Coolier - 新生・東方創想話

迷子猫と瀟洒なメイド

2011/12/05 18:45:39
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 ――My dear Sakuya Izayoi.
 こんなラブレターをしたためていると、星くずのペンで魔導書を編んでる気分になるんだ。
 たったひとつの想いを伝えるための言葉があふれてとまらないから、ひたすらに私は恋の魔法を書きためてる。
 今まで作った手紙は、もう引き出しに入らないくらいさ。そのなかでもとっておきのおまじないを、こうして咲夜に届けてるんだぜ。

 ▽
 アルストロメリアの花言葉は『凛々しい』――うんなるほど、ぴったりだな。そういうわけで、この蒼い栞は私からのささやかなプレゼントだ。
 あの素っ気ない部屋の小説、咲夜の私物かなあ。そうそう。毎度のデートのお誘いも忘れないでくれよ。すてきなエスコートをこなしてみせるからさ!









 ゆっくり椅子から立ち上がって自室の窓を開けると、魔理沙からの恋文を運ぶ虹色の伝書鳩がマーマレードの夕空に羽ばたいていく。
 そのまま飾り気のない机に置いてある、ちょうど読みかけのエッセイ――スタンダールの『恋愛論』に、そっと添えられた押し花の栞を挟む。
 白い世界に咲く蒼、とてもすてき。ふんわりうれしく想う自分にふと気づいて、ひとりかぶりを振った。こんなささやかな強がりも、貴女は笑って許してくれる?

 ただのいたずら。くすっとしておしまい。最初は冗談だと思っていた。それでしれっと無視を決めこんでも、めげずに彼女は何度も何度も手紙を送って寄越す。
 星空の便箋。きれいな筆記体の英字と、まあるいかな文字。ものすごくべたべたで、読んでる方が恥ずかしい――愛の言葉の数々が綴られたラブレター兼デートのお誘い。
 つたない魔法の恋文からは、魔理沙の切実な想いがひしと伝わってくる。そんな一途な彼女を、今まで私は知らなかった。だってあの子はチェシャ猫、もとい白黒の雑種だから。

 よく分からないうちに美鈴と仲良くなって、なかば顔パス状態で堂々と悪魔の館に侵入する。
 だだっ広い図書館の一角を堂々と占拠、少女読書中――まったく無警戒なのでおもいっきり怒鳴りつけると、ぴょんと飛び上がった後どてっと転ぶ。
 そこに乙女の恥じらいはこれっぽっちもなくて、盗人の分際で「紅茶でも出してくれないか」とのたまう図々しさ。ずるずると引っ張り出した回数は数えきれないわ。
 挙句フランドール様の部屋に入りこみ、どんぱち派手な弾幕をやらかすせいでアンティークの家具が台無し。しかも妹様の笑顔で推定無罪。あの野良猫はとにかくたちが悪い。

 そうしてあれやこれやと相手をしてるものだから、魔理沙と話すというかお説教の機会は自然と増えた。
 どうでもいい戯言をからかって笑ったり、私の部屋で三時のおやつを食べたりだとか。そんなささやかな時間が、さり気ない楽しみになっていた。
 あの向日葵の笑顔が咲くと、すてきな元気を分けてもらえる。でもまさか、告られるとは……このラブレターを読み返すたびに考えてしまう。どうして、わたしなの?
 もちろん魔理沙からの答えは、すべて恋文に書いてある。それは素直に、うれしかった。とっても、うれしい。たぶんきっと私は、このココロが抱く感情にとまどっている。
 わからないフリなんて、できるわけがなかった。まともな答えも返せないまま、つい知らんぷりをしてみても、いつものように魔理沙は紅魔館にやってきてはめんどくさい仕事を増やし――


 りんりん、りんりん。りんりん、りんりん。
 パチュリー様の作った魔法の鈴が、お嬢様からの呼び出しを告げる。
 おかしいわ。さっき朝食をお召し上がりになって、ちょうど今はティータイムを楽しんでいらっしゃるはず。
 かまってほしいの。なんて愛くるしい理由も多いから、だいたいそんな感じかしら。そっと時を止めて、最上階のテラスへ向かう。



  †††††



 ふと見上げる空は、きれいなオレンジ。その夕陽を遮るようにあつらえたバルコニーのテーブルにはふくれっつらのお嬢様と……なぜか白黒の猫がいた。
 なるほど、そういうこと。今度から魔法のトラップを仕掛けておくわ。いつの間にかキスマークがほっぺたについてるとか。くるり世界を反転させると、再び時が動き出す。

「お嬢様。お呼びでしょうか」
 あくまでも冷静を取り繕って、てのひらを胸元に当てる。
 うやうやしくかしずくと、あからさまに不機嫌な感じが伝わってきた。
「……さっき咲夜が教えてくれた、白い薔薇の花言葉が台無しになった。こいつのせいで、私のときめくハートがぶち壊しだ」
「いやいや、お前あからさまにデレてたじゃないか。ちょっとおちょくったら『わ、私は、その、咲夜、さく、や……』って恥ずかしそうな声で――」
「おい白黒。それ以上なにか喋ったら殺すぞ。わりと私は本気だ。そもそもお前みたいな人間風情が、吸血鬼の優雅なひとときを邪魔するなんて生意気なのよ」
 どすの利いた脅し文句も、ただの照れ隠し。とても健気ですてきですわ。
 お嬢様のお惚気、ぜひとも聞いてみたい――思わず口が滑りそうになった。
 それはともかく。たぶん親愛なる夜の王は、魔理沙のちょっかいに耐えきれなかったらしい。
「"これ"はどかしておきますわ。何度も言い聞かせているのですが、どうにもならなくて」
「それもなんだけどさ。この変なのが私の紅茶まで取り上げて、ティラミスまで食べちゃったの。だから――」
「あれも咲夜お手製なのか。めちゃくちゃおいしかったぜ。それはそうと私としてはだな、咲夜の焼いたアップルパイが食べたい」
 いちいち会話に割りこんできてほんとうざったいのに、なぜかどうしてか怒る気にすらなれない。
 それは魔理沙のまっすぐな性格と微笑みが、みんな大好きだから。ただそれで可愛いと餌付けしてる現状は、残念ながら私も否定できなかった。
「かしこまりました。お待ちくださいませ」
「ちゃんと客人の分も用意してくれよ。今の私は腹ペコな気分なんだぜ」
 ずいぶんと流暢な日本語を話す迷子猫を無視、もう一度砂時計を反転させる。
 ささっとキッチンまで移動して、あれこれと食材を取り出す。時間は無限でも、やっぱり落ち着かない。
 たっぷりの生クリームとほろ苦いココアのティラミス。アールグレイのロイヤルミルクティー。あとはええと、アップルパイ?
 ああめんどうなものを――あれこれひとりで動き回って、すべて完璧に作り終える。その足でぱたぱたとテラスまで戻り、主の前にスイーツを並べ直した。

