外から窓枠ごしに見えるのはメリー1人、タブレットをいじってるようだ。早くしないと。
時は科学世紀、あらゆる超常現象が科学で解決するこの時代。そんな中で秘封倶楽部なんてオカルトサークル流行らなくて当然かなと思う。まあ不良サークルだなんて言われてるし勧誘もしてないし、私とメリーだけで十分だし、うん、大丈夫なのかなこのサークル。当然オカルトサークルらしいこともあまりしない、メンバーは2人だけで大学生としてのモラトリアムを消化する毎日。
そんな2人で1つの秘封倶楽部は今日も今日とてこの京都の秘密を暴こうと、穏やかな日々を過ごすのでしたとさ。
そんなわけで私はいつも通り約束の時間にきっかり15分遅れながら、いつもの喫茶店へとやってきた。扉を引いて中に入ると外と違った温度を感じる。メリーの姿を探して店内を見るとすぐに見つかる金色の髪。分かりやすくてこういうとき便利だなぁ、なんて言ったら怒られるだろうなぁ、なんてくだらないを考えながら向かいの席に座る。店内は落ち着いたBGMがかかっている。なんとなくメモリーズ・オブ・グリーンっぽい、趣味がいいな。
向かい側のメリーが少しふくれてる。
「15分遅刻、今日も奢りね」
私が座るとすぐにそんなことを言ってくる。いつも通りの会話。
「奢る代わりに今日も付き合ってもらうからね」
「いいけど、また何かあったの?」
頼んでいたらしいパフェをもぐもぐと咀嚼しながらメリーは聞いてくる。私も食べようかな。
「そうそう、最近ドッペルゲンガーってよく聞くじゃない?」
「私は聞かないけど」
まあオカルトに疎いメリーは知らないか。
「ここ数カ月で自分のドッペルゲンガーを見る人が増えてるらしくてね」
「でもドッペルゲンガーって会ったら死ぬんでしょ?」
そこは知ってるらしい、食べながらでも一応きちんと話は聞いているようだ。
「さあ? ドッペルゲンガーが入れ替わって言いふらしてるのかもね」
「物騒ね、まあオカルトっぽくていいんじゃない」
興味なさそうにメリーは言う。これでもオカルトサークルの一員だというのだから驚きだなぁ。
「最近結界の綻びだとかよく見えたりしないの?」
「別にいつもどうりの頻度だけど、あと食べたいなら一口あげるわよ」
以心伝心。メリーがパフェを一口すくって差し出してくる、それをありがたく頂く。口の中に冷たい甘さが広がる。
コーヒーを注文しようかとメニューを開く。何頼もうかな。
後方で扉の開く鈴の音が聞こえる。それと同時にドアの方を向いているメリーが驚いた様な顔をした。
なんだろうかと振り向くと、はてなマークとこんにちは。
扉から入ってきたのは私と同じ黒い中折れ帽を被った私だった。
昔から人間は理解できない現象に出くわしたとき神のせいにするという、しかしそれをオカルトのせいにするのが秘封倶楽部。
つまり私が二人いるという意味不明な状況はドッペルゲンガーのせいということになった。
私が2人とメリー1人の計3人という極めて異質な状況でテーブル席に座っている。周りに客いないので今のところは大丈夫、多分。
とりあえず注文したコーヒーを機械的な動きで飲みながら、どういうことかと考える。
「とりあえずメリーはどう思う?」
「ドッペルゲンガーじゃない」
まあそうだろうけど。
「じゃあどうすればいいと思う、これ」
もう一人の私が言う。自分が喋っているのを見るのにすごく違和感があるな。もう一人の方もそんな感覚を味わっているだろうか。
「というより、前提条件としてドッペルゲンガーって喋らないんじゃないの?」
私2人を指しながらメリーが聞いてくる。
どうなんだろう、実際こんなの初めてだし、私に聞かれても困る。
「まあ普通に考えてどっちかが偽物なんでしょうね」
