Coolier - 新生・東方創想話

Pee-Kaa-Boo!! ~あややの紅魔館取材~

2011/10/28 01:56:01
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「毎度お馴染み、清く正しい射命丸です」
 お決まりの挨拶をして、烏天狗は満面の営業スマイルを相手に向けた。
「お、あやややだ」
「やが多いです。あやです、射命丸文」
「あやや」
「まだ多いです。あや」
「あやややや」
「増えてます」
 相手が誰であろうと営業スマイルと営業口調は崩さない。
 そう、例え相手が、氷精であろうとも。
「なにしに来たの?」
「おや、私は新聞記者ですよ? その私が来たのなら、用件は一つでしょう」
「……遊びに来た?」
「その通りです。チルノさん、今日は鬼ごっこでもしましょうか? じゃなくて」
 見事なノリツッコミだが、氷精はそれをネタとも思わず。
「よーし、じゃあ最初はあややややややが鬼ね!」
「それじゃあ三〇数えますよ、ってだから遊びに来たのでは無くてですね、と言うかチルノさん、わかってて名前を間違えてませんか!? なかなか間違えない間違え方ですが!?」
「よーし、逃げるぞー」
「あ、待ちなさい! 今日こそはチルノさんの記事を完成させますからね!」
 結果的に鬼ごっこになってしまった。
 これで取材を開始してもう四日目だ。


 伝統の幻想ブン屋、射命丸文。
 意外と、単純である。


   *


「……すばしっこいですね。この私が見失うなんて」
 霧の湖は厄介な場所である。周辺は常に霧に包まれ、場所によっては視界を完全に奪われてしまうほどの濃さにもなる。真っ直ぐ進んでいると思っていても、実際にはあらぬ方向に進んでいた、ということも多々ある。
「ふむ。これは策を練らないといけませんね。チルノさんが行きそうなところ。……紅魔館でしょうか」
 目を凝らすと、遠くに赤い建物が見えた。
「あそこの住人とチルノさんは仲良しと聞いています。これは向かう価値がありますね」
 文は建物に向かって突き進んだ。霧は薄れ、紅魔館が姿を現す。
「早速、聞き込みと入りましょう。どうもどうも美鈴さん! お勤めご苦労様です!」
「……すやすや」
「おっと、これはシエスタですね。仁王立ちのまま眠れるとは、素晴らしい身体能力の持ち主です。是非写真を一枚」
 カメラを取り出して構える。すると、ありえないことが起きた。
「……あやややや? この私が手ぶれを起こすなんて」
 どうしても美鈴にピントが合わない。
 ファインダーを覗くのを止めて、もう一度カメラを構える。
「蓬莱山輝夜嬢の難題『金閣寺の一枚天井』の取材完了まで三六四九枚かけた私に、撮れぬものなどそれなりに」
 しかし、やはりピントが合わない。周囲はくっきりしているというのに。それに、美鈴のポーズも変わっている。
「全く、今日はどうしたことでしょうか。……って、あやややや? 美鈴さん、起きていますか?」
「……すやすや」
「口に出して『すやすや』と眠る人なんて初めて見ました。というか、美鈴さん……動いて」
「……すやすや……じゃおうっ!!」
 いきなり美鈴が拳を突き出した。
「おおっと!? いきなり何をするんですか美鈴さん!!」
「……ぐー……ぐー……ほあたぁっ!!」
 今度は長い脚から繰り出されるかかと落としだ。
「見えた! 何がとは言いませんが! とか言っている場合ではないですね」
 文はギリギリで避けて、カメラを構える。
「これはまさか、伝説の睡拳でしょうか。さすがありとあらゆる体術を会得している美鈴さん、さすがです」
 烏天狗の取材魂に火がついた。
「これを撮影しない手はありませんね。チルノさんには悪いですが、今日は取材対象を変更しましょう」
「……むにゃむにゃ……あちょぉうっ!!」
「今です!!」
 シャッターを切ると、美しいフォームを切り取ることができた。
「これは見事な鼻ちょうちん。咲夜さんに見せたら、無数のナイフに取り囲まれること間違いなしです」
 文は大きく飛び上がり、美鈴の背後に立った。
「撮影完了。それではこれより紅魔館内部に潜入取材を慣行致します」
「……もう食べられません、咲夜さん……」
 美鈴は相変わらず、素早く動きながら眠っていた。


