地上の者がやってくる原因となったばかりか、地上の鬼に有頂天の一部を勝手に貸して天界じゃ考えられないような
宴会までやる天子に天界から罰が下ることはなかった。そもそも天界では罰などと言った物はなかった。もともとが悟
りを開くまでに修行した者しかいないはずの天界でそのようなものは必要もなく、わざわざ例外である比那名居一族の
為に用意はずもなかった。
それになにより、天界の一部が侵略されようが地上がどうなろうが、天人にとっては全く関係のない話でもあった。
関係あるのは地震を司る天人ぐらいだろう。天界はありあまった土地を持っているし、不良天人の相手を地上の者が務
めるというのならばそれで良かった。竜宮の使いも天人も誰も彼もが天子をちゃんとした天人と認めておらず、またそ
のような者に積極的に関わりたいとは思っていなかった。比那名居に仕える竜宮の使い「永江衣玖」にとってさえ手に
あまる存在だった。
そんな天子は今日も地上に遊びに行っていた。その日々はこれまでと違い退屈など一切感じることがなく、毎日が好
奇心をそそるものばかりであった。珍しい種族である吸血鬼の館に忍び込んでみたり(見つかって珍客のように扱われ
たが)、真に不老不死という蓬莱人に会ってみたり(天人の系譜の名前変えなきゃとか言っていた)と自由奔放かつ充
実した日々になっていた。だが、天子には気になっていたことがあった。鬼「伊吹萃香」と全力で戦っていないこと(
立場上全力を出さない戦いしか行っていなかった)と、スキマ妖怪「八雲紫」のことだ。異変に関わった他の人妖とは
萃香の企画で全力で戦い、酒を飲み交わして異変の本当の終わりとなった。
しかし、紫とは彼女の怒りに触れて敗れて以来会えてすらいない。聞いたところによるとそもそも姿を現すことが少
ないのだそうだ。天子は異変を解決に来た者は挑発したが、紫に対しては挑発も何もなく怒りに触れてしまった。その
激しい怒りの理由も分からず、また地上との交流が一番の目的だった天子にとって、話す機会もないのは、なんとなく
しゃくであった。
その二つは過去の退屈な日々から充実した日々となった天子においては些細なことだったのかもしれない。だが天子
はそんな些細なことであっても気にしないほど、気になることを抑えずにはいられい性分だ。けれども、萃香と遊びで
弾幕ごっこすることはあっても全力といくには今更感があるし、ただの力比べなど面白みに欠ける。紫との関係につい
ては相手とそもそも会えないのだからどうしようもない。
そんなある日、神社に来ていた日であった。
「あ、そうだ。今すぐ桃を持ってきてくれない」
話し相手は博麗霊夢、この神社の巫女であり、主だ。縁側で一緒にお茶しようとしていた時の一言であった。
「別にいいけど桃なんてどうするの?お茶請けには合わないだろうし、主食としては飽きるわよ」
「違うわよ、私が食べるんじゃないの、今日の宴会用、あなたも参加しなさい。今日は面白いわよ。なんか魔理沙が久
しぶりの宴会だからって何か大規模なことをやるらしくて、いろんな人といろんな酒とつまみを用意しとけっていいふ
らしてる。」
「そんな面白そうなことに参加しないわけないじゃない。でも桃でいいの?つまみには合わないと思うんだけど」
「咲夜がきっと調理してつまみにしてくれるでしょ、それに食べ物はつまみだけに限らないとか、よく分かんないけど」
「ええ、分かったわ、お茶飲み終わったら取りに戻りましょう。それにしても何をやるんだろう」
「どーせ魔理沙のすることだからろくなことじゃないでしょうけど」
それからは他愛もない会話を楽しんだ。天子は地上の話を尋ね、霊夢はそれに答える。最近の神社ではよく行われる会話
であった。霊夢は内心、よく飽きないな、などと思っているような日常的なことも多かったが。
そうこうしてるうちにお茶は飲み終わった。
「じゃあ、取りに行ってきますわ。夜までに戻ればよろしいでしょう」
「ええ場所はいつもどおりここだから」
天子は桃を取りに天界へと戻っていった。
*
「さて、どうしようか」
桃を持ってくるとはいったもののどれだけ持って行けばいいのかは分からない。迂闊にも聞き忘れていた。まあ、あの様
子では聞いたところで無駄だったかもしれないが。
とりあえず適当に持てるだけ持っていくことにする。とは言っても天子一人に持てる量など限られている。これだけで
足りるのだろうか、怪しい分量である。天子はふと思い至った、ならば桃を桃として持って行かなければよいのではない
かと。天子はただの桃に飽きていた。そのために様々な調理した桃があった。その中に桃を使った酒があったはずだ、そ
れをもっていくことにした。
(これなら十本持っていけるしお酒なら皆も満足でしょう)
一升瓶を十本抱えて神社へ戻ることにした。
*
天子が神社に戻ったときには既に宴は始まっていた。
「お、やっときたな、もう宴会は始まってるぜ」