無責任にそんなことを言ってくる。
隣の私を覗き見ると、ぎこちない動きでコーヒーを飲みながら考えているご様子。
片方が偽物。もちろん私としては自分が本物だと言いたいけれど、隣の私も同じだろう。
進んで自分がやったと言う犯人がいないように、進んで自分が偽物だなんて言うドッペルゲンガーもいないだろう。
どちらが本物でどちらが偽物か見極める方法はないものかと頭を疑問符で満たしながら考える。
「とりあえず昨日会ったのが本物なら昨日のこと覚えてるでしょ?」 とメリーの提案によって耳打ちで昨日のことを答えてみることになった。
私は昨日あったことを覚えてるだけ伝えた、もう一人の方も同じように何かを伝えてるようだ。
両方の話を聞いてメリーは少し考えている。
しばらくしてメリーが口を開く。
結果としては分からない事が増えた。
「どっちも昨日のこと言ってる」
困惑と苦笑いの混ざって何とも言えない表情のメリーがそう言う。
それにつられて私二人も苦笑い。つまり両方本物ということになるのか。
でもそれは無理があるだろうし。
自分が自分であると証明するのは難しいとはよく言われるけれど、実際に証明しないといけない状況になると難しいというか無理だろうと分かる。
「どうすればいいの?」
メリーが私に聞いてくる。そんなの私が聞きたい。
「あなたは自分が本物だと思いますか?」
もう一人の私と意思疎通をしようと試みる。自分に質問するという何とも言えない違和感がある。
「わざわざ自分から偽物だなんて言う馬鹿はいないと思うけど」
それもそうだ。ただ自分に言われると何か腹が立つな。
「ドッペルゲンガーねぇ…」
メリーはバックからタブレットを取り出して検索しているようだ。
「やっぱり会話できる、なんて書いてないわね」
となると第二の可能性としてそれとは違った何かということもあり得るのか。
「やっぱりここか」
私達が考え込んでいると扉が開く音と共に声がした。そしてその数秒後、破裂したような音と共に私の意識は遠のいた。
「相変わらずうるさいわね、それ」
私が手に持つP226を目で指してメリーは言う。火薬の匂いとともに飛び出た薬莢は、床に転がりカラカラと金属音をさせている。そしてメリーの手には民間用の電磁パルスガンが握られていた。
「わざわざ2年半かけて免許取ったのに規制が厳しすぎてこれが初めてよ、物足りないわ」
「こっちなら免許なんていらないのに、でも最近増えてるしそれもまた使う機会があるんじゃない」
目の前には煙を出して動かない私とメリーにそっくりの人造人間が3体。私のはなんで2体もあるんだ? 入れ替わる前に本人を殺すテンプレートも入ってないみたいだし、この製作者は何考えてたんだろう。
銃声の響いた店内は他に客はおらず静かなBGM流れるだけだった。
「回収来るまでコーヒーでも飲もうか」
自分の形のガラクタを除けて、さっきまで使ってったらしい席に座る。
「そうね、私はパフェでも頼もうかしら」
テーブル上の容器を見てメリーは言う。
「じゃあ私はチョコ頼むからメリーはストロベリーね」
「なんで蓮子に決められるのよ」
「そりゃ、食べ比べできた方がいいでしょ」
「まあそうね、じゃあ探し回って疲れたし食べさせてね」
メリーの謎理論で、食べさせることを強制される。
「もう、メリーは甘えんぼさんね」
「はいはい、いいから頼みましょ」
そう言ってメリーはメニューをタップして注文ボタンを手早く押す。隣の画面の会計票にはきちんとチョコとストロベリーがあった。
「うんうん、今日はメリーもがんばってたし食べさせてあげましょう」
「上から目線なのが気になるけど、まあいいわ」
そう言ってメリーは微笑んだ。
秘封倶楽部はいつも通り。
