Coolier - 新生・東方創想話

気弱な河童とネガティブな吸血鬼と意地っ張りな魔法使いの話

2011/02/13 04:47:28
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 吸血鬼の住まう紅魔館。その地下に存在する広大な図書館。
極めて貴重な魔導書から薄い本まで揃うその場所は、魔法を使うことを生業とする者や本好きにとってはまさに宝の山だ。
人間の魔法使い、霧雨魔理沙の場合もそれは同じだった。もっとも彼女の場合、黙って忍び込んで拝借することの方が多いが。
 時刻は午前十時を少し回った頃。いつものように無断で侵入している魔理沙の姿があった。
本棚を巡り、めぼしい本を抜き取っていく。
やや高いところにある本を取ろうと背伸びをしたとき、小脇に挟んでいた分厚い魔導書をうっかり落としてしまった。
本の縁に金具がついた重厚なつくりであったことが災いし、静かな図書館に不釣合いな音が響き、思わず目を閉じる。
物音を立ててしまった後悔と、表紙を上にして落ちたことが幸いし、本が傷つかなかったことへの安堵にため息をついていると、背後から唐突に声をかけられた。

「魔理沙、魔理沙ってば」
「うわわっ! ……なんだ咲夜か」

 視線の先にいたのは、メイド服に身を包んでこちらを半眼で見つめている十六夜咲夜。
この館に住み込みのメイドとして仕えており、投げナイフの名手にして時間を止めるという人外じみた能力を有しているが、れっきとした紅魔館唯一の人間である。
その咲夜は右手を腰にあて、怒っているというよりは呆れたような表情のまま口を開いた。

「なんだじゃないわよ全く。また勝手に忍び込んで。これで私に見つかるのは何度目かしら、泥棒さん」
「さあ、私が食べたパンよりは多いかもな。回数に応じて記念の粗品とかもらえるなら数えるぜ。例えば百回目にはここの本を百冊とか」
「よく切れるナイフ百本なんてどう? 色は赤、青、緑の三色をご用意いたしましたわ」
「私は黒が好きなんだがもがっ!」
「しっ! ちょっと隠れてなさい」

 何者かが近寄ってくる気配を感じたらしい咲夜が、魔理沙の口を押さえて本棚の影に押しやる。
しばらくして姿を現したのはこの紅魔館の主であり、咲夜の主人でもある吸血鬼、レミリア・スカーレット。
咲夜は魔理沙が大人しくなったのを横目に確認しつつ、蔵書の整理をしていたかのように振舞う。

「咲夜、こんなところにいたの」
「お嬢様。何かご用ですか?」
「ちょっと相談があるから来て頂戴。ついでに紅茶も飲みたいわ」
「かしこまりました」 
「三人……いや、四人分お願いね。私と、パチェと、貴女。それと、そこに隠れてるネズミにも同席してもらいましょうか」
「なんだ、バレてたのか」

 声とともに、隠れていた本棚の影から悪びれもせずに顔を出す魔理沙。
それとは対照的に、咲夜はしまったといった様子で額に手を当てている。

「ようレミリア。久しぶりだな」
「そうね。毎日のように来ている割には、私への挨拶が滅多にないようだけれど」
「だから、今まとめてしたんだぜ。今までの分と、向こう一ヶ月分」
「相変わらずね。咲夜、パチェが困ってるからこいつを甘やかすのも程々になさい」
「はい、面目ありません……」

 主人からのお叱りを受け、ばつが悪そうにうなだれる咲夜。
魔理沙はここの本を無断で借りていく悪癖があるため、本の所有者でありレミリアの友人でもあるパチュリー・ノーレッジにとって頭の痛い存在だ。
咲夜も図書館の警備をレミリアから命ぜられており、毎日定期的に巡回をしている。
しかし、主人の命に背いて泥棒をいつもかくまっていたのがバレていたとあっては、心情的に後ろめたいものがあるのだろう。

「それじゃ、頼んだわよ。ネズミも逃がさずにちゃんと連れてくること。私は先に行ってるわね」
「かしこまりました」

 レミリアはそれ以上この件について追求するつもりもないらしく、指示を言い残してさっさと背を向ける。
その後姿に深々と一礼をする咲夜を見た魔理沙が、肩をポンポンと叩いて他人事のように呟く。

「お前も苦労してるんだなー。可哀想だし、今日のところは大人しく捕まってやるよ」
「それは助か……って、誰のせいだと思ってるのよ、誰の」


     ◆     ◆     ◆


「フランに友達を紹介してやってほしいのよ」

 咲夜が全員分の紅茶を淹れ終わって席についたところで、開口一番レミリアはそう言い放った。
フランとは、レミリアの妹にして吸血鬼のフランドール・スカーレットのことである。

「友達? 友達なら私がいるじゃないか」

 紅茶と一緒に用意されたケーキにフォークを突き刺しながら、魔理沙。
その発言は自然なもので、だからこそ魔理沙がフランを友人として見ているのが伝わってくる。
それを聞いたレミリアがどこか嬉しそうな表情を浮かべる横で、パチュリーが会話に割り込んだ。

「魔理沙はここにきても、勝手に本だけ読んで帰ることが多いでしょう。だから妹様は寂しがってるのよ」
「そうだっけか」
「そうよ。私とこうして会話するのも久しぶりじゃない」

 非難めいた口調のパチュリーと、とぼけてシラを切る魔理沙。
それは度々本を盗まれることへの憤りか、自分に声をかけていかないことへの不満か。あるいは両方なのかもしれない。
この話題が続くと自分にまで飛び火すると考えた咲夜が、さりげなく軌道修正に入る。

「つまり、フラン様に新しい交友関係を築いてほしいということでしょうか?」
「そういうこと」
「ふーん。でも急にどうしてだ? 最近は大人しいし、前みたいに暇をもてあまして暴れたりはしないだろ?」

 それならまだマシよ、とため息交じりにこぼすレミリア。
いつもの威厳溢れる態度からはかけ離れている姿に、魔理沙は少し興味を惹かれたようで、ケーキをつつく手を止めて聞き入っている。

「なんていうか……ちょっと良くない方向に行っちゃってるのよ、あの子」

 慎重に言葉を選んでいる様子のレミリア。
紅茶のカップを一度口元に運び、口を潤してから本題に入る。

「貴女に遊んでもらってる時はご機嫌だけど、帰ったあとはいつも『魔理沙に変なこと言っちゃった、嫌われたらどうしよう』とか『私と遊んでて魔理沙は迷惑じゃないかな』とか言って落ち込んでるのよ」
「なんだそりゃ。言っとくが、私は迷惑だなんて言ったりしたこと一度もないぜ。いつもベッタリ甘えてくれて可愛いと思ってる」
「私もそんなことないって何度も言って聞かせたんだけどね、自己完結しちゃってて聞く耳もたないのよ」
「へえ、私の前じゃそんな素振り見せないけどなあ」

 レミリアに代わり、パチュリーが考えを述べる。

「魔理沙の前でそんなこと言ったら、嫌われると思って必死に取り繕っているんでしょう」
「要するに、貴女に依存しちゃってるのよ。貴方がいればアッパーだし、いなければダウナーが続く」
「今の妹様は、いわゆる躁鬱に近い状態と言えるわ」
「うーん……あのフランがなあ……」

 行儀悪く、フォークを口に咥えたまま腕組みをして宙を仰ぐ魔理沙。
皆のカップに新しい紅茶を注ぎながら、咲夜が尋ねる。

「それで、新しいお友達を作って気を紛らわそうということですね」
「そう。魔理沙なら顔が広いでしょうし、誰か一人くらい紹介できるでしょ」
「私がフランに直接、『迷惑だなんて思ってない』って話をした方が早くないか?」

 魔理沙の提案に無言で首を横に振るレミリア。

「それじゃ貴女への依存がさらに深まるだけで根本的な解決にならないわ。それに、あの子はそんな自分を、魔理沙にだけは知られたくないと思っているはずよ」

 だから貴女の前では普通に振る舞うのよ、とレミリア。
その言い分に、感心したような声を挙げる魔理沙。

「へえ……よく考えてるんだな。さすがお姉ちゃんだな」
「おべっかはよして。それで、引き受けてもらえるかしら?」
「ああ、構わないぜ。友達候補の心当たりもあることだしな。一応、フランにあわせる前に面談するか?」

 その問いかけに不要よ、とレミリア。

「ここでメイドとして雇うなら面談も必要だけど、求めるのは対等な立場の友達だもの。貴女の友人を値踏みするような行為は礼を欠くわ。魔理沙にも、その友人にもね」
「おお……なんかレミリアが常識的なことを言うとびっくりするな」
「「「あんたに言われたくない」」」

 魔理沙以外がハモった。

「そういうわけだから、事前面談はしないけれど人選は慎重にして頂戴。前より落ち着いたとはいえ、難しい子だからね」
「任せてくれ。私にちょっと考えがあるんだ」
「そう、上手くいったら謝礼は弾まないといけないわね。ここの本を百冊とか?」

 チラリと咲夜の方を見ながら、レミリア。
咲夜は鉄仮面をつけたように無表情を装っているが、よく見ると口元が引きつっていた。

「ちょっとレミィ」

 レミリアのメイド弄りを知らないパチュリーが慌てて咎めるが、交渉するまでもなく魔理沙はその申し出を断った。

「礼はいらないぜ。ここの連中には世話になってるし、可愛いフランのためだからな」
「別にこっちは世話してるつもりはないけど。貴女が一方的に咲夜に世話焼かせてるだけで」
「咲夜が魔理沙のお世話を? 意外な関係ね」
「いやですわお嬢様。泥棒へのナイフのおもてなしと言ってくださいまし」

