ある夏の日、あたしは紅魔館の長い廊下を歩いていた。
「何を言われるんでしょうか…」
隣を歩くのは頭と背中から小さな羽が生えた小悪魔、いつもはパチュリー様がおられるヴワル図書館にいるのだが途中でばったり、どうやらあたしと同じでお嬢様に呼び出しを喰らったらしい。
ちなみに愛称は「こあ」。
「昼寝したのがバレたのかなぁ…」
「さすがに門の外だからそれはないんじゃ…って、また昼寝してたんですかぁ!?」
考えた素振りを見せた後すぐにハッとした表情に変わる。
ほんと、この娘は元気がいい。
「おぉっと、口は災いの元ってね」
「もう…しっかりして下さいよ?寝るのは休憩時間内だけにして下さい」
「へいへい」
そんな事を言っている内に目的の部屋の前に着いた。
ここは客室。
たまに皆でお茶会もやる様な広めの部屋。
ここに呼ばれたって事は誰か客人でもいるのだろうか。
コンコン、と二回ノックしてから入室する。
「失礼いたします」
「失礼しまーす」
もっと真面目にっ、と小声でこあに注意されたが聞こえないフリ。
「あぁ、美鈴、こあ…こっちに来て」
お嬢様、レミリア・スカーレット様が手招きしてくる。
部屋の中にはあたしとこあ、それとお嬢様とパチュリー様も。
そして…。
見慣れぬ女の子。
未だ10歳いかないくらいの女の子、銀髪に紅い瞳。
「あ…昨日は、ありがとうございましたっ!」
女の子が言う。
誰に向かって?問うまでもない、紅い瞳は真っ直ぐにあたしを見ていた。
昨日…なんかしたっけ……。
「……あ」
思い出した。
この子が暗闇に潜む妖怪に喰われそうになってたから助けたんだった。
(なんか強いと思ったら紅魔館の門番だったのかー/語り:先日の妖怪Rさん)
そして、次にお嬢様が放つ言葉は、あたしもこあも想像すらできない言葉だった。
「この子を十六夜咲夜と命名し、この紅魔館のメイドにする事に決めたわ」
※
今日も天気がいい、いや、良すぎる。
これじゃあたしの素敵なモチモチ美白肌に響いてしまう!
「いやしかし、あんなに小さい子をメイドにねー……」
急にどうしたのだろうお嬢様は、あんなに小さい子をメイドにする、だなんて。
しかもただの人間。
何もできないのに。
「めーりん!」
噂をすれば影、あの女の子がいつのまにかあたしの前に立っていた。
「ぇえっ!?咲夜ちゃん、いつの間に!」
えへへっ、と少女、咲夜は笑って見せた。
「ここで何してるの?」
とても無垢な瞳で問いかけてくる。
「あたしはここの門番なんだ」
「もんばん?」
「うん、お客様を迎えたり、悪い奴が来たら追っ払ったりするんだ」
「へぇー!めーりんって強いんだねー!」
「そうだぞー!」
力こぶを作って笑ってみせる。
「で、咲夜ちゃんはどうしてここに?」
「咲夜でいーよ!」
「えっ?あ、うん。咲夜ね」
「うん!えっとね、おじょーさまに言われたの!こーまかんは広いから探検してきなさいって!」
ありゃ…もうお嬢様って呼んでる……調教は始まってるんだなぁ。
「でも一人でウロウロしてると危ないんじゃない?」
「だいじょーぶ!私ね、時間止められるの!」
「そーなのかぁー」
時間ねぇ。
「……え!?」
時間を止められる!?
待って待って、ただの人間なのに?なんてことない普通の人間なのに?
なんで…。
「なんでかは分からないんだけど、止まれー!ってやると止まるの」
「え、じゃあ昨日はなんで時間止めて逃げなかったの?」
「疲れてたから、止めれなくって…」
ふっ、と。
彼女の顔に影がさす。
やや間があいてから、咲夜が続ける。
「ずっとね、ずっとずっと逃げてきたの。
前までいた里で怪物扱いされたの、ただ目が赤いだけで。
それで皆が捕まえようとしてくるから時間を止めながら逃げてた。
何日も何日も、毎日逃げてた。
里の皆も一瞬でいなくなる私を見て、やっぱり怪物だー!って言ってくるの。
学校の友達も石投げてきたりだから…学校行かなくなって…ずっと逃げまわってたの。
それでね、お腹が減ったら時間を止めてどこかから盗んでくるの、それしか…できなかったから」
だんだんと涙ぐんだ声になっていく。
「それでね、家に、戻ってみたの……そしたら、お母さんと…お父…さんが、殺されてた……」
「……っ!」
「里の皆と違って、優しかったんだよ?
