れたてのお茶と、少しばかりだが、茶菓子を用意する。
彼女はお礼がわりなのだろうか、僕にいろいろな話を聞かせてくれる。
それは外の世界のことだったり、幻想郷のことだったり、それに彼女の自身のことだったりと実に様々で、僕はもっぱら聞き役に徹して、彼女の話に静かに耳を傾ける。
話し方もうまいのだろう、彼女の紡ぎ出す物語は、僕を想像や冒険の世界に心地よく引き込んでくれて、気づけばあっという間に時間が過ぎていることが多い。
今までだったら、うちの店でお茶を飲む一番の常連といえば魔理沙だったのだが、彼女はそれも塗り替えた。
昨日そのことをお茶を飲みながらなんとなく話してみたところ、彼女は妙に嬉しそうに笑っていた。
何でも一番が好きな彼女らしいと言えばらしいが、何もこんな小さなことまで一番にこだわることないんじゃないだろうか、と僕は少し思った。
そんなことがあったのが昨日。
そして今日。というか現在進行系で今現在。
僕はなぜか、彼女の下にいた。
「…こういうのは、ちょっと感心しないな」
畳の感触を背中と頭の裏に感じながら、僕は眉をひそめて、上を見上げる。
そこにあるのは、八雲紫の顔である。
僕の胸に手をつき、少し身を乗り出すようにして、僕の顔を覗き込んでいる。
僕は今日のことを思い返す。
いつも通りに彼女がお茶を飲みにきて、いつも通りに僕がお茶と茶菓子を出して、いつも通りに二人で話をして――
うん、そこからどうしてこんな体勢になっているかが、やはりよくわからないな。
「…言うことはそれだけなのかしら?」
君のドレスの裾が足にあたってこそばゆい、とでも正直に言えばいいのだろうか。僕はため息をつく。
「僕は今、一生懸命言葉を考えているところだよ」
「あら、どんな愛の言葉なのでしょう」
「君がどうやったら素直に離れてくれるか、って言葉だよ」
「……」
「君が僕をからかうのが好きなのは知っている。でも、これはやりすぎだ。
もしも僕が下劣な男で、一時の感情に流されて、君に何かしたらどうする?」
相手との力の差を考えたら、間違いなくそんなこと出来ないし、する気もないが、それでもここは彼女の為にも、『もしも』という場合を想定して言っておかないといけない。今のこれは、大問題なのである。
「君は冗談でしているのだろうがね、時にこういうのは、冗談ではすまなくなる時があるんだ。
君の力は強大だし、大丈夫という慢心があるのかもしれない。
でも、世の中のどこかには、君より力がある男がいるかもしれないだろう?
そんな相手に、もし冗談でこんなことをしたらどうなるか―――」
僕は熱弁の途中で言葉を切る。
胸につかれた彼女の手が、ぶるぶると震えていることに気付いたからだ。いつの間にか顔も伏せている。なんだ?
「…あなたは、私が冗談で、このようなことをしていると?」
「?そうなんだろう」
「……いつか他の殿方にも、こうやってしなだれかかるかもしれない、と。そう仰るのですわね」
な、なんだ…何か空気が…背筋がぞわぞわとするぞ…
と、いきなりぐいっと襟をひっ掴まれ、身体を引っ張られた。うわっ!
「――― 貴方ねぇ、ずっと我慢してたけど、今日はもう言わせてもらうわよ!
何がからかうよ、冗談よ。
鈍い鈍いと思ってたけど、ほんと鈍すぎるわよ。鈍いにもほどがあるわよ。どれだけ唐変木なのよ。
だいたい、寝る以外はほとんど毎日ここに来て貴方といるのに、いったいいつ、他の男と知り合うというのよ!おかしいでしょう!
ちょっと考えたらわかるでしょう、私があなたのことを好きだって!」
は?今なんと?
僕はぽかんとする。
一息に言い切った彼女は、はぁはぁと肩で息をしている。間近で見る頬は紅潮していた。
「とりあえず…どっちが地の君だい?」
ですわ口調じゃないのが気になったんだ。頭が混乱してついていかないわけじゃないんだ―― 多分。
「どっちも私よ」
そんな拗ねたように言わなくても…
というか……これは誰だ?
いや、それよりもむしろ、先ほどの彼女の言葉に、何か聞き捨てならないことがあったような…
「…僕のことが…好き?」
嘘だろ。
でも彼女は―― スキマの大妖・八雲紫は、ええと当たり前のような顔で頷いた。
「照れているかきっかけが欲しいのだと思って、この私が、恥ずかしいのをこらえてここまでお膳立てしてあげたというのに…よもやまだ、本当に私の気持ちに気付いてなかったなんてね。
挙句に、冗談で誰にでも迫るふしだらな女扱いだなんて…自分があまりにも滑稽で、もう恥ずかしがる気も起きないわ」
バカらしい、と両手をあげて、僕の体を解放する彼女。
だが、僕の上からは降りてくれない。
「……どいてくれないか?」
「それで、お返事はいつ聞かせてもらえるのかしら?」
反対に問い返された。
「返事?」
「ええ…私は貴方に、たった今、愛の告白をしたのよ。レディの告白よ。貴方にはそれに答える義務があるわ」
彼女は目を細め、嬉しそうに笑う。まるで答えがどうなるかなんて、わかっているかのように。
自分の魅力を微塵も疑っていない。…まいった。
「保留…というのはダメかな?」
「だめですわ」
だいぶ余裕がでてきたのか、ですわ口調にまで戻っている。
…さて、どうしたものか。僕はため息をつく。
僕はとりあえず、思いつく最善の提案をした。
「―― とりあえず、降りてくれないか。
お茶でも飲みながら、ゆっくりと話そう」
後日、魔理沙にそれとなく聞いたところ「お前、気付いてなかったのかよ」と本気で驚いたように言われた。…どうやら僕は、本当に朴念仁だったようだ。
ど真中ストレートあるのみ。
私的にこういう話は大好物なので、正直もっとやって欲しいですね。
続きがあるなら今後の展開に期待してます。
良かったんだけど、この長さならプチの方でも良かったんじゃないかなぁ。
是非、続きを!
何て朴念仁のテンプレ。
ただ、ちょっと紫らしい胡散臭さと空気
「待つ」空気に欠けるかなー、と思う。でも良い作品かと
この二人は良いですよね、絵になると言うか…
だが、みなさんおっしゃるとおり、色々足りないんだ!!
まだまだ足りないんだ、さぁ続きをっ…!!!
好き
そういう意味で半分の50点、入れさせて貰います。
さぁ!!!俺は待っているぞぉぉぉぉぉおぉお