「そ、そういうわけでぇ……み、みなさんには、ほんどうにがんじゃじでまじゅう……!」
新郎の苦笑と列席なされた妖怪神様各位のニヤニヤ笑いを一身に受けながら、新婦早苗は涙ながらにそう言ったものである。
涙を堪えようとしてしゃくりあげて、もう声にもならないといった体の早苗を、傍らに立つ新郎がそっと肩を抱いて支えてやる。
涙と酔いで目を真っ赤にした早苗は、夫にそっと感謝の視線を投げてから、鼻をすすり上げつつ締めくくった。
「ありがどうございまじゅ、みなさん! わだじ、しあわぜになりまじゅ……!」
つっかえつっかえ言い切った早苗に、その場の全員から惜しみない祝福の拍手が投げかけられる。
こうして、守矢の風祝たる東風谷早苗の結婚の儀は、無事に終了を迎えたのであった。
結婚の儀が終わってから、数刻ほども経った後。
片づけを手伝ってくれた妖夢や鈴仙らも帰宅してしまい、残っているのは霊夢と魔理沙だけになった。
さすがに酔いも冷めた今、魔理沙は幻想郷の深い闇の中で、一人静かに博麗神社の縁側に座っている。
まだ細々とした片づけは残っているが、後は自分と霊夢だけで十分に終わらせられる量だろう。
馬鹿騒ぎもとうに終わった、疲れたとも寂しいとも言い難い奇妙な時間の中。
時が過ぎるのは早いものだなあ、なんて、柄にもなくしんみり考えたりする。
それは今日結婚した早苗とっても、未だ独り身で魔法の研究を続ける自分にとっても。
そして何よりこの博麗神社の主であり、郷を守る博麗の巫女たる彼女にとっても同じはずであった。
「お疲れ様」
不意に声をかけられ、魔理沙は無言で振り向く。
そこに、湯気の立つ湯飲みを盆に乗せた霊夢が立っていた。
結婚の儀の後すぐに片付けに移ったため、その顔はまだ慣れない化粧が残ったままだ。
濃い闇の中ではその美しさがより引き立つように思えて、魔理沙は場違いな胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「どうしたの、変な顔して?」
「ん、いや、何でもない」
怪訝そうな霊夢から表情を隠すように、魔理沙はそっぽを向く。
霊夢は「変な魔理沙」とくすくす笑いながら、盆を起きつつそっと隣に腰掛けた。
「ようやく終わったわね」
「ああ。お互いお疲れ様だ」
「まだちょっと片付け残ってるけど」
「あってないようなもんだろ」
「まあね。お茶飲む?」
「おう、もらうぜ」
霊夢から湯飲みを受け取り、一口含む。
いつもの味だ、と安堵を感じると同時に、心地良い熱さが疲れた体を癒してくれた。
それから少しの間、二人はじっとあらぬ方向を見つめたまま黙り込む。
霊夢は一体なにを考えているのだろう。わたしの方から何か話題を振るべきなのだろうか。
魔理沙がそんな風に考えたとき。
「ねえ」
不意に、霊夢が呼びかけてきた。
「なんだ」
「ううん。なんていうか……いい結婚式だったわね」
真面目くさった霊夢の言葉に、しかし魔理沙はにやりと笑い、
「……お前、本当にそう思ってる?」
「……実を言うと」
霊夢は何かを堪えるように小さく頬を膨らませながら、
「……笑いを堪えるのが大変だった!」
「だよなーっ!」
魔理沙が堪えきれずに吹き出すのと同時に、二人は闇の中に少々不謹慎なぐらいに甲高い笑い声を響かせる。
そのあまりに賑やかなこと、たった二人で笑っているだけだというのに、驚いた鳥たちが闇の中にバサバサと飛び立つほどである。
もちろん、早苗の結婚そのものを笑っているわけではなく。
「い、いくらなんでも泣きすぎだし、早苗!」
「なー? 旦那さん明らかに引いてたよな!?」
「化粧が崩れてピエロみたいになってたし!」
「や、やめろ、思い出してまた笑えてくるじゃないか……!」
