博麗神社。いつも寂れたボロ神社だけど、今日は来訪者よりちょっとだけ活気がありました。だがその僅かな活気でも、この気温のせいでそれ程感じられなかった。まぁそれでも死気よりマシだけど。
「あついわ…」
開口一番、レミリアがぼやく。
「暑いわね…」
続いて咲夜。
「アツイアツイうるさい!!っていうか勝手に人のうちに乗り込んで愚痴らない!こっちまで暑くなるんでしょうが!」
「「暑いものは暑いから仕方ないわよ」」
見事に咲夜とレミリアの声がハモる。
幻想郷の夏はいつも暑いけど、今日はいつもより増やして暑くてたまらない。ああ、暑い暑い連発したら更に暑くなった気が。
「ねーねーさくやーなんか涼しくなる方法は、なーい?」
「すみませんがお嬢様、紅魔館内ならともかく、こんなところでは私でも…」
「むーやっぱり人間って使えないわねー」
そう、例え完全な従者である十六夜咲夜でも、こんな何も無いところではどうしようもない。咲夜は悪くない、悪いのは全部この神社ね。この天気を予測できても対策を立てなかったのは決して彼女のせいではない。だってこんなところに出向いてるから、準備する気を失うのは当たり前じゃない。だからこの神社は悪い。巫女はそれ以上に悪い。
「ひょんな所で悪かったわね…」
ぼやく霊夢。何気につっこみも鈍い。というよりたれている、ひょんな所って何?
「あもう本当に暑いわね…涼しくなーれー」
「そんな安っぽいペンダントを振り回しても」
ちょっと手元にあるペンダントを掴んで、それを扇子のように振り回す。まあそんな表面積が小さいものから風が出るわけでもなく
フ――
って涼しい風が吹いた。あのペンダントから。
一瞬で消えてしまったけど、それは間違いなく冷気だった。
「…今、何か涼しくならなかった?」
「ええ、確かに感じましたわ、お嬢様。」
二人して霊夢に向かう。当人も訳判らん顔で、ペンダントとレミリア達を比べている。
「え、えーと…涼しくなーれぇ…?」
フ――
「出るわね。」
「そうですね。」
「…涼しくなれ?」
フゥ―――
「何か風が強くなっていません?」
「霊夢、もっと大きな声でやってみて?」
「涼しくなーれー」
フゥゥ――――
「大きくなってますね。」
「よし、いいよ霊夢、もっと吹かせて!」
「涼しくなれ!!」
フゥゥゥゥ―――――――!
「うわ、体に染みるーー」
「やりますわね紅白。さぁ、もっと気合を入れて!!」
「す、涼しくなーー!!れーーー!!!!!」
フゥァサァァァァ―――――――――!!!!!
「「涼しいーーーーーーー!!!」」
「私は暑いわよぉぉぉ!!!!!」
ひゅぅぅぅぅ…っ
「あ、無くなりました。」
「何やってるの霊夢、風が止まっちゃったじゃないの。」
「アンタらちょっとは人の事を考えられんのか…」
確かにそれだけ気合をいれれば無駄に暑くなる。冷気の元にいるから風も効かないし。
「で、何ですかそれ?」
ペンダントを指差して、咲夜が問う。
「ああこれね。まぁどうでもいいじゃない、普通に奪ってきたから。ただのペンダントだと思ったけど…こんな機能があったとはね。」
「またそんな略奪行為を…本当に巫女なの?あなた。」
「うるさいわね…ってレミリア何やってる。」
「え…と…ちょ、ちょっと実験。ペンダントを貸して。」
「あんた、思い切り牙を立てようとしなかったっけ?」
「気のせいだわ」
納得いかない表情でペンダントを手渡す。そしてレミリアがペンダントを受け取ると、さっき霊夢がしたように念じる。
「暗くなれ。」
フ―。
「「なっ!?」」
今度は霊夢と咲夜の声がハモる。なんとペンダントから一条の闇が流れ出した。すぐ消えていったけど、間違いなく、それは「闇の風」だった。
「よし、じゃ『全て暗くなれ』。」
フゥン―――
レミリアが念じる同時に、今度はペンダントを中心に一片の闇が展開した。外に行けば行くほど闇が薄れていくけど、その中心点にいるレミリアの手を包むのには十分である。
「ほほぅ。なら『長く全て暗くなれ!』!!」
グォ―――ン
「…マジ?」
「マジのようですね。」
周りが、夜のように暗くなった。明かりのある所はまだ明るいが、コレは誰がどう見ても立派な夜である。こんなことも出来るとは…
「ちょっとレミリア、返して!」
「ああ、夜が!?」
ペンダントを奪い取ると、霊夢が念じる。無論、周りに明りが戻っている。
「かなりずっと涼しくなれ!」
フゥ―――ぐごぉぉぉぉぉぉん…………
「………」
「………」
「………」
「「「す、涼しいーーーーー!!」」」
一瞬にして、事務所は丸ごと冷房されてしまった。
* * *
色々な実験が終わって、ペンダントの使い方がかなり明らかになった。まず掴んで念じる。「~なれ」と。そして念じる意思が強いほど効果が著しくなる。あと起動命令を修飾することで、微妙な調整もできる。
「ものすごく寒くなれ」と念じれば、どこぞの氷精と同等の冷気の嵐が飛ぶ。「浮くぐらい軽くなれ」と念じれば、風船みたいな結界が出て浮いた。でも「静かにうるさくなれ」や「2分3秒後2尺1寸長くなれ」は反応なしだった。意味不明や細かすぎる指令はダメらしい。
「便利ね、コレ…」
「そうね。これがあれば日の下でも出歩けるし、雨が降っても『濡れなくなれ』で自由に動けるし。」
「これさえあれば夏も冬も快適に過ごせるし、ゴミは『綺麗になれ』で消えてなくなるのよね…」
「このペンダントがあれば『軽くなれ』で元の体重に戻れるし、『豊満になれ』であの中国に(ry」
ってSS違うわよ!
