「マジカルロッド!」
手に現れたロッドがグオン!と怨霊を薙ぐ。
「オォォ」
あたいに襲い掛かって来た怨霊は吹き飛ばされ、地面に頭をぶつけてさらに転がり続ける。
壁にぶつかってようやく止まった頃には、怨霊は気絶していた。
「封印」
ロッドを回し、気絶した怨霊をロッドに封印した。
「やれやれ、回収完了だね」
あたいはお燐。
何でこんなひらひらした格好してるかって言うと、暴れてる怨霊を懲らしめて封印する魔法少女ってのをやってるんだ。
因みにあたいは二代目で、初代はさとり様だった。
さあ、今日の仕事は終わったし地霊殿に帰ろうっと。
・・・
「ご苦労様、お燐」
「あ、さとり様」
この人が先代の魔法少女だったさとり様だ。前シリーズも完結を迎えて、今は引退されている。
味方を逃がすため一人で囮になっても無傷で帰って来たり、灼熱地獄回廊を犠牲者を出す事無く奪取する活躍でマジカルさとり、ミラクルさとりと呼ばれるすごい人だ。
一応この作品のタイトルもそれにあやかっていて、マジカルお燐になってる。
さとり様はマジック燐の方が似合いますよと言ったが全力で拒否した。
「退治した怨霊は?」
「いつも通り、このロッドに入れてます」
手に持ったロッドを差し出す。
「・・・前々から言おうと思っていたのですが」
「何ですか?」
さとり様はロッドを見て、何と言ったら良いのかわからないような顔をしている。
「何でロッドに二つも取っ手があるのかしら」
「両手でも持てるって便利ですよね」
あたいのロッドは両手持ちも出来る。
「何でロッドに車輪が付いてるのかしら」
「装飾ですよ、装飾。ほら、何か色々と付いてた方がそれっぽいじゃないですか」
車輪は装飾。ボールは友達と同じくらいの真理に違いない。
「車輪転がして死体運んでたわよね」
「いやぁ、こんなことにまで使えるなんて、万能ですよね」
まさに万能ロッド。マジカルロッドすごいですね、なんて言われる日も来るかも知れない。
「あ、ニャオンロッドとか付けても良いですよね!」
「お燐、現実から逃げても何も変わりませんよ、それは猫車ですよね?」
あたいを見るさとり様の目が、優しさが痛い。
「・・・だってぇ、さとり様の時はすっごい予算付いてたのに、あたいになった途端すっごい削られたじゃないですか」
「地霊殿の主と言う事で、前の待遇が特別だったんでしょう」
さとり様は地霊殿の主、あたいはそのペット。どうしたって差は歴然だ。
さとり様の時は食堂で何でも好きなものを注文して良くて、特注のコスチューム・武器が用意された。
これがあたいになった途端、食事は一番安い買い置きの弁当、コスチュームは以前の没案で作られた奴の色違いで武器に至っては用意すらされなかった。
「武器ですか、前のはこいしがどこかに持って行ったまま、どこに有るのか」
「良いですよぅ、マジカルロッドで頑張りますから」
拗ねてマジカルロッドに頬ずりする。ああ、お前だけだよ、あたいの気持ちを分かってくれるのは。
「はいはい、拗ねてないで怨霊をさっさと回収させて頂戴ね」
「ああん、さとり様のいけず」
さとり様は怨霊を取り出し、特製の籠に入れ替えた。
あの籠は牢のようなものらしくて、暴れていた怨霊はあの中で言う事を聞くまでずっとさとり様の能力で調教される。
前に調教された怨霊に聞いた事が有るが、一分も経てば逆らう奴はいなくなるらしい。
「では、そのマジカルロッド?で頑張って下さいね、お燐」
そう言ってさとり様はどこかに行ってしまった。
何で疑問形なんですかさとり様。何で疑問形なんですか。
・・・
次の日は学校へ行く。魔法少女と言うからには少女なので学校に行かないといけないらしい。
「おはよー、お燐」
「おはよー、お空」
この子はお空。あたいの親友だ。