時は科学世紀、あらゆる超常現象が科学で解決するこの時代。そんな中で秘封倶楽部なんてオカルトサークル流行らなくて当然かなと思う。まあ不良サークルだなんて言われてるし勧誘もしてないし、私とメリーだけで十分だし、うん、大丈夫なのかなこのサークル。当然オカルトサークルらしいこともあまりしない、メンバーは2人だけで大学生としてのモラトリアムを消化する毎日。
そんな2人で1つの秘封倶楽部は今日も今日とてこの京都の秘密を暴こうと、穏やかな日々を過ごすのでしたとさ。
そんなわけで私はいつも通り約束の時間にきっかり15分遅れながら、いつもの喫茶店へとやってきた。扉を引いて中に入ると外と違った温度を感じる。メリーの姿を探して店内を見るとすぐに見つかる金色の髪。分かりやすくてこういうとき便利だなぁ、なんて言ったら怒られるだろうなぁ、なんてくだらないを考えながら向かいの席に座る。店内は落ち着いたBGMがかかっている。なんとなくメモリーズ・オブ・グリーンっぽい、趣味がいいな。
向かい側のメリーが少しふくれてる。
「15分遅刻、今日も奢りね」
私が座るとすぐにそんなことを言ってくる。いつも通りの会話。
「奢る代わりに今日も付き合ってもらうからね」
「いいけど、また何かあったの?」
頼んでいたらしいパフェをもぐもぐと咀嚼しながらメリーは聞いてくる。私も食べようかな。
「そうそう、最近ドッペルゲンガーってよく聞くじゃない?」
「私は聞かないけど」
まあオカルトに疎いメリーは知らないか。
「ここ数カ月で自分のドッペルゲンガーを見る人が増えてるらしくてね」
「でもドッペルゲンガーって会ったら死ぬんでしょ?」
そこは知ってるらしい、食べながらでも一応きちんと話は聞いているようだ。
「さあ? ドッペルゲンガーが入れ替わって言いふらしてるのかもね」
「物騒ね、まあオカルトっぽくていいんじゃない」
興味なさそうにメリーは言う。これでもオカルトサークルの一員だというのだから驚きだなぁ。
「最近結界の綻びだとかよく見えたりしないの?」
「別にいつもどうりの頻度だけど、あと食べたいなら一口あげるわよ」
以心伝心。メリーがパフェを一口すくって差し出してくる、それをありがたく頂く。口の中に冷たい甘さが広がる。
コーヒーを注文しようかとメニューを開く。何頼もうかな。
後方で扉の開く鈴の音が聞こえる。それと同時にドアの方を向いているメリーが驚いた様な顔をした。
なんだろうかと振り向くと、はてなマークとこんにちは。
扉から入ってきたのは私と同じ黒い中折れ帽を被った私だった。
昔から人間は理解できない現象に出くわしたとき神のせいにするという、しかしそれをオカルトのせいにするのが秘封倶楽部。
つまり私が二人いるという意味不明な状況はドッペルゲンガーのせいということになった。
私が2人とメリー1人の計3人という極めて異質な状況でテーブル席に座っている。周りに客いないので今のところは大丈夫、多分。
とりあえず注文したコーヒーを機械的な動きで飲みながら、どういうことかと考える。
「とりあえずメリーはどう思う?」
「ドッペルゲンガーじゃない」
まあそうだろうけど。
「じゃあどうすればいいと思う、これ」
もう一人の私が言う。自分が喋っているのを見るのにすごく違和感があるな。もう一人の方もそんな感覚を味わっているだろうか。
「というより、前提条件としてドッペルゲンガーって喋らないんじゃないの?」
私2人を指しながらメリーが聞いてくる。
どうなんだろう、実際こんなの初めてだし、私に聞かれても困る。
「まあ普通に考えてどっちかが偽物なんでしょうね」
無責任にそんなことを言ってくる。
隣の私を覗き見ると、ぎこちない動きでコーヒーを飲みながら考えているご様子。
