紅い館の魔法図書館。
かびくさ図書館。
薄暗い、穴蔵のような空間には少女が二人。
一つの机で向かい合って二人。
一人、白黒のコーディネイトに鈍く光る金髪の少女。
黒のとんがり帽子を脱いで机に置き、本を広げ、傍らの羊皮紙への書き込みと本とのにらめっこを交互に繰り返している。
もう一人、紫色の寝間着のような格好、髪も紫の紫色少女は、それに目もくれず、自身の持つ本の中身に没頭している。
灯りは、燭台が数個。
ほぼ無音の空間、無言の二人である。
が、見た目相応に姦しく会話に興じる二人でもなく。
しかし、その沈黙には、重苦しいものも、居心地の悪さもない。
ただお互いにあるがまま。
これが、白黒と紫色が作るいつもの図書館の光景であった。
ふと、作業から目を離し、視線を紫色に向けた白黒が尋ねる。
「今、どれくらいだ?」
窓もない、時計もない。
本と、それを読むための明かりしか存在しないこの図書館は、完璧に時間という概念から切り離されている。
「およそ夜。正確に知りたいなら、咲夜か小悪魔にでも聞いて」
こちらは相変わらず本から目も離さずに答えた。
「外が暗いかだけがわかれば十分だ、そろそろ帰るとするか」
レミリアも起き出すしな
白黒は一応招かれざる客であろう自分に対する暇を持て余したあの当主の対応を考えてみる。
この前、帰るところをうっかり鉢合わせ、「まだ遊んでいけよ」と強制的に血液をチップ代わりに賭けたカードの卓につけられた。
冗談だろ?と、卓についた後も必死に確認したが、自分の腕にスムーズに採血装置をつけていく咲夜の目は本気だった。
望まぬ内に真剣勝負である。
人生五指に入る本気でポーカーをやった……やらされたとも。
結局トータルで試験管一本程度に血を採られた後に、「いい暇潰しになった」と笑って解放されたが。
こちらとしてはあんなのは二度とごめんである、私はどこぞのギャンブル狂ではない、命を賭けるのは勝算がある時だけだ。
次に見つかったら、魂でも賭けさせられかねないと踏んで、最近では見つかる前に帰ろうという次第であった。
が、帰り支度を始める白黒に気がかりが一つ。
荷物を整理する手を一端止めて、再び本に視線を向けたままの紫色に向き直ると、
「なぁ、パチュリー……」
それは彼女にしては珍しく、顔色を伺うような問いかけであった。
問いかけに、紫色――パチュリーは、一度だけ白黒に視線を向けると、
「いいわよ、かまわないわ」
と、だけ言って、本に戻り、
「珍しいわね、伺いを立てるなんて。ええ、魔理沙?希代の本泥棒のお前が」
視線を戻さず言い放つ。
白黒の魔理沙は、その言葉に少しだけ顔をしかめる、
「私だって、借りていいものと悪いものの区別くらいつくさ」
そして先程まで広げていた本を掴むと、
「こいつも今の研究のために少し借りたいとこだが、流石に無断で持って行って、お前が黙ってるとも思えない代物だ」
「私の蔵書は一つたりともそうでない物などないと思うのだけれど」
皮肉を、魔理沙は意図的に無視。
「なぁ?本当にいいのか?」
再度の確認に、
「くどいわね、私は構わないと言った。それで終わりよ」
あまりしおらしいと逆に不気味だわ、とパチュリーはめんどくさそうに言い放つ。
それを見た魔理沙はため息をつくと、立ち上がって荷物を整理していた体を再度椅子に戻した。
腰掛けて、机に置いていたとんがり帽子を手に取ると、頭にかぶる。
そして、パチュリーに視線を向けた。真っ直ぐに、射抜くように。
「なぁ、前から聞きたかったんだ」
なんで、
「何でお前は私に甘いんだ?」
「自惚れね」
パチュリーは一瞬で切って捨てたが、魔理沙は引き下がらない。
「私とお前の関係は何なんだ?」
「……」
「私はお前を……」
友達だと……
そう言い掛けたところでパチュリーがゆっくりこっちを見た。
視線がぶつかり合う。
パチュリーの目には、魔理沙の言い掛けた言葉に対する、軽い嘲りが浮かんでいた。
「友達か?私とお前が?それこそ自惚れね、魔理沙」
そして、パチュリーは初めて本を机に置いて魔理沙に向き直る。
表情、その口は、少しつり上がり、目の前の相手を小馬鹿にしたような笑みをかた作って。
嫌な笑顔だと思った。
「友達とは、対等な者同士が結ぶ関係よ。今のお前と、私が、対等だと思うか?」
言われ、魔理沙は気づかれない程度に顔をしかめる。
その視線はパチュリーに食らいつかせて離さない。
「ねぇ、未熟な魔女。私がお前の蛮行を許すのは、お前が可愛いからでも、好きだからでもない」
――ひとえに、それが子供の悪戯程度にしか感じられないからさ