ちょいと忘れやすい性格は難があるが、もっと問題なのは銃を握らせたら性格が変わる事。
まさに何とかに何とかと言う奴だ。
さとり様が
「力は本人の意思とは別に一人歩きしがちです。過ぎた力に振り回される事の無いようにね」
って言い聞かせてたけど、もう覚えてすら無いんじゃないかな。
始業の鐘が鳴って水橋先生が教室に入って来た。
「じゃ今日の授業始めるわよ」
いつも通りやる気が無い声で授業が始まる。
授業は、声のやる気の無さに比例せずに割と分かりやすい。
何せお空が2桁以上の足し算が出来たくらいだ。
その時の教室はザワ・・・ザワ・・・って擬音が飛び交ってたっけ。
さとり様も信用してるらしくて、わざわざ継続をお願いしている。
固定ファンもついてるんだけど、本人は面倒臭そうにしてた。
二時間目は星熊先生の体育だ。
杯を手に持ったまま100メートルを5秒で走ったり、球技では本人の他に触らせる事無く終わらせる。
アンタッチャブル星熊とはこの先生の事だ。
前に生徒全員で掛かってった事があったけど、その時も杯の酒はこぼさずに屍の山を築いただけだった。
さて、今日は戦術サッカーだ。
戦術サッカーってのは、何人かで一部隊を編成して計十一の部隊を配置、部隊の進軍ルートとボールの進行ルートを予測しながら戦って行く。
部隊同士の連携とボールをいかに使うかで戦術が飛び交う遊びらしい。
体育の授業って事で隊長以外は全部怨霊を使っていて、怨霊が全滅すればアウトと言うルールになっている。
他にもいくつかルールがあるけど、守らなかった場合星熊先生の鉄拳制裁が待っているので、ルールを破ろうなんて馬鹿は居ない。
そう、一人を除いて。
「うにゅう、何でこっちにボールが来ないのよ、私に撃たせろー!」
ドッカンドッカンとお空の銃撃で地面に穴が開いて行く。
ついでにあたいの胃にも穴が開きそうだ。
星熊先生がにこっと笑って三歩歩いた後、お空はいつものように空の星になった。
無茶しやがって、と皆で敬礼する。
三時間目は理科の先生と保険医を兼ねている、白衣にミニスカートの黒谷先生。
明るい先生で、保険医を務めてるのは前に医者の真似事なんてやってたかららしい。
馬鹿な奴がスカートをめくろうとしたが、優しくも糸で巻いて屋上から逆さ吊り程度で済ませてくれた。
さとり様にそんな事をしようものなら生きて帰れると思わない方が良い。
この門をくぐる者一切の望みを捨てよ、と言う言葉がぴったりだ。
後は、学校の食堂に出張している釣瓶食堂のキスメちゃんがいる。
割と個性的なメニューもあるが、普通のメニューを頼んでおけば外れは無い。
これがあたいの通ってる学校の紹介。
募集もしてるみたいだから、一緒に通ってみたいと思ったら地霊殿に連絡してね。
----
学校も終わって、お空と一緒に本屋や駄菓子屋に寄り道をしながら帰る。
こう言うのをささやかな幸せって言うんだろう、さとり様もこいし様と一緒に学校から帰ってる時は嬉しそうだった。
さとり様が年下に見られてたけど。
地霊殿に帰ったら、さとり様が待っていた。
「ああ、お燐丁度良かったわ。あなたにプレゼントがあるの」
何だろう、さとり様からプレゼントだなんて珍しい。
「サポート用のマスコットキャラクターを作っておきました」
と言って出て来たのは、囚人服を着た人形だった。
「あの、よろしくお願いします」
「あ、えーと、よろしくね」
何で囚人服なんだろう。廃獄ララバイだからかな。
「地上から来た魔法使いが置いて行った人形を改造してみたのです」
「へー、よく出来てますね」
「調教は済ませていますが、言う事を聞かないようならこれを使って下さい」
と言って渡されたのは鞭だった。
「いや、魔法少女が鞭振るうのは番組的にどうかと思うんですけど」
