ある朝、霧雨魔理沙が何か気掛かりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大なカエルに変わっているのを発見した。
「うおおおお! なんだこりゃああああ!」
彼女は叫んで、両手を目の前に掲げた。
温泉の美肌効果でつるつるのはずの肌は、正体不明の液体に濡れて、てらてらと輝く緑色の皮膚に変わっている。
指先には、丁寧に手入れしてきたはずの爪が見当たらず、代わりに天井にも貼り付けそうな吸盤が付いていた。
「ふざけんな! こんな馬鹿なことがあってたまるかあああ!」
ベットのスプリングのせいか、新たに得た後足の成果か、魔理沙はひとっとびで姿見の前に着地した。
そして、彼女は鏡を見た。
いつもなら野の花を思わせる可憐な少女がいるはずのその中に、蛙が居た。
頭のてっぺんからつま先まで蛙である。
口は妖精程度なら丸のみにできそうなほど大きく、両眼はどうしてこれで正面が見えるのか不思議なほど左右に間隔が開いていた。
これを蛙以外の生物と認識するには相当な努力が必要だろう。
魔理沙は右手を上げてみる。鏡の中の蛙が左前足を上げた。
そのまま上げた手で頬を掻いてみる。鏡の中の蛙もそのまま頬のあたりを掻いた。
「嘘だろ……」
そのような試みを小一時間も続けた後、ようやく魔理沙は鏡の中の蛙の姿が間違いなく己であることを受け入れた。
「畜生っ……! なんでこんなことに……! 畜生!」
両手の吸盤を鏡面に貼り付け、ずるずると崩れ落ちながら、魔理沙は絶句する。
だが、その言葉はまさに自分に向けられるものじゃないか、と彼女は自嘲しかける。
しかし魔法使いが蛙にされるなどという笑えない事実をもって、それは相殺された。
まず魔理沙が考えたことは、これが一時的な現象ではないとした場合、自分にこの先どのような未来が待ち受けているかについてだった。
霊夢に化け蛙と間違えられて退治されそうになる。
永琳に実験材料にされそうになる。
チルノに氷付けにされそうになる。
文の新聞の一面を飾って皆から嘲笑される。
さとりに捕まってこいしのペットにされる。
どう考えても碌な未来じゃなかった。
どんな手段を使っても現状を打破しなければならない、と彼女はありもしない臍を固める。
ならば次に考えるべきは原因であろう。
原因を探求することは、目的を追求することと同意である。
魔理沙はこのようなことをやりかねない人間や妖怪を心の中でリストアップしてみたが、その途方もないことに気づき、考えることを止めた。
煮詰まった彼女は、天気に誘われるように外に出た。
森の枝葉で弱められた霧雨が、労わるように彼女の肉体を包んだ。
その慰撫を受けいれながら、魔理沙は空を見上げて呟いた。
「ああ……、私はカエルになってしまったんだなあ」
そして思った。
どうして私は蛙なんだろう。なんでよりにもよって蛙なんだろう。
蛙。
カエル。
カエルが鳴くと雨が降る。
カエルが鳴くから帰りましょう。
カエルは口ゆえ蛇に呑まるる。
ケロちゃん風雨に負けず。
ケロちゃん……。
ケロちゃん?
「あ……」
そうして頭の中に浮かんだのは、奇怪な蛙型の帽子をかぶった少女である。
守矢神社に住む神々の一柱。洩矢諏訪子。蛙を象った神様。そして、祟神。
「あいつの仕業かあああああああ!」
魔理沙は怒りのあまり力強く大地を蹴って跳躍する。
だが、思いのほか高く飛び上がってしまったようだ。
自らの目線が屋根より高いのに驚いて、彼女はもがくように空中でばたばたと手足を動かす。
「お?」
そのうち、一向に自分が重力の魔に絡まれないのを訝しく思って、魔理沙は手足を動かすことを止める。
彼女は水中で浮かんでいるかのように、空に静止しているのに気づいた。
ためしにクロールの要領で宙を一回蹴ってみる。すうっと、見えないガラスの板の上を滑るように、彼女の体が前に動いた。
「おお?」
次に右手を円を描くように掻く。
彼女の体はゆっくりと右方向に旋回した。
「私は……空を飛べるのか?」
かつて初めて箒を飛んだとき以来の感動が、彼女の全身を奮わせた。
「そうだ。私は化け蛙なんかじゃない。霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ!」
空を飛べる。少なくともその魔法は使える。
その事実が、常人なら理性を失いかねない事態の最中、一瞬で彼女の精神を快復させる。
「首を洗って待ってろ、守矢の悪神ども!」
彼女はそう叫ぶと、遮るものの何も無い大空の中を、巨大な緑色の体表を雨にぬらしながら泳いでいった。
「あははははは、ホントにカエルになってる。あははははは!」
守矢神社の巫女、東風谷早苗は社務所の戸口で魔理沙に会うなり、指を指し、大口を開けて笑い出した。
まさに人を人とも思わない、遠慮呵責のない笑い方である。
姿かたちは蛙といえど、中身は人である魔理沙は、憤懣やるかたなくぷっくりと頬を膨らませる。
その有様がますます早苗の笑いのつぼを突いたようで、とうとう彼女はお腹を抱えて地面に跪いた。
何をやっても余計に笑われるだけだと悟った魔理沙は、そのままじっと耐えて早苗の神経が正常な状態に戻るのを待つ。
湯が水になるほどの時間を置いて、ようやく早苗は涙を拭いながら息を整えた。
「はあ……、はあ……。ああ、面白かった。久しぶりに大笑いしました。もういいですよ、帰って」
「おい、私が何しにここに来たと思ってやがる……」
静かな怒気を声に含ませて、魔理沙が唸る。
これが人間であれば巣穴に敵が近づいた時の母熊のごとき形相が見えただろうが、蛙だけに表情が微塵も変わらない。
「冗談ですよ。元に戻るためにカエルつながりで守矢神社に来たんでしょう。魔理沙さんらしい短絡的な思考ですね」
「さっき『ホントに』って言ってたな。ということは事前に私がカエルになることを知っていたってことだ」
「そんな言葉尻を捕まえなくたって、隠すつもりはありませんよ。ええ、そうなったのは守矢の仕業です」
それが何か? と言わんばかりの表情で早苗は魔理沙を見返す。
気の弱い人間であれば言葉に詰まってしまいそうなほど、過剰な自信に満ち溢れた態度である。
だが無論、負けん気の強さでは定評のある魔理沙がそれで引くはずも無い。
「ふざけるな、私が何をしたって言うんだ! 冗談にしては度が過ぎるぜ!」
「何をしたって……覚えてないんですか、魔理沙さん。昨晩の宴会のこと」
呆れたように目を半眼にして早苗が呟く。
昨晩の宴会、といわれて、魔理沙の心臓が一瞬跳ね上がった。
覚えてない……。そう、実は彼女はまるで覚えていなかった。
「いや……。何かしたっけ、私」
「酔って虎のようになった魔理沙さんが、いきなり諏訪子様の帽子を取り上げて、みんなの前で変だの不気味だの散々馬鹿にして――」
「そ、そんなことしたのか。だがいくらなんでもそれくらいで……」
「挙句の果てに、気持ち悪くなったからって帽子の中に胃の内容物をリバースしたんですよ。本当に覚えてないんですか」
「……いや、全く」