出迎えたのは霧雨魔理沙、自称魔法使いだ。その実、ただの泥棒のような気もしなくもないが。
「あら、もう始まっちゃってたの」
「今日の主役は萃香だからな。あいつが何かやるらしい」
聞いていた話と違っている。何かやるのは魔理沙だとばっかり聞いていたのだが・・・。
「私はただの宴会の幹事役だぜ。主催はあいつらしいけどな。」
どうやら萃香の話を魔理沙がまるで自分がやるように話したのだろう。泥棒家業と言ってもそこまで盗まなくてと思わず
にいられなかったりするが。となると企画があの萃香ということはますます楽しいことになりそうだ、能力で人集めはか
なりのものになっているだろうし、鬼といったら比べごとが好きだと聞いた。楽しい楽しい勝負事になりそうだ。
「ああ、そうだ、これ持ってきた桃酒、味の保障はしないわ」
天子が桃酒を差し出した瞬間に魔理沙が奪い取って
「珍しい酒か」
既にテンションはハイらしい。
「お、来たね、待ってたよ」
「あら、私を待っていてくれたなんて珍しいのね、今日はなんか面白いものが見れるんでしょう。楽しみだわ」
桃酒を持ってさっさ皆のところに行ってしまった魔理沙に変わって萃香が出てきた。相変わらず酔っているのかいないの
か分からない。本人曰く酒は飲むが呑まれないらしい。普段の様子見てると怪しいところだ。
皆のところに行こうとすると手をつかまれてそのまま変な方向に連れて行かれた。
「残念ながら楽しいものは見れないね、代わりに楽しいことがあるけどね」
「皆のところに混ざらないの?」
萃香は一方的にしゃべった後は返答もなくただ天子を連れていく。そうしてたどり着いたのは神社が見える広い場所だった。
「まだあんたとはちゃんと戦ったことないなと思ってね。せっかくこうしで出会えて遊べるんだ。思いっきり弾幕勝負とい
こうか、お互い手加減無しでね。特に何も無しでやるのもあれだから宴会の見世物も兼ねようか」
実際のところ異変のときはそれぞれがわざと負けるつもりで1回ずつ2回戦った。その後はお遊び程度に。手加減無しの
全力勝負というのはなかった。そして酒の肴に皆に見物されているという現状、なかなかに面白いシチュエーションでもあ
る。
「面白い、その勝負受けてあげるわ。地を揺るがす私の力を見せてあげるわ」
*
先手を打ったのは萃香だった。
「酔夢『施餓鬼縛りの術』、鬼ごっこといこうか」
萃香は鎖を投げつけてきた、当然のごとく天子は避ける。
(鬼相手に鬼ごっこか、鬼役は私がやりたいものだけども)
落ち着いていれば避け続けられないものでもない。しかし、避けていることしかできない。鎖が投げられそれを避ける、そ
の繰り返しだ。
(ならば)
「気符『無念無想の境地』」
緋想の剣を天にかざし緋想の力を帯びる・・・とは見せ掛けだけでただ体を傷つきにくくしただけだ。もともと天界の桃の力
で体が傷つきにくい、銀のナイフぐらいだったら刺さらない。
そしてそのまま鎖に突っ込んでいく。鎖は天子に巻きつき始めた。そしてそのまま引き寄せられる。
「鬼の手に自分から捕まりに来るとはね」
鎖は天子の力を吸う、そしてそこに一撃叩き込んで萃香の勝ち、そう思っていた。鎖の力等知る由もない者はそれで何人も
倒されていった。
力を吸い取って鎖を外し一撃を叩き込む、そう思い新たなスペルカードを出した瞬間。
「剣技『気炎万丈の剣』」
天子はとっさに萃香に連撃を与える。剣技とは言っているが見よう見まねで適当に振り回しているだけなのだが。しかしそ
こに手ごたえはなかった。
「ふう危ない危ない」
萃香は何事もなかったかのように立っていた。とっさに霧となって逃れていたのだ。
「こっちはもう力勝負といかせてもらうよ、四天王奥義『三歩壊廃』」
萃香が一歩踏み出した、でかくなる、二歩踏み出した、更にでかくなる、さらに三歩目、さらにでかくなった。
「あらら、踏み潰そうとしたけど逃げられたか」
天子はとっさに避けていた。体が勝手に動いてくれて助かった。とはいうものの、たった3歩で普通の人の十歩分の距離が
踏み荒らされていた。3歩で文字通り壊廃をつくるなど動作もない大技だろう。天子に正面から打ち破れる技なんてあるわ
けがない。
「んじゃもう一発いかせてもらうよ。とくと見よ鬼の力」
1歩踏み込んだ、大きくなる、2歩踏み込んだ、さらに大きくなる、そして右ストレートを伴った3歩目
「乾坤『荒々しくも母なる大地よ』」
天子が地面に緋想の剣を差し込んだ。そして地面が隆起する、隆起の範囲が広まる。
「うわっ」
萃香の3歩目が踏み込まれた瞬間に萃香の足元の地面が大きく隆起する。3歩目は隆起した地面を壊しつつも躓き、巨大
化した萃香に地面に倒れた。それをかわしつつ最後の大勝負をしかける。
「思いっきりいかせてもらうよ、要石『天地開闢プレス』」
天子が天に大きく昇っていった。そして落ちてくる、巨大な岩を抱えながら。そのまま潰そうと。
