「サンタクロース?」
「そ、サンタクロースだ」
いきなり何を言うのか、この黒ずくめ魔法使いは。
魔理沙はそういっていつものにかっとした笑顔を向けた。
「何? 新手の妖怪か何か?」
「詳しくはこの本を参照だ。かいつまんで言うと、クリスマスにソリに乗ってプレゼントを配る紅白の事らしいぜ」
といって本…絵本をこちらに渡し、そそくさとコタツの中に足を潜らせる。
私はため息をつきながらその本を受け取る。ぺらり、とめくっていくと確かに魔理沙の言うとおりプレゼントを配るおじいさんの絵が描かれていた。
「何かいろいろと引っかかる気もするんだけど、確かに言うとおりのようね」
「だろ? 香霖堂で見つけてきたんだ」
なるほど、それでいつものように“借りて”来たわけだ。少し霖之助さんが気の毒になった。
「へぇ、魔理沙にしては割と面白そうな話じゃない」
というのは居候と化した鬼っ子だ。
「だろー?」
珍しく意気投合する二人。
「で、それはいいんだけど、どうして私のところに持ってくるのかしら」
置いてある煎餅に手をつける二人の手を叩きながら、私は魔理沙に尋ねた。
「紅白といえば巫女、巫女といえば紅白だぜ」
「あのねぇ、まさか私にやれっていうの?」
また面倒を持ち込む気なのか。普段から宴会に使われ、ただでさえ面倒だというのに。
ひっそりと煎餅を持ち出そうとするチビ萃香を指先で吹き飛ばす。むー、という顔をする本体は無視。
「お、それもいいな。紅白のことは紅白に聞くのが一番と思ったのだがなるほど、やってもらうのが一番だ」
「なるほどー。最近霊夢暇そうだしねー」
嵌められた。ニヤニヤと顔を向けてくる二人。
「…………見え透いた嘘を言うのね」
はぁ、と大きくため息をついた。魔理沙は面白いと思ったことは無理をしてでもやろうとするだろうし、萃香にしても同じだ。魔砲や密の能力を使ってでも連れ出そうとするだろう。
「せっかくだし、服も借りていこう」
「あ、それいいねー。魔理沙の巫女服姿も見てみたいなぁ」
盛り上がる二人。
「こら、勝手に決めない。私はやーよ。そんな面倒くさい」
「お賽銭」
ぼそり、と魔理沙が呟く。ぴくり、と動きが止まった。いや、止められてしまった。
「恩を売ればがっぽがっぽ」
ぴくりぴくり。あ、なんか心の中で葛藤が始まってる。
「正月にはがっぽがっぽ」
がっぽがっぽ。頭の中でぐるぐるとお賽銭箱が回りだした。
『さあ、どうする?』
□■□■□■□
結局、巫女服では寒いということで香霖堂から適当な服を拝借することになった。
「まったく、結局着ないならわざわざ出させないでよ」
「そんなこと言っても、全部の脇が開いてるなんて寒すぎるんだよ」
まったく軟弱な。
「っと、そろそろ紅魔館だぜ」
私と魔理沙はソリに乗って紅魔館へ向かっていた。お互いコートと帽子をかぶり、ソリの後ろには大きな白い袋が乗せられている。どこからどう見ても絵本で見たサンタクロース。付け髭だけは勘弁してもらったが。
これらの小道具もすべて香霖堂から拝借してきたものだった。その準備に時間がかかり、結局夜になってしまっていた。どちみちサンタクロースは夜にプレゼントを配るのでちょうどいい、とは魔理沙の弁。
ちなみに、ソリを引くトナカイの役目はチビ萃香の役割だ。わーと半分ふらふらしながら進んでいくさまは見ていて少し不安になる。
「さて、門番は良いとして問題はパチュリーとメイド長ね。あの二人の目を抜けてどうやって置いて来ようかしら」
「あ? 何言ってんだ。正面突破で十分だろ」
ちゃき、と早速ミニ八卦炉を構える魔理沙。
「マスタァァァァァ」