「諏訪子様、ちょっと泣いてました」
「………………すまん」
魔理沙はその巨大な体を窮屈そうに縮める。
だが、いくら申し訳ないからといって、そのまま退散してしまうわけにはいかなかった。
「分かった。それは気が済むまでいくらでも謝ろう。だが、その前に諏訪子に私を人間に戻すよう言ってくれないか。この姿のままじゃ土下座しようにも出来ないぜ」
「それで、はい分かりました、と言って戻すとお思いですか? 守矢の神が人前であれだけの侮辱を受けたんです。魔理沙さんには見せしめも兼ねてそれ相応の報いを受けてもらわないと困ります」
「ぐう……」
「とはいえ、私達も神ですから慈悲もあります。幸い、元に戻す方法はすでに諏訪子様から言付かっていますので、それをあなたに教えましょう」
「本当か!?」
うな垂れていた魔理沙が、その言葉を聞いて反射的に顔を上げる。
だが早苗の顔を見たとたん、その魔理沙の顔に影が走る。
そこにあったのは人の運命を弄ぼうとする、嘲笑の神の顔だったのだ。
「カエルを人間に戻す方法といえば決まっています。それは――」
「それは?」
「乙女のキッスです」
ひゅうと二人の間を風が走った。
足下で、桜の花びらがステップを踏んでいるかのように転がる。
春だなあ、と魔理沙はそんな思いに身を浸した。
「………………なんだって?」
「乙女のキッスです」
「何それ?」
「定番です。ちなみにアイテム名じゃありません。そのまんまの意味です」
「冗談だろ、おい……」
両手が届いたなら、魔理沙は頭を抱えたであろう。
代わりに両手で地面を勢い良く叩いて、憤りを示した。
「他に方法はないのか!?」
「ありません、天地神明に誓ってこれだけです」
「くっ……。なら、仕方ないな。どこかそこら辺の奴の唇に手のひらでも押し付けて……」
「唇と唇の接触以外はキスとは認めません。ついでに言えば、事情を知らない無関係な人も不許可とします。あなたを霧雨魔理沙と認識した人に限定します」
「……じゃあ知り合いとキスしろ、っていうのか。そんな恥ずかしい真似が出来るわけが――」
「ついでに乙女の定義も確認しておきましょうか。手持ちの辞典で調べたところ、『年若い女子、未婚の少女、処女』とありました。他にも意味はいくつかありましたが、さしあたってはこの辺の条件を満たせば大丈夫でしょう」
「ちょっと待て! いや、待ってくれ!」
魔理沙の叫びがまるで耳に入らないかのように、早苗は淡々と説明を続けた。
最後にこれで面会は終わりだとばかりに、戸に手をかける。
「ではご武運を――っと、この場合は、ご良縁をお祈りします、のほうがいいですかね。ちなみに良く効く恋愛成就のお守りがありますけど、買います?」
「誰が買うか!」
魔理沙の叫びと、戸がぱしゃりと閉められる音が、神様の遊戯の開始を合図するように鳴り響いた。
「アリスーー。開けてくれー」
魔理沙は間断なく、彼女にしては淑やかな部類に入るだろうノックを続ける。
いつもはノックなどせずドアをいきなり開けるのだが、この姿でいきなりアリスの前に現れた日には、瞬く間に退治され試験管の中の住人と化すだろう。
「なによ、うるさいわね。いつもは鍵がかかっていても強引にこじ開けるくせに、今日はどういう風の吹き回し――」
扉を開けたアリスは、目の前に大蛙が佇んでいるのを認めると、そのままの姿勢で固まる。
魔理沙は害意の無いことを示すために、とりあえず両手を挙げてみた。
そんな彼女に、アリスは心底見下げ果てたような視線を送ると、溜息を一つ残してドアを閉めようとした。
「待て、私だ。魔理沙だ!」
「ええ、魔理沙でしょうとも。こんな度外れた馬鹿が幻想郷に二人もいるとは思いたくないわ。冗談なら人を選んでしてくれる?」
「いや、私も悪い冗談だと思いたいんだが、残念ながら切迫した危機なんだ。頼むから話だけでも聞いてくれ」
「……話だけね」
邸内にあがりこんだ魔理沙は、椅子の上に巨体を乗せ、今朝から起きたことを順序だてて説明する。
時折、出されたクッキーや紅茶などを口に入れた。それらは空っぽだった魔理沙の胃の中に、とても行儀良く納まった。
話し終えると同時に、魔理沙は人心地ついたように息を吐く。
「なるほど。まあ、例によって自業自得で同情の余地はないんだけど――」
お人形のような格好の少女と、その少女を一飲みに出来そうな大蛙が、向かい合わせで紅茶を楽しんでいる。
何か風刺画か、さもなくばシュールさを売りにした物語の一場面にしか思えない光景である。
「たとえ、助けたくても私は役に立てそうにないわ。神道系の呪いは詳しくないの。それも神様クラスの仕業となると、正直手に余るわ」
「あー、いや、そうじゃなくてだな」
魔理沙はさすがに言いにくそうにしていたが、ややあって、思い余ったように切り出す。
「解呪の条件が乙女のキスじゃないか。だから、お前にお願いしようかな、と」
アリスは紅茶を口元に運ぼうとした姿勢のまま、ぴたりと静止した。
表情は変わらない。ただ、刺すような視線を魔理沙に向ける。
「どうしてその相手に私を選んだのか、理由を説明してもらえないかしら」
「いや、乙女といえばお前かなって。なんか言動が処女っぽいし――」
そう言いかけるや否や、魔理沙は轟音を連れだって椅子ごと後ろにひっくり返った。驚いて魔理沙が周りを見ると、前後左右、隈なく太い釘のようなものが突き刺さっている。体は傷ついていないが、ちょうど標本のような具合である。
アリスは紅茶を飲む姿勢のまま動いてはいない。
ただ背後におびただしい数の人形が、なにやらボウガンのようなものを構えて整列していた。
「ごめんなさい。よく聞えなかったわ。もう一度、ゆっくりと、大きな声で、言ってもらえるかしら」
「幻想郷で乙女といえば、薔薇も恥らうほどの美貌と気品を持つアリス・マーガトロイドをおいて他に無しと愚考した次第です」
魔理沙はひっくり返った姿勢のまま、そう答える。
それに満足したのか、アリスが指揮者のように宙で腕を一振りすると、人形はたちどころに武器を収めた。
「まあ、いいでしょう」
「え? それじゃあしてくれるのか?」
期待に満ちた目をしながら魔理沙が跳ね上がる。
だがアリスの返答はにべも無かった。
「そんなわけないでしょう。あなたが私を相手に選んだ無礼を許したってことよ。蛙とキスなんて死んでもごめんだわ。気持ちの悪いこと言わないで」
「……そこまで言わなくても」
がっくりと魔理沙は肩らしき部位を落してしょげ返る。これからの魔理沙の前途を思えば、その言葉は深く胸に突き刺さる。
さすがに言いすぎたと思ったのか、アリスはばつが悪そうに目を逸らした。
「……まあ、キスするのは嫌だけど、協力はしてあげないことはないわ」
「本当か!?」
それだけでも今の魔理沙にはこの上なく心強かった。
雲間から太陽が覗いたように、魔理沙はぱっと顔を上げる。
対してアリスはなんとも反応に困ったような表情でぽつりと呟く。
「……ただし、この貸しは高くつくからね」
「ああ、いいぜ。今のこの状態を思えば何程のこともないさ」
