Coolier - 新生・東方創想話

死んだふり (1)

2006/01/03 09:07:15
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主要な登場人妖

 ○地上の兎
  因幡 てゐ(いなば てゐ)
  Tewi Inaba

  種族:妖怪兎
  能力:人間を幸運にする程度の能力

  なんの因果か、たまたま兎だったばっかりに妙なヒトタチと寝食を共にする破目になった
  妖怪兎。一応、「飼われている」ということになるはずだが、そんな事はあまり気にせず
  のんびり適当に生きている。健康第一で。

  仕事(らしき事)は、永遠亭近くで迷った者をうまく追いかえす役。


 ○狂気の月の兎
  鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・イナバ)
  Reisen Udongein Inaba

  種族:月の兎
  能力:狂気を操る程度の能力

  月から逃げてきた兎。

  どうやら情勢判断能力に重大な欠陥があるらしく、まわりが唖然呆然となるとんでもない
  選択肢を採る傾向がある。
  結果、だれも予測できない運命に遭遇しがちだ。

  ずいぶん長い間、永遠亭ではよそ者的立場だったが
  最近見直され、可愛がられるようになった。


 ○月の頭脳
  (八意) 永琳(やごころ えいりん)
  Eirin Yagokoro

  種族:月人
  能力:あらゆる薬を作る程度の能力。天才。

  八意 永琳、職業 薬師。

  輝夜のため、良かれと思い、蓬莱の薬を作成し、使者を消して逃亡を助け、永遠亭を築き…
  それで事態が良い方向に向かっているかと言うと、そうとも言い切れず、ただただ
  エスカレーションを続けているだけであるような気がしないでもない。


 ○永遠と須臾の罪人
  蓬莱山 輝夜(ほうらいさん かぐや)
  Kaguya Houraisan

  種族:月人
  能力:永遠と須臾を操る程度の能力

  「でもね、もしそれが上手く行ったとしても、あんたは幸せにはなれないかもしれないよ」*1


「結局うまくいかなかったですね、かれらの計画は」
「ええ、かわいそうにね」

 月の兎の有志による地上進攻作戦は、全然成功しなかった。
多くはこの作戦を冷ややかに見ていたのだけれど、期待していた者もいくばくかはいた。
もはや何処へも行けない袋小路に迷い込んだような私達に、新たな道を示してくれるので
はないかと。何十年にも渡って続くこの膠着状態を打ち破ってくれるのではないかと。
 でも何も変わらなかった。雰囲気が悪くなっただけだった。

 地上人が月にやって来て、このままでは争いになるのが必至だという状況の中、政府と
して採った策は「裏側」への疎開だった。
 この対応の評判は非常に悪い。まだ一戦もしないうちに逃げ出すというのは気持ちのよ
い事ではないし、あまりに敗北主義的であるとの批判が強かった。
 それでも疎開は結果的に上手くいった。住みなれた地を離れるものの移住の後のことに
万全を尽くしたのはもちろんだが、成功の根本要因は、移り住まねばならない者の数が少
なかったということに尽きる。
 何時の頃からか地上への干渉をやらなくなってのち、わざわざこちら側に住む理由はな
い上に、もともと大掛かりなことができない「表側」の事情もあり、月の上に住むものの
生活の中心は既に「裏側」にあったのである。

 もちろん、納得しなかった者もいる。
 あくまでも表側に留まり、徹底的に戦うことを主張した者達は月の都を見下ろす小高い
丘に陣を張って、来るべき地上人との戦いに備えた。
 そういう者達にとっては気の毒な事に、地上人は攻めてこなかった。全然来なかった。
ある時を境にぱったりと誰も様子を見に来なくなって、そのまま数十年が経過してしまった。
地上人との戦いの難しさはここにある。つまり、始まってもいない戦いを終わらせる事は
なかなかできないのだ。
 憂国の義勇軍が反政府ゲリラになってしまい、次々と同士が去って行き、忘れ去られよ
うとする中で大逆転を狙った大バクチが例の作戦だが、それも叶わぬ夢だったようである。