刻まれた魔法回路が活性化し、周辺に染み出した魔法陣が高速で回転を始める。
「ちょっとま」
「スパァァァァァァァァァァァァクッ!」
ずしゃーと広がる恋の、いや故意の魔砲。光の槍は真っ直ぐ紅魔館へと突き刺さり、防御用の結界と干渉を起こして爆発した。
「……さすがパチュリーだ。また結界の強度が上がってるぜ」
「あなた、ひょっとして紅魔館行く度にこんな事してるの?」
「そいつは秘密だぜ」
笑顔。あー、なんかサンタクロースは夜中にこっそり届けてるんだーとか途中で氷妖精とか門番とか焼き尽くしてることとかどうでも良くなってきた。
「無事開門。さあ、こいつでどんどん進もうぜ!」
「了解ー」
元気に答える萃香。門の前に降り、私と魔理沙はソリから袋を持って降りた。
「ところで、この中には何が入ってるの?」
「私が用意したプレゼントだ」
「魔理沙が?」
あ、また不安の種発見。一体何が入っているのやら。また実験に失敗したキノコが大量に入ってるとかいうのはやめてほしい。
「心配しなくてもみんながほしい物を書いてくれたからな。きちんとそれらしいものを持ってきたぜ?」
つまり、この襲撃は以前から計画していたと言うことなのだろうか。
「まあ、それなら」
安心かなぁ、と言って門に向かう。
「また、あなたたち」
「メリークリスマスだぜ、メイド長」
「……メリークリスマス」
唐突に現われた十六夜咲夜は疲れたようにため息をついた。ちなみにメリークリスマスというのはクリスマス独特の挨拶の事らしい。
「あら、貴女も知ってるの?」
「まあ、一応貴方たちよりは知っているつもりよ。少なくとも私の知っているサンタクロースはいきなり魔砲を撃ってきたりはしない」
「だったら話は早い。良い子にクリスマスプレゼントだ」
「お嬢様と妹様ならいつもの所に居るわ」
と言って道を開けた。
「珍しく物分りが良いな。なんかあったのか?」
「妹様が元気なのよ」
あぁ、なるほど。追い返すよりも面倒に面倒をぶつけることで大人しくさせようということね。
納得して私たちは紅魔館の中に入った。
□■□■□■□
「あ、魔理沙だー」
「揺れたと思ったらやっぱり。あら、霊夢も」
満面の笑顔の妹とあらと意外そうな表情を浮かべた姉。
わーい、と魔理沙に突撃するフランを見送り、私はレミリアと向き合った。
「メリークリスマスってことでプレゼントを持ってきたわ」
「めーりくりすます?」
「どうも一年間良い子にしていた子供にプレゼントを贈るっていう習慣らしいわ」
「サプライズパーティの一種かしら。でも相手の家に押しかけてパーティを開くのは感心しないわね」
などといいつつ、それほど不機嫌ではなさそうだ。結構喜んでいるのかもしれない。
「貴女たち、いつもうちで宴会してるじゃないの」
「パーティと宴会は別物よ。貴女だって正月と節分は別物って言うでしょう?」
「それとは別よ。あら? 魔理沙は?」
「あぁ、フランを連れてどこかに行ったみたいね。図書館あたりにでも行ってるんじゃないかしら」
プレゼントを入れた袋もなくなっている。
「それじゃ、パチュリーの分は任せるとして、あなたは何を希望したの? もらってくるわよ」
「それには及ばないわ」
つ、と空中をすべるように移動するレミリア。その目が怪しい。
「私は貴女の血がもらえれば、それで」
げ。うすうす感づいてはいたけれど、はっきり口に出されるとそれはそれで。
「ほしいものをもらえるんでしょう? だったら私は博麗霊夢の血を頂くわ」
じりじりとよってくるレミリア。
「いや、もっと直接的な物でもいいじゃない」
じりじりを後退する私。
