Coolier - 新生・東方創想話

数ある運命の内に一つくらいはあってほしいような話 中編

2005/09/15 01:54:26
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 「なけなしの春くらいは持っていそうだな」
 「私も、なけなしの春を頂こうかしら」

 二人が出会ったのは、春が半ばを過ぎてもまだ雪が降るある日。
 地上の吹雪と上空の桜吹雪の境目、二人は弾幕ごっこで激闘を演じた。




 自慢の白黒洋服もズタボロ、お気に入りの帽子も無くした魔理沙が、木々の上をふよふよと
頼りなさ気に飛んでいる。きょろきょろと辺りを探っていたが、やがて雪原にぽつんと落ちている
帽子を見つけて、そこへ急行した。

 「・・・あったあった。こいつを無くしたら凹んでたところだぜ・・・・・ん?」
 帽子を拾い上げた魔理沙が気付く。少し先の積雪に穴が開いていた。

 ・・・それを少し見つめていた魔理沙だったが、何かを思いついたらしくにやりと笑う。

 「おーい、生きてるかー!?」
 穴に向かって呼びかけた。・・・・だが何の応答も無い。
 「んー、死んじゃったかな?マスタースパークをモロに喰らってたしなぁ・・・仕方ない」
 魔理沙は近くの雪を両手いっぱい抱える。それをおもむろに穴の中へ放り込んだ。拾っては入れ
拾っては入れ、ザクッ、ばさっ、ザクッ、ばさっ・・・
 「ここは冥福を祈りつつ、しっかり埋めてやらないとな」

 「―――ぶはぁッ!!何するのよこの二色馬鹿ッ!!」
 ドボンと豪快に雪を撥ね退けて、穴からアリスが這い上がってきた。青を基調とした服も
美しい金色の髪も、今は魔理沙以上にボロボロである。
 「おお、生きていたか人形馬鹿」
 「フン。あんなのに直撃するほど間抜けじゃないわよ。寸前で防御結界を張ってダメージを
軽減させたわ。・・・・・・手持ちの人形は全部駄目になったけど」
 「ほほ~う、・・・私とは術式が大分違うんだなぁ。うむ、興味深い」
 アリスの軽口を、魔理沙はにやにや笑いながら聞いている。

 アリスは緊張していた。先ほどの弾幕ごっこで、手持ちのスペルカードも戦闘用の人形も全部
使い切ってしまっている。つまり今のアリスには大した戦闘力は無い。加えて体力も著しく消耗
していた為、ただでさえ無駄に速いこの白黒から逃げる事は困難だった。
 今、魔理沙がトドメをさそうと思えば、実に容易く実現出来る。アリスはこの状況で軽口をたたき
ながらも、何とか生き残る方法はと模索していた。

 「・・・あなた、春を戻しに来たんでしょう?巫女とメイドはもう先に行ってしまったわよ」
 「ああ、あいつらが行ったんなら大丈夫だろ。・・・って言うより、霊夢が動きゃ大抵の事件は散々
引っ掻き回された後に解決するよ」
 「・・・破天荒なあなたが言うんだから、あっちの二色も相当なものなのね」
 「おう、私なんて可愛いもんだぜ?」
 「世も末だわ」
 「幻想郷だぜ」

 何とか時間を稼ごうと会話を引き伸ばしてみる。だがその間も魔理沙は笑いっぱなしで、アリスには
何か企んでいるように思えた。命の危機という状況ではこの上なく不安になる。


 「えっと、お前なんて名前だっけ?」
 そんなアリスの内情を知ってか知らずか、魔理沙は呑気な問いを口にした。

 「・・・・弾幕前に名乗ったけど」
 「あんときゃ、お前の名前に興味は無かったからな」
 「へぇ・・・じゃ、今頃になって何でそれを聞くのよ」


 魔理沙は笑った。
 やんちゃなようで女の子らしいような、まぶしい笑顔。


 「お前、おもしろい奴っぽいから気に入った。だからお前はもう友達だ」


 トクン・・・・・

 胸の鼓動が一気に跳ね上がった。顔も熱くなる・・・おそらく赤くなっている。
 ・・・何?今の顔はナニ?さっきまで敵同士だったのに、何で急にあんな顔をするの?