 世話という単語に食いついたパチュリーに、咲夜が内心で焦りながらも顔には出さずに弁解する。
その様子をレミリアがニヤニヤしながら眺めているが、やはりそれ以上追求するつもりはないらしい。
どうやら咲夜をからかって楽しんでいるだけのようだ。

「じゃあ、フランと咲夜のために頑張るぜ」

 親指を立てて調子づく魔理沙の頭を、横から伸びてきた咲夜の手が軽く叩く。

「私はいいから、フラン様のために全力を尽くしなさい。さもないと、本当にナイフ百本よ、泥棒さん」
「うげ。おいレミリア、紅魔館のメイドはお客様に対する態度がなってないぞ」
「お客様ならお客様らしくしなさい」

 二人のやりとりをどこか楽しげに眺めていたレミリアが口を挟む。

「それで、相手の名前くらいは聞かせておいてもらいましょうか?」
「ああ、それはな――」

 魔理沙はかつて異変を共に解決した、ある少女の名前を挙げた。


     ◆     ◆     ◆


 妖怪の山。
その名の通り、種々の妖怪が住まうため一般人は近寄ろうとしない場所であるが、山の中腹にある川原に魔理沙の姿があった。

「おーい、にとりー、いるかー?」

 川辺に降り立った魔理沙が付近を見回しながら呼びかける。
その声に応じるかのように、後方から視線を感じて振り返る。
が、風にそよぐ木々の他には何も見えない。
しかし、何者かの気配だけは確かにそこにある。
魔理沙はその不思議な感覚を別段恐れることもなく、再び呼びかけた。

「にとりか。そこにいるんだろ?」

 その声に、何も無かった空間から突如として緑の帽子をかぶった青髪の少女が現れる。
妖怪の山に住まう河童であり、優れた科学技術者でもある河城にとりだ。
自身の発明品である光学迷彩スーツで背景に溶け込み、様子をうかがっていたらしい。
スーツを脱ぎ小さく畳んでからにとりが笑顔で寄ってくる。

「またバレちゃったかー。こんにちは、魔理沙」
「ようにとり。元気そうだな。これお土産」

 このような光景はいつものことなのだろう、魔理沙は気にした様子もなく新聞紙に包んだきゅうりを手渡す。
受け取ったにとりは破顔一笑。

「おおう、いつもありがとう! いやー、今日も魔理沙は可愛いなあ。三角帽子がよく似合ってるよ」
「へへ、ありがとな。にとりも、そのツインテール可愛いぜ」
「ひゅい!? も、もう、お世辞はやぁーめぇーろぉーよぉー! 魔理沙は口がうまいんだから」
「いやいや、幻想郷屈指の科学技術者! 河城にとり様の技術には、私ら魔法使いも一目置いてるんだぜ」
「えへへ、ありがと……。でもでも、そういう魔理沙こそ。いつも新しい魔法に挑戦する姿勢は、河童の技師たちも見習ってるんだ。さすがだね盟友、このこのー」

 肘でつんつんと魔理沙を突付きながらはしゃぐにとり。
その様子から非常に親密な間柄であることが分かるし、実際のところ二人は仲が良い。
 ある異変で知り合い、また別の異変を一緒に解決してからは、科学技術者と魔法使いというある種相反する異質な組合せながら意気投合。
技術者としての自分の実力を認め、発明品のモニターにもなってくれる魔理沙という存在は、かつて自分の技術を否定しがちだったにとりに『他者からの肯定』という安心を与えてくれた。
また魔理沙にとっても、年長者や人外の知り合いの方が多い幻想郷において、同年代の友人のように接することのできるにとりは、得がたい親友であった。
 ひとしきりべた褒めの応酬が終わったところで、近くの岩場に二人で並んで腰掛ける。
魔理沙が先に座り、次いでにとりが横に座る。
両者の間にはほんの僅かな、十センチにも満たない隙間。
一緒に遊ぶようになった当初は三十センチほどもあった距離も、今ではここまで縮まった。
だがにとりは、それ以上は決して近寄ろうとはしなかった。
それが怖がりで控えめな彼女の、彼女なりの精一杯の距離感なのだろうと魔理沙は理解していた。

「それで、今日はどうしたのさ」
「ああ、ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな」
「お、何かな。盟友の頼みじゃ断れないなぁー。新しい発明の希望かい?」
「いや、そうじゃなくてな、会って欲しい人がいるんだ。人っていうか、人じゃないんだけど」

 その言葉を聞いた途端、にとりが露骨にトーンダウンした。

「あー、うん……」
「紅魔館って知ってるだろ? あそこに住んでる吸血鬼姉妹の妹なんだけど」
「うん……」
「フランドールっていう可愛い奴がいるんだ。そいつと友達になってやってほしいんだ」
「……」
「おーい、にとりー、聞いてるかー?」

 無言になってしまったにとりを下から覗き込む。
にとりは先ほどまでのハイテンションはどこへやら、非常に曖昧な笑みを浮かべていた。

「あー、うん。フランドールさんね……。噂には聞いてるよ」
「何かあんまりいい噂じゃないみたいだな……。前は情緒不安定な面もあったけど最近は大人しいし、甘えん坊の可愛いやつだぞ。よく笑うし」

 それでもにとりは表情はそのままに、非常に言いにくそうに口をもごもごさせている。

「うー……ん、それは、魔理沙だから……じゃないかな……」
「私だから?」

 その問いかけににとりはしばらく黙りこくる。
目線は何度も宙を舞い、言おうか言うまいか悩んでいるのが分かる。
しかし最終的には言う決意をしたようで、ぽつりぽつりと心情を吐露しはじめた。

「魔理沙は色んな話を知ってて面白いし、ノリも良いし……。でも私は機械のこと以外はあまり知らないし、人見知りするし、ノリ悪いから……会話続かないよ、きっと」
「にとりもノリ悪くないだろ。私と遊んでる時みたいにやればいいんだよ」
「だからぁ……それは相手が、魔理沙だから……なんだってば。魔理沙なら安心してお話できるけど、他の人には無理だよ。ましてや初対面でなんて……」

 言いながら次第にうつむいていくにとり。
魔理沙は座っていた岩から降りて、にとりの正面に回る。

「要するに、にとりはフランに会うのが嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃないよ。……ただね」
「ただ?」
「……私なんかと一緒にいても、そのフランドールって子は楽しくないと思う……。きっと友達にもなれないよ」
「そんなの、会ってみなきゃわかんないだろ」
「わかるよ……。私にはわかるんだ……。私は、誰とでも仲良くなれる魔理沙とは違うよ……」
「……」

 にとりはそれきり黙ってしまった。
この光景には覚えがあるな、と魔理沙は思う。
にとりの技術力に目をつけた魔理沙が、彼女の元を訪れるようになった当初は常にこんな具合だった。
 とにかく自分に自信がない。
他の河童たちを遥かに凌ぐ技術力を有していながら、自分は大した事がないと過剰な謙遜をする。
心の迷いは態度や立ち居振る舞いにも表れ、得意の機械弄りにおいても常に一歩引いた立ち位置を確保しようとする。
河童たちが共同で新技術開発に取り組んだ時も、にとりはその実力には不釣合いな、言ってしまえば見習い技師にでもできる部分の担当を買って出た。
いわゆる裏方を軽視しない彼女の姿勢は河童仲間から重宝されているが、裏を返せば便利使いされているだけであり、にとりはその現状に満足しようと自己を抑制しているように魔理沙の目には映った。

『もったいない。にとりがその気になれば、もっと上にいける』

 魔理沙がにとりに抱いた率直な感想がそれだった。
それから、魔理沙のベタ褒め攻勢が始まった。
にとりに仕事を依頼し、とにかく褒めまくる。元々腕はいいので、お世辞を言う必要は全く無い。
 魔理沙は手を変え品を変え、気弱な技術者を賞賛し、自信をつけさせようと努力した。
最初は褒められても苦笑するだけだったにとりも、次第に魔理沙に打ち解け、いつも褒めてくれるからと魔理沙のことを褒め返すようになった。
その習慣は今でも続いており、二人は出会うたびにお互いのことを褒めちぎる。
 結果、にとりは少しだけ、ほんの少しだけ自分の技術力に自負を持つようになった。
完全肯定とまではいかずとも、自分の技術を無闇に否定しないようになり、少しずつ活躍の場を拡大しつつあった。
しかし今のにとりは、褒められても否定ばかりしていた頃に逆戻りしていた。

「私は魔理沙とは違うんだ。だから無理だよ」

 これが当時のにとりの口癖だった。
この言葉を投げつけられると、自分の心の中を見透かされている気がして、魔理沙は二の句が継げなくなってしまう。
今回も魔理沙は何も言えなくなり、再びにとりの隣に座って足をぶらぶらと揺らす。
しばし川の流れをぼんやりと眺め、緩やかな風が頬をさらうのを感じながら幾分優しい声で話しかけた。

「それじゃあさ、一回だけ。一回だけ会ってくれたら、私の蒐集物から好きなものやるよ」
「ホント!?」

 急に元気を取り戻したにとりが、目を輝かせて身を乗り出してくる。
魔理沙は様々なガラクタともお宝ともつかないものを蒐集しており、そこには外の世界で言うところのパソコンや、他にも色々な機械がある。
それは技術者であるにとりにとって、涎が出るほど羨ましいものであった。