「うん。ありがとう咲夜。このティラミスは私も好きだけど、フランドールが喜ぶと思うからあの子にも作ってあげて?」
「それはうれしいですわ。まだ妹様はうとうとしていたもので、お食事もこれからです。お褒めのお言葉が楽しみになりました」
 そんなやりとりを聞いていた魔理沙が、お嬢様と打って変わって不機嫌そうな表情で抗議し始める。
「咲夜。私の分は?」
「野良猫にあげる食べ物はないの」
「……ひょっとして、ちょっと怒ってる?」
「ううん。持ってこなかったら、どんな顔するのかなって思ったのよ」
「なんだよそれ。そんなもん見てのとおりだぜ。そうだな、じゃあこうしよう。さっきのレミリアが話してた咲夜の――」
「そうか解った白黒。貴様は自殺志願者なのか、余程この私に殺されたいとみえる。さっきのこと喋ったらもれなく死刑だからな!」
 それは正直なところ困りますわ。あとから問いただす楽しみがなくなってしまいます。
 このままにしておいたら、必ず魔理沙は自白する。私としても興味津々だから、まったくもって悪くない。
 メイド冥利に尽きるけれど、そのときのお嬢様を想像するだけで十分だから、とりあえずこの雑種をさっさと追い払ってしまおう。
「お嬢様。庶務に戻りますので、なにかありましたらお呼びください」
「うん、助かった。フランドールが起きてくるまで、咲夜も休憩でいいよ」
 ありがとうございます。と深く一礼して、そばにおいてあるとんがり帽子とほうきを取り上げた。
 すたすたテラスから歩き出すと、残りのティラミスを慌てて口に放りこんで、とてとてと魔理沙がついてくる。
「おい咲夜、咲夜ったら、ちょっと待てよ。待ってってば!」
「ここはお嬢様のプライベート。貴女みたいな人間がいてもいい場所じゃないの」
「まず咲夜がおもいっきり人間じゃないか。私も吸血鬼のたしなみだかなんだかを楽しんでみたいんだぜ」
「……そう言えば、私の部屋にアップルパイがあったの。そうね。あれはパチュリー様と美鈴に届けておくけれど、それでいい?」
「よくない。全然よくないぜ! あーもうまったくなんでそうやってひねくれてるんだよ。あれだろ。咲夜って喋らなければ美人って――」

 うん。やっぱりわざわざ作ってやるべきじゃなかった。こうやって甘やかすからいけない。それに最後の台詞は、そっくりそのまま貴女に言い返してあげるわ。
 お化粧もばっちりでとても可愛いのに、もろもろの仕草ですべて台無し……私ったらなにを考えてるのかしら。ああだこうだとはしゃぐ魔理沙と、館の端にある自室へ歩いていく。

 テーブルのアップルパイを見るや飛びつく様子を観察してると――チェシャやペルシャ混じりの雑種ね。そんな戯言をつぶやきながら、ミルク先入れの紅茶をそばにおいてあげる。
 甘味に浸したりんごの歯ごたえとさっくりなパイ生地のアクセントが自慢の一品は、魔理沙のお気に入りらしい。すてきな向日葵の微笑みが咲いて、ふんわりしあわせが伝わってくる。
 お嬢様が喜んでくださるときの――真紅の薔薇に誓う愛おしさと異なる想いが、やさしくとろけて心をあたためた。あどけない彼女の笑顔を見ていると、どうしてもどきどきしてしまう。

「……あの手紙ってさ、咲夜は読んでくれてるのかな?」
 ついうっとりと魔理沙に見入っていたので、いきなりの問いかけに焦ってしまった。
「ええ、もちろん。魔法の鍵でしか開けられない、この引き出しにすべて入ってるわ」
「それなら手っ取り早いぜ。私だって返事を待ってるのに、ずっと答えてくれないからさ」
 ただのジョークだと受け取っていれば、すぐに茶化してあげられたわ。
 でも、答えたくても、答えられない。まっすぐな貴女の気持ちと、私は向き合う勇気がないだけ。
「ノーコメント。つまり、そういうことよ」
「いいや、違うな。迷ってるとか、恥ずかしいから。そんな理由だってありえるぜ?」
 これっぽっちも悪びれず答える魔理沙は、なにもかもお見通しという感じで笑ってみせた。
 うそはつきたくないし、なんにも言えない。時を止めても心は、ちょっとずつ大人になっていく。
 うしろ向きな私って、ひどい臆病者なの。大好きの想いで始められない恋、なんだかとてもせつないわ。
 たった一言、貴女が教えてくれたおまじないを唱えたら、必ずむくわれるのに。ちくりと心のささくれが痛んだ。
「あら。そうやってフられてるかもしれないのに、ずいぶんと前向きなのね」
「そりゃそうだ。きれいさっぱり断られるまで、いつまでも私は咲夜の言葉を待ってるぜ」
「恋色の魔法使い様からの美しい恋文、真に光栄の極みでございます。かのような真摯な想いを伝えられては、私もお断りできませんわ」
「すっごくわざとらしいし、なんかうさん臭いからだめ。ちゃんと声を聞かせてほしいんだよ。手紙でもいい。あ、そうだ。キスでも大歓迎だぜ!」
 さり気なくとんでもないことを言うものの、とっくに魔理沙の気持ちなんて分かりきっていた。
 そもそも問題は私の方で、なぜ彼女が気になってしまうかと言えば……少なからず自分と似てる部分があるから、なのかしら。
 悪魔の犬と蔑まれても"人間として"ひとりを選んだ私と、たくさんの親しい人に囲まれながらも、夢を追いかけてひとりぼっちになった魔理沙――くだらない理由付けをしているだけね。
 恋が芽生える理由なんて、ほんのささやかな希望や未来を願うことでしかない。神様が仕掛けた運命のいたずら。あのすてきな笑顔が、私が恋に落ちた"わけ"だ。もはや考えるまでもない。
「……恋符のグリモワール、そっと読み聞かせてほしいわ」
「ああ、それならさ。私の家に散らかってる咲夜宛ての手紙を編んだら魔導書になるかもな!」
「めちゃくちゃ恥ずかしいからそれはやめて。パチュリー様に見つかったら悲惨なハメになりそうだし」
「まあな。私の想いはあの手紙のとおりさ。ときめいちゃったらおしまい。恋のロジックなんて、しょせんそんなもんだぜ」
「そうかもしれないわね。ちょっとしたきっかけと自惚れ。まさに今の魔理沙っぽいわ。それで、あとね、答えなんだけど……」
 そこで言葉を切って、ひとつ息を吸った。
 あの手紙に綴られている恋の魔法が、ひんやり冷たい心を恋焦がす。
 星くずで編んだ真っ白な薔薇のブーケは、お嬢様の寵愛とは違うすてきな想いを伝えてくれた。
 今なら時計の針を逆にまわして、素直な自分に戻れる気がするの。ただ私は、理屈抜きで魔理沙に愛されたい。
 そんなわがままも、きっと許してくれるはずだから。ようやく決めた。これから始まる私たちの物語のために、あの美しい蒼い花の栞を使わせてもらうわ。

