Coolier - 新生・東方創想話

陽綻―よろこび―

2014/11/28 01:33:57
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 十分。約十分保った。けどそれ以上はあまりに敵が脅威すぎ、尚且つ相手が複数だったのがまずかった。
 第一に、離れた位置からこちらを窺う妹こと、夢月。
 彼女のお布団干したいコールは再三を持って呼びかけられており、未だ私は要求に応じていない。妹は怒ると無言になる。十分というのは、妹の最後通告からの十分である。そろそろ怖い。
 第二に、陽光。これについては説明の必要もなく、陽気で意識を刈り取ろうとする働きは何を持っても遮断しがたく、またその脅威は布団の上だからこそ発揮されるものでもある。
 意識をうとうとと緩められつつ、いつ飛びかかってくるとも知れない妹に意識を最大限に割く芸当。――割いた所でほぼ等身大、同じ熱量運動性を持つイキモノにこんな状態で敵うべくもないけど、と。
 空気の滞留がかき混ぜられ、動き出そうとする気配を肌で感じる。
 しびれを切らしたか、と観念した。
「わかった……降参だってば。まったくもーこんな天気なんだから惰眠くらい、いいでしょうに」
 掲げた手で機先を制しつつ、あくまでも眠たくて仕様がない。立ちのぼる欠伸は噛み殺す宛にして困らず、無駄な抵抗にも思えてきた。つまりは生き急ぐと不幸にしかならないというもの。
 お天道様の恵みはありがたく受け取るべきだ。
「姉さんがね、いくらぶくぶくと口端から涎を零して寝こけようと構わないけど」
 対してこちらは午後の陽気を裁断しかねない鋭い威勢。すっくと立ち上がった背筋は火山噴火でも動じなさそうである。意にそぐわねば姉も切らんという佇まいって、どうなのよ。
「でもね、そこ。私のベッドなんだからね?」
 仰るとおりで。まっこと嘆くべきは占領された妹のベッドである。ああなんと哀れな、なんと――寝心地の良いことか。
「えっちな夢月ちゃんの匂いしない……」
「顔を埋めないで。はしたない」
 ぐりぐりと鼻っ面を押しつけて匂いを探ってみるものの、本当にそういう怪しい臭気はしない。我が妹は聖女か。ここはひとつ年長者としての教育を執るべきやも、と。
 その前に、今の狼藉で一段と切れ長の目尻に冷気が帯びられたので本格的に退避行動をすべきだった。
「ああ~っ……陽気が翼にまで回って羽根が白色に」 
「お天道さまに悪魔を冒す毒性はありません」
 第一これ以上白くならんでしょうと、にべもなく。ベッド端から見下ろされると異世界からの巨大な侵略者にも見えた。この白い大地は私の楽園だったのに。
 めげずに這いつくばったままずりずり進んで、エプロンを引っ張り催促する。なに、と目で伺われたので手を伸ばす。
「運んで」
 陽気が回ってるのは事実で、鬼よりも怖い妹が居なければ速やかにお眠りしていたのは間違いない。
 一蹴されるのは目に見えているけれど、モノは言ってみることに、
「……ん」
 こと、に。
 ベッドに頬を貼りつけたままのこちらに目線を合わせて屈みこんだ、同じ色の双眸。
 いくらか驚いて、すぐにこそばゆい気持ちになる。
 夢月の肩に手をかけ、体を起こし。
「んむ」
 少し目測を誤った。
「……違うでしょ」
「へへへ」
 諌める声に棘はない。ああ、甘いんだ。こんなことでは甘い。きっと好くないものに付け込まれてしまう。
「抱っこするの……?」
「夢月がこっち向いてるんじゃない。床に落ちないと背中に登れない」
「立てばいいのに。ずぼら」
 もっともで。
 とは言えども背中を見せる様子もなく、肩にしがみついた私を抱えたままゆっくり立ち上がっていく。抱っこちゃんみたいに脚を腰へ巻きつけようかと思ったけれど、腿を下から支えられ、姿勢を横向きに。
 まぁなんというか、ロマンティック。
 線の細い体なりをしてるクセに、力は一丁前に私程度を抱え上げる。
 いつの間にか、頼もしくなったものだ。
「姉さん、あんまりと動かれると歩きづらい」
「せっかく溜め込んだ陽気が逃げようとしてるのよー」
 上体だけはしがみつくようにして夢月の首元に預ける。熱源を奪われた私が傍に来た新しい温かさをどうにかしないなんて、そんなはずはないのだ。
 両手の塞がった夢月に対し、私がドアを開けていくことになる。その度に首元から離れては戻るという挙動を繰り返し、充填を行うようにぐりぐりと頭を擦りつけてやった。そんな挙動に関知せず、黙らせるように抱え直す夢月はいつも通り。もう少し動揺させてやろうと悪戯心が持ち上がるものの、さすがにこの位置から落とされては腰を痛めかねない。
 それに、腕の中というのは心地良いものだ。
 陽射しの元から連れ去られても、変わらぬまどろみが体の芯をゆるゆると解きにかかろうとする。
「夢月ーおやすみ」
「まだ部屋に着いてない」
「もうここに住む。今住んだわ」
 打てば返る子守唄を聴きつつ極上の枕に頭を預けていれば、そう思いたくもなるんだ。
「居住性は保証しないよ」
「知ってる。凶暴な家屋よ。甘い匂いを漂わせて住んだ者の理性をねじ伏せるんだもの」
「自制できないのが悪い。私は何もしないし、何も強要しない」
「ふふふそうやって――来る者拒まず、誰彼でも素振り一つで突き堕としちゃうんでしょ」
 凛々しく掘られた喉の形へ指を這わせた。
 温かみも冷たさもない、不思議な体温がそこにある。
 しばらく返答がない。コツコツと響くローファの音が一人分、手広い廊下にこだましていた。
「鍵」
 ぎこちなく。
 抱く力は強くても、柔らかいままで。
「そのくらいは、持ってるでしょ」
 口端で小さく零されたぶっきらぼうさが、耳朶に溶け込む。見上げたいような気もしたけれど、今はまだ見てやらない。
 耳を当てていた胸元にじんわりと熱が篭っていく。顔を寄せてそこで深呼吸してみた。
 自分の吐息と夢月の体温が混じって、たちまちにくらりとするような。胸の底までの安堵を取り込む。
「ねえ、私も突き堕としてくれる?」
 とっくに病みつきになってしまっているのに、改めて口にするのは。なんていうかやっぱり、「なっていた」よりも、「されてしまう」方に満たされる価値を大きく感じるから。
「姉さんは。誰に何を言われても――言われなくとも、勝手に堕ちているじゃない」
 ――ああ。やっぱり見抜かれていた、と。
 途端におかしくなってくつくつと腕の中で体を揺すってみた。
 欲しい言葉をいっぺんに幾つもくれる訳でもないのが、夢月が夢月たる所以で。
 だから私は、自制できない悪い姉だった。