パチュリーは軽く笑いながら言い放った。
人を完全に下に見たそれに対する反論は、ない。
魔理沙は無表情にそれをただ聞いていた。
だが、話の始めから一度も逸らさぬその視線は、今やそれだけでその先の相手を射殺さんとするほどに鋭く。
パチュリーはその視線の矢を、無言のまましばらく真正面から受けて逸らさず。
やがて一つだけ息をつくと、少しだけ笑顔を優しくして、言葉を続け始めた。
「魔理沙、お前に本が必要なら、いくらでも貸しておいてやる」
「……」
「知識が必要ならいくらでも教えてやるわ、だからね」
早く私と、対等になってちょうだい
そう言って、優しく微笑んだ。
そこにはもう、相手を嘲るものも、下に見るものもなかった。
「待っているわよ、未熟な魔女」
しばらくの沈黙、そして、
「……わかったさ、魔女」
魔理沙はとんがり帽子を深くかぶると、表情を見せないようにしてそう言った。
立ち上がり、借りていく本を鞄に詰めると、箒を持って出口に向かう。
その後ろから、
「またいつでも来なさい、歓迎はしないけれど」
魔理沙はその言葉に、背を向けたまま軽く片手を上げた。
そして、
「そうそう、あとその本は、入り口で小悪魔に言って貸し出し手続きしといてあげてちょうだい」
蔵書の管理確認が穴だらけで泣いてるのよ、あれが
かっこよくキメた後ろ姿から、カクッと力が抜けたように体勢が崩れた。
机で書き物に追われている小悪魔に本を渡すと、一瞬怪訝な顔をして。
貸し出しの旨を告げると、さらに不可解、信じられないといった顔をしながら、別の羊皮紙に色々書き込み始めた。
その間、
「まったく、いつもこうしてもらえると助かるんですがね。あんただけでなく、館の他の皆さんもね。大体……」
と延々愚痴られ、ようやく本を渡すときにいたって、
「ああ、貸し出し期限は二週間ですから。ちゃんと守ってくださいよ」
と、笑顔で言われた。
二度と正規の手続きで借りないだろうことを魔理沙は思った。
かびくさ図書館。
薄暗い、穴蔵のような空間には少女が二人。
一つの机で向かい合って二人。
一人、白黒のコーディネイトに鈍く光る金髪の少女。
黒のとんがり帽子を脱いで机に置き、本を広げ、傍らの羊皮紙への書き込みと本とのにらめっこを交互に繰り返している。
もう一人、紫色の寝間着のような格好、髪も紫の紫色少女は、それに目もくれず、自身の持つ本の中身に没頭している。
灯りは、燭台が数個。
ほぼ無音の空間、無言の二人である。
が、見た目相応に姦しく会話に興じる二人でもなく。
しかし、その沈黙には、重苦しいものも、居心地の悪さもない。
ただお互いにあるがまま。
これが、白黒と紫色が作るいつもの図書館の光景であった。
ふと、作業から目を離し、視線を紫色に向けた白黒が尋ねる。
「今、どれくらいだ?」
窓もない、時計もない。
本と、それを読むための明かりしか存在しないこの図書館は、完璧に時間という概念から切り離されている。
「およそ夜。正確に知りたいなら、咲夜か小悪魔にでも聞いて」
こちらは相変わらず本から目も離さずに答えた。
「外が暗いかだけがわかれば十分だ、そろそろ帰るとするか」
レミリアも起き出すしな
白黒は一応招かれざる客であろう自分に対する暇を持て余したあの当主の対応を考えてみる。
この前、帰るところをうっかり鉢合わせ、「まだ遊んでいけよ」と強制的に血液をチップ代わりに賭けたカードの卓につけられた。
冗談だろ?と、卓についた後も必死に確認したが、自分の腕にスムーズに採血装置をつけていく咲夜の目は本気だった。
望まぬ内に真剣勝負である。
人生五指に入る本気でポーカーをやった……やらされたとも。
結局トータルで試験管一本程度に血を採られた後に、「いい暇潰しになった」と笑って解放されたが。
こちらとしてはあんなのは二度とごめんである、私はどこぞのギャンブル狂ではない、命を賭けるのは勝算がある時だけだ。
次に見つかったら、魂でも賭けさせられかねないと踏んで、最近では見つかる前に帰ろうという次第であった。
が、帰り支度を始める白黒に気がかりが一つ。
荷物を整理する手を一端止めて、再び本に視線を向けたままの紫色に向き直ると、
「なぁ、パチュリー……」
それは彼女にしては珍しく、顔色を伺うような問いかけであった。
問いかけに、紫色――パチュリーは、一度だけ白黒に視線を向けると、
「いいわよ、かまわないわ」
と、だけ言って、本に戻り、
「珍しいわね、伺いを立てるなんて。ええ、魔理沙?希代の本泥棒のお前が」
視線を戻さず言い放つ。
白黒の魔理沙は、その言葉に少しだけ顔をしかめる、