 あなたは人間で私は妖怪で、一緒に居られる訳がないじゃない。

 ―――なのに・・・・・

 ――――――――なのに・・・・・・・友達・・・?

 自分がどれだけ馬鹿な事を言っているか、解ってないの?

 ―――これだから、野良魔法使いは・・・・・


 だけど・・・・・・




 「なー、今度はちゃんと覚えるからさー」
 「・・・・・・・よ」
 「ん?」


 「・・・アリス・マーガトロイドよ・・・霧雨魔理沙」


 初めて感じる人の温もりは、これ以上無いくらい心地よかった・・・・・・・・・

















     『数ある運命の内に一つくらいはあってほしいような話 中編』













 「こちら紅魔館西館メイド部隊、配置に付きました!」
 「こちら東館メイド部隊、準備万端です!」
 パチュリーの持つ水晶玉から、そんな声々が聞こえてくる。


 「西館とか東館とか聞くと、何かを思い出すわ」
 「?・・・何の話よ?」
 「さぁな、夏とか冬とかの話じゃないか」
 紅魔館のとある一室で、魔女三人が水晶玉を見つめていた。




 「本当に・・・・こんな事で何とかなるの?」
 不安一杯といった表情でアリスが呟く。
 「運命を変える一番の方法は抗う事。結果が違うモノになると、そこからまた
違う運命の流れに乗るのよ」
 水晶玉から視線を移してパチュリーが答えた。

 「レミリアに補正してもらうってのは駄目なのか?」
 今回の騒動の火付け役、魔理沙がふと気付く。
 「駄目よ。そもそも運命を強制的に変えようとすると、流れに歪みが出来るわ。それはとても
怖いものなの。あのレミィだって迂闊に運命操作をしようとはしないんだから。あなたは少し、
自分が無力な人間である事を自覚した方が良いわよ」
 「無力な人間だから、いつまでもそのままでいられないんだぜ」
 「分不相応。過ぎたる力は己を喰らうわ」
 「それは生まれた時からキャパシティの決まっている妖怪の価値観だな。人間の可能性は
底無しだぜ?」
 原因に反省の色は微塵にも感じられなかった。



 「パチュリー様、失礼します」
 咲夜が部屋に入る。その手には紅茶のセットが持たれていた。カップは3つ。
 「メイド部隊は全員配置に付きました。それと紅茶をお持ちしましたが」
 「今から実験を始めるから紅茶はそこに置いて」
 「かしこまりました」
 言われた通りセットをテーブルの上に置いて、咲夜は一礼の後に退室した。






 「・・・じゃ、始めるわね、アリス」
 「ううう・・・・、本当にしなきゃいけないの・・・・?」
 アリスは今にも泣き出しそうである。
 「あなたは今、魔理沙の薬の所為で運気上昇ではなく変な運命に囚われている。だけど
服を脱いだら必ず誰かに目撃されるって、中々難しい確率のはずなのよ。無防備なら
まだしも、こうして四方を守りで固めたら、そう易々と覗かれはしないはずよ」
 「そして『必ず目撃される』って結果を覆してしまえば、今アリスを捕らえている運命も
流れを変えるって事か」
 「強制的に作り出した運命だから、変わるのは容易いはずだわ。変えるのは大変だけど」

 アリスを部屋の中心に置いて、魔理沙とパチュリーは出入り口のドアを開いた。
 「私達が出て、外から鍵を閉めたらスタートよ」
 「乙女らしく豪快にスパーンと脱ぐのが良いぜ?」
 最後の意思確認、二人は赤い顔で下を向くアリスに視線を合わせた。


 紅魔館総員で周囲をガードし、その中心でアリスが服を脱ぐ。
 これが今回、アリスを苦しめる運命を変える方法として案じられた方法だった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・解ってるわよ・・・・」
 長い沈黙の後、小さく頷く。


 それを確認し、二人は部屋から出てドアを閉めた。
 直後にカチリと音がする。

 「このドアは私達がガードするわ」
 ドア越しの向こうからパチュリーの声が聞こえる。元々小さい声でぼそぼそと喋る彼女の
言葉は、この状況では辺りが静かだからやっと聞こえるものだった。
 「おう、安心してやってくれていいぜ」
 反対に元気良く、はきはき喋る魔理沙の声はドアを挟んでも良く聞こえてくる。



