空の彼方、世界が闇の世界から光の世界へと変わる朝方。
まだ太陽の姿は見えないが、世界の色は紺から蒼へと少しずつ確実に変わり始めていた。
その天空の世界に、色とりどりの羽をはためかせる少女がいた。
その少女のはばたきは、彼女の周りの雲を次々と霧散していきそう、いや実際に霧散させる程力強いはばたきだった。
彼女はどこへ向かう目的もなく、ひたすら高く、ひたすら前へと、世界を飛んでいた。
肩の近くまで伸びたセミロング気味の輝く金髪に、その金の髪がよく映える真っ白なワンピースを身にまとい、その煌く羽をはばたかせ続
けた。
はたから見たら彼女はまるで天使。その言葉がよく似合うな姿だった。
しかし彼女は天使ではない。
紅の悪魔の妹、吸血鬼であるフランドール・スカーレットだった。
「なんて…蒼いんだろう…」
蒼。青。藍。
まさにそんな言葉しか浮かんで来ないような風景だった。
魔理沙の言う通りだった。
今まで闇夜しか知らなかったこの空が、この世界が、このホシが、こんなにも蒼く綺麗で美しいセカイだったなんて…。
こんな素敵な世界なら、以前魔理沙が話してくれた空中に浮かぶ大きなお城のお話も本当にあるかもしれない。
そう思うとなんだかとても楽しくなってきた。
「ねえ!魔理沙もそう思うでしょ!」
…ああ、そうだな。
そう彼女に笑いかけてくれる黒い魔法使いの姿は幻へと消えていった。
「あ…。」
いつもの癖でそう言った後彼女は改めて思い知らされることになる。
いつでも自分の隣にいてくれて、笑いかけてくれた黒い三角帽子のよく似合う魔法使い、霧雨魔理沙がもうこの世に存在しないことを…。
もうこれで何度目なのだろう。
なんども魔理沙の幻へと話し掛け、なんどもその幻が消えていったというのに…。
私は今まで全てを壊し続ける存在でしかなかった。
ありとあらゆるモノを傷つけ、壊して、こわして、コワシテ来た。
なぜそんな事ばかりしてきたのかは自分でもわからない。
きっとこんな自分をありのままに受け入れてくれる誰かを待っていたのかも知れない。
もしかしたらだれかにすがりたかったのかも知れない。
そして…私はわたしを受け入れてくれるヒト、魔理沙と出会った。
彼女は、こんな私を当たり前のように普通に接してくれた。
こんな私を受け入れてくれた。
それからの魔理沙との過ごした時間は、とてもかげがえのないものであり、大切で、楽しい、夢のような日々だった。
魔理沙は私に誰かと共にいること、誰かと共に過ごす時間が一番楽しく幸せな物なのだと教えてくれた。
そんな彼女を、私は大好きだった。
ああ…こんな私にも誰かを好きになる事、大切な誰かと過ごす時間が持てるのだと思った。
今着てるこの白いワンピースも魔理沙、天使見たいで似合っていると言ってくれたっけ…。
でも……魔理沙はもう………いない…。
フランは顔を俯かせたかと思うと、すぐに顔を上げ、まっすぐな瞳で空を見つめまたはばたき出した。
彼女は彼女自身もなぜ飛んでいるのか、どこに向かっているのか分からない。
ただこんな風に飛んでいれば魔理沙がまたひょっこりと表れると思ったのかもしれない。
天の彼方にある天国とやらに行けば魔理沙に会えるかもと思ったのかもしれない
いずれにせよ、彼女が飛び続ける理由は誰も分からない。
だがその顔には悲しみの色は無く、すがすがしい顔でただ空を見つめる瞳だけがあった。
少しずつ太陽が昇り始めてくる。
吸血鬼である彼女にとって太陽は、その身を塵へと変える天敵である。
彼女はそんな事は知らないとばかりにただ飛び続ける。
そして日の光が世界を照らし始める。
それと同時に、日の光を浴びた彼女の体が少しずつ塵へと変わってゆく。
それでもなお彼女は飛びつづける。
この蒼い空を。この蒼いホシを遠くみすえながら。
その虹のように煌く羽を力強くはばたせながら…。
やがて彼女の体の全ては塵へと消えていった。
あたかも最初からなにもなかったのように。
だがそこには彼女の羽のような美しい虹がかかっていた。
FIN
コメントありがとうございます。
駄文に近いようなこの作品であっても、読んでいただけるだけでうれしいです。