友人の鼻水混じりの泣き顔を思い出して、二人はしばらくの間爆笑する。
そうしてひとしきり笑った後、どちらからともなく笑いを収めて、
「……でも、幸せそうだったわね」
「……そうだな。良かったよ、本当」
「うん」
何とも言えずしんみりした感じになって、二人は黙り込む。
魔理沙は小さく身じろぎし、霊夢は何を言うでもなく湯飲みを持ったまま足をぶらぶらさせ。
そうして、どのぐらい時間が経った頃か。
「……わたしさあ」
不意に霊夢が言ったので、魔理沙は「うん」を先を促した。
「なんていうか、笑われるかもしれないんだけど」
「ああ」
「ほら、早苗が最後に挨拶したとき、『友達の霊夢さんと魔理沙さんにもたくさん祝ってもらえて』みたいに言ったじゃない?」
「ああ、言ったな」
「そのとき、なんかこう……うれしかったのよね、凄く」
「どうして?」
「いや、友達だと思ってたの、わたしだけじゃなかったんだなあ、って」
幸福感が滲み出たはにかむような言葉に、魔理沙は無言。
やがて霊夢が、ちょっと不満そうに言った。
「……『なに似合わないこと言ってんだよ!』とか言って笑うところじゃない、ここ?」
「言ったら言ったで『なに笑ってんのよ』って怒るんだろ、霊夢は」
「まあ、そうだけど」
霊夢はちょっと拗ねたように唇を尖らせて、お茶を一啜り。やっぱりな、と魔理沙は少しばかり得意な気分になる。
霊夢はそのまま「あー」と呟いて夜空を見上げ、
「なんかさあ。なんとも言えない気分よね、これ」
「意味分からん」
「いやなによ、ほら。わたしたちもケッコンとかする歳になったんだなあって」
「わたしたちには全くその兆しがないけどな」
「うっさいっての」
また少し笑う。
「だって、ちょっと前までは考えられなかったじゃない、こんなの」
「まあな。妖怪どもに混じって遊んでると普通の感覚忘れるよな、正直」
「なのに早苗はこっそり男の人と付き合ってたりしてさあ」
「お前もやっていいんだぜ、相手がいればだけど」
「あんたこそ霖之助さんとはどうなってるのよ」
「馬鹿言え、そういうんじゃないよ、わたしたちは」
「……そうなんだ」
「……そうだよ」
変な沈黙。今度は霊夢が黙ったままだったので、魔理沙はおもむろに切り出した。
「実を言うとな」
「なに?」
「今回さ、早苗が結婚するって以上に嬉しいことがあったんだ、わたし」
「……何よ?」
「その、なんだ……」
その先を続けるのには、ちょっとばかり勇気が必要だった。
「……結婚の報告受けたとき、お前が真っ先に『当然結婚式はうちでやるのよね?』って手を挙げてくれたことが、さ」
「……意味わかんない」
霊夢は素っ気なく言ってそっぽを向き、お茶を一啜り。
魔理沙がそっと盗み見ると、その頬がほんのり赤く染まっているのが見えた。
「……なんでそれが嬉しかったの?」
「なんでだろうな……ほら、お前って昔はもっとクールだったじゃないか」
「え、そう?」
「そうだよ。わたしから見ればな。『わたし以外の奴なんてどうなろうが知ったこっちゃないし』っていつも澄ましてる感じだった」
「無茶苦茶イヤな奴じゃない」
「ん、わたしは別にイヤでもなかったけど」
「……それで?」
霊夢がますます顔を赤くして、先を促す。魔理沙はからかってみたくなる気持ちを堪えながら、続けた。
「でもやっぱり、ちょっと寂しい感じがしてたんだよな。なんかやってわたしが喜んでても、
お前は一歩離れたところに立って、冷めた目で見てるような感じがしてさ」
「そんなこと……」
「うん、多分わたしの勘違いだったんだと思う。でも、そんな風に思ってたから嬉しかったんだ。
お前が早苗を友達だと思ってて、結婚するのを祝ってやろうって言い出したとき、さ」
