小包が届いた。たいそうという程でもないが、結構大きい。言うなれば、人ひとり入れそうなほどの大きさ。そして重量。まるで人ひとり入っているかのような重さ。そしてトドメとばかりにダンボールに貼ってある文字。
『姉です。食べてください』
しーちゃん?しーちゃんなの?このダンボールの中に入っているのは。
食べてくださいってことは、物理的に?それともまた違う意味で?いやいやいや。どちらにしてもアウトじゃないかしら?
でも、差出人がみーちゃんだけって事は、つまりどちらかの意味ですよって事であるわけよね。
よし、まずは状況の整理からしようかしら。
昨日私はみーちゃんと出会ったわ。豊穣祭の帰りだとか言ってたわね。それでちょっとお話したわ。お話の内容...
◇
「今年も実りは豊かなの?」
「ぼちぼちってところね。そっちは?」
「今年も例年程度の厄よ」
「あ、そうそう。豊穣祭で結構丹精な顔立ちの男の人見つけてね、長くおしゃべりしてたの」
「ふふ、それはよかったわね」
「雛ちゃんもそういうことあるでしょ?」
「私は、人には近づけないわ」
「あ...ごめん」
「いいのよ。それに今はあんまり男性には興味はないから」
◇
アレか。
私が深い意味なしに言ってしまった『男性には興味ない』発言をそういう方向で捉えてしまったのね。私は恋愛の意味で言ったつもりだったのに、みーちゃんはお花の方で考えてしまったのね。
でも、ダンボールで運送してくるって、とんでもないことをやってくれるじゃない。しーちゃんは暗いダンボールの中に閉じ込められてさぞ辛い思いをしたことでしょう。すぐに出してあげ...
「いや、待つのよ雛」
昨日の今日でこのように送る行動力があるってことは、つまりしーちゃんは元からレズビアンで私に興味があったってこと?
言われれば会うたびに、しーちゃんったらやけに私に対してキラキラ光る目を向けてきてた気がする。そう、まるで私が女学院の先輩でしーちゃんが後輩。憧れの先輩に話しかけてもらって膨らむこの気持ち。私、先輩のことが...!たがの外れたしーちゃんは私に飛びかかり、ついに...。
「私の貞操がマッハで散る可能性大!」
そんなことになったら厄神としての威厳が。普通に考えて他の女性神とデキてる厄神様から厄なんて集めて欲しくないわ。
ここは、しーちゃんには悪いけどキチンとお断りをして...
「でもやっぱりしーちゃんの気持ちを無碍には出来ない...」
そうよ。妖怪の山に住む神として仲良くやってきたじゃない。それなのにここでごめんなさいしたらどうなるの?しーちゃんは悲しみにくれて自ら命を絶つかもしれない。みーちゃんは私を嘘つき呼ばわりして怒りにくれるかもしれない。そうなると、幻想郷の秋はどうなるの?終焉がなければ豊穣もない。命の終焉が豊穣を生み出すのにそれがないということは、つまり荒廃した土地になってしまうということ。生き物がおらず、ただただ剥き出しの硬い地面に風が吹くだけ。
「幻想郷の平和がマッハで散る可能性大!!」
私の返事のひとつで幻想郷崩壊なんて、そんなの荷が重すぎるわ!こうなれば嘘をついてでもしーちゃんに愛してると言うべきかしら。でもそんなことしたら、私に厄が集まらなくなる。人間は私を信頼して渡してくれるのに。もし厄が集まらなくなったら、幻想郷は厄にまみれて生命から命を奪い取り、増大する厄は留まることろを知らず、ついには幻想郷を飲み込んでしまう。
「幻想郷の平和がマッハで散る可能性大!!!」
おおう。前者でも後者でも幻想郷が崩壊してしまうではありませんか。あはは。知ーらない。雛、知ーらないっと。
って、そんな場合じゃないのよ。考えるのよ、幻想郷を守る方法を!
