外交能力の高い父は、他国との交渉続きであまりここには帰ってこない。母は、妹を産んで間もなく他界してしまった。だから、王女である私が内政を執り行っている。
私の名はミリア――とても長い本名があるが、誰からもミリア王女と呼ばれている。王女とはいうものの、この国は、かつてこの地にあった大国がいくつもに分かれたうちの一つであるから、大した国力があるわけでもない。王宮も、もとは教会であったものを少し改造して使っているにすぎない。ただ、確かに民はたくましく生きている。そのことが、私が王女であることの誇りだ。最近は施政がうまくいっているようで、経済的にも豊かになってきた。
私には、フランという、少し不思議な妹がいる。どう不思議かというと、簡単に言えば、フランは占いが得意だ。カード、水晶、はたまた月や星も、フランの目には吉凶、あるいは過去や未来を写す鏡として見えるらしい。私が王女として民を導けているのも、フランの力によるところが大きい。もちろん、自分の政治的能力には自信を持っているが、多少おぼろげでも、未来に見通しが立つというのはありがたい。自慢の妹だ。
本来なら、ここからしばらく、私と妹と、幾人かの私たちに仕えてくれる人々との、幸せで平凡な日常が綴られるべきなのだろう。だがしかし、私は今、大きな案件を目の前に抱えている。のらりくらりとかわし続けてきたが、そろそろ限界らしい。このあたりを牛耳っている国からの通知で、かいつまんで言えば、フランに魔女の嫌疑がかかっているから身柄をよこせ、という話だ。
「ありえないわ。こんな莫迦げた話。」
つい愚痴が口をついて出る。この通達が最初に届いた時期は、この国の経済力、国力が大きく向上したころと一致する。所詮、周囲の国の僻みにすぎないのだ。だというのに、最近は教会まで破門云々と言ってくるから始末が悪い。
「しつこいし、無駄に根回しはいいし、ホント、どうなってるのよ?」
「でもお姉さま、絶対に行っちゃダメだからね。」
書類とにらめっこしている間に、いつの間にかフランが後ろに立っていた。
「これは、私じゃなくてフランがどうなるかの話でしょう?そもそも、私はあなたを渡すつもりなんてさらさらないわ。」
「そうじゃないのにー」
フランは頬を膨らませ、ぶすっとしてこちらを見ている。
* * *
「ミリア王女!至急、お伝えしなくてはならないことが!」
その日が来たのは突然だった。心の準備もなにもない。教会の異端審問会とかいう組織が、直々にこちらにやってきているというのだ。
「追い返せないの!?」
「しかし、王女様、これを追い返したとなれば、今まで保ってきた宗教的な関係が崩れます!もしかすると、戦争、ということも……」
伝令、兵士、呼び集めた知識人、皆々唇をかみしめている。ここまで強硬にこられたら、いや、この程度のことにこれだけの手段をとってくることを想定していなかった。想定が甘かったのだ。しかし、なぜ?
