風神録ネタバレ。
しかも一部時間軸を無視していますし本編は未クリアなので性格設定やキャラ口調に不整合があるかもしれません。
暖かい目で見て頂けると幸いです。
幻想郷に居を移してから2週間、早苗は早くもめげそうだった。
想像はしていたものの、自分がどれだけ現代科学文明に浸かって生きていたのか思い知らされた。
毎朝5時ごろ、日の出と共に起きる。
寝坊は禁物。活動できる時間は日没までだからだ。夜の明かりは蝋燭かランプなので無駄使いは出来ない。
起きればまず炊事場のそばの井戸に行き、とりあえず顔を洗う。
寝巻きが煤で汚れないよう着古したショートパンツとTシャツに着替え、朝餉の炊事を始める。
肌に付いた汚れは沐浴で落ちるが、洗濯の苦労を思えばなるべく洗濯物は増やしたくなかった。
薪をくべ、火の回りを確認する。集めた薪が足りなくなってきた。
最初は薪で風呂を焚いたのだが、うんざりするほど薪を使うということが分かり一度で止めにした。
今はタライに湯を張り、神奈子諏訪子と三人でそれぞれ手伝いながら交代で湯浴みをすることにしている。
前日に研いでざるにあげておいた米(栄養のことを考え玄米である。おかずが豊富でない状況で白米を食べれば脚気になる危険があることは知っている)を羽釜に移して水を差す。
石室―冷蔵庫とまではいかないものの、中は冷やりとしている―に行き、天狗から奉献を受けた野菜―大根、ジャガイモ、ニンジン、ほうれん草―を持ってきて、適当に刻む。野菜を一々調理するのは面倒なので全て味噌汁の具にするつもりだ。
別の鍋には昨日煮込んでおいた甘い煮豆がある。
とりあえず今日の朝餉は玄米ご飯にキュウリの漬物、煮豆に具沢山の味噌汁に決めた。
―昨日の食事もこうだった…おそらく夕餉も、明日も明後日もこんなものだろう。
神奈子、諏訪子と共に朝餉を終え、食器を洗う。
水が冷たく指が痛い。
若い体が動物性タンパク質を欲している。卵が食べたい、魚が食べたい、肉が食べたい、なぜこんな禅寺のような食事をしなければならないのか。どうにもならない愚痴が頭に浮かぶ。
精進潔斎は祭祀の度に行っているので慣れているはずだが、なぜか肉が、味の濃いものが食べたくてたまらない。
鶏を飼おうか、それとも天狗に相談して魚か肉を持ってきてもらおうか、でも人間を狩ってきて肉って言われるのもやだな、妖怪だからやりかねないものな、湖をいけす代わりにして鯉や岩魚を育てようか、等と考えてみる。
ここには甘いお菓子もない、ジュースも飲めないのだ。
幻想郷に行くことが現実となった時、当面困らないように米や調味料の類、それに缶詰は出来る限り備蓄しておいた。甘いものが欲しければ果物の缶詰もある。だが、どれだけ節約して使おうといずれ尽きるものである。思うに調達できない可能性を考えれば浪費は禁物だった。
これからの生活を考えると色々なことがグルグルと頭の中を回る。
最初のうちはキャンプ気分だったが、楽しんだのもほんの数日だった。
洗濯もタライと洗濯板、お湯も石鹸も満足に使えない、風呂を焚くのも一苦労となれば楽しむどころの話ではない。
特に洗濯についてはこれほど重労働だとは思わなかった。
水仕事などろくにしたことの無い繊細な手指はあっという間に悲鳴を上げ、無茶な扱いを抗議するかのように主人に痛みを与えた。皮膚が擦り切れ水が指に沁みる。
何とかして洗濯機が使えれば良いのだが、河童に頼んで電気を通すことが出来ても機械が壊れてしまったらそれでおしまいである。
電気を通すも機械を直すも、どちらも早苗の身には余る仕事だ。
キャンプであればいずれ終わる。だが、この生活には終わりがない。
早苗は自分がまるで檻の無い牢獄に閉じ込められたような、うそ寒い心細さに襲われた。
と、不意に腰がゾクッとした。
―しまった、何でこれを忘れていたんだろう。
ジュクっと流れ出る感覚、白い太腿には赤いものが伝っていた。
