こちらは後編となっております。
向日葵畑でつかまえて(前)を先にご覧になることをお勧めします。
私はとてつもない罪を犯した。
取り返しのつかない事をしてしまった。
その花は、墓?それとも贖罪の証?
私の手はきっと汚れている。愛する人を抱きしめたい、でもきっと汚してしまうから・・・。
~~~向日葵畑でつかまえて~~~
「ここはいったい・・・。」
目を開くとそこには、さっきまで囲まれていたはずの向日葵が跡形もなく消え、緑色の草原が広がっていた。
周囲を見渡してみる。すると覚えのある場所であることが地形から読み取ることができる。
「どうやら場所は太陽の畑で間違いないようですが・・・。」
おそらく自分が立っているところは先ほどまでと変わっていないだろう。しかし、あるべきものが一瞬で無くなるという事態は十分混乱に値する。
「と、とにかく動いてみないことには何もわかりませんね。」
今、自分がどんな状況に陥っているのか可及的速やかに情報を得る必要があった。
動揺する心を落ち着かせながら、とりあえず幽香の家があった方へと向かうことにする。
「・・・・・・。」
そこには望むべきものはいなかった。このような状況ではあまり期待はしていないつもりだったが、想像以上に落胆をしてしまっていた。
「・・?あれは、」
しばらく意気消沈で視線を地面に落とした後、ふと顔を上げると少し離れた場所に黄色い花と二つの人影が見えた。
人か妖怪か、それとも妖精か、それはここからではうかがい知ることはできない。友好的かどうかも判らないが話を聞かないことには状況を知る手立てがない。人影のほうへと急ぐ。
近づくにつれ、二つの影のうち片方が誰であるのかわかった。
「幽香!」
それは自分の最愛の人であり、今最も会いたい存在だった。しかし自分の知っている風見幽香とは若干の差異があったのだ。
背中まで伸びたやわらかそうな緑色の髪が風になびいている。
そんな幽香の姿を見たとき、うすうすだが状況を理解することができた。
(でも、そんなこと・・・。)
あるわけがない。自分には時を操ったり、過去に遡る能力は持ち合わせていないはずだ。
では、どういうことなのか・・・。
さらに近づくともう一方の人影が何であるかも理解することができた。どうやら妖精のようである。
その妖精は広い草原の中に奇妙にも一本だけ咲いている向日葵の前に座り鼻歌を歌っている。そしてそのすぐ後ろに幽香が立っている。
私はこれでも何百年と生きる閻魔である、それに見合った冷静さは持っているが、今や胸に渦巻く混乱に溺れてしまいそうだ。
「幽香」
幽香の立っている場所から数歩後ろからその名を呼ぶ。しかし、振り向いたり返事をしたりという反応が返ってこない。
「幽香?幽香!」
2度3度と名前を呼ぶが何の反応もない。気づいていないだけなのか、それとも・・・。
妖精と幽香の間に立ち、幽香の視界に入る。しかし何の反応も示さず、その視線は私の体を通り越していく。
混乱が一気に不安と寂寥と疎外感で埋め尽くされていく気がした。
気づいてもらえないということがここまで精神的に打ちのめされるとは思わなかった。
しかし、このままでは何が起きているのかわからない。折れそうな心を奮い立たせる。
(どうやらここでは私の姿は他の者たちには見えないということでしょう。景色などから考えるにおそらくここは過去でしょうか。もしくは未来あるいは別の世界ということも考えられますが・・・。)
しかし一体何故このようなことが起きているのか。人為的なことかそれとも自然的災害に巻き込まれてなのか。
(そういえばあの時、)
激しい耳鳴りと目眩を感じたとき、おそらくあの時にこの異変に巻き込まれたのだろう。あの感覚の渦の中、自分の体の内から力が抜けていくような感覚があった。あの感覚を私は知っている。
(能力発動・・!しかし)
しかし私の能力は『白黒はっきりつける程度の能力』。時間操作の類ではない。
(あの時、幽香のことをもっと知りたいと考えていた・・・。それが能力と反応して?)
しかしただそれだけで知りえない他人の過去を見ることができるだろうか。それに能力が勝手に発動してしまうほど未熟ではない。もっと何か大きなものが故意で発動させた、そして私の能力以外にも関わっている?
