「ねぇ、藍?」
縁側に腰掛けた紫が、小さく、しかしはっきりとその名を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
彼女の式神、同じ八雲の名を冠する九尾の狐は主の顔を振り仰ぐ。
「昔話が聞きたいわ」
「…………そうですか」
突然の発言はいつものこと。
そう思ってしかし、ではどうしようかと思案する藍。
主である紫のちょっとした我儘や思いつき。
それに対処するのが、近頃の藍の主な仕事であった。
結界を守り、幻想郷の各地を調査する、その義務さえも藍に押し付けている紫。
それでも藍は、ため息と共にたしなめるだけで、
自分の主に行動を促そうとはしない。
藍は知っている。この九尾の狐など及びもつかない大妖怪は、
本当に必要な時には必ず現れることを。
「貴女の話す、昔話が聞きたいわ」
主人の声で、藍は再び意識を引き戻される。
「……わかりました、では、そうですね……一匹の、狐の話でも致しましょうか」
「狐の……ふふ、面白そうね」
「小さな小さな、一匹の、ただの狐の話です」
藍は語り始める。
妖狐の子供とスキマ妖怪の、その馴れ初めを――――。
* * * * * *
「……ぐすっ、ひぅっ、ずずっ……」
――――言わずと知れた妖怪の山、
その中腹あたりに、その狐は住んでいました――――
「ひぐっ、ひぅっ、ぐずっ……」
――――まだ幼い狐。でも狐はただの狐ではありません。
その尾は二本に分かれ、
幼いながらも立派な妖狐の出で立ちでありました――――
「ひ、ひぅっ……ぐず、あぅ……」
――――狐は泣いていました。
なぜ泣いていたのかなんて忘れてしまうほど長い間、
木陰でしゃくりあげていました――――
ひがかげってきたころ、わたしはもうかえらなくてはならないとおもってたちあがった。
でもそのとき、きづいたのだ。
ここは…………どこ?
――――二尾の妖狐はやはりまだ子供。
一人でこの山を歩き回るには知識も経験も足りませんでした――――
わたしはひっしになってかけまわった。
もりをぬけ、ふもとからつづくこみちをよこぎり、かわにそったりしてはしりまわった。
だけどやっぱり、どこにもたどりつくことができなかった。
――――妖狐は疲れてしまいました。
結局、帰り着くことなど出来ないことを、
幼いながらに理解したのでしょう――――
「あら、狐の匂いがするわ」
とつぜんきこえたこえに、わたしははっとしてかおをあげる。
いつのまにか、あめがふっていた。
そしてふりそそぐあめのなかに、おんなのひとがたっているのをみつけた。
「匂いの発生源は貴女ね?」
「――――に、おい?」
おんなのひとはこのあめのなかで、すこしもぬれていない。
そのひとはにっこりわらって、わたしのまえにしゃがみこんだ。
「……美味しそうな狐」
「ひっ」
おもわずとびのいた。
「私の主食は人間だけれど、たまには貴女のような『おやつ』もアリかもしれないわね」
「あ、ぅぁ……」
――――妖狐は自分の体が震えているのに気づきましたが、どうすることも出来ません。
幼くとも二本の尾を持つ妖狐。
相手のことは何も分からなくても、その強大な妖気が
自分など及びもつかないものであるのは疑いようもありませんでした――――
「ふふっ、可愛らしいお・や・つ♪」
「……ひぅ……ひぐっ、ぐずっ」
ないてしまった。
おんなのひとがこわかった。
そのひとの『ようき』がこわかった。
ことばがこわかった。
なによりもそのえがおが、どうしてかたまらなくこわかった。
「あら……ちょっといじめ過ぎたかしら」
「……ふぇ……ふぁぁああん!!!」
「ちょ……ああ、泣かせてしまったわ」
――――突然現れた女性は、泣き出した狐を前に困った様子で苦笑を浮かべました。
「悪い癖ね」と呟いた女性は、すっと右手を差し出しました――――