「力技とは面白い、こっちも思いっきりいくよ、鬼神『ミッシングパープルパワー』」
萃香が更に巨大になり、仰向けになって落ちてくる岩と天子に向かって右ストレートの構えをし、タイミングを計って振
り抜く、萃香の右拳と巨大な岩がぶつかりあった。
岩が砕け、天子が放りだされる、だけどまだ終わらない。
「『全人類の緋想天』」
天子が空中で構えなおし、緋想の剣を前にし、最大の技を放った。
迎える萃香はミッシングパープルパワーのまんま特攻する。
*
「やっぱあんたたち強いわね」
賞賛を送るアリス。
「やるなぁ」
感心する魔理沙。
「今度手合わせ願いたいですね」
と美鈴。反応は様々だが天子と萃香の戦いへの賛辞が送られていた。
結局のところは天子の負けだった。ミッシングパープルパワーのスペルブレイク寸前で天子がぶん殴られてしまったので
ある。
けれども天子はなんとなく心地よさを感じた。それは天界では感じることのできないような、不思議な感覚だった。
対戦相手だった萃香には
「いやはや、なかなかにやるもんだ、楽しかったよ。天界のときとは違ってやりがいあると思ったけど確かだったね」
とわけの分からない一言も添えられた。
「ところで」
萃香が思い出したように
「紫いるんでしょ」
「あら、ばれてましたか」
「隠れてる気もなかったでしょ」
「面白いものを見せていただきましたわ。ああ、桃の酒も美味しくいただきましたわ」
今までどこにいたのか(隠れてたわけではなかったようだが)、神社再建(とは言ってもすぐ壊されたが)時にあったき
りだった紫がいた。
「投我以桃、報之以李。桃酒のお礼をしましょうか、何がご希望は?」
「この前の借りを返させていただけるからしら」
「では静かなところへ行きましょう。皆の前で醜態を晒したくないでしょう」
「上等。ここで今すぐにやりましょう。桃酒が高いものにならないといいわね」
*
紫と天子が対峙する。天子が聞く、
「先手はどちらから?」
紫は答える、
「私からいかせていただきましょう境符『波と粒の境界』」
紫から波上の弾幕が流れる。天子はそれを上下左右を使って避ける。1本に連なっている弾幕は1本を集中して避けてしま
えば後はそれを繰り返すだけ、攻略しやすい弾幕だ。
だが境符「波と粒の境界」はそれだけではない。次第に波が崩れて粒となる。そして雨にような弾幕になったと思ったら
また波に戻っていく。つまり攻略しなければいけない場面は2つある。そしてその2つが単純な対策を取らせない。
天子はそんな中でも勝機を見出した。波と粒が交互にくるから困るのだ、ならば波も粒も関係ない位置まで接近すればい
い。その距離でこちらの射撃をぶち込んでやればいいだけだ。そのためにまずは近づかなければならない。波のときは近づ
くことなど不可能だろう、縄跳びをさせられているようなものなのだから。
となるとチャンスは粒の状態の時、一気に近づく。波になられたらアウトだ。
粒になった・・・
粒の合間を探し突き抜けていく。
そしてたどり着いた、紫の前。
「もらった」
天子が構える、だが紫はそのとき既にスキマを使って逃げていた。
「このスペルカードは破れたようね、次いかせてもらうわ」
あそこまで計算されていたスペルカードをさっさと切る点に天子は脅威を覚えていた。
「式神『八雲藍+』」
紫が何かを2つ放った、それは2匹の妖怪だった。
片方は化け狐の八雲藍、紫の式だ、もう片方は化け猫の八雲橙、藍の式である。紫は自分の式と自分の式の式を召還し動
物妖怪特有の身体能力をぶつける気だ。紫にとって境符「波と粒の境界」よりもずっと信用がおける技なのだろうと天子は
思う。これは術者と式の信頼関係の現われのように思えた。
スペルカードとしては、さきほどのスペルカードと違って式という弾幕自体が思考して動くゆえに安定した避け方など存
在しない。さらには自由に動ける紫からの射撃もある。単純に3対1を競り勝たなくてはいけないということである。
やらしいのは藍も橙も肉体派ということである。射撃なら物量、絶対的な火力で押せるかもしれない。だが肉体攻撃とい
うのは射撃をそもそも撃たせてくれないのだ。常に距離と隙を見ていなくてはいけない。その前提のうえで3対1では隙な
どない。
となるとやはり正攻法しか通用しないということである。
(1人ずつ潰していくしかないか、まずは一番倒しやすそうな化け猫から、次に狐の方かな。いや両方同時の方がいいか)
どうにかして片方潰したとして、もう片方に同じ手は通じなくなってしまう、それでは2度手間だ。そうなると一撃で2匹
とも倒す。そうなるとカウンター気味の天子の周り全体をカバーする技が必要だ。となるとあのスペカ・・・
天子は一度大きく距離をとる。2匹が追い詰める好機と思い一気に跳んでくる。読みやすい動きを誘えた。カウンターの
下地はできた。後はタイミングを計るだけ。距離を見極め。
「天地『世界を見下ろす遥かなる大地よ』」