「じゃあ、とりあえず行きましょうか」
「どこへだ?」
「困った時の知識人でしょう。もっともあの知識人は比較的無害な代わりに役に立つのか微妙だけど」
「ああ、あれのところか。よしきた。うまくすればキスくらいもらえるかもしれんしな」
「それは断じてないと言っておくわ。下手に切り出して怒りを買わないでね」
一人と一匹は並んで外に出る。
ふと、思い出したように、アリスが言った。
「ねえ、あくまで参考として聞いておきたいんだけど、言動が処女っぽい、って具体的にどういうところがそうだったの? いや、私は別に気にしないんだけど」
「……そういうところだよ」
「つまらないわね」
変わり果てた魔理沙の姿を一通り検分すると、紅魔館の魔女、パチュリーは表情を微塵も変えずに、そう呟いた。
さすが奇人の多い紅魔館だけあって、この蛙が魔理沙であるということはそれほど説明をせずとも受け入れられた。
レミリアは予想通り腹を抱えて笑ったし、フランドールは面白がって吸盤に自分の手を重ねてぺたぺたやったり、背中に乗っかかったり、頬を引っ張ったりしてきた。
咲夜は真面目な顔で「カース・マルツゥはあいにく切らしておりまして。 ミモレットで良ければお出ししましょうか?」などと訊ねてきた。
例外といえば門番の美鈴で、魔理沙を見るなり「おのれ、太歳星君。今度は大蝦蟇の姿で現れたか。だが何度来ようと同じことだ!」などとわけの分からないことを叫んで飛び掛ってきたが、側に居たアリスにあっさりと叩きのめされた。
アリス曰く「いやなんだか夢で酷い扱いを受けたような気がしたから」とのことだった。それを聞いた魔理沙もなんとなく思い当たるようなことがあるような気がした。
さて。
当のパチュリーはといえば、魔理沙を迎え入れた第一声が先のものだったのだ。
「たしかに人間を畜生に変えるのは神様の罰としてはありふれたものよ。でもこれはその真似事だとしてもお粗末過ぎるわ」
「どういうことだ?」
図書館の椅子に窮屈そうに腰掛けて、魔理沙が聞き返す。
パチュリーはじろりと彼女の方を見た。
「それよ」
「どれだ?」
「あなた、ちゃんとしゃべれるじゃない」
「当然だ。中身は少女だからな」
「中身がどうこう以前に、カエルの声帯でそれだけ流暢に人間の言葉を話せると思う?」
「む……? 言われてみればそうだな」
自分のことは気づきにくいものだ、と呟きながら魔理沙は紅茶をすする。
「それに食べ物も普通に受け付けてるし、何より空を飛んできたんでしょう、あなた。そりゃ美鈴も驚くわよ」
「逆にカエルのように鳴いたり、舌を伸ばして虫を捕食したり、水に潜ったりなんてのは出来そうもないぜ」
「つまり、魔理沙がカエルになったんじゃなくて、カエルに見えてるだけってこと?」
「そうよ。これが神話や伝説だと、なにか別のものに姿を変えられたときは外側だけではなく機能も別物であることが多い。でもこれは違うわ。そう。もっとも適当な言葉を使えば『化かされてる』とでも言うべきね」
「狐や狸がやるようにか」
そう思えば魔理沙もちょっと腹が立ってくる。
だがそれと同時に、本当に中身までカエルに変えられてたら今頃どうなっていただろう、と考えて寒気が走った。
「なるほど。呪術じゃなくて幻術だったのね。でも不思議ね。幻術をかけられたのは魔理沙なのでしょう。それなのに、私たちの認識にまで影響が出るなんて」
「表象作成的接触って知ってるかしら。大昔の書物で見た言葉なんだけど」
「いんや」
「知らないわ」
「希薄な表象に対して、先取観念同士が精神内で結合して幻像を見せることよ。そして見たことも無いはずの表象が現実にあったものとして認識されてしまうの」
「分かるか、アリス?」
「なんとなく、ね」
「例えば西洋の神話を紐解くと、ケンタウロスなんかがその代表例でしょうね。馬に乗った人間を初めて見たとき、それを人間とも獣とも認識できなかったから、それの中間のものが幻像として出来上がってしまった」
「ふーん、なかなか面白い説だな」
「日本で言うなら……そう、鵺なんかが好例になるわ。伝説に残っている姿は、その正体不明の妖怪に遭遇した際、当時の人間の頭の中にあった怖ろしい獣という観念がでたらめに合成された結果でしょうね」
「……鵺だと!?」
魔理沙ががたんと椅子を蹴っ飛ばして立ち上がる。
いや、そうしようと思ったのだが、蛙の悲しいところで、あえなくぺたりと地面に着地してしまう。
「封獣ぬえ……。そういえば、この現象は正体不明の種の効果に似てなくもないぜ」
「正体不明の種? 確かUFO騒ぎの原因だったっていうアレ?」
「ああ。さっきのパチュリーの話と似た効果を生み出すんだ。例えば空を飛ぶ板切れがあったとする。でも私達は板切れが空を飛ぶはずなんてない、と思い込んでいる。普通なら私達がどう思い込もうが板切れは板切れのままだろうが、正体不明の種がそこに仕込まれると、それは私達の思い込みどおりのものに見えてしまうんだ。あのとき私達は、空を飛ぶ正体不明の浮遊体だからUFOに違いないと思い込んで、実際その通りにしか見えなくなってしまった。それだけじゃない。捕まえて手を触れようが、分解しようが、正体不明の種を取り除くまでは、それは小型のUFOそのものにしか思えなかったんだ」
「え……? ちょっと待って。それってつまり……」
アリスが指を額に当てて黙考する。
だがその答えが出る前に、パチュリーがさらりと言ってのける。
「仮にその正体不明の種を仕込まれた魔理沙が、カエルの格好をして座ったり飛んだりしているとする。私達はいくら魔理沙が変人だからといって、伊達や酔狂でカエルの真似をしているなんて思いもしない。これは魔理沙の姿をした何かだと疑う。すると正体不明の種によってそれは最も近いイメージに変えられてしまった。それが――」
「このカエル魔理沙というわけね」
「ちょ……ちょっと待て。正体不明の種が仕込まれてるって!?」
魔理沙が慌てて自分の体を調べだすが、素っ裸のカエルに何かが潜むようなところなどあるはずも無い。ただぺたぺたと自分の体を撫で回すだけに終わった。
それを見て、当然のことだというようにパチュリーが呟く。
「無駄よ。ポケットの中にでも仕込まれていたとしても、私達があなたをカエルと認識している以上、どこがポケットだか分かる筈がない。さっき自分でUFOに手を触れても板切れだと分からなかった、って言ってたじゃない」
「あなたがそのUFOから正体不明の種を取り出したときはどうやったの?」
「いや……分解してたら突然蛇の姿で飛び出してきたんだが」
「なら今度は解剖でもしてみましょうか。運がよければ絶命する前に出てくるかもしれないわ」
「じょ……冗談じゃないぜ」
魔理沙がぶるりと総身を震わせる。
このまま話が続けば、本当にそういう流れになりかねないとでも思ったのか、彼女は急に話頭を転じる。
「待て。大きな疑問が一つ残ってるぜ。なんで私はそもそもカエルのようなポーズしか取れないんだ」
「それはこっちが聞きたいわよ……」
「私が思いつく可能性は二つ」