「デートだけなら、付き合ってもいい」
 ちょっと私より背の低い子猫が、ばたんと椅子から立ち上がった。
 大きなひとみをまたたきさせながら、そばに近づいてきてじいっと見つめてくる。
「ほんと? ほんとか!? うそだったら私のハートが壊れちゃうぜ!?」
「だいじょうぶ。すてきなエスコートを期待しておりますわ。深遠の国の王子様?」
「よっし任せとけ! ええと日時は咲夜に合わせる。もちろん雨天決行な。相合傘したいから」
 あれやこれやと予定を話す魔理沙の弾んだ声を聞いていると、なぜか私まで気分がよくなってきた。
 それよりも、とにかく照れくさい……つんとすましてあくまでも瀟洒を気取っていると、ふいにきらきらきらめくひとみと視線が重なった。
「……魔理沙。髪の毛、伸びたわね」
「今ちょうど私も咲夜に同じこと言おうとしてたぜ」
 くすくすふたりで笑いあうと、なんかつくづく楽しくて仕方ない。
 ふんわりシャンプーのいい匂いをまとうロングヘアを、さらさらとやさしくすいてあげる。
 くすぐったそうな魔理沙はとてもうれしそうで、ついぬいぐるみにしたくなってしまう。この人懐っこさが、ほんとに可愛らしいわ。
 なんとか私の部屋で飼いならせないだろうか。わがままでしつけもめんどくさそうだし、あれこれと餌代もかさむからだいぶ非現実的な妄想ね。
「さて。そろそろ私はフランドール様の給仕に行かないと」
 ぽんとさんかく帽子を魔理沙の頭に乗せてあげると、ぱたぱたと本棚に近寄ってなにかを取り出してきた。
 私のお勧めだぜ。そう言って手渡された本は、私の大好きな――不思議の国のアリスがラブロマンスを繰り広げる、童話形式の短編集だった。
「咲夜ってさ、恋愛小説しか読まないのか?」
「……ええ。たぶん、ね。あこがれているのかもしれないわ」
「この本みたいなすてきなデートにしてやるから、ちゃんと予習しといた方がいいぜ」
「ふうん。なかなか面白いこと言うのね。私は夢現なシンデレラになりきってエスコートしてもらえばいいのかしら?」
「それでばっちりだ。アンドロメダのプラネタリウムは用意してあげられないけど、絶対に咲夜が忘れられない永遠の記憶にしてやるぜ!」

 そう言い残して、オレンジと闇が交じり合う空を颯爽と駆け抜けていく魔理沙を、遠目にぼんやりと見送った。
 そこまでたいそうなプランを貴女が用意できるなんて、これっぽっちも考えてないんだし気負わなくていいのよ。
 ぽつりつぶやいてみるものの、いざ約束の日が決まるとすごくうれしい。なにかとかっこつけたがりな彼女は、いざ口に出すと"さま"になるから困りものね。
 それも魔理沙『らしい』の一言で済んでしまうあたり、ほんとずるいって思うの。気がつくと私はときめいて、センチメンタルな恋を想うともうどうしようもないわ。

 それとなく机の上のスタンダール『恋愛論』から蒼い栞を抜き取って、さっき魔理沙から受け取った本で一番お気に入りの短編に挟んでおいた。
 たぶん私も彼女も、はじめてのデート。こんなロマンチックな物語みたいな恋路になるはずがないのに、あの自信満々な台詞を信じてる私もそろそろお馬鹿が伝染したのかもね。
 あの恋色の魔法使いなら、きっと私の願いを叶えてくれる――ピュアな淡い恋心が陽炎のようにゆらめいて、「ありがとう」とささやいてみると、ふんわりスウィートな気分になれた。
 ずっと、ね。ひとりが好きだった。今もそうかもしれないわ。こんな私でも、貴女は愛してくれるのかしら。たった数日間、魔理沙と会えないだけで、さみしいと思ってみたりするのよ?

 ――このラブレターをもらってから、ずいぶん前髪も伸びてしまったみたい。
 ひとみに掛かりそうな毛先をつまんで、ほんの少し切ってみようかなと思って、やめた。
 もしも魔理沙が「ロングヘアの私が好き」なんて言ってくれたら、いっそ姫カットにでもしてみたいわ――



  †††††



 どこまでも続く空は、エメラルドに染まる群青。まったく人気のない中庭に差しこむ陽だまりのにおいが、ふわっとやさしく身体中を包みこんでくれた。
 パンジーの花壇の煉瓦に座って、ポケットから銀無垢の懐中時計を取り出す。今は時計の針を進める能力がほしいわ。くすっとひとり笑って、水色の風をまとい空を舞い踊った。

 だんだん民家が増え始める里の入り口手前で着地して、ゆっくりと周りを見渡しながら大通りを歩く。普段は妖精メイドに買い物を命じているから、ここまで足を運んだ記憶は久しくない。
 たくさんの笑顔で溢れ返っていた人々の喧騒に紛れ、ひとりぼっちだったころをふと思い出す。あのときから無意識に止めていた時間を、お嬢様が、そして魔理沙が、そっと動かしてくれた。
 そんなメランコリックな感傷に浸っていると、中央の広場が見えてきた。おそらく約束の時刻から30分ほど前……なのに、白黒の野良猫は、すぐそばのベンチに座ってうつらうつらしていた。

「魔理沙?」
 すうすうとやすらかに眠る彼女は、とってもしあわせそうな笑顔を浮かべていた。
 それがものすごく可愛いものだから、起こしたいとも思えず……となりに座って、魔理沙の寝息に耳を澄ます。
「さく、や、さく、や」
 ほんと、ね。どんな夢を見ているんだか。
 その貴女が見てる白昼夢は、きっと覚めないわ?
 ゆらり揺れる魔理沙を身体で支えて、ふたり寄り添うと私もしあわせ。
 待ち合わせの時間をすぎても、こんこんと彼女は眠っていた。ふいに伸ばすちいさなてのひらに、そっと想いをこめて重ね合わせてみる。
 やわらかいぬくもりが、ゆらりたゆたう。それで気づいてしまったのか、いきなり大きなひとみがぱちっと開いて、うっとり私の顔を見上げた。
「……さく、や?」
 お目覚め如何かしら。私の親愛なる王子様?
 わざとらしくお姫様を気取って微笑むと、魔理沙は今の状況を把握してあわふたし始めた。
「な、なんで……ちょっと、やだ。私、寝ちゃってたのか?」
「ええ。私が見かけたらそれはもうすやすやと。ほんと熟睡って感じだったわ」
「そうじゃなくて、ちゃんと起こしてくれよ! ってもうなんだよこれ、待ち合わせの時間から40分も過ぎてるじゃないか!」
「貴女からのデートのお誘いなのに平然と遅刻してしまうなんて、はっきり言って失礼だと思うのだけど。恋色の魔法使い"さま"としての反省の弁は?」
「えええこれ遅刻扱いになっちゃうのかよ!? いや、どきどきしてまったく眠れなくて、でも朝方は睡魔がひどかったんで、その、遅刻したらいけないし、結局3時間くらい前に――」
 そこまで言い終えてから、はっと魔理沙は口をつぐんだ。
 まんまと私の口車に乗せられて、ついぺらぺら喋ってしまったことを後悔してるらしい。
 そんなにほっぺたをほおずき色にしなくても、ね。貴女の一途な想い、ほんとに私は大好きなのよ?
「これは失礼を。親愛なる人を大変お待たせしてしまい、返す言葉もありませんわ」
「そのレミリアに接するときみたいな口調やめろよな! ああほらもう、さっさと行くからついてこい!」
「あらあら。王子様のエスコートとしてはいささか乱暴ではなくて? やさしく手を引いてもらえるのかと待ち焦がれておりましたのに……」
「いちいちうるっさいなあ! そ、その、いきなり手を繋ぐとか、そ、そんな、はず、恥ずかしい真似できるかよ! いいから私のあとに続く、はやく!」

 さっと帽子を深めに被り直しても、ちっとも隠れてないから可愛い。もっとからかいたくなってしまうけれど、ほんの少しくらいは顔を立ててあげないといけないわ。
 そう心でつぶやいて、彼女の後ろを追いかける。私よりもだいぶ身長が低いので、どうしても歩幅的に魔理沙が早足気味。わざと先に進むと袖を引っ張ってきたり、なにかと仕草が愛らしい。

