Coolier - 新生・東方創想話

相性の問題

2009/07/04 10:40:51
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「起きろ」

 ドスの利いた声が耳に届くと同時に、重たい一撃がこめかみに叩き込まれた。
 次に襲ってきたのは浮遊感、そこで彼女は目を開いた。見えるのは視界の上から下に流れていく風景、地面が左側に、空が右に見える。何時から世界はこんな妙チクリンな風景に変ったのか、いや、単に地平線に頭の先を向けてかっ飛んでいるだけだ。
 この風景を味わうのも一興だが、これ以上痛い思いをしたいと思うほどマゾ体質でもない。片手で高速移動する地面を掴む、そこを支点に体が一八〇度以上側転、足先が地面を捉える、と同時に地面を掴んだ手を放し更に二転三転と側転を繰り返し、適当に速度が落ちたところで地を蹴って跳躍、後方二回宙返り二回捻りで着地する。

「……10.0って感じですね」
「…………門番として0点。ご飯抜き」
「そんなご無体なぁっ!」

 呆れたと言わんばかりの表情で額に片手をやる少女、白いドレスに白い肌、豪奢な日傘を持つ姿は深窓のご令嬢と言われて誰もが納得するだろう。その背中に生える一対の悪魔の翼を見なければ。
 レミリア・スカーレット。夜の王、吸血鬼、スカーレットデビルの名を冠する生粋の化け物だ。そんな彼女の一撃を受けて目測一〇〇メートル以上蹴り飛ばされたのは、赤い髪が日の光に美しい大陸の民族衣装を身に纏った女性、紅美鈴。レミリアの住まい、紅魔館を守護するこれまた化け物の一人だ。
 しかし、齢十に届くか届かないか、といった風体のレミリアの足元に大の大人が縋り付く姿は、間抜けの一言に尽きる。

「まったく、朝から晩まで隙さえあればグーグーと。せめて人目がある時位は起きていろと」
「朝から晩まで年中無給で門前に立たされてるんですから、これくらいは役得ということで。それに、来訪者ならちゃんと対応しますって」
「はいはい」

 信じてませんねー、と声を上げる美鈴。
 無視するレミリア。

「それにしても、あいも変わらず無駄に頑丈ね。頭だけポーンっと行くつもりだったのに。朝だから調子が出ないのかしら?」
「朝っぱらから随分とスプラッターな光景ですね。末期の場が血の海というのは、遠慮したいものですね」
「あら、武人として屍山血河の末に果てる、かっこいいじゃないの」
「ただの血溜まりに沈んだ首なし死体じゃないですか。はぁ、でこんな時間に何用ですか。まだ日も昇って間もないですよ?」

 吸血鬼の伝承に漏れず、レミリアにとって日光は不倶戴天の敵。日傘があれば活動は出来るが、好き好んで昼間に起きて来るほど酔狂でもない。紅魔館の時計は昼夜完全逆転型なのだ。それなのに、わざわざ昼間に起きてきたという事は、それだけ大事な話が急ぎであるという事だろう。
 さて、火急の要件というと差し当たり思い当たるのは。

「ハンター、ですか?」
「察しがいいわね。まったく、派手に活動しているわけでもないんだ、放っておけというのに。闘争は嫌いじゃないが、弱いもの虐めは面白くない」
「まあ、人間にとっては人を襲う存在がいる、というだけで退治する理由になりますからね。どれ程の規模で?」
「一人」
「ほぇっ?」

 間の抜けた声を出す美鈴。それもそうだ、この館に住んでいるのは化け物の中でも特級クラスの化け物、吸血鬼だ。今まで幾つもの騎士、修道士の軍団が異端滅せよとやって来ても、その全て返り討ちに会わせてきた。その結果は人間達にも知られているはずだ。それなのに、わざわざ人間一人送り込んで何をしようというのか。

「神代の禁術使いとか、そんな感じのアレですか? それとも科学の申し子さんとか」
「可愛い女の子よ、まだ初潮も迎えて無さそうな」
「……生贄とか、迷子とかじゃなくてですか」
「違うわ、私の首を小さなお嬢さんが獲りにくるのよ。私の力は知っているでしょう?」
「そりゃ、まあ。私がここに雇われている理由でもありますから」