お母…さんも、お、お父さん…も……ひぐっ…」
肩が震えている。
「なのに…わっ、私の…っ…せいで…!」
「だから、逃げてきたのね」
「…うん……ぐすっ。
そしたらあの妖怪に会ったの、でも、でも…疲れてた…から、時間…止めれなく…てっ……ぅ…」
気付いたら、私は咲夜を抱きしめていた。
「…っ!?」
「もう…大丈夫だよ。
咲夜のお家はここだから、私たち皆が家族だから。
お嬢様も妹様も、パチュリー様もこあも。
もちろんこのあたしも!
皆みんな、咲夜の味方だから。
全力で咲夜を守るから。
昨日みたいな妖怪なんかが来てもあたしが追い払うから、大丈夫。
だから…安心して、ね」
「めー……りん…」
咲夜はあたしの胸に顔を埋めて泣き叫んだ。
声が枯れるまで、ずっと、ずっと……。
気付くとあたしの目からも一筋、波が落ちていた。
やがて、落ち着いた咲夜に。
「咲夜、はい」
鈴が二つついたリボンを渡す。
「…?」
腫れた目をぱちくりさせながら鈴を受け取る。
「これはね、お嬢様が昔腕に着けていた鈴で、私に美鈴の名前をくれた時に一緒にくれたものなの」
以来、ずっと手首に着けていた。
でも…。
「それ、咲夜にあげる」
「え?いーの?」
「うん。
それがあたしがいつでも、いつまでも咲夜と一緒にいるって約束。
あたしが咲夜を大好きな証だから、大事に持っててね。
無くしたらお説教だからね」
あたしと鈴とを何回か交互に見つめた後、咲夜は満面の笑みで。
「うん!」
笑ってくれた。
―――――――――――――――――――
「ねぇ、美鈴見て見て!!」
「ん?」
「どう?背ぇ伸びたと思わない!?」
「おー確かに、ちょっと前まであたしの腰くらいだったのにね」
「ちょっと、それ何年前の話よ」
互いに笑みを交わす。
咲夜がメイドになってから何年経ったのだろう。
「んー、でも」
「なに?」
「胸はまだまだあたしの勝ちね」
「…っ!こ、これでも少しは大きくなったんだからっ!」
「ほぉ~、じゃあ今夜は久しぶりに一緒にお風呂入ろうか」
「え、ええ!勿論いいわよ!私の成長ぶりを目の当たりにするがいいわ!」
あれから最初の何年かは毎日寝食を供にしていた。
まるで本当の姉妹、親子、家族のように。
「あ、そうだ聞いてよ!お嬢様が明日は私と美鈴に休みをくれたのよ!」
最近は咲夜も仕事が増えたのと、流石に恥ずかしがる年頃になったのがあった為に一緒に入浴なんてのも少なくなってきた。
「それでさー新しい靴を買いたくて、美鈴も一緒に行かない?」
咲夜は毎日毎日元気にすくすくと育っていく。
人間の寿命は百に満たない短いものだから、成長もその分著しいもなのか…。
妖怪のあたしにとってはたったの何年かでも、咲夜にしてみれば大事な時間なんだ。
「ねぇ美鈴聞いてるー?」
そう…あたしは妖怪、咲夜は人間。
これはどうやっても覆らない現実。
いつか、咲夜はあたしを置いて旅立つ。
咲夜がいない…。
そんなの、嫌だ!
咲夜が紅魔館に来てから今までは、本当に何年かの短い間だった。
でも、それでも。
それは掛け替えのない咲夜との大事な大事な時間なんだ。
それに終わりが……来てほしくない。
「美鈴ってば」
嫌だ、いなくならないで。
咲夜……咲夜…!
一人にしないで、一人はもう嫌なの…。
だから……お願い…っ!
