お腹が鳴った。ちょうど昼ぐらいだ。
「お腹すきましたね、小町」
「え、ええ……けふっ」
何でも、最近、小町はダイエットという体重を著しく減少させる努力をしてるらしく、昼食時は三途の川の水で腹を満たしている。
しかし、私の目には依然としてその結果が映らない。
それどころか、その反動で夜にフラフラと食べ物を探し彷徨する癖がついてしまったみたいだ。
これではいけない。
私が言うのも何だけど、この手の問題は説教でどうにかなる話ではない。ご高説で腹が膨れたら世話無いって、うるさいよ。
上司として、いえ、恋人として何とかしなくては。
「小町、今日はどこか外に食べに行きましょう」
まるで閻魔を見るような目で見られた。
「え、えーき様……それは何かの罰ですか?」
「まあ、今の貴女にはそう聞こえるかもしれませんね。しかし、そんな水ばかり飲んでいたらいつか身体を壊し、倒れ、仕事の方にも支障をきたすでしょう」
ああ、これは建前ですよ、と付け加えて、
「ですから、ここは外に出かけて気分転換でもした方が良いのです。えっ、体重? そんなの貴女の能力でどうにでもなるでしょう、ほら、体重を操る程度の能力で」
「ホントは外に行きたいだけなんでしょ」
「バカこまっちんぐ! 死ね!」
死ねは言い過ぎだと思って、やさしく小町の頬にキスをした。なぜか小町は泣いた。私の優しさに打たれたのだろうか。
……。
……。
……。
「ああ、この空気、この景観、そして人々……やはり秋葉原はいいですね」
「そ、そうですね、けふっ」
アキバに行くときはいつも、服装を気にしないで済むので楽だ。
ただ、小町の格好はブン屋に似た豚共がヨタヨタと群がってくるので男装させてある。
ああ、と私は切なくなった。
水で満たされた胃に、さらしできつく巻かれた胸。色素の薄い唇を伝う、滔々と溢れ出る唾液。
今の小町を見ていると、胸が締め付けられる。締め付けられるほどねーだろって、うるさいよ。
「何か、栄養のつく食べ物でも食べましょうね」
「そうですね、けふっ」
「何かご所望は?」
「そうですね……」
フッと白目を剥いた。
財布のことを気にしているのだろうか。ならば心配ないと、外貨がぎっしり詰まった巾着を見せ付けてやる。
フッと左目だけ白目を剥いた。
ブツブツと何か呟いているので耳を澄ますと、食べ物の羅列がお経のように連なっていた。
可哀想な小町。今日は好きなものを好きなだけ、胃が破裂して胃液が飛び散るまで食して良いのですよ。
「あたい、オムレツが食べたいです」
なんだ、そんなものとグルメマップを片手に開くと小町がそれを制した。
「いえ、違うんです」
「何を言っているのです? 小町、貴女、空腹のせいでとうとう頭が……」
「えーき様の作ったオムレツが食べたいんです」
思わず絶句して絶頂を迎えた。
私の手料理が食べたいと? 小町が私の料理を食べたくて仕方が無いと?