今思うと、何を馬鹿な勘違いをしていたんだろう、と苦笑したくなる。
隣にいるこの少女は、いつだってただ自分の思うままに存在していただけだ。
ただその有り様があまりにも超然としていたから、勝手に別世界の住人のように思えて拗ねていただけなのだ、自分は。
何とも子供っぽい勘違いだったと、恥ずかしく思う。
同時に、その頃よりも友人のことを理解できるようになった自分が、ほんの少しだけ誇らしくもあった。
「……さっき、さ」
と、霊夢がちょっと躊躇いがちに言った。
「早苗がわたしたちのこと友達だって言ってくれたの、嬉しかったって言ったじゃない?」
「ん。そうだな」
「なんで嬉しかったかって言うと、なんかこう……わたしだけ勘違いしてるだけかもって思ってたからなのよね」
「勘違いって、何を?」
「だからほら、なによ」
霊夢はちょっともじもじながら言う。
「……友達だ、っていうの? わたし、そういうのってよくわかんないから。いちいち確認するのも恥ずかしいし。
だからずっと、友達だって思ってるのはわたしだけで、あんたたちの方では別に何とも思ってないのかもとか思って……
ちょっと、怖かったりとかした」
「……霊夢」
親友の名を、小さく呟く。
霊夢は湯飲みを握りしめてそっぽを向いている。
昔よりはちょっと大人になったはずのその姿は、深い闇の中では何とも頼りなく、まるで幼い少女のようにすら思える。
だから魔理沙は少しだけ彼女に近寄り、軽く肩に手をかけて言ってやった。
「わたしも同じ気持ちだぜ」
「……何が?」
驚いたように振り向く霊夢に、一言ずつはっきりと、
「……友達だって言うの。わたしの一方的な勘違いじゃなかったってわかって、今凄く幸せな気分だ」
「……それって」
「何度も言わすなよ、恥ずかしい」
魔理沙はまたちょっと遠ざかって、そっぽを向く。涼しい夜風を浴びながら、頬だけが妙に熱い。
ちょっと、自棄を起こしたような気分だった。何を似合わないこと言ってんだ、笑うなら笑え、と。
しかし紛れもなく、魔理沙の本心でもあった。
「……あー、あ」
霊夢が何かを誤魔化すように、足をぶらぶらさせながら言う。
「だ、だったら、わたしのときもあんたに祝ってもらおうかな」
「な、何をだよ」
「結婚式よ、結婚式。わたしが超絶イケメンと結婚するときに」
「あり得ない未来の約束はできないなあ」
「うわっ、ひどっ!」
「そうとも、お前の親友は酷い女なんだぜ。知らなかったのか?」
「……知ってるけどね、よく」
「……うん、わたしも知ってた」
魔理沙はそっぽを向いたまま、小さく笑う。
幸せではあるが、なんとも気恥ずかしい気分だった。とても霊夢の方を見られない。
だから、ただ思うだけだ。
今、霊夢も自分と同じ気持ちで、はにかんだ笑みを浮かべてくれていたらいいな、と。
「……さて、と」
何かを誤魔化すように、霊夢が咳払いしながら立ち上がる。
「夜明けが来る前に、ちゃっちゃと片付けちゃいましょうか」
「ん、そうだな」
「今日はどうする? 泊まってく?」
「いや、いい。帰るよ」
「そう。うん、それがいいわね」
「それがいい」
お互いの赤い顔を見ないまま、二人は片付けを終わらせるべく、炊事場へと向かった。
多分、この夜のことは二人ともが覚えている、自分だけの秘密になるだろう。
ずっと大事に抱えながら、終生胸の内に隠したままになるに違いない。
きっと明日になったら酔いと共に全部忘れたような顔をして、お互い何も言わずにいつものようなやりとりを交わすのだ。
でも本当はお互い何もかも覚えていることを、言葉に出さず確信したまま、たまに思い出しては幸せな気分に浸るに違いない。
明日からそんな日々がやってくることを想って、魔理沙はまたはにかんだ笑みを浮かべるのだった。
fin.
