Coolier - 新生・東方創想話

二つの大図書館

2007/06/24 08:07:40
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「ねぇメリーまだぁ?」
 本棚に寄りかかりながらはなたれた私の声は、闇の中、一本のゆらめく光へと向かい消えていく。
 静かながらどこか活気が感じられる大学図書館…だけど、その知識の源泉は、今は全く別な世界だった。暗闇と静けさが全てを支配して、私たち二人だけがその世界におけるちいさな異物。すぐにでも世界に呑み込まれそうな小さな小さな異物。
 昼間はさほど大きいとは思わなかったのだけど、決して短くない歴史を持つこの大学図書館は、夜二人で来るとその広大さがよくわかるのだ。世界は暗く、人の気配はない、感じるとしたらそれはもののけか何かの類ね。
 相棒へと送った言葉が返ってこないと、お母さんに置いて行かれた、小さな子どもみたいな気持ちになってしまった。
 ありえない話だけど、この暗い世界に取り残されたりしたらどうしよう…みたいな。

「…何考えてるんだろ、私」
 私はそう言って首をふる。いけないいけない、雰囲気に呑まれてしまった。この真っ暗闇な雰囲気に。
「蓮子はせっかちすぎるのよ。え~っと…このあたりだった気が…あれ?反対側かしら?」
 やがて、せっかちとは正反対な声が聞こえ、かすかな懐中電灯の光がゆらゆらと動く。ここから出るのは当分無理そうね…
「やれやれ…」
 私はため息をついて天井を見上げる。そうしたら吸い込まれそうな位真っ暗な空間が見えて、私は慌てて視線を戻した。
 やはり暗い本棚の列の向こう、本の森の深奥にぼんやりと光が見える。
「…もう、仕方ないわね。私も手伝ってあげるわ」
 誰もいない図書館でも、なぜか大声をだすのははばかられた。そして、私は自分に言い聞かせるように小さく呟いて、私は歩き出す。
 小さな光ほのかな光、だけどなにかとても頼りになりそうなその光へ、私は引き寄せられるように向かっていった。







 さて、私たちは今、夜も夜中で真っ暗闇な大学図書館にいる。いるの前に『不法侵入して』の言葉を付け足した方がよいのかもしれないけれど、不法侵入とよいの言葉の相性が悪そうなのでやめておく、無論それ以外の理由はない。ないったらない。
 それはともかくとして、何故私たちが深夜の大学図書館でうろうろしなければならないのか、それは例によってメリーが原因であった。





~数時間前~

 カンカンカン
 聞き慣れた踏切の音が聞こえてきて、レールを伝う音がする。それはだんだん大きくなって、続いて窓の外をがたがたいいながら電車が駆けていく。安普請のアパートはぐらぐらと揺れる。
 いくら建築技術が進歩しても、それが省力化と経費節減に使われてしまっては意味がない。愛しの我が城は、家賃も安い代わりに普請も安いのだ、個人的には、あと何十年かしたら、電車が通過するたびに柱が折れていくんじゃないかと思っている。
 さて、いくつもの光が駆け抜けて、踏切の音が消えさるとようやく静けさが戻ってきた。

「もう…こんな時間か」
 私は、ふと手を休めて時計を見た。もうすぐ日付が変わる、さっきの電車は終電ね。人の時間はもう終わり、これからは、レールの上を走るのも、道の上を走るのも、きっともののけだけだろう。
 では私も寝るとしよう。布団に入ってさようなら今日の日、こんばんわ夢の中…

…ガタガタ

……ゴトゴト

………ドドドドド

「ええいっ!走るなもののけっ!!」
 思わずはね起きた。階段をどかどか上がってくる音がする、こんな夜中にどこのもののけよ!運動会なら墓場でやりなさい!とっつかまえて売り飛ばしてやろうかしらっ!
 既に相手をもののけと決めつけながら、布団を被る。まぁ大方どっかの部屋に遊びに来た暇な大学生かなんかだろう。いや、私は違うのかと聞かれたら違わないけど…
 何はともあれ迷惑な話ね、とっとと目的地に行ってくれ。

どんどんどん!
「ここかよっ!」
 とうとうはね起きた、私の周囲で、こんな時間にこんな行動をとるもののけ…違った、いや、あんま違わない気もするけど、ともかくそんな奴は一人しかいない。

「ねぇねぇ蓮子!大変なの!!」
 聞き慣れた声に私は頭を抱える。我が結界暴きサークルの盟友、メリーの声だ。
 正直なところ、このまま布団を被って気づかぬふりを装いたいのは山々だけど、困ったことにそうはいかない。
 激しい衝撃にアパートは揺れ、今にも倒壊しそうだった…というのは大げさだけど、ますます大きくなる騒音に、私は立ち上がる。近所から苦情が来ると困るのは私なのだ。
 メリーの『大変』には慣れていた。三日前は教科書がなくなった(鞄に入ってた)、一昨日はケーキがなくなった(自分で食べたのを忘れていただけ)、昨日はお金がなくなった(あんた無駄遣いしすぎ)、さぁ今日は何がなくなったのかしら?記憶?それはいつものことでしょう。
「はいはい…今出るからちょっと待ってべっ!?」
 しかし、扉に手をかけようとした私は、反逆した扉にはねのけられ、尻餅をつく。扉を自動にした記憶はなかったんだけど…
「あいたた…ってメぐえっ!?」
 そして、続いてそんな私を押し潰すメリーの足、うう…おなかにもろに…食べたばかりのお蕎麦が危うく離脱を図るところだったわ。
「あ、ごめんごめん…」
 慌てて口を押さえ、彼らの離脱を押しとどめた私の頭上から、とぼけた声が聞こえてきた。メリーね。
「いいから…ひとまず降りなさい…」
 足もどけずに謝るメリーに文句をつけつつ、私はふと気付く。
「…鍵あいてたっけ?」
 これでもうら若き乙女の一人暮らし、鍵はしっかりしめて、ついでにチェーンもかけたはずなのだけど…
「ううん?閉まってたわ」
 きょとんと返された。
「じゃあ何で…」
 私の言葉に、メリーの顔が得意げに輝く。
「もう、蓮子ったら…あんな『開けやすい』鍵を使うなんて不用心よ?あんなの五秒もあれば開けられるわ」
「そう…」
 得意顔で最近は危ないんだから…と続けるメリーに、私は心の中で突っ込みをいれた。
 一番危ないのはあんただ、ついでに私が今一番不用心だと思っているのはあんたという友達を持っていることについてよ!…と、口には出さないけど。
「はぁ…で、一体今日は何をなくしたの?」
 さて、全てを受け入れた私の言葉に、再びメリーは慌て出す。
「あああ~!!そうなのよ『進級』をなくしたの!!!」
 そしてじたばたと暴れ出すメリー…ってこら!
「痛っ!?ちょ…げふっ!人のおなかを踏む…ぎゃふっ!」