早苗は情けなくなってきた。目が熱くなり視界がぼやけた。
女という性をこれほど恨めしく思ったことはなかった。泣いても解決しないと分かっていても、目から涙があふれ出るのを止められない。
「お母さん、もうやだ、帰りたい…」
その場で声を上げて泣いた。
神奈子と諏訪子は食後のお茶を飲みつつ満ち足りた時間を楽しんでいた。
この二人はそもそも神であるので早苗と違って食事は全て嗜好品のようなものである。
食べなければ食べなくても良いし―信仰が彼女らのエネルギー源なのだ―、早苗のような心有る者に供えて貰う食事はなにより美味しい。
まだ幻想郷を見回っていない、新参だから古参の皆さんにはきちんと挨拶をしないと、今日はどこを見に行こうかしら、などと話をしていると炊事場から早苗の泣き声が聞こえた。
二人が何事かと見に行くと、早苗は上がりかまちに腰を下ろし涙を流していた。
「…どうしよう、どうしよう、神奈子さま…。
ナプキン持ってこなかった。どうしたらいいのか分からないの。
もういやだ、かえりたいよう…」
神奈子は早苗の足に目をやると、早苗がなぜ泣いているのか即座に理解した。
確かにこれは女の子にとっては重大事だろう。
「諏訪子、濡れ手ぬぐいと晒し木綿、早く」
「え、何?早苗が怪我でもしたの?」
「…月の穢れよ。このままじゃ服が汚れてしまうわ」
とはいえ、神奈子も対処の仕方を良く知るわけではない。
大昔の記憶―神奈子がまだ諏訪子と戦っていた頃の―を手繰れば、当時の女性は月のものとなれば、専用の小屋に入りじっとしたまま、家事などには係らなかったように記憶している。
どうしたらいいものか、月のものがあるたびに早苗を部屋に篭らせるか?いやはや、どうするか。
泣いている早苗の頭を撫でる。
ホームシックになったのだろう。現代文明を満喫していた少女にとって、100年前に戻ったような生活というのは強いストレスになっていたに違いない。
誰に相談するべきだろうか、こういうのを良く知る人といえば、麓の巫女か、魔法の森の魔法使いか。
それにしても、山頂の巫女が月のもので苦労しているから手助けしてくれないか、とはなんとも卑近で笑える話でもある。深刻さも度を越せば喜劇になるとはこのことだろう。
「で、私に手当ての仕方を聞きに来たわけね」
神奈子は、最もよく知る知り合いとして麓の巫女、つまり霊夢に聞くのが最良だと考えた。
博霊神社に来たのは神奈子一人である。早苗は疲れがでたのだろう。眠ってしまったので面倒を諏訪子に任せてある。
手土産に米を五升ばかり持っていくことにした。とりあえず半月分の米になるはずだ。
霊夢はもったいぶったような言い方をしているが、その目は麻袋に吸い寄せられている。
「ああ、前に迷惑もかけたことだし、これはまあ、お土産よ」
そう言うと麻袋を霊夢に手渡した。
破顔とはこのことか、霊夢の顔がぱっと明るくなる。
「まあ、これから長い付き合いになるしね。女の子同士、困ったことがあればお互い様よ」
霊夢は一つ伸びをして、戸棚からごそごそと何かを取り出し始めた。
(「…私が使ってるものだけど良いかなあ?よく洗ってあるけど…」)
霊夢は荷物を一まとめに風呂敷で包み、じゃ、行きましょと神奈子を促し空に飛び立った。
神社に戻ってみると早苗はまだ眠っていた。
布団に寝かすにも経血で布団を汚しては拙いと思い、油紙と新聞紙を敷き(文々。新聞の古紙である。竈の火付けにも使っている)、早苗には下着代わりに晒しを巻いておいた。
諏訪子を残しておいたのは、もし早苗が目覚めた時、二人がいなければ心細いだろうし、情緒不安定になっている状態で一人残すのはよくないと考えたからだ。
神奈子と諏訪子にとって早苗は娘も同然である。
「早苗の様子はどう?」
「…まだ眠ってる。随分疲れていたみたい、緊張の糸が切れちゃったんだと思う。弱音を吐かない子だからがんばってたのね」
起こさない方が良いだろう。