「それにしてもかれらは、なぜわざわざ『レイセン』なんて忘れられかけた者の名を持ち
 出したんでしょうね?」
「さあ? 間は悪いけれど、悪人ではないし、割と周りから好かれたらしいとは聞いてい
 るけど…。やはり、いちばん最初に去った者であるという所に原因があるのでは?」

 かれらが立ち上がって自ら思う所を述べ、共に戦う仲間を募った時「呼び掛ける対象」
だったのが、この『レイセン』なるものだった。かれらの声明は、月の兎の間で広く通用
する「波動」を用いて月の上中に発信されたのだけれど、「レイセンって、誰?」という
のが大方の感想であった。
 しばらくして、『レイセン』というのは、地上人がやって来た騒動の時にいなくなった
月の兎の事であると判明した。武官の一人だったのである。
 上を下への大混乱の中で、朝令暮改な命令・指示の数々やら、ひたすらうろたえる上司
やら、ヒステリックに叫ぶ同僚やらを目の当たりにして、とても戦いにはならないと絶望
して去って行った者だった。
 このレイセンなる月の兎と、その後に官を去っていった者達との決定的な違いは、どう
してかは分からないが、なぜか「地上にむかって逃げた」という事だ。
 可愛そうだけれどもうこの世のものではないだろうと言うのが一般的な見方である。
 その日は満月ではなかったから。


   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――

月が出ていた。
満月の夜はとっくに過ぎてしまっていて、日毎に少しずつ欠けを増しながら、今日もまた
月は西へと渡り逝く。

「きょうも月が綺麗だねぇ」
「てゐ?」
「こんなところにいたんだ。
 そろそろ戻った方がいいんじゃあないの? 永琳様も探していたみたいだよ?





 エモノをねらう目で」
「…それは、戻れと言ってるの? それとも戻るなと言っているの?」
「さあ? 隣、いい?」

薄の穂が風に揺れていた。

「…黙って出て行かないで、よかったよね?」
「…そうね。てゐには、感謝しないといけないわね。
 ありがとう」
「えへー」

寝耳に水だった、突然の月からの知らせ。
それを受けて、これ以上師匠や、姫や、永遠亭の兎達に迷惑をかけまいと
こっそりとここを去ろうとしたのだけれど。

あっという間にバレた。

てゐには私がどういう道を通って、何処へ行こうとしているのかまで
手に取るように分かったらしい。
すぐに見つけられ、言いくるめられ(私の手はみんな読まれてしまっているようだった)
師匠と姫の前に引き出されて、一から十まで説明する羽目になった。

これで何もかも終わりだと思った。
今も隠れ住み、逃亡中の師匠と姫にとって、現在の月の上の事などどうでもいいことに
違いなかったし、居候の兎がひとりいなくなった所でどうということはない。
せいぜい「あらそう。あなたの好きなようにすればいいじゃない」とでも言われて
放り出されるだろう。
あるいは、居所の秘密を守るために「消される」か?
そのどちらかだろう。そう思っていたら。

「月には返さない」

と。


幻想郷中を巻き込む大騒ぎをやった後、こそこそと隠れ住む必要なんかなかったことが判
明して、張り詰めていた空気が緩み、今は慰労のための宴の真っ最中なのだった。
『全面戦争』の顛末が気にならないでもなかったが、あれ以来『波動』がさっぱり来なく
なってしまったので、本当の所は分からないけれど、けっきょく戦争はなかったのだろう
と考えるほかない。
もし実際に戦いがあったとすれば、あまりにも静か過ぎるから。


座敷に戻ってみると、案のじょうひどい有様だった。
興が乗ると、ここの人達は一晩中飲み明かす。
問題は、一晩というのが三百三十時間以上あることで、こういう時だけ千年以上前の
月の慣習を持ち出されるのは正直迷惑なのだけれど、私達に抗う術はないのだった。
酔いつぶれた兎たちと、無秩序にちらかった酒の空瓶のむこうに
師匠と姫の姿があった。完全に酔ってる…。