月の遣いを皆殺しにしてまで私の料r
「だめですか?」
「いえ……わかりました。その願い、叶えましょう」
平日の昼下がり。
私は小町の手を引き、とある店へ向かった。
……。
……。
……。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
冥土喫茶。
しかし、今日は用が違う。
「これこれしかじかの、かくかくうまうま、という訳なのです。どうでしょう、私を厨房へ立たせていただけないでしょうか?」
「うーん、困ったな。調理免許の無い人間を厨房へ立たせるわけには」
「お願いします! 私の可愛い部下の頼みなのです!」
店長に頭を垂れる。心中では舌打ちの嵐だが、小町のためだ、我慢。
「そうだなぁ……どこまでする?」
「えっ、何がですか?」
「だーかーらー……わかるでしょ?」
そう言うと、コジャレタ眼鏡をかけた若い男が自分の股間を指差して、唇の端を持ち上げた。
下卑た笑み。虫唾が走る。
頭の奥でチリチリという何か焦げる音がした。
ふと私は近くにあったスプーンで男の目を眼鏡ごとくり貫いた。そしてそれを男の口へ運び、顎の下から拳を叩きつけてやった。
左手に包丁を掴むと、何度か腹に刺し、刺し、刺し、腸を引きずり出した。
白髪の若い男は何か言いたげな表情のまま絶命した。
という妄想が頭をよぎった。って、うるさいよ。
「お店の営業許可書、とりあげますよ?」
「はっ、何を言っているのか――」
「この店じゃなくて。道具屋の方の」
男の頬が引きつった。実にわかりやすい男だと思った。
「あ、あんた」
「それから、何て言いましたか? あの、金髪が良く似合ったクセ毛の少女。彼女、まさか貴方ががこのような副業をお持ちとは知らないでしょうね」
「ま、魔理沙は関係ないだろ! そ、それに、あれだ。魔理沙に知られたところで別に」
「純情ですからね。自殺でも図るんじゃないですか。好きな男が女衒なんて知ったら」
動揺と呼ぶにはもう収拾がつかないほどの慌て様。
私は余裕に浸りながら、頭の中で魔理沙と呼ばれた少女をサクサク殺していた。
口元が緩んだのか、目が微笑んだのか定かではないが、男の青ざめてく様が私の信憑性を肯定している。
「男を知らない女は後始末が悪いですからね」
そして、男は飲んだ。
始めから大人しく従っていれば良いものを。
私を誰だと思っているのやら。この町のコスプレヤーと勘違いするには命知らずだ。
「ご協力、感謝します」
……。
……。
……。
「えーき様、だーいすきっ!」
いい具合に出来上がった小町を引きずり、宵闇に染まる秋葉原を闊歩する。
火照った身体に冷たい風が気持ちいい。
トロンと緩んだ瞳を傾ける小町が愛しくて、狂いそうになるのだけれど、私は足を休めることなく歩き続ける。
虎穴が見えてきた。この町でなかったら異端過ぎて目も当てられない、暖色に塗れた建造物を眺めながら、ここでようやく立ち止まった。
「虎穴行くんですかー?」
「ええ。今更仕事に戻っても仕方ありませんし、どうせなら思いっきりアキバを満喫しましょう」
「そうですねー……けふっ。でも、あたい、ちょっと風に当たってます。えーき様だけでイってきてください」
足元がおぼつかないのか、自販機の前に座り込んでしまった。
まあ、店の中で戻されても困るし、いいか。男装してるし大丈夫だろう。
店内の無骨な階段を上っていく。
途中、知ってる顔に良く似た女とすれ違ったが、服装が外界の女学生のものだったので、人違いだろう。
上へ行くにつれて、あのすえた何とも言えない臭いが鼻をついた。
きたきた。これだ。
一面に広がる同人誌の山。
どう考えても一人分の幅しかない棚。ぶつかり合うリュック。見本で熟考する無駄な時間。
「相変わらず巨乳に描かれてますね」
思わず西行寺本を手に取り、ため息が出た。魂魄妖夢が品行方正に描かれていて、笑いが吹き出た。
豊満すぎる悪魔の犬を見て、ほんとに好きだなぁと妙な慈悲が浮かんできて、すぐ消えた。
それにしても山の似非巫女は人気があるようだ。
「はあっ!? 盗んでねーしっ! てめぇらバカかよ!」
入り口の方から甲高い男の怒声が聞こえた。
色白で背の高い男が店員に腕を掴まれていた。
ざわざわと色めき立つフロアに、なんだか私だけが浮いてる気がして胃がむかついてきた。
見知った顔が男の隣に現れた。
小町だ。
「えーきさまー!」
いやな視線を背後に感じながら、手を振り返す。
そっちのコーナーはまだ早いと諌めるが、小町の耳に念仏である。
「うわぁ、すごい……」
小町も年頃の少女なのか、著しく汁が飛び散る描写に頬を紅くしていた。
「あたいとえーき様のけつまんちょに、こんなぶっといのが……」
「……」
「すごい……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はっ?」
いつの間にか、小町の手が股間に消えていた。
急いでその手を振り解いてみるが、手にはじっとりと、
「馬鹿小町! ほら、帰りますよ!」
「……」
見本に染みを作ってしまったので、それを逃げるように会計に通して私たちは虎穴を後にした。