「大丈夫よ、あなたなら似合うわ」
囚人服を着た人形を鞭でしばいて似合うとか、あたいをどう言う位置に持って行きたいんですか。
「いや、似合う似合わないの問題じゃないですってば」
「人気もきっとうなぎ昇りね」
「ありがたく使わせて頂きます」
魔法少女が鞭を使っても全然おかしいところなんてこれっぽっちも無い。武器は使ってこその武器だ。
「丁度良いから、明日はその子を連れて実地訓練と行きましょうか」
「はい」
・・・
翌日、さとり様と実地訓練で怨霊の居る旧灼熱地獄まで降りて来ていた。
「ところで、こいつの能力って何ですか」
囚人服の人形を指して尋ねる。
「自爆が出来ますよ」
いや、マスコットが自爆とか。
「自爆したらマスコット居なくなっちゃいますよ」
「そう言えばそうですね。後はレーザーを撃てるくらいかしら、こうやって」
さとり様が魔力を与えてやると、人形は目からレーザーを発射して、射線上にいた怨霊を真っ二つにした。
「おお、これなら絵的にも良いじゃないですか!」
人形も「そこまで褒めて貰えると照れます」なんて言ってる。
「でもこの人形って魔力で動いてたんですよね。今はさとり様が動かしてるんですか?」
「いいえ。怨霊の湧く近くで人形が狂ったと聞いたので、怨霊を入れてみたら割とあっさりと動きましたよ」
怨霊の・・・憑いた人形が・・・マスコット・・・(字余り)。
「言わなければ分かりせんよ」
「まぁ、そうかも知れませんけど」
「お燐さんは、僕が嫌いですか?」
人形が不安そうに話しかけて来た。
「いや、好きとか嫌いとかじゃなくてさ、こう、似合わないかなーってね」
「ああ、ようやく僕も日の目を見る役が貰えたと思ったのに、やっぱり僕なんて駄目ですよね」
そう言って泣き始めてしまった。
「お燐、泣かせたわね」
さとり様がジト目でこっちを睨む。
「あたいが悪いんですか!?」
「うう、シクシク・・・」
人形は泣き続けてるし、さとり様の視線は痛いし、こんなところ誰かに見られたら絶対に誤解される。
「あーもう、分かりました!分かりましたよもう、こいつで良いですよ」
「だ、そうよ」
「本当ですか!僕、このご恩は一生忘れません」
何だかさとり様に良いように言いくるめられてるような気がする。
「じゃあ、これからよろしく。あんたの名前は何て言うんだい」
「す、すみません。僕もよく覚えて無いので、適当に付けて貰えると助かります」
さとり様がポンと手を叩く。
「そうですね、怨霊が乗り移った人形ですから、オンドール君でどうですか」
「あぁ、良い名前ですねー」
怨霊も気に入ったらしい。それで良いのか。
コーディ君とかデーボ君とかの方が似合ってそうだけど、まぁ本人が気に入ってるし良いか。
「それでは、あそこに丁度怨霊の群れがいますからオンドール君のレーザーで懲らしめてあげなさい」
「了解です、んじゃ行くよ!オンドール君」
「はい、いつでもどうぞ」
照準を合わせて人形に魔力を与えるとカウントダウンを開始する。
「3...2...」
あれ、さっきカウントダウンなんてしてたっけ。
「1...0」
ボンッ!とあたいを巻き込んで爆発した。
バタンと仰向けに倒れる。
「あら駄目じゃない、そこは自爆用の魔力供給器官よ」
「さ、最初に言って下さいよ」
「聞かない方が悪いと思いませんか?」
さとり様は笑ってる。絶対こうなるって分かってて黙ってたんだ。
起き上がって涙目で訴える。
「ひどいです、さとり様」
が、さとり様は顔を近づけて笑顔でこう言う。
「聞かない方が悪いと思いませんか?」
「はいはい、どうせあたいが悪いんです」
泣きながら地面にのの字を描く。
「まぁ大丈夫ですよ、まだまだ人形に替わりはありますから」
そう言って懐から新しい人形を取り出し、自爆した跡から怨霊のかけらを集めてまた詰め込む。