 自室の扉を開ければ、もう終わってしまうのかという強い寂寥を覚えた。
 寝起きに抜けだしたままで、カーテンすら開けられていない室内はまだ未明の静けさを保っている。しわくちゃのベッドに人の抜け殻のようなタオルケットが散乱し、その中に脱ぎ捨てていた衣服だって独りでに纏まる訳もなく、あられもない角度で広げられて落ちていた。
 半端な沈黙。支えられている指に、少し肌を押しつぶされる。
 言いたいことはあれど、薄闇の室内はあえて見ないことに出来るのが救いだっただろう。一人だけ騒ぐのも馬鹿らしいと思ったのかしれない。
 私はこんな女だから、と言い訳させることが目に見えての、妹なりの情けか。まったくいじらしい。だから――やめられないんじゃあない。
 もうちょっと遊びたい気持ちはあれども、引き際を見誤らない程度には、伊達に姉をやっていないのだ。
 これ以上のわがままは時として関係に障る。そうしてしまうには、まだ日が高過ぎた。
 けれど最後に一つ。
「――姉さん?」
 ベッドに優しく降ろされ、首後ろに手を回したまま離さず、見つめ合う。引っ張り込むように近づけると、魅入られたように呆けた表情が降りてきて。
「おやすみ」
 とん、と夢月の胸を押しのけて。そのままシーツに包まって眠りにつく。
「……おやすみなさい」
 無色の声色は、ちっぽけな嗜虐心を少しだけ満たした。
 午後中ずっと、悶々としていればいい。なぜなら彼女は気にしてしまう。
 
 抱かれながらも鼻先埋めていた首筋には、ちょっと怪しい汗の匂いがしていたのだったから。






 ――ただで転ぶはずもない強かな夢月が、私のシーツも一緒くたに干してしまおうと安眠から蹴り落としにくるのは、またその後のお話。
 夢月ちゃんのおっぱいすげーいい匂いしそう(よこしま
 むげんげふにふに幸せいっぱいに書いてました。またやりたい。
 この度もご読了、ありがとうございました。またいずれ。

 拙い作品にコメント、毎度ありがとうございます……!! 読む度に嬉しくて飛び跳ねさせていただいてます

>7様
 ある意味魔界組であるようなそうでないような……(動揺
 確かに妙に妖しい雰囲気がありますね……!木っ端な人間なんて指先一つで堕とせそうな感じが。
>8様
 この二人がなんか幸せそうに仲良くしてるとほっこりして幸せにさせられるのです!!(持って回る
 最果てに存在する楽園とは夢幻姉妹の事だぁ……。
>9様
 ありがとうございます!
 夢幻姉妹んがわいいぃぃいいぃ
硬煉
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コメント



0.160簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
魔界組はいいですね
なんか独特な色気がありますよね
8.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり夢幻姉妹はいいですね……幸せ
9.100名前が無い程度の能力削除
きゃわわわわわわわ