走った。
小町は不機嫌な表情で押し黙っている。
「何怒っているのですか。場所をわきまえなさい」
「……」
そりゃあ途中で邪魔されたら天にも昇る怒りがこみ上げるだろう。
だけど、AVショップのサンプルで自慰に耽る中年でもあるまいし、ってうるさいよ。
無言の小町を引っ叩こうとして、ふと気がついた。
小町の視線の先。大通りをはさんで向こう側にさっきの色白男だ。
隣には警察らしき服装に身を包んだ男が二人。
「あっ」
警官の腕を振りほどいて、色白がこちらに向かって走り出した。
その瞬間だった。背後で何かがぶつかる音がした。
振り返ると、色白男が自販機の前で、仰向けに倒れていた。
鼻が赤黒く潰れ、ところどころに透明の破片が突き刺さっている。
隣を見た。
小町が口角を持ち上げて、けふっと漏らした。
「やれやれ」
……。
……。
……。
「何考えてんだこのチビ。殺すぞ」
口の悪い同僚の叱責を左から右へと聞き流し、適当な言い訳を並べた。
いつもはすぐにケリがつくのに、なぜか酷く食いついてくる。
「馬鹿野郎、無断欠勤のことじゃねーよ。てめぇ、あれほど外に行くときは気を使えって言ってんだろうがっ!」
「はて、何のことでしょう。小町がしたことなら別に」
「幻想だ、幻想! こっちに持ち込んじゃならねぇ禁忌のことだよ!」
はっとして虎穴の紙袋を開ける。
いや、違う。いたって健全な18禁だ。
「待ってください。ほら、これは何ですか? 百合です、百合。ちん○ちん付いてませんよね? だからこれはBLじゃあ――」
「……お前じゃなけりゃ、一体誰が持ち込んだっていうんだ?」
私でもない。小町でもない。
まさか。
まさか、虎穴ですれ違ったあの少女は。
ホクホク顔で虎穴の紙袋を携えてた、あの女学生風のグリーンヘッドは。そしてその中身は。
「神事に関わるのはまずいんだよ色々と。おめぇ、それでも閻魔かっ!? 現場押さえたんなら、とめるだろうが普通よぉっ!」
私は閻魔だ。
白黒つけなくては気がすまない性格である。
何とかする、と言ってその場を後にした。
小町とセックスして寝かしつけてから、私は早苗ちゃんに沙汰をつけるべくに山へと出かけた。
Fin.
「お腹すきましたね、小町」
「え、ええ……けふっ」
何でも、最近、小町はダイエットという体重を著しく減少させる努力をしてるらしく、昼食時は三途の川の水で腹を満たしている。
しかし、私の目には依然としてその結果が映らない。
それどころか、その反動で夜にフラフラと食べ物を探し彷徨する癖がついてしまったみたいだ。
これではいけない。
私が言うのも何だけど、この手の問題は説教でどうにかなる話ではない。ご高説で腹が膨れたら世話無いって、うるさいよ。
上司として、いえ、恋人として何とかしなくては。
「小町、今日はどこか外に食べに行きましょう」
まるで閻魔を見るような目で見られた。
「え、えーき様……それは何かの罰ですか?」
「まあ、今の貴女にはそう聞こえるかもしれませんね。しかし、そんな水ばかり飲んでいたらいつか身体を壊し、倒れ、仕事の方にも支障をきたすでしょう」
ああ、これは建前ですよ、と付け加えて、
「ですから、ここは外に出かけて気分転換でもした方が良いのです。えっ、体重? そんなの貴女の能力でどうにでもなるでしょう、ほら、体重を操る程度の能力で」
「ホントは外に行きたいだけなんでしょ」
「バカこまっちんぐ! 死ね!」
死ねは言い過ぎだと思って、やさしく小町の頬にキスをした。なぜか小町は泣いた。私の優しさに打たれたのだろうか。
……。
……。
……。
「ああ、この空気、この景観、そして人々……やはり秋葉原はいいですね」
「そ、そうですね、けふっ」
アキバに行くときはいつも、服装を気にしないで済むので楽だ。
ただ、小町の格好はブン屋に似た豚共がヨタヨタと群がってくるので男装させてある。
ああ、と私は切なくなった。
水で満たされた胃に、さらしできつく巻かれた胸。色素の薄い唇を伝う、滔々と溢れ出る唾液。
今の小町を見ていると、胸が締め付けられる。締め付けられるほどねーだろって、うるさいよ。
「何か、栄養のつく食べ物でも食べましょうね」
「そうですね、けふっ」
「何かご所望は?」
「そうですね……」
フッと白目を剥いた。
財布のことを気にしているのだろうか。ならば心配ないと、外貨がぎっしり詰まった巾着を見せ付けてやる。
フッと左目だけ白目を剥いた。
ブツブツと何か呟いているので耳を澄ますと、食べ物の羅列がお経のように連なっていた。
可哀想な小町。今日は好きなものを好きなだけ、胃が破裂して胃液が飛び散るまで食して良いのですよ。
「あたい、オムレツが食べたいです」
なんだ、そんなものとグルメマップを片手に開くと小町がそれを制した。
「いえ、違うんです」
「何を言っているのです? 小町、貴女、空腹のせいでとうとう頭が……」
「えーき様の作ったオムレツが食べたいんです」
思わず絶句して絶頂を迎えた。
私の手料理が食べたいと? 小町が私の料理を食べたくて仕方が無いと?