(何にしてもこの場での私の役目は傍観者であること)
自分の姿を感じとってもらえないのだから、干渉することはできない。
この太陽の畑という劇場で私は観客以上の何者でもないのだ。
(いいでしょう。それならばその役目をきっちりと果すまでです。)
数歩後ろへ下がり、幽香と妖精、そして向日葵が見える場所に立つ。
広い太陽の畑から見れば狭い空間だが、おそらくスポットライトはこの場所を照らしているはずだ。
しっかりと目を凝らす。
もう幕は上がっているはずだから・・・。
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映姫の気配が突然消えるのを感じた。この太陽の畑で起きたことであれば大概のことはわかる。しかし映姫の気配が一瞬にして消失することには心当たりがなかった。不安を覚えつつ最後に気配を感じたところまで急ぐ。
突然気配が消える、魔術的なもしくは能力的な転移であればそういったことが起きるが映姫にそれができたということは覚えがない。単に知らないだけかもしれないが。
たどり着いた先に白い布切れみたいなものが落ちているのに気づいた。
拾ってみると見覚えがある。
(映姫の帽子・・。)
しかっりしているが少しだけに抜けているところがあったりする映姫ではあるが、さすがに帽子を落としたのを気づかないということはないだろう。
目を閉じ集中して周囲の気配を読む。しかし、映姫の気配はどこにもない。そのかわり太陽の畑中に僅かな力の残滓があるのがわかった。
汗が頬をつたっていく。それは暑さゆえかそれとも冷や汗の類か・・。
胸に広がってゆく不安を感じながら手に持った帽子を見つめる。
誰かが突然消えてしまう。それは昔にも経験したことだ。
あれは私の過ちで起きてしまったことだが・・・。
もうあんな経験はしたくない。
・・・・・・。
◇ ◇
私には力があった。驕っていたというわけではないが少なくとも妖怪の中でもかなり高位置に当たるだろうと思う。
しかしそんな私に敗北を味わわせる者もいた。だが別に怨む事はしない、この世は力こそがすべてであり彼女たちのほうが一枚上手だっただけの話だ。怨むとすれば自分自身にだろう、それ故に魔法使いから魔法を奪ったりしているのだ。更なる力を手に入れるために。
そんな生活をしている最中のことだった。
幻想今日のはずれにある草原の上空を飛んでいる時、広い草原に一輪だけ咲いている向日葵とそれに寄り添う一匹の妖精を見つけた。
(あら、あんなところに珍しい。すこし遊んでいきましょうかね❤」)
どうも妖精のようなか弱いものを見ると虐めてみたくなってしまうのは悪癖というべきだろうか。とにかく嗜虐欲をくすぐってしまうのだから仕方がない。
向日葵の前で座り込んで鼻歌を歌っている妖精の後ろに着地する。どうやら私に気づいていないようだ。
(やっぱり鈍いわね~)
一輪だけポツンと咲いている向日葵に目を向ける。広い草原で一厘だけとは珍しいこともあるものだ。しかしその姿は悠然というよりかは寂しさのほうが浮き立っている。
「ねぇ、あなた?」
できるだけ優しい口調で話しかける。が、しかし突然話しかけた所為か妖精はビクッと肩を大きく震わせゆっくり振り向く。
「!!!ぴぃぃいいいぃい!!!!」
どうやら相当驚いたらしく、引きつった顔で後ずさろうとする。
正直言えばこういう反応が一番楽しかったりするのだが、まさか声をかけただけでこうも驚くとは思わず、表情も苦笑いになってしまう。
「なによ?まるで鬼にでも会ったみたいな顔をして、」
「だだだ、だって急に声かけられて驚いたですよ!」
涙目で訴えかける妖精。
「そ、それよりあなたは何なんですか?!」
「私はあなたをいじめに来たのよ♪」
「!!??ぴぃぃぃいいいい!!!」
すごい勢いでその場から立ち去ろうとするのを引き止める。
「冗談、冗談。あなたと(で)遊ぶために来たのよ。」
まぁ実際のところ意味は大して変わらないのだけど。
「え?遊んでくれるですか?!」
「(単純ね~)ええ、もちろんよ。」
さっきまでの驚きを忘れたかのように目を輝かせている。
「わ~~い!周りに誰もいないからさびしかったですよ!そうだ、名前聞いていなかったです!」
こんな幻想郷の外れのだだっ広い草原のど真ん中では独りなのは当たり前だろう。