「ああ、死ぬかと思いました」
いや、もう死んでるから。
さとり様に正しい人形の使い方を聞いて今度こそレーザーを撃つ。
「薙ぎ払え」
シュォンと言う音と共にレーザーが怨霊の群れに到達し、怨霊は次々と撃ち抜かれて断末魔の悲鳴を上げる。
撃ち抜かれた跡には、無残な姿になった怨霊が転がっていた。
「お燐、いつものように封印をお願いします」
「分かりました」
怨霊の倒れている場所へ行き、マジカルロッドを取り出す。
「行くよマジカルロッド、お前に命を吹き込んでやる!」
怨霊たちはマジカルロッドへ次々と吸い込まれて行き、回収も完了した。
「今日はこのくらいで十分でしょう」
「そうですね、あたいも疲れました」
主に自爆のせいで。
「では、地霊殿に帰りましょうか」
「はい」
さとり様と手を握って、地霊殿への帰り道を歩いて行く。
「魔法少女は辛く無いですか?」
「そんな事無いですよ、割と楽しいです」
「そう、良かった。本当はこいしに後を継いで貰う予定だったのですが」
二代目を選ぶ時、さとり様は本当はこいし様に後を継がせたかったみたいだけど、こいし様が頑として拒否。
「そんなひらひらしたの着るくらいならキスメの釣瓶食堂で餡子たっぷり大福うどん特盛を完食してやるんだから」
と言って拗ねてしまった。
見かねて、じゃああたいが、と言う事で今に至る。
「あなたにはいつも貧乏くじを引かせてしまっているようで」
「だから、そんな事無いですってば」
「そう、ありがとう」
さとり様はとっても柔らかい笑顔で笑ってくれた。
いつもの作った顔なんかじゃない、本当に嬉しいんだって分かる笑顔。
だから、あたいは頑張りますよ。さとり様のために。
-終わり-
-次回予告-
「いつも通りのいつもの学校、平和で良いね」
「あらお燐、そんな事言ってると学校で大変な事が起きますよ」
「不吉な事言わないで下さいよ」
「次回、『学校の階段』をお楽しみに。」
続くない
ところで地霊殿に連絡をしたいのですがどうやって連絡したらいいのですか?
黒谷先生と夜の看護実習したいです
怨霊になってロッドに封印されて、そのままおりんりんに頬ずりされたいです。
黒谷先生のスカートをめくろうとしたのは俺です
終始笑わせてもらいましたw
テンポも良くて、サクサク読めました。
続いてほしい~・。
続いて下さい。
とても読みやすく、サクッと読み切れました
6.キスメ食堂のメニューをコンプしたい さん>
キスメ食堂の地雷メニューはきっと、脳天直撃の味。
地霊殿への連絡方法は私も調べてますが、地上からは校区外で駄目みたいですね・・・orz。
7. >そんないけない子には黒谷先生のお仕置きが待ってます。
⇒最後尾はこちら
12. >俺、マジカルロッドになったらお燐と手をつないで歩くんだ・・・。
14. >おりんりんランドの開園は、予定が遅れているようですね。
最終回までに間に合うと良いんですが。
16. >あの白衣の間から見えるミニスカートに魅了されたんですね。
おっと、君はもうお仕置きが済んだから並んじゃ駄目だ。
⇒出口はこちら
17. 葉月ヴァンホーテン さん>
ありがとうございます。サクサク読んで頂いたようで何よりです。
今回ちょっと飛ばしすぎたかなと個人的には思ったので、次回はもう少し文章が増えるかも知れません。
とは言え、テンポを犠牲にしないようにしないと・・・。
18. >
ありがとうございます。
なかなかに難産だったのですが、構想が出来たらまた続きを描きたいです。
19. >
お風呂に出るしつこい怨霊もこれ一噴き。
魔法少女とかけ離れたイメージになるから、お燐も拒否しますね。
しかしお風呂に出るとはけしからん。是非張り込んで倒しましょう。