「全部じゃないぞ。一つだけだからな」
「もっちろんだよ盟友! それじゃ早く家に行こう!」
「フランに会うのが先だろ?」
「あ……そうだね……」

 今にも飛び上がりそうになっていた姿勢のまま固まるにとり。
まだ意気消沈しそうになっているにとりを見て、立ち上がって手を差し出す魔理沙。

「ほら、にとり」
「う、うん……」

 魔理沙の横に並ぶためにチョコチョコと小走りで寄ってくるにとり。
おずおずと手を握ってきたので安心させるためにギュッと握り返すと、にとりが一瞬驚いた表情を見せたあと、嬉しそうにはにかんだ。
魔理沙は道すがら、フランについての情報を話して聞かせた。


     ◆     ◆     ◆


「よ、フラン。久しぶり」
「あっ、魔理沙ー!」

 紅魔館のとある一室。
魔理沙がノックとともに扉から顔を見せると、フランが満面の笑みで魔理沙に抱きついてきた。

「魔理沙ー魔理沙ー、あそぼあそぼー」

 魔理沙の襟元に頬をこすりつけて甘えるフラン。
魔理沙はそんな彼女に微笑みかけ、抱き上げてやる。
身長も体格もあまり変わらない二人だが、ウェイトの軽いフランなら魔理沙でもなんとか抱っこできる。
キャッキャと子供のように喜ぶフランをベッドに座らせてやり、自分もその隣に腰をおろす。
にとりとは対照的に、フランはベッタリと魔理沙に身体を密着させてくる。

「あ、ねえねえ魔理沙。咲夜がくれたお菓子あるよ。一緒に食べよー」
「お、ありがとなー。フランはいい子だなー」
「えへへー、魔理沙に褒められちゃった」

 嬉しそうに頬を緩めながら、落ち着き無くチラチラと魔理沙を見るフラン。
背中の羽が小刻みにパタパタと揺れているのは、機嫌の良い証拠だ。
それを横目に確認した魔理沙が、いささか緊張しながら本題に入る。

「ところでフラン、今日はフランに紹介したい人がいるんだけど、いいかな」
「え……」
「河城にとりっていう河童なんだけどな。私の友達なんだ」
「魔理沙の……友達……」

 一瞬、空気が一変した。
フランが泣きそうな、それでいて苦しそうな表情を浮かべたことに気付き、顔には出さずしまったと後悔する。
しかし取り繕いの言葉をかける前に、フランが先ほどまでの調子を取り戻した。

「うんっ、いいよ。連れてきて」
「そ、そうか? フランが乗り気じゃないなら、どうしてもってわけじゃ……」
「ううん、魔理沙のお友達なんでしょ? 私も一度会ってみたいから!」

 魔理沙は後悔した。
間違いなくフランは無理をしている。
以前なら気付かなかっただろうが、レミリアやパチュリーから話を聞いた今なら分かる。
嫌われたくない一心から、魔理沙の前では聞き分けのいい子でいようとしているに違いない。
自分の行動は正しいのか、この少女に負担を強いているだけではないかという思いが交錯するが、ここまで来ては後に引けない。

「……そうか。じゃあ今から連れてくるよ。ちょっと待っててくれ」
「うんっ!」

 部屋を出て、少し離れたところで所在無さげに待っていたにとりに話しかける。
何故か手のひらサイズのドライバーをしきりに指で撫で付けているが、触っていると落ち着くのだろうか。

「会うってさ。……大丈夫か?」
「うん、平気……多分」

 その歯切れの悪い返事からは、不安を取り除いてくれる要素が一つも見つからない。
それでも魔理沙は迷いを振り切って、フランの部屋のドアを叩いた。


     ◆     ◆     ◆


「フラン、こいつは河童の河城にとり。にとり、こいつは吸血鬼のフランドール・スカーレットだ」
「あ……初めまして、スカーレットさん……」
「初めまして、河城、さん」
「……」
「……」

 苗字かよ。さん付けかよ。しかもそれで会話終わりかよ。
その異常にぎこちないやりとりを見て内心で頭を抱える魔理沙。
二人とも自分の前ではよく喋っていたので、多少なりとも会話が成立するかもしれないという淡い期待があったが、その期待は脆くも崩れ去った。
自己紹介以降、黙りこくったまま時間だけが過ぎていく。
とりあえず沈黙を打破するため、魔理沙がやや大きめの声で話しかける。

「立ちっぱなしもなんだから、座って話そうぜ? 咲夜がお茶、用意してくれてるし」
「うん……」
「……」

 魔理沙に促されるまま、黙って席につく二人。
だがその後も何か会話が発生するわけでもなく、フランは用意されたクッキーを、にとりは紅茶を黙々と飲み食いしている。
まるで、他にやることがないから時間つぶしをしているかのように。
 これはきつい。
別段、二人は険悪なムードというわけではない。
ただ純粋に、初めて会った他人との接し方がよく分かっていないのだ。

 会話が成立するかもという期待とともに、こうなるだろうという予感は心のどこかにあった。
にとりは基本的に宴会に顔を出さない。
魔理沙の誘いでたまに出席しても、常に隅っこの方に陣取り、魔理沙が話しかける以外はほとんど喋らない。
魔理沙が他の誰かと話し始めると話題にも加わらず、いつの間にかフラッと姿をくらまして帰っていることも少なくない。
今までは上位の存在である鬼や天狗が苦手で避けているだろうと考えていたが、どうやら種別に関係なく人が三人以上いる場が苦手なようだ。
その証拠に、顔見知りの鍵山雛や犬走椛と二人だけの時は、比較的よく喋るらしい。

 フランの方はと言えば、宴会自体に一切出席しない。
レミリアの意向でそうなっているのかと思っていたが、レミリア曰く、誘っても嫌がって出てこないらしい。
フランは大勢が苦手というよりも、見知らぬ他人とのコミュニケーションの取りかたがよく分かっておらず、そういう場が怖いのだ。

「フランはこう見えて、弾幕メチャ強いんだぜ。なあ、フラン」
「うん……」
「にとりは河童だから、水を操る事ができるんだ。もしかして、流水が苦手なフランといい勝負できるかもな」
「そうでもないよ……」

 誰か助けてくれ。
お前ら、私と二人のときは弾幕トークにすごく食いついてくるじゃないか。
なんで今日に限って、二人してテーブルクロスの模様を凝視してるんだよ。見てても面白くないだろ、それ。
というか目の焦点あってないぞお前ら。一体何が見えてるんだ。私に見えないものを見ないでくれ。
 魔理沙は幻想郷に何人かいる知り合いの神様に祈りを捧げた。
しかし願いも虚しく、重く気まずい雰囲気はまるで改善されない。
 その後も魔理沙は必死に話題を振り続けたが、二人の反応は無言の肯定か「うん」という短い返事ばかりで、会話を広げるにはあまりにも心許ない。
そして、ついに魔理沙の話題が尽きた。
苦々しい沈黙が部屋を支配する。
すると、にとりは床に置いていたリュックから小さな機械の箱を取り出し、小さなドライバー――部屋に入る前に握っていたものだった――で分解整備を始めてしまった。
とうに紅茶はなくなっており、手持ち無沙汰で間が持たないらしい。
 もうダメだ。こんな空気耐えられない。
疲弊が頂点に達した魔理沙はフランに断って一旦席を外し、部屋の外に出た。
そこにはレミリアと咲夜が待ち構えていた。

「どう、魔理沙。二人の様子は」

 不安げに訊ねるレミリアに、憔悴しきった様子で首を横に振る魔理沙。

「私の読みが甘かった……。二人とも、私と二人だけで話す時はうるさいくらいなのに、三人目がいるとお互いに萎縮してどうにもならん……」
「ちょっと、威勢良く引き受けた割に情けないわね。どうにかしなさいよ」
「分かってるよ。でもどんなに話題を振っても、相手がボールを投げ返してこなきゃ会話は成立しないだろ」
「それをなんとかするのが貴女の役目でしょうが。っていうか、人選は慎重にって言ったじゃない」
「何だよ、にとりはちょっと人見知りするけど、いい奴だぞ」

 やいのやいのと口論を始めそうな二人を制したのは、黙って傍に控えていた咲夜だった。

「魔理沙、フラン様や河城にとりは、貴女と二人きりならよく喋るのよね?」
「そうだけど……それがどうした?」
「もしかしたら、魔理沙の前で普段と違う、上手く話せない自分を見られるのが嫌なのかもしれないわ。いっそのこと、ここは二人きりにしてしばらく様子をみては如何でしょうか」

 後半はレミリアに向けての言葉で、それを聞いたレミリアが顎に手を当てて少し考え込む。

「……そうね、魔理沙が居て上手くいかないんじゃ意味ないわ。ここは逆療法よ。いいわね、魔理沙」
「……仕方ないな」

 そうして三人はドアの傍で聞き耳をたてはじめた。


     ◆     ◆     ◆


 部屋の中では相変わらずにとりが機械整備を続けており、フランがその様子を興味深そうに見つめている。
先ほどから何度か話しかけようとしているらしいのだが、きっかけが掴めずにそわそわと落ち着きが無い。
 小さなネジを順番に並べ終わったにとりが、布ウエスを取り出そうと身をかがめる。
その時、うっかりテーブルを揺らしてしまい、テーブルの上のネジが数本、床に落ちた。