「美鈴……
泣いてるの?」
「っ!?」
ハッとした、いつの間にか寝ていた。
そしてまたあの夢を見た。
昔の…
「まったく、また居眠りしたと思ったら」
「あっはは…」
まだ…
「ちゃんと仕事してよね」
「だだ大丈夫ですとも!咲夜さんもこんな所で油売ってて大丈夫なんですか?」
呼び捨てにしていた頃の夢。
「私はちゃんと自分の仕事は全部終わらせたわ。ほんと、この能力があって良かったわ」
最近になってあの夢を見る頻度が高くなってきていた。
何故かは分からない。
「で、美鈴なんで泣いてたのよ」
「なんでもないですなんでもないです」
「もう…じゃ休憩までもう少しだから頑張ってよね」
「あっ…」
気が付くと、あたしは歩き出す咲夜さんの手を握っていた。
「ん…何?」
「あ、えっ…えーっと……」
どうしようどうしよう。
なんか言わなきゃ…何を言おう。
「さ、咲夜さん…」
「ん?」
「身長伸びましたね!」
あたしのバカ!美鈴のバカ!なにそれ!苦し紛れの言葉がそれかっ!
「うん、私だって成長してるもん。
っていうかその台詞一年に一回は聞いてる気がするわ」
「あはは、そうでしたっけ」
そんなに言ってたのか、自分。
「でも」
「『胸はまだまだあたしの勝ちね』でしょ?」
「あちゃ、先越された…」
「お見通しよ。さて、じゃあ今日は一緒にお風呂入る?」
「そういう流れですもんねっ」
※
太陽が沈んだ頃、そろそろ仕事も終わる時間。
「さぁーって、終わり終わりーっと!」
大きく伸びをする。
「美鈴!」
慌て気味の咲夜がふわっと現れる。
「ごめんね!まだお茶会が終わらなくって!だから先にお風呂入っててもいいよ!」
「あはは、大丈夫。あたしは待ってますよ!
だから頑張ってきて下さい!咲夜さん!」
「う、うん。ありがとう美鈴。
…じゃあまた後でね!終わったら部屋に行くわ!」
言い終わるとヒュッといなくなる。
ほんと便利な能力だよなぁー。
………よし、手伝いに行こう。
と、いう訳で。
メイド美鈴☆頑張りまーっす!
こう見えても料理は得意なのです。
いやしかし、まだあたしのメイド服が残っててよかった。
デザインは咲夜さんと一緒だけど、やっぱり胸がきつそうだもんね。
おぉっと、これが口に出てたら危うく殺される所だ。
さて、気を取り直して厨房だ。
予想通り咲夜さん一人で全部やっていた。
配膳が終わると、料理を乗せたトレイを持ち、また時を止めて一瞬でいなくなる。
きっと今はお嬢様やパチュリー様のところにいるのだろう。
やるなら今だ!
「んー、なるほど」
ぱっと厨房を見渡しただけで今日のメニューを理解した。
伊達に何百年も紅魔館で働いてないわ、流石あたし!
すると、ものの数分で咲夜さんが戻ってくる。
便利だなぁ…。
一瞬、咲夜さんの空気が停止した気がした。
「め、美鈴!?」
「調理はあたしに任せて下さい!咲夜さんはできたものからじゃんじゃん持ってって下さーいっ!」
「え…あっ。う、うん!ありがとう!」
役割分担をすると作業もサクサク進むもので、かなりスムーズにいった。
「美鈴、次は!?」
「えっ咲夜さん早っ!」
その能力欲しいわぁー…。
「ごめんね、パパッと終わらせたくってさ」
「そんなにあたしと一緒にいたいんですかぁ~?しょうがないなぁ~」
気付いたら壁に5本のナイフが刺さっていた。
ごめんなさいごめんなさい。
「ほらほらさっさと作るわよっ」
隣に並び、調理をしようとする。
そんな咲夜さんを手で制する。
「あぁ、咲夜さんは料理ができるまでそこに座って待ってて下さいな」
「え…でも…」
「いいからいいから!今日の調理担当はこの紅美鈴なんですから、ね」
あたしが進めるがままに座る咲夜さん。
たまには休憩して下さい。
いつも仕事に追われる日々で疲れてるんですから。
「さてさてやりますかぁー」
それから何分か経った頃、間もなく料理もできあがる。
ふと咲夜さんの方を見ると。
「………」
静かな寝息を立てて寝ていた。
「んふふ、風邪ひいちゃいますよー」
優しく上着をかけてあげる。
「よーぅし」
腕まくりをして頬を張り気合いを入れ直す。
咲夜さんが起きるまでに全部終わらせるんだ!