「あら、遅かったわね、ウドンゲ?
 …まあいいわ、ちょっとここにきなさい」
「は、はあ…」
「きょうはあなたも少しは飲みなさい」
「は、はあ…」
お酒が注がれる。瓶にラベルがあるので、ふつうのお酒らしい。
今の段階では、まだ。
盃がドンブリのように見えるけれど、気にしてはダメだ。
「ほら、ぐっと一気にいきなさい」
一口、口に含…むはっ…!!
「……!!
 …すごく、強いお酒みたいですけど…」
「そんなのはまだ序の口よ?さ、空けちゃいなさい」
…飲むしか、ない。
いっそのことこの一杯でつぶれて気を失ってしまえば、これ以上苛まれなくてもいいかも
しれないと、儚い望みを抱きつつ流しこむ。
「そういえば、前から気になってはいたのだけれど…
 あなた、今いくつなのかしら?」
「ぶハッ、げほっ、ごほっ、……!!」
「…修行がたりないわよ」
「…とつぜん何を言い出すんですか…?」
「患者の年齢を押さえておくのは、ただしい処方の基礎なのよ」
師匠、患者と言うのは実験台の間違いじゃあないんですか? それに今までだって、私の
年齢なんて知らなかったのに、いろいろと盛られた気がするんですが?
…と、はっきり口に出して言えないのが、師匠の弟子兼永遠亭の居候の泣きどころ。
自分の年なんて、思い出したくもないのだけれど…。
ふと周りを見ると、てゐも姫も興味津々で聞き耳を立てている。
味方は一人もいないみたいだった。
「…笑わないでくださいよ?
 ええっと…ここの暦と月の暦はずれているから……。
 私が地上に降りたのが、地上の暦で1970年だから、それがあそこでは
 いっせん…」
「一千!?」

   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――
主要ではない登場人妖


○上山羊 嗣春(かみやぎ つぐはる) 
種族:月の兎
能力:座っているだけで存在感があるような気がする程度の能力

月の兎には通常姓がなく、それというのも兎の間にはそういう習慣がないからで、姓を名
乗るのは異例中の異例。
なぜこんな意味不明の姓を用いているかというと、当時の皇から貰ったからで、
「あすからこれを使うといいよ」と、いきなり下されたもの。
これが先例となって、月の兎も姓を名乗ってもよくなった。(ただし追従者はゼロ)

そんな訳で、とくにすぐれた能力が有るとかそう言う事は全然ないけれど、代々長老格に
納まっている。

子が一人(上山羊 葉摘)いる。

○上山羊 葉摘(かみやぎ はつみ) 
種族:――――
能力:片田舎で店を営む程度の能力

空き地で店を建て、バーを始めた。
いつのまにか最も古株の住人である。
健康の為に酒は飲みません。





 月の都は現在人口二十人余り。ほとんど何もないところだ。
 かつてあった役所が片っ端から引っ越してしまい、わずかな居残り人員ばかりがここの
住人である。その彼らも単身赴任の身で、任期が終われば去っていく。 
 そもそも、なぜこの都を捨て去らねばならなかったのだろう?
 地上人が侵略しにやって来た場合、月の表側にいても裏側でも大した違いはないのでは
ないか、という見解が昔からある。地上人と徹底的に戦うべきだという人々が、結果的に
分離され囲い込まれて月の上で共存できるという効果はあったが、そのためだけに多額の
費用をかけてまで民族大移動を敢行しなければならなかったのだろうか。

「空気が薄いんだ。あそこは」一人の老官吏が、しみじみ語るのを聞いたことがある。
「なにものかの気配をふと感じるんだ。この世のものではない何か、だ」

「出る」のだ。




「やっと終わったよ…」
「大変だったみたいですね。でもまあ、これで最後でしょうから…」
「そうだ。そう有って欲しいものだよ。
 …しかし何で僕の代になって、こうも厄介事ばかり続くのかねえ…?」