 お蕎麦…お蕎麦が逃げ………逃げた…





~現在~

 なんか思い出したら腹立ってきたわ。ついでに痛くなった、お腹が…ついでに頭も。
 要するに、メリーは必修のレポート(明日まで)を書くのを忘れていたらしい。で、レポート書く為にわざわざ深夜の図書館に忍び込んで本をさがす羽目に…
 まぁなんだかんだいってついてきている私も私だけど、友人の為だ、仕方がない。それに、昼の図書館は暇そうだけど、夜の図書館には興味があったしね。
 本には全く興味はないけど、異世界には大いに興味がある。それが活動的なオカルト美少女、宇佐見蓮子なのだ!…美だよ?
 ちなみに、なんで鍵が『開いた』のかとか、警報装置が作動しないのかは気にしない、もちろんその前にメリーがやっていた『ある作業』についても気にしない。
 
 と…それはさておき…

「もう、メリーまだぁ?」
 メリーの側へと行った私は、再び本棚へとよりかかった、だけど、ぎしぎしと音がして慌ててとびのいた。この本棚ボロすぎよ!
 巨大な本の重量を支えるべく、頑丈な木材により作られている本棚…ん?そこで私は何か小さな違和感に気が付いた。

 あれ、この図書館の本棚『木製』だったっけ…?

「ん~?おかしいなぁ、この辺だと思ったんだけど…」
 その時、メリーの声が近づいてきて、続いて目の前に見慣れた顔が現れた。小さな疑問は速やかに吹き飛んだ。
「あ、蓮子。ねぇ、なんとか物理学の本ってこのあたりじゃなかったかしら…?」
「…なんとか物理学、新分類の学問ね」
 聞いたことがないわ、なんとか物理学なんて。
 自分の探している本の題名位覚えておきなさいよ…題名も知らずに探したんじゃ見つからないはずね。
「はぁ…え!?」
 私はため息をつきながらメリーの方を見て…吹き出しかけた。

 メリーの頭上で、何かを探すように動いている腕が見える。腕だけ…

「ちょっ!?メリー上!上!!」
「うぇ?酷いよ蓮子…私の顔見て『うぇ』だなんて…」
 慌てて叫んだ私に、メリーは変な方向に解釈してジト目でこちらを睨んでくる。あんたの顔見てうぇっと言いたくなるときはあるけど今はその時じゃないわ。別に夜も夜中な丑三つ時にたたき起こされたり、レポートの追い込みにかかってるときにあらぬ仕事をおしつけられたりしているわけじゃないんだから。
「違うのよ!ほら、確かにメリーの顔見てうぇって言いたくなる時はあるけど、それはメリーの顔が気持ち悪いんじゃなくて、忙しいときに忙しくなりそうな奴の顔を見たっていうかんじで…じゃなくて!上よ上!!」
 言葉が通じないなら身振り手振りで伝えよう、声による言語とはあくまでその一形態に過ぎない、要は意志が伝わればいいのだ。

 幸にして私の身体言語は正確に相手に伝わったらしく、メリーはゆっくりと上を見上げ…

「…上?うぇっ!?」
 尻餅をついた、ここまでお約束に驚かれると、逆に清々しいわね。
「裂け目から出てるあれ何よ蓮子~?」
「腕ね…裂け目?」
 慌てるメリーに、私は問い返す。あの腕…裂け目から出ているのかしら?
「ええ、ええ、裂け目よ。そんな大きくはないけど…」
 混乱から立ち直りつつあるメリーが答える、さすが、適応能力が高いわね。
「引っ張ってみましょう」
 そう、未知への探求、それが秘封倶楽部員たる証、裂け目があったら入りたい、月があるなら行ってみたい、新作お菓子は味見したい。
 人としての知的好奇心に忠実なサークル、それが我が秘封倶楽部なのだ。

「ええ、変なの出てきたら蓮子がどうにかしてね。私か弱いから」
「…わかったわ」
 立ち上がりつつ、私にそう言うメリー。それでも謎の腕を引っ張ろうとするあたり、さすがは好奇心の導くままに猪突猛進左右に構わず突進せよををモットーとする我が秘封倶楽部の一員ね、合計二員しかいないけど。
 あと、言外に「蓮子はか弱くない」と言われた気がしたけど、寛大な私は気にせず答える。いざというときにはメリーを囮にして逃げよう…そう思いつつ。



 さて、相変わらず腕はばたばたと空中を捜索している、細くて白い腕…女性かしら?
「メリー、いっせいのでやるわよ」
「了解っ!」
 我が秘封倶楽部の完全な連携、メリーと視線を合わせ、タイミングを見計らう。視線の先では、相も変わらず何かを探す腕、いいわ、完全な奇襲になるはず…
「いっせいの…」
 私はメリーに視線を送る。真剣な表情のメリー…何か悩んでいるの?確かに危険はあるかもしれないけど、だけど、あふれ出る好奇心の前にはそんなものは大した障害にはならないわ。さぁ、何かを引っ張り出…
「そういえばいっせいので、でやるの?それともいっせいの、でやるの?」
 …って何悩んでるのよあんたはっ!?
「今言うことかっ!」

「きゃっ!?」

 と、思わず突っ込むと同時に腕をつかんでしまった、そしたら上から声がして何かが降ってき…
「げふっ!?」
 た…



 突如としてのしかかってきた重圧に、私はもがきながら思った。今日はずいぶんとつぶされる日だわ…またしてもお蕎麦が飛び出たじゃない!