 もちろんデートコースは魔理沙におまかせ。私を連れて歩く彼女は気分上々で、元気いっぱいな言葉から謎の自信が窺える。まず最初のイベントは、私も馴染みのブティックだった。
 幻想郷でも数少ない洋服を専門に扱うお店で、紅魔館支給のメイド服も製作してもらっている。店内の衣服は予想以上に品数が豊富で、それでいて派手さも抑え目な質素なものが目立つ。
 あれこれ見渡していると、魔理沙は我が物顔で従業員通路から二階へ上がっていく。そのフロアに並ぶお洋服は先程とは違って、きらびやかでお姫様みたいなドレスばかりが展示されていた。

「――すべてオートクチュール、なのかしら。どれも値札もついてないし、さっきとだいぶおもむきが違うわ」
「ああ。アリスが趣味で作った洋服を、オーナーの意向で譲り受けて販売してるんだ。必ず咲夜ぴったりのドレスがあるかなと思ってさ」
 そんなことを言いながら、ちらちらと魔理沙が私を見やって微笑む。
 ようやく私は真意に気づく。どうも以前から私服姿を見たいと話してたので、おそらくメイド服と違うものを着せたいのだろう。
 でもまさか「デートに行きます」なんて言えないし、さすがに仕方なかったのよ。一応はお嬢様にお休みはいただいているけれど、その時間で里に出向く名目上はお使いだ。
「うん。はじめてのデートとしてはなかなかの選択肢ね。さっそく見てまわりましょう?」
「残念ながらお断りだ。もうあらかじめ私が見繕ってあるから、それを咲夜が試着してぴったりだと"私が"お気に入りの服を買うんだぜ」
 それってなんか、ちょっと男の子っぽい。というか、デジャヴを覚える。
 きっとたぶん、ね。私がお嬢様のためのお洋服を選びたい気持ちに近いのかもしれない。
 ひとり納得してしまったし、おとなしく着せ替え人形になってあげるわ。なんだかんだで魔理沙はおしゃれだから、すべて任せてもだいじょうぶ。
 貴女だけのシンデレラになりたいの――そう考えると、こんなかたちもすてき。そのままカウンターのそばまで移動すると、店員と魔理沙が様々な衣装を持ってきた。

「……ずいぶんと、たくさんあるのね」
「そりゃそうだ。私の想像で考え抜いたものばかりだぜ。まずはこれからな!」
 どんな妄想なのかしら。あのラブレターのとおりだと期待してもいいの?
 ふいに浮かぶ笑みを押し殺して、それなりの広さの試着室に入る。さらっと馴染んだ服を脱いで、あえてなにも考えずに受け取った衣服をまとう。
 まっさらなワイシャツに紅いネクタイ。その上に濃紺のブレザーとプリーツスカート。だいぶ長めのニーソックス。姿見で確認してみると、どこか礼装みたいな感じだった。

「とりあえず、これでいいの、かしら?」
 ドレッシングルームのカーテンをおそるおそる開けると、すごくうれしそうな魔理沙がくすくすと喉を鳴らして笑っていた。
「あはははははははははは! めちゃくちゃ似合ってるぜ咲夜!」
「……そう思うなら、素直に褒めてよ。なにかおかしかったりするの?」
「いやそれさ。それだけさ、アリスが作ったものじゃないんだ。早苗から借りてきた『制服』ってやつ。外の世界だと学校、まあ寺子屋みたいな場所に通う女子が着る服なんだよ」
 なるほど。これは彼女のものだから、サイズが微妙どころかだいぶあわなかったのね。
 このスカートの丈も、本来ならもっと長くて……まあセクシャルな意味合いで考えると、もしかしたらありなのかもしれない。
「これ、ね。着せてみたかったわけ?」
「早苗いわく『その着こなしで女性の魅力が分かるもの』らしいからな」
「……どちらかと言えば、普通に着てると中性的にしかならない気がするわ」
「だから私もあらかじめ訊いておいたよ。もちろん着た経験なんてないし。こうして、みるらしいぜ?」
 そう言うや否や、いきなり魔理沙がブレザーのボタンを取り払ってしまった。
 そしてタイをだらっと緩めにほどくと、そのワイシャツのボタンをぷちぷちと外していく。
 ちょっと、どうなの……ぽっとわずかに顔が赤らんだ。あまりはだけるとブラジャーまで見えてしまう。
 さすがにそこまではしなかったので、ほっとひとつ息をつく。それよりも魔理沙のほっぺたが赤いような気がする。
「さっきよりなんかだらしなく見えるし、なんか男の子が好みそうな感じ」
「そうだなあ。早苗のときもそう思った。でもなんだろ。咲夜は、いやらしい感じが、する……」
 さらり暴言を吐いたとうの本人が、なぜか挙動不審で大きなひとみをくるくるさせていた。
 たしかにこれはやりすぎると卑猥かもしれない。このくらいのふとももや胸元の露出だと人目を引いてしまう。
 でもたぶん彼女が気にしてるのは……あまりよろしくない嗜虐心がふつふつと湧いてきて、ついおかしな言葉を口走った。
「ねぇ。どうして目をそむけるの?」
 しれっと私より背の低い魔理沙から身体が下になるように、低く腰を屈めて見上げてやる。
「そ、その、いや、だめだって、もろ見えてるから!」
「どうして? さっきボタン外したの、貴女でしょう?」
「いやそれはさ、こうした方が可愛いよって言う早苗の……」
「たぶんお色気的な意味合いが強いと思うの。でもね。男の子ならまだしも、女の子同士なんだから気にしなくても――」
「ああああああああだって胸とかどう考えてもすごいしもう気になって仕方ないんだって肌は真っ白で脚もすらっと長いしふざけんなよ!」
 案の定そういう、ね。あれこれと気にしてるところ、お年頃な乙女らしくてとっても可愛いわ?
 その気持ちは分からなくもないのよ。たんにあわふたする貴女がキュートで、思わずいじわるしたくなるの。
 まっすぐな魔理沙だからこそ、なおさら好きになってしまった。ひねくれて振舞うくせに、その想いは素直に私へ向けてくれるから。

 はいはい次次と急かす魔理沙から次の洋服を受け取って、再び更衣室に入りこむ。
 今度はハート型のバラリースがいつくしいクラシカルロリィタな印象を醸し出す、ホワイトローズのフリルがふんだんにあしらわれた純白のジャンパースカート。
 普段お嬢様が着用なさっているプリンセスドレスのような、あの人形使いが好みそうな衣装だった。今度こそ私は本気で恥ずかしかった。端的に言えば、甘い。甘すぎて"がら"じゃない。