 レミリアの持つ運命を操る程度の能力は、時として未来すら予見する。
 彼女が、ハンターが来るというなら、それは運命なのだろう。

「そこで美鈴、命令よ。その娘を殺さず確保しなさい」

「お食事ですか?」
「まさか。無傷なら最良だけど、まあ、生きてればいいわ。死んでなきゃパチェが治してくれるでしょ。それじゃ、任せたわ」

 言いたいことだけ言って、さっさと館の中に引っ込むレミリア。
 残された美鈴は、一言、面倒くさいなぁと呟いた。

●●●●●●

 暗い森の中を少女が進む。ボロボロの黒い外套を身にまとい、元は美しく輝いていたのであろう銀の髪は、手入れがまったくされておらず、くすんだ色をしている。表情はまるで能面の如く、感情が一切読み取れない。ガラス球の様な瞳を真っ直ぐに向け、ただ黙々と森の中、かすかに見える館を目指して歩く。
 外套の中から水筒を掴んだ手が現れる、随分と華奢で、握れば折れてしまいそうな細指だった。水筒の中身を口に含み、少し休憩をとろうかと少女の歩みが止まった、その瞬間。

「本当に小娘ねぇ」
「――――っ!!」

 後ろを振り向く、そこには倒木に腰掛けた赤髪の女性が居た。
 感じる気配は人間、いや微弱だが妖気を感じる、人間の振りをしているだけだ。だが、それよりも一体何時の間にそこに現れたのだろうか。今さっき通った時は人の気配なんて微塵もしなかった。

「こんにちはお嬢さん、この先は怖い怖い妖怪の住処よ。キノコ狩りならもうちょっと麓で楽しみなさい」
「――――」
「……知らないおじさんとは一言も話しちゃ駄目よ、的な教育の賜物ですかね、この無反応っぷりは。まあ、いいですけど。では忠告です、大人しくここで引き返せ――」

 美鈴の言葉を遮って少女が動いた。手にはナイフ、それも食事に使うようなものではない。対人殺傷を目的として鍛えられた、無骨なコンバットナイフ。それを手に一直線に疾走、その姿を目にしても女性は動く気配が無い。彼女が妖怪ならば当然の余裕だろう、未発達な人間の行動だ、ナイフが彼女の肌を捉えるより早く少女の命を摘み取る事なんて、赤子の手を捻るようなもの。そう、少女がただの人間ならば、だ。

【カチ】

 外套の下で時計の針が動く音がした。その瞬間、少女の目に映る世界は変質した。色鮮やかだった風景はモノクロに、音は消え、肌に感じた風も無く、ありとあらゆるモノが静止した世界がただ広がる。宙に舞った土草はその場から動かず、目の前に座る女性の髪は風に揺らされた形のまま、まるで写真で風景を切り取ったかのような世界。そんな世界で、ただ一人、少女だけが時を刻んでいた。
 時間を操る程度の能力、それが少女に与えられた呪い。
人を一撫でで屠れる剛力を誇る怪人だろうが、目では捉える事が出来ない速さで動く人狼だろうと、一瞬で肉体を灰にする炎を吐く火竜だろうと、相手が何ものだろうが彼女には関係ない。停止した世界では、その全てが無意味だからだ。誰も彼女に触れられず、髪の毛一本毟り取る前に、その命を刈り取られる。それが少女と対峙した化け物の運命。
そして目の前の彼女も、そうなる運命だ。
ナイフを投げる、それも一本ではなく、二本、三本と外套の下に隠し持っていた種々のナイフが、少女の手を離れると同時に時を失い、空中に置き去りにされた。

【コチ】

 時計の針が再び動く。世界は色を取り戻し、時は正常にその針を刻む。そして時を止められたナイフ達が一斉に動き出す。突然、眼前に多数のナイフが出現、完全に虚を突かれた形だ。女性は一切の身動きをする事無く、驚きに目を見開いたまま、十数本のナイフをその身に受けた。
 ドサっと音を立てて女性が仰向けに倒れる。少女は死体に目もくれず、再び歩き出そうと踵を返す。

「痛いなぁ、もう」
「――ッ!!」
「嗚呼、一張羅が台無しに! 結構するものなのに。お、初めて感情を表に出したわね」

 信じられないという気持ちで硬直した表情で、少女は彼女を見る。
確かにナイフは全て刺さっている、ナイフは全て銀で加工した代物。退魔の力を持つこのナイフを十以上も受けて平気な化け物なんてこれまで居なかった。それなのに、目の前の女性はあっさり立ち上がると、刺さったナイフをヒョイヒョイと抜いていく。傷口は時間を巻き戻したかのようにすぐに塞がった。惨劇の名残は穴だらけになった大陸風の服と、若干の血痕だけ。それ以外は何事もなかったかのように、彼女は平然としている。
 少女はここに来て、初めて口を開いた。惨殺死体を作り上げようとした張本人とは思えない、鈴を転がしたような可愛らしい声だった。