「ああっ」

 この部屋に入ってから最大声量を発しながら手を伸ばすが、間に合うはずもなく。
ふかふかの絨毯の上に散らばったネジは、遠目には見えなくなってしまった。
慌てて床に這いつくばって探すが、奥に入り込んでしまったらしくなかなか見つからない。

(私、こんなところで何やってるんだろう……)

 にとりが泣きそうになってふと前方を見ると、自分と同じように絨毯を手でさらっているフランの姿が目に入った。

「あ……」

 にとりの声にフランが気付き、顔を上げたところで目が合う。
フランが無言でおずおずと手を伸ばして、ネジを二本渡してくれた。

「……」
「あ、ご、ごめんね。じゃなくて、あが、あがっとう……」

 噛んだ。
にとりの顔がみるみる赤面していくのを見て、フランが思わず笑みをこぼす。
それに気付いたにとりがますます顔を赤くする。
少しリラックスしたらしいフランが、にとりに話しかける。

「ねえ、二本だけでいいの?」
「えっ、あっ、いや、きゅうりは一日五本まで、です」
「……ぷっ、あははっ、何言ってるのー?」
「あっ、えっ、ああっ、ネギ、ネジのことなんだね。えっと、待ってね。……アダッ!」

 テーブルの下から慌てて出ようとしたにとりが、縁で頭をしたたかに打った。
その衝撃でまだかろうじてテーブルに載っていたネジがパラパラと落ちてくる。

「あああ、い゛だい゛よぅ……」

 頭を押さえてうずくまるにとりと、その上に降って来るネジの構図がツボに入ったらしいフランが爆笑。

「ちょ、もっ……お腹いたひっ……~~っ」
「ううぅ……」

 笑いながら涙を浮かべるフランと、痛いやら情けないやらで涙目のにとり。

「うふふ、あはっ、はぁー、面白かった」

 思いっきり笑ったフランがすっきりした顔でにとりを見る。
にとりの方も痛みが引いて落ち着いたらしく、半泣きで頭をさすりながらという、なんとも情けない格好のまま目が合う。
フランが少しだけ首を傾けながら訊ねる。

「ねえ、大丈夫?」
「う、うん。なんとか……」
「ごめんね、いっぱい笑っちゃって。でも面白くって」
「そ、そう? えへへ……」

 何故かその言葉に嬉しそうなにとり。
散らばったままのネジのことを思い出したのか、また絨毯の上を探し始める。
それを見たフランもまた捜索を再開。

「ごめ……じゃなくて、ありがとう、スカーレットさん……」

 済まなそうに眉尻を下げるにとりに、フランが笑顔で、

「フランでいいよ」
「えっ」
「だから、フランって呼んでいいよ」
「あっ、うん。分かった」
「……呼んでくれないの?」
「あ、ごめん。ええと、フラン、さん」
「もうっ、さん付けはいらないよ。わかった? 『河城さん』」
「ご、ごめん。分かったよ」
「もー、こういう時は、そっちも名前でいいよって言ってよー」
「あ、そ、そうだよね。にとりでいいよ」
「うん、よろしくね、にとり」
「うん、よろしく。フラン」

 どちらともなく手を出し、握手をして笑いあう。
一連のやりとりを聞いていた魔理沙、レミリア、咲夜の三人がほっと胸を撫で下ろす。

「なんとかなりそうね」
「とりあえずは一安心ですね」
「どうだ、私の人選は間違ってなかっただろう?」


     ◆     ◆     ◆


 一週間後。
魔理沙はレミリアからの呼び出しを受けて紅魔館にやってきていた。
咲夜の案内で館のテラスに通されると、椅子に腰掛けて紅茶を飲んでいるレミリアの姿がある。
促されるままに魔理沙が正面に座ると、レミリアが不満げな様子で、

「河城にとり、あれから一度もこないわ。どうなってるの?」
「そうなのか? いやまあ、あいつも機械の修理とか色々やることあるだろうからな」

 気楽な様子の魔理沙に対し、レミリアはため息を一つ。

「フランが、またよくない方向に走ってるのよ」
「なんだ、今度はどうした?」
「『頭ぶつけたのを笑ったりしたから怒っちゃったのかな』だの『やっぱり、私と遊んでもつまんないんだ』とか、ネガティブ一直線よ」
「それはまた……難儀だな……」

 そのことでずっと悩んでいるのだろう、やや疲れた様子のレミリアに同情する魔理沙。
となると、やることは一つ。

「わかった、にとりに会ってくる。可能ならまた連れてくるぜ」
「ん、お願いね。……悪いわね、何度も」
「気にするな。私にも考えがあるから、中途半端で終われないぜ」


     ◆     ◆     ◆


 ところ変わって妖怪の山。
いつもいる川辺ににとりの姿が見えなかったため、にとりの工房兼住居に魔理沙は来ていた。
しかし扉には鍵がかかっており、外から呼びかけても返事がない。
他の場所を当たろうかと思った矢先、念のために窓をチェックしてみると幸運にも施錠されていない場所を見つけた。
窓から侵入した魔理沙は、部屋の隅っこの方で布団に包まってぼんやりしているにとりの姿を見つけた。

「おい、にとり。にとりってば。どうしたんだよ」
「やあ魔理沙……。いらっしゃい」

 どこから入ってきたのか、と聞く元気もないようだ。
この様子だと、外から散々呼びかけた声にも気づいていなかったに違いない。

「どうしたんだ、元気ないな。飯食ってるか?」
「うん……」
「調子悪いのか? 病気なら私が永遠亭に連れてってやるぞ」
「病気じゃないよ……」
「じゃあ、どうしたってんだよ。フランの奴が、にとりが来てくれないって寂しがってるぞ」
「!」

 フランの名前を出した途端、にとりが弾かれたように起き上がり魔理沙の顔を見る。

「ほ、ホント? 寂しがってるの?」
「ああ、っていうか、嫌われたとか言って落ち込んでるらしい」
「嫌ってない! 嫌いになんかなるもんか!」
「じゃあ、どうしていかないんだ? 忙しかったのか?」

 その問いかけに、再び沈んだ面持ちになるにとり。
魔理沙がにとりの横に座って辛抱強く待っていると、やがて少しずつ話し始めた。

「だって私、初対面の人の前で機械整備はじめちゃったんだよ。ありえないよ……」
「個性的でいいじゃないか。機械が好きなんだなってフランに印象付けられたし」
「ドジ踏んでネジばらまいて、探させちゃったし……。私が行くと迷惑かけちゃうよ」
「あれがきっかけで少し仲良くなれたんだろ?」
「そうだけど、そうだけど……。あれはその場限りだし、また前みたいな沈黙が続いちゃうと思うと……」
「そしたら、また機械整備すりゃいいさ。フランも興味もってるみたいだったし、色々聞いてくるぜ、きっと」

 魔理沙の励ましに対し、にとりはまだ不安げな様子で、

「ホントに? それで大丈夫なのかな」
「フランはそんなことでお前を嫌ったりしない。私が保証する。それよりも大事なことは別にある」
「大事なこと?」
「にとりが、フランと仲良くなりたいと思ってるのかってことだよ。気持ちが一方通行じゃ、何も上手くいかないぜ」
「……なりたい、仲良くなりたいよ。だって、いい子だもん」
「そう思ってるなら、大丈夫だ」

 魔理沙は笑顔を浮かべて、にとりに手を差し伸べた。
にとりはその手と魔理沙の顔を交互に見比べたあと、遠慮がちに手を握ってきた。


     ◆     ◆     ◆


「こんにちは。……久しぶり、フラン」
「にとり、来て、くれたんだぁ……」

 にとりが伏目がちに部屋に入ると、フランが椅子から立ち上がって駆け寄ってきた。

「よかった……もう来てくれないかと思ったよー」
「ごめん、ごめんよ。私が来ると、迷惑かと思って……」

 感情が昂っているのだろう、泣きそうになっているにとりの手を取って、フランが一生懸命に慰める。

「迷惑なんかじゃないよ! 私、あんまりお外いけないから、遊びにきてくれたら嬉しいよ!」
「ひゅ……フラン……」

 フランの必死さが伝わったのか、感激して泣きそうな顔になっているにとり。
しかしすんでのところで耐え、ぎこちないが精一杯の笑みを見せる。
それは泣き笑いのおかしな表情だったが、フランは笑ったりせず、にとりの手を引いて椅子に案内した。

「ねえねえ、この間やってた機械弄り、また見せてくれない?」
「え、いいの?」
「うんっ、私、ああいうの見たことないからすっごく面白かったよ!」
「ホント? えへへ、嬉しいな……。じゃあ、魔理沙からもらった機械があるから、それを分解してみようか」
「うんっ!」

 フランが椅子を持ってきてにとりの横に座る。
椅子と椅子の間の距離はゼロセンチメートル。
フランが懐いている証拠であり、にとりにとっては踏み込みたくても踏み込めない距離。
だが、相手が近寄ってくれたことは素直に嬉しい。
 にとりはすぐ横でこちらの手元を覗き込むフランの方をチラリと見て、緊張と嬉しさがない交ぜになったような、曰く形容しがたい表情を浮かべながら工具を手に取った。