「あら、新聞の押し売りはお断りですよ?」
 エントランスに入るや否や、文の首筋にナイフが当てられた。
「門前に続いて最高の歓迎ありがとうございます」
「どういたしまして。今日は何の用事かしら、ゴシップ記者さん」
 咲夜はいつもながらの冷たい笑顔だった。目が笑っていない。
「実はですね、霧の湖でチルノさんを取材していたのですが、かくかくしかじかのこれこれうまうまという次第でして」
「なるほど、斯々然々の是々巧々ということなのね」
「話が早くて助かります。それで、チルノさんは見かけては」
「さっき来たわよ。図書館に入ったのは見たけれど」
「おお、目撃証言ゲットです。さすが紅魔館の誇る完璧なメイドですね」
「褒めてもケーキと紅茶しか出ないわよ」
 まんざらでもなさそうだ。
「それだけあれば充分です。それでは、私も図書館に向かうとしましょう」
 咲夜がナイフを消したので、文はようやく自由に動けるようになった。
「あ、今日はパチュリーさまが魔法の研究をしているから、静かにね」
「了解しました。……あ、この写真をお渡ししましょう。先程撮ったばかりのものです」
「あら、美鈴じゃない。今日も見事な鼻ちょうちんね」
 咲夜は壮絶な笑顔を浮かべる。
「すぐに叩き割って来ますわ」
「おお、怖い怖い」


 図書館に入ると、閲覧スペースに目的の姿を見つけた。水色の髪と青いワンピース。少し空気がひんやりとしているので、間違いは無いだろう。
 近付くと、鮮やかな紅色の髪と、深い紫色の髪が揺れた。
「どうも、毎度お馴染み清く正しくみんなで作る良い新聞、射命丸です」
「今日は来客が多いわね。外が暑いから、涼みに来るのかしら」
 パチュリーはそう言って、視線を手元の本に戻した。小悪魔は丁寧におじぎをする。
「おや。私とこの逃亡者以外には誰が?」
「逃亡者?」
「ああ、こっちの話です。とりあえず、タッチしておきましょう」
 チルノは幸せそうな顔で眠っていた。涎が机に広がっている。
「他には、トレジャーハンター気取りの泥棒さん」
「ああ、魔理沙さんですね。どっちに転んでも略奪者というのが実に魔理沙さんらしい」
「それと、都会派気取りの人形遣い」
「アリスさんですか。あんな森の奥で暮らしていて都会派気取りとは、いやはや」
「あとは、歴史編纂家と、不死の人間」
「慧音さんと妹紅さんですね。いい夫婦です」
「そして、急に押し掛けてきて、私の読んでいた本を見るや否や眠っちゃった氷精と、貴女」
「千客万来ですね。霊夢さんが羨ましがりそうです」
「誰もお賽銭は入れないけどね」
「ああ、あの巫女は誰かがいればいいんです。寂しがり屋ですから」
 文は眠りこけるチルノを一枚撮影して、パチュリーに向き直る。
「魔法の研究中と聞きましたが、どのような魔法で?」
「取材かしら」
「ええ、まあ」
「魔法生物の召喚魔法よ」
「どのような」
「本に擬態して、主の許しが無い者が触れたら噛みつく生物」
「いででででででででっ!! パチュリー、何なんだよこの本!?」
 書架の向こうから、トレジャーハンターの悲鳴が聞こえた。
「あら、早速働いてくれているみたいね。本採用しましょう」


 閲覧スペースに、図書館を訪れた全員が集まった。
 咲夜と小悪魔が用意したケーキと紅茶を囲んでのティータイムだ。
「酷い目に遭ったぜ。私の細くて長い指が失われるところだった」
 魔理沙が椅子に座って、右手をぷらぷらと振っている。
「残念だったわね」
「おい」
 キッ、と魔理沙がパチュリーを見た。
「貴女が本を盗むから悪いのよ」
「誰がいつどこから盗んだんだよ。人聞きの悪い。私は、私が死ぬまでちょっと借りてるだけだ」
「ここまで来ると屁理屈も立派な理論ですね」
 文は呆れ顔でそう言った。
「確かに魔理沙さんは人間。魔法使いであるパチュリーさんよりも早く老いて死んでしまうのはわかりますが」
「そうじゃないから困ってるのよ」
 アリスが紅茶を一口啜ってから言う。
「この白黒さんったら、自分がどうなっているかわかっていないらしくてね」
「と言いますと?」
「魔理沙は、そろそろ半分……人間じゃ無くなってるわ。長く魔法に接した影響ね」
「つまりは、後天性の変異か。まるで私みたいだ」
 慧音が気の毒そうに魔理沙を見る。
「てことは、私も角や尻尾が生えるのか? 参ったな、これ以上可愛くなったら困るぜ」
「……心配いらんな、この様子じゃ」
 慧音はため息をついた。
「ですね。まあ、形はどうあれ長生きするのはいいじゃないですか」
「それを私のいるとこで言うの?」
 今度は妹紅が文を見る。
「死なないって、結構辛いんだよ」
「てことは、永遠に可愛いままでいれるってことか。やん、照れちまうぜ」
「……こいつ、今消し炭にしてあげようか」
「うーん、異論は無いんですが、さすがに惨劇を記事にしたくありませんねえ」
 妹紅と文の視線に気付いて、魔理沙は左手もぷらぷらと振る。
「冗談だよ、冗談。イッツマジシャンズジョークだぜ」
「いやいや、魔理沙さん、半分本気だったでしょうに」
「そんなことないぜ。八割本気だった」
「惨劇を記事にするのもやむなしでしょうか」
「これも冗談だ。イッツスターダストジョーク」
「星屑の冗談ってなんですか」
 魔理沙は長生きしそうだ。この場にいる全員が口に出さず、そう思った。