「貴女、何?」
「何、と聞かれると返答に困るわね。まあ、その辺に居るちっぽけな妖怪よ」
「嘘」
「その辺信じる信じないは任せるわ。さてお嬢さん、いきなり襲われて殺されかけて、正直ムカついてるんだけど、心優しく慈悲深い妖怪さんからの警告よ。お帰りはあちら、これ以上館に近寄るつもりなら、番人として相応の対応をする事になるよ」


●●●●●●


 突然の奇襲に美鈴は内心舌を巻いていた。たった一人で吸血鬼狩りなんてするのだから、それなりの実力者だとは思ったが、中々どうしてかなりの逸材だ。向かってきたと思った次の瞬間には、目の前にナイフの雨、少女の姿は自分の後ろだ。一体どんな手品を使ったのやら。ご丁寧に得物は全て銀製、まっとうな妖怪なら瞬殺されるだろう。だが、生憎と相性が悪い。
 
「ほら、後ろから襲ったりしないから、ちゃっちゃと帰りなさい。それだけの技量なら、ほかに幾らでもハントして稼げるでしょ」

 レミリアから受けた命は生け捕りだが、正直な話、絶対に厄介事になる、と長年従者を務めてきた勘が訴えていた。そしてその面倒は自分へと降り注ぐのだ。だから「逃げちゃいました、てへ♪」で済ませようと美鈴は企んでいた。雇い主に対して忠誠心がないわけでもないが、自分から進んで厄介事を抱え込もうと思うほど、忠義に厚いわけでもない。
 しかし、少女は帰ろうとしない。こうなるといよいよ美鈴としても、本分を果たす事になる。これも運命かな、と立ち上がろうとして再び異変が襲った。眼前にナイフの群れ、いや全周囲を囲んでいる。まったく、あの小さな体の何処にこれだけの獲物を隠していたのか、これではまるでナイフの檻だ。突然空中に現れ、認識するより速く射出されるナイフ。その全てが着弾するよりも早く、美鈴は足を振り下ろした。
 爆薬が炸裂するような爆音と共に砂煙が巻き上がり、美鈴を中心とした衝撃波が巻き起こる。
 ナイフを全て叩き落し、美鈴は不敵に笑う。

「甘い甘い、どんな手品を使ってるのか知らないけれど、人間の子供の腕力で投げたナイフのスピードなんて、私にとっちゃそれ程恐ろしくもないわよ。流石に最初は虚を突かれたけど。それともう一つ、銀器は私には効かない。まあ普通のナイフよりは痛いけれど、それだけよ」

 これこそが、並の妖怪の筈の美鈴が、紅魔館の門番をやらされている理由。此れといって、弱点と呼べる物がないのだ。古今東西妖怪退治の話はあるが、その多くは弱点を突いたもの。かくいうレミリアも最強の存在だが日光に弱く、流水を渡れず、銀の杭を心臓に打たれれば退治される。そして人間はそうした弱点を突くのがうまい。貧弱な肉体のくせに受け継がれてきた知恵を武器に数多の妖怪を屠ってきた。
しかし、美鈴は違った。力は並、妖怪同士の争いが起きれば、ちょっとした実力者にあっさり殺されても不思議ではないと自認するレベル。しかし、一転して対人での争いとなるとこれほど厄介な妖怪も居ない。弱点が無い、ゆえに彼女を打倒するには純粋な実力で倒すしかないのだが、これが難しい。ただでさえ人より優れた身体能力を持つのに、彼女はその長い人生の大半を武術に費やし、人間が努力しただけでは、ちょっと辿り着けない領域にまで達している。
 だから彼女は紅魔館の門を任された。レミリアを討ちに来る多くの人間は、やはり妖怪退治の基本、弱点を突く事を良く心得ている。しかし、そこに立ち塞がるのは弱点を持たない妖怪。実力で撃破するには、あまりに高い壁を前に、数多の人間が打ち破られてきた。
何故美鈴に弱点と呼べる物が存在しないのか、それは彼女自身も知らない。忘れてしまった自分の正体に関係するのかもしれないが、特に興味は無い。館の居候が大層興味を抱いていて、隙あらば実験素材にしようと企んでいるのが目下の悩みだ。