※
「よし、以上!」
これで全部終わった。
なかなか腕は鈍らないものねー。
あたしってばやっぱり筋良いかもね。
「……ん…」
そんな事を思いながら皿洗いをしていると咲夜さんが起きた。
「…あ…あれ……私…」
「あぁ咲夜さん、おはようございm」
「ちょ!え!?どうしよう私寝てた!!え、ねぇ美鈴!私…」
「だだ大丈夫ですって全部やりましたから!だから落ち着いて下さいってば!」
取り乱す咲夜さんをなんとか落ち着かせる。
自分が寝たことに気付かなかったからだろうか、さすがにビックリしてる。
「不覚だわ、完全で瀟洒なメイドを目指していたのに…」
「まぁまぁ、咲夜さんも疲れてたって事ですから」
はい、と紅茶を差し出す。
「ありがとう……あ、美味しい」
「そりゃそうですよ、あたしだってメイドを経て門番をしているんですから!
咲夜さんが来る前はあたしとこあが交代でメイドと門番をやっていたんですよー」
「へぇ…そういえば美鈴がメイド服着てるの初めて見たわ」
「以外と似合うもんでしょ?」
「そうね、でも前のパーティの時のチャイナドレスも似合ってた。
っていうかあれが一番しっくりきてたわ」
「えへへっ、ありがとうございます。」
なんかここまで真っすぐ褒められると照れちゃうなぁ…。
「じゃあ後はこのお皿を洗ったら終わりですから、ちょいと待ってて下さいね」
「私もやるわ」
立ち上がり、あたしの隣に立つ。
「もうちょっと休んでても大丈夫ですよ?」
「いいの、もう充分休んだわ。
紅茶ごちそうさま。」
「あ、はい。
んー、じゃあ洗ったのを拭いて下さい」
「うん!」
そこからは色々と話をしながらゆっくりお皿を片付けていった。
「よし、終わりっと」
最後のお皿を咲夜さんがしまい終わる。
「さぁってお風呂お風呂ー!」
「やっと入れるわね、じゃあお嬢様に言ってくるから先に行ってて」
言った次の瞬間にはもう咲夜さんの姿はなかった。
いやまじでその能力欲しいっす……。
―――――――――――――――――
紅い絨毯に飾られた廊下を歩く。
否、跳ぶ。
いや……
スキップする。
「ふふっふふっ♪おっ風呂っ!おっ風呂っ!咲夜さんとおっ風呂っ!」
うん、気持ち悪いくらいテンションが上がってる。
そんな気分をなるべく出来る限り全力で抑えながらお風呂へ向かう。
「…ごほん」
ドアの前でひとつ咳ばらい、呼吸を整える。
中に入ると丁度咲夜さんも到着した所だったらしい。
「あ、美鈴」
「さぁって仕事の後のお風呂は気持ちいいですよー!」
そうね、と咲夜さんはニッコリ笑った。
いやーかわいいなぁ……。
ポイポイ服を脱ぎ捨て浴場へ向かう。
そして…。
IN
「っ…ふっ………ぅう……」
熱い…。
「っあーーー!!熱いー!けど気持ちいい!!」
「こら美鈴、ちゃんと体流してから入らないと駄目じゃない」
「なぁに大丈夫ですよ!…あ、咲夜さんお背中流しましょーか」
「べっ別にいいわよ」
サッとタオルで体を隠す咲夜さん。
「まぁまぁ、いいじゃないですかぁー」
でもそんなのお構いなし。
強制的に背中を洗う。
「はぁ…分かったわよ、もう好きにして」
「あら?今日は以外と素直なんですね、いつもならもっとキー!っと来るのに」
「今日は仕事手伝ってもらったし、ご褒美として何か我が儘聞いてあげようかなぁーなんてさ」
顔を伏せながら言ってくる。
あーかわいい…。
「本当ですか!?じゃあじゃあ、今日一緒に寝て下さい!それでまずお風呂上がったら一緒にお酒飲んで、あ!明日起きたr」
「どれか一つにしなさいッ!!」
「むーーっ」
「駄々こねても駄目」
「わかりましたよー、じゃあお風呂上がったらお酒飲んで今日は一緒に寝て下さい」
「え、ちょっ、それ一つじゃな…まぁいいわ。
それでいいのね?」