「これはなんていう機械なの?」
「魔理沙曰く『あいぽっどなのショキガタ』ってものらしいんだ。この中に音を記録して好きなときに聞く事ができるらしいんだけど、他に発火機能もあるとかないとか」
「へえー、すごいすごい! 動いてるところ、見てみたいなっ」
「それがね、故障しちゃってるらしいんだ。だからずっと修理してるんだけど、どこの部品が壊れてるか分からなくて……」

 修理という言葉を聞いたフランが、やや顔を曇らせて自嘲気味に語る。

「修理かあ、すごいね……。私なんか、壊すことはできても直すことなんかできないよ」
「壊す? ああ、“ありとあらゆるものを破壊する能力”だっけ。天狗の新聞で読んだことがあるよ」

 全ての物質には「目」という最も緊張している部分があり、そこに力を加えることで容易に破壊できる。
その「目」を手の中に移動させて握りつぶすことで対象を破壊するのが、フランの能力である。
 しかしフラン自身、この能力をもてあましている。
幼少の頃より、僅かな感情の揺らぎで大切なものを破壊してしまうことが続いた。
特にレミリアからの誕生日プレゼントを僅か数分で壊してしまった時、この能力を心の底から憎み、意味の無いものだと否定するようになった。
このことがフランからあらゆることへの自信や積極性を失わせ、他者との関わりすらも拒否するようになっていた。
魔理沙と出会う前の、かつてのにとりのように。
魔理沙はそんなフランにとって、唯一の『一緒に遊んでも壊れなかった存在』であるため、興味を惹かれて次第に懐くようになっていたのだ。

「私は壊すばっかりの役に立たない能力、にとりは修理っていう人の役に立つ能力。私たちって、正反対だね」

 陰りの見える笑みを浮かべるフラン。
そんなフランを慰めようと、にとりが何度か口を開きかける。
が、上手く言葉が出てこない。
 自分の能力を全否定する、以前の自分にダブるその姿に胸が痛む。
だが、自分ではどうすることもできない。
魔理沙のように弁が立つわけでもないし、さりとて他の話題をすぐ提供できる話術もない。
何かを言おうとすればするほど、何もでてこない。
 今、悲しみを抱えているこの友人に自分は何をしてやれるのか。
言葉で励ますことは諦め、できることとできないことを整理する。
この機械を修理できれば、きっとフランはそっちに夢中になって、悲しいことを一時でも忘れてくれる。
けれど、この機械が故障している原因、壊れている部品の見当がつかない。直せない。
 無力感。
自分が唯一誇れる技術力は、この小さな少女の気持ちを紛らわせることすらできないのか。
一度は得た自信が喪失しそうになる中で、ある閃きがトゥルーンとにとりの脳内を駆け巡った。

「そうだ! フラン、この機械の『目』がどこにあるか見えるかい?」
「え? うーん……小さくてよく見えないけど……これ、かな?」

 分解された機械を差し出すにとり。
フランがしばし迷った後、小さな部品を指差す。

「ありがとう!」

 にとりは目を輝かせ、作業用ルーペを目に取り付けて作業を再開した。
その間、フランがいくら話しかけてもにとりは聞いていない様子で、一心不乱に手を動かしている。
フランは邪魔をしないように大人しくその光景を見守ることにした。
そして数十分後。

「できた!」

 いつの間にかにとりに寄りかかってウトウトしていたフランがその声で目を覚ますと、そこには分解前の状態に戻った機械があった。
にとりがフランの方を見ながら中央部分を指で押すと、液晶に光が灯る。

「わあっ、光った! ねえ、これ直ったの?」

 その問いかけには答えず、にとりが機械に付属しているイヤホンの先端をフランの耳に押し込む。
何気ない行動だが、一定の距離感を重んじるにとりには絶対にできなかったことだ。
だが今は、この吸血鬼の少女のために、普段持ち合わせていない行動力が生まれていた。
 イヤホンの先端から、聞いたことのないリズム感のある音が流れている。
にとりの思惑通り、フランは目を輝かせて喜んだ。

「これがこの機械の本来の姿だよ。残念ながら、発火機能は直らなかったみたいだけど」
「すごいすごいすごいっ! にとりは天才だねっ!」

 音楽を聞きながら手を叩いてはしゃぐフランに、にとりは首を横に振る。

「これはフランのおかげだよ。最も緊張している、壊れている部品をフランが『目』で教えてくれたから直せたんだ。私じゃ、壊れている部分は分からなかった」

 そう言って、遠慮がちにフランの手に、自分の手を重ねる。

「だから、さっきフランが言ってたことは……えと……その……」

 役に立たない能力なんてない。
どんな者だろうと、人にはそれぞれその個性にあった適材適所がある。
河童には河童の、吸血鬼には吸血鬼の……。
能力や技術も同様、『役に立つ』『役に立たない』の概念はない。要は能力をどう使い、何を成すか、なのだ。
 そう言いたいのに、うまく口にすることができない。
肝心なところで上手く言えない。
いつもこうだ。いつも大事なところで何も言えず、後になって『こう言えばよかったな……』と後悔する。
にとりの心に己への嫌悪感と虚無感が満ちていく。
だがその後ろ向きな感情を霧散させたのは、たった今まで慰めようとしていた少女からの抱擁だった。

「ありがとう、にとり……。私の能力でも、誰かの役に立つことがあるんだね」
「ひゅいっ!? あ、あうあう……」

 耳まで赤くしてガチガチに固まってしまったにとりを見て、フランが微笑む。
そしてそのまま、顔を少し傾けてにとりの額に軽く口付けをした。

「えへへ……友情の証、だよ」
「ひゅいぃー……」

 緊張の限界を超えたにとりが床に倒れたのと、外にいたレミリア、咲夜、魔理沙の三人が物音に驚いて部屋に飛び込んできたのは同時だった。
そして聞かれていたことに勘付いたフランが、顔を真っ赤にして三人を再び部屋の外に追い出すまでにそれほど時間はかからなかった。


     ◆     ◆     ◆


 後日。
紅魔館の図書館に、再び魔理沙の姿があった。
時刻は午前十時を少し回ったところ。
図書館のどこからでも確認できるよう高い位置に掛けられた時計を確認した魔理沙が、本棚に立て掛けていた自分の箒を軽く指で押す。
箒はそのまま重力に逆らうことなく倒れ、リノリウムの床に乾いた音を立てる。

「魔理沙? また来てるのね?」

 その音に気づいて本棚の影から姿を現したのは咲夜。
ただし、いつものメイド服とは違い、私服に身を包んでいる。

「あー、また見つかっちまったか」

 倒れた箒にチラリと目をやり、参ったなと頭をかく魔理沙。
対する咲夜は腰に手をやって呆れ顔で、

「本当に懲りないわね。お嬢様にも言われてるし、今日は容赦しないわよ。お仕置きするから、ちょっといらっしゃい」
「そんなこと言われて、素直についていくような私じゃないぜ」
「何なら、パチュリー様をお連れしてもいいのよ?」

 身構える魔理沙ににべもなく言い放つ。
いざとなれば時間を止められる咲夜から逃げる術はない。
やろうと思えば、次の瞬間に目の前にパチュリーを連れてくることすらできるのだ。
 メイドと魔女を同時に相手するよりも、ここは素直に従った方が得策だと魔理沙は判断する。
咲夜なら、そう酷いことはされないだろうという確信めいた期待もあった。

「むう、仕方ないぜ……」

 不満げに口を尖らせる魔理沙であったが、同時にどことなく嬉しそうにしているのも咲夜は見逃さなかった。
魔理沙が時々、今日のようにわざと見つかっていることを咲夜は見抜いている。
咲夜は毎日、午前十時過ぎに図書館を巡回警備しているが、他者の弾幕パターンを観察し、研究している魔理沙がこの周期に気付かないとは考えにくい。
咲夜に鉢合わせしたくなければ十時に図書館にいなければいい。それだけで咲夜の監視の目から逃れられる。
しかし魔理沙は今日も十時に図書館に忍び込み、音を立てて見つかってしまった。
否、故意に見つかったのだ。
 魔理沙は何か聞いて欲しいことがある時だけ、こんな方法で咲夜を呼び出す。
咲夜はその気まぐれな『呼び鈴』を聞き逃さないよう、十時の巡回を欠かさない。
たとえ、非番の日であっても。
 これに気付いていることは、咲夜だけの秘密。
魔理沙には決してそれを指摘しない。
それが魔理沙に関わる上で、咲夜が自分に課したただ一つのルール。
口にした瞬間、目の前にいる気まぐれで存外寂しがりやな少女は、二度と甘えてくれない気がするから。


     ◆     ◆     ◆


「で、なんだこれ」

 咲夜の私室にて。
椅子に座らされた魔理沙の前には、淹れたての紅茶とイチゴのショートケーキが出されていた。
生クリームの甘い匂いと、アップルティーの良い香りが鼻腔をくすぐる。

「何って、紅茶とケーキよ。別のものがいいならすぐに用意するけど、あいにく和菓子は置いてないわよ」
「いやそうじゃなくて、私にお仕置きするんじゃないのか?」

 魔理沙の問いかけに、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべる咲夜。

「あら、お仕置きして欲しいの? 魔理沙ってそういう趣味なんだ」
「いやっ、違っ……お、お前なあ!」
「ふふ、冗談よ。でも、これも立派なお仕置きよ。この部屋で私とお茶を飲んでいきなさい。懲役一日、ってところかしら」
「……仕事しなくてもいいのか?」