「さて、最終通告といったとおり、ここから先、貴女を逃がしはしない。怨むなら、あなたにこんな依頼をした依頼人と、折角のチャンスを無駄にした自分の愚鈍さと、気まぐれなお嬢様を怨むのね」

 美鈴が動く、人間離れした瞬発力で一気に間合いをつめる。しかし、彼女の手が触れるより先に、少女の姿が消えて後ろに現れた。

(またか。一体全体どうなってるんだか。動いた気配が一切感じられない、超高速とかそんなレベルじゃない。文字通りに消えて現れている、まるでコマの抜けた連続写真ね。空間転移? それにしては力の流れが一切感じられないし、おっと)

 飛来するナイフを叩き落す。これ以外の攻撃手段を知らないのだろうか、少女の攻撃パターンは逃げてナイフ投げるだけの一辺倒、ナイフでの斬撃も、それ以外の武具を使う事もしない。

(まあ、最初の一合で殆どの妖怪は仕留められるでしょうし、襲い掛かられても余裕で逃げ回れる、わざわざ技を磨く必要性は無いっちゃ無いわね)

 強すぎる力は怠惰を生む。美鈴の主人、レミリアもその強力すぎる身体能力のみで他を圧倒する。技を磨く必要も、力を鍛える理由も無い。ただ与えられたモノを使う、それで十分だからだ。

「折角の才能も持ち腐れね。もっと技を磨いておけば、あるいは私程度瞬殺できたでしょうに」
 
 美鈴の速度が増す、人の目には残像が見える程度の速さ。それでも少女には届かない、飛んでくるナイフを叩き落とし、気弾を撃ち出すが全て外れる。舌打ち一つ、拳を振りかぶると地面に叩き込む、同時に気を放出、土煙を煙幕代わりに巻き上げる。手近な木を引っこ抜き、気を流し込んで破裂させる。全方位に木片が凄まじい速度で飛び散る。土煙で少女の姿は見えないが、気の流れで何処に居るのかは手に取るように分る。しかし、その流れはやはりぶつ切りになって、まったく別の場所に出現する。目隠しも無駄か。
 土煙が晴れる、少女が獲物を手に走ってくる。ナイフではない大振りの鉈に近い代物、形状から察するに、先端を重くしてある。あれなら少女の細腕で振るっても相応の威力を発揮するだろう。少女の姿が消えると同時に目の前に出現、既に鉈は振るわれている。狙いは首筋、刃先が皮膚を裂き、肉を断ち、骨を砕く寸前で止まった。

「くッ」
「捕まえ、っと」

 内気を高めて、首の筋肉を締め上げて鉈を受け止め、そのまま接近した少女を捕らえようとしたが、紙一重で逃げられた。血が吹き出る傷口に手を当てて、治癒能力を活性化、手を放すと傷は痕も残さず消えた。
しかし、どうにも埒が明かない、レミリア位桁違いの身体能力があれば、あるいは少女が逃げるより速く仕留めることも可能だろう、しかし、悲しいかな美鈴にはそこまでの力は無かった。中々に厄介な能力だ、攻め手がまったく通じない。そして少女の攻撃も今のところ自分に決定打を与えられない、千日手の様相を示してきた。
 そもそも少女は何故逃げないのか。現状自分を倒すのは不可能だと理解できている筈だ、それなのに何故逃げない。逃がすつもりは既に無いが、空間移動系の能力なら遠くに移動してしまえばいい。それなのに近くで出たり消えたりするだけで、ちょいと一歩踏み出せば容易に詰めれる距離から離れない。
このまま適当に相手をすれば、体力の違いで勝手に自滅するだろうが、それは何というか美しくない。何より妖怪としてのプライドも無い訳ではない

「仕方ない。少々癪だけど、小細工を使いますか」
「?」

 今までの激しい動きから一転、全身の力を抜いて美鈴は棒立ちになる。いぶかしんだ少女がその動きを止める。かかった、と内心ほくそ笑む。
 一歩踏み出す、今までどおりなら少女はこちらの手が届くより速く、圏外へ逃げただろう。しかし、今、少女の首筋が目の前にある、そこ目掛けて手刀を優しく、頚椎を折らないように、首を跳ね飛ばさないように落とす。