「おおっ! いいないいな! これ以上ないってくらい似合ってるぜ!」
 さすが私のセンスは最高だとか自画自賛を繰り返しながら、とてとてとなりに魔理沙が寄ってきた。
「……ちょっと、派手すぎるわ。なんかシンデレラみたい」
「まあそんな趣味のやつが作ったんだからな。それよりさ。こうして並ぶとぴったりじゃないか?」
 いきなり魔理沙がくるっと身体を回転させたので、私も振り向くと鏡に視線が注ぐ。
 黒を基調とした気品あふれる装束の魔法使い。なぜかお姫様っぽい純白のドレスをまとう私。
 白黒のコントラストが映えて、なかなかに美しかった。デートに望むときなんか、こんな着こなしだとふたりの"きずな"が感じられてすてき。
「うん。もう少し貴女の背が高ければ完璧ね」
「さり気なく余計な茶々を入れるなよ。まあでもさ、この感じだと咲夜のきらきらな髪の毛が控えめになっちゃうかも」
 ちょっと黒が混じってた方がいいかな。ベストを羽織るかたちで――ぶつぶつと思案する魔法使いは、とにかくうれしそうだった。
 ついきれいだと自惚れてしまう私のしあわせも知らず……あとで髪を伸ばしたら似合うか訊いてみようかしら。あのときに切らなくてよかったわ。
「たまに魔理沙も白中心のお洋服を着るんだから、私が白じゃなくてもいいと思うわ?」
「そうなんだけどさ、なんか一発で気に入っちゃったから。黒のゴシックも色々と用意してあるんだが……」
「貴女の黄金色の髪の毛だったら、白と黒のどちらでも似合うと思うし、むしろ私が選んであげたいくらいよ。っていうか、そうしましょうか?」
「いや、いやいやいやだめ、ぜったいだめだ! あのさり気なくおかしなハーブティーを飲まされる感じで、さらっと私の趣味じゃない服を着せられそうだし!」
 どうしてそんなに恥ずかしがるのかよく分からなかったけれど、この衣装だったら絵になるかなと思って跪いてみた。
 そっと魔理沙のちいさなてのひらをとって、手の甲にキスを落とす。お慕いしておりますわ、私の親愛なる――貴女の望むシンデレラになりたいの。
 さっきから感じてるときめきは、こんなかたちでしか伝えられないけれど……たぶんそのうち、必ず気づいてくれる。そのときまで、いつまでも恋焦がれているわ。
「――ご案内を致しますわ。星の王子様?」
「な、いや、その、いみ、意味が分かんない!」
「魔理沙のためのお洋服を、私が選んであげたいの」
「だ、だからって突然キスとか、いやほんとにお姫様っぽくされると、そ、その、似合ってるかな、って……」
「絵本から迷いこんだ不思議の国のアリスが、プリンセスにエスコートされる。すてきなシチュエーションだと思わない?」
「ここは現実だぜ! そもそも、わたしが、私が、エスコートする役目なんだからなっ! どうして私が咲夜に……ほんとなんなんだよいったい!」
 もうまるっきりお嬢様とそっくりな反応で、それだけで愛らしくなってくる。
 お姫様になるようにあつらえた本人は貴女なのだけど、お気に召してくださるのであれば『愛してる』の一言でも伝えてほしいわ?
 くすくすと心のなかで笑いながら、あわふた落ち着かない様子で服を選ぶ魔理沙を見守った。あれやこれや着せられるたびに花開く微笑みが、ちらちらとまぶしくてたまらない。
 結局のところ最後に選んだお洋服は、アゲハ蝶のフリルをあしらった黒のキャミソールドレス。おとなしいと魔理沙は不満そうだったけれど、さすがに外で白雪姫を演じる勇気はなくて。
 それなりの値段は覚悟していたものの、平然と「ツケで」とのたまう猫を押しのけ、紅魔館の請求にまわしてもらう。新しい服を着て歩く私をちらちら見やる魔理沙、なんかとっても可愛い。

「なにか気になるの?」
 ふと魔法使いは決まりが悪そうに、ちら見をやめてしまった。
「……咲夜、着痩せするんだなって」
「考えたこともなかったわ。そう見えるかしら?」
「だって、さ。身体のラインとかきれいすぎて、歳が近いのにどうしてこうも……」
「もしかして魔理沙、妬いてるの? たしかに貴女はつつましいから、ちゃんと食生活から――」
「う、うるさいな。そんな、私も、そのうち……いちいち余計なお世話なんだよ! もう着いたぜ、さっさと入ろう!」
 なんだかんだでご機嫌そうだとなおさら、ね。猫じゃらしをちらつかせてるみたい。
 でもこのキャミも貴女が選んでくれたんだから、素直に喜んでくれると私もうれしいわ?

 魔理沙が入ろうと急かす建物は、外観のすべてが硝子張りのおしゃれなカフェだった。
 この小さなお店は外の世界から迷いこんだパティシエが、あの賢者のものすごく個人的な趣味で依頼されて、つい最近オープンしたばかりらしい。
 そんなうわさもたぶん、魔理沙から聞いたような気がする。すたすたと常連気取りの彼女の後ろについていくと、一番奥のひっそりとしてる席に案内された。
 ふたり掛けの椅子とアンティークなテーブル。シックな感じで統一された店内の雰囲気も悪くない。お冷を置きにやってきたウェイトレスに、私の意向を無視して魔理沙が珈琲を注文する。

「なかなかすてきなカフェね。どんなお菓子があるのか興味深いわ」
 お嬢様にお出しするスイーツのバリエーションを増やす、これは絶好のチャンスだ。
 ぜひ後学のため――そう思ってメニューを取ろうとしたら、さっと魔理沙に取りあげられてしまった。
「……ちょっと、魔理沙?」
「残念だったな。もう注文まで予約済みだ!」
「貴女の好きそうなきのこ系だとか、その類は勘弁願いたいわ」
「ここのオーナーさ、外だと『三ツ星』とかいう栄誉をもらえるくらいの凄腕みたいだから、きっと咲夜も気に入るはずだぜ」
 あれこれ話しているうちに、まず珈琲が運ばれてきた。
 さっきの言葉がほんとなんだと、ふんわり上品な香りで思わず納得してしまう。
 なんか虫歯になりそうなくらい砂糖を入れてる魔理沙を放っておいて、ひとくち含んでみるとこれまた絶妙だった。
 私たちは紅茶をたしなむ機会が多いけれど、このくらいのレベルでお出しできたらお嬢様の好みも変わるかもしれない。
「うん。美味しい」
「幻想郷のグルメなら私に任せとけ!」
「……和食限定じゃないのね。こだわりは緑茶だけだと思ってたわ」
「まあな。紅魔館に通ってるうちに変わっちゃった。咲夜の出してくれる紅茶やお菓子がおいしいからさ」
 うししと笑う魔理沙の笑顔がすてきで、ついそっぽを向いてしまう。
 私の作るものなんて、このお店のパティシエと比べたらさっぱりなのに……想いをこめた分だけの差、なのかしら。
 この淡い気持ちは貴女のようにまっすぐじゃなくても、お菓子やお料理を通じて伝えられる。なんとなくそんなことを考えていたら、今度は大きなパフェが運ばれてきた。

「……あの、ね。これひとりじゃ食べきれないと思うの」
「もちろんふたりで食べるものだからな。『Luv Strawberry's Delta』っていうカップル専用のスイーツなんだぜ!」
 ハートマークに並んだ苺が目を引く――もう上から下まで苺だらけの、そのまんまな名前のパフェ。
 色とりどりなアイスクリームのまわりに、ぐるりと生クリームやカットフルーツがふんだんとデコレートされている。
 とてもこじんまりとしたまあるいテーブルなので、いっしょに食べる分には差し支えない。というか、顔を近づけるとぶつかってしまうくらいの距離しかない。
 いただきます。と、はにかんで苺をお口に運ぶ彼女は、ほんとにうれしそうだった。私も頬張ってみる。うん。おいしい。甘みと酸味が絶妙な苺で、アイスとの相性もばっちりだ。
「……魔理沙。あーんして?」
 ずっと交互にパフェをつつく妙な間合いは、きっと魔理沙がときめいてるから。
 またおかしないたずら心が働いてしまう。貴女のほんのり紅く染まる可愛らしい素顔が見たい。
「な、なんで。そ、その、そんな子供じゃないんだから……」
「いいからいいから。ふたりで食べるものじゃなくて『恋人同士』で食べるスイーツなんでしょう?」
「そ、それは、たぶん、決まってない。ただメニューに書いてあるだけだ! でも、その、まあ、いい、かな……」
 ちいさなくちびるのなかに、そっとフォークの先に刺さった苺を放りこんであげる。
 きらきら流れ星のひとみが、きょろきょろ落ち着かない。魔理沙のどきどきが伝わりすぎて、たまらず笑みを零してしまう。
「おいしい?」
「う、うん……」
「はい。次はアイスクリーム」
「ちょ、ちょっと待った! こういうのってさ、お互い順番にやるもんだろ!?」
「そんなの知らないわ? 私はあーんってしてあげてるだけで、魔理沙が可愛いからどうでもいいの」
 いいや私は絶対に認めないからな!
 今度は咲夜の番だから。さっさと口をあけろよ!
 そもそもおかしいんだよ。私がエスコート役なのに、どうして咲夜が主導権を握ってるんだ!
 とかなんとかほっぺたを真っ赤にしながら、しきりに催促を繰り返す魔理沙もやっぱり愛くるしい。
 私も甘えてもいいかしら。そう思って素直にくちびるを動かそうとしたら、ふいにパフェに添えてある棒状のプレッツェルが目についた。