天子が緋想の剣を地面に刺す。天子を中心にして地面が一気に盛り上がった。盛り上がった地面が藍と橙を下から突き上
げる。天子にぶつかろうとしていた藍と橙のスピードへのカウンターとなり大きな激突音がした。
「紫様申し訳ありません」
藍が敗北を宣言、式神「八雲藍+」は破れた。
「では次の勝負といきましょうか、『無限の超高速飛行体』」
紫が手を振りかざす、と同時に高速な何かが飛んできた。なんとか天子はかわしたが、紫は猛攻を始めた。
(いや、無理だって、避けるだけで精いっぱ・・・避け続けるのも無理)
もはや天子に視認できる域を超えた速さと量だった。かわしているのは勘によるところが大きい。
「もう、いい、押し通す気符『無念無想の境地』」
萃香のときと同じように自己を強化してダメージを気にせずに突き進む。もうただの悪あがきの力押しだ。これを破っても
これ以上のものを出されたら続けて「無念無想の境地」で力押ししかないだろう。体力的に考えてジリ貧な上に数で勝負さ
れて勝てるわけもなかった。
つまり実質的な負けであった。
*
天子が目覚めたときには朝になっていた。結局あの後に「無限の超高速飛行体」は破り、その後も二つは紫のスペルカー
ドを破ったが三つ目でついに蓄積されたダメージによって倒れてしまった。そのまま朝まで目を覚まさなかったのである。
「あら、目覚めたの?二度も私の前で倒れるとはね」
目が覚めて一番に紫に話しかけられた。ここは神社の中のようだ、布団に寝かされている。天子が倒れた後、霊夢が神社
に寝かせておいたのだ。紫が何故いるのかは不明だが。
「あら、目が覚めるまで待っていたなんて何用なの?」
「いくつか聞きたいことがあってね、あなたはこの幻想郷が好きかしら?」
天子には何のための問いかは分からない、ただ一言で素直に答えると
「ええ、好きよ。地上には楽しいことが満ち溢れている。様々な者がいるし、誰を拒否することもない、自分の世界をした
てあげて多大な土地を守るだけの天界とは大違いね。それに皆生きてる。前に進もうとしてる、悟りを開いてそこで止まっ
てるやつらとは違ってね。」
「今まで住んでいた天界をそんな風に言うのね。天界は捨ててもいいような言い草」
「あら、それは違うわ。天界だって私の一部、たとえそれが退屈なところであったけどね。地上が全て、天界が全てではな
い。全てを含めて幻想郷、違うかしら。むしろあなたこと天界を毛嫌いしてるようだけど」
「実際嫌いよ。奴らは自分たちの中でしか物事を考えない、切り離された幻想郷でもこんなに広いというのにね。でも、あ
なたはすごく人間くさいじゃない。世俗にまみれて地上を好む」
「ええ、そうよ。だって私は地上の素晴らしさを知っている。そして地上の素晴らしさを忘れていない。地子であったとき
を忘れない」
「じゃあ、あなたは神社を壊したことも忘れていないでしょう。あそこは幻想郷の要、幻想郷が壊れてもおかしくなかった。
あなたは自分の綺麗な夢に混ざるために幻想郷を危うくした」
「えっ。そうだったの。ならあなたの怒りは当然のものね。私は最後に要石を刺して終わりの予定だったのに」
「私はあなたを無知だったからと許しはしません。けれどあなたのこれからの行いであなたへの評価は変わるかもしれませ
んね。最近間欠泉が出る異変があってね」
「地震とは関係ないよね。ね」
天子の声は焦っていた。
「関係はないでしょう。・・・その様子ならさっきの言葉に嘘はないらしいわね」
「ええ、私はこの世界を愛しているし自分の境遇に不満もない。地上に来て特にそれが分かったわ。自分の気持ちが」
「それさえ分かればいいでしょう。あなたを幻想郷の一員として歓迎するわ」
「そう改めて言われると恥ずかしいわね」
「天子とは昔、外の世界では天命を受け民を支配するものだった。あなたが地を支配する力を持ち、天にいながら地
上に関わるのは偶然じゃないないかもしれないですね」
「それって」
紫は突然足元にスキマをつくりそこから退出した。
紫の言いたいことは全部は分からなかったがこれだけは分かった。
天子は幻想郷の一人なのだと、天界の一人なのだと知った。もしかしたら鬼も自分のことを認めたから勝負を挑んで
きたのではないか。
*
「紫もまた素直じゃないんだから、ただ認めるって言えばいいだけなのに」
「あら、萃香いたんですか」
「いたも何も、私に便乗したのも、天子と二人だけになろうとしたのも。そっと疎の力まいといてあげたんだけどねえ」
「ふふふ、ありがとう、これで天界との異変も終わりね」
「素直にお礼いうのなんて珍しいねえ」
「あら、そう?」
「普段から胡散臭いから・・・」
「あら、ひどいですね」
幻想郷がどう変化していくのかは分からない、けれどもそれを見守る者、影響を受ける者も変わり変わらないだろう。そ
れが幻想郷だった。
完
宴会までやる天子に天界から罰が下ることはなかった。そもそも天界では罰などと言った物はなかった。もともとが悟