「あいたた…ん?」
「いった…ん?」
 そして、目の前には見たことのない少女の顔、お互いがお互いを見つめ合い…

「「どちら様ですか?」」
 声が揃った。

 よくよく正面を見れば、年の頃私と同じか少し下位の少女の姿が見える、いたずらっ子そうな雰囲気を漂わせる女の子、だけど注目すべきはそこではなくて…
「…羽根?耳?」
「はい?」
 きょとんと言葉を返す彼女に、私は言った。

「聞きたい事は色々あるんだけど、ひとまずどいてくれない?」





「さて…と」
 私、メリー、そして羽根少女が輪になってお互いを窺う。きょとんとした表情の羽根少女は、危害を加えるつもりはないみたいだけど、なにやら羽根をぱたぱたと動かして落ち着きがないみたいだった。
「あなたは一体…」
「こんにちわ、ハロー、ニーハオ、パスカ、ジークハイル、ハラショータバリシチっ!!…ねぇ蓮子、他になんかあったっけ?」
 メリー…挨拶じゃないのが混じっているわよ、そもそも日本語通じてるじゃない。
 心でつっこむ私に対し、羽根少女は呆れた表情で口を開いた。
「いやいや、普通に話してるじゃないですか。あなた方何者なんですか?あ、名前を聞くときにはこちらから言うのが礼儀ですね、私図書館司書の小悪魔と申します。薄暗い大図書館の根暗な主人につかえる、明るく陽気で優しく素敵で勇猛果敢にして頭脳明晰で沈着冷静で…他に何かありませんか?…こほん、それでは可憐で素敵な美少女、小悪魔です。あ、美を忘れないで下さいね」
 …ずいぶん早口ね、そもそも自分で『美』をつけるってあたりどうかと思うわ。ちなみに突っ込みは不許可ね。
 それにしても悪魔…か、そうは見えないけどなぁ。羽根だって今時の技術ならそれっぽいのが作れるし、どっちかっていうと可哀想なコな可能性の方が高いわね。
 でも裂け目から降ってきたわけだし、ありといえばあり…かしら。
 あと色々と言葉が相殺されている気がするのは無視。で、相手方から自己紹介された以上、こちらも応じるのが礼儀よね。
「ごほん、私たちは秘封倶楽部、境界を暴くのを目的としたオカル…」
「この羽根本物?触っていいかしら?いいわよね、知的好奇心に制約はかからないのだから…」
「ちょっ!?何するんですか!!そのパチュリーさまみたいな理屈は…痛っ!?引っ張らないでくだ…あああっそこは駄目!駄目です!!どこ触ってるんですか!!ふきゃっ!?」
 しかし、私がもったいぶって自己紹介を始めると同時に、メリーは少女にべたべたと触りはじめていた。
 …悪魔(自称)相手に何やってるんだか。

「やめんかっ!」
「きゃっ!?」
 私の突っ込みにメリーは視界外へと消え去る、うん、最近突っ込みの攻撃力が向上してきた気がするわ。
 そして、メリーが消えた後には、私と怯えて身をすくめた少女だけ。
 ひとまず、危険人物を排除した私は、彼女との会話の再開を試みた。
 それにしても、どこの世界に初対面の悪魔(?)にセクハラかます人間がいるのよ!!すっかり怯えちゃっているじゃない。涙目できょろきょろ周囲を見回す少女が少し可哀想だった。
 ちなみに、向こうでメリーがわざとらしく「痛いよ痛いよ~蓮子がいじめるよ~」とか言っているけど無視。本棚の影でうずくまるな!!うっとうしい…
「ごめんね、この子ちょっとアレなのよ。ところであなたはどうしてここに来たの?」
 怖がっている小悪魔をなだめようと、私は精一杯優しい笑顔で彼女に聞いた。そんな私に彼女は…

「あああ~許して下さい、なんだかわからないけど助けて!私まだ(夜)三時のおやつも食べてないんですよ、今日のは自信作のマドレーヌなんですよ、太りそうだけど気にしないんです。ほら、私ってば元がスレンダーですから少しくらい…それにパチュリーさまと違って働き者の小悪魔ですから、すぐカロリー消費です。あんなひきこもりとは違うのです。あ、自己紹介のところに働き者をつけ忘れたので付け加えて下さいね。あああ、それでですね、そんな細身な私ですから食べても美味しくないんですよ!ほら、骨ばっかり、だからそんな怖い笑顔で迫らないで下さいよ~!!私のおやつがまだなのに私がおやつになるなんて神は不条理です!断固抗議する次第なのです、あ、でも私は悪魔ですから神に抗議するっていうのはおかしいでしょうか?あれ、まぁ対立関係だから抗議はいいのかな。なにはともあれ食べないで~」

 とか言って哀願してくる、何で悪魔に怖がられないといけないのかしら?それとパチュリーというのはこの子の主人かなんかみたいね。
「あのね…」
 私は呆れつつも笑顔を取り戻して前へと進む…が
「ひっ!?」
 その分彼女は後ずさった。
 怯えて後ずさる彼女に、私は悩む…そんなに私の笑顔って怖いのかしら?正直自信がなくなってきたわ…
 あ、でもひとまず安心させないと…
「あのね、私はあなたを襲ったりしな…」
「ふっふっふ、あなたはもう私たちの胃袋に納められると決まっているのよ。その為に引きずり込んだのだから」
「だから~」
 いつの間にか復活して、またしても変なことを言い出すメリーに、私は呆れる。頭が痛くなったわ。なんでメリーはこうも話を変な方向に持っていこうとするのかしら?
「あああやっぱり!?ううっパチュリーさま、私は先に逝きます。こうなったのもパチュリーさまが逃げた本棚を探せなんて言ったせいです!毎晩枕元に立ってやりましょう、ん…でも毎晩だとめんどくさいですね、一日おきくらいにしましょう。でもパチュリーさまの事だから、下手したら実験材料にしたりお茶くみさせたりするかもです、非常識です!それにしてもまさか人間に食べられるなんて思いませんでした、あ、でもあの紅白とかなら平気で食べちゃそうな気がします、人間って怖いですね。いや、もう穴に引きずり込まれた時にはこうなるかなって思っていたんですよ、私ってば勘が鋭いので。それに抵抗し得ない凄い力でしたし、並の人妖じゃないのです…」
 支離滅裂ね…ホントに食べちゃおうかしらこの子…ついでに…

「そうね、蓮子の足踏みは家をも崩し、キックは巨岩を月まで飛ばせるわ。きっとあなたを食べた後私も食べる気なのよ、蓮子生もの好きだし」
 このバカも一緒に…それじゃあ私怪物じゃない!!でも生ものは好き!お寿司とか!!