「おい咲夜! ひとの話ちゃんと聞いてんのか!?」
「……ところで魔理沙。貴女が持ちこんだ『ポッキーゲーム』してみない?」
 あわふたとし始める恋色の魔法使いに、おねだりっぽく微笑みを浮かべてみせる。
 たまに私もお菓子としてチョコレートたっぷりのプレッツェルを作るのだけど、それを見て魔理沙が『こんな遊びが外だと流行ってるらしいぜ』と教えてくれた。
 おそらく早苗経由で彼女も知ったんだと思う。やりたいやりたいとフランドール様が駄々をこねて、あっさりと負けたときのお嬢様の表情がほんとに可愛かったわ。
 ルールは簡単。ふたりで両端をくわえて食べ進め、先に口を離した方が負け。もしも両者が食べきった場合はキスを交わす。win:winのすてきな遊興だから、魔理沙に拒否権はない。
「い、いや、それはだめだろ! だって私たち、まだなんにも……」
「貴女が負かしてくれたらいいのよ。それとも弾幕と違って勝ち目がないと思っているの?」
「そうじゃなくて、そういう問題じゃなくて! 万が一だな、ふたりとも食べきっちゃったら――」
「ええ。それがなにか不満なの? いやなら無理矢理にでも勝ってみせたらいい。それとも放棄する?」
「しれっと澄まし顔して言うなよ! だってもう最初から咲夜やる気満々だろうが! いいぜ受けて立ってやるぜ後悔すんなよ!」
 我ながら安っぽい挑発だと思うものの、分かりやすくて非常によろしいわ。
 プレッツェルの先っぽにアイスクリームを塗りたくってから、その逆方向をくわえこんで向かい合う魔理沙に差し出す。
 おそるおそる近づいてくる表情は、ほおずき色に染まっていた。ふわんと甘ったるい吐息が頬をかすめて、ほのかな恋の微熱が伝う。

 じいっと魔理沙を見つめてみると、くるくるよくまわる大きなひとみがあちらこちらと宙を彷徨う。こっちを向いて?――軽く目配せしてみても、その視線は一点に集中していた。
 合図の15時を告げる柱時計の鐘の音が鳴り響く。案の定というか、まったく彼女は動かない。動けない。それが正解。もちろん私としては、無条件降伏も手の内だったりして、ね。
 かりかりプレッツェルをかじって、そのまま魔理沙とくちびるを重ねた。苺みたいな酸味は全然なくて、ふんわりとやわらかくてやさしい、すてきなしあわせが心のなかに舞い踊った。

「あ、あ、ちょ、ちょっと、なんかおかしい、色々とおかしすぎんだろ!」
 きれいなソプラノがなにやら抗議するものの、それはもう恥ずかしいらしく完全にうつむいていた。
「ただ貴女の負けって結果よ?」
「そ、う、い、う、問題じゃないから!」
「それならちゃんと説明していただくことにするわ?」
 とにかく魔理沙は口を開こうとするけど、なにかと言いよどんでしまう。
 なかなか答えられないあたりも、とても可愛い。お得意の恋のロジックも、いきなりのキスは読み解けなかったみたいね。
「いや、その、だって、私、はじめて、だし……」
「ええ。それは、ね。私もファーストキスだったの」
「そ、そんな一度っきりのたいせつなキスを急に押しつけるとか、う、うれしい、うれしいけどさ! さすがにどうかと思うんだぜ!」
「魔理沙ならいいかなって。たったそれだけの理由ではいけないのかしら? てっきり私、もう覚悟なんて決まってるんだと考えていたわ?」
 少なくとも貴女の決意は、ね。お遊びの勢いだからこそ大胆にできるのよ。
 あのラブレターの恋の魔法を、こちらなりのやり方でまるっと返してあげた。
 あわふたと動揺されても困るわ。くちびるの先から感じた想いは確か。私たちは解けない恋の魔法の"とりこ"なのよ。
「あ、あの、私さ、その、咲夜のはじめて……ごめん」
「どうして謝るのか意味が分からないわ。むしろ誘い受けだったのかしら?」
「そんなことあるわけないだろっ! 咲夜ったらマジで乙女心が理解できないのな!」
 さっきのキスを交わした瞬間から、私の気持ちは確信に変わった。
 魔理沙の想いだって、揺るぎない真実味を帯びて……それはもはや疑う余地のない、純粋な感情として受け入れることができる。
 たぶんきっとまだ、貴女はあれこれと恥ずかしいのね。そういうところも可愛いから、なおさら愛おしくなるの。だんまりを決めこんでも、なにもかもすべてお見通しよ。

 それからの魔理沙はふくれっつらのままで、さり気ない話題を振っても、あーんしてとお願いしてみても「咲夜が全部悪い!」の一点張りだった。
 もう耳まで真っ赤で、ちっとも説得力がない。いつもの貴女らしく、すてきな笑顔を見せてほしいのに――苺パフェを食べきってからも、淡いキスの余韻は冷めなかった。
 相変わらず私は強がっているけれど、やっぱりそれとなりに恥ずかしい。お遊びのハグから、一線を越えてしまったものね。でも私は、ときめく心の火照り……きらいじゃないわ。
 ほんの沈黙が気まずかったのか、いそいそと魔理沙が席を立ってめずらしくお財布から会計を済ませる。そのままおとなしくついていくと、おもむろに彗星のほうきに跨って目配せした。

「うん。あまり時間もないからさ。乗ってくれよ」
 とりあえず休暇であろうと、あまり長い間を留守にできない。
 あらかじめ時間だけは決めてあったので、そろそろ楽しいデートもフィナーレ。
「……こんな感じで、だいじょうぶ?」
「片手だけ添えてもらったらばっちりだぜ」
 こくりと頷いて、後ろに横座りする。
 抱きしめてほしかった。抱きしめてあげたかった。
 今ならなんにも言わないわ。きっと魔理沙も許してくれる。
 それでも、私は……貴女みたいにまっすぐじゃない。ときおり見せてくれる淡い想いが、ほんとにもどかしいの。
 その心のなかで高鳴っている秘めごとを、今すぐにでも教えて。ずっとおあずけしてるのは私じゃなくて、どう考えても魔理沙なのよ?