くるっと顔だけをこちらに向ける。
何かを伺う表情だ。
「はい☆」
目を輝かせてやった。
「親バカっていうかなんていうか…」
「え?なんか言いました?」
「別にーなんでもなーい」
「……?」
と、まぁそんなこんなで楽しいバスタイムを過ごした訳で。
え?あぁ、もちろん胸比べもしましたとも。
勿論あたしの勝ち。
ただ「妖怪みたいに大きいわね」と言われました、そりゃ妖怪だもんよ。
あぁ…妖怪かぁー。
いっそ咲夜さんも妖怪に…いやいや、咲夜さんの願いは人として生きて人として死んでいくことなんだ。
あたしの我が儘なんかで変えちゃいけない、咲夜さんが望む人生だから。
さてさてお風呂上がり。
「どこで飲みます?」
「美鈴の部屋でいいでしょ、どうせ一緒に寝るんだし」
「あ、そうですね」
「それじゃあ私はお酒とおつまみの準備をしてくるから先に行ってて」
言い終わるとまたまたシュッといなくなった。
あれかな、あたしも足に最大限の気を送りこめば凄い速さで移動できるのかな。
今度あの氷の妖精と遊ぶ時にやってみよう。
そして自分の部屋に着く。
うん、大丈夫ちゃんと綺麗にされてる。
こう見えて綺麗好きなのよ?どう見えてるか分からないけども。
すると、ほどなく咲夜さんも到着。
「今日はワインでいいかしら、あとおつまみも適当に持ってきたから足りなかったら言ってね」
「あ、はい、なんかありがとうございます」
「いいのよ、今日頑張ってくれたお礼だから」
「えへへ」
「これからもこの調子で頑張ってよね、紅魔館の門番兼庭師さん?」
ワインを注ぎながら言う。
乾杯、と軽くグラスを合わせる。
「んー」
軽くグラスを傾けた後、少し考える。
「ご褒美くれるなら考えます」
「っ!ちょ、ちょっと何よその元から仕事しないの前提な言い方」
危なくワインを吹き出しそうになったみたい。
「まぁ、そうね。
明日になったらカードを作ってあげるわ、ポイントカード」
「ポイントカード?」
「そう、美鈴が仕事を頑張ったり、私が美鈴に感謝したり、とにかく美鈴が良い行いをしたと私が判断したら一点あげる。
それが、そうね…5点、10点?まぁそれぐらいいったら今日みたくご褒美をあげるわ」
「ほうほう」
「だからこれからも頑張ってよね」
「要約すると、私の為に頑張ってね美鈴☆って事でおk?」
「だぁれが私の為って言ったのよ、これは貴女の為よ美鈴。
美鈴がしっかり仕事をこなせる女の中の女になるため」
「そしていつか立派な咲夜さんの夫として」
「はいはい勝手な妄想をしない。
それに私たち同性なんだから無理でしょ普通に考えて」
「あっはは、ですよねー」
ん?あれ、拒否はしないんだ。
なんか嬉しい。
グラスを空け、新たにワインを注ぎ直す。
すると咲夜さんも空けたので注いであげる。
「あ、でもあれですね。
咲夜さんもお酒を飲める歳になったんですね」
「うん、今年でやっと20くらいだと思うわ。
まだまだお酒には強くないんだけどね」
その内慣れますよ、と言いながらグラスを咲夜さんの方へと向ける。
それに気付いたのか、さっとグラスを持つと再度乾杯、杯を交わす。
そんな感じでお酒は進んでいき、いつしか二本目のワインが半分くらいになった頃。
「ぅあ~もうダメ、酔っ払ってきた…」
咲夜さんがテーブルに突っ伏して溜め息を漏らす。
「あらら、まだまだこれからなのにー…さて、じゃあ寝ますか!」
「…うん」
咲夜さんはなんとか体を起こし背もたれに体重を預ける。
と、両手をこちらに伸ばしてきた…なんだろ。
「んーー」
「いや、んーーじゃ分かりませんってば」
「おんぶ」
「……え?」
「ベットまでおんぶして」
なになになになに!?咲夜さんって酔うと甘えるタイプ!?
ちょ、これ、おまっヤバイって!可愛すぎる!!