神奈子は霊夢にお茶を勧め、幻想郷の話を聞きつつ早苗が目覚めるのを待つことにした。
暫く話をしていると早苗が布団の中で身じろぎをした。どうやらそろそろ目覚める気配である。
「…んーん、…あれ?神奈子様?私、学校に行かなくちゃ…」
現界の夢を見ていたのだろうか。神奈子は胸が締め付けられる思いがした。やはり早苗は現界で生活すべきだったのかもしれない。
「まだ寝ぼけてるのね。私が誰だか分かる?」
「ええっと、博霊の巫女!?何でここにいるの?」
諏訪子は早苗に何があったかを伝えた。
早苗は布団をめくって自分の下半身を確認すると顔を真っ赤にする。あうあう言っているが、「ありがとう」とも「なにするのよ」とも言えず大混乱なのだ。
「まあまあ、『十三四 姫はお馬を のりならい』と言うじゃない。誰だって経験することよ。
私がここでのやり方を教えてあげるから」
にこにこした霊夢の顔が早苗には余計恥ずかしかった。
「これ、ひもパン?」
早苗は目を丸くする。
霊夢が風呂敷包みのなかから取り出したのはどう見てもひもパンだった。霊夢が使っているものなのだろう。経血が落としきれずに染みになっているあたり、なんというか使用感がありありで迫力が違う。
「ひもパン…、まあひもパンみたいなものよ。パンツとふんどしの合いの子ってところかな。もっこふんどしってのもあるけど、使いやすいように直していったらこうなったのよ」
普通の越中フンドシは股に当たる布が固定されないため、うっかりすると緩んでしまう。これは緩まないように布の端が閉じられていて紐が両端から出ていた。
経血を受ける辺りには布や脱脂綿をあてるのだろう。あて布を固定できるようポケット状になっておりずれない工夫がしてある。
生地はメリヤス地で伸縮性があり肌触りが良い。
霊夢は更にタオル状の布を取り出した。
「こうやってね、布を折ってここに挟んであてるの。折り方を変えればお尻まで覆えるし厚く折れば多くても何とかなるわ。多少汚れるのは仕方が無いし」
そう言っててきぱきと布を折る。使い慣れている様が見て取れた。
「こういうのもあるわよ」
そう言って取り出したのはいわゆる羽付きナプキンのような形をしている。羽を折り返してボタンで留めるらしい。ずれないので体を動かすときも安心なのだという。
「量が多い時は折った中に脱脂綿をいれることもあるわね。
あとはひもパンだと思って穿けばいいの。私がつけてあげようか、それとも自分でやってみる?」
早苗にとってはナプキンが無くても何とかなるということが分かっただけで晴れ晴れとした気分だった。
よくよく考えれば昔から女は生理と付き合ってきたのである。
紙と合成素材で出来たナプキンが無くても、無かった時代には無かった時代のやり方があったのだ。
生理帯の作り方だけではない、霊夢からは今日一日、幻想郷での生活のイロハを教えてもらうことになるだろう。
「何でも真面目にやろうとするから疲れるのよ」と霊夢は笑う。
確かに自分は真面目すぎたのかもしれない。
案外適当でいいんだと、早苗も笑った。
しかも一部時間軸を無視していますし本編は未クリアなので性格設定やキャラ口調に不整合があるかもしれません。
暖かい目で見て頂けると幸いです。
幻想郷に居を移してから2週間、早苗は早くもめげそうだった。
想像はしていたものの、自分がどれだけ現代科学文明に浸かって生きていたのか思い知らされた。
毎朝5時ごろ、日の出と共に起きる。
寝坊は禁物。活動できる時間は日没までだからだ。夜の明かりは蝋燭かランプなので無駄使いは出来ない。
起きればまず炊事場のそばの井戸に行き、とりあえず顔を洗う。
寝巻きが煤で汚れないよう着古したショートパンツとTシャツに着替え、朝餉の炊事を始める。
肌に付いた汚れは沐浴で落ちるが、洗濯の苦労を思えばなるべく洗濯物は増やしたくなかった。
薪をくべ、火の回りを確認する。集めた薪が足りなくなってきた。