 不安と期待が入り混じったような眼差しの魔理沙に対し、自分の私服を指差す咲夜。

「見ての通り、今日は一日、お暇をいただいているわ。でもやることないのよ。だから今日一日、私に付き合ってくれない? それで泥棒の件は見逃してあげる」
「……断ったら、ナイフ百本か?」
「いいえ、今日はこのフォーク一本だけ。これにケーキを突き刺して、魔理沙を膝の上に乗せて口に運んであげる。どう、してほしい?」

 魔理沙のケーキ皿の前に用意されたフォークを手に取り、魔理沙に向ける咲夜。
魔理沙はその光景を想像してしまったのか、やや赤みのさした頬をぷい、と横に向けてしまう。

「じょ、冗談じゃない。そんなことされてたまるかっ」
「そう、なら自分で食べられるわよね」
「……仕方ない、この前かくまってもらった借りもあるし、今日のところは従っておいてやる」
「素直じゃないわねえ」

 不承不承といった様子で咲夜からフォークを受け取る魔理沙。
このやりとりもいつも通り。
あくまで捕まって無理やりといった体裁を整えてやらないと、この少女は警戒し、あるいは(意外なことに)遠慮して黙ってしまう。
何か聞いてほしい事があったとしても、だ。
ケーキにしても、本当は甘いものが大好きなくせに、無条件でごちそうしようとすると絶対に手をつけない。

 小さい頃に家を飛び出して一人暮らしを始めた魔理沙は、他人に無償で何か与えられることを極端に嫌う。
例えばここの本。
魔理沙がパチュリーにきちんと頼めば、大抵のものは貸してくれるだろう。(あの七曜の魔女は、なんだかんだ言って魔理沙にすごく甘い)
だが魔理沙はそれを良しとせず、無断で借りるというスタンスを崩さない。
他人の好意を素直に受けるよりは、たとえ恨まれようとも自分の手で欲しいものを手に入れる。
それが、幼少の頃よりこの幻想郷を一人で生き抜いてきた霧雨魔理沙の信念であり、生き方そのものだった。

 嬉しそうにケーキを頬張る魔理沙を眺めながら、まるで野良猫のようね、と胸中で一人ごちる咲夜。
警戒心が強く、頭一つ撫でてやるにも手がかかる。それでいて誰よりも甘えん坊。
気まぐれに擦り寄ってきたと思ったら、ふとしたことで機嫌を損ねてすぐどこかに居なくなってしまう。
 捻くれてはいるが性根は真っ直ぐで他人に対して物怖じしない性格ゆえ、あちこちで迷惑がられつつも可愛がられているが、その実だれにもなびいていない。
(パチュリー様に魔理沙の猫度を聞いたら、96点中89点くらいは取れるかもしれないわね。)
魔理沙の頭に猫耳がついたところを妄想しながら、その予想外の似合いっぷりに内心で苦笑する。
今度お仕置きする時は、猫耳でもつけさせてミルク皿を用意してみようかしら。
頬杖をつきながら妄想の世界を堪能していると、魔理沙がフォークを動かす手を止めて怪訝そうにこちらを見ていた。

「? なんだよ」
「別に。美味しそうに食べてくれるから、嬉しいなあって」

 ごまかしついでに、少しだけからかってみよう。
案の定、魔理沙は嫌そうな顔をした。

「別にいいだろ。あんまりジロジロ見るなよ」

 ここでケーキの味を否定しないのが、この子の可愛いところだ。
本人は必死に威嚇しているつもりなのだろうが、どこか抜けている。
ともあれ、あまりいじめると拗ねて帰ってしまいかねない。
 咲夜はここ最近の共通の話題として、にとりとフランのことを取り上げる。
魔理沙も気にかけていたらしく、すぐに食いついてきた。

「にとりに聞いたけど、フランと友達になれたって喜んでたよ」
「ええ、すっかり仲良しで、最近は泊まっていったりもしてるわ。フラン様の情緒不安定も落ち着いて、二人して悪戯してお嬢様に怒られたり」
「そうか、そりゃ良かった。私も肩の荷が下りたってもんだぜ」

 フランの能力とにとりの技術の組合せによって修理可能な機械が増えたことを告げると、魔理沙はまるで自分のことのように喜んだ。

「嬉しそうね。にとりに修理してもらえるものが増えるから?」
「いいや、違う。あいつはさ、元々すごい奴なんだ。でも自信が持てずに自分の力を否定してたんだ」

 あいつというのは河城にとりのことだろう、と見当をつけながら咲夜は耳を傾ける。

「そんなにとりが、同じように自分を否定するフランを励ました。それも、かつて自分で否定してた技術力を使って。私はそれが嬉しいんだぜ」
「なるほどね」
「あいつらは今、お互いがお互いを支えあってコンプレックスを忘れさせてる。いい関係だと思うぜ。私はあの二人にそこまでしてやれなかった。表面的な付き合いしかできてなかったのかもな……」

 二人の関係をどこか羨ましそうに話す魔理沙。

「あら、表面的な付き合いしかしない人にフラン様は懐いたりしないわ。きっと、にとりもね。魔理沙があの二人のために頑張ったのは事実よ。お嬢様も褒めてたわ、見直したって」

 もちろん私もね、と付け加える。
ストレートに褒められて気恥ずかしくなったのか、視線を微妙にずらして返答する魔理沙。

「ま、まあな。この程度の“異変”は軽く解決しないと、魔理沙さんの名が泣くぜ」

 これくらいで照れているようじゃ、フラン様とにとりがお礼のサプライズパーティーを企画していることを知ったらどんな反応をするのかしら。
その時が楽しみね、思い切りからかってやろうなどと考えながら、咲夜がかねてからの疑問を訊ねる。

「ひょっとして、にとりを連れてきたのはこうなるのを見越してのこと?」

 咲夜の疑問に、まさか、と否定する魔理沙。

「いくらなんでも、ここまで上手くいくなんて思ってなかったぜ」
「じゃあどうして? 何か考えがあってのことだったんでしょう?」

 確かそんなことを言っていた、と思い出しながら話す咲夜。
魔理沙は少し虚空を見上げながら考えを巡らせ、咲夜にだから話す、と念押ししてから話し始めた。

「にとりはさ、人見知りな割にすごく寂しがりやなんだよ。それこそ、フラン以上だと思う」
「そうなの?」
「あいつの発明品の中に、光学迷彩スーツっていうのがあるんだ」
「着ると姿を消せる服ね。この前、あれを着たフラン様がお嬢様に悪戯してたわ」
「にとりがあれを発明した理由、なんだと思う?」

 その問いかけにしばし思案顔の咲夜。やがて、

「もしかして……みんなのところにこっそり混じりたいから?」
「御名答。さすが、察しがいいな」

 頷いて肯定する魔理沙。
それを見た咲夜が、疑問を口にする。

「寂しいのなら、素直に輪に混じればいいと思うのだけれど。姿が見えないんじゃ、誰とも仲良くなれないじゃない」
「そこがなかなか難しくてな……。にとりは人見知りするけど、それ以前に仲良くなった人を失うのが一番怖いらしい」

 紅茶で口を潤し、なおも続ける。

「天狗に聞いたんだが、あいつは昔、里の人間と仲良くなったことがあるらしい。私ら人間を盟友って呼ぶのは、その時の名残だろうな」

 魔理沙は咲夜に聞かせた。
遥か以前、魔理沙や咲夜が生まれるよりずっと昔。
 河城にとりはある人間と親密な関係になり、時の流れの中で離別した。
それ以来、にとりは誰かと懇意になる喜びよりも、その懇意にしてくれる相手を失うことを極端に恐れるようになった。
 なけなしの勇気を振り絞って仲良くなれても、いずれは別れがやってくる。
それは何も短命な人間に限ったことではなく、長寿の妖怪種族であっても、意見のすれ違いなどで同じことはいとも簡単に起こりうる。
それなら、最初からそんな関係がなければ悲しまずにすむ。
だけど、一人はどうしようもなく寂しい。親密な仲になれずとも、誰かのそばにいたい。
そんな思いから、にとりは光学迷彩スーツを発明したのだ。

「フランと友達になれば、少なくとも寿命でお別れにはならないだろ? 私は不老不死には興味ないからな、永久ににとりの友達ではいられない」
「だから、フラン様のお相手に選んだのね」
「そういうこと。一時はどうなることかと思ったが、上手くいって何よりだぜ」

 紅茶を一口。

「結局さ、何事もやってみればなんてことないんだよ。にとりは一歩目を踏み出せずにいたから、少し背中を押したんだ。私がやったのは、それだけだぜ」

 魔理沙のカップに新しい紅茶を注いでやりながら、咲夜。

「そういえば、来週の宴会に二人で行ってみようかって約束をしていたわ」
「お、そうか。じゃあ鬼や天狗から守ってやらないとな。アイツら、珍しい奴がいるとやたら飲ませたり写真撮りまくろうとするし」
「随分過保護ね。二人で一緒にいれば大丈夫じゃない?」

 咲夜の問いかけに首を横に振る魔理沙。

「二人とも友達ができただけで、賑やかな場が苦手なことに変わりはないさ。にとりのやつは特に、人見知りが直ったわけじゃない」
「そういうものなの?」

 しばし考え込み、カップの中で揺れる液面を眺めながら魔理沙が答える。

「……コンプレックスを根本的に治すのは難しい。治ったように見えても、環境によって忘れたり気付かなくなってるだけで、条件が揃えばまた顔を出すもんだ」
「ふうん、やけにコンプレックスにこだわるのね」
「別に、こだわってるつもりはないぜ」