「そうですよね、あの力は尋常じゃなかったです。私だって日々図書館の重労働で鍛えているか弱い乙女(?)なのに、全然抵抗できなかったですもん。腕とかもげるかと思ったんですよ!ほら見て下さいこの腕、手形ついてるんですよー嫁入り前の女の子になんてことを!」
「そうねぇ、蓮子は乱暴なんだから、なにかっていうとすぐに殴る蹴るの暴行を加えるの、友人相手に酷いと思わない?見てこのあざ、責任とってもらわないと…具体的に言うとパフェとか」
「そうですね、酷いですよね。私のご主人さまだってそんなことしませんよ。紅茶に唐辛子入れたりはしょっちゅうですけど、それは私もやりかえしておりますのでノーカウントノープロブレム、愛のあるいたずら合戦なのですよ、あ、あと慰謝料ならケーキがお勧めです。ショートケーキとか」
「そういうのならいいわねぇ、蓮子には愛がないもの…こないだなんて友情の証として誕生日に蝦蟇蛙飼育セットを送ったのに、気持ち悪いから公園に放しただなんて…あのべとべと感の良さがわからないのかしら?あと和菓子系はどう?」
「ですよですよ!やっぱりいたずらは愛があるからこそやるんですよ!その点パチュリーさまはわかってらっしゃるんですが、咲夜さんとかケーキに爆薬仕込んだ位で怒るんですよ、ちょっと食堂が半壊する位のやつなのに…もうジョークがわからない人なんですから。和菓子もいいですねぇ、薄皮まんじゅうなんて最高です」
「ホント、友情を疑いたくなる時ってあるわよねぇ…焼き肉なんてのもあるわ、ちなみに焼き肉は友情を破壊するわ…うう」
「ええ、私なんてもう身も心もパチュリーさまのものですから…きゃっ言っちゃった。具体的に言うとパチュリーさまとお菓子食べないと身体がもたないし、いたずらしないと欲求不満がたまるんですよ。欲求不満がたまるのは精神衛生上よくないので、速やかに発散するようにしています、具体的にはケーキを爆散させたりして。焼き肉は…うちだと何の肉が出てくるのかわかったものじゃないのでやめておきます」

「…あーちょっといい?」
 私は、もう話題が飛びに飛んで、しかも話がかみあっているようでかみあっていない二人の会話を遮断し、話題をまともな方へと向け…

「蓮子~せっかくお話して盛り上がってるのに邪魔しないでよ~」
「そうですよ、おしゃべりは友好の証にしてお互いの親睦を深める為に必須のものです。ほら、よく言うでしょう、他人のおしゃべりを邪魔する奴は、本の角に頭をぶつけて死んじゃえって」
「…」
「ね、この子ったら空気を読まないのよ。もう遅刻はするし乱暴だし困ったものね」
「そうなんですか、それは困りものですね。私の所にも私とパチュリーさまが楽しくいたずら合戦をしている所に突入してくる、空気を読まない黒い悪魔が来ますよ?同じく空気を読まない紅い悪魔も来ますけど、こっちはいたずらの実験台になるだけなのでまあいいです」
「……」
「そうそう、きっとそんな感じね。会ったことないけど」
「どこにも迷惑な方はいらっしゃるものなのですね、困ったものです」
「ええ本当、困ったものねぇ。ね、蓮子もそう思うでしょう?」
「………だ」
「だ?大根足?」
「し…死して屍拾う者なしっ!」
「し…しで返すなんてなかなかやるわね。ん~し…し…」
「黙れこのくそったれ天然娘どもっ!!!」
「「死っ!?」」





「で、私の話を聞く用意はできた?」
 さて、ちょっとした制裁を行いつつ、ぎろりとばかりに、私は人の話を聞かないおとぼけペアを睨みつけた。
「わ…わかったから蓮子、耳から手を放して、お願い、プリーズ」
「ですです、このままじゃとれちゃいますよ!耳なし小悪魔なんてなんか語呂悪いですし、そういうのはどっかの琵琶法師さんだけに…って痛い痛い!わかりました!!黙ります!黙ってお話を聞きますからっ!後生ですから耳を放して下さいっ!!」
「はぁ」
 私は、ため息と共に引っ張り上げていたバカ二人の耳を放す。涙目の二人は、そのまま肩を寄せ合って耳を押さえる。
「うう…片方の耳だけ大きくなったら蓮子どう責任とってくれるのかしら?これでも嫁入り前の乙女なのに」
「そうですよ、パチュリーさまに嫌われちゃったりしたら、私はこの先何を楽しみに生きていけばいいか…」
「じゃあもう片方の耳も大きくしてみる?私は別に構わないわ?」
「ストップ蓮子!解決法として間違っている気がするわ!!あとそれ以前に人間として!!」
「ラブアンドピース!か弱い悪魔の耳を引っ張るだなんて、それは非人道的だと思いますよ!哀れな小悪魔に愛の手を!!」
「…はぁ」
 頭が痛い、ため息が増える。
 やたら大げさにこちらへと制裁中止を求める二人を見ながら、私はため息をついた。
 この二人、人の話を聞かない所がそっくりね。あと、すっかり意気投合しちゃってもう…