「ちょっとメイド長、目つきがやばいわよ。」
「まさか咲夜、独り占めにするつもりじゃ」
はっと我に返る何か最近色々あったメイド長。
「いえまさかそんな私は決してそんなつもりなんじゃ、ってお嬢様、どうせ外出なさる時以外使わないのですから別にいいじゃないですか?」
「それはそうだけど、フランが暴れだしたら『大人しくなれ』やパチェに『健康になれ』とか出来たら」
流石にそこまで出来ないと思う。というより出来たら大変。
「ってあんたら人の物を自分のように使用権分配しないでくれる?」
霊夢、それあなたが言うのですか?
「人の物って」
「あなたも人から奪ったんでしょう?」
「奪ったから私の物なの。文句あるなら表に出てきなさい、2対1でも構わないわよ?」
「真昼に私に表に出ろと言われても…」
「大丈夫、メイド長に日傘をかざせてあげるから。」
「足手まといですけど、それ。」
「じゃないとケンカなんか売らないわ。ほら行くよ!」
「あ霊夢、待ってよー」
「ちょっとお嬢様、日傘!」
ぽつーん
そして誰もいなくなった。ペンダントを残したまま。いくらなんでも不用心過ぎるじゃない。こんな時に誰かが来たらどうするおつもり?
ススー
そう、こんな風にスキマから誰かが出てきたら、それこそ「どうぞ持って行って下さい」と言ってるほかない。
「据え膳を食わずになんとやらと言うし」
ひょこ、と出てきてペンダントを取る。ついでに……何で試そうかしら。あまり思いつかない。
「まぁ、帰って寝ながら考えましょう。これは頂いていきますね♪」
暑くて眠れなかったのがラッキーだったわね。ペンダントを取って、私は快適な冷房睡眠を取るために、帰路についた。
自分は霊夢は(幻想郷の住人の中では)結構まともな人だと思ってから最初は違和感ありました^^;
面白い話ですが、最後の方のペンダントが残されてから、紫に奪われるまでをもう少し細かく書いてもらいたかったです。
拙作「働かずにお茶を飲めない」、あと妖妖夢二面を参照してくださいw
あの「略奪開始ー」は結構本気だと思っているので、私にはw
最後に対しては…うわ本当に短すぎですね。気付け私。
ちょっとアレですけど、加筆しますね。
>ってSS違うわよ!
はSSは拙のアレでしょうか。
最後に来て今まで不明だった誰の視点か判明する仕掛けが面白かったです。
紫嬢、あんたやっぱり最高に胡散臭くて黒幕だ。
しかしすごいペンダントだなあ。私も欲しいですソレ。
んで手に入れたら「永夜抄体験版が通常版になr
ええアレです、咲夜の願いを考えていたら一発で浮き上がりましたw
永夜抄は「未来の後継もごもご(ぉ
・一瞬に、事務所が冷房になってしまった>一瞬にして事務所に冷房が入った
もしくは 一瞬にして事務所が冷蔵庫になった。
・『周りが乾くなれ』>『周りが濡れなくなれ』
・手足まといですけど>足手まといですけど
もし意図的なものでしたら陳謝。
お話自体は面白かったです。
いえ、単なる日本語語力不足 orz
修正しておきます。ありがとうございますー
その力に魅了されてアホなやり取りをする3人がいいですね。
最後で、紫視点だったと明かされるのは面白いですが、前半から地の文に女性の口調が使われているのは少々あからさまかな、と思いました。もちろん何らかの伏線があった方が、最後で「ああ、なるほどね」となる訳ですが。そのへんは加減が難しいかも知れませんね。
言葉遣いに違和感があったところを。
『声をハモる』→『声がハモる』or『声をハモらせる』
『出向かってるから』→『出向いてるから』
『準備する気が失うのは』→『準備する気を失うのは』or『準備する気が失われるのは』
『何か涼しくならなかったの?』→『何か涼しくならなかった?』
『もって吹かせて』→『もっと吹かせて』
『何やっての』→『何やってるの』
『それだけ気合をいれば』→『それだけ気合をいれれば』
『さっき霊夢のように』→『さっきの霊夢のように』or『さっき霊夢がしたように』
『包むのは十分である』→『包むのには十分である』
『コレを誰がどう見ても』→『コレは誰がどう見ても』
『便利わね』→『便利ね』or『便利だわね』