最初は薪で風呂を焚いたのだが、うんざりするほど薪を使うということが分かり一度で止めにした。
今はタライに湯を張り、神奈子諏訪子と三人でそれぞれ手伝いながら交代で湯浴みをすることにしている。
前日に研いでざるにあげておいた米(栄養のことを考え玄米である。おかずが豊富でない状況で白米を食べれば脚気になる危険があることは知っている)を羽釜に移して水を差す。
石室―冷蔵庫とまではいかないものの、中は冷やりとしている―に行き、天狗から奉献を受けた野菜―大根、ジャガイモ、ニンジン、ほうれん草―を持ってきて、適当に刻む。野菜を一々調理するのは面倒なので全て味噌汁の具にするつもりだ。
別の鍋には昨日煮込んでおいた甘い煮豆がある。
とりあえず今日の朝餉は玄米ご飯にキュウリの漬物、煮豆に具沢山の味噌汁に決めた。
―昨日の食事もこうだった…おそらく夕餉も、明日も明後日もこんなものだろう。
神奈子、諏訪子と共に朝餉を終え、食器を洗う。
水が冷たく指が痛い。
若い体が動物性タンパク質を欲している。卵が食べたい、魚が食べたい、肉が食べたい、なぜこんな禅寺のような食事をしなければならないのか。どうにもならない愚痴が頭に浮かぶ。
精進潔斎は祭祀の度に行っているので慣れているはずだが、なぜか肉が、味の濃いものが食べたくてたまらない。
鶏を飼おうか、それとも天狗に相談して魚か肉を持ってきてもらおうか、でも人間を狩ってきて肉って言われるのもやだな、妖怪だからやりかねないものな、湖をいけす代わりにして鯉や岩魚を育てようか、等と考えてみる。
ここには甘いお菓子もない、ジュースも飲めないのだ。
幻想郷に行くことが現実となった時、当面困らないように米や調味料の類、それに缶詰は出来る限り備蓄しておいた。甘いものが欲しければ果物の缶詰もある。だが、どれだけ節約して使おうといずれ尽きるものである。思うに調達できない可能性を考えれば浪費は禁物だった。
これからの生活を考えると色々なことがグルグルと頭の中を回る。
最初のうちはキャンプ気分だったが、楽しんだのもほんの数日だった。
洗濯もタライと洗濯板、お湯も石鹸も満足に使えない、風呂を焚くのも一苦労となれば楽しむどころの話ではない。
特に洗濯についてはこれほど重労働だとは思わなかった。
水仕事などろくにしたことの無い繊細な手指はあっという間に悲鳴を上げ、無茶な扱いを抗議するかのように主人に痛みを与えた。皮膚が擦り切れ水が指に沁みる。
何とかして洗濯機が使えれば良いのだが、河童に頼んで電気を通すことが出来ても機械が壊れてしまったらそれでおしまいである。
電気を通すも機械を直すも、どちらも早苗の身には余る仕事だ。
キャンプであればいずれ終わる。だが、この生活には終わりがない。
早苗は自分がまるで檻の無い牢獄に閉じ込められたような、うそ寒い心細さに襲われた。
と、不意に腰がゾクッとした。
―しまった、何でこれを忘れていたんだろう。
ジュクっと流れ出る感覚、白い太腿には赤いものが伝っていた。
早苗は情けなくなってきた。目が熱くなり視界がぼやけた。
女という性をこれほど恨めしく思ったことはなかった。泣いても解決しないと分かっていても、目から涙があふれ出るのを止められない。
「お母さん、もうやだ、帰りたい…」
その場で声を上げて泣いた。
神奈子と諏訪子は食後のお茶を飲みつつ満ち足りた時間を楽しんでいた。
この二人はそもそも神であるので早苗と違って食事は全て嗜好品のようなものである。
食べなければ食べなくても良いし―信仰が彼女らのエネルギー源なのだ―、早苗のような心有る者に供えて貰う食事はなにより美味しい。
まだ幻想郷を見回っていない、新参だから古参の皆さんにはきちんと挨拶をしないと、今日はどこを見に行こうかしら、などと話をしていると炊事場から早苗の泣き声が聞こえた。
二人が何事かと見に行くと、早苗は上がりかまちに腰を下ろし涙を流していた。