 ほんのりとオレンジに変わっていく空を、私たちは物言わず眺めていた。そっと身体を寄せると、貴女のセンチメンタルな感情が伝わってきて、ますます心臓の鼓動が速くなっていく。
 魔理沙が編んだ星くずのブーケを受け取ったときから、ゆらゆらとうたかたの夢を求めて彷徨う私の背中には羽根がない。ほのかな恋心に誘われ留まる、きれいなアゲハ蝶になりたいの。
 もしも、ね。このまま連れ去ってほしいとお願いしたら、貴女はあの空の彼方で恋の魔法を伝えてくれるのかしら。たった一言のおまじないが、私と魔理沙の世界を美しく変えてしまうわ――



  †††††



 彼女がデートの最後に選んだ場所は、この無限の空を支えている世界樹の袂だった。不思議なかたちの花びらが、うっすらと残像を描きながらゆらりゆらり舞い散る。
 その美しい扇状の螺旋は、陽だまりの光を受けて輝く虹色の蝶みたい。たくさんの幻想の花が敷き詰められた丘の上からは、地平線の遥か彼方まで続く向日葵畑が見渡せた。

 かぐわしい香りのする押し花の絨毯に、おもいっきり魔理沙が寝転ぶ。それも束の間「あ、そうだ」とひとりつぶやき、がさごそとぶらさげているポーチの中身を取り出した。
 とうもろこしの皮で編んだバスケットを手渡されて、さらになかをのぞくと星型のクッキーが入っていた。さり気なく目線だけで無言の了承をもらい、そっとひとくち食べてみる。

「おいしい」
「そりゃそうだ。私の自信作だからな」
「魔理沙の手作りなのね。ビターな感じで上手く焼けてる」
 ちょうど甘味を食べたあとだから、お口直しとして味わえる。
 まともに料理をこなすイメージがないんだけど、アリスにでも教えてもらったのかしら。
 あの努力家の彼女の気持ちが詰まったクッキーだと思うと、ほろ苦い感情がふんわりと甘くなる。

 それっきりまた会話は途切れた。なんとなく、思う。魔理沙は言いたくても、言えないのかもしれない。あのラブレターに書き綴っていた言葉のただのひとつさえ、今の彼女には言えない。
 こうしてふたり幻想的な景色を眺めている時間もすてき。貴女があわふたと恥ずかしがる様子も大好き。でも私は、すぐ貴女の返事が聞きたかった。また今度ね。なんて考えたくもないから。

「あのね。魔理沙」
「ん。なんかあるのか?」
「いいえ。貴女こそ、なにか私に言いたいのでしょう?」
 その問いを投げかけると、力なく魔理沙は息をついた。
 そんな憂鬱な表情は貴女らしくない。この世界に咲き誇る向日葵のように、元気いっぱいはにかんでみせてよ。
「……今日さ。咲夜は楽しかったのかなって、ずっと考えてた」
 たぶんその言葉は、半分は正しくて半分はうそ。
 魔理沙だって、ね。知ってるくせに……私の想いは確かに伝わっていた。
 そして貴女が抱く希望も憂いも、なにもかもすべて今の私たちは共有している。
「言うまでもないわ。今日の記憶を後悔にしたいの?」
「いや。でもさ、ちゃんと咲夜をエスコートしてあげられなかった」
「そんなの最初から期待してないわ。ふたりで過ごすひとときがあれば、私は満たされるんだから」
 また瀟洒なんてどうでもいい仮面を被って、切実な魔理沙の恋慕をあしらってしまった。
 もっと素直に今の気持ちを伝えられたら必ず幸せになれるのに、ここまできても私は強がっているの?
「そもそも、なんで……今になってデートに付き合ってくれたんだ?」
「いまさら気がついてないとか、さすがに思いたくないのだけど。きらいだったら、すぐに手紙すらお断りするわ」
「そうだよ、な。やっぱりさ、咲夜はあいつが好きなんじゃないかって、ずっと怖くて怖くて仕方なかったんだよ……」
 きっと今の魔理沙は、今までになく恋に臆病で……うしろめたいのかもしれない。かれども貴女はゆらめく淡い想いを、まっすぐ私に向けてくれた。
 たったそれだけで、ほんとに私はしあわせなのよ。分かってあげてるつもりなの。分かってあげたいと思っているわ。それなのに、こんなときも私たちは、つまらない意地を張っていた。
 でも魔理沙は、私と違う。いつも一途な貴女だからこそ、ここで恋の魔法を告げてくれると信じたいわ。そんなたいせつな瞬間が今日だと急かすひどいわがままを、どうか許してほしい。

「……それは、今の貴女が私に伝えたいことなのかしら?」
 いいや、全然違うぜ。と魔理沙はかぶりを振った。
 きらきらきらめく夜空のひとみが、ほんのわずかにうるんでいる。
 どうして笑ってくれないのか、さっぱり分からない。彼女のまなじりにたまっていく涙は、夕陽を浴びて虹色に輝いていた。
 その小さな心が抱える暗闇の理由を知っているからこそ――在りし日の自分の面影を貴女の背中に重ねてしまって、いつの間にか放っておけなくなった。
 お嬢様をお慕いしている心も確か。それでも貴女のように、ひとりぼっちのつらさまで理解してくれる人はおそらくいない。貴女に惹かれた。恋に落ちた。それはすべて、必然だったのよ。

「――私は、なんにも咲夜にしてあげられない。まともなお菓子や料理も作れないし、すてきな服だって選んでやれなくて……まともにデートのエスコートさえできなかった」
 そんな貴女らしくない弱音なんか聞きたくもないわ――澄ましてたはずの表情が、やりきれない想いでゆがんでしまう。
 今すぐにでも、ぎゅっと抱きしめてあげたかった。おもいっきり甘やかしてやりたかった。そのやさしい気持ちと意固地な"自分"が交差して、くしゃくしゃと心をかきむしる。
 たくさんのしあわせを真っ白な薔薇の花束に編みこんで、すてきな向日葵の笑顔で渡してくれたのは貴女よ。なんにもできないと思っているのならば、今の言葉は絶対に取り消してもらうわ。





「結局さ、資格がないんだ。あの言葉を、咲夜に告げる――」
 さらさらとなびく黄金色の髪の毛をすいて、あらわになった淡い紅に横顔を近づける。
「くだらないわ。魔理沙。貴女は、私にしあわせを教えてくれたの」
 そっとやさしく、くちびるを奪った。
 そうやって迷っているのなら、付き合ってあげるわ。
 私の待ち望む永遠は、たった今この瞬間に証明してみせた。
 やっぱり似てるのよ。私だって、ね。魔理沙みたいにラブレターも渡せないし、デートに誘う勇気もないの。
 さっきの貴女が『資格がない』と自虐してみせた言葉を、私は告げられるかどうか――だからこそ、こんなやり方しか思いつかなかった。
 この時間を止めておきたいけれど、貴女が感じさせてくれるぬくもりがないと、いずれは私の想いも色褪せてしまうわ。たまらなく愛おしい。そんな感情論だけで、生きていける気がしない?