パチュリーが、いつまで経っても回答にたどり着けない不出来な教え子を見かねた教授のような口調で言った。
「一つはあなたがカエルの動きしか出来ないようなギミックを身につけている場合。さらにそれが仕掛けを施したカエルのきぐるみなんかだと、見た者にカエルのイメージをさらに植えつけやすくなるわね」
「まさか。そんなものが私の体に――あっても気づけないのか。なんて厄介な……」
「ただこの方法は前もってそういうものを作成しておかないといかない。ものさえあれば誰にでも実行可能だけど、アリスや河童に作成を依頼するとしてもコストがかかる。私はこの線は薄いと思う」
「なんでそこで私の名前が出てくるのよ。……確かに作ろうと思えば作れるけど」
「おいおい、実は協力者が共犯だったなんていう展開は勘弁してほしいぜ」
「あら、私ならカエルなんて可愛らしいものに変えたりしないわ。積年の恨みも籠めて、もっと素敵なおぞましい姿に変えてあげる」
「はいはい。喧嘩するなら外でお願い。その代わりもう二度と話さないけどいいわね?」
何か言い返そうと口を開きかけた魔理沙は、そのまま黙って口をつぐむ。
アリスも大人気なかったと思ったのか、そのまま矛を収めた。
「よろしい。では二つ目。魔理沙、あなたが何かカエルのような格好しかできないような暗示をかけられていた場合」
「暗示だって?」
魔理沙が驚いたような顔を……しようとしたが、残念ながらカエルなので表情は見分けられるほど変わらなかった。
「ちょっと待て。私だって魔法使いの端くれだぜ。いくらなんでも他人の暗示にかかるなんて……」
「詐欺に一番引っかかりやすい人間って知ってる? 自分は絶対詐欺には引っかからないと思っている人間よ」
「いや、でもだからって……」
「暗示は意識がはっきりしないとき、例えば眠っている時なんかが一番かかりやすい。ときに魔理沙。あなた昨晩の宴会では、随分泥酔していたわね。誰が送ってくれたか、覚えてる?」
「う……、それが、記憶が曖昧で」
「そこで正体不明の種を仕込まれた魔理沙が、強引にカエルのポーズで鏡の前に立たされる。もしかしたらその時点ですでにカエルに見えてしまったかもしれないわね。そこで暗示をかける。あなたはカエルだから、これからカエルのような振る舞いしか出来ないのだと。ここまでお膳立てが整っていれば、多少でも術に心得のある人間なら成功させることは難しくないんじゃないかしら」
「ん……ちょっと待てよ。……ああ! そういえば今朝、目が覚めるときに何か変な夢を見てたような気がした!」
「それだわ……。本当に馬鹿じゃないの、あなた」
アリスが本気で呆れたように呟く。
さすがに自分でも不甲斐なく思ったのか、魔理沙は気まずげに目を逸らす。
「本当に暗示だとすれば、それを解くキーワードが乙女のキスとかいうふざけた条件なのか」
「まあ、そんなところでしょうね。つくづくくだらない悪戯だわ」
パチュリーが頷きながら溜息を吐く。
「待ってくれ。まだちょっと疑問が残ってるんだが。空を飛んだなら私は箒を使ったはずなんだ。だが私はそんな覚えが無い。これはどういうことだ」
「なかなかいいところに気がついたわね。その問いに答える前に私から質問するわ。あなたは現在服を着ていない。にも関わらずあなたは現在羞恥を感じていない。これは何故?」
「そんなもん、私がカエルだから……ん? あれ?」
「違うでしょう。あなたはちゃんと服を着ている。にも関わらず、それを意識できない。服を着ていない、と思えるんじゃなくて、意識できない。分かる?」
「いや、今一つ……」
「私達は歩く、呼吸する、話す、空を飛ぶ、というそれらの行動に際して、手足や舌の動きを一つ一つ意識しているわけじゃない。それでも行動を起こすことに支障は無いでしょう。それは行動のイメージに一体化して含まれているからよ。具体的に言うと、カエルが泳ぐように空を飛ぶ、というイメージが、そのまま箒に跨って空を飛ぶというイメージに入れ替わってしまっている」
「んー、つまりあの時にはすでに私は箒を持っていた、ということか」
正体を見抜けるものが傍から見れば、それは実に間抜けな姿であっただろう。
今更ながら、魔理沙は羞恥で顔を赤くする。
「しかしまあ、おかげで原因はだいたい理解できた。さすがは知識の魔女と謳われるだけはあるな。だがそれを聞いたところで解決策が……」
「三つほどあるわ」
「なんだって!?」
あっさりと言ってのけたパチュリーに、魔理沙は思わず身を乗り出す。
ちゃんと手が機能していれば、彼女の両手を握り締めていたところだろう。
「なんてことだ。今このときほど、お前をたいした奴だと思ったことは無い」
「まず一つ目。あなた、諦めてカエルのままで一生を送りなさい」
「ふざけるな。今このときほど、お前を絞め殺したいと思ったことは無い」
「まあ、聞きなさい。さっき説明したでしょう。中身はまるっきり人間なんだから、この先暮らしていくのに何の支障もないわ」
「すでに精神的な支障をきたしまくっとるわ!」
「そのうち慣れるわ」
「こんなものに慣れてたまるか! その意見は大脚下だ! さっさと二つ目を言え!」
「ちょっと、魔理沙落ち着いて……」
ひ弱な少女に掴みかかる大蛙というのは絵的に衝撃が強すぎるのか。
見かねたアリスが牛でも落ち着けるように背を撫でながら引き剥がす。
パチュリーは本の影からじとーっとした眼で魔理沙を睨みつけていた。
「……それが人にものを頼む態度かしら。拗ねるわよ」
「拗ねないでください。お願いします。ちょっと興奮しすぎました。許してください」
「はい。じゃあ二つ目。さっさと紅白の巫女のところに行って、事情を話してキスしてもらってきなさい」
「あう……。そ、それは……」
「そうよ。そういえば魔理沙。なんで、霊夢のところに行かないのよ」
二人の意見に、魔理沙はこれまでに無くたじろいだように後ずさる。
「だってその……あいつはそういうの嫌がりそうだしさ……」
「そんなことないでしょう。そりゃ普通にキスしてくれって言ったら正気を疑われかねないけど、今回は事情が事情なんだから。巫女の仕事の一部としてあっさり請合うんじゃない?」
「そうね。いわば人工呼吸みたいなものでしょう。霊夢は性格的にそういうものに私情を挟まないし、気にもしないと思うわ」
「いや……、だから……その……私が嫌だというか……」
「カエルの分際でなに贅沢なこと言ってるのよ」
歯切れの悪い魔理沙に苛々した様子で、パチュリーが言い募る。
そんな魔理沙を見て、アリスが訝しむような目つきをした。
「あなたまさか……、聞くのも恥ずかしい理由でそうやって嫌がってるんじゃないでしょうね?」
「ち、違う! 断じて違うぜ! わ、私はあいつとは対等な友人の関係でいたいから、余計な借りを作りたくないだけだ! それに友達同士でキスなんかしたりしたら、明日からどう顔を突き合わせばいいんだ!」
「それが私達だと大丈夫な理由を考えると釈然としないんだけど……」
魔理沙の抗弁は、二人の疑惑をそのまま不信感に変えただけで何の解決にもならなかった。
