その広大な図書館の蔵書の海を紫を羽織った少女が漂っている。
「……」
ぺらり。
「……」
ぺらり。
「(落ち着く……)」
一枚、また一枚と本をめくり、物語を進めていく。
「小悪魔」
「はい」
からのコップを指すと、側に立っている使い魔が追加の紅茶を注ぐ。
注ぎ終わる音が聞こえたら、本に目をやったまま取っ手を掴み、コップを口元に寄せる。
するっ、ごくり。温かめの水分が喉を通っていく。ややぬるいが、ゆげがでると本が湿るので、ここではこれでちょうどいいのだ。
「小悪魔」
「はい」
「本は、いいわね」
「ですね」
「読めば、別の世界に行ける。書けば、別の世界を創れる。考えれば、世界を旅することができる」
「はい」
パチュリーは本を閉じ、突然立ち上がって窓の方に向かって口を開く。
「私は、この小さな小さな、世界全体と比べれば塵芥のような、そんな空間に閉じこもり、なおも世界全体を感じ、世界全体を語り、世界全体を旅している。素晴らしいことではないか! いつでも読め、すぐにでも書ける――それがずさんなものであろうと、評価されぬものであろうと――あなたはそれを書いたんだ! 読んだんだ! そして、その世界にいて、旅した! これが重要なんだ!」
「しくしくさめざめ」
小悪魔が両手を目の上に仰々しく添えて棒読みで泣いている。
「どしたの、小悪魔」
「パチェ様がとうとう頭がおかしくなったと思いまして。ヒキコモリ怖い」
「……わかってないわね。つまり、私が言いたかったのは、文章は楽しいってことよ。……さて」
パチュリーは数枚のA4紙と羽ペンを取り出した。
「そろそろ書き始めようと思うわ」
これから期待してるぞがんばれよ。