「…どうしよう、どうしよう、神奈子さま…。
ナプキン持ってこなかった。どうしたらいいのか分からないの。
もういやだ、かえりたいよう…」
神奈子は早苗の足に目をやると、早苗がなぜ泣いているのか即座に理解した。
確かにこれは女の子にとっては重大事だろう。
「諏訪子、濡れ手ぬぐいと晒し木綿、早く」
「え、何?早苗が怪我でもしたの?」
「…月の穢れよ。このままじゃ服が汚れてしまうわ」
とはいえ、神奈子も対処の仕方を良く知るわけではない。
大昔の記憶―神奈子がまだ諏訪子と戦っていた頃の―を手繰れば、当時の女性は月のものとなれば、専用の小屋に入りじっとしたまま、家事などには係らなかったように記憶している。
どうしたらいいものか、月のものがあるたびに早苗を部屋に篭らせるか?いやはや、どうするか。
泣いている早苗の頭を撫でる。
ホームシックになったのだろう。現代文明を満喫していた少女にとって、100年前に戻ったような生活というのは強いストレスになっていたに違いない。
誰に相談するべきだろうか、こういうのを良く知る人といえば、麓の巫女か、魔法の森の魔法使いか。
それにしても、山頂の巫女が月のもので苦労しているから手助けしてくれないか、とはなんとも卑近で笑える話でもある。深刻さも度を越せば喜劇になるとはこのことだろう。
「で、私に手当ての仕方を聞きに来たわけね」
神奈子は、最もよく知る知り合いとして麓の巫女、つまり霊夢に聞くのが最良だと考えた。
博霊神社に来たのは神奈子一人である。早苗は疲れがでたのだろう。眠ってしまったので面倒を諏訪子に任せてある。
手土産に米を五升ばかり持っていくことにした。とりあえず半月分の米になるはずだ。
霊夢はもったいぶったような言い方をしているが、その目は麻袋に吸い寄せられている。
「ああ、前に迷惑もかけたことだし、これはまあ、お土産よ」
そう言うと麻袋を霊夢に手渡した。
破顔とはこのことか、霊夢の顔がぱっと明るくなる。
「まあ、これから長い付き合いになるしね。女の子同士、困ったことがあればお互い様よ」
霊夢は一つ伸びをして、戸棚からごそごそと何かを取り出し始めた。
(「…私が使ってるものだけど良いかなあ?よく洗ってあるけど…」)
霊夢は荷物を一まとめに風呂敷で包み、じゃ、行きましょと神奈子を促し空に飛び立った。
神社に戻ってみると早苗はまだ眠っていた。
布団に寝かすにも経血で布団を汚しては拙いと思い、油紙と新聞紙を敷き(文々。新聞の古紙である。竈の火付けにも使っている)、早苗には下着代わりに晒しを巻いておいた。
諏訪子を残しておいたのは、もし早苗が目覚めた時、二人がいなければ心細いだろうし、情緒不安定になっている状態で一人残すのはよくないと考えたからだ。
神奈子と諏訪子にとって早苗は娘も同然である。
「早苗の様子はどう?」
「…まだ眠ってる。随分疲れていたみたい、緊張の糸が切れちゃったんだと思う。弱音を吐かない子だからがんばってたのね」
起こさない方が良いだろう。
神奈子は霊夢にお茶を勧め、幻想郷の話を聞きつつ早苗が目覚めるのを待つことにした。
暫く話をしていると早苗が布団の中で身じろぎをした。どうやらそろそろ目覚める気配である。
「…んーん、…あれ?神奈子様?私、学校に行かなくちゃ…」
現界の夢を見ていたのだろうか。神奈子は胸が締め付けられる思いがした。やはり早苗は現界で生活すべきだったのかもしれない。
「まだ寝ぼけてるのね。私が誰だか分かる?」
「ええっと、博霊の巫女!?何でここにいるの?」
諏訪子は早苗に何があったかを伝えた。
早苗は布団をめくって自分の下半身を確認すると顔を真っ赤にする。あうあう言っているが、「ありがとう」とも「なにするのよ」とも言えず大混乱なのだ。
「まあまあ、『十三四 姫はお馬を のりならい』と言うじゃない。誰だって経験することよ。
私がここでのやり方を教えてあげるから」