 アリスは顔を赤らめて、まず周囲をきょろきょろと見回した。
 昨日の夜に泊まった部屋である。一人で使うには少々・・・・いや豪快に大き過ぎだ。こういう時は
この広さが不安感を煽る。どこかに目があるんじゃないかと疑心暗鬼になっていた。これが
狭い部屋なら、もう少しも安心できるのに・・・・・などと思うアリスだが、多分狭い部屋でやっても
同じくらい不安であったはずである。

 だがやがて、意を決する。
 ゆっくり、ゆっくりと、胸元のリボンを解いていった。

 しゅるしゅる・・・ぱさっ。

 乾いた音を立ててリボンが床に落ちる。



 ぷち・・・・・ぷち・・・・・ぷち・・・・・・

 しゅるしゅる・・・・・ぱさり。





 「おーいアリスー!」
 魔理沙が叫んだ。もちろんドア越しであるが、

 「ひゃんッ!?」
 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


 「もう脱いだのかー?」
 「ま、まだ上着だけよ!」
 見られてる訳でもないのに、持っていた上着で上半身を隠す。
 「何だ?まだそんな事やってるのか?日が暮れちまうぜ」
 「う、うるさいわね!そもそも全ての原因はあなたでしょうが!」
 「あーはいはい。文句なら後でたっぷり聞いてやるから、早く脱いじゃえよ」

 人の気も知らないで・・・・・・、これが無事終わったら同じくらい恥ずかしい目を見せてやる!
 ・・・・・などとこっそり誓うアリスであった。


 ぱさっ・・・
 「おーい、今はどんな感じだー?」
 「ス、スカートを脱いだわよ・・・・!」

 ぱさり。
 「今はー?」
 「ブ、ブラウスを今から脱ぐところよ!って一々聞かないでよッ!!」





 ぱさり。ブラウスが床に落ちた。
 白くて細い肩が少しだけ震えている。

 もうここまで脱いでいたとしても、例え誰に見られている訳でもないにしても。
 ―――最後の一枚は酷く怖かった。


 何だか、すごくいけない事をしている気がする。背徳感。これに思考が飲まれてしまうと
もう戻って来れないような、だがその奥にある快楽はとても甘美なような・・・・

 (・・・・・・って、何を考えてるのよ私は!)
 アリスはぼーっとした頭を左右に振って、思考にかかった靄を払った。




 恐る恐る、

 自分を覆う最後の結界にゆっくりと手をつけた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・











 「・・・・・・あのー」
 霊夢が済まなそうに声をかけた。





 ・・・・・・・・・・・・

 「・・・きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」

 かちゃっ!ばたん!
 「何だ!?どうしたアリス・・・・・あ」
 「作戦失敗な・・・・・・あ」
 「いやあぁぁぁぁぁッ!!きゃあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 紅魔館はその日、ちょっぴりがたがた揺れましたとさ。








 「・・・何で急に現れたんだ?霊夢」
 咲夜が置いていった紅茶を飲みながら魔理沙が訊ねる。

 「んー・・・弾幕ごっこしてて、『幻想空想穴』を使ったら出口間違ったっぽい」
 お茶が緑茶でない事に少し不満気な霊夢が答えた。

 「あの技って、そういうものなの?」
 カップは持っているが口を付けないパチュリー。魔力以外のどこもかしこも病弱な
彼女は、舌もやっぱり猫舌なようである。

 「見られた見られた見られた見られた・・・魔理沙だけじゃなく霊夢にまで、見られて、
見られ、ら、られウフフフフフフフフフフフフ」
 膝を抱えてどんより暗いアリス。ぶつぶつ、時折笑い声、ちょっと怖い。



 「・・・・・でも、まずいわね」
 そんなアリスを見て、表情を曇らせるパチュリー。元々あまり明るい顔をしていないが。
 「咲夜の紅茶がか?」
 「アリスを縛る運命がこれほど強固だとは思わなかったわ。あらゆる束縛に囚われない霊夢
ですら巻き込んじゃうなんてね」
 「まぁ私にとって無害なのも原因なんだろうけど。そうね、こんな事は初めてだわ」
 三人はアリスのどんより暗い背中を見つめた。まだぶつぶつ言ってる。