「あ――」
「よいしょっと。ふむ、こうなると中々愛くるしい顔立ちで……摘み食いしたら怒られますかね? とりあえずは任務完了っと。そろそろご飯の時間だな~♪」

 気を失った少女の体を担ぎ上げると、美鈴は足取り軽やかに紅魔館へと帰っていった。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「こうして哀れ薄幸の美少女は極悪中華怪人に攫われ、悪魔の館へと連れ込まれてしまったのでした、おしまい」
「…………何割嘘だよ」
「お言葉ね、何でここに居るのかって聞くから話してあげたのに」

 紅魔館の図書館。本来静かな筈のそこで、華やかなお茶会が開かれていた。
 参加者は図書館の主、館のメイド長、そして招かれざるお客人だ。

「いやいや、だってアレだろ、門番にお前が負けたって言われてもなんかなぁ。レミリアにやられたって言われた方が、断然説得力があるってもんだ」

 うんうんと頷き、咲夜の淹れたお茶を啜る魔理沙。
 事の発端はいつも通りに、魔理沙が図書館に本を借りに来て、図書館で一悶着起こした後に、喉が渇いたとお茶を要求。そのまま何だかんだで、お茶会という流れとなった。そこで魔理沙が、茶飲み話に咲夜が何故に人外だらけのこの館で働いているのかを尋ねた結果が、今までの話である。

「それじゃ、今度からはお嬢様にやられたって事にするわ」
「おいおい、それじゃあ今までの話はなんなんだよ」
「冗談よ。兎に角、私が美鈴にやられて、この館に連れてこられたのは残念な事に事実よ。嘘だと思うのは貴女の勝手」
「アイツが、お前にねぇ」

 いまだ信じられないといった感じで、お茶請けのクッキーを齧る魔理沙。そこで、今まで魔道書から顔を離さなかったパチュリーが口を開いた。

「相性の問題ね。弾幕ごっこなら、咲夜が圧倒するけど、生憎と純粋な戦いになると圧倒的に分が悪いのよ」
「私はどうしても火力が足りませんから。癪ですが、美鈴との相性は最悪ですね。いくら手数で補っても、馬鹿みたいに回復力が高くて、決定打になりえない。流石に彼女相手に肉弾戦を仕掛けるほど間抜けでもありませんし」

 紅魔館で働くようになって数年、その間に何度雪辱戦を挑んだか忘れてしまったが、未だ弾幕じゃない戦いでは遅れをとる。
 完璧を自称する身としては、ぜひとも払拭したい汚点だ。

「そういうもんか。ところで一つ気になってるんだけど、最後のって一体なんだ? なんか、目の前に居たらいきなり後ろに回りこまれたってやつ」
「それが、私も良く分らないのよね。私の時間停止みたいな感じで、こう」

 魔理沙の目の前から時間を操作、背後へ回り込んで手刀を当てる。

「物凄いスピードで背後に回った、じゃないの?」
「いえ、お嬢様ならいざ知らず、美鈴の動きは反応できないほどでは」

 正体不明の美鈴の動きをあーじゃないかこーじゃないかと論じていると、話題の中心人物、美鈴が工具箱片手に現れた。

「パチュリー様、本棚の増築終わりましたので、私はこれで」
「丁度良い所に来たわ」
「はい?」

 三人と同じ机に着き、お茶を啜りながら今までの話の流れを聞かされた。

「で、だ。美鈴、結局何をしたんだ」
「う~ん、実際に見たほうがはやいかな。ちょっと立って」

 魔理沙を立たせると、適当な距離を開けて美鈴も棒立ちになる。
 いいですか、と美鈴。おう、と頷く魔理沙。
 美鈴の動きを見逃さないように、目をしっかり見開いて、突然目の前に美鈴の顔がアップで現れた。

「うひゃぁっ!!」
「おや、随分可愛らしい声」
「なななな、何だ今の」
「……妙な動きね。まるで咲夜の動きを見てるみたいだわ。何かしらの術が働いた形跡がないけど」
「魔法やその他術式ではなく、これは立派に武術の技法でして、無拍子って言います。因みに仕掛けは内緒です」
「案外、簡単に真似できるとか?」
「これが簡単に真似できるなら、世の武術家は片っ端から能無しって事になるわよ」