「んあ」
 チルノが起きて、凍った涎をパキパキと壊す。
「お目覚めですかチルノさん」
「お、あやややだ」
「……もうそれでいいです。あややややでもあやややややややでもいいです」
「どうしたの文。あたいに用事?」
「ここで正解を出すとは、あなどれませんね、この氷精」
「あたいと遊ぶ?」
「もう充分遊びました。ですが、チルノさんのお陰で色々と面白い記事が書けそうです」
 眠ったまま攻撃を繰り出す門番や、新たな魔法を会得したパチュリーなど、ネタのストックは出来た。
「ありがとうございます、チルノさん」
「え、よくわかんないけど、どういたしまして、あやや」
「また間違えましたね。もうどうでもいいですけど」
「それじゃあ、あたい帰って寝るね」
「本当に自由ですね、チルノさん」


 チルノと文が並んで紅魔館を出ると、門前に美鈴が立っていた。
「おや、美鈴さん。今度は起きていますね」
「あ、お帰りですか」
「ええ。……どうしたんですか、その怪我」
「咲夜さん特製の目覚まし時計で起こされました。時間になると、ナイフが飛んでくるんです」
「それはきっと、目覚まし時計ではなくて本人です」
「ああ、やっぱり。いつもより本数が多いと思ったら」
 美鈴はにこにこと笑っている。
「めーりん、何かいいことあったの?」
「え? ううん、いつも通りに、平和な一日だったよ?」
「多分、一杯侵入者がいた一日ですよ」
 文の言葉に、美鈴が焦ったように。
「え、侵入者? 一体どこに!?」
「ああ、忘れてください。美鈴さんはいつまでもそのままで」
「わかりました! では、お気を付けて!」
「切り替え早いですね。では、ごきげんよう」
「ばいばい、めーりん、文」
「……最後の最後でまた正解を出すとは、本当にあなどれませんね、あの氷精」


   *


 伝統の幻想ブン屋、射命丸文。
 毎日を、こんな感じで過ごしている。
 彼女の書く記事は、あながち間違いではない。
 どうも。はじめましての方ははじめまして、そうでない人はごきげんよう。そして創想話ではみなさまはじめまして。春日と申します。普段はmixiで色々書いてます。
 バカらしい話を思いついた、というか勢いで書きました。小説じゃねぇなこれw

 じゃあバカらしい話を自分でつっこんでいきますか。

>pee-kaa-boo
 いないいないばー。
 最初はチルノと遊ぶだけの話にしようとしたんですが、どうにもこうにも、文は勝手に動いてくれるので、こんなカオスなことに。

>あやややややや
 絶対にチルノは、わかってないでボケてる。

>金閣寺を三六四九枚
 今千枚近くかけてるけど、まだクリアできる気がしません。
 レベル10までは出したんだけどなー。

>毎度お馴染み清く正しくみんなで作る良い新聞
 愛媛地方で大人気。

 他にもいっぱいツッコミがあるけど、まあ、それはそれぞれみなさん、つっこんで下さいなw
 もうね、勢いだけで書いたんです。文と魔理沙とチルノが入ると本当にカオスになりますね。最高だぜ。

 また何かあれば、よろしくお願いいたします。
春日かける
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コメント



0.1260簡易評価
4.90奇声を発する程度の能力削除
チルノ可愛い
13.80とーなす削除
テンポのいいコメディ、と言った感じでした。
こんな毎日だったら飽きないだろうなあ。

>>「……すやすや……じゃおうっ!!」

JAOOOOOOOOOOOO!
19.80名前が無い程度の能力削除
ここのチルノは絶対わかってる
やをたくさんつけて文を困らせて遊んでる

だがそれも可愛い!!
22.100名前が無い程度の能力削除
のどかで楽しそうな取材ですね
良かったです
31.無評価名前が無い程度の能力削除
とりあえず作者は、「捨食 捨虫」で検索をかけましょう。
いくらなんでもこれは酷過ぎる。