 「・・・・あー、アリス。元気出せよ、まだ手はあるって」
 魔理沙が近付いて、その肩をぽんぽんと叩く。
 「・・・・・・・・・・・」
 「ほら、それに、なんだ。見られたのもみんな同性だしさ、不幸中の幸いってやつじゃないか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「これで、香霖辺りまで巻き込まない内に解決しなきゃなぁ。あの朴念仁だって一応男だし・・・・」
 「・・・・・・・・・・せに・・・・・」
 「ん?」

 アリスがいきなり立ち上がった。
 涙を溜めた目で魔理沙を見下ろす。

 「・・・元気だせ?不幸中の幸い・・・!?私の気持ちも解らないくせに良くそんな事が言えるわねッ!!」
 その怒声は今まで魔理沙とのやりとりで何回もあったおふざけの延長ではなかった。心の底からの
本気である。・・・・だから魔理沙は黙ってその顔を見つめた。

 「あなたが原因でしょうッ!?責任とってよ!!」
 そんな魔理沙の目を睨みつけるアリス。一気に言葉を吐いて少し息があがっていた。

 「・・・・・・・・ああ、悪かったよ」
 アリスが言いたい事を言い切った事を確認して、魔理沙が小さく言う。普段の元気さは流石にない。
 霊夢もパチュリーも、もちろんアリスも、こんなに沈んだ声を出す魔理沙を初めて見た。

 「責任はどうやってとれば良い?私もここで脱いだら許してくれるか?」
 「・・・・えっ?」
 意外な言葉にアリスが目を見開く。

 しゅる、しゅる。
 返事を待たず、魔理沙はいつも身に着けている白いエプロンを外した。ぱさりと床に落ちる。霊夢達は
言える言葉が見つからず静観していた。
 魔理沙はやや俯いている。少し悲しげではあるが無表情で、そのままベストのボタンを一つ一つ
外していった。
 「・・・・・・・!」
 ベストも床に落ちる。手は止まらない。上着のボタンもゆっくり、だが決して止まらず外していく。
 ぷち・・・・ぷち・・・・ぷち・・・・

 「や・・・・・・・止めてッ!!」

 大声で止めたのはアリス本人だった。

 魔理沙は手を止めて顔を上げた。アリスの顔を直視する。

 「・・・・・何で止める?」
 「あ、あなたが脱いだって、何も解決しないわよ!・・・何も・・・・!」
 「じゃあ、他にどうしたら良いんだ?グリモワールか?魔導具か?お前は何を望んでるんだ?」

 それは魔理沙の精一杯の謝罪の言葉だった。その後ろに他意や深慮など無いのだが・・・・・・
・・・・・・アリスには、その言葉が酷く悲しく感じられた。

 「・・・・もう良いわ」
 「良く無い。私はまだ許してもらってないぞ。言ってくれよ、何をして欲しいん・・・・」


 「もう良いわよッ!!あなたの顔なんてもう見たくないって言ってるのよッ!!」
 「・・・・・・!!」


 タタタタタ・・・・・!
 固まった魔理沙の横を走り抜けて、アリスは部屋から出て行った。
 ずっと俯いたまま。

 きらきら光る雫を両目から零しながら。









 「・・・・・・・・・なぁ、霊夢」
 その場から動かず、顔も向けず、魔理沙がぼそりと呼ぶ。
 「何?」
 霊夢はいたっていつも通りに答えた。

 「私はどこを間違った?」
 「それは倫理論の事?それともあんた自身の事?」
 「どっちも間違ったのか?」
 「魔理沙らしい言葉だったわ。あんたがちゃんと謝ろうとした思いは伝わったわよ」
 「じゃあ倫理的に間違ったのか」
 「何で?お詫びに価値有るもの差し出そうとする事の、何処に悪意があるって言うのよ」
 「じゃあ私は間違わなかったのか?」
 「さあ?そんな事が私に解る訳無いわ・・・・・・・ただ」
 「ただ?」


 「アリスはそんな事して欲しかった訳じゃ無いんじゃない?」


 「・・・・・・・・・・」
 魔理沙は黙った。


 「・・・・・さて、お茶も頂いたし、私も帰るわね」
 ティーカップをテーブルに置いて、霊夢が椅子から立ち上がる。え、この状況で帰っちゃうの?・・・と
言いたいけど言えないパチュリーが何とか目線で訴えようとするも、霊夢はそれに一瞥もしなかった。
 すたすたと、何の気も無しに部屋を出て行く。