新郎の苦笑と列席なされた妖怪神様各位のニヤニヤ笑いを一身に受けながら、新婦早苗は涙ながらにそう言ったものである。
涙を堪えようとしてしゃくりあげて、もう声にもならないといった体の早苗を、傍らに立つ新郎がそっと肩を抱いて支えてやる。
涙と酔いで目を真っ赤にした早苗は、夫にそっと感謝の視線を投げてから、鼻をすすり上げつつ締めくくった。
「ありがどうございまじゅ、みなさん! わだじ、しあわぜになりまじゅ……!」
つっかえつっかえ言い切った早苗に、その場の全員から惜しみない祝福の拍手が投げかけられる。
こうして、守矢の風祝たる東風谷早苗の結婚の儀は、無事に終了を迎えたのであった。
結婚の儀が終わってから、数刻ほども経った後。
片づけを手伝ってくれた妖夢や鈴仙らも帰宅してしまい、残っているのは霊夢と魔理沙だけになった。
さすがに酔いも冷めた今、魔理沙は幻想郷の深い闇の中で、一人静かに博麗神社の縁側に座っている。
まだ細々とした片づけは残っているが、後は自分と霊夢だけで十分に終わらせられる量だろう。
馬鹿騒ぎもとうに終わった、疲れたとも寂しいとも言い難い奇妙な時間の中。
時が過ぎるのは早いものだなあ、なんて、柄にもなくしんみり考えたりする。
それは今日結婚した早苗とっても、未だ独り身で魔法の研究を続ける自分にとっても。
そして何よりこの博麗神社の主であり、郷を守る博麗の巫女たる彼女にとっても同じはずであった。
「お疲れ様」
不意に声をかけられ、魔理沙は無言で振り向く。
そこに、湯気の立つ湯飲みを盆に乗せた霊夢が立っていた。
結婚の儀の後すぐに片付けに移ったため、その顔はまだ慣れない化粧が残ったままだ。
濃い闇の中ではその美しさがより引き立つように思えて、魔理沙は場違いな胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「どうしたの、変な顔して?」
「ん、いや、何でもない」
怪訝そうな霊夢から表情を隠すように、魔理沙はそっぽを向く。
霊夢は「変な魔理沙」とくすくす笑いながら、盆を起きつつそっと隣に腰掛けた。
「ようやく終わったわね」
「ああ。お互いお疲れ様だ」
「まだちょっと片付け残ってるけど」
「あってないようなもんだろ」
「まあね。お茶飲む?」
「おう、もらうぜ」
霊夢から湯飲みを受け取り、一口含む。
いつもの味だ、と安堵を感じると同時に、心地良い熱さが疲れた体を癒してくれた。
それから少しの間、二人はじっとあらぬ方向を見つめたまま黙り込む。
霊夢は一体なにを考えているのだろう。わたしの方から何か話題を振るべきなのだろうか。
魔理沙がそんな風に考えたとき。
「ねえ」
不意に、霊夢が呼びかけてきた。
「なんだ」
「ううん。なんていうか……いい結婚式だったわね」
真面目くさった霊夢の言葉に、しかし魔理沙はにやりと笑い、
「……お前、本当にそう思ってる?」
「……実を言うと」
霊夢は何かを堪えるように小さく頬を膨らませながら、
「……笑いを堪えるのが大変だった!」
「だよなーっ!」
魔理沙が堪えきれずに吹き出すのと同時に、二人は闇の中に少々不謹慎なぐらいに甲高い笑い声を響かせる。
そのあまりに賑やかなこと、たった二人で笑っているだけだというのに、驚いた鳥たちが闇の中にバサバサと飛び立つほどである。
もちろん、早苗の結婚そのものを笑っているわけではなく。
「い、いくらなんでも泣きすぎだし、早苗!」
「なー? 旦那さん明らかに引いてたよな!?」
「化粧が崩れてピエロみたいになってたし!」
「や、やめろ、思い出してまた笑えてくるじゃないか……!」
友人の鼻水混じりの泣き顔を思い出して、二人はしばらくの間爆笑する。
そうしてひとしきり笑った後、どちらからともなく笑いを収めて、
「……でも、幸せそうだったわね」
「……そうだな。良かったよ、本当」
「うん」
何とも言えずしんみりした感じになって、二人は黙り込む。
魔理沙は小さく身じろぎし、霊夢は何を言うでもなく湯飲みを持ったまま足をぶらぶらさせ。
そうして、どのぐらい時間が経った頃か。
「……わたしさあ」