「見ててね?」
「ひぐっ、ふ、ふぁ?」
おんなのひとはそういって、みぎてをさしだしてきた。
でもそのては、わたしにとどくまえにきえてしまう。
「……うぁ?」
おもわずなくのもわすれて、へんなこえがでてしまった。
おんなのひとのてがあったばしょにはふしぎなほそいわれめがあらわれていて、
てはそのなかに、ひじのあたりまではいりこんでいました。
「貴女が好きなものを盗ってきてあげるわ」
――――言葉の響きに、よろしくないものを感じながらも、
妖狐は好奇心から、その手が『スキマ』から出てくる様子を見守りました――――
「どう?」
そういったおんなのひとのてにのっていたもの、それは。
「あぶらあげっ!!」
「くす、ね、貴女の好きなものでしょう?」
「うんっ」
――――妖狐は先ほどの涙など忘れたかのように、嬉々としてその油揚げを受け取ります。
嬉しそうに油揚げを頬張るその姿を見て、スキマの妖怪は目を細めました――――
「美味しそうに食べるわね」
「……あ、あげないよ?」
「くすくす……いいわよ、それは貴女のもの」
「……うんっ」
――――少し逡巡するような間がありましたが、
妖狐は頷くと残った油揚げに夢中になりました。
スキマの妖怪は、楽しげにその様子を眺めていました――――
「貴女、家はどこ?」
おんなのひとにそうきかれて、わたしはようやくまよっていたことをおもいだした。
「二尾の妖狐……九尾の娘だとするとあの娘の、でもあの娘に子供はいなかったはず……」
わたしはおうちをおもいだそうとした。
――――ですが、狐は何一つ思い出せませんでした。
自分のことも、
家族のことも、
友人のことも、
何一つ、覚えてはいませんでした――――
「……わかんない」
「そうね、残念だけど私にも分からないわ」
おんなのひとはわたしのことばにうんうんとうなずく。
ただ、ふしぎなことにこんどはすこしもなみだはでてこなかった。
それどころか、おんなのひとをみているととてもあんしんできた。
――――理由など、幼い狐にも、スキマの妖怪にもわかりはしなかった。
ただ、心境が変化しただけなのか。
誰かがいるというだけで、心細さが払拭されたのか。
それとも……ただ単に、二匹の妖怪の相性が良かったのか――――
「家に帰りたい?」
おんなのひとのしつもんに、すこしなやんでからこたえる。
「わかんない」
「そう。それは帰りたくないってことね」
――――少し強引な気もしたが、それは決して間違いでもなかったのです――――
「貴女、私の式になりなさい」
「しき?」
ききなれないことばに、わたしはおんなのひとをみつめる。
――――彼女はとても穏やかな笑みを浮かべて、妖狐を見つめていました――――
「しきって、なぁに?」
「式っていうのは、私とずっと一緒にいられる者のことよ。どうかしら?」
「……うん、なる。わたしあなたの『しき』になる!」
――――その時そう答えた理由は、やはり妖狐本人にも分かりはしない。
先ほどまでの不安がどこへ消え去ったのかも、分かりはしない。
ただ、妖狐がスキマの妖怪と共に在りたいと望んだことだけは、
紛れもない、真実だったのです――――
「決まりね」
「うん、きまりっ」
うなずくわたしをみて、おんなのひとはたのしそうにわらった。
もっと、こんなふうにわらってほしいなと、おもった。
「それじゃ、名前が必要ね」
「なまえ?」
「そうよ。貴女を何て呼ぶか、決めなくちゃ」
――――スキマの妖怪の言葉に、妖狐は少し考え込み、やがて顔を上げました――――
「あなたと、いっしょにいれるなまえがいい」
「私と?」
おんなのひとはすこしおどろいたようなかおをして、
それからおかしそうなかおをして、
それからうれしそうなかおをして、
それからやさしそうなかおをして、いった。