「まぁいいわ、気になるところは色々あるけど、ひとまず細かいところには目をつぶっておいて…」
「蓮子大ざっぱだからねぇ」
「なるほど、そんな気がしますね。ひとまず空間から手が出ていたら引っ張ってみるとかいうあたり…痛いっ!?」
「耳がっ!ダンボになっちゃう!?」
「いいじゃない、両耳が均等に大きくなったらバランスがいいわよ?それに空飛べるようになったら便利そうだし」
「飛べない飛べない!物理学的にあり得ないからっ!!」
「あああっ!私はいいです!!既に飛べますからっ!?だからストップ」
「え?」
 二人の耳をねじり上げたところで、あらぬ発言を聞いた私は思わず手を放した。二人が反動でしりもちをつく。
「痛たた…耳とおしりが痛いわ、蓮子」
「うう…こんなことパチュリーさまにもされたことないのに…」
 耳を押さえる二人…というか小悪魔を見て、私はふむと考える。
 確かにこんだけ大きな羽根があって…かつ飾りではないとしたら、飛べたとしてもおかしくはない。まして、相手は裂け目の向こうからやってきたのだ。
 さっきまでのお間抜けな会話ですっかり忘れていたけど、この少女は(自称)悪魔なのである。
「えっと…小悪魔だっけ?」
 私の言葉に、小悪魔はたちまち表情を変え、胸を張る。
「ええ、湿地に咲くカキツバタのように、じめじめじっとりした図書館に咲く可憐な美少女、小悪魔です」
「わかったわハエトリソウ、それで聞きたいのだけれど…」
「誰がハエトリソウですかっ!」
「じゃあモウセンゴケ?」
「食虫植物から離れて下さいよ!こんな優しく可愛い私を例えるものとしてふさわしいのは…」
「ウツボカズラ」
「違いますっ!!」

 私の言葉に、小悪魔は腕をぶんぶん振り回したり、頬を膨らませたりしながら抗議する。
 …おもしろい、メリーと組まれてボケ倒された時は腹が立ったけど、この子反応が素直で面白い。なんかからかってると癖になりそうね。
 けどいつまでもこんなことをしていても仕方がないわね。

「こんな可憐な美少女小悪魔の事を食虫植物に例えるだなんて…ぶつぶつ」
 ぶつぶつまで言葉にしている彼女を見ながら、私は尋ねた。
「手段は聞かないけど、どうしてこんな所に来たの?」
「え…?だからさっきも言ったじゃないですか、そこの本棚が逃げ出したんですよ!パチュリーさまの魔法実験の度に濡れたり燻されたりするのが嫌だって。いえ、その気持ちはよーくわかるんですけど、如何せん私もパチュリーさまに仕える従者ですので、パチュリーさまに探してこいと言われるとそうするしかないんですよ。宮仕えとは悲しいものですねぇ。別に報酬のお菓子が目当てだとか、そもそも本棚が逃げ出したのは、私が魔法陣に紅茶とミルクをこぼしてマジックミルクティーにしちゃったせいで、空間に穴が空いちゃったからなんていうのではありませんよ?ええ、ホント、純粋な義務感からなのです」
「…わかりやすい表情と詳しい説明をありがとう、でも…本棚が逃げ出す?」
 ひとまず、私は色々な所に突っ込みたい気持ちは必死に押さえて、一番気になる箇所に質問を絞る。本棚が逃げ出すって…どういう状況よ?
「あーなるほどなるほど、お気持ちはわかります。本棚が逃げ出すのは幻想郷広しといえどもうちの図書館位のものらしいですからね、きっと主人が変だから本棚まで変になっちゃったんですよ。ちなみに、私は常識人ですのでそこはお間違いのないようにお願いしますね。と、確かに他の方々のお宅では本棚は動かないそうですし。あの非常識な黒い悪魔の家ですらそうなのですから、それ以外のお宅ではまず動かないでしょう。それだけパチュリーさまの変度が高いっていうことなんでしょうけど、パチュリーさまの変度は一万点です」
「へぇ…」
 楽しそうにぺらぺらと言葉を繋げる彼女に、私は返事をしつつ考える。この子がコレなら、彼女にこれだけ言われ放題なパチュリーという人物は一体どれだけ変なのかしら?
 何はともあれ、それが事実だとしたら、この子はやっぱり異世界の住人ね。魔法だの、自分で逃げ出す本棚だのはこっちの世界にはいるはずがないもの。
「で、あなたはどこの異世界から来たの?」
 そんなことを考えた私はそう言って彼女を見つめた。異世界に関する情報を聞けるだけ集めよう、なんてったってこんなチャンスはそうそうないんだから!
「はい?」
 ところが、私の言葉に、彼女は小首を傾げ、問い返す。
「どこの異世界…って?ん…」

 きょろきょろ…ぱたぱた…羽根だの耳だのがせわしなく動いて…あ、止まった。

「えっと…つかぬ事をお伺いしますが…」
 すっかりころっと表情を変えて、愛想笑いを浮かべた彼女が口を開く。
「何かしら?」
 同じく笑顔で応対。
「ここは幻想郷のどこなんでしょうか?」
「幻想郷ってどこなんでしょうか?」

 ゆっくりと時が止まる、さっきの羽根はたきで払い落とされた塵が周囲に舞って、少し綺麗だった。

「ええええっ!?」
「わ、叫ぶな!警備員さんが来たら厄介なことになるからっ!!」
 しばしの沈黙の後に大声を上げた小悪魔の口を塞いで、もがもがと暴れる彼女をしっかりと押さえつける。ってあんま羽ばたくな!飛んでる飛んでるっ!!
 わ!高度を上げるな!頭上注意っ!!
   