不意に霊夢が言ったので、魔理沙は「うん」を先を促した。
「なんていうか、笑われるかもしれないんだけど」
「ああ」
「ほら、早苗が最後に挨拶したとき、『友達の霊夢さんと魔理沙さんにもたくさん祝ってもらえて』みたいに言ったじゃない?」
「ああ、言ったな」
「そのとき、なんかこう……うれしかったのよね、凄く」
「どうして?」
「いや、友達だと思ってたの、わたしだけじゃなかったんだなあ、って」
幸福感が滲み出たはにかむような言葉に、魔理沙は無言。
やがて霊夢が、ちょっと不満そうに言った。
「……『なに似合わないこと言ってんだよ!』とか言って笑うところじゃない、ここ?」
「言ったら言ったで『なに笑ってんのよ』って怒るんだろ、霊夢は」
「まあ、そうだけど」
霊夢はちょっと拗ねたように唇を尖らせて、お茶を一啜り。やっぱりな、と魔理沙は少しばかり得意な気分になる。
霊夢はそのまま「あー」と呟いて夜空を見上げ、
「なんかさあ。なんとも言えない気分よね、これ」
「意味分からん」
「いやなによ、ほら。わたしたちもケッコンとかする歳になったんだなあって」
「わたしたちには全くその兆しがないけどな」
「うっさいっての」
また少し笑う。
「だって、ちょっと前までは考えられなかったじゃない、こんなの」
「まあな。妖怪どもに混じって遊んでると普通の感覚忘れるよな、正直」
「なのに早苗はこっそり男の人と付き合ってたりしてさあ」
「お前もやっていいんだぜ、相手がいればだけど」
「あんたこそ霖之助さんとはどうなってるのよ」
「馬鹿言え、そういうんじゃないよ、わたしたちは」
「……そうなんだ」
「……そうだよ」
変な沈黙。今度は霊夢が黙ったままだったので、魔理沙はおもむろに切り出した。
「実を言うとな」
「なに?」
「今回さ、早苗が結婚するって以上に嬉しいことがあったんだ、わたし」
「……何よ?」
「その、なんだ……」
その先を続けるのには、ちょっとばかり勇気が必要だった。
「……結婚の報告受けたとき、お前が真っ先に『当然結婚式はうちでやるのよね?』って手を挙げてくれたことが、さ」
「……意味わかんない」
霊夢は素っ気なく言ってそっぽを向き、お茶を一啜り。
魔理沙がそっと盗み見ると、その頬がほんのり赤く染まっているのが見えた。
「……なんでそれが嬉しかったの?」
「なんでだろうな……ほら、お前って昔はもっとクールだったじゃないか」
「え、そう?」
「そうだよ。わたしから見ればな。『わたし以外の奴なんてどうなろうが知ったこっちゃないし』っていつも澄ましてる感じだった」
「無茶苦茶イヤな奴じゃない」
「ん、わたしは別にイヤでもなかったけど」
「……それで?」
霊夢がますます顔を赤くして、先を促す。魔理沙はからかってみたくなる気持ちを堪えながら、続けた。
「でもやっぱり、ちょっと寂しい感じがしてたんだよな。なんかやってわたしが喜んでても、
お前は一歩離れたところに立って、冷めた目で見てるような感じがしてさ」
「そんなこと……」
「うん、多分わたしの勘違いだったんだと思う。でも、そんな風に思ってたから嬉しかったんだ。
お前が早苗を友達だと思ってて、結婚するのを祝ってやろうって言い出したとき、さ」
今思うと、何を馬鹿な勘違いをしていたんだろう、と苦笑したくなる。
隣にいるこの少女は、いつだってただ自分の思うままに存在していただけだ。
ただその有り様があまりにも超然としていたから、勝手に別世界の住人のように思えて拗ねていただけなのだ、自分は。
何とも子供っぽい勘違いだったと、恥ずかしく思う。
同時に、その頃よりも友人のことを理解できるようになった自分が、ほんの少しだけ誇らしくもあった。
「……さっき、さ」
と、霊夢がちょっと躊躇いがちに言った。
「早苗がわたしたちのこと友達だって言ってくれたの、嬉しかったって言ったじゃない?」
「ん。そうだな」
「なんで嬉しかったかって言うと、なんかこう……わたしだけ勘違いしてるだけかもって思ってたからなのよね」
「勘違いって、何を?」
「だからほら、なによ」
霊夢はちょっともじもじながら言う。
「……友達だ、っていうの? わたし、そういうのってよくわかんないから。いちいち確認するのも恥ずかしいし。