片方が偽物。もちろん私としては自分が本物だと言いたいけれど、隣の私も同じだろう。
進んで自分がやったと言う犯人がいないように、進んで自分が偽物だなんて言うドッペルゲンガーもいないだろう。
どちらが本物でどちらが偽物か見極める方法はないものかと頭を疑問符で満たしながら考える。
「とりあえず昨日会ったのが本物なら昨日のこと覚えてるでしょ?」 とメリーの提案によって耳打ちで昨日のことを答えてみることになった。
私は昨日あったことを覚えてるだけ伝えた、もう一人の方も同じように何かを伝えてるようだ。
両方の話を聞いてメリーは少し考えている。
しばらくしてメリーが口を開く。
結果としては分からない事が増えた。
「どっちも昨日のこと言ってる」
困惑と苦笑いの混ざって何とも言えない表情のメリーがそう言う。
それにつられて私二人も苦笑い。つまり両方本物ということになるのか。
でもそれは無理があるだろうし。
自分が自分であると証明するのは難しいとはよく言われるけれど、実際に証明しないといけない状況になると難しいというか無理だろうと分かる。
「どうすればいいの?」
メリーが私に聞いてくる。そんなの私が聞きたい。
「あなたは自分が本物だと思いますか?」
もう一人の私と意思疎通をしようと試みる。自分に質問するという何とも言えない違和感がある。
「わざわざ自分から偽物だなんて言う馬鹿はいないと思うけど」
それもそうだ。ただ自分に言われると何か腹が立つな。
「ドッペルゲンガーねぇ…」
メリーはバックからタブレットを取り出して検索しているようだ。
「やっぱり会話できる、なんて書いてないわね」
となると第二の可能性としてそれとは違った何かということもあり得るのか。
「やっぱりここか」
私達が考え込んでいると扉が開く音と共に声がした。そしてその数秒後、破裂したような音と共に私の意識は遠のいた。
「相変わらずうるさいわね、それ」
私が手に持つP226を目で指してメリーは言う。火薬の匂いとともに飛び出た薬莢は、床に転がりカラカラと金属音をさせている。そしてメリーの手には民間用の電磁パルスガンが握られていた。
「わざわざ2年半かけて免許取ったのに規制が厳しすぎてこれが初めてよ、物足りないわ」
「こっちなら免許なんていらないのに、でも最近増えてるしそれもまた使う機会があるんじゃない」
目の前には煙を出して動かない私とメリーにそっくりの人造人間が3体。私のはなんで2体もあるんだ? 入れ替わる前に本人を殺すテンプレートも入ってないみたいだし、この製作者は何考えてたんだろう。
銃声の響いた店内は他に客はおらず静かなBGM流れるだけだった。
「回収来るまでコーヒーでも飲もうか」
自分の形のガラクタを除けて、さっきまで使ってったらしい席に座る。
「そうね、私はパフェでも頼もうかしら」
テーブル上の容器を見てメリーは言う。
「じゃあ私はチョコ頼むからメリーはストロベリーね」
「なんで蓮子に決められるのよ」
「そりゃ、食べ比べできた方がいいでしょ」
「まあそうね、じゃあ探し回って疲れたし食べさせてね」
メリーの謎理論で、食べさせることを強制される。
「もう、メリーは甘えんぼさんね」
「はいはい、いいから頼みましょ」
そう言ってメリーはメニューをタップして注文ボタンを手早く押す。隣の画面の会計票にはきちんとチョコとストロベリーがあった。
「うんうん、今日はメリーもがんばってたし食べさせてあげましょう」
「上から目線なのが気になるけど、まあいいわ」
そう言ってメリーは微笑んだ。
秘封倶楽部はいつも通り。
人造人間だから?
きっと背景にも複雑な設定の考察をなされているのでしょう。
今後の作品のより良き執筆を、応援いたします。