「私は風見幽香よ。」
「ユウカですか!いい名前です。」
一瞬こちらも名前を聞こうかと思ったが辞めた。それほど力が強い要請でもなさそうだし名前もないだろう、それに少し虐めて、それだけの関係性だ。
「何して遊ぶですか?」
「そうね、何して遊ぼうかしら。」
この場合『どうやって虐めようかしら。』と同義である。
「弾幕勝負とかどうかしら?」
多少は手加減するが、まぁ妖精だし死にはしないだろう。
「いいですよ~、手加減なしです!」
ほぅ・・・。
一分も立たずに決着がついてしまった。
何の考えもなしにばら撒いてくるのである。ある意味それは面倒ではあるがそこは妖精の弾幕、まったくと言っていいほど威力がなく当たっても痛くもかゆくもない。こちらの放った弾は妖精の体へと吸い込まれるように一直線に突き進み、ピチューン。
「さて、帰りましょうかね。」
弾幕勝負は不完全燃焼を禁じえないが、まぁ反応は面白かったのでよしとしよう。
「もう帰ってしまうですか?」
「あら、もう復活したの?早いわね」
つい先ほど倒したばかりの妖精が向日葵のそばに立っている。
「もしかして貴女その向日葵の妖精かしら?」
「そうですよ!」
なるほど、だからこんなところで一人なのか。
基本的に妖精は自分の媒体となるものからあまり遠くへ離れることはできない。
「それより、もう行ってしまうですか?」
寂しそうな目でこちらに問いかけてくる。
「ええ、そうよ。」
「また来るですか?」
「さあ?それはどうかしらね。」
「また来てください!待ってるですよ。」
“待ってる”か・・・。初めて言われた言葉だ。
「気が向いたらね。」
たぶんこの娘は本当に待っているだろうなと、そう思うのだった。
アリス・マーガトロイドのもとにくっ付いて魔法を盗み出す生活。そんな中で時々あの妖精のもとを訪れる。
別に寂しそうだからとかそういう良心からではなく、ただしばらく楽しめそうな玩具を見つけたからというその程度の感情からである。
毎回、弾幕勝負をしては完膚なきまでに打ちのめされるというのに、私が訪れるたびに満面の笑みで近づいてくる。
なんだか奇妙な気分にさせる。もしかしたら『妹』というのはこんな感じなのだろうか。
「ユウカは強いですね~」
「私が強いのは当たり前、あなたが弱すぎるのよ。」
「それにお花を咲かせる能力とってもうらやましいです!」
「羨ましい、ね~」
自分の能力を疎ましいと思ったことはないが、それほど戦闘に特化した能力でもないし、羨ましいといわれるとは思わなかった。
「ユウカの咲かせる花はきれいですから。」
「そう、褒め言葉としてもらっておくわ。」
「褒め言葉以外のなにものでもないですよ?あ、それとこれ、ユウカにあげるですよ!」
差し出された手には何種類もの花でできた花冠が握られていた。
「これを私に?あなたが作ったの?」
「はい!そうですよ。」
ここは草原地帯とは言えまったく花が咲いていないというわけではない。ちらほらとまばらにいろいろな種類の花が咲いている。しかし花冠を作れるくらいの花を集めるとなるとそこら中を歩き回らなければならないだろう。
「なんで、私に?」
「理由がないと誰かにプレゼントしたらダメですか?」
そう問われると返答に詰まってしまう。
「イヤでしたか?」
「違うわ!そういうわけではないけど・・・。」
ただ私には無償で誰かの為に何かをするということが理解できなかったのだ。
「ありがたく貰っておくわ。なかなか上手くできてるじゃない。」
エッヘンと言いながら胸を張る。
不思議な気持ちだ。恥ずかしいようなくすぐったいような。
たぶんこれが嬉しいということなのだろう。
でも、そんな私を不思議な気持ちにさせる彼女は、、、
彼女は消えてしまうのだ。
私の手によって、花が枯れていくように、簡単に・・・。
その日、私は珍しく少し浮かれていた。
長い間アリスに張り付いた結果、やっと究極の魔法とやらを盗み出すことに成功したのだ。
とは言っても、その魔法の効果は自分の能力の強化という代物で、究極というくらいだからどんな破壊魔法かと想像していたので、いささか拍子抜けはしたのだけれど。自分の能力を考えれば高が知れるが、無いよりはあった方がいいに決まっている。
そのことを妖精に話すと
「それはすごくきれいな花がたくさん咲きそうですね!