 そう言ってすまし顔でカップを傾ける魔理沙。
さりげない仕草だが、穿った見方をすれば表情を隠そうとしているとも受け取れる。
咲夜はカマをかけてみることにした。

「それで、泥棒さんの未だに消えないコンプレックスは何なのかしら?」
「んぐっ、ごほっ、な、何言い出すんだよ、急に」
「別に? 私はただ、魔理沙にも悩みがあるなら相談に乗るわよって言ってるの」
「……そういう咲夜は、悩みとかないのかよ」

 ここで話題を変えなかったところを見ると、どうやら話したいことはその辺りにあるらしい。
だが、自分の弱味を見せることを極端に嫌うこの野良猫は、先にこちらに腹を見せろと要求してきた。
突っぱねることは容易い。
が、咲夜はこの手のかかる妹のような少女の悩みを、聞いてみたいと思った。

「そうね……。私がお嬢様にお仕えする前は、自分の能力のおかげで随分と疎外感を味わったものね」

 人間は、自分の理解の範疇を超える存在を恐れる。
咲夜の時間を止めるという能力は、明らかに人間の能力と理解を超えていた。

「でも、お嬢様たちやここいらの妖怪はそういう事を気にしないから、魔理沙に聞かれるまで忘れていたわ」
「すごい能力には変わりないけど、基本的に常識はずれな奴らばかりだからな」
「そういう意味じゃ、魔理沙がさっき言ってたのはあながち間違いでもないのかもね」

 紅魔館にいるから咲夜の能力を過度に恐れる相手がいないだけで、仮に咲夜が外の世界に行けば、またつまはじき者にされることは想像に難くない。
結局のところ、コンプレックスとは周りを取りまく環境によって消えたり現れたりするのだ。

「そういうわけだから、今は特に悩みはないわ。強いて言うなら、いつも図書館に忍び込む誰かさんくらいかしら?」

 冗談めかして言うと、魔理沙も悪戯っぽく笑いながら、

「そうか、悩みのない人生なんて詰まらないだろうから、これからも咲夜のために頑張るぜ」
「調子に乗らない」
「いてっ」

 手の甲でペチンと魔理沙の額を叩く。
叩かれたところを擦っている魔理沙を見ながら、咲夜が話を戻した。

「今度は魔理沙の番。悩みを聞かせて頂戴?」
「……別に、咲夜に聞いてもらう義理は……」

 カチッ。
懐中時計を手にした咲夜が席を立つ。
全てがモノクロの世界で魔理沙が、否、咲夜以外の全ての存在が動きを止めている。
時間が停止した世界で、咲夜は魔理沙を一度立たせてから席につき、魔理沙を膝の上に座らせる。
そして一口サイズのケーキをフォークに刺して、魔理沙の口元に持ってきたところで時間停止を解除した。

「はい、魔理沙。あーん」
「!? さ、咲夜! あ、こ、こいつ時間を、卑怯だぞ!」

 ジタバタと暴れる魔理沙だが、元々の体格が違う上に、家事で力仕事もこなす咲夜相手ではどうすることもできない。
魔理沙はそれでも諦めることなくしばらく抵抗し、やがてグッタリとうなだれて白旗を揚げた。

「分かった、言う。言うから離して……」

 荒療治だが、これくらいしないと魔理沙は口を割らない。
話を聞いて欲しいくせに、自分の弱味を他人に見せたがらない魔理沙らしい意地の張り方だった。


     ◆     ◆     ◆


「実家にさ……本を取りに行きたいんだ」
「本?」
「小さい頃、香霖……霖之助からもらった大事な本なんだ。無くしたと思ってたけど、実家に置いてきたことをふと思い出してさ」

 霖之助とは、魔法の森近くで雑貨屋を営む森近霖之助のことだ。
咲夜もよく利用する店で、幼少の頃から魔理沙の面倒を見ていたことは聞き及んでいる。
そして、魔理沙が実家と絶縁状態にあることは、咲夜も薄々は知っている。
だが、その理由までは誰も知らない。
おそらく、魔理沙と付き合いの長い巫女であっても知らないだろう。
だから咲夜は理由を聞くのはやめて、話を促すことにした。

「行きづらいのね?」

 無言で頷く魔理沙。

「なんていう本なの?」
「名前は覚えてない。でも、星のことが書いてある本だった。私の新しいスペルカードのヒントになりそうなことが書かれてて、どうしても必要なんだ」
「一応聞いておくけれど、パチュリー様のところには無かったの?」

 目を閉じて首を横に振る魔理沙。

「ここんとこずっと探してたけど無かった。あれはきっと、外の世界の本だ」
「そう、大事なものなのね」
「うん……」

 大事な本なら何故置いてきたのか、などと野暮なことは聞かない。
詳しくは知らないが、実家を飛び出した時の魔理沙は、着のみ着のままに近い状態だったらしい。
きっと何らかの止むに止まれぬ事情があったのだろう。

「こっそり忍び込んでこれないの?」
「……」

 こちらの問いかけに視線を逸らし、返事もしなくなってしまう魔理沙。
ここまで歯切れの悪い彼女を、咲夜は見たことがなかった。

「……ひょっとして、人間の里自体が苦手だったりする?」
「……」

 否定しないという消極的肯定でもって答える魔理沙。
そういえばあれだけ本を欲しがる魔理沙が、人間の里にある、幻想郷の歴史を編纂しているという稗田家から本を盗んだという話は聞かない。
歴史書に興味がないのかと思っていたが、人間の里自体を避けていたのなら合点がいく。

 魔理沙の気持ちは咲夜にも分かる。
かつて、異端の能力を持つ自分を全否定したあの世界。
精神的に成長した今であっても、戻りたいとは思わない。
 咲夜にとっての紅魔館はコンプレックスを忘れさせてくれる場所。
だが魔理沙にとっての実家は、魔理沙自身がそれを克服しない限り、死ぬまでトラウマであり続ける。
咲夜の目には、目の前に座っている少女が、かつて居場所がどこにも無かった自分にダブって見えた。
 十代半ばくらいの魔理沙にとって、戻る場所がないというのはどれだけ心細いだろうか。
この子が色んな場所に出向いて友人を作るのは、あるいはその寂しさを紛らわすためなのかもしれないわね。
思考の海に浸っていると、魔理沙がチラチラとこちらを見ていることに気づく。
言い難そうにしているのを見て、助け舟をだしてやる咲夜。

「どうしたの?」
「あの、あのさ……、咲夜なら、本、取って、これる、よな……」

 単語を細かく区切っての発言は、迷いの証か。

「時間を止めれば難しくはないわね」
「……だよな」

 この期に及んでも、自分から『取って来てほしい』とは言わない魔理沙。
意地っ張りもここまで徹底していると、ある種の畏敬の念を禁じえない。

「言っておくけれど、私は魔理沙の実家も、本のある場所も知らないわ」
「……だよな。すまん、忘れてくれ。ケーキと紅茶、ごちそうさま……。もう、いいだろ?」

 そう言って席を立つ魔理沙。
そのまま部屋を出ようとする後姿に向かって、声を投げかける咲夜。

「何を勘違いしているの? いくら私が時を止められると言っても、場所が分からなければ無理だって言ってるのよ」
「……!」

 慌てて振り返る魔理沙。
その時の魔理沙のすがるような目を、咲夜は生涯忘れないだろう。
それは魔理沙が今まで誰にも見せたことが無い、必死に内に秘めてきた、最も弱い自分の姿であった。
返事の代わりに、魔理沙が疑問を口にする。

「……咲夜はどうして、いつも私をかくまってくれたり、ケーキ食べさせてくれたり、色々してくれるんだ? 何の得もしないぜ?」
「あら、なら魔理沙はどうしてフラン様やにとりのために頑張ったの? 何か得した?」
「それ、は……あいつらは、私にとって……妹……みたいな存在だし……」

 ああ、そうか。
私はフランとにとりを、私に懐いてくれるあの二人を、妹のように……擬似的な家族として見ていたんだ。
だから、いつもおせっかい焼いて、お姉ちゃんぶって……。
私は、寂しかったんだな。
本だって、もしかしたら実家に戻りたいがための口実かもしれない。
何のことはない、一番の寂しがりやは、私だった。
あいつらのこと、言えないじゃないか。
 それを自覚すると同時、両目から止めようのない涙がこぼれる。
そして初めて、素直な気持ちで頼みごとの言葉を口にしていた。

「ひっく……咲夜ぁ……わた、しとっ、いっしょに、にんげ、っのさとっ……」

 次から次へとしゃくりあげてしまい、まともに言葉が出てこない。
顔も上げられなくなった魔理沙に、優しい口調で咲夜が話しかける。

「ほら、魔理沙」

 魔理沙がノロノロと顔を上げると、ぼやけた視界の中に、咲夜が差し出した手があった。
魔理沙がその手を弱々しく握ると、咲夜が強く握り返す。
それは魔理沙の記憶の奥底に眠っていた、手を握って歩いてくれた親との思い出を呼び起こし――
魔理沙は、大声をあげて泣いた。


     ◆     ◆     ◆


「あら、泣き虫の泥棒さん。いらっしゃい」
「泣き虫は余計だ、おせっかいメイドめ」

 数日後、図書館にて。
時間はいつもの午前十時過ぎ。
いつものように『呼び鈴』に呼び出された咲夜が早足に到着すると、魔理沙がこちらを見て立っていた。
どうやら、もう呼び鈴を隠すつもりもないらしい。