だからずっと、友達だって思ってるのはわたしだけで、あんたたちの方では別に何とも思ってないのかもとか思って……
ちょっと、怖かったりとかした」
「……霊夢」
親友の名を、小さく呟く。
霊夢は湯飲みを握りしめてそっぽを向いている。
昔よりはちょっと大人になったはずのその姿は、深い闇の中では何とも頼りなく、まるで幼い少女のようにすら思える。
だから魔理沙は少しだけ彼女に近寄り、軽く肩に手をかけて言ってやった。
「わたしも同じ気持ちだぜ」
「……何が?」
驚いたように振り向く霊夢に、一言ずつはっきりと、
「……友達だって言うの。わたしの一方的な勘違いじゃなかったってわかって、今凄く幸せな気分だ」
「……それって」
「何度も言わすなよ、恥ずかしい」
魔理沙はまたちょっと遠ざかって、そっぽを向く。涼しい夜風を浴びながら、頬だけが妙に熱い。
ちょっと、自棄を起こしたような気分だった。何を似合わないこと言ってんだ、笑うなら笑え、と。
しかし紛れもなく、魔理沙の本心でもあった。
「……あー、あ」
霊夢が何かを誤魔化すように、足をぶらぶらさせながら言う。
「だ、だったら、わたしのときもあんたに祝ってもらおうかな」
「な、何をだよ」
「結婚式よ、結婚式。わたしが超絶イケメンと結婚するときに」
「あり得ない未来の約束はできないなあ」
「うわっ、ひどっ!」
「そうとも、お前の親友は酷い女なんだぜ。知らなかったのか?」
「……知ってるけどね、よく」
「……うん、わたしも知ってた」
魔理沙はそっぽを向いたまま、小さく笑う。
幸せではあるが、なんとも気恥ずかしい気分だった。とても霊夢の方を見られない。
だから、ただ思うだけだ。
今、霊夢も自分と同じ気持ちで、はにかんだ笑みを浮かべてくれていたらいいな、と。
「……さて、と」
何かを誤魔化すように、霊夢が咳払いしながら立ち上がる。
「夜明けが来る前に、ちゃっちゃと片付けちゃいましょうか」
「ん、そうだな」
「今日はどうする? 泊まってく?」
「いや、いい。帰るよ」
「そう。うん、それがいいわね」
「それがいい」
お互いの赤い顔を見ないまま、二人は片付けを終わらせるべく、炊事場へと向かった。
多分、この夜のことは二人ともが覚えている、自分だけの秘密になるだろう。
ずっと大事に抱えながら、終生胸の内に隠したままになるに違いない。
きっと明日になったら酔いと共に全部忘れたような顔をして、お互い何も言わずにいつものようなやりとりを交わすのだ。
でも本当はお互い何もかも覚えていることを、言葉に出さず確信したまま、たまに思い出しては幸せな気分に浸るに違いない。
明日からそんな日々がやってくることを想って、魔理沙はまたはにかんだ笑みを浮かべるのだった。
fin.
女同士のしっとりとした友情っていうのもいいもんだなぁ。
早苗さんほぼ空気なのに三人の絆はしっかりと伝わりますね。
ちょっと話がある
幸せにしてやれよ!!
精神的追い討ち感ってものすごいのwww
作者さんには未来があるさ!
超展開と思いきや、なかなかどうしていい雰囲気でした。でも、結婚するのは寂しい!
永遠の少女であれ、という思いを強くさせられました。
作者さま自身が結婚式で感じた事や思った事が小説の題材としてダイレクトに伝わってきました。
慰めるのではなく、本当は嬉しいのでは? このツンデレさんめ。
いやまあ、コレはコレで悪く無いんだが・・・
>友達の結婚式だったんだよねぇーっ!
逆に考えるんだ
自分より先に結婚が決まった時点でもう友達ではないと(外道)
もう一展開あるかなと思っていたら終ってしまいましたが、
これはこれで良い物だとおもいました。
友達が本当に幸せそうにしてるのを見るとこっちも幸せになりますよね。
うん。だけど自分だけ結婚できないとか彼女できないとかのダメージもでかいよねwwでかいよね…
次回作も楽しみに待ってますね!
ハガキ一枚届くだけよりは。
いい世界でした。ありがとうございます。
同じ人間勢でも咲夜は別かな…
それにしても霊夢と魔理沙が良いですねぇ
こういう友情って得がたいよな。