ユウカの咲かす花はきれいですからたくさんの花で埋め尽くしてほしいです!」
などと目を輝かせながら言うのであった。
個人的には鋭い棘だらけの茨が半径20キロに生えわたる、とかの方がいいのだけれど。
「見せてほしいです!ユウカ。」
「そうねぇ、まぁいいでしょう。」
加減をすればそれほど危ないことも無いでしょう。最悪妖精になにかあってもすぐに復活するだろう。そんな気楽な考えで、彼女の頼みを聞き入れることにした。
「じゃあ、少し離れて」
そういって、魔法の発動の為に集中する。力をため、一気にその力を放出する。
放出した気の流れが体に集まり、自分の内側を変えていくのがわかった。どうやら能力を強化しているようだ。
「ユウカ!」
妖精が上ずった声で自分の名を呼ぶ。
その声で異変に気づいた。
おかしい、放出された気が乱れ黒く変色している。
「ユウカ、足下!」
その不安そうな声で下を向くと、緑色であるはずの草がどんどん茶色へと変わっていくのが見えた。
「何?!何が起きてるの?」
突然の事態に混乱しながら状況を把握しようとする。
「大丈夫ですか?ユウカ!」
不安でいっぱいにした顔で近づいてくる。
「駄目、あまり近づいては危険よ!」
そう警告しながら何が起きているのか考えようとする。
(発動が失敗した?この私が?いや、術は正常に発動している。じゃあ・・・。)
強化するということはどういうことだろうか。
新たな力を手にに入れるということとはまた違う。今すでに手にしている力に新たな意味を付け加えるということ。
そしてその意味とは今手にしている力と繋がりのあるものでなくてはならない。
では最も効率よく強化するにはどうすればよいだろうか。それは真逆の意味を付け加えてやることだ。
作り出す力であれば壊す力を。壊す力であれば作り出す力を。
でも、付け加えられた意味が自分の望むものであるだろうか?
咲かせるのであれば、それは枯れて腐ってゆく
(とにかく止めないと!)
なんとかして乱れている気を正そうとするが思うように上手くいかない。
そうこうしているうちに地面の腐食は急速に進行していく。
再度集中しようとするが
ドサッ
何かが地面に落ちたような音がし、振り返る。
そこには苦しそうな顔をした妖精が蹲っていた。
「!!」
急いで駆け寄り抱き起こそうとするが、その手が止まる。
(触ったりしたら・・・。)
腐らせてしまうのではないか、その考えが頭によぎってしまい出した手が行き場を失ってしまう。
(なんで!・・・まさか)
思い当たる方向へ視線を動かす。その先には少しずつ枯れ始めている一輪の向日葵の花が見えた。
「止まって!!お願い!なんで、なんで止まらないのよ!!」
枯れていく向日葵に焦りが増し、理不尽に怒りが生まれる。
「・・・ユウカ。」
息を荒くしながら自分の名前を呼ぶ。顔は青ざめ、今にも消えてしまいそうだ。
「しゃべっては駄目、今止めるからもう少しがんばりなさい!」
「ユウカは・・大丈夫・ですか?」
何故こんな時まで私のことを気にかけるのか。自分が今一番大変なのに。
「私は大丈夫だから自分の心配をしなさい。」
「そっ・・かぁ・・・よかっ・・た。」
苦しそうになりながらも見せる笑顔。自分の無力さに益々腹が立つ。
「止まれ、止まりなさい!なんで、私を腐らせればいいじゃない!」
どんどんと広がってゆく腐食。なまじ力があるせいでその進行速度は速く、少なくとも視界に収まっている草原はすべて枯れて腐っていた。
そして、そんな瘴気に当てられてか背中まで伸びていた髪も先端から変色し千切れ落ちていく。
「ユウカ・・・ムリ・・しないで。」
「何言ってるの!私が止めなくちゃ、あなたの媒体である向日葵が枯れてしまうのよ!どういうことか解るでしょう?!」
妖精は攻撃をされたとしてもすぐに復活することができる。しかしそんな妖精も自分が生まれるための媒介が失われてしまうと消えざるを得なくなってしまう。しわばこれが妖精の死である。
「ユウカなら・・・咲かせて・くれるですよ・・。」
その言葉に息が止まる。
この娘は私がその能力を使って自分の媒介となる向日葵を咲かせると言っているのだ。
ありえない。たしかに向日葵を咲かせることは容易い事だ。
しかし、“あの”向日葵はこの世に一輪しかない。それを咲かせることなど不可能だ。
だが『無理だ』という言葉を口に出すことはできなかった。
きっとこの娘もわかっているのだ、そんなことは不可能だということが。
だからその言葉にはどれほどの意味があるだろうか。
落ちてゆく向日葵の花びらはまるでカウントダウンだった。
一枚、一枚と落ちてゆくにつれてその存在が希薄になっていく。
「ユウ・・カ・・・。」