月の遣いを皆殺しにしてまで私の料r
「だめですか?」
「いえ……わかりました。その願い、叶えましょう」
平日の昼下がり。
私は小町の手を引き、とある店へ向かった。
……。
……。
……。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
冥土喫茶。
しかし、今日は用が違う。
「これこれしかじかの、かくかくうまうま、という訳なのです。どうでしょう、私を厨房へ立たせていただけないでしょうか?」
「うーん、困ったな。調理免許の無い人間を厨房へ立たせるわけには」
「お願いします! 私の可愛い部下の頼みなのです!」
店長に頭を垂れる。心中では舌打ちの嵐だが、小町のためだ、我慢。
「そうだなぁ……どこまでする?」
「えっ、何がですか?」
「だーかーらー……わかるでしょ?」
そう言うと、コジャレタ眼鏡をかけた若い男が自分の股間を指差して、唇の端を持ち上げた。
下卑た笑み。虫唾が走る。
頭の奥でチリチリという何か焦げる音がした。
ふと私は近くにあったスプーンで男の目を眼鏡ごとくり貫いた。そしてそれを男の口へ運び、顎の下から拳を叩きつけてやった。
左手に包丁を掴むと、何度か腹に刺し、刺し、刺し、腸を引きずり出した。
白髪の若い男は何か言いたげな表情のまま絶命した。
という妄想が頭をよぎった。って、うるさいよ。
「お店の営業許可書、とりあげますよ?」
「はっ、何を言っているのか――」
「この店じゃなくて。道具屋の方の」
男の頬が引きつった。実にわかりやすい男だと思った。
「あ、あんた」
「それから、何て言いましたか? あの、金髪が良く似合ったクセ毛の少女。彼女、まさか貴方ががこのような副業をお持ちとは知らないでしょうね」
「ま、魔理沙は関係ないだろ! そ、それに、あれだ。魔理沙に知られたところで別に」
「純情ですからね。自殺でも図るんじゃないですか。好きな男が女衒なんて知ったら」
動揺と呼ぶにはもう収拾がつかないほどの慌て様。
私は余裕に浸りながら、頭の中で魔理沙と呼ばれた少女をサクサク殺していた。
口元が緩んだのか、目が微笑んだのか定かではないが、男の青ざめてく様が私の信憑性を肯定している。
「男を知らない女は後始末が悪いですからね」
そして、男は飲んだ。
始めから大人しく従っていれば良いものを。
私を誰だと思っているのやら。この町のコスプレヤーと勘違いするには命知らずだ。
「ご協力、感謝します」
……。
……。
……。
「えーき様、だーいすきっ!」
いい具合に出来上がった小町を引きずり、宵闇に染まる秋葉原を闊歩する。
火照った身体に冷たい風が気持ちいい。
トロンと緩んだ瞳を傾ける小町が愛しくて、狂いそうになるのだけれど、私は足を休めることなく歩き続ける。
虎穴が見えてきた。この町でなかったら異端過ぎて目も当てられない、暖色に塗れた建造物を眺めながら、ここでようやく立ち止まった。
「虎穴行くんですかー?」
「ええ。今更仕事に戻っても仕方ありませんし、どうせなら思いっきりアキバを満喫しましょう」
「そうですねー……けふっ。でも、あたい、ちょっと風に当たってます。えーき様だけでイってきてください」
足元がおぼつかないのか、自販機の前に座り込んでしまった。
まあ、店の中で戻されても困るし、いいか。男装してるし大丈夫だろう。
店内の無骨な階段を上っていく。
途中、知ってる顔に良く似た女とすれ違ったが、服装が外界の女学生のものだったので、人違いだろう。
上へ行くにつれて、あのすえた何とも言えない臭いが鼻をついた。
きたきた。これだ。
一面に広がる同人誌の山。
どう考えても一人分の幅しかない棚。ぶつかり合うリュック。見本で熟考する無駄な時間。
「相変わらず巨乳に描かれてますね」