 「・・・・・・・・・・・・・えーと、魔理沙?」
 流石にこうなっては黙っている訳にもいかず、パチュリーはおずおずと魔理沙に声をかける。
 「・・・・・・すまん、パチュリー、世話をかけたな。私も帰るぜ」
 「あ・・・」
 顔を上げないまま、魔理沙も早足で部屋から出て行った。


 広い広い部屋に、ぽつんと残されたパチュリー。
 しばし三人が出て行ったドアをぼーっと見つめた後、
 「・・・・・・・今日は厄日かしら」
 ぽつりと呟いた。










 アリスが魔法の森の中を、自分の家を目指して飛んでいる。涙で目が曇り、それを拭おうと袖で擦り
ながらも進みは止めないので、時折木々にぶつかりそうになった。それでも構わず飛び続ける。

 ・・・・・・・言ってしまった。激しい後悔が胸の奥で渦巻く。

 何故、あんなに腹が立ったのだろう?アリスは自分に問いかけた。

 いつも魔理沙の破天荒に付き合わされて、口では何だかんだと言っているが、本当に彼女に嫌悪感を
持った事は一度だって無い。・・・・いや、引っ込み思案気味なアリスは、いつだって今の自分より大きい
モノに臆する事無く立ち向かう魔理沙に憧れてさえいた。
 今回の騒動だって、それは死ぬほど恥ずかしいし仕返ししてやるとも考えたが、魔理沙そのものを
拒絶しようとまでは思わなかった。


 ――――あの一瞬までは。


 『あなたが原因でしょうッ!?責任とってよ!!』
 それは本心から出た言葉では決して無い。責任をとって欲しいとも思わなかったはずだ。
 ただ・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・ただ・・・・・・・・・・



 そこから先はアリス自身でも良く解らない。
 しかし、その後の魔理沙の態度が悲しく感じられた事に疑問は無かった。

 はっきり言えば、アリスは人と付き合う事が苦手だ。社交的ではあるし礼儀も心得ているが
いわゆる『距離の近い関係』となると、どうしたら良いか解らなくなってしまう。『マニュアルに
沿った付き合い』しか知らないのだ。それは社交では使えても『友達』には使えない。
 だからアリスは、友達として付き合ってくれる魔理沙に対しても霊夢に対しても一歩引いてしまう。
 一歩引いているけど、距離は広げたくない。初めて友達という温かみを知ったアリスがそれを手放す
事など、もうどうやっても出来はしない。だけどその温かみとうまくやって行く方法も知らない。

 自分が求め過ぎる事を知られたら、もしかしたら彼女等は嫌って離れて行ってしまうかもしれない。
 そんな恐怖から、自分の好意を胸の奥にしまって冷静に振舞おうと努める故に、つい冷たい態度を
とってしまう。それは自覚していた。

 それでも、何ら気にする事無く一緒にいてくれる魔理沙に、都合の良い幻想を抱いていた。
 片思いである。

 そんな魔理沙が責任をとろうと脱いだり、自分の持っている価値有るものを差し出そうとしたり。
 ・・・・・自分と魔理沙の間にあったつながりのこじれは、そういった『モノで修復できる』ものだと
思われていた。それがとても浅いものに感じられたのだ。

 我侭を言ったのである。甘えさせて欲しかった。しかし魔理沙がとった態度は『マニュアルに沿った
付き合い』だったのだ。それの底の浅さは自分が良く知っている。
 そして彼女と自分の距離は、その程度のものだったのだと知ってしまった。



 しばらくは・・・・・せめてしばらくは、誰とも会いたくない。
 涙はまだ止まらず、アリスは薄暗い森の奥に消えていった・・・・・・・・








 魔理沙もまた、あれから自宅に帰ってこもってしまった。
 本を読もうにも魔法の実験をしようにも、どうしても集中出来ない。思考に隙があればそこには
必ず、泣きながら去っていったアリスの顔が浮かんでくる。