 永久の一秒が過ぎ去って、ひゅうと水色の風が吹き抜ける。
 可憐に咲き誇る恋の花からくちびるを離すと、きゅんと心がせつなくうずいた。
 時計の針が進めば、いつか必ず私の願いは叶う。そう信じてる。信じさせてほしいの。
 またあの日常に戻って、貴女からのラブレター、ほんと楽しみにしてる。おいしいお菓子もちゃんと用意しておくわ。

「……そろそろ、行くわ。今日は楽しかった」
 拝借したバスケットを持って、くるりときびすを返す。
「ちょっと待てよ! ほんの少しでいいから、待ってくれ!」
 ゆらゆら虚空を舞う花びらが、能力を使っていないのに停止して見える。
 なにも言わず立ち尽くすと、ぐずぐずかすれ気味の音色が鮮やかに色付いた。















「――咲夜、愛してる」
 いつまでも、いつまでも、待つと決めたはずの音色。
 貴女の編んだ恋符のグリモワールの、最後に書いてあるおまじない――
















 ふと振り返ってみれば、恋色の魔法使いは帽子を深く被ってうつむいていた。
 そのきれいな旋律を、私は一生忘れない。でも、ね。私と魔理沙の物語は、これから始まるのよ?
 つい先日に貴女からもらった蒼い栞、この本のために取っておくわ。あとで何度も何度も読み返すような、ユメウツツの御伽噺が幕を開く。

「ありがとう、魔理沙。ずっと私、その言葉を待ち焦がれていたの」
 おそるおそる顔を上げる彼女は今にも泣きじゃくりそうで、私としてもそれとなりに心苦しかった。
 そう感じるのは仕方ないと思うのよ。だって貴女はどう足掻こうと、やっぱり笑顔がとびっきり可愛いんだから。
「……いじわる。言えないんだって、知ってたんだろ?」
「なんとなくだけど、ね。ただの口約束にしたくないのかなとは、うすうす感じていたから」
「あったりまえだろ! なんにも分かってないんだ。わたしが、私が、どれだけ咲夜のことを想ってるかってさ!」
「十分すぎるほどに知っているつもりよ。あのラブレターや今日のはしゃぎっぷりを見ていたら、むしろ気づかない方がおかしいわ?」
 ふっと鼻先だけで笑ってみせると、魔理沙は反抗期の猫みたいな表情をしていた。
 この調子なら、だいじょうぶ。私も少しくらい貴女を見習って、素直に笑えるように頑張ってみるわ。
 そんな"がら"じゃないとか、またああだこうだ言われるのかしら。それでもかまわないの。今よりも魔理沙に愛してもらえる『私』になれたら、いつくしい向日葵が咲く。
 すてきな想いがふんわりと心を包みこんで、とってもやさしい気持ちになれた。うれしい。ほんとに、うれしいわ。くすっと微笑んでから、ちいさなくちびるに人差し指をくっつけた。

「な、なんだよ?」
「……今度は私に言わせてみせて?」
 それは簡単なお話。いつか私からも『あいしてる』と伝えさせてほしいの。
 最後までわがままでごめんなさい。それとなくは、ね。できるかもしれないわ。
 貴女の真似をしてラブレターでも書いてみたら、きっとものすごく喜んでくれる。
 でも本音って、なんとなく……ついぽろっと出してしまう方が甘いと思うの。さり気なくしれっと惚気られたら、どんなにしあわせなんだろう。

「絶対に言わせてやるからな! 後悔しても知らないんだぜ!」

 ようやく、笑ってくれた。もう言葉は必要ない――やんわりと微笑んで、再び背中を向けた。
 相変わらずな私の態度が気に入らないのか、ぶつくさと元気な声が飛んでくる。たぶん振り返ってみたら、いつもの明るい魔理沙がご機嫌斜めなのね。
 そういう愛らしい貴女を見ていると、いつまでも飽きないと思うわ。それこそ気分屋さんの猫かしら。"またね"と無言の約束を交わして、だいだい色の空をふわり舞った。

 もしかしたら魔理沙だって、私と同じで孤独が好きな『フリ』をしながら、ひとり心のなかで涙を流していたのかしら。でもだいじょうぶ。もう私たちは、ひとりぼっちじゃないわ。
 おもいっきり笑いたいときや、さびしくなったら、泣きたくなったら、ふたりでやりすごしましょう。たった"いま"想うこと。それはいつまでも、ずっと魔理沙のとなりにいたいだけ。
 私のしあわせは、すてきな向日葵の笑顔――こんな自分になにができるかまだ分からないけれど、たぶんいつものようにお菓子を焼いて待っていたら、必ず貴女は喜んでくれるはずだから。

 凛としたソプラノ。
 きらきらきらめく流れ星のひとみ。
 しあわせを与えてくれる、元気いっぱいの微笑み。
 ほんのりと紅に染まる真っ白なほっぺた。ふくれっつらしたかんばせ。
 深遠の御伽噺を語る、うれしそうな声――貴女のすべてを、愛してしまったの。
 あの恋の魔法が私たちを繋いで、十六夜咲夜は恋に恋焦がれる。貴女が描いた未来なのよ?
 いつだってひとりじゃないわ。魔理沙を信じているからこそ、私は強く在り続けることができる。















 ――My dear Marisa Kirisame.
 貴女が送ってくれた花言葉――アルストロメリアを挿した花瓶を横目に、慣れない手紙を書いています。
 これは私が夢見たいと待ち望んでいる未来予想図なのかもしれません。幼いころに見てた夢の続きを、あのちいさなてのひらが繋いでくれる気がするの。
 ひとりが好きだって、あれは変わらないのに……ほんの数日会えない時間があると、せつないと思うようになりました。おかしいんです。貴女は絶対に来てくれるのに、ね。

 ▽
 ずいぶんと書いてしまいましたが、こんなつたない恋文のお届けは、そう遠くない未来です。少なくとも私は信じてる。あの世界樹の袂の誓いを、必ず魔理沙は果たすわ。
 この手紙を貴女が読んでいるときの、すてきな笑顔がまぶたに焼きついて離れません。だってそれはようやく私の願いが叶って、貴女のつむいだ未来の果てを見てるということでしょう?
 蒼いひとみに咲いた向日葵が、鮮やかに色付いています。その陽だまりのなか、ふたりで眠り続けたい。貴女というひとに愛されたしあわせは、かけがえないのない誇りです。I miss you...








ここまでご読了、本当にありがとうございました
咲マリを愛するすべてのひとが、どうかしあわせでありますように
早瀬凛
[email protected]
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コメント



0.1240簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
すごく優しくて咲夜さんと魔理沙がとにかくかわいい!
2.90奇声を発する程度の能力削除
とても良い咲マリでした
二人とも可愛いよ
4.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい咲マリを読ませていただきました。感謝!
7.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい咲マリでした!
この二人の組み合わせで咲夜の方にも乙女入ってるのは珍しい気もしますが、可愛らしくて何とも。

魔理沙は割烹着着て和食ばかり作ってるイメージが強いですが、
乙女ちっくに甘い西洋菓子を作っている姿も可愛くて良いですね。
8.100名前が正体不明である程度の能力削除
咲マリいいよね!
15.100名前が無い程度の能力削除
つんとすましてるくせに乙女入ってる咲夜さん、確かに珍しいけれど姉妹を見ているようで素敵でした
それにしても文章がとても端正で綺麗ですね。咲マリとしてはベターな物語ですが、やさしい筆致がとても際立っていました
17.100名前が無い程度の能力削除
咲マリ最高!
19.100名前が無い程度の能力削除
この咲マリはどっちがどっちの色に染められるんだろう。
魔理沙に釣られてか乙女気味な咲夜さんもまたよし。面白かったです。
22.100名前が無い程度の能力削除
咲マリプッシュ
25.100朔盈削除
面白かった~。 2人とも可愛くて良かったです。
楽しませてもらいました。
26.90可南削除
乙女で浪漫チックなお話をありがとうございました。
27.100名前が無い程度の能力削除
お姉さんらしい咲夜と魔理沙の乙女回路全開な感じがすばらしい!
29.100名前が無い程度の能力削除
咲マリはやっぱテンション上がるわあ
31.100名前が無い程度の能力削除
咲マリ苦手なのに、とても面白かったです。
35.100名前が無い程度の能力削除
どこか淡い
なぜか夢うつつ
ふたりがしあわせになりますように!