「私の名前は八雲紫。そして今この瞬間から、あなたの名前は八雲藍」
「らん?」
「''藍(らん)''は藍色。''紫(ゆかり)''は紫色のこと」
「あい、いろ?」
おんなのひとはうなずいて、またくちをひらいた。
「藍は紫に並び立つ者。紫に最も近い者。だから貴女は、私と一緒に在るべきなのよ」
「……うんっ」
――――妖狐は笑って、嬉しそうに頷きました。
ふりふりと可愛らしく揺れる尾は、いつの間にか三本に増えていました――――
* * * * * *
「紫様?」
ふと藍が顔を上げると、紫は目を閉じていた。
眠っている、わけではなさそうだ。
ただただ静かに目を閉じ、遠い昔に思いを馳せている。
珍しく過去を振り返る主人の邪魔をすまいと立ち上がった藍を、紫は呼び止めた。
「待ちなさいな、藍」
「……何でしょう?」
藍が振り返ると、紫は楽しそうに目を細めた。
「藍は紫に並び立つのでしょう? なら、もう少しここにいなさい」
「…………はい」
紫の悪戯っぽい視線を受けながら、藍は再び紫の隣に腰を下ろす。
「ねぇ、藍?」
縁側に腰掛けた紫が、小さく、しかしはっきりとその名を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
彼女の式神、紫に最も近い名を冠する九尾の狐は主の顔を振り仰ぐ。
「御伽噺(おとぎばなし)が聞きたいわ」
「…………そうですか」
突然の発言はいつものこと。
そう思ってしかし、ではどうしようかと思案する藍。
「貴女の話す、御伽噺が聞きたいわ」
「……わかりました、では、そうですね……寂しがりの、スキマ妖怪の話でも致しましょう」
「つまらなそうね」
そう言う紫の顔は、笑っている。
「でも聞いてあげるわ」
「そうですか。では――――」
そう言って、八雲藍は語り始める。
幻想郷で一番物騒な家族は、今日も幻想郷で一番穏やかな時を過ごしている。
穏やかな藍の声を聞きながら、紫は、再び目を閉じた。
縁側に腰掛けた紫が、小さく、しかしはっきりとその名を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
彼女の式神、同じ八雲の名を冠する九尾の狐は主の顔を振り仰ぐ。
「昔話が聞きたいわ」
「…………そうですか」
突然の発言はいつものこと。
そう思ってしかし、ではどうしようかと思案する藍。
主である紫のちょっとした我儘や思いつき。
それに対処するのが、近頃の藍の主な仕事であった。
結界を守り、幻想郷の各地を調査する、その義務さえも藍に押し付けている紫。
それでも藍は、ため息と共にたしなめるだけで、
自分の主に行動を促そうとはしない。
藍は知っている。この九尾の狐など及びもつかない大妖怪は、
本当に必要な時には必ず現れることを。
「貴女の話す、昔話が聞きたいわ」
主人の声で、藍は再び意識を引き戻される。
「……わかりました、では、そうですね……一匹の、狐の話でも致しましょうか」
「狐の……ふふ、面白そうね」
「小さな小さな、一匹の、ただの狐の話です」
藍は語り始める。
妖狐の子供とスキマ妖怪の、その馴れ初めを――――。
* * * * * *
「……ぐすっ、ひぅっ、ずずっ……」
――――言わずと知れた妖怪の山、
その中腹あたりに、その狐は住んでいました――――
「ひぐっ、ひぅっ、ぐずっ……」
――――まだ幼い狐。でも狐はただの狐ではありません。
その尾は二本に分かれ、
幼いながらも立派な妖狐の出で立ちでありました――――
「ひ、ひぅっ……ぐず、あぅ……」
――――狐は泣いていました。
なぜ泣いていたのかなんて忘れてしまうほど長い間、
木陰でしゃくりあげていました――――
ひがかげってきたころ、わたしはもうかえらなくてはならないとおもってたちあがった。
でもそのとき、きづいたのだ。
ここは…………どこ?