「うう…」
「落ち着いた?」
 しばらくして、頭を押さえてうずくまる小悪魔を見ながら、私はため息をつく。こっちも頭が痛い、二重の意味で。
 ちなみに、彼女はじたばたと暴れた挙げ句に飛び上がり、見事に天井に頭をぶつけて落下した。私を下敷きにしやがったので、その衝撃は少ないだろう。
「なんとか」
「はぁ」
 涙目でこちらを見上げる彼女に、私はもう一度ため息。
 異世界に行くのを目的とする我が秘封倶楽部だけど、異世界からもののけを回収してくる趣味はなかった。図書館じゃ、悪魔の飼い方育て方なんて書いてる本はないだろうしなぁ…
「悪魔の食べ方は?筍に合うと嬉しいんだけど」
「あのねぇ…」
「わわわっ!?」
 しみじみと言うメリーの声に、慌ててしがみついてきた小悪魔の頭を撫でなる。へにゃっと羽根が垂れてくるのが可愛い。
 ついでに半分ばかり本気そうな目をしているメリーを睨む…ってよだれを垂らすな!もう、ますます怖がっちゃってるじゃない。
 それにしても、この子本当に悪魔なの?あ、それともこんなだから『小』悪魔なのかしら?
 ちなみに、当の小悪魔の方は、そんな私の視線を知ってか知らずか、言葉を続ける。
「うう美人薄命とはよく言ったものです、私みたいな可憐な乙女は、美しく咲き誇るその僅かな期間に摘み取られてしまうのが天の定めなのかもしれません。これは天が私を妬んだということなのですね、美しさとは可憐な私が持つ原罪といえるのかもしれません。物語ならここら辺で白馬にまたがった素敵な王子さまがやってくると思うのですけど、いかんせん私の王子さまというか王女さまは、馬に乗るどころか歩いて外にでるのすら億劫がるトンデモナイ引きこもりなので、こんな可愛い従者が今まさに生命の危機を迎えているというのにさっぱり助けに来てくれる見込みがありません。死んだら毎晩枕元に立ってやりましょう、ん…でも毎晩だとめんどくさいですね、一日おきくらいに…」
「それさっき聞いた」
「おっとそれは失礼いたしました。飛び出る言葉は戸板に水を流すが如し、雄弁なことをもってしては幻想郷に並ぶ者なしと言われる私としたことが失敗してしまいました、同じ流れるでもこれじゃ河童の川流れですね、ちなみにこないだ見かけたらホントに流れてました、川でお昼寝するのは極めて危険だと思うのですよ。さて、そんなことはさておき、同じ事をくどくどというのはパチュリーさまだけで十分ですので、私は言うべき事はすっきりさっぱりどどっとたっぷりわかりやすく言って、相手にぐーの音も…」

ぐ~

「ねぇ蓮子~お腹空いた~」
「あ、メリー…さっきからおとなしくしてると思ったら…」
 あらぬ音で気がつけば、メリーがいつの間にかこっちを物欲しげに見てる。こら、だからよだれたらすな。
「ううっ!ぐーの音を出させてしまいました。私の負けです、かくなる上は私も覚悟を決めて…」
 こっちもこっちで勝手に負けた気になってるし、あと何の覚悟を決める気よ…
「食べさせてくれるの?」
「はい、この小悪魔秘蔵のクッキーを…」
 うう…私のクッキーを…ふふふ、敗者は勝者の餌食になるのよとかやっているバカ二人を見ながら、私はふと思った。

 さすがは異世界のもののけ、メリーと波長が合うなんて…っていうか、異世界だとこっちと常識が異なるのかしら?
 この子の住む世界では、もしかするとメリーが常識的な人間になるのかも知れないわね。

「ねぇ蓮子~このクッキー美味しいよ?どういう配合した合成食料なのかしら?」
「へぇ…」
 思考が途切れた。
 メリーの差し出したクッキーを食べてみる…なるほど、不思議な味だ。確かにクッキーはクッキーなんだけど、なんかこう…いつも食べてるのと違う。色々と混じっているようなそんな味、いつもの合成クッキーを食べている身からすると、少し未完成な気がするけど、逆にそれが美味しい。
「これどっかで食べた記憶があるのよね…」
 と、私が思考に夢中になっていたら、メリーがぽつりと呟いた。クッキーのかけらはこぼさないようにね。
「ん~」
 悩むメリーを後目に、私は残るクッキーをぱくぱくと頬張る。甘いわねメリー、一つの事に集中するとまわりが見えなくなるのはあなたの悪い癖よ。
 何はともあれ、これの構成物質は…

「あっ!?」
「ああっ!!クッキー落ちた!!メリー急に叫ばないでよっ!!」
「ごめんごめ…って蓮子ほとんど全部食べちゃってるじゃない!食いしん坊っ!そんなんだから最近おなかが…」
「おなかが何よっ!メリーの方がぽっちゃりさんじゃない!!何よ、悪魔まで食べようとして、そのうちまんまるお月さまと間違えられても知らないから!」
「言ったわね!蓮子だって家にお蕎麦が三皿もあったじゃない!出石蕎麦は私も好きだったのに!半分位分けてくれたっていいじゃない!!」
「そっちだって部室の非常食三分の二も食べちゃってるでしょ!次の探索どうすんのよっ!!」
「残る三分の一食べたの蓮子でしょ!大体蓮子が遅刻するからお腹がすいて食べちゃって、その内こんな悪魔まで美味しそうに…に…あれ?」
「今日は遅刻してないし、そもそも自称悪魔を食べようとする思考に問題…あれ?あの子は?」

 不毛な大騒ぎを終え、周囲を見回してみると、あの子の姿がない。この騒ぎに紛れてどっかに…

「もう!蓮子は一つの事に注目すると他のことが見えなくなるんだから!」
 あんたにだけは言われたくないわ。
「あれ?あ!裂け目っ!?あそこから逃げたのねっ!!」
 いや、指さされても私見えないし。
「蓮子!あの子を追うわよ!あんな食材そうそう見つからないわ!!」
 だから悪魔は食べ物じゃないと何度言えば…
「蓮子が踏み台になって!私か弱いから!!」
 だから私は…
「か弱いに決まってるでしょ!!」

 私の渾身の一撃は、メリーを吹き飛ばす。極めて正当な制裁により、彼女は軽やかに宙を舞い、本棚に激突する。



「ふう、一仕事終えた後のクッキーは最高ね」
「蓮子の乱暴も…もももっ!?」
「え…ちょっと!」
 メリーの質量に、相応の速力が加わったのだろう。その巨大な運動エネルギーは、本棚を大傾斜させるに十分だった。
 大量の本を抱えたその巨大な物体は、ある一定限度を超えると急激に傾斜を増し、強大な衝撃と共に隣接する本棚を直撃する。
 同じく、その重さをもって直立する隣の本棚もその衝撃には耐えられない、たちまち安定を失い、転倒する。巨大な図書館に、それ以上に巨大な音が反響する。