「私が幻想郷を守るわ!」
ピンポーン。
「ピンポーン!?」
『どうしたの、雛!?』
突然の来客は、どうやらにとりらしい。大声を上げて恥ずかしい。私は顔を赤らめてドアを開ける。
「い、いらっしゃいにとり。どうしたの?」
「いや~別に用事はないけどさ、なんとなく雛に会いたくなっちゃって」
「あらそうなの?」
私はにとりを招き入れようとしたところで、ダンボールを思い出す。ついいつもの調子でにとりを家の中に入れようとしたけれど、今日はそうはいかない。なんせ、幻想郷の平和がこの私にかかっている。
「あ、ちょ、ちょっと待ってにとり!」
「ん、なに?」
「ご、ごめんなさい。今日は部屋片付けてなくて、にとりを入れられないわ」
「あはは。そんなの気にしないって」
「私が気にするの!」
「む、むぅ。やけに今日は食い下がるね。何か見られたくないものでもあるの?」
「ギクッ。や、そ、そんなんじゃなくてね...?」
「雛」
「は、はい!」
「ほかの人なら気にしないけど、雛にだけは隠し事されたくないな」
そう言うとにとりは目の下を黒くしてこちらをじっと見た。
まずいわ。にとりもそっちの方向だったなんて。もう雛壊れちゃいそう☆
ダメダメダメ!逃げちゃダメよ!得策を、得策を考えるの。今この状況を切り抜けつつ幻想郷の平和を守る方法を!
にとりを帰さないことにはしーちゃんと向かい合うことができない。かと言ってこの雰囲気、にとりを簡単に返すことができるかと言われると、そうもいかなさそう。強引にドアを閉めたら、お得意の発明道具で家ごと壊して「雛と一緒に私も死ぬ」的な発言を言い出すかもしれないわ。とりあえず強引は得策ではないわね。だとしたらやんわりと。やんわりといきましょう。
「ごめんねにとり。あとでちゃんと事情は話すわ。だから今日は帰ってもらえないかしら...?」
「雛...」
「ごめんね」
「絶対だよ。裏切ったら嫌だよ!」
「う、うん」
私の心はズキズキと千本の針で刺されているような気分になった。そのにとりの顔を見て私は決心した。
にとりが帰ったあと、紅茶を飲んで気分を落ち着かせたてからダンボールの前に座った。
私は厄神失格だ。一番の友達を傷つけたのだから。だけれどわかってほしいわ、にとり。あなたを傷つけた私は今から幻想郷を救います。だから許して欲しいわ。
「しーちゃん聞いて。しーちゃんの気持ち受け取ったわ。私はしーちゃんの気持ちに答えようと思います」
私は大きく息を吸ってダンボールを開けた。
「好きよ、しーちゃん」
「ほら見て穣子ちゃん!私もついに雛さんみたいなゴスロリな服を作ったわ!」
「はいはい。参考料として雛ちゃんには贈り物したから」
「何を?」
「柿」
『姉です。食べてください』
しーちゃん?しーちゃんなの?このダンボールの中に入っているのは。
食べてくださいってことは、物理的に?それともまた違う意味で?いやいやいや。どちらにしてもアウトじゃないかしら?
でも、差出人がみーちゃんだけって事は、つまりどちらかの意味ですよって事であるわけよね。
よし、まずは状況の整理からしようかしら。
昨日私はみーちゃんと出会ったわ。豊穣祭の帰りだとか言ってたわね。それでちょっとお話したわ。お話の内容...
◇
「今年も実りは豊かなの?」
「ぼちぼちってところね。そっちは?」
「今年も例年程度の厄よ」
「あ、そうそう。豊穣祭で結構丹精な顔立ちの男の人見つけてね、長くおしゃべりしてたの」
「ふふ、それはよかったわね」
「雛ちゃんもそういうことあるでしょ?」
「私は、人には近づけないわ」
「あ...ごめん」
「いいのよ。それに今はあんまり男性には興味はないから」
◇
アレか。
私が深い意味なしに言ってしまった『男性には興味ない』発言をそういう方向で捉えてしまったのね。私は恋愛の意味で言ったつもりだったのに、みーちゃんはお花の方で考えてしまったのね。
でも、ダンボールで運送してくるって、とんでもないことをやってくれるじゃない。しーちゃんは暗いダンボールの中に閉じ込められてさぞ辛い思いをしたことでしょう。すぐに出してあげ...
「いや、待つのよ雛」
昨日の今日でこのように送る行動力があるってことは、つまりしーちゃんは元からレズビアンで私に興味があったってこと?
言われれば会うたびに、しーちゃんったらやけに私に対してキラキラ光る目を向けてきてた気がする。そう、まるで私が女学院の先輩でしーちゃんが後輩。憧れの先輩に話しかけてもらって膨らむこの気持ち。私、先輩のことが...!たがの外れたしーちゃんは私に飛びかかり、ついに...。
「私の貞操がマッハで散る可能性大!」
そんなことになったら厄神としての威厳が。普通に考えて他の女性神とデキてる厄神様から厄なんて集めて欲しくないわ。
ここは、しーちゃんには悪いけどキチンとお断りをして...