「なぜ、教会はこんな強硬策に……?」
周囲へ問いかけるが、だれの回答も的を射ているとは思えない。この国にはまだ大した力もない。早めに出る杭を打ちにくるとしても、あまりに時期尚早だ。教会との関係も、フランを引き渡せ云々という話以外は良好なものだったし、あちらに危害を与える要素はなかったはずだ。教会は狂っているのか?……ダメだ。今、考えることじゃない。今目の前にある情報だけじゃわからないことを考えても、無益だ。
「……フランはどうしてるの?」
「妹様は、まだ眠っておられます。」
フランの世話係が答える。
「フランは、起こさないで。」
この国に、それほど大きな軍事力はない。戦争は、避けなくては。人一人の命で、いくらの民の命が救えるだろうか。天秤にかけるまでもないことだ。
決意を、固める。
覚悟を、決めた。
* * *
「――間違いないな。」
「はっ!資料にある情報との一致は確認済みであります!」
「よし、いくぞ。」
「はっ!」
* * *
――ああ
どこだろう、ここは
いまは、いまって、なんだろう
わからない
もうなにも
めは、みえていても、なにもうつさない
まっくら
くらい
おと
おとは、きこえる
かたほう、だけ
なにが、あった
そう、わたしは
「惨めですねぇ……ええ。そうでしょう?ミリア王女?」
だれ
「魔女、と名乗っておきましょう。」
だれ
「救世主です。あなたの、ね?」
だれ
「おやおや、まともに話もできないようでは、どうしようもありませんねぇ。少し、気付けの魔法をかけてあげましょう。」
* * *
馬車に揺られる。人に囲まれる。異端だ、と言われる。牢獄に入れられる。死刑でないだけよかったな、という声がする。暗い。寒い。冷たい。引っ張られる。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。熱い。熱い。暗い。冷たい。眩しい。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛いいたいあついあついつめたいさむいさむいくらいくらいさむいくらいいたいいたいいたいいたいつめたいいたいくらいまぶしいいたいいたいくらいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
「どんな気分ですか?」
気づいた。冷たい床の上にいる。
「いやぁ、あなたは立派でしたよ。うんうん!妹さんを助けるために身代りになるなんて!しかもきっちり関係者全員騙しきったのだから、もう拍手喝采ものですよぉ!」
気味悪い、奴。そうだ。私、妹、かわりに、来たんだ。
「あなたは、だれ?」
「その質問は十三度目になりますねぇ。といっても、今回はまともな反応が期待できそうですが。」
やけにきびきびとした声。男なのか女なのかも、わからない。
「私のことは、どうぞ、魔女、とお呼びください。しかしまあ、妹さんとおそろいで、美しかった金髪も、いまやもう、といった感じですねぇ。たった二年で、人はこうもかわるものですか。」
二年、二年ってどのくらいだろう。わかんないや。
「っと、これ以上無駄話をするのもなんなので、単刀直入に言います。ミリア王女、あなたを助けに来ました。」
「たすける?なにから?どうやって?」
「お教えいたしましょう!あなたは私の手によって、吸血鬼となるのです!」
「……ぇ?」
「今や!哀れ地上は戦争状態!あなたの妹さんも戦っておられますよぉ。」
「フラン!フランはっ……大丈夫なの!?」
わけがわからない。フラン、戦ってる?吸血鬼?どういうこと?
でも、だんだん、はっきりしてきた。あいまいに漂っていた私の意識が、少しずつまとまっていく。
痛い
「っつぅ……!?」
強烈な痛み。全身のありとあらゆる神経が興奮する。いや、興奮していたことに脳がようやく気づき、処理し始めたのだ。同時に、鮮明な自分を、ある程度取り戻したように感じる。
生きてる
「そろそろ完全にお目覚めのご様子ですねぇ。では早速、契約の内容を確認させていただきます。」
「なに……を?」
痛みで今度は体が動かない。でも、やけに鮮明に、こいつの、魔女とやらの言葉が頭に響く。