りを開くまでに修行した者しかいないはずの天界でそのようなものは必要もなく、わざわざ例外である比那名居一族の
為に用意はずもなかった。
それになにより、天界の一部が侵略されようが地上がどうなろうが、天人にとっては全く関係のない話でもあった。
関係あるのは地震を司る天人ぐらいだろう。天界はありあまった土地を持っているし、不良天人の相手を地上の者が務
めるというのならばそれで良かった。竜宮の使いも天人も誰も彼もが天子をちゃんとした天人と認めておらず、またそ
のような者に積極的に関わりたいとは思っていなかった。比那名居に仕える竜宮の使い「永江衣玖」にとってさえ手に
あまる存在だった。
そんな天子は今日も地上に遊びに行っていた。その日々はこれまでと違い退屈など一切感じることがなく、毎日が好
奇心をそそるものばかりであった。珍しい種族である吸血鬼の館に忍び込んでみたり(見つかって珍客のように扱われ
たが)、真に不老不死という蓬莱人に会ってみたり(天人の系譜の名前変えなきゃとか言っていた)と自由奔放かつ充
実した日々になっていた。だが、天子には気になっていたことがあった。鬼「伊吹萃香」と全力で戦っていないこと(
立場上全力を出さない戦いしか行っていなかった)と、スキマ妖怪「八雲紫」のことだ。異変に関わった他の人妖とは
萃香の企画で全力で戦い、酒を飲み交わして異変の本当の終わりとなった。
しかし、紫とは彼女の怒りに触れて敗れて以来会えてすらいない。聞いたところによるとそもそも姿を現すことが少
ないのだそうだ。天子は異変を解決に来た者は挑発したが、紫に対しては挑発も何もなく怒りに触れてしまった。その
激しい怒りの理由も分からず、また地上との交流が一番の目的だった天子にとって、話す機会もないのは、なんとなく
しゃくであった。
その二つは過去の退屈な日々から充実した日々となった天子においては些細なことだったのかもしれない。だが天子
はそんな些細なことであっても気にしないほど、気になることを抑えずにはいられい性分だ。けれども、萃香と遊びで
弾幕ごっこすることはあっても全力といくには今更感があるし、ただの力比べなど面白みに欠ける。紫との関係につい
ては相手とそもそも会えないのだからどうしようもない。
そんなある日、神社に来ていた日であった。
「あ、そうだ。今すぐ桃を持ってきてくれない」
話し相手は博麗霊夢、この神社の巫女であり、主だ。縁側で一緒にお茶しようとしていた時の一言であった。
「別にいいけど桃なんてどうするの?お茶請けには合わないだろうし、主食としては飽きるわよ」
「違うわよ、私が食べるんじゃないの、今日の宴会用、あなたも参加しなさい。今日は面白いわよ。なんか魔理沙が久
しぶりの宴会だからって何か大規模なことをやるらしくて、いろんな人といろんな酒とつまみを用意しとけっていいふ
らしてる。」
「そんな面白そうなことに参加しないわけないじゃない。でも桃でいいの?つまみには合わないと思うんだけど」
「咲夜がきっと調理してつまみにしてくれるでしょ、それに食べ物はつまみだけに限らないとか、よく分かんないけど」
「ええ、分かったわ、お茶飲み終わったら取りに戻りましょう。それにしても何をやるんだろう」
「どーせ魔理沙のすることだからろくなことじゃないでしょうけど」
それからは他愛もない会話を楽しんだ。天子は地上の話を尋ね、霊夢はそれに答える。最近の神社ではよく行われる会話
であった。霊夢は内心、よく飽きないな、などと思っているような日常的なことも多かったが。
そうこうしてるうちにお茶は飲み終わった。
「じゃあ、取りに行ってきますわ。夜までに戻ればよろしいでしょう」
「ええ場所はいつもどおりここだから」
天子は桃を取りに天界へと戻っていった。
*
「さて、どうしようか」
桃を持ってくるとはいったもののどれだけ持って行けばいいのかは分からない。迂闊にも聞き忘れていた。まあ、あの様
子では聞いたところで無駄だったかもしれないが。
とりあえず適当に持てるだけ持っていくことにする。とは言っても天子一人に持てる量など限られている。これだけで
足りるのだろうか、怪しい分量である。天子はふと思い至った、ならば桃を桃として持って行かなければよいのではない
かと。天子はただの桃に飽きていた。そのために様々な調理した桃があった。その中に桃を使った酒があったはずだ、そ
れをもっていくことにした。
(これなら十本持っていけるしお酒なら皆も満足でしょう)
一升瓶を十本抱えて神社へ戻ることにした。
*
天子が神社に戻ったときには既に宴は始まっていた。
「お、やっときたな、もう宴会は始まってるぜ」
出迎えたのは霧雨魔理沙、自称魔法使いだ。その実、ただの泥棒のような気もしなくもないが。
「あら、もう始まっちゃってたの」
「今日の主役は萃香だからな。あいつが何かやるらしい」