「と、とにかく、その意見は本当にどうしようもなくなった時にまた考えよう。さあ、三つ目だ、パチュリー」
「……まあいいけど。では本命の三つ目にいきましょうか」
パチュリーが微かに笑った気がした。
この魔女の笑みは決して幸福なものではありえない。
誰かに破滅的な不幸が訪れる前触れみたいなものだ。
それを知っている二人は、ぞくりと背を震わせた。
「この事件を起こした張本人に責任を取ってもらいましょう」
三人が守矢神社の境内に降り立った時、ちょうど早苗は落ちた桜の花びらを丁寧に掃いているところであった。
彼女は魔理沙の姿を認めると、やや意外そうに目を見張る。
「あら、魔理沙さん。まだ元に戻っていなかったんですか。てっきり今頃、霊夢さんに泣きついているかと」
「いや、その前に確認したいことがあってな」
まるで獲物でも狙っているかのように、ゆっくりと魔理沙は前に出る。
ただならぬ気配を感じたのか、早苗も掃除の手を休めて魔理沙と向き合った。
「なんでしょう。私に答えられることであれば」
「これは本当に諏訪子の仕業か?」
「……それは、どういう意味でしょう?」
核心を突いたはずの魔理沙の問いにも関わらず、早苗は微塵の動揺も無く平然と聞き返した。
それは魔理沙がパチュリーから聞いた推理を滔々と話す間も変わらない。
「ひどい言い掛かりですね。全部推論で、証拠が何もないじゃないですか」
「ふん。じゃあお前の神社の神様は、こんな子供だましの悪戯しか出来ないような存在なのか」
「子供みたいな魔理沙さんにはちょうどいい塩梅だと思います」
「なにを……!」
その言い草にさすがにかちんときた魔理沙が、怒気を孕んで早苗ににじみ寄る。
だがそれを押さえるようにして、パチュリーが代わって前に出た。
「そう、証拠は何も無い。でもそんなものは最初からどうでもいいわ。必要なのは、これから魔理沙とあなたを無理矢理口付けさせるに、良心の呵責を感じないでいられる程度の確信よ。私達の推理、これまでの経緯、そして、その人を小ばかにしたようなあなたの態度。全てあなたが犯人であることを私達に確信させている」
「有罪ありきですか。ひどい魔女裁判もあったものです」
「いいえ。魔女裁判なんかじゃない。これは弾幕裁判よ。私達の確信が正しければ私達が勝つ。あなたが正しければあなたが勝つ。幻想郷らしい、美しい、シンプルな裁判でしょう」
「ふふ……いいですね。私も好きになれそうです。勝てば無罪というわけですか。上等です。受けて立ちましょう」
そう言うなり、早苗はどこからか取り出した御幣をさっと胸の前で振る。
それだけで地表に落ちた桜の花びらが渦を巻き、勢い良く天に舞い上がって、今一度花吹雪となって息を吹き返した。
「さて。まずはどちらが相手をしてくれますか? アリスさん? パチュリーさん? なんなら二人同時でもかまいませんよ」
「勘違いしないで。私達にそこまでする義理は無い。貴女の相手をするのはあくまで魔理沙よ」
「はい?」
早苗は目を丸くして、魔理沙を見る。
魔理沙はその目を出来るだけ闘志をこめて、見返した。
だが早苗は怯むどころか、気が緩んだように噴出す。
「あはははは。冗談はよしてください。今の魔理沙さんはカエルですよ、カエル。どうやって私に勝とうっていうんですか」
「そのカエルに無様に負けるのがお前だぜ。私が何の勝算も無くお前の前に立っていると思うか」
「なんですって?」
ぴくりと早苗の眉が震える。
脈ありと見て、魔理沙はさらに挑発を繰り返す。
「お前だって、そもそもそのカエルの神様の力を借りているんじゃないか。虎の威ならぬ、カエルの威を借りておきながらカエルを馬鹿にするのか。滑稽にも程があるぜ」
「へえ……。言うじゃないですか。ちょっと面白くなってきましたよ。ええ、その勝算とやらに興味が沸いてきました。あるなら是非見てみたいです」
「言われなくても今見せてやる! 行くぜ!」
魔理沙はばっと宙に飛び上がって、両方の手のひらを花弁のように組み合わせて早苗に向けた。
早苗はややたじろいだように後ずさる。姿はカエルであれど、あの構えは間違いなく、霧雨魔理沙の代名詞ともいえるスペル――。
「恋符「マスタースパーク」!!」
聞きなれた宣言が、神社の境内に朗々と響き渡る。
だが――。
「何の……真似です?」
「ぐっ……」
魔理沙の両手からは魔砲どころか、火花さえ放たれない。魔理沙はそのまま無様に地面に着地した。
だが、彼女はそれでもめげずに同じことを繰り返す。飛んでは構え、構えては叫ぶ。空しく着地するや否やまた飛び上がる。
「くそっ……。出ろ、出やがれ!」
「はあ……。もしかして勝算ってそれのことだったんですか? どうやら頭の中までカエルに近づいたようですね。なら、カエルはカエルのすむところに帰してあげましょう」
早苗は見かねたように首を振ると、一枚のスペルカードを取り出して御幣に挟み、それを魔理沙に向けて水平に構える。
「奇跡「神の風」!」
轟く風が桜の花びらを巻き込んで魔理沙の体を包み込む。
体がふわりと浮き上がり、魔理沙はそのまま風に弄ばれるように宙を舞う。
「うわあああああ!」
「さあ、このまま湖まで運んであげます。そこで頭を冷やしてください!」
「くっ……くそお!」
ここに来る前にパチュリーが魔理沙に言った。
自分がカエルだというのは思い込みに過ぎない。
空を飛ぶことが出来たように、魔法もちゃんと使えるはずだ。八卦炉も今は見えないが、箒と同じように体のどこかに身に着けている。
ただ、今の魔理沙は自分がカエルだというイメージが強すぎて、魔法を撃つ動作が別の動作に誤変換されてしまっているだけだと。
一つ一つの動作を具体的に思い浮かべるんじゃない。それとは逆。ただ魔法を撃つというイメージだけを残して、それにつながる動作は全て無意識の底に沈めればいい。
「言ってることは簡単そうだが、無意識って意識した時点で駄目ってことじゃないか。私はどこかのさとり妖怪じゃないんだぜ!」
「さあ、もう諦めてじたばたするのは止めてください! 風に捕われたままでは、余計に目を回すだけですよ」
「目が回る……回るだと。……いいだろう! こうなりゃ、どこまでも回ってやろうじゃないか!」
魔理沙は風に巻かれたまま、自らもものすごい勢いで回転を始めた。
二つの回転が合わさり、見ているほうの気分が悪くなるような、無軌道な運動が展開される。
「ちょっと……なんのつもりですか!」
早苗の慌てた声も届かない。
すでに魔理沙の頭の中では天地が渾然一体となって、幼児が絵の具をふんだんに使った後のパレットみたいになっている。
魔理沙は自分というものが溶けて、肉体も精神も混ぜこぜのどろどろした物体になっていくような感覚に襲われた。だがそれを自分で留めようという気になれない。行き着くところまで行ってみたい。
バターになった虎もきっと同じ境地だったに違いない。
彼女にはもう何も分からなかった。ただ一つ頭にあったものは――。
あったものは――。
「恋符――」