「ああ、当然、これは相互契約ですから、そちらが断れば成立しません。選択の自由というわけです。やさしいでしょう?」
やけに甘ったるい、不快な声。
「あなたの得る異能、吸血鬼は、夜王の力の具現!あらゆる人民命あるものの頂点!強大な力!老いを知らぬ強靭な肉体、高度な知性を備えることが可能です!ただし……」
まくしたてる。感情を大きく起伏させているようで、その実すべて台本通りといったふうに。
「代償、そう!強大な力にはリスクが存在します!まず、吸血鬼として身に付く部分以外、すなわち、我々の使う魔法!魔術!これらの隠された英知に触れられるか否か!!それは……人としての、あなたの魔力適性に大きく左右されます!……まぁ、これは私の見立てでは取るに足らない問題。あなたほどの適性があれば十分でしょう。」
さっぱり、さっぱりわからない単語ばかり。そのはず、なのに、私の頭はさも理解したかのように受け入れる。
痛い
「あとは、一般的なものがいくつか、業務的になりますが、一応、紹介しておきまっしょう。太陽の光、それに比類する強力な光源に照らされた中での活動は困難を極めます。痛みに始まり、破壊され、気化してしまうでしょう。それと、流れのある水、その上を越えられなくなります。このあたりの詳しい原理はさほど重要ではないので省きますねぇ。それと、最後に一つ、この契約限りの代償を……」
痛い
「あなたの妹の魂、それを頂戴したい。」
――
「――おやぁ、お気に召しませんでしたかぁ?」
「なにを言っているの?当然でしょう……?」
なんだ、なんだなんだなんだ、こいつも、また、自分の命と、フランの命と、たくさんの命と、そういう天秤に乗せて考えさせる分岐の悪魔なのか?自分の頭が意味をすでになしていないけれど、一度、その二択には回答済みだ。
「答えは、ノーよ。」
「……うーん、それは困りましたぁ。それではあなたは妹さんを救えないのですよぉ?」
「あなたの言い分はおかしい。フランの命を助けるためにフランの魂をよこせなんて、議論にならないわ。」
「……ああ!それもそうですねぇ!では、こうしましょう。」
こいつの、言ってることのどこまでが本当なのか、さっぱりわからない。
「猶予期間を五年設けましょう!その間に、その魂の分の代償としてふさわしいナニカを提示していただければ、文句は言いませんよ。ふふっ、言わば代金なのでねぇ。それが金で払われても、香辛料で払われても、特に問題はありません。どうです?
ソ ト ニ デ タ ク ハ ア リ マ セ ン カ ? 」
* * *
そと、とは
あかるいのか
「そうですねぇ、直接、日の光を見る事には相当の勇気が要りますがねぇ。」
しかし、ふらんが
「その妹さんを助けるためのことではないですかぁ。」
……痛い
「それとも、一生をこの地獄で過ごしますかぁ?それもまた、あなたの選択です。だあれも、いちゃもんはつけません。」
痛い
「しかし、それはお互いにとって悲しくはありませんかぁ?それに、さきほど伝えた通り、あなたがうまくやれば、妹さんの魂を支払う必要はありません!なにも!なにも失うものなどありません!破格の条件ではありませんかぁ!」
なにも、失わない?
「そう!あなたがこの契約を受け入れ、妹さんを救い、どこかでこの契約の対価を見つける。あなたはもう、自分を犠牲にすることも、他人を犠牲にすることもないんですよぉ!」
……
「……そうですか、痛くて暗いこの場所が好きなのですねぇ。」
そんな――
「申し訳ないのですが、そこまでたっぷりと時間があるわけではありません。今から、そうですね、10ほど数えます。その間に返答を貰えなかったら、契約不成立、ということで。」
まって
「10……9……8……」
っ……父上
「7……6……5……」
フラン……
* * *
許して、と言ってしまったら、フランは悲しそうな顔をするだろう。
助けて、と言っても、助けなんて、目の前の蜘蛛の糸程度しかないと知っている。
ごめんね、でも、ありがとう、でも、お願い、でもない。
自然と、私の口から出たのは 「さよなら」 だった。
* * *
「4…3…2…」
……受けるわ、その、契約とやらっ!