聞いていた話と違っている。何かやるのは魔理沙だとばっかり聞いていたのだが・・・。
「私はただの宴会の幹事役だぜ。主催はあいつらしいけどな。」
どうやら萃香の話を魔理沙がまるで自分がやるように話したのだろう。泥棒家業と言ってもそこまで盗まなくてと思わず
にいられなかったりするが。となると企画があの萃香ということはますます楽しいことになりそうだ、能力で人集めはか
なりのものになっているだろうし、鬼といったら比べごとが好きだと聞いた。楽しい楽しい勝負事になりそうだ。
「ああ、そうだ、これ持ってきた桃酒、味の保障はしないわ」
天子が桃酒を差し出した瞬間に魔理沙が奪い取って
「珍しい酒か」
既にテンションはハイらしい。
「お、来たね、待ってたよ」
「あら、私を待っていてくれたなんて珍しいのね、今日はなんか面白いものが見れるんでしょう。楽しみだわ」
桃酒を持ってさっさ皆のところに行ってしまった魔理沙に変わって萃香が出てきた。相変わらず酔っているのかいないの
か分からない。本人曰く酒は飲むが呑まれないらしい。普段の様子見てると怪しいところだ。
皆のところに行こうとすると手をつかまれてそのまま変な方向に連れて行かれた。
「残念ながら楽しいものは見れないね、代わりに楽しいことがあるけどね」
「皆のところに混ざらないの?」
萃香は一方的にしゃべった後は返答もなくただ天子を連れていく。そうしてたどり着いたのは神社が見える広い場所だった。
「まだあんたとはちゃんと戦ったことないなと思ってね。せっかくこうしで出会えて遊べるんだ。思いっきり弾幕勝負とい
こうか、お互い手加減無しでね。特に何も無しでやるのもあれだから宴会の見世物も兼ねようか」
実際のところ異変のときはそれぞれがわざと負けるつもりで1回ずつ2回戦った。その後はお遊び程度に。手加減無しの
全力勝負というのはなかった。そして酒の肴に皆に見物されているという現状、なかなかに面白いシチュエーションでもあ
る。
「面白い、その勝負受けてあげるわ。地を揺るがす私の力を見せてあげるわ」
*
先手を打ったのは萃香だった。
「酔夢『施餓鬼縛りの術』、鬼ごっこといこうか」
萃香は鎖を投げつけてきた、当然のごとく天子は避ける。
(鬼相手に鬼ごっこか、鬼役は私がやりたいものだけども)
落ち着いていれば避け続けられないものでもない。しかし、避けていることしかできない。鎖が投げられそれを避ける、そ
の繰り返しだ。
(ならば)
「気符『無念無想の境地』」
緋想の剣を天にかざし緋想の力を帯びる・・・とは見せ掛けだけでただ体を傷つきにくくしただけだ。もともと天界の桃の力
で体が傷つきにくい、銀のナイフぐらいだったら刺さらない。
そしてそのまま鎖に突っ込んでいく。鎖は天子に巻きつき始めた。そしてそのまま引き寄せられる。
「鬼の手に自分から捕まりに来るとはね」
鎖は天子の力を吸う、そしてそこに一撃叩き込んで萃香の勝ち、そう思っていた。鎖の力等知る由もない者はそれで何人も
倒されていった。
力を吸い取って鎖を外し一撃を叩き込む、そう思い新たなスペルカードを出した瞬間。
「剣技『気炎万丈の剣』」
天子はとっさに萃香に連撃を与える。剣技とは言っているが見よう見まねで適当に振り回しているだけなのだが。しかしそ
こに手ごたえはなかった。
「ふう危ない危ない」
萃香は何事もなかったかのように立っていた。とっさに霧となって逃れていたのだ。
「こっちはもう力勝負といかせてもらうよ、四天王奥義『三歩壊廃』」
萃香が一歩踏み出した、でかくなる、二歩踏み出した、更にでかくなる、さらに三歩目、さらにでかくなった。
「あらら、踏み潰そうとしたけど逃げられたか」
天子はとっさに避けていた。体が勝手に動いてくれて助かった。とはいうものの、たった3歩で普通の人の十歩分の距離が
踏み荒らされていた。3歩で文字通り壊廃をつくるなど動作もない大技だろう。天子に正面から打ち破れる技なんてあるわ
けがない。
「んじゃもう一発いかせてもらうよ。とくと見よ鬼の力」
1歩踏み込んだ、大きくなる、2歩踏み込んだ、さらに大きくなる、そして右ストレートを伴った3歩目
「乾坤『荒々しくも母なる大地よ』」
天子が地面に緋想の剣を差し込んだ。そして地面が隆起する、隆起の範囲が広まる。
「うわっ」
萃香の3歩目が踏み込まれた瞬間に萃香の足元の地面が大きく隆起する。3歩目は隆起した地面を壊しつつも躓き、巨大
化した萃香に地面に倒れた。それをかわしつつ最後の大勝負をしかける。
「思いっきりいかせてもらうよ、要石『天地開闢プレス』」
天子が天に大きく昇っていった。そして落ちてくる、巨大な岩を抱えながら。そのまま潰そうと。
「力技とは面白い、こっちも思いっきりいくよ、鬼神『ミッシングパープルパワー』」
萃香が更に巨大になり、仰向けになって落ちてくる岩と天子に向かって右ストレートの構えをし、タイミングを計って振