――――二尾の妖狐はやはりまだ子供。
一人でこの山を歩き回るには知識も経験も足りませんでした――――
わたしはひっしになってかけまわった。
もりをぬけ、ふもとからつづくこみちをよこぎり、かわにそったりしてはしりまわった。
だけどやっぱり、どこにもたどりつくことができなかった。
――――妖狐は疲れてしまいました。
結局、帰り着くことなど出来ないことを、
幼いながらに理解したのでしょう――――
「あら、狐の匂いがするわ」
とつぜんきこえたこえに、わたしははっとしてかおをあげる。
いつのまにか、あめがふっていた。
そしてふりそそぐあめのなかに、おんなのひとがたっているのをみつけた。
「匂いの発生源は貴女ね?」
「――――に、おい?」
おんなのひとはこのあめのなかで、すこしもぬれていない。
そのひとはにっこりわらって、わたしのまえにしゃがみこんだ。
「……美味しそうな狐」
「ひっ」
おもわずとびのいた。
「私の主食は人間だけれど、たまには貴女のような『おやつ』もアリかもしれないわね」
「あ、ぅぁ……」
――――妖狐は自分の体が震えているのに気づきましたが、どうすることも出来ません。
幼くとも二本の尾を持つ妖狐。
相手のことは何も分からなくても、その強大な妖気が
自分など及びもつかないものであるのは疑いようもありませんでした――――
「ふふっ、可愛らしいお・や・つ♪」
「……ひぅ……ひぐっ、ぐずっ」
ないてしまった。
おんなのひとがこわかった。
そのひとの『ようき』がこわかった。
ことばがこわかった。
なによりもそのえがおが、どうしてかたまらなくこわかった。
「あら……ちょっといじめ過ぎたかしら」
「……ふぇ……ふぁぁああん!!!」
「ちょ……ああ、泣かせてしまったわ」
――――突然現れた女性は、泣き出した狐を前に困った様子で苦笑を浮かべました。
「悪い癖ね」と呟いた女性は、すっと右手を差し出しました――――
「見ててね?」
「ひぐっ、ふ、ふぁ?」
おんなのひとはそういって、みぎてをさしだしてきた。
でもそのては、わたしにとどくまえにきえてしまう。
「……うぁ?」
おもわずなくのもわすれて、へんなこえがでてしまった。
おんなのひとのてがあったばしょにはふしぎなほそいわれめがあらわれていて、
てはそのなかに、ひじのあたりまではいりこんでいました。
「貴女が好きなものを盗ってきてあげるわ」
――――言葉の響きに、よろしくないものを感じながらも、
妖狐は好奇心から、その手が『スキマ』から出てくる様子を見守りました――――
「どう?」
そういったおんなのひとのてにのっていたもの、それは。
「あぶらあげっ!!」
「くす、ね、貴女の好きなものでしょう?」
「うんっ」
――――妖狐は先ほどの涙など忘れたかのように、嬉々としてその油揚げを受け取ります。
嬉しそうに油揚げを頬張るその姿を見て、スキマの妖怪は目を細めました――――
「美味しそうに食べるわね」
「……あ、あげないよ?」
「くすくす……いいわよ、それは貴女のもの」
「……うんっ」
――――少し逡巡するような間がありましたが、
妖狐は頷くと残った油揚げに夢中になりました。
スキマの妖怪は、楽しげにその様子を眺めていました――――
「貴女、家はどこ?」
おんなのひとにそうきかれて、わたしはようやくまよっていたことをおもいだした。
「二尾の妖狐……九尾の娘だとするとあの娘の、でもあの娘に子供はいなかったはず……」
わたしはおうちをおもいだそうとした。
――――ですが、狐は何一つ思い出せませんでした。
自分のことも、
家族のことも、
友人のことも、
何一つ、覚えてはいませんでした――――
「……わかんない」
「そうね、残念だけど私にも分からないわ」
おんなのひとはわたしのことばにうんうんとうなずく。
ただ、ふしぎなことにこんどはすこしもなみだはでてこなかった。