 そんな調子でわずかに食べたり寝たりしただけの三日間が過ぎていた。
 苦痛に苛まれた三日間だった。

 心労が溜まったその顔は、普段太陽のように明るく笑う美しい少女だとは思えないほどやつれている。

 魔理沙がこうして塞ぎ込む事はまったくもって珍しい。能天気というわけではなく、傷付いたり
落ち込んだりする事は年相応の少女として多々ある。だがそれをいつまでも引きずらないのが
魔理沙の信条だった。
 『立ち止まってるだけじゃ何も解決しないぜ』
 この言葉が全てを語る。何があっても全力を持って前に進む、そうして今まで生きてきた。


 だが今回は足が前に進まない。

 誰かとケンカするなんて、今までだって幾度もあった事だ。霊夢ともパチュリーとも、もちろん
アリスともした事がある。だが少し時間を空ければ何となく『もう良いか』って気持ちになって、
普段通りにひょいと会いに行けば、すぐに仲直り出来てしまう。

 それは自分と彼女達の間に『絆』があるからだと、魔理沙は理解していた。
 絆とはそう簡単に切れたりしない。例え意見の違いが摩擦を起こし対立する事があっても、
絆が繋がっている限りすぐに仲直り出来る。
 そういう関係こそが魔理沙の考える『友達』である。

 アリスとの間にもそれがあると、魔理沙は信じていた。
 確かに今回は、間違いなく自分が悪い。だから何とか解決しようと力を尽くしたし、落ち込んでいる
アリスを励まそうともした。

 『あなたが原因でしょうッ!?責任とってよ!!』
 アリスのその言葉を、魔理沙は『誠意が足らない』という意味で捉えた。確かに、あれだけ
恥ずかしい目を見せてしまったのに、自分はまだアリスに何もしてやれてない。そう思った。
 だからアリスだけが恥ずかしい思いをしなくても良いように、自分も同じ立場に立とうとしたのである。

 『アリスはそんな事して欲しかった訳じゃ無いんじゃない?』
 霊夢の言葉の意味を、あれからゆっくり考えてみた。

 結局、自分はアリスの事を何も解ってなかったのだろうか。それが彼女を傷付けてしまって、そして
一つの絆を切ってしまう事になったのだろうか。・・・・・もう戻らないのだろうか・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 「・・・・・こうしていたって何の解決にもならない・・・か」
 そんな言葉を呟いたのは、ろくに寝ないで夜を過ごした後の、三日目の朝だった。


 まだ結果は解らない。アリスとの絆はまだ切れていないかもしれない。
 だとしたら私は、その切れかかった絆を修復しなくちゃ駄目だ。アリスも霊夢もパチュリーも
みんな大切な友人なんだ、一人だって失いたくない・・・!

 魔理沙はそう思い立ち、箒を持って家を飛び出した。


 目指すは博麗神社。
 こういう時は一人で考えないで、誰かに相談した方が良いと魔理沙は思った。一人だとどうしても
悪い方へと思考が行ってしまう。
 誰かに弱みを見せる事はポリシーに反するが、そんな事を言っている場合じゃない。アリスと
仲直り出来るならどんな信条だって捨ててやる。

 箒を握る手に力を込めてスピードを上げた。














 同刻、紅魔館。


 朝食を終えたレミリアがパジャマ姿でベッドの上、大きなあくびをかみ殺す。
 吸血鬼はこれから就寝の時間なのである。

 ふと、レミリアは天井を見上げた。一切の窓が無く明かりも消した状態なので、天井の
模様も人間には良く見えないが、吸血鬼には問題無い。

 ・・・違う。吸血鬼の瞳には、そんなものは映っていない。


 「・・・・・自然の川は、水が『その意思』によって自由に流れて出来たもの。その川の流れは『摂理』と
呼ばれるわ。・・・それを分不相応の者が強制的に変えてしまうと、どうなると思う・・・・魔理沙?」
 レミリアは暗闇の中、誰に聞かせるわけでもなく、小さく呟いた。
 そして布団の中にその小さな体を埋め、ゆっくり目を閉じる。


 「氾濫するのよ。・・・水害が起こるの。何もかも押し流してしまうわ・・・・」

 ・・・最後の呟きのすぐ後、おだやかな寝息が聞こえてきた。














 その日も霊夢は相変わらず、縁側で静かにお茶を啜っていた。

 魔理沙は庭先にふわりと着地する。

 「・・・・よっ」
 いつも通りの挨拶・・・・・ただ、やはり少々覇気が無い。
 「あら、いらっしゃい」
 霊夢はそんな様子も気にする事無く、魔理沙以上にいつも通りの挨拶を返した。霊夢らしいやと
思って魔理沙は苦笑する。
 縁側の、霊夢の隣に腰掛けて帽子を脱いだ。
 霊夢は来客用の湯飲みをあらかじめ用意していた。あまりに来客が多い為に、いつのまにか
そうするようになっていたのである。それにお茶を注いで、霊夢は魔理沙の横に置いた。