 相手に察知される事なくこちらの攻撃を決める事ができるのだ。この技法、武術の到達点といっても過言ではない。

「……破る手段は、無いのかしら?」
「さて、如何でしょうね?」

 これも秘密ですよ~と言わんばかりの美鈴の表情。
 咲夜はムッとした表情で、ナイフを投げる。
視線を向けずに指で挟んで止める美鈴。

「ねえ。前に挑んでから、どれ位経つかしら」
「確か二ヵ月くらいじゃないですかね。おや、久しぶりに?」
「ええ、今度こそ土の味を教えてあげるわ」
「勝利の美酒も飲み飽きてきた頃ですし、違う味もそろそろ味わいたいものです」

 挑発的な視線がぶつかり合う。
 咲夜が美鈴を打倒したかどうかは、また別のお話。
美鈴はズボン
咲夜さんは香霖堂仕様のロンスカ
これがジャスティス

※7/4誤字修正 ご指摘ありがとうございます
※7/5ご指摘の部分修正 添削ありがとうございます
木偶の坊
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コメント



0.2210簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
美鈴はズボンにノーパンだろjk
8.60Shet削除
バトルものとして読ませていただきました。違和感を感じた箇所を書いておきます。
・コンバットナイフは現代の軍用ナイフなので、銀製で退魔用というファンタジー設定とあまりなじまない。
・獲物は全て~→得物は全て~の誤字? (得物:得意とする武器)
・無拍子の術理については、もう少し説明してほしかった。時間停止という反則的能力を上回る技というならそれだけの理由が知りたい。
12.80名前が無い程度の能力削除
幻想郷の連中なら新月面だろうが後方抱え込み三回宙返りだろうが余裕だな
20.90名前が無い程度の能力削除
かったるい理屈や講釈もなく読みやすかったです、納得のいく美鈴対人戦力だw
24.80名前が無い程度の能力削除
>俄然説得力があるってもんだ

俄然の意味が違うっぽいかも
いきなりって意味だったよね?
たぶん断然が正解

>ヒョイヒョイト
ヒョイヒョイと
25.100名前が無い程度の能力削除
結構ありがちな話だけれど、良かったと思います。

無拍子のことについて書いて欲しいと言ってる人がいるけれど、ググればそれなりに出てくるし……
第一武術に精通してるか現在進行形で柔術でもやってない限りは説明できないし……何よりわざわざSS上でやる必要も無いでしょ、ジャンルが変わるし
逆に入ったら入ったで読みにくい
28.100名前が無い程度の能力削除
>美鈴はズボン
よし100点だ
35.100クロスケ削除
凄いです。文のリズムがとても良くて、どんどん読まされてしまいました。
何と言うか、詳しく描写する部分とさらっと流す部分の使い分けがとても上手くて物語にどんどん惹き込まれました。
そして、段々盛り上がって来て『これから』というところでの『無拍子』によるあまりにも唐突な決着。
見事にタイミングを外されしまって、なんかもう清々い気分になりました。
腹八分目というか、物足りなさが心地良い作品でした。

コメントついでに、気になった表現を幾つか指摘させて下さい。

>次に襲ってきたのは浮遊感、~単に地平線に頭を先を向けてかっ飛んでいるだけだ。
→『頭の先を』
>この風景を味わうのも一興だが、~地を蹴って跳躍、後方ニ回宙返り二回捻りで着地する。
→『二回宙返り』(細かいですが、一個目の2がカタカナのニになってます。)
>「……10.0って感じですね」
そうか………十点満点の採点票は幻想入りしてしまったのか……次回は是非幻後ろ飛び捻り二回半宙返り転をお願いs(閑話休題。
>吸血鬼の伝承に漏れず、~それだけ大事な話しが急ぎであるという事だろう。
→『話』と、送り仮名はいらないかと。
>間の抜けた声を出す美鈴。~吸血鬼だ。今まで幾つもの騎士、修道士の軍団が異端滅せよと襲いかかっては、返り討ちに会わせてきた。
→二文目の主語が、文の途中で入れ替わってますよ。『異端滅せよと襲いかかってきた修道士の軍団を』又は
 『返り討ちに会って来た』と、少し文を整理する必要があるかと。
>「こんにちわお嬢さん、~
今のところ、『こんにちは』と表記するのが正しい筈です。
>美鈴が動く、人間離れした瞬発力で一気に間合いつめる、
→『間合いを』(ちょっとカタコトになっていて読み難いと思うので。)

長々と失礼しました。次回(あるのかな?)も楽しみにしています。
42.100名前が無い程度の能力削除
>咲夜さんは香霖堂仕様のロンスカ
お前とはうまい酒が飲めそうだ
46.100名前が無い程度の能力削除
>美鈴はズボン
わかっていらっしゃるw