「おお、それはよかったぁ!では、契約成立ですねぇ。」
* * *
光が明滅する。
幾何学模様が取り囲む。
現実離れした浮遊感。
五感が透き通っていく。
空気の流れを感じる。
自分がどうなっていくのかわかる感覚。
自分に何ができるのか
自分の中で何が起きているのか
手に取るようにわかる。
力の流れを感じる。
生まれ変わる。
私は、そう――
「おはようございます!新しいあなた!私がその身に新たな名前を刻んで差し上げましょう!デーモンロード!再生せしミリア!紅き悪魔!そう、レミリア・スカーレット!」
私の名はミリア――とても長い本名があるが、誰からもミリア王女と呼ばれている。王女とはいうものの、この国は、かつてこの地にあった大国がいくつもに分かれたうちの一つであるから、大した国力があるわけでもない。王宮も、もとは教会であったものを少し改造して使っているにすぎない。ただ、確かに民はたくましく生きている。そのことが、私が王女であることの誇りだ。最近は施政がうまくいっているようで、経済的にも豊かになってきた。
私には、フランという、少し不思議な妹がいる。どう不思議かというと、簡単に言えば、フランは占いが得意だ。カード、水晶、はたまた月や星も、フランの目には吉凶、あるいは過去や未来を写す鏡として見えるらしい。私が王女として民を導けているのも、フランの力によるところが大きい。もちろん、自分の政治的能力には自信を持っているが、多少おぼろげでも、未来に見通しが立つというのはありがたい。自慢の妹だ。
本来なら、ここからしばらく、私と妹と、幾人かの私たちに仕えてくれる人々との、幸せで平凡な日常が綴られるべきなのだろう。だがしかし、私は今、大きな案件を目の前に抱えている。のらりくらりとかわし続けてきたが、そろそろ限界らしい。このあたりを牛耳っている国からの通知で、かいつまんで言えば、フランに魔女の嫌疑がかかっているから身柄をよこせ、という話だ。
「ありえないわ。こんな莫迦げた話。」
つい愚痴が口をついて出る。この通達が最初に届いた時期は、この国の経済力、国力が大きく向上したころと一致する。所詮、周囲の国の僻みにすぎないのだ。だというのに、最近は教会まで破門云々と言ってくるから始末が悪い。
「しつこいし、無駄に根回しはいいし、ホント、どうなってるのよ?」
「でもお姉さま、絶対に行っちゃダメだからね。」
書類とにらめっこしている間に、いつの間にかフランが後ろに立っていた。
「これは、私じゃなくてフランがどうなるかの話でしょう?そもそも、私はあなたを渡すつもりなんてさらさらないわ。」
「そうじゃないのにー」
フランは頬を膨らませ、ぶすっとしてこちらを見ている。
* * *
「ミリア王女!至急、お伝えしなくてはならないことが!」
その日が来たのは突然だった。心の準備もなにもない。教会の異端審問会とかいう組織が、直々にこちらにやってきているというのだ。
「追い返せないの!?」
「しかし、王女様、これを追い返したとなれば、今まで保ってきた宗教的な関係が崩れます!もしかすると、戦争、ということも……」
伝令、兵士、呼び集めた知識人、皆々唇をかみしめている。ここまで強硬にこられたら、いや、この程度のことにこれだけの手段をとってくることを想定していなかった。想定が甘かったのだ。しかし、なぜ?
「なぜ、教会はこんな強硬策に……?」
周囲へ問いかけるが、だれの回答も的を射ているとは思えない。この国にはまだ大した力もない。早めに出る杭を打ちにくるとしても、あまりに時期尚早だ。教会との関係も、フランを引き渡せ云々という話以外は良好なものだったし、あちらに危害を与える要素はなかったはずだ。教会は狂っているのか?……ダメだ。今、考えることじゃない。今目の前にある情報だけじゃわからないことを考えても、無益だ。
「……フランはどうしてるの?」
「妹様は、まだ眠っておられます。」
フランの世話係が答える。
「フランは、起こさないで。」
この国に、それほど大きな軍事力はない。戦争は、避けなくては。人一人の命で、いくらの民の命が救えるだろうか。天秤にかけるまでもないことだ。
決意を、固める。
覚悟を、決めた。
* * *
「――間違いないな。」
「はっ!資料にある情報との一致は確認済みであります!」
「よし、いくぞ。」
「はっ!」
* * *
――ああ
どこだろう、ここは
いまは、いまって、なんだろう
わからない
もうなにも
めは、みえていても、なにもうつさない
まっくら
くらい
おと
おとは、きこえる
かたほう、だけ
なにが、あった
そう、わたしは
「惨めですねぇ……ええ。そうでしょう?ミリア王女?」
だれ
「魔女、と名乗っておきましょう。」
だれ
「救世主です。あなたの、ね?」
だれ
「おやおや、まともに話もできないようでは、どうしようもありませんねぇ。少し、気付けの魔法をかけてあげましょう。」
* * *