その一つだけの思いを籠めて、魔理沙は宣言する。
今までどんな困難も打ち破ってきた、たった一つの方法。
それが魔理沙のたった一つだったから、カエルになろうがバターになろうが、それだけは絶対に忘れるはずが無かったのだ。
「恋符「マスタースパーク」!!」
あらん限りの声で。唇の端が切れるほど大口を開けて魔理沙は叫んだ。
その口腔から、目を焼き、耳をつんざくほどの、光の大奔流が迸った。
「あれは……マスタースパーク!?」
魔理沙以外の三人が同時に叫んだ。
蛙の大口から吐き出されたそれは、紛れも無く、いつも魔理沙のいつもどおり魔砲だったのだ。
「口からマスタースパークなんて、そんな非常識もほどが……」
自らの常識がまた一つ崩れていく音に、早苗が愕然として呟く。
だが一方、非常識の方は何と言われようと意に介した気配は無かった。
東に西に。天に地に。
回転したままの魔理沙の魔砲が、巨大な白い大蛇がのた打ち回るように暴れ狂う。
大地を穿ち、空をうねり、大木をなぎ倒していく。
「ちょっと! 神社を壊さないで――、えっ!?」
早苗が一歩踏み出したそのとき、その足下の地面を魔砲が根こそぎ砕いた。
跳ね上がった参道の石畳によって、早苗の体は宙に舞う。
早苗が体勢を立て直す暇も無く、無制御な魔砲がそのまま彼女を捕らえた。
彼女もとっさに結界を張って防ごうとするが、威力だけなら人間の誰よりも上と称される魔理沙の魔砲である。
たちまちその結界にもひびが入っていく。
「そ、そんな……、嘘です! 神様でもなんでもないただのカエルごときに……!」
乾いた音と共に、結界が割れた。
早苗の体が白光に包まれて消えていく……。
「この……私がああああ!」
まるでラスボスのような断末魔を残して、魔砲に撃たれた早苗は急流に流される稚魚のように神社の奥に吹き飛ばされた。
その先から遥かに響く被弾音は、この弾幕裁判が決着したことを一同に告げていた。
「まさか本当に魔理沙が勝つとは思わなかったわ。あの巫女の油断にも助けられたんでしょうけど」
「それより驚くのは魔理沙の悪運の強さでしょう。でたらめに撃ってるだけなのに、よくあんな見事に相手を捕らえたものね」
「まさに弾幕の神様が下した正義の鉄槌というところかしら……って、あれ?」
すっかり解説モードに移行していた二人は、その正義の鉄槌が自分達の頭上に振り下ろされようとしていることに気づいて、とっさに左右に飛び散った。
一瞬前まで彼女達が立っていたところが、爆音と煙の後、見事な焦土と化す。
アリスがその様を見て、驚愕して叫ぶ。
「ちょっと 魔理沙! もう勝負はついたのよ。いい加減それ止めなさいよ!」
「どうやって止めるんだああああ!」
「まず、そのマスタースパークを止めなさい。そうしないと回転も止められないじゃ……きゃああああ!」
「撃った方法が分からないから止める方法も分からないんだあああああ!」
襲いくる魔砲から必死に身を守りながら、二人は同時に叫ぶ。
「「いいから黙ってその口を閉じなさい!」」
結局この災害が落ち着いたのは、魔理沙のスペルカードが時間切れになった後のことであった。
魔理沙は何か酷く不快な夢の中から、目が覚めたような気がした。
まぶたの上に射してくる光が、朝日にしてはやけに赤すぎると思いながら、魔理沙はゆっくりと目を開ける。
「あら、どうやら王子様がお目覚めのようよ。ああ、お姫様だったかしら」
「いやああああ! お願いですからそのまま寝ていてください! いっそ冬眠してください!」
「今は春よ。諦めなさい」
三人の声が聞えてくる。どうやら夢はまだ続いていたらしい。
ぼんやりとした記憶を掻き集めて、魔理沙はなんとか夢と現実をつなぎ合わせる。
そうやって開いた目にまず映ったのは、まるで罪人ように木に縛り付けられた早苗の姿だった。
その後、ゆっくりと自分の体を見回すとやっぱり蛙のままであることを発見し、魔理沙はがっくりと肩を落とす。
早苗の左右に処刑人のように控えるアリスとパチュリーの姿を認めると、魔理沙は訊ねる。
「何がどうなった?」
「弾幕裁判はあなたが勝った。故にあなたはこれから勝者の権利を実行に移すところよ」
「暗示を解くためだから、あなたの意識があるうちにやらないと意味がないし、なにより面白くないでしょう」
「この鬼女! 悪魔ああああ!」
「魔女には最高の誉め言葉よ。さあ、魔理沙。遠慮なく一発かましなさい」
「う……、うーむ……」
先ほどの怒りが持続したままだったならいざ知らず、生贄のような有様の早苗を見ているとさすがに魔理沙は気が引けた。
寂れた神社の境内で、大蛙の前に大木に縛り付けられた少女が一人。そして、その左右には笑みをたたえた魔女がいる。
まるで異界の神でも召喚するが如き怪しさである。
「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに魔理沙さんをそんなふうにしたのは私です。白状します。でも嘘は言ってません。昨晩の魔理沙さんの粗相は本当のことですよ!」
「う……、そ、そうなのか」
「でも諏訪子様は『いいよ、こんなの気にしなくて』って無理に笑ってそう言ったんです。諏訪子様は祟神ですが、そう振舞うのは常に国のため、公のため。だからなおのこと、私情で力を振るうことを潔しとしません。でも私、悔しくて、やりきれなくて……。だから私、諏訪子様に代わってあなたを懲らしめてやろうとしたんです」
「ぐぐ……」
魔理沙は良心がずきずきと痛むのを覚えて後ずさる。
だがそんな魔理沙を見かねたように、アリスが代わって、早苗の前に立った。
「どこまでお人よしなのよ、魔理沙は。こいつは嘘は言わないけど、自分に都合の悪いことは言わないタイプよ。はい、まず質問。あなたのやったことを諏訪子は知っているわけ?」
「し、知ってます」
「じゃあどうして助けに来ないの。自分を想って行動した巫女を見捨てるなんて随分薄情じゃない」
「そ、それは……。私がこのことを告げたとき諏訪子様が、早苗ももう子供じゃないんだから自分で責任が取れるならいいよ、っておっしゃったから」
「へえ、冷たい言い草ね。まるでそもそもの動機が諏訪子とは関係のないところにあるような反応だけど」
「いえ、その、諏訪子様は見かけによらず厳しい方なので……」
早苗の態度が明らかにおかしくなる。
目は泳いでいるし、言葉も先ほどとは打って変わって必死に考えながら紡いでいる様子である。
もう一押しとばかりに、今度はパチュリーが詰問する。
「じゃあ次の質問。最初に魔理沙が諏訪子の仕業だと思い込んでいたとき、どうしてそれを否定しなかったの。諏訪子に代わってしたんでしょう。それなのに諏訪子のせいにする。どこか矛盾しているわ」
「あ……う……、だ、だって諏訪子様の力だと思わないと信用しないと思って……」