り抜く、萃香の右拳と巨大な岩がぶつかりあった。
岩が砕け、天子が放りだされる、だけどまだ終わらない。
「『全人類の緋想天』」
天子が空中で構えなおし、緋想の剣を前にし、最大の技を放った。
迎える萃香はミッシングパープルパワーのまんま特攻する。
*
「やっぱあんたたち強いわね」
賞賛を送るアリス。
「やるなぁ」
感心する魔理沙。
「今度手合わせ願いたいですね」
と美鈴。反応は様々だが天子と萃香の戦いへの賛辞が送られていた。
結局のところは天子の負けだった。ミッシングパープルパワーのスペルブレイク寸前で天子がぶん殴られてしまったので
ある。
けれども天子はなんとなく心地よさを感じた。それは天界では感じることのできないような、不思議な感覚だった。
対戦相手だった萃香には
「いやはや、なかなかにやるもんだ、楽しかったよ。天界のときとは違ってやりがいあると思ったけど確かだったね」
とわけの分からない一言も添えられた。
「ところで」
萃香が思い出したように
「紫いるんでしょ」
「あら、ばれてましたか」
「隠れてる気もなかったでしょ」
「面白いものを見せていただきましたわ。ああ、桃の酒も美味しくいただきましたわ」
今までどこにいたのか(隠れてたわけではなかったようだが)、神社再建(とは言ってもすぐ壊されたが)時にあったき
りだった紫がいた。
「投我以桃、報之以李。桃酒のお礼をしましょうか、何がご希望は?」
「この前の借りを返させていただけるからしら」
「では静かなところへ行きましょう。皆の前で醜態を晒したくないでしょう」
「上等。ここで今すぐにやりましょう。桃酒が高いものにならないといいわね」
*
紫と天子が対峙する。天子が聞く、
「先手はどちらから?」
紫は答える、
「私からいかせていただきましょう境符『波と粒の境界』」
紫から波上の弾幕が流れる。天子はそれを上下左右を使って避ける。1本に連なっている弾幕は1本を集中して避けてしま
えば後はそれを繰り返すだけ、攻略しやすい弾幕だ。
だが境符「波と粒の境界」はそれだけではない。次第に波が崩れて粒となる。そして雨にような弾幕になったと思ったら
また波に戻っていく。つまり攻略しなければいけない場面は2つある。そしてその2つが単純な対策を取らせない。
天子はそんな中でも勝機を見出した。波と粒が交互にくるから困るのだ、ならば波も粒も関係ない位置まで接近すればい
い。その距離でこちらの射撃をぶち込んでやればいいだけだ。そのためにまずは近づかなければならない。波のときは近づ
くことなど不可能だろう、縄跳びをさせられているようなものなのだから。
となるとチャンスは粒の状態の時、一気に近づく。波になられたらアウトだ。
粒になった・・・
粒の合間を探し突き抜けていく。
そしてたどり着いた、紫の前。
「もらった」
天子が構える、だが紫はそのとき既にスキマを使って逃げていた。
「このスペルカードは破れたようね、次いかせてもらうわ」
あそこまで計算されていたスペルカードをさっさと切る点に天子は脅威を覚えていた。
「式神『八雲藍+』」
紫が何かを2つ放った、それは2匹の妖怪だった。
片方は化け狐の八雲藍、紫の式だ、もう片方は化け猫の八雲橙、藍の式である。紫は自分の式と自分の式の式を召還し動
物妖怪特有の身体能力をぶつける気だ。紫にとって境符「波と粒の境界」よりもずっと信用がおける技なのだろうと天子は
思う。これは術者と式の信頼関係の現われのように思えた。
スペルカードとしては、さきほどのスペルカードと違って式という弾幕自体が思考して動くゆえに安定した避け方など存
在しない。さらには自由に動ける紫からの射撃もある。単純に3対1を競り勝たなくてはいけないということである。
やらしいのは藍も橙も肉体派ということである。射撃なら物量、絶対的な火力で押せるかもしれない。だが肉体攻撃とい
うのは射撃をそもそも撃たせてくれないのだ。常に距離と隙を見ていなくてはいけない。その前提のうえで3対1では隙な
どない。
となるとやはり正攻法しか通用しないということである。
(1人ずつ潰していくしかないか、まずは一番倒しやすそうな化け猫から、次に狐の方かな。いや両方同時の方がいいか)
どうにかして片方潰したとして、もう片方に同じ手は通じなくなってしまう、それでは2度手間だ。そうなると一撃で2匹
とも倒す。そうなるとカウンター気味の天子の周り全体をカバーする技が必要だ。となるとあのスペカ・・・
天子は一度大きく距離をとる。2匹が追い詰める好機と思い一気に跳んでくる。読みやすい動きを誘えた。カウンターの
下地はできた。後はタイミングを計るだけ。距離を見極め。
「天地『世界を見下ろす遥かなる大地よ』」
天子が緋想の剣を地面に刺す。天子を中心にして地面が一気に盛り上がった。盛り上がった地面が藍と橙を下から突き上
げる。天子にぶつかろうとしていた藍と橙のスピードへのカウンターとなり大きな激突音がした。