「私だって、借りていいものと悪いものの区別くらいつくさ」
そして先程まで広げていた本を掴むと、
「こいつも今の研究のために少し借りたいとこだが、流石に無断で持って行って、お前が黙ってるとも思えない代物だ」
「私の蔵書は一つたりともそうでない物などないと思うのだけれど」
皮肉を、魔理沙は意図的に無視。
「なぁ?本当にいいのか?」
再度の確認に、
「くどいわね、私は構わないと言った。それで終わりよ」
あまりしおらしいと逆に不気味だわ、とパチュリーはめんどくさそうに言い放つ。
それを見た魔理沙はため息をつくと、立ち上がって荷物を整理していた体を再度椅子に戻した。
腰掛けて、机に置いていたとんがり帽子を手に取ると、頭にかぶる。
そして、パチュリーに視線を向けた。真っ直ぐに、射抜くように。
「なぁ、前から聞きたかったんだ」
なんで、
「何でお前は私に甘いんだ?」
「自惚れね」
パチュリーは一瞬で切って捨てたが、魔理沙は引き下がらない。
「私とお前の関係は何なんだ?」
「……」
「私はお前を……」
友達だと……
そう言い掛けたところでパチュリーがゆっくりこっちを見た。
視線がぶつかり合う。
パチュリーの目には、魔理沙の言い掛けた言葉に対する、軽い嘲りが浮かんでいた。
「友達か?私とお前が?それこそ自惚れね、魔理沙」
そして、パチュリーは初めて本を机に置いて魔理沙に向き直る。
表情、その口は、少しつり上がり、目の前の相手を小馬鹿にしたような笑みをかた作って。
嫌な笑顔だと思った。
「友達とは、対等な者同士が結ぶ関係よ。今のお前と、私が、対等だと思うか?」
言われ、魔理沙は気づかれない程度に顔をしかめる。
その視線はパチュリーに食らいつかせて離さない。
「ねぇ、未熟な魔女。私がお前の蛮行を許すのは、お前が可愛いからでも、好きだからでもない」
――ひとえに、それが子供の悪戯程度にしか感じられないからさ
パチュリーは軽く笑いながら言い放った。
人を完全に下に見たそれに対する反論は、ない。
魔理沙は無表情にそれをただ聞いていた。
だが、話の始めから一度も逸らさぬその視線は、今やそれだけでその先の相手を射殺さんとするほどに鋭く。
パチュリーはその視線の矢を、無言のまましばらく真正面から受けて逸らさず。
やがて一つだけ息をつくと、少しだけ笑顔を優しくして、言葉を続け始めた。
「魔理沙、お前に本が必要なら、いくらでも貸しておいてやる」
「……」
「知識が必要ならいくらでも教えてやるわ、だからね」
早く私と、対等になってちょうだい
そう言って、優しく微笑んだ。
そこにはもう、相手を嘲るものも、下に見るものもなかった。
「待っているわよ、未熟な魔女」
しばらくの沈黙、そして、
「……わかったさ、魔女」
魔理沙はとんがり帽子を深くかぶると、表情を見せないようにしてそう言った。
立ち上がり、借りていく本を鞄に詰めると、箒を持って出口に向かう。
その後ろから、
「またいつでも来なさい、歓迎はしないけれど」
魔理沙はその言葉に、背を向けたまま軽く片手を上げた。
そして、
「そうそう、あとその本は、入り口で小悪魔に言って貸し出し手続きしといてあげてちょうだい」
蔵書の管理確認が穴だらけで泣いてるのよ、あれが
かっこよくキメた後ろ姿から、カクッと力が抜けたように体勢が崩れた。
机で書き物に追われている小悪魔に本を渡すと、一瞬怪訝な顔をして。
貸し出しの旨を告げると、さらに不可解、信じられないといった顔をしながら、別の羊皮紙に色々書き込み始めた。
その間、
「まったく、いつもこうしてもらえると助かるんですがね。あんただけでなく、館の他の皆さんもね。大体……」
と延々愚痴られ、ようやく本を渡すときにいたって、
「ああ、貸し出し期限は二週間ですから。ちゃんと守ってくださいよ」
と、笑顔で言われた。
二度と正規の手続きで借りないだろうことを魔理沙は思った。
カリスマ過ぎてカリスマティックなんて造語っぽいものを使うくらいカリスマティックだ!!
小悪魔も「あんた」じゃなくて、律義に「あなた」と言いそう。
お婆さんモードなら紫様だけでじゅうぶ・・・
というより、真剣な時になると口調を変えるってのは威圧感を与える表現としてはいいのですが、やっぱりキャラを選ぶと思うのですよ。パチュリーは元の口調でも十分に威圧感のある話し方ができそうです。
口調を変えた区切りが分かり辛いのも違和感の原因の一つかもしれません。
そもそも公式だと、広まってる小悪魔と逆のイメージだしw
とはいえ、小悪魔だけでなくこのパチュリーもいいね!