 「・・・霊夢、ちょっと相談に乗ってくれないか」
 湯飲みは手にしても口は付けず、魔理沙は早速話を切り出した。

 「・・・・・・珍しいわね。あんたが人の手を借りようとするなんて」
 「・・・ああ、珍しいよな。どうにも一人じゃ解決できそうも無いんだ、悔しいけど」
 自嘲気味に笑う。
 それを見て霊夢は、魔理沙が本気で悩み疲れている事を悟る。だから魔理沙が語りを始めて
終わるまで静かに聞くことにした。

 「・・・・ま、言うまでもないだろうが・・・、アリスの事なんだけどさ」
 「・・・・・・・・・・」
 「・・・・・正直に言って、私はどう謝ったら良いか解んなくなっちまったんだよ」

 「・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・ねぇ、魔理沙」
 「ん?」


 歪んだ運命は、少しずつ世界を蝕んでいった。
 水は高いところから低いところへ流れる。運命を川だと例えるなら、その流れも摂理に従う。
 溢れる川の水は氾濫して全てを押し流す前に、自身を歪めるモノの一番弱い箇所を壊す。
 歪んだ流れを正常にすべく、一番弱い邪魔者を破壊して川は生きるのである。

 そして、水がそうして自分の流れる川を守るように、運命もまた自分が流れるべき川・・・・
幻想郷そのものを守ろうと動いていた。





 つまり・・・・・・


















 「・・・・・・・アリスって誰よ?」

 魔理沙は持っていた湯飲みを落とした。派手に音を立てて割れる。
 中のお茶は大地に吸われ徐々に消えていった。

 ~続く~
やっちまった・・・・・

やっちまった4!
後編のつもりが長く長くなって、気が付けば中編なんて
言ってます4!?
お詫びに四次元星人になって謝罪する4。ごめん4。
ついでに四次元ビームも出しておきます。ビバ体調不良!
執筆が遅れたのはそんな体と夜通し遊んでる花映塚の所為です。
さすが炎天下の中、長蛇の列にならんでゲットしただけはあるゼ!
・・・原因が一つのファクターに結びつくような気がするのは錯覚ですヨ?

頑張って削って、何とかこの程度にまで縮めたものの
無理が祟って文章が荒くなってしまったデス。
(最初に書き上げた時は倍くらい長かったのです・・・)
でもここで切っておかないと後編に続かないし、引きも無いし・・・・・
短く簡素にまとめるって才能ですね。欲しいです。売ってください。

前編を読んで下さって、さらに後編をお待ちして下さっていた方々様々。
・・・・す、すぐ完結させます!見捨てないで下さいネ!?ネ!?
豆蔵
[email protected]
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コメント



0.4300簡易評価
2.90no削除
えええ、えーーーーーー!?
霊夢があらわれたところあたりまではまだ予想の範疇でしたが、ラストが・・・。
うわわ、ものごっつう続きが気になります。
18.70名前が無い程度の能力削除
続きが・・・気になる!
28.60床間たろひ削除
うわ……「運命」って怖っ!
なんかシリアスモードが漂ってきたんですけど……
続きをお待ちしております。
48.70まんぼう削除
気楽なだけの話だと思ったのに~
シリアスへ行きますか、これw
54.70名前が無い程度の能力削除
え?ちょ・・・あれ?
なんか話が予想だにしてなかったディープな方向に・・・
これがディスティニーと書いて運命というものか・・・次回が気になるぅ!
56.70名前があるかも知れない程度の能力削除
続きを!続きをお願いしまする~!
HappyEndを願ってます!
59.80名など無い削除
あーー!
続きが気になって夜も眠れません!
先生、何卒お早い対応を!
84.90幽霊が見える程度の能力削除
昔アサリしてたらキターーーー!!
むっちゃ気になる!どこや!?続きはどこや~~~!!
88.100突っ走る程度の能力削除
急展開にw