にこにこした霊夢の顔が早苗には余計恥ずかしかった。
「これ、ひもパン?」
早苗は目を丸くする。
霊夢が風呂敷包みのなかから取り出したのはどう見てもひもパンだった。霊夢が使っているものなのだろう。経血が落としきれずに染みになっているあたり、なんというか使用感がありありで迫力が違う。
「ひもパン…、まあひもパンみたいなものよ。パンツとふんどしの合いの子ってところかな。もっこふんどしってのもあるけど、使いやすいように直していったらこうなったのよ」
普通の越中フンドシは股に当たる布が固定されないため、うっかりすると緩んでしまう。これは緩まないように布の端が閉じられていて紐が両端から出ていた。
経血を受ける辺りには布や脱脂綿をあてるのだろう。あて布を固定できるようポケット状になっておりずれない工夫がしてある。
生地はメリヤス地で伸縮性があり肌触りが良い。
霊夢は更にタオル状の布を取り出した。
「こうやってね、布を折ってここに挟んであてるの。折り方を変えればお尻まで覆えるし厚く折れば多くても何とかなるわ。多少汚れるのは仕方が無いし」
そう言っててきぱきと布を折る。使い慣れている様が見て取れた。
「こういうのもあるわよ」
そう言って取り出したのはいわゆる羽付きナプキンのような形をしている。羽を折り返してボタンで留めるらしい。ずれないので体を動かすときも安心なのだという。
「量が多い時は折った中に脱脂綿をいれることもあるわね。
あとはひもパンだと思って穿けばいいの。私がつけてあげようか、それとも自分でやってみる?」
早苗にとってはナプキンが無くても何とかなるということが分かっただけで晴れ晴れとした気分だった。
よくよく考えれば昔から女は生理と付き合ってきたのである。
紙と合成素材で出来たナプキンが無くても、無かった時代には無かった時代のやり方があったのだ。
生理帯の作り方だけではない、霊夢からは今日一日、幻想郷での生活のイロハを教えてもらうことになるだろう。
「何でも真面目にやろうとするから疲れるのよ」と霊夢は笑う。
確かに自分は真面目すぎたのかもしれない。
案外適当でいいんだと、早苗も笑った。
思わず女性の方かと勘繰りたくなってしまいます。
話は少し平坦なようにも思えますが、書きづらいものを書ききったのはGJ。
正直、所々に設定に無理があるかなという部分はあったのですが、
今まで考えもしなかった視点からのお話には違いないですね。
まぁ、話としては有りだと思うし違和感があんまりなかったのでこれくらいの点数かな?
とゆうより作者さんよくがんばった。
感想に困りました。が、とにかく、いい話でした。
ただ何故か詳細に感想を書こうとすると両手が止まるのよ
たまにタイムスリップ系のSS読んで「わー楽しそうだ」とか思いますけど
浅はかなんでしょうね。
クソ一つするにしても昔の農民はしめ縄にケツこすりつけてう*こ拭いてた所も
あったらしーし。
自分はそんなん考えたくもありませんもん。
それにしても、早苗さんはうどんげを超える清純派&苦労人キャラになりそうだ。
感服いたしました・・・・・・が
余にも詳しすぎる内容だ~~!!
香霖は店に並べたりしないのかな。手に取った瞬間持ち帰るのを躊躇するかなw
けど…生理用品を忘れるかなぁ。缶詰より先に用意しそうなもんだけど。それだけ余裕が無かったと思えばアリかな。
現代っ子が田舎の生活を始める苦労が思いやられますな……T
この設定は使えるから単純な続編かオムニバス的短編SSとして生かせるよーな。
例えば、現代の品物が陳列されてる香霖堂に早苗が来て癒されたり意気投合とか。
許されるなら設定を拝借しよーかしら
と以前絵板で教えていただいた私としては当に福音の作でした。
でもいい話ではありますね、着眼点もいいですし
下手をすると下品ともとられかねない、けれどもそうもなっていない
GJ!
他に無いSSという意味でとてもいいものを見せて頂きました。