自分が消えてしまうというのに笑顔を私に向ける。
「待って!もう少しで止まるから、お願い!」
誰に懇願しているのだろうか。それすら解らないまま、必死で気を押さえ込もうとする。
しかし無情にも最後の花びらが落ちようとする。
「ユウ・カ・・あり・がとう・・・。」
最後のの花びらが地面に着くのと同時にそんな言葉が零れ落ちる。
残ったものは何も無い。
そこに確かにあったはずのものが、消えてしまっていた。
「っ・・・・・・・・・!」
声を上げることすらできなかった。
声の無い慟哭だけが荒廃した地に響き渡ってゆく。
助けることができなかった。それどころか自らの手で殺してしまったようなものだ。
何故あの娘は礼なんて言ったのだろうか。
私にはその言葉を受け取る資格など無いというのに・・・。
どれくらい経っただろうか、それともどれほども経っていないのかもしれない。
力を使い果たしてしまった為だろうか、腐食は止まっていた。事実、立ち上がることが出来合いほどに体が重い。
高が妖精一匹に何故ここまで心を揺さぶられるのか。
しかし確かにそこに居たのだ。
私のそばに。
私の中心に限りなく近い場所に。
◇ ◇
強く吹く風に回想から現実に引き戻される。
私の能力は『花を咲かせる程度の能力』から『花を操る程度の能力』に変わっていた。
咲かせるだけでなく、枯らし腐らせることができるのだから。
でも、そんなものはもう必要ないのだ、私は絶対に一輪たりとも花を枯らせたりはしないのだから。
手に持った帽子を見やる。
(そうだこんなことをしている場合じゃない。)
映姫を探さなくてわ。そう思い立ち上がろうとする矢先、大きな力の流れと気配を感じた。
急いでその場所に向かう。
そこには探そうとしていた人が立っていた。
(よかった、無事みたい。)
怪我などが無いところを見て安堵する。が、様子が変だ。
顔を俯かせ、肩を震わせている。
「映姫?」
名前を呼ばれ、振り向いた映姫の顔は涙で濡れていた。
「どうしたの?」
驚きながらその涙の理由を問うと、私の下に飛び込み抱きしめる。
「ごめんなさい、幽香・・・。」
「何故謝るの?」
「私・・見てしまったんです。幽香の過去を。」
その言葉を聴いて、何故か驚きはしなかった。
ああ、そうか。と
「幻滅したでしょう?結局のところやっぱり自分の力を驕っていたのよ。」
映姫に嫌われたくは無い、でも仕方の無いことかもしれない。
「いいえ、過去に犯した過ちを悔やみ、償おうとする者を私は幻滅したりしません。」
そう囁く映姫の顔は涙で濡れながらも優しい顔だった。
「どうしてそう思うの?」
「だってこの向日葵たちはあの妖精のために咲かしたものなのでしょう?」
どれだけその花を咲かせようとも無駄なことは解っている。しかしどうしても止める事ができなかった。
ゆっくりと自分の体が崩れ落ちていく。そんな私の体を抱き寄せる映姫。
胸の鼓動が聞こえた。
「こんなのはただの自己満足よ。」
「でも、満足していないのでしょう?」
私のことを何でも分かってしまうのね、貴女は。
「それでも償い足りないのなら、この幻想郷をあなたの花で埋め尽くしなさい。」
――ユウカの咲かす花はきれいですからたくさんの花で埋め尽くしてほしいです――
そんな言葉が蘇る。
「それで、許してくれるのかしらね・・・?」
「それは私では分かりかねますが、きっと許してくれますよ。優しい娘でしたしね。」
本当は許してほしいわけではないのだ。
ただ、いつも一人だったあの娘が―こんな私に“ありがとう”と言ってしまうくらいに―寂しくはないだろうかと、そう思ってしまうのだ。
花の妖精ならば届くだろうか・・・。
「本当に幻滅しないの?」
「しませんよ。今回で幽香は結構危ういところがあると分かりましたから、私がずっとつかまえています。」
そう言って私を抱く腕を強くする。
「そう、じゃあつかまえていてね。」
一滴の雫がゆっくりと頬を伝っていくのを感じた。
沈んでいく夕日を背中にして、先を進んでゆく二人より添った影の後を追いながら・・・。
「あの妖精に名前は付けてあげないのですか?」
「そうね、私が付けていいものかと思ってね。」
「きっと喜んでくれると思いますよ。」
喜んでくれるだろうか。
いや、喜ぶ姿は容易に想像できた。
とは言え、凝った名前を付けられるほど自分にはセンスは無い。
「それじゃあ・・・。」
風に揺らめく向日葵がこちらを見つめている。
満開に咲き誇る向日葵の群は、それだけで一つの生命体であるかのような、とてつもない力を持っているのではないかと思わせる事がある。
聞こえるだろうか?
聞こえていますよ、とそんな声が聞こえる気がした。
――ひまわり
End、、、。