「物だったらここには大抵揃っているもの。欲しくなれば咲夜に頼めば持ってきてもらえる。だけど貴女の血となるとそうは行かないでしょう?」
うーん。それは確かにそうなのだけれど。
「残念だけれど、それは却下よ。私は血を流す積もりは無いわ。だからこの世に存在しない。存在しないものをあげる事は出来ないわ」
「詭弁ね。だったら直接頂いちゃっても良いんだけど」
じりじりと下がっていつの間にか壁際に追い詰められていた。やばい。今の服装ではすぐには符を出せない。レミリアの口の端が持ち上がる。
「なんてね。いいわ。今はそこまで気分じゃないもの」
「そう。こっちも折角のクリスマスに弾幕ごっこをしなくて済んで助かったわ」
内心の焦りを悟られないよう、あたしは言った。
「魔理沙にはきちんと欲しいものを言ってあるもの。これ以上もらったら後が怖いわ」
なるほど。冗談だったわけだ。それにしてもこの服だと普段のように戦えないって事に気づいたのは助かった。
「ところで、何を頼んでいたの?」
「血のようなワインよ」
□■□■□■□
「やっぱり魔理沙がいいなぁ」
「いやいや、私は駄目だ。だが代わりと言っちゃ何だが、こいつをやるぜ」
そういって取り出したのは魔理沙そっくりの人形だった。顔を真っ赤にさせて喜ぶフランドール。
「わぁ、魔理沙だぁ」
「貴女それどこから持ってきたの?」
「お、霊夢。もちろん都会派魔法使いからだ」
やっぱりなぁ、と思う。あいつも魔理沙の被害に良くあってるようだ。そう思うと少し同情したくなる。
あの後適度に話を切り上げて、魔理沙を探すからと言って図書館へと向かった。果たしてそこにはじゃれあう二人の姿があったと言うわけだ。
「しかし、よく無事だったな?」
「おかげさまで要らぬ汗をかいたわよ。あぁ、プレゼントはそこら辺に居るメイドに渡しておいて、だって。ところでパチュリーは?」
「あぁ。クリスマスのことを話したら面白そうねとか言ってほら」
魔理沙の指の先には本を一心不乱に読むパチュリーの姿があった。その周りで新しい本を持ってきては古い本を元に戻す忙しそうな小悪魔。
「あれはそのままにしておいたほうが良さそうね」
「だろ? さて、結構予定も積んでるしそろそろ次に行くか?」
「えー、もう行っちゃうの?」
「ああ。サンタクロースは忙しいんだ」
「次は永遠亭だっけ。今夜中に回れるかなぁ」
「むー。だったら私もついていくー」
とんでもないことをのたまう妹。
「おっと、さすがにそいつは駄目だ。確かに紅いけど白くない」
「そういう問題でもないでしょう」
そもそも白黒が何を言うのか。魔理沙に反対を食らって、一転して不機嫌になるフラン。あぁ、拙いなぁ。まだ力ずくで留まってもらう、というなら対処のしようもあるけど、こういう風についてくると言われると困る。どうする? という視線を魔理沙に送る。
「んー、そうだな。サンタクロースは良い子にしかプレゼントを渡せないんだ。もしついて来るって言うならそれを返してもらわなくちゃならなくなる」
「やだ」
即答。結構気に入ったらしい。まあ、確かにかわいくデフォルメはされていて、私も少し欲しいかもしれないと思ってしまうぐらいだから仕方ないのかもしれない。
「だったらここでいい子にしてるんだ。だったらまたすぐに来てやるからさ」
「うーん……。判った」
「よし、いい子だ。んじゃ次に行くぞ。おっと、こいつをレミリアのやつに渡してくれ」
そういうと魔理沙は袋からワインを取り出し、フランに渡した。
続く
(後書き)自分の中の幻想卿を
主人公で2位がプレゼントってのも、うーん。
そういえば人気投票見てないや。支援拾いに行かないと。