思わず西行寺本を手に取り、ため息が出た。魂魄妖夢が品行方正に描かれていて、笑いが吹き出た。
豊満すぎる悪魔の犬を見て、ほんとに好きだなぁと妙な慈悲が浮かんできて、すぐ消えた。
それにしても山の似非巫女は人気があるようだ。
「はあっ!? 盗んでねーしっ! てめぇらバカかよ!」
入り口の方から甲高い男の怒声が聞こえた。
色白で背の高い男が店員に腕を掴まれていた。
ざわざわと色めき立つフロアに、なんだか私だけが浮いてる気がして胃がむかついてきた。
見知った顔が男の隣に現れた。
小町だ。
「えーきさまー!」
いやな視線を背後に感じながら、手を振り返す。
そっちのコーナーはまだ早いと諌めるが、小町の耳に念仏である。
「うわぁ、すごい……」
小町も年頃の少女なのか、著しく汁が飛び散る描写に頬を紅くしていた。
「あたいとえーき様のけつまんちょに、こんなぶっといのが……」
「……」
「すごい……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はっ?」
いつの間にか、小町の手が股間に消えていた。
急いでその手を振り解いてみるが、手にはじっとりと、
「馬鹿小町! ほら、帰りますよ!」
「……」
見本に染みを作ってしまったので、それを逃げるように会計に通して私たちは虎穴を後にした。
走った。
小町は不機嫌な表情で押し黙っている。
「何怒っているのですか。場所をわきまえなさい」
「……」
そりゃあ途中で邪魔されたら天にも昇る怒りがこみ上げるだろう。
だけど、AVショップのサンプルで自慰に耽る中年でもあるまいし、ってうるさいよ。
無言の小町を引っ叩こうとして、ふと気がついた。
小町の視線の先。大通りをはさんで向こう側にさっきの色白男だ。
隣には警察らしき服装に身を包んだ男が二人。
「あっ」
警官の腕を振りほどいて、色白がこちらに向かって走り出した。
その瞬間だった。背後で何かがぶつかる音がした。
振り返ると、色白男が自販機の前で、仰向けに倒れていた。
鼻が赤黒く潰れ、ところどころに透明の破片が突き刺さっている。
隣を見た。
小町が口角を持ち上げて、けふっと漏らした。
「やれやれ」
……。
……。
……。
「何考えてんだこのチビ。殺すぞ」
口の悪い同僚の叱責を左から右へと聞き流し、適当な言い訳を並べた。
いつもはすぐにケリがつくのに、なぜか酷く食いついてくる。
「馬鹿野郎、無断欠勤のことじゃねーよ。てめぇ、あれほど外に行くときは気を使えって言ってんだろうがっ!」
「はて、何のことでしょう。小町がしたことなら別に」
「幻想だ、幻想! こっちに持ち込んじゃならねぇ禁忌のことだよ!」
はっとして虎穴の紙袋を開ける。
いや、違う。いたって健全な18禁だ。
「待ってください。ほら、これは何ですか? 百合です、百合。ちん○ちん付いてませんよね? だからこれはBLじゃあ――」
「……お前じゃなけりゃ、一体誰が持ち込んだっていうんだ?」
私でもない。小町でもない。
まさか。
まさか、虎穴ですれ違ったあの少女は。
ホクホク顔で虎穴の紙袋を携えてた、あの女学生風のグリーンヘッドは。そしてその中身は。
「神事に関わるのはまずいんだよ色々と。おめぇ、それでも閻魔かっ!? 現場押さえたんなら、とめるだろうが普通よぉっ!」
私は閻魔だ。
白黒つけなくては気がすまない性格である。
何とかする、と言ってその場を後にした。
小町とセックスして寝かしつけてから、私は早苗ちゃんに沙汰をつけるべくに山へと出かけた。
Fin.
こまえーきのやっているところを
あっちで書こうかwwww
これは空しくなる…やるんじゃなかったと後で後悔した
しかしえーき様黒いな、真っ黒だ。あるいはドドメ色。