 この都の村長であるところの(村長のほかにふさわしい言葉はないように思う)白ヒゲ
の月の兎はしみじみと語るのだった。
 そのヒゲと銀縁の眼鏡のおかげでさっぱり年齢不詳なこの紳士は、別にどこかの官庁の
長というわけではないが、なんとなく『村長』の椅子に収まっている。
 彼をこの都に招いた政府高官の狙いは、兎が大部分を占める「反政府のみなさん」との
橋渡し役となってほしいと言う事だったようだ。このひとは兎の長老格なのである。全然
そんな風には見えないのだが。
 
「ところで、かれらは思いがけないものを見つけ出してしまったみたいですね」
「ああ、いなくなった兎のこと?」
「いなくなった姫君のことです」
「……。
 どうしてそう思うんだろう?」
「かれらは失敗しましたね? 地上にたどり着けなかった。全滅したのではなく。
 つまり、地上にいる何者かがかれらの作戦を事前に知って、妨害した。
 地上でかれらの計画を掴むには、『波動』を捉えるしか方法がなかった筈です。兎の間
 でしか通じない…。地上に行った月の兎なんてほとんどいないですよ。
 加えて妨害した方法です。どうやったのかは分からないですが、腐ってもかつては軍を
 担った連中をあしらったんですから、相当な実力の有る者でしょう。
 そんな事が出来るものは限られる。まず、地上人ではないでしょう。殺さないで追いか
 えす理由がないし、だいいち方法が彼等の流儀じゃない。
 いなくなった本人というのも考えづらい。そこまでの力があるようには思えないし、対
 応が不自然です。呼び掛けに応じて帰ってくるなり、無視して逃げるなりすれば良かっ
 たのに。――かれらには居所はおろか、生死も分かっていたとは思えませんし…。
 結局、いなくなった兎がいなくなった姫たちの所に行き着いて、共にいるのだと考える
 のがいちばん自然じゃないですか?」
「…当たり。みつけたご当人達にもよく分かってなかったけどね。
 とっくに死んでいるものと思って『レイセン』の名を出したと言っていたよ。
 それで、連中、日本を目指して降りようとしたらしい…」
「日本、ですか…」
「そう。直接ワシントンやニューヨークを叩くのは避けたらしいが、完全に裏目に出た。
 入ってはいけない場所に踏み込んでしまったんだ」
「で、どうするんですか? あちらでどの程度事態を把握しているのかは分かりませんが
 かれらの言を真に受けたんだとしたら、大きく情勢を誤解しているはずですよ」
「どうしようもない。帰ってくるつもりがない事ははっきりしているのだから、そっとし
 ておくより仕方がないよ。我々はそこに踏み入る立場にないからね…」

   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――

「一千!?」
「あっ…!」









「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」

八月。旅に出た。
二度とここに戻ることはないだろうという予感を抱きながら。
そう、捨てた。   を。




九月。父が消えた。

その後を継いだものはいない。


   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――

「どうしてあなた方は、そうまでして『あの父娘』に係わるまいとするんです?