「別にあなたの仕業だと最初からばれていても不都合はなかったはずだけど。今、信用させたかったと言ったわね。何を? それは、魔理沙が本当にカエルになってしまったこと。そしてそれを解くためには乙女のキスが必要だということね。乙女のキス? カエルという頓狂さにまぎれていたけど、これも随分と妙だわ。なんでこんな条件に? 面白い? ええ、確かに面白い。大蛙と誰かがキスするなんて面白い。誰かって誰? 哀れな魔理沙にキスしてくれる最有力候補は一体誰かしら?」
積み木でも組み上げるように、次々と論理を構築していくパチュリー。
いつもの魔法を使っている姿より、こっちのほうがむしろ魔女めいて見えた。
そしてパチュリーは積み木の城に、最後の屋根を乗せる。
「ああ、そういえば、あなた最初に言ったわね。てっきり今頃霊夢さんに泣きついているかと、って」
「なっ……お前!」
「ち、違います。それは誤解です!」
「この期に及んでまだ白を切るつもりなら、魔理沙の口の中にあなたの頭を入れてもごもごさせるわよ」
私だっていやだ、そんなこと。
と、魔理沙が言う前に、早苗がとうとう観念したように、がっくりとうな垂れた。
「そ、そうです。魔理沙さんへの報復のついでに、霊夢さんにもちょっと悪戯してやろうという目論見がありました……」
「あら、悪戯だけかしら?」
「……その……射命丸さんにカエルと巫女のキスシーンという面白い絵が撮れそうだからと、神社を張り込ませてます……」
その言葉を聞いて、ついに魔理沙の堪忍袋の緒が切れた。
「お前、なんて事を!」
「い、いいじゃないですか! メディアを使って商売敵のイメージダウンを狙うのは外の世界じゃ常識なんですよ! ただでさえ妙な寺まで出来て、信仰がピンチなんです!」
「知ったことかあ!」
「ごめんなさいいいいい!」
これまでにないほど怒りをあらわにする大蛙に、早苗は本気でおびえだす。
その様を見て満足したアリスとパチュリーは、早苗の隣に戻った。
「さあ、これでわかったでしょう。魔理沙が気に病む必要はないの。あなたは諏訪子にやったことの報いをすでに受けたわ。次はこの馬鹿が自分のやったことの報いを受ける番よ」
「ええ、もう、心的外傷に残るくらいきついのを一発お見舞いするといいわ」
「そ、そんな……」
早苗が涙目になって首を振る。
魔理沙はそんな早苗を睨みつけると、押し殺したような声を出す。
「早苗……。最後の質問だ。乙女のキス以外に私が元に戻る方法は?」
「あ、ありません。正体不明の種は、魔理沙さんが暗示が解いて、人間の形を取り戻さないとどこにあるか分かりませんし、その暗示を解くにはキーワードを使うしか……」
「そうか。残念だよ……。とても残念だ」
「い、いや……」
じりじりと歩み寄る魔理沙に、早苗はもはや恐怖を隠そうともしない。
「お、お願いです。止めてください! 恥を忍んで言いますけど、わ、私まだ誰ともキスしたことないんです!」
「頼むからもう観念してくれ」
「い、いやです! 私だって女の子です。初めてのキスは大好きな人とデートした帰りの公園で夕日に照らされながら、とか色々と夢見ていたんです。それが木に括り付けられた挙句、化け蛙と無理矢理なんてあんまりすぎます!」
「………………そうだな」
「やだ……。やだあ……。ごめんなさい……。もう、許して……」
とうとう見えも外聞も捨てて泣きじゃくる早苗を見て、魔理沙の歩みがぴたりと止まった。
その様を見て、アリスとパチュリーが血相を変える。
「ちょっと……まさか本当に止めるつもりなの? いい加減にしなさいよ! そういうのは優しいんじゃなくて腑抜けっていうのよ!」
「だろうな」
「だろうな……って。こんなの演技に決まってるじゃないの? 何を騙されてるの。今頃心の中じゃ、しめしめうまくいったわ、なんて舌を出してるわよ!」
「かもしれん」
そう言って魔理沙はくるりと背を向けた。
そしてばつが悪そうに頬のあたりを掻く。
「だがこのまま強引にキスしたら、私は本当に霧雨魔理沙じゃない、ただの畜生に成り下がる気がしてな」
「だ、だからって……このままじゃ元に戻れないのよ。どうするつもりよ」
「ふん、私を誰だと思ってるんだ。これぐらいの呪い、自力で解いてみせるぜ。まあ、しばらくはカエルの姿のままになっちまうが、出来ればいつもどおり振舞ってくれ」
「どこまで馬鹿なの、あなたって……」
アリスとパチュリーは揃って溜息をついた。
早苗はいまだ謝りながら、嗚咽を漏らしている。
魔理沙は振り返りもせず、ぼろぼろになった参道を、夕日に照らされながら歩いていった。
「まったく、しょうがないわね……」
そんなことを呟いて、アリスとパチュリーが同時に足を踏み出しかけたその時――。
魔理沙の顔の上に長い影が射した。
「え……?」
魔理沙が不思議に思って上げた、その顔の両頬に誰かのほっそりとした両手が、そしてその正面に誰かの別の顔が重なった。
魔理沙の唇の上に、春の陽射しを吸い込んだ桜の花びらが落ちたような、仄かで、暖かな感触が伝わる。
「っ………………!」
驚きのあまり魔理沙は声もあげられない。
だがそのうちに、蛙の足がにゅっと伸びだし、曲がった背が針金を入れたようにしゃんとした。
そして、それが人間のような形をとったかと思うと――。
ぽんっ、と何かがはじけるような音がして、夕日に照らされてなお金色に輝くウェーブのかかった髪が、ふわりと広がる。
そしてその髪がぱさりと、見覚えのある黒い魔法使いの服にかかった。
そのとき落ちたとんがり帽子の影から、何か蛇のようなものが逃げていったが、誰も気にとめようとしなかった。
一同はただ、呆然とする正真正銘の霧雨魔理沙と、その顔からゆっくりと顔を離しつつあった博麗霊夢を見つめていた。
「れい……む……?」
「……この馬鹿。どうしてこんな騒ぎになる前に、私のところに来なかったのよ」
まるで先ほど自分のしたことを覚えていないかのように、平然と霊夢が言った。
それでようやく、目の前にいるのが紛れも無く霊夢であると認識したらしい。
突然正気に戻ったように、魔理沙はずさりと後ずさる。
「なななな、なんでここに!? どどどど、どうして私に!?」
「ああ、事情? こいつに全部聞いた」
そう言って霊夢は、背後にあったなにか、ずだ袋のようなものをぽおんと前に放り出した。
それはごろごろとしばらく転がっていたかと思うと、やがてにょっきりと顔を出して平時のような明るい声でのたまう。
「どーもー。毎度おなじみ射命丸でございます」
「なんか今朝からこいつが神社の周りをちょろちょろしてたからとっ捕まえてみたら、あっさりと白状したわ」
「あやや。もう勘弁してくださいよ。私だって本意ではなかったんです。でも現人神とはいえ山の神様の一柱にじきじきに命令されたら、私のような木っ端妖怪が断れるわけ無いじゃないですか」
「な、何を言ってるんです! あなたほとんど共犯みたいなものだったじゃないですか!」
いつの間にか泣き止んでいた早苗が大声で叫ぶ。
気持ちの切り替えが早いのか、そもそもあの泣き様が演技だったのか、微妙なところである。
「奴隷のように散々こき使われた挙句、罪を着せられて捨て駒にされる。これがしがなき社会の歯車の運命なのですね。およよよよ……」