「紫様申し訳ありません」
藍が敗北を宣言、式神「八雲藍+」は破れた。
「では次の勝負といきましょうか、『無限の超高速飛行体』」
紫が手を振りかざす、と同時に高速な何かが飛んできた。なんとか天子はかわしたが、紫は猛攻を始めた。
(いや、無理だって、避けるだけで精いっぱ・・・避け続けるのも無理)
もはや天子に視認できる域を超えた速さと量だった。かわしているのは勘によるところが大きい。
「もう、いい、押し通す気符『無念無想の境地』」
萃香のときと同じように自己を強化してダメージを気にせずに突き進む。もうただの悪あがきの力押しだ。これを破っても
これ以上のものを出されたら続けて「無念無想の境地」で力押ししかないだろう。体力的に考えてジリ貧な上に数で勝負さ
れて勝てるわけもなかった。
つまり実質的な負けであった。
*
天子が目覚めたときには朝になっていた。結局あの後に「無限の超高速飛行体」は破り、その後も二つは紫のスペルカー
ドを破ったが三つ目でついに蓄積されたダメージによって倒れてしまった。そのまま朝まで目を覚まさなかったのである。
「あら、目覚めたの?二度も私の前で倒れるとはね」
目が覚めて一番に紫に話しかけられた。ここは神社の中のようだ、布団に寝かされている。天子が倒れた後、霊夢が神社
に寝かせておいたのだ。紫が何故いるのかは不明だが。
「あら、目が覚めるまで待っていたなんて何用なの?」
「いくつか聞きたいことがあってね、あなたはこの幻想郷が好きかしら?」
天子には何のための問いかは分からない、ただ一言で素直に答えると
「ええ、好きよ。地上には楽しいことが満ち溢れている。様々な者がいるし、誰を拒否することもない、自分の世界をした
てあげて多大な土地を守るだけの天界とは大違いね。それに皆生きてる。前に進もうとしてる、悟りを開いてそこで止まっ
てるやつらとは違ってね。」
「今まで住んでいた天界をそんな風に言うのね。天界は捨ててもいいような言い草」
「あら、それは違うわ。天界だって私の一部、たとえそれが退屈なところであったけどね。地上が全て、天界が全てではな
い。全てを含めて幻想郷、違うかしら。むしろあなたこと天界を毛嫌いしてるようだけど」
「実際嫌いよ。奴らは自分たちの中でしか物事を考えない、切り離された幻想郷でもこんなに広いというのにね。でも、あ
なたはすごく人間くさいじゃない。世俗にまみれて地上を好む」
「ええ、そうよ。だって私は地上の素晴らしさを知っている。そして地上の素晴らしさを忘れていない。地子であったとき
を忘れない」
「じゃあ、あなたは神社を壊したことも忘れていないでしょう。あそこは幻想郷の要、幻想郷が壊れてもおかしくなかった。
あなたは自分の綺麗な夢に混ざるために幻想郷を危うくした」
「えっ。そうだったの。ならあなたの怒りは当然のものね。私は最後に要石を刺して終わりの予定だったのに」
「私はあなたを無知だったからと許しはしません。けれどあなたのこれからの行いであなたへの評価は変わるかもしれませ
んね。最近間欠泉が出る異変があってね」
「地震とは関係ないよね。ね」
天子の声は焦っていた。
「関係はないでしょう。・・・その様子ならさっきの言葉に嘘はないらしいわね」
「ええ、私はこの世界を愛しているし自分の境遇に不満もない。地上に来て特にそれが分かったわ。自分の気持ちが」
「それさえ分かればいいでしょう。あなたを幻想郷の一員として歓迎するわ」
「そう改めて言われると恥ずかしいわね」
「天子とは昔、外の世界では天命を受け民を支配するものだった。あなたが地を支配する力を持ち、天にいながら地
上に関わるのは偶然じゃないないかもしれないですね」
「それって」
紫は突然足元にスキマをつくりそこから退出した。
紫の言いたいことは全部は分からなかったがこれだけは分かった。
天子は幻想郷の一人なのだと、天界の一人なのだと知った。もしかしたら鬼も自分のことを認めたから勝負を挑んで
きたのではないか。
*
「紫もまた素直じゃないんだから、ただ認めるって言えばいいだけなのに」
「あら、萃香いたんですか」
「いたも何も、私に便乗したのも、天子と二人だけになろうとしたのも。そっと疎の力まいといてあげたんだけどねえ」
「ふふふ、ありがとう、これで天界との異変も終わりね」
「素直にお礼いうのなんて珍しいねえ」
「あら、そう?」
「普段から胡散臭いから・・・」
「あら、ひどいですね」
幻想郷がどう変化していくのかは分からない、けれどもそれを見守る者、影響を受ける者も変わり変わらないだろう。そ
れが幻想郷だった。
完
○用意するはずもなかった。
×抑えずにはいられい性分だ。
○抑えずにはいられ無い性分だ。
後、全体的に「ここは漢字のが文章が締まるかなぁ」と言う部分が幾つか。
話自体は少しすいすいと進み過ぎなきらいはありますが、
どのキャラも魅力的に描かれてますし、楽しめました。