Coolier - 新生・東方創想話

春よ来い

2016/03/21 22:21:19
最終更新
サイズ
1.97KB
ページ数
1
閲覧数
1489
評価数
7/13
POINT
950
Rate
13.93

分類タグ

冬の寒さもようやく和らぎ、草木が芽吹かんとする陽気に私は目を覚ます。

ひゅうと吹く風に、早く目を覚ませと急かされている気がして、うんっと一つ背伸びをした。

そうして、己の内から湧き出る衝動に身体を震わせる。

それは決して悪いものでは無い。
言うなればそう、それは歓喜だった。

ああ、早く。
早く、早く、早く!

せわしなく動く世界が、一瞬止まったような錯覚に襲われる。
まるで、何かを待ち構えるかのように、虫も、動物も、そっと息を潜めているようだ。

それに答えるように、私は呟く。

「…春ですよー」


途端に、世界が動き出した。
爆発するかのように音が溢れ出し、生命が蠢き始める。

木々は喜びを押さえきれないとばかりに、膨らんだ蕾を綻ばせた。

虫が、動物が、冬眠から覚めて続々と姿を現した。

春が来た!
春が来たぞ!

そう、どこか誇らしげに散らばっていく。

そして私もまた、その羽を精一杯振るわせて飛び立って

「春ですよー!!」

再確認するように、噛みしめるように、また春を告げるのだ。


私はただ、春を告げるだけ。
土の声を、風の声を、多くに届けるだけ。

だけどそれが私の使命。
そうして春を、喜びを、笑顔を運ぶのが私の役目。

だからまた、私は飛ぶのだ。

虫の妖怪に、

「春ですよー!」

花の妖怪に、

「春ですよー!!」

人里にも。

「春ですよー!!!」

私が春を告げると、皆決まって笑顔になる。
その笑顔に元気を貰って、幻想郷を飛び回るのだ。


妖怪の山を越え、吸血鬼の館を通り過ぎ、竹林を飛び越えて。
そうして一通り回り終えて最後の場所に辿り着く。

塗装が少し剥げかけていて歴史を感じさせる鳥居をくぐって、縁側の方へ向かう。
ここは妖怪神社とさえ呼ばれている博麗神社だ。

その縁側に座っているどこか悲しそうな、ともすれば今にも涙が零れそうな雰囲気の巫女の前に立つ。

ちら、とこちらに目を遣る巫女に笑いかけてまた、

「春ですよー!」

そう声をあげる。

きょとんとした顔の巫女だったが、そう、春ならあいつも会いに来るかな…と何やら呟いて

「ありがとう、ご苦労様」

そう言って、ふわりと笑った。

笑顔がまた一つ花開いたのを見て、私はまた空へ飛んだ。


私は春告精。
春を告げるだけ。
だけどそれは、大きな喜びを伴っていて。


…今年もまた、春が来る。
春ですね
走る
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.280簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
詩的でとても良いです。
4.100名前が無い程度の能力削除
読み進めていくにつれて
段々と温かい気持ちになってくる
春らしい良い作品ですね
5.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気も良く素晴らしかったです
7.100名前が無い程度の能力削除
春ですねぇ
8.90名前が無い程度の能力削除
待ちに待った春、良かったです。
9.100名前が無い程度の能力削除
非常に良い春ですねえ
11.100もんてまん削除
良かった!
霊夢も良い!