「おんぶー」
「あ、はいはい分かりましたからバタバタしないで下さい!」
咲夜さんの前で背を向けて屈む。
「はい」
「あ、その前に美鈴」
「ん?なんでしょう?」
「今日は美鈴の我が儘聞いてあげたんだから、私の我が儘も聞いてくれるよね?」
「まぁ…可能な範囲でなら」
「じゃあ、私のこと呼び捨てで呼んで」
「いやいやそれは出来ませんよ」
「なんでー!いいじゃん別にー!昔は普通に」
「咲夜さんは咲夜さんですから、駄目です」
「なによそれー、ふん、いいよいいよ別に」
言いながら立ち上がりこちらに近づいてくる、ふらっふらだ。
慌てて背中を向けて咲夜さんを受け止める。
…大きくなったね、咲夜さん(乳的な意味も含む)。
いまだに後ろでぶつぶつ言う咲夜さんをなだめつつベットへ運んでいく。
調度咲夜さんがベットに入った所でこちらへ手招きしてくる。
「ほら、早く寝よ?」
あぁ鼻血出そう誰か助けてちょっとこれ我慢できなさそう。
ベットに入って添い寝する。
「咲夜さん頭上げて下さい」
「ん?ほい」
咲夜さんの頭の下に腕を入れる。
「呼び捨てはできませんが、腕枕をしてあげます。」
ちょうど二の腕で咲夜さんを受け止めて、掌は頭を撫でる形にした。
「どうですか、懐かしいでしょう?」
「う…うん」
昔、咲夜さんが一人で寝れない時は毎回こうやって寝ていたもんだ。
「やっぱり呼び捨ては無理…なの?」
「すいませんが、それはできません」
「ん……そう」
腕の中で寝返りを打ち、あたしに背を向ける体勢になる。
しかし腕枕からは離れていない。
「…ばか」
咲夜さんは、そう小さく呟いた。
なんだろう……この胸の疼き。
気持ち……。
好き?
勿論、嫌いだったら一緒になんかいないし。
違う……そんな好きじゃない。
最初は家族として、姉妹として、紅魔館の仲間として好きだった。
それが今はどうだろう。
この胸の疼き。
今一緒に寝ていることに対する幸福感。
強く抱きしめたくなるこの衝動。
絶対に離したくないと強く思う。
ずっと一緒にいたいと願う。
家族とか姉妹とか仲間とかじゃなく、見てしまっているんだ。
一人の恋愛対象として。
気付いてしまった、自分の気持ちに。
咲夜さんが……いや、咲夜が。
好きなんだ、愛してしまっているんだ。
だから言おう。
もう逃げない、真っ直ぐ向き合うよ…自分の気持ちに。
「……咲夜」
一瞬、咲夜の肩がビクッと震えたのを感じた。
ややあって寝返りを打ちこちらを向く。
「め、美鈴…今……」
「うん…咲夜……」
パァっと咲夜の顔が明るくなっていく。
同時にあたしの心も満たされてく。
でも。
今のあたしはそれだけじゃ満足できなかったみたい。
気付けば。
「……んっ」
互いの唇を合わせていた。
軽く触れ合う程度の短いキス。
あたしも酔っ払っちゃったかな、うまく歯止めが効かない。
「めー……りん…?」
「咲夜、愛してる」
やっぱ歯止め効かないや、口が勝手に動いてる。
「ふふっ…言ってからキスしなさいよ……」
え、拒否しない…?受け入れられた……?
「やっと言ってくれたね、ずっと…ずっと待ってたんだから……ばか」
先程と同じ「ばか」という台詞でも今回のはまたニュアンスが違った。
どこか幸せそうな…はにかんだ言い方。
「え、あ、えっと…咲夜?それってどういう」
言葉は咲夜からの深いキスによって途中で遮られた。
「…ん……ふはぁっ」
「ん…こういう事、これが私の答え。
みなまで言わせないで……察して、美鈴」
「あ、え……」
いや、あの。えーっと…。
それから、しばらく思考停止していたのだろう。
気付くと咲夜は静かな寝息を立てていた。
「…くすっ」
なんだろう、思わず笑みがこぼれてくる。
あたしの心は今、最愛の人を手に入れた充実感と、目の前の人への愛情で満たされている。
これから先、色々な困難が待ち受けているとは思うが。
あたしたちなら大丈夫。
必ず越えていける。
だから、これからも一緒にいようね。
「…咲夜」
もう一度名前を呼んでから額にキス…そしてあたしも、眠りに落ちていった。
『お茶会のが』
→『お茶会が』
『調度咲夜さんも』
→『丁度咲夜さんも』