それどころか、おんなのひとをみているととてもあんしんできた。
――――理由など、幼い狐にも、スキマの妖怪にもわかりはしなかった。
ただ、心境が変化しただけなのか。
誰かがいるというだけで、心細さが払拭されたのか。
それとも……ただ単に、二匹の妖怪の相性が良かったのか――――
「家に帰りたい?」
おんなのひとのしつもんに、すこしなやんでからこたえる。
「わかんない」
「そう。それは帰りたくないってことね」
――――少し強引な気もしたが、それは決して間違いでもなかったのです――――
「貴女、私の式になりなさい」
「しき?」
ききなれないことばに、わたしはおんなのひとをみつめる。
――――彼女はとても穏やかな笑みを浮かべて、妖狐を見つめていました――――
「しきって、なぁに?」
「式っていうのは、私とずっと一緒にいられる者のことよ。どうかしら?」
「……うん、なる。わたしあなたの『しき』になる!」
――――その時そう答えた理由は、やはり妖狐本人にも分かりはしない。
先ほどまでの不安がどこへ消え去ったのかも、分かりはしない。
ただ、妖狐がスキマの妖怪と共に在りたいと望んだことだけは、
紛れもない、真実だったのです――――
「決まりね」
「うん、きまりっ」
うなずくわたしをみて、おんなのひとはたのしそうにわらった。
もっと、こんなふうにわらってほしいなと、おもった。
「それじゃ、名前が必要ね」
「なまえ?」
「そうよ。貴女を何て呼ぶか、決めなくちゃ」
――――スキマの妖怪の言葉に、妖狐は少し考え込み、やがて顔を上げました――――
「あなたと、いっしょにいれるなまえがいい」
「私と?」
おんなのひとはすこしおどろいたようなかおをして、
それからおかしそうなかおをして、
それからうれしそうなかおをして、
それからやさしそうなかおをして、いった。
「私の名前は八雲紫。そして今この瞬間から、あなたの名前は八雲藍」
「らん?」
「''藍(らん)''は藍色。''紫(ゆかり)''は紫色のこと」
「あい、いろ?」
おんなのひとはうなずいて、またくちをひらいた。
「藍は紫に並び立つ者。紫に最も近い者。だから貴女は、私と一緒に在るべきなのよ」
「……うんっ」
――――妖狐は笑って、嬉しそうに頷きました。
ふりふりと可愛らしく揺れる尾は、いつの間にか三本に増えていました――――
* * * * * *
「紫様?」
ふと藍が顔を上げると、紫は目を閉じていた。
眠っている、わけではなさそうだ。
ただただ静かに目を閉じ、遠い昔に思いを馳せている。
珍しく過去を振り返る主人の邪魔をすまいと立ち上がった藍を、紫は呼び止めた。
「待ちなさいな、藍」
「……何でしょう?」
藍が振り返ると、紫は楽しそうに目を細めた。
「藍は紫に並び立つのでしょう? なら、もう少しここにいなさい」
「…………はい」
紫の悪戯っぽい視線を受けながら、藍は再び紫の隣に腰を下ろす。
「ねぇ、藍?」
縁側に腰掛けた紫が、小さく、しかしはっきりとその名を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
彼女の式神、紫に最も近い名を冠する九尾の狐は主の顔を振り仰ぐ。
「御伽噺(おとぎばなし)が聞きたいわ」
「…………そうですか」
突然の発言はいつものこと。
そう思ってしかし、ではどうしようかと思案する藍。
「貴女の話す、御伽噺が聞きたいわ」
「……わかりました、では、そうですね……寂しがりの、スキマ妖怪の話でも致しましょう」
「つまらなそうね」
そう言う紫の顔は、笑っている。
「でも聞いてあげるわ」
「そうですか。では――――」
そう言って、八雲藍は語り始める。
幻想郷で一番物騒な家族は、今日も幻想郷で一番穏やかな時を過ごしている。
穏やかな藍の声を聞きながら、紫は、再び目を閉じた。
面白かったです、ありがとうございました。