馬車に揺られる。人に囲まれる。異端だ、と言われる。牢獄に入れられる。死刑でないだけよかったな、という声がする。暗い。寒い。冷たい。引っ張られる。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。熱い。熱い。暗い。冷たい。眩しい。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛いいたいあついあついつめたいさむいさむいくらいくらいさむいくらいいたいいたいいたいいたいつめたいいたいくらいまぶしいいたいいたいくらいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
「どんな気分ですか?」
気づいた。冷たい床の上にいる。
「いやぁ、あなたは立派でしたよ。うんうん!妹さんを助けるために身代りになるなんて!しかもきっちり関係者全員騙しきったのだから、もう拍手喝采ものですよぉ!」
気味悪い、奴。そうだ。私、妹、かわりに、来たんだ。
「あなたは、だれ?」
「その質問は十三度目になりますねぇ。といっても、今回はまともな反応が期待できそうですが。」
やけにきびきびとした声。男なのか女なのかも、わからない。
「私のことは、どうぞ、魔女、とお呼びください。しかしまあ、妹さんとおそろいで、美しかった金髪も、いまやもう、といった感じですねぇ。たった二年で、人はこうもかわるものですか。」
二年、二年ってどのくらいだろう。わかんないや。
「っと、これ以上無駄話をするのもなんなので、単刀直入に言います。ミリア王女、あなたを助けに来ました。」
「たすける?なにから?どうやって?」
「お教えいたしましょう!あなたは私の手によって、吸血鬼となるのです!」
「……ぇ?」
「今や!哀れ地上は戦争状態!あなたの妹さんも戦っておられますよぉ。」
「フラン!フランはっ……大丈夫なの!?」
わけがわからない。フラン、戦ってる?吸血鬼?どういうこと?
でも、だんだん、はっきりしてきた。あいまいに漂っていた私の意識が、少しずつまとまっていく。
痛い
「っつぅ……!?」
強烈な痛み。全身のありとあらゆる神経が興奮する。いや、興奮していたことに脳がようやく気づき、処理し始めたのだ。同時に、鮮明な自分を、ある程度取り戻したように感じる。
生きてる
「そろそろ完全にお目覚めのご様子ですねぇ。では早速、契約の内容を確認させていただきます。」
「なに……を?」
痛みで今度は体が動かない。でも、やけに鮮明に、こいつの、魔女とやらの言葉が頭に響く。
「ああ、当然、これは相互契約ですから、そちらが断れば成立しません。選択の自由というわけです。やさしいでしょう?」
やけに甘ったるい、不快な声。
「あなたの得る異能、吸血鬼は、夜王の力の具現!あらゆる人民命あるものの頂点!強大な力!老いを知らぬ強靭な肉体、高度な知性を備えることが可能です!ただし……」
まくしたてる。感情を大きく起伏させているようで、その実すべて台本通りといったふうに。
「代償、そう!強大な力にはリスクが存在します!まず、吸血鬼として身に付く部分以外、すなわち、我々の使う魔法!魔術!これらの隠された英知に触れられるか否か!!それは……人としての、あなたの魔力適性に大きく左右されます!……まぁ、これは私の見立てでは取るに足らない問題。あなたほどの適性があれば十分でしょう。」
さっぱり、さっぱりわからない単語ばかり。そのはず、なのに、私の頭はさも理解したかのように受け入れる。
痛い
「あとは、一般的なものがいくつか、業務的になりますが、一応、紹介しておきまっしょう。太陽の光、それに比類する強力な光源に照らされた中での活動は困難を極めます。痛みに始まり、破壊され、気化してしまうでしょう。それと、流れのある水、その上を越えられなくなります。このあたりの詳しい原理はさほど重要ではないので省きますねぇ。それと、最後に一つ、この契約限りの代償を……」
痛い
「あなたの妹の魂、それを頂戴したい。」
――
「――おやぁ、お気に召しませんでしたかぁ?」
「なにを言っているの?当然でしょう……?」
なんだ、なんだなんだなんだ、こいつも、また、自分の命と、フランの命と、たくさんの命と、そういう天秤に乗せて考えさせる分岐の悪魔なのか?自分の頭が意味をすでになしていないけれど、一度、その二択には回答済みだ。
「答えは、ノーよ。」
「……うーん、それは困りましたぁ。それではあなたは妹さんを救えないのですよぉ?」
「あなたの言い分はおかしい。フランの命を助けるためにフランの魂をよこせなんて、議論にならないわ。」
「……ああ!それもそうですねぇ!では、こうしましょう。」
こいつの、言ってることのどこまでが本当なのか、さっぱりわからない。
「猶予期間を五年設けましょう!その間に、その魂の分の代償としてふさわしいナニカを提示していただければ、文句は言いませんよ。ふふっ、言わば代金なのでねぇ。それが金で払われても、香辛料で払われても、特に問題はありません。どうです?