「蓮子の馬鹿力っ!こんな軽い私の身体なのに、蓮子の馬鹿力で蹴り飛ばすもんだから本棚が…」
「メリーの質量が問題よっ!」
「蓮子の馬鹿力が…」
「メリー!光っ!警備員よっ!!」
「今はケンカしてる場合じゃないわね!」
「ええ、裏口に急ごう!」
「裏口の方にも詰め所があるわ、まだ警備員が詰めてる。でもこの時間なら一人よ!」
「何で知ってるのかは聞かないわ、近くの部屋に隠れて、駆けつけて来た人をやりすごそう。彼が詰め所に戻るまでの数分が勝負よ!」
「ええ!」



 激しい音と猛烈な埃、そして足元から伝わる振動の中、私達は普段の活動で鍛えた臨機応変の判断力と、高い運動能力、そして鉄の絆を頼りに、図書館からの脱出を図った。
 そう、こんな所で捕まっては、有為の人材である私達の未来が閉ざされてしまう。それは、人類社会の為には避けなければならないものであった。



「足音通過!」
「そろそろ視界外に消えるわ…今っ!」
 扉を開き、一気に駆ける!今宵の冒険はなかなかにスリルに溢れている、不気味な図書館と不思議な少女、最後は人生を賭けての図書館からの脱出だ。

 これだから…

「メリーと付き合うのは嫌なのよっ!!」
「何蓮子っ!聞こえない!!」
「要はあんたがトラブルメーカーってこと!」
「そんな楽しそうな顔して言われたって説得力ないわよっ!」
「だって楽しいんだもん!メリーと付き合ってると、もう大変で面白いことばっかり!嫌になっちゃうわ」
「もう、蓮子の理屈は理屈になってないわ」

 隣を走る友人と口げんかをしながら構内を駆け抜ける。ゴミを蹴飛ばし、小石につまずき、水たまりを飛び越える。
 人気のない通路へと駆け込んで、騒ぎが広まらない内に脱出するのだ。

「学外に出たら、呼吸を整えてゆっくり歩くのよ!」
「ええ、素知らぬ風を装いましょう」
 
 学外と構内を隔てる生け垣までもう少し、幸い外に人の気配はない。私達は、一気にそこを飛び越えた。













 あれから数分後、私達は暗い夜道をのんびりと歩いていた。所々消えている街灯が並んで光り、その真下だけをほのかに照らす。空には月は見えなくて、小さな足音だけが響いている。
 でも、そんな夜道の静けさの代わりに、大学の方にはパトカーのサイレンと、煌々とした灯りが確認できた。
 …不幸な事故の処理っていうのは大変ねぇ。

「あっ!そうよ!」
 その時、メリーがぽんと手を叩いた。軽い音が、暗闇に小さく反響した。
「あのクッキー…どこかで食べたと思ったら…あの紅い館で食べたのよ!」
「え?」
 うんうんと頷くメリーに私は視線を向けた。なんですと…?
「そういえばお茶とお菓子をご馳走してくれた子も羽根ついてたし…あの子とはちょっと違うけど…」
「じゃああの子を追いかけていれば、メリーの見た世界に…」
 呆然としながらも呟く私に、メリーは事も無げに答える。
「行けたかもしれないわねぇ。もっとも、あの子が私が夢で見た世界から来たのかはわからないし、あの裂け目が夢の世界に繋がってるかは分からない…大体蓮子の言ってる事をまるまる信じたわけじゃないんだからね。仮定が多すぎる上に選択肢はそれ以上に多い、これじゃあ何も言えないわ」
 お手上げ、といった表情で肩をすくめるメリーに、私は笑う。
「選択肢?そんなもの一つしかないじゃない」
「一つ?」
 首を傾げるメリーへと、私はこう言ってやった。
「あの子を追いかけるわよ。今度はメリーがもらった紅茶も一緒にご馳走にならないと…だって、私達は合計二員の秘封倶楽部。だからメリーばっかりご馳走になるのはずるい!!さぁ、私の家で作戦会議よっ!!」

 眠いの面倒だの言うメリーを引っ張って、私は家路を急ぐ。アパートにはメリーが『夢の世界』から持ってきた干からびた筍と、小さな紙切れがある…クッキーは既に食べられてしまったけれども。
 そう、あの子を…あの子の世界を探す手がかりはたくさんあるのだから。



『おしまい』









おまけ

「もう、パチュリーさま!変な世界に繋げないで下さい!!危うく人間に食べられちゃう所だったじゃないですか!」
「うるさいわね、神社にでも繋がっていたの?」
「違います違います!ここほどじゃないんですけど、本がたくさんある所に出口があって、そこに変な人間がいたんですよ!!見て下さいこのあざ!可憐な乙女になんてことを!!」
「…本がたくさん?」
「ええ、そりゃもう幻想郷に…いえ、幻想郷じゃないみたいですけど…我が図書館以外にあんなに本を置いてある所があるなんてびっくりです。そして重要なのはそこではなくてですね、この可愛い従者が危うく食べられそうになってクッキーを身代わりに命からがら逃げ出して来たという事で…」
「…小悪魔、紅茶とミルクを用意」
「は?」
「その図書館に『繋げる』わよ!あの隙間妖怪が出てくる前にその図書館から本を『借りて』きましょう。返せなくなるのは不可抗力よ」
「面倒だから嫌です、それに今度は本当に食べられちゃいそうな気がしますし。大体なんですかその黒い悪魔みたいな理屈!いくら本の為にはいかなる(他人の)犠牲を払う事も許容できるパチュリーさまとはいえ本を借りたままにしてくるなんて…」
「厨房に新作のケーキがあるわ、レミィの為に作っているみたいだけど、私がレミィに頼めば『快く』譲ってくれるでしょう。もしあなたが私の頼みに忠実なら…」
「この小悪魔、パチュリーさまの為には水火を辞さずに任務を達成する所存です。大義の為には少々の犠牲はやむをえませんね、はい」
「よろしい、まずは魔法陣を描かないと…小悪魔はあの時の転び方を思い出して、タイミングと倒れ方、どちらがずれても世界は繋がらないわ」
「はい!」



もう一度『おしまい』
尚、翌日メリーが真っ青になったりだとか、図書館の片づけ中に本棚が暴れ出して大パニックになったりだとか、そこにみょんな二人組が現れてますます大騒ぎになったりだとかいう出来事があったりなかったり。