「私としては、借りを作ったままにしておくのは不本意なんだ」
「この間も言ったじゃない。別に見返りなんて求めてないわよ」
「それでも私が納得できない。納得は大事なことなんだ。一回しか言わないからな、よく聞けよ」

 そう言って魔理沙が、一度深呼吸をしてから意を決したように口を開く。

「この前はありがと、咲夜……」

 帽子を取ってペコリと頭を下げる魔理沙。
その光景を見て、咲夜は思わず噴出した。

「ふふ、くふっ、な、何、それ……。意外と可愛いところ、あるじゃない。ふふっ」
「な、何だよ、何がおかしいんだよ!」

 顔を真っ赤にしてポカポカと胸を叩いてくる魔理沙。
それを適当にいなしながらよしよしと頭を撫でてやると、意外なことに、されるがままの魔理沙がいた。
以前なら手で払いのけられてただろうに、この野良猫も少しは素直になったものね。
誰にも懐かなかった野良猫を手なずけた満足感に浸る咲夜。

「じゃあね、見つからないうちに帰るのよ」

 そういい残して立ち去ろうとする咲夜の服の裾を、魔理沙の手が掴んだ。
咲夜の足が止まり、遠慮がちな魔理沙の声が耳に届く。

「あの……あのさ」
「何?」

 敢えて振り返らないのは、せめてもの情け。
きっとこの意地っ張りは今、泣きそうな顔でなけなしの勇気を振り絞ろうとしているから。

「今度……咲夜の部屋に遊びに行っていい?」
「いつでもいらっしゃい。――あいにく、和菓子は置いてないけれどね」

 その言葉に、魔理沙は満面の笑みで返事をした。

「うん!」
 
 
 
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

「おれはにとりとフランメインでSSを書いていたと思ったら、いつのまにか魔理沙が全部持っていってた」

な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何を書いているのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
筆者の魔理沙贔屓は異常だとか、にとフラが俺のリサイクルセンター(破壊→修理的な意味で)だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

ここまで読んでくださってありがとうございます。
七作目の「気弱な河童とネガティブな吸血鬼と意地っ張りな魔法使いの話」をお送りしました。

今作は私がいつも妄想ダダ漏れでやっているイチャイチャシーンを極力抑えたために、そういうものを求めて読んでくださった方にはいささか物足りない作品だったかもしれません。
また、作品の都合上、にとりやフランにやや特殊な性格付けをしてしまったので、双方のキャラを愛する方には不快な内容かもしれません。
私にとっても心理描写に重きを置いた、やや実験的な内容となっているため、どのような評価を受けるのか非常に怖い作品です。
是非とも、ご意見・ご感想をお聞かせください。

最後に私信ですが、なぜ18禁を書かないのかというコメントを下さった方へ。
完全に見えているのよりも、見えるか見えないかというギリギリのラインこそが最高にそそるとは思いませんか?

それでは、読んでくださってありがとうございました。

◆追記:用語のミスと句読点の不自然な箇所を修正しました。
◆追記2:続編アップしました(2011.5.12)
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1305191887&log=0

■コメ返信

>コチドリ様
コメントおよび誤字のご指摘、ありがとうございます。
ご指摘の通り、にとりに対するフランのように、魔理沙をフォローする役目の咲夜さんは非常に重要な存在でした。
やや咲マリを意識していたため、世話焼きな咲夜さんが魔理沙の壁を壊してくれました。
バランスに関しては、魔理沙可愛いよ魔理沙になっちゃってもう止まりませんでした…w

>9番の方
コメントありがとうございます。
ハッピーエンドっぽい内容ですが、実はまだ課題は山盛りなんですよね、この話。
にとフラはお互いがお互いに依存していると言えなくもないですし、魔理沙もきっとコンプレックスを克服はしていません。
でも、はっきりと見えなくなっただけでも前進であると、そう前向きに捉えていただければ嬉しいです。

>奇声を発する程度の能力様
コメントありがとうございます。
リサイクルセンター、気に入っていただけましたか?
問題は完全に解決したわけではありませんが、それぞれのキャラが一歩踏み出せたことは確かだと思います。

>18番の方
コメントありがとうございます。
リサイクルセンターが妙にウケがよくて戸惑っていますw

>19番の方
コメントありがとうございます。
可能性…にとフラでしょうか?
拙作で新たな世界を見ていただけたのなら何よりです。

>一人上手様
コメントありがとうございます。
可愛いと言っていただけて嬉しいです。
にとりとフランの性格付けはキャラへの冒涜かもしれないと、投稿しないことも検討していただけに安心しました。
私は未だに発火の可能性があるショタガキを使っていますw

>24番の方
コメントありがとうございます。
ここにもにとフラの続編を求める方がいる…だと…?
構想は全くの白紙ですが、ネタを思いつけばまた書くことがあるかもしれません。
その時はまたお目汚しできれば幸いです。

>タナバン様
コメントありがとうございます。
カップリングタグ、意外と好評で嬉しいです。
心理描写については地の文が多いと退屈されるかと思い、かなり削ったエピソードもあったりします。
今思うと、にとフラの話で区切って、番外編で魔理沙サイドの話を書いてもよかったかなと思いますが後の祭りですw

>31番の方
コメントありがとうございます。
従者な咲夜さん、美鈴の恋人の咲夜さん、そしてお姉さんな咲夜さん。
咲夜さんの魅力の一端でも伝わったのなら何よりです。
アリスの場合とは少し違って、捨て猫をたまにお世話しているうちに居座られるようになった、というイメージで書いています。

>32番の方
コメントありがとうございます。
心理描写を褒めていただけるのは本当に嬉しいです。
ありがとうございます!

>33番の方
コメントありがとうございます。
その一言が励みになります!

>38番の方
コメントありがとうございます。
咲マリは原作でも絡みの多いコンビですが、あまりメジャーではありませんね。
またこの二人の話を別の機会に書けたらなと思います。

>とーなす様
コメントありがとうございます。
魔理沙という二次寄りの共通点はありますが、珍しい組み合わせですよね。
でもフランの友達を考えた時、にとりがいいんじゃないかなと思いました。
可愛いと言ってくださってありがとうございます!

>50番の方
コメントありがとうございます。
にとりを可愛いと言ってくださったばかりか、起承転結や読後感にまで言及していただいて、とても嬉しく思います。
またよろしくお願いします!
斎藤
http://
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コメント



0.2600簡易評価
3.90コチドリ削除
Good!

作者様の性格付けしたにとり、フランちゃん、魔理沙、そして咲夜さん。例外なく皆好きになっちゃいました。
でもそれ以上に、四人のキャラクタ造形に説得力と共感を持たせるために心理描写を掘り下げた貴方の努力と
創造力に好感と敬意を表したいです。

個人的には魔理沙よりも、彼女の可愛らしさを十全以上に引き出した咲夜さんにこそ、
根こそぎ持って行っちゃった人の称号を授与したいですね。
ただ物語のバランス的には、うーんどうなんだろう、ちょっと配分がおかしい気もするかな。
ま、これも作者様の魔理沙に対する愛の証といえるかもしれませんし、その方が素晴らしいという読者の方も
もちろんいらっしゃるのでしょうが。

とにもかくにも素敵なお話を読ませて頂き、大変感謝です。
8.90名前が無い程度の能力削除
リサイクルセンターw
ネガティブ+ネガティブ=ポジティブ とはいかないかも知れないけど、二人の未来は明るいに違いない。
良い友情物語でした。
咲夜と魔理沙の話も、フランとにとりの話も、続きがあるなら読みたいです。
16.100名前が無い程度の能力削除
>にとフラが俺のリサイクルセンター
なん…だと…

成長物語はいいですね、好きです
17.100奇声を発する程度の能力削除
リサイクルセンターってww
面白くて良かったです
18.100名前が無い程度の能力削除
新しい可能性に目覚めました
21.100一人上手削除
ああ…みんな素晴らしく可愛らしい。
そしてまた、自立した個性を持っていて素敵です。

それはそうと、ショキガタってショタガキに見え
いや失礼しました
23.100名前が無い程度の能力削除
これは…!とても面白かったです!
ところでにとフラの続編はまだですか?
24.100タナバン=ダルサラーム削除
にとフラは俺のリサイクルセンター・・・ですな、新たなる可能性を開拓した斎藤氏に敬礼!!
読めば読むほどに心理描写も丁寧だなぁと、感服してます。
後は・・・どっちかに重きを置いた方が、もっと光ってたかなーとは思いますが、これはこれでとってもイイ話だったと俺は思います。
次回作も期待してます。「
30.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんがお姉様すぎてヤバイ
31.100名前が無い程度の能力削除
心理描写が見事でした!
32.100名前が無い程度の能力削除
よかったぜ!
37.100名前が無い程度の能力削除
咲マリはもっと増えるべき!
素直になった魔理沙可愛かったです
44.100とーなす削除
うーん、何とも新鮮なカップリング。
にとりもフランも可愛くて良かったです。
50.100名前が無い程度の能力削除
起承転結全てが気持ちよく頭に入ってきて、読後感も良し
良い作品でした
にとり可愛いよ
58.100名前が無い程度の能力削除
gj
64.100名前が無い程度の能力削除
とても読みやすく面白かったです
72.100名前が無い程度の能力削除
よいぞ良いぞォ

にとふらとサクマリが見れて二度良いぞォ