 …自殺だったから、ですか?」
「そうだよ。自ら命を絶つほかに、そこから抜け出す方法はなかったんだよ、姫にとって。
 だけど、それを認めることが出来なかった者がいた…」
「『蓬莱の薬』ですね」
「そう。あれは毒薬の婉曲表現なんだ。
 あるはずがない道を探し当てて突き進んだんだ、あの人は。
 …だから実のところ、不老不死だとか永遠の命だとかはどうだっていい事だったんだと
 思うね。とりあえず時間を稼ぐことが必要だったんだ。」
 …結果は悲惨なものだったけれど。結局のところ、三人ともに生きてここを出ることは
 出来なかった。子は去り、父は消えた。
 この父娘を巡る物語は、その時点で終わっているんだよ。父の死によって。
 あとは我々の、後始末のための歴史だ。もう違うゲームなんだよ。それは。
 今更、『あなたたちの問題の根源を成していた人は死にました。さあお帰りください』
 とでも言いに行くのかい? つまらない事だよ、それは」
「…いくつかお聞きしたい事があります。
 まず、姫が死を決意するまでに到った原因は何なのか。
 そして、八意永琳と言う人は、どういう立場にあったのか。
 それと、『あなた方』が、どういう形で係わっていたのか…」
「ひとつめの問いだけど、それに答える事は僕にはできない。ご本人達にしか分からない
 種類のことだ。だけどごく個人的なことだ、とは言える。何らかの陰謀に巻き込まれた
 とか、そういう事ではないよ。そもそも女子に位を継ぐ資格はなかったんだから。
 立場の問題とか、周りの思惑なんかが話をややこしくしたのは間違いないが、突き詰め
 れば父と子の問題に行き着く。

「二つ目は、……
 君にはもう見当がついていると思うけど、養子だよ。つまり姫にとっては姉に当たる。
 薬師の家系のものがなぜ養女になったのか、理由はあるけれど…
 まあ、会って見れば分かるんじゃないのかな? 行ってみるつもりなんだろう?
 つまり、こういうことなんだ。親としては、この娘を薬師にしたくなかった。

「最後に、我々がどういう形で係わっているかということだけれど。
 姫が流された事について抗議をしたのが、ウチの家祖だった。それが始まりだ。
 本当の意味でこの件に関して申し述べたのは一人だけだったんだよ。
 …祟りだとか、焦点のぼけた事を言い出した者は腐るほどいたけど。
 許す事が出来なかったんだよ、そんな無法な事は。
 なにしろ前の職が死刑執行人だったからね」

   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――

「それで、やっぱり行くのかい? 僕としては、行ってくれると助かるのは事実なんだが、
 下手をすると君の命が危ないし、けっきょくたどり着けなくて、ムダ骨に終わってしま
 うかも知れないよ」
「見つからなかったら帰ってきますよ、大晦日はここで送りたいですし。それに、命の件
 も大丈夫だと思います。現にひとりは生きているみたいですし…」
「そう。
 なら行ってきたらいいよ。下にいるのに、下りるからと伝えておく。
 …昔は砂金でも渡しておけば済んだ話なんだけどね。今やったらアジア系テロリストだ」
「…あなたがいなくなると、ここも寂しくなるね」

「一緒に行ってきたら? ハツミちゃん」
「は?」
「あそこはいい所だよ。こんな流刑地みたいな所に篭ってばかりいないで、たまには羽を
 のばしてくるのもいいものさ。この店はその間、僕が見ておくよ。
 …なにも仕事がないんだよ、今は」
「ええ、では、まあ、二人で?」
「地上に行ったら、迎えに出てくる彼――謎の東洋人だよ――によろしく言っといて」

   ――――――― * ―――― * ―――― * ―――――――

「こんばんは、呼ばれて飲みに来ましたよ、先生?」
「いらっしゃい、反乱くん」
「…その呼び方は止めてくださいよ」
「だいたい長く頑張り過ぎなんだよ、君らは。おかげで藪から蛇をつつき出したし」
「そのことについては申し訳なかったですけど…。でも、いつかはこんな事になると考え
 ていたんでしょう?」
「まあね。で、何にする?」
「最初は、とりあえずビール二本ぐらいで、いっしょに飲みましょうか」
「はい、これね」
「…なんだかすごく手際がいいですね。この店を手伝った事なんてないでしょう?」
「ここの主の整理が良いんだよ。いつでも綺麗に揃えてある。

 彼は死ぬから」










*1 「でもね、もしそれが上手く行ったとしても、あんたは幸せにはなれないかもしれないよ」

 ――村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』





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