ソ ト ニ デ タ ク ハ ア リ マ セ ン カ ? 」
* * *
そと、とは
あかるいのか
「そうですねぇ、直接、日の光を見る事には相当の勇気が要りますがねぇ。」
しかし、ふらんが
「その妹さんを助けるためのことではないですかぁ。」
……痛い
「それとも、一生をこの地獄で過ごしますかぁ?それもまた、あなたの選択です。だあれも、いちゃもんはつけません。」
痛い
「しかし、それはお互いにとって悲しくはありませんかぁ?それに、さきほど伝えた通り、あなたがうまくやれば、妹さんの魂を支払う必要はありません!なにも!なにも失うものなどありません!破格の条件ではありませんかぁ!」
なにも、失わない?
「そう!あなたがこの契約を受け入れ、妹さんを救い、どこかでこの契約の対価を見つける。あなたはもう、自分を犠牲にすることも、他人を犠牲にすることもないんですよぉ!」
……
「……そうですか、痛くて暗いこの場所が好きなのですねぇ。」
そんな――
「申し訳ないのですが、そこまでたっぷりと時間があるわけではありません。今から、そうですね、10ほど数えます。その間に返答を貰えなかったら、契約不成立、ということで。」
まって
「10……9……8……」
っ……父上
「7……6……5……」
フラン……
* * *
許して、と言ってしまったら、フランは悲しそうな顔をするだろう。
助けて、と言っても、助けなんて、目の前の蜘蛛の糸程度しかないと知っている。
ごめんね、でも、ありがとう、でも、お願い、でもない。
自然と、私の口から出たのは 「さよなら」 だった。
* * *
「4…3…2…」
……受けるわ、その、契約とやらっ!
「おお、それはよかったぁ!では、契約成立ですねぇ。」
* * *
光が明滅する。
幾何学模様が取り囲む。
現実離れした浮遊感。
五感が透き通っていく。
空気の流れを感じる。
自分がどうなっていくのかわかる感覚。
自分に何ができるのか
自分の中で何が起きているのか
手に取るようにわかる。
力の流れを感じる。
生まれ変わる。
私は、そう――
「おはようございます!新しいあなた!私がその身に新たな名前を刻んで差し上げましょう!デーモンロード!再生せしミリア!紅き悪魔!そう、レミリア・スカーレット!」
私にとっては3分を浪費して全部読んだことを感謝されても全く嬉しくないわけです
こういう唯の妄想を次回も投稿し続けるつもりなら、はっきり言って迷惑です
エンターテイナーとしてやっていくなら、中二病をもっとこじらせるべきですね。貴方の病状はかなり軽度で、悪く表現すれば、つまり"薄っぺら"なので御座います。
文章に肉と脂がのっていないし、整合性がとれていない展開や台詞が多い。人間ってのは我々の想像しているよりもずっと複雑な思考をもっている存在なのです。流れを優先した結果、キャラが死んでしまっている。ギャグならともかく、シリアスならそういう心理部分を登場人物全員についてきっちり設定しないと破綻しやすいですよ。
後書きから見えてくる褒められたい臭がなおさら気持ち悪い。
具体的には契約の五年後なんかまで、もう設定やプロット、本編で大学ノート二冊潰す勢いで。
不思議と最後まで読めたので、読めない作品よりかは幾分マシだと思います。
それだけに中盤からの文章になっていない文章が非常にもったいない。
妄想をしっかりと具現化できれば必ず評価は付いてくると思います