「た、質の悪さじゃ天狗に敵う気がしませんよ、私も!」
醜い罵りあいを全くよそにして、霊夢は魔理沙のトレードマークの帽子を拾うと、埃を払って彼女の頭にかぶせてやる。
魔理沙はくすぐったそうに片目を閉じながら、その帽子のつばを慌てて押さえた。
「ほら、帰るわよ。あんたにも今回の件に関して、聞いておきたいことがあるんだから」
「そ……そうか。分かったぜ」
魔理沙はくるりと、アリスとパチュリー、そして木に縛られたままの早苗の方に振り返る。
「アリス、パチュリー。色々世話になったな。あとでこの礼はちゃんとするぜ」
「え、ええ……」
「それは別にいいんだけど……」
「早苗。諏訪子には今度会ったときにきっちり謝る。お前からもそう伝えておいてくれ」
「あ、はい……。……あの、魔理沙さん、霊夢さん。本当に今回はごめんなさい。私、幻想郷ならなんでも許されると思って甘えていたところがありました」
「もう気にしてないぜ。元はといえば、私のせいなんだしな」
最後にそう言い残すと、魔理沙は夕日で頬を赤く染めたまま、霊夢と並ぶようにして、東の空に飛び去っていった。
後には、あっけにとられたアリスとパチュリー、反省したようにしょんぼりとする早苗、そしてずだ袋が残された。
「……いったいなんだったの、今回の騒ぎは」
「さあ……。なんだかものすごく馬鹿馬鹿しい、鼠も食わないようなものを見せつけられた気分だわ」
アリスとパチュリーはそう言って顔を見合す。その間に割って入るように、ずだ袋がごろごろ転がってきた。
「あの……、そろそろ簀巻きにされた可哀相な天狗を解放してやろうという気になったりしませんかね」
アリスとパチュリーは無言で頷き合うと、それぞれ天狗の顔面と腹を同時に踏みつけた。
ぐええー、と蛙が鳴くような声が、妖怪の山に木霊した。
さて、後日の話である。
空を飛んでいた魔理沙を目撃した者が結構いたらしく、宝船の次は化物蛙かと一時幻想郷が騒然とした。
が、博麗神社が流布した話を聞くと、「なんだ、また守矢か」とみんな納得したそうである。
こんな具合で、幻想郷は今日もおおむね平和であった。
(終)
素直に読める作品で楽しませていただきました。
タイトルの魔理沙「様」の様の意味がよくわからなかったのですが。
最終的に良いレイマリでしたGJ
早苗たちとの会話や霊夢の登場、この件が「なんだ、また守矢か」で納得されたのとか面白かったですよ。
しかしレイマリはいいねぇ、東方の生み出したカプの極みだよ
なんで早苗が一番悪いことになってるのかわからんな
馬鹿にした挙句、帽子にゲロ吐くって最低最悪だぞ
しかも本人はそのこと忘れてるし、マジありえん
報復としてはかなり軽いし、呪いを解いたのが霊夢なら博麗神社の株が上がることはあっても下がることはなくね?
なんかよくわからんな
読んでて気持ちよかったです。
コント的な、一つのお話し として見れば また守矢か や往生際の悪く見える態度もネタとして美味しい所もって行ってる と見る事もできると言うわけで。
痛快な流れ、キャラの選定、そしてオチ。
今後も作者様の作品大いに楽しみにさせていただきます。
魔理沙の行いへの報いとして、はたしてこの結末が妥当だったのか。
根本的に被害者であったはずの早苗という人物の描き方はこれで良かったのか。
一方でアリスとパチュリーの言動は冷めすぎていないか。
別に私個人は早苗にも文にも特別思い入れはないですが、ちょっと扱いとしてはどうなのかなと思いましたね。
特に文好きの方々が、文=下世話で低俗という像を嘆いていることを知るだけに…
アリスとパチュリーは確かに第三者ですので一歩引いた言動を取るのは自然でしょうが、
この物語の中での立ち位置としてはあまりバランスが良くないように思いました。
長々と書きましたが、基本的に面白かったのは確かです。
タイトルは元ネタは
台湾ドラマ『カエルになった王子様』でした。
なんか語呂が良かったので。
>25さん
>51さん
>56さん
>62さん
>65さん
ギャグだから許されるというものではありませんでしたね。
決して特定キャラを貶める意図は無かったのですが、
そう見えてしまったのは全て私の配慮と力量が欠けていたせいです。
皆様方のコメント、重く受け止めさせていただきます。
不快に思われた方には深くお詫びします。申し訳ありませんでした。
がんばれ
そもそも一部の人間を揶揄しやすいように作られたと思わせるところが多々ありますし、それが持ち味だと思いますけど……
文も元々ゴシップ好きですし、閻魔に説教された後も月に留まった霊夢の生死を面白がったりしてますしねw
そこが話の魅力だと思うのですけど……今のこのサイトはそういうのを許せない年齢層が殆どなのかもしれませんね。
何だかいろいろやりにくくなってますけどがんばってくださいねw
私は面白かったですよ。
落ち着いた魔女の二人も良い
そして魔理沙かわいい
諏訪子の報復を勝手にやる所まではともかく、霊夢を陥れようとしたあたりが強引に過ぎます。
諏訪子の為に怒る。霊夢を陥れようとする。それぞれの事ならやるかも知れませんが、諏訪子の為の仕返しに別の謀を乗せるというのは流石に無いのではないでしょうか。
そして魔理沙。酒の席で狼藉を働いた。本人からは責められずに済んだけどその身内に罰を与えられた。しかしその罰は致命的なものではなく、ちょっと恥ずかしい程度で解き方まで教えて貰っている。
ここで何故「やった奴の所に殴り込みに行こう」になるのでしょうか。
そして次に来るのが、三魔女を正当化する為の強引で無理矢理な理由付け。
もう、一つの読み物として最低の作り方です。
これが早苗ヘイトの元に書かれているならまだ良いでしょう。
しかしそうでないのなら、この話の背後には「作者にとって都合の悪い事は誰かにかぶせてしまえば良い」という御都合で組み立てられた事になるからです。
所詮はゲームのキャラじゃん──そんな声が聞こえて来たような気がしました。
まあ、完全な悪役を演じさせられた早苗さんが可哀想、という意見も当然あるでしょうが。かく言う私も、もうちょい愛嬌のある悪役なら良かったかな、と思います。
ギャグ調で始まり突っ走るのかと思いきや、パチュリーが出てきたあたりから理詰めのミステリちっくに。こういう一見ばかばかしく見えるものを、論理で切り返すという展開は好きですねえ。
パチュリーかっこええ。
別に私は早苗さんが好きとかそういうわけではないんですよ。
ただ、身内が大衆の面前でバカにされた挙句帽子にリバースされて怒るなって方が無理だと思うし、これで一方的に早苗が悪いと決めつけているこの物語がどうしようもなく不快でしょうがない。
それを承知の上で魔理沙の肩を持つパチュリーとアリスも。……特にパチュリー。100年くらい生きてるしもう少し賢い子だと思っていました。
作者は魔理沙が大好きなんだろうなぁという事は分かりました。
馬鹿は勝手だがそれくらいの分別は付けといてくれよ。
作者に憤るのは分かるがコメでキャラ貶してりゃ同類じゃねーか。