さて、お付き合い頂きましてありがとうございます。かつてアッザム・de・ロイヤルと名乗っていた浜村ゆのつです。
ブログでは、大妖精奮闘記の続編と同時に…とか言っていたのですが、なかなか完成しないのでorz
ちなみに、アッザムの名前が嫌いになったのではなく、単に長すぎて色々と困った事があった為だったりします。いえ、大したことではないのですがorz
何はともあれ、お騒がせして申し訳ありませんでした。これからも、微力ながら全力で頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いします(平伏)

さて、本編ですが、最近秘封分が不足しているようなので(私見)補充の為に頑張ってみました。最初考えていたオチとは全く別な方向に飛んで行ったのは、きっとこぁとメリーのせいです。セリフを書き出すと、勝手に手が進んでいくんです、これは怪奇現象に違いないと力説しておきます。
そして、最初はほのぼのにする予定で書いていたのですが、途中でオチをまるまる入れ替えた結果、少し強引な構成になってしまったかもしれません。

ちなみに、以下は以前の日記から引っ張ってきたのですが(失礼orz)新PNの由来とかになります。
『浜村もゆのつ(温泉津)も山陰の温泉名で、お気に入りな場所です。景色も温泉もぽっかぽか、心も身体もきれいになれますよ?温泉津の集落は特に気に入っていたり…ぽかぽかしたSSを書きたいなぁ…という想いがあったりします。名前が変わってもあんまり内容は変わらないと思います。大妖精奮闘記の方も連載は継続します、要は名前が変わるだけと思って頂けましたら。あと、浜村名義で投稿したようなSSも、これからちょこちょこ書いていきたいなぁ…と思います』

私事ばかりで異様に長くなってしまい申し訳ありませんでした。それではまた次回。
浜村ゆのつ(旧称アッザム・de・ロイヤル)
http://www.rak2.jp/town/user/oogama23/
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コメント



0.1190簡易評価
5.80削除
このこぁは、反応が素直でかわいいと言うべきなのか、それともピンチに妙に余裕があって図太いというべきなのか?w

……ところで。これじゃあ、結局レポート書き上げられなかったのでは?
10.90名前が無い程度の能力削除
こあとメリーの掛け合い、最高ですね。文句のつけようがない。

>夜二人え来ると
dの脱打かと。
>パチュリーというのはこの子の主人
こあは蓮子のこの独白の前に一度もパチュリーという名前を出していません。(薄暗い大図書館の根暗な主人とは言っていますが)

あと『アッザムさんの書かれる大妖精奮闘記』には非常に強い思い入れがあるので、できればあのシリーズ(残り3つぐらい?)だけはアッザム名義で投下していただけないかなぁなどと思ったり…。(無理を言ってしまっていたらすみません、華麗にスルーして下さい)
15.無評価浜村ゆのつ(旧称アッザム・de・ロイヤル)削除
ご指摘ご感想ありがとうございましたw
…最近誤字等が増加してしまった気がしますorz
>>翼様
>このこぁは、反応が素直でかわいいと言うべきなのか、それともピンチに妙に余裕があって図太いというべきなのか?w
両方ですねww
>レポート
翌日メリーが真っ青になった理由はそれです。なんでも、図書館復旧の手伝いをすることで、期限を延ばしてもらったそうですよ?

>>名前が無い程度の能力様
申し訳ない、助かりました。あたふたしながら直ちに修正致しました。
こぁとメリーは、ええ、もう筆が勝手に(まだ言うか)お気に入りの二人です。
それと、奮闘記の件ですが、そんな風に言って頂けるとは感激です。併用すると、少しややこしくなってしまうかもしれないので『アッザム・de・ロイヤル(浜村ゆのつ)』で投稿させて頂こうかと。
余計なものがついてしまいますが、どうかこのあたりでご容赦下さい。突然のPN変更、申し訳ありませんでした。
奮闘記についてですが、入れようか迷っていた魔理沙後編が挫折しそうなので(平伏)アリス→紅魔館後編(完)になる予定です。
ご期待に添えるかどうかはわかりませんが、精一杯頑張りますので、どうかしばしの間お待ち下さいませ。
16.100名前が無い程度の能力削除
面白かったー!
18.70露鳩出煮郎削除
こあのしゃべくりが大好きですw クッキーうまそう
22.100SETH削除
てんしょんたけーふたり!

腕ぶんぶんふりまわす小悪魔に大興奮w
26.90ドライブ削除
メリーと小悪魔の掛け合い(漫才?)、面白いですね。天然大爆発な勢いが好きです。あと、こっそり登場していました「蝦蟇飼育セット」に愛を感じました。
27.無評価浜村ゆのつ削除
ご感想ありがとうございましたw

>二人目の名前が無い程度の能力様
ありがとうございます♪そう言って頂けますと嬉しいですw

>露鳩出煮郎様
私も食べたいですw

>SETH様
ある意味、幻想郷最強コンビだと思っていたりいなかったり。
少なくとも、書いていて一番楽しかったりしますw
蝦蟇飼育セットに突っ込まれたのがとても嬉しかったりします♪
>ドライブ様
天然大爆発ってwなるほど、上手いことを仰る♪
31.80ぐい井戸・御簾田削除
小悪魔がウザかわいすぐるwww
もし続きがあるならば、メリーとパッチュさんの絡みを是非!
32.無評価浜村ゆのつ削除
>ぐい井戸・御簾田様
ご感想ありがとうございますwメリーとパチュリーもやってみたいですねぇ。いつになるかはわからないのですがorz
33.100名前が無い程度の能力削除
面白かったー!この小悪魔のしゃべりが大好きです。
秘封倶楽部との掛け合いも良かった。是非パチェを加えた話を!
34.無評価蝦蟇口咬平削除
どっちも転んだらタダでは起きないタイプってことですね
35.無評価浜村ゆのつ削除
ご感想ありがとうございましたw
>三人目の名前が無い程度の能力様
こぁは書いていてとても楽しいですw
パチェと混ぜたら化学反応を起こしそうで怖いですがw完成させる事ができましたら投稿いたします~(できるかなorz)

>蝦蟇口咬平様
確かにw
意外としぶといのかもしれませんw