「でもやっぱりしーちゃんの気持ちを無碍には出来ない...」
そうよ。妖怪の山に住む神として仲良くやってきたじゃない。それなのにここでごめんなさいしたらどうなるの?しーちゃんは悲しみにくれて自ら命を絶つかもしれない。みーちゃんは私を嘘つき呼ばわりして怒りにくれるかもしれない。そうなると、幻想郷の秋はどうなるの?終焉がなければ豊穣もない。命の終焉が豊穣を生み出すのにそれがないということは、つまり荒廃した土地になってしまうということ。生き物がおらず、ただただ剥き出しの硬い地面に風が吹くだけ。
「幻想郷の平和がマッハで散る可能性大!!」
私の返事のひとつで幻想郷崩壊なんて、そんなの荷が重すぎるわ!こうなれば嘘をついてでもしーちゃんに愛してると言うべきかしら。でもそんなことしたら、私に厄が集まらなくなる。人間は私を信頼して渡してくれるのに。もし厄が集まらなくなったら、幻想郷は厄にまみれて生命から命を奪い取り、増大する厄は留まることろを知らず、ついには幻想郷を飲み込んでしまう。
「幻想郷の平和がマッハで散る可能性大!!!」
おおう。前者でも後者でも幻想郷が崩壊してしまうではありませんか。あはは。知ーらない。雛、知ーらないっと。
って、そんな場合じゃないのよ。考えるのよ、幻想郷を守る方法を!
「私が幻想郷を守るわ!」
ピンポーン。
「ピンポーン!?」
『どうしたの、雛!?』
突然の来客は、どうやらにとりらしい。大声を上げて恥ずかしい。私は顔を赤らめてドアを開ける。
「い、いらっしゃいにとり。どうしたの?」
「いや~別に用事はないけどさ、なんとなく雛に会いたくなっちゃって」
「あらそうなの?」
私はにとりを招き入れようとしたところで、ダンボールを思い出す。ついいつもの調子でにとりを家の中に入れようとしたけれど、今日はそうはいかない。なんせ、幻想郷の平和がこの私にかかっている。
「あ、ちょ、ちょっと待ってにとり!」
「ん、なに?」
「ご、ごめんなさい。今日は部屋片付けてなくて、にとりを入れられないわ」
「あはは。そんなの気にしないって」
「私が気にするの!」
「む、むぅ。やけに今日は食い下がるね。何か見られたくないものでもあるの?」
「ギクッ。や、そ、そんなんじゃなくてね...?」
「雛」
「は、はい!」
「ほかの人なら気にしないけど、雛にだけは隠し事されたくないな」
そう言うとにとりは目の下を黒くしてこちらをじっと見た。
まずいわ。にとりもそっちの方向だったなんて。もう雛壊れちゃいそう☆
ダメダメダメ!逃げちゃダメよ!得策を、得策を考えるの。今この状況を切り抜けつつ幻想郷の平和を守る方法を!
にとりを帰さないことにはしーちゃんと向かい合うことができない。かと言ってこの雰囲気、にとりを簡単に返すことができるかと言われると、そうもいかなさそう。強引にドアを閉めたら、お得意の発明道具で家ごと壊して「雛と一緒に私も死ぬ」的な発言を言い出すかもしれないわ。とりあえず強引は得策ではないわね。だとしたらやんわりと。やんわりといきましょう。
「ごめんねにとり。あとでちゃんと事情は話すわ。だから今日は帰ってもらえないかしら...?」
「雛...」
「ごめんね」
「絶対だよ。裏切ったら嫌だよ!」
「う、うん」
私の心はズキズキと千本の針で刺されているような気分になった。そのにとりの顔を見て私は決心した。
にとりが帰ったあと、紅茶を飲んで気分を落ち着かせたてからダンボールの前に座った。
私は厄神失格だ。一番の友達を傷つけたのだから。だけれどわかってほしいわ、にとり。あなたを傷つけた私は今から幻想郷を救います。だから許して欲しいわ。
「しーちゃん聞いて。しーちゃんの気持ち受け取ったわ。私はしーちゃんの気持ちに答えようと思います」
私は大きく息を吸ってダンボールを開けた。
「好きよ、しーちゃん」
「ほら見て穣子ちゃん!私もついに雛さんみたいなゴスロリな服を作ったわ!」
「はいはい。参考料として雛ちゃんには贈り物したから」
「何を?」
「柿」
雛がしーちゃんみーちゃんって呼んでるところがかわいい!
最後まで読める程度には面白かったです。
思いきって、それでいてコンパクトに書ききった作者さんの次回作に期待してます。
しーちゃんみーちゃん言ってる割には向こうからは雛さんと呼ばれる。
これは、すでに格付けが済んでいるのですね!?
妄想が捗ります。
しーちゃん、みーちゃん、いいかも。