Coolier - 新生・東方創想話

優しい狐 (1/6)

2007/12/18 11:18:25
最終更新
サイズ
5.62KB
ページ数
1
閲覧数
836
評価数
1/5
POINT
170
Rate
6.50

あれはいつの話だっただろう。
式神となり、紫様に仕えるようになってからそう間を置かぬ、そんな日の事だった。

「冥界・・・ですか?」
主人に呼ばれ、すぐに現れた私は、
「おつかいを頼みたいの」と笑顔で命じられ、
それならばと場所を問うた。
しかし、聞いた場所が場所なだけに驚きは隠せない。
「そうよ。冥界。そこに私の旧い知り合いが居るのよ」
「はぁ・・・」
幽霊に知り合いでもいるのだろうか。
いや、考えるべきところはそこではないだろうと頭を振りくだらない考えを捨てた。
「白玉楼というお屋敷に住んでいるお姫様なの。
幽々子と言ったかしら?まぁそれはどうでも良いわ。
とにかくそんな訳だから、よろしく」
と、それだけ言って背を向けてしまう。
最後の方は投げやりな感じに聞こえたが、話しながら眠くなったのかもしれない。
向かう先は・・・寝室だろうか。やはり。
「あの・・・紫様。お言葉ですが、その・・・」
「何?何かあるなら躊躇わずに聞きなさい。前から教えてるでしょう」
その語気は眠気から来ているのか、先ほどまでよりやや辛辣に聞こえる。
しかし、これに臆するようではこの方の式は務まらない。
「では・・・まず一つ。冥界へ向かう手段がわかりません。
今のままでは、私だけの能力では死にでもしない限りは・・・
そしてもう一つ。おつかいと仰いましたが、一体何を・・・」
「ああ、その事。それは問題ないわ。
現世と冥界との間に小さなひずみを作ってあるのよ。
このマヨヒガのようにね。それを使えばそこはもう冥界だわ。
生身のまま、さようなら現世おいでませ冥界、な体験ができちゃう」
「はぁ・・・」
「内容は・・・顔見せよ」
「へ?」
「顔見せ。末永く付き合うと思う相手だから、
きちんと礼儀正しく挨拶してきなさい。それだけ」
そこまで言うと、既に開いている寝室の襖がトン、と、静かに閉められた。
ごそごそという何かをあさるような、布団をこするような音。
そして、静かな寝息がすぐに聞こえる。
「・・・冥界、ですか」
途方に暮れたのは言うまでも無い。

「結局、来たわけだけれど・・・」
なんと言えば良いだろう。
紫様の作ってくださった通路(?)のおかげで迷わずに着けたと言えば着けたのだけれど。
何せ現世側から入って出た先が白玉楼門前なのだから迷い様がない。
「しかしこれは、どこから入れば」
門は目の前にある。
だが、閉じられたままの門は手で押したくらいでは開きそうにない。
大体、手で押して開くようなら門に意味は無い。
空を飛べば良いのだろうが、
これから挨拶する相手の家に門を通らずに入るのはいかがなものか。
「困ったね・・・これはどうも」
紫様からは特に気をつける事は聞いていないので、
そんなに気にする事はないのかもしれない。
だけれど、ここまで本格的なお屋敷となると、
私の常識は通じないのでは無いだろうか。
思案に入ってしまうと中々、その泥沼から抜け出すことが出来ない。
「御免。そなた、先ほどから何をしておられる?」
と、不意に柳のような擦れた声が聞こえた。
「えっ?あ・・・いや」
いつの間に居たか。
五歩も歩かぬ場所に、その男は立っていた。
私よりやや低い程度の背丈・・・若くは無い。
だけれど、背は曲がっていないし、
一般で言う年寄りとは違うであろう事は即座に理解できる。
(できるな・・・何者・・・)
「何をしておられる、と聞いているのだが?」
片目を吊り上げ、やや怪訝そうに私を見る。
その様にはっとし、佇まいを直す。
「失礼しました。私は主人により、
この白玉楼の幽々子殿に挨拶に行く様命じられた者です。名は・・・」
「八雲 藍殿ですな?」
「あ、はい・・・」
名乗る前に呼ばれ、一瞬だけ気が逸れてしまう。
が、すぐに持ち直し、相手を正視する。
「お通し願えますか?」
「私はこの屋敷の庭師をやっている爺じゃ。今は門番の真似事もしておるが。
ご来客の話は主人より聞いている。
・・・いや何、最近は不審な輩が多くてな。失礼をした」
態度に満足したのか、それとも役目柄だったのか、
先ほどと比べやや柔らかな物腰で言い、この老人は頭を下げる。
「いえ。こちらこそ、お伺いしたというのに何もせず、失礼しました」
私も倣い、頭を下げた。
「ではご案内いたす。ついて参れぃ」
老爺は門を手で押す。
バタ―――ギィ―――
あっけない音とともに、頑丈そうな門は開く。
「・・・もう少し堅牢なら、私が見張る必要は無いのだが」
苦笑しながら通るその門を呆気に取られながら見、
すぐに我に返りその後を追った。

「お連れいたしました」
襖の前で老人が静かに言い、開ける。
まず見えたのは大っぴらに解放された庭の世界。
見える限り視界の端には桜が咲き・・・
そして、その花びらが一枚、また一枚と室内に入り込む。
華栄な世界だった。
「そう、ご苦労様でした妖忌さん。もう下がって良いわ」
「御意」
舞う花びらのちょうど中心に、その女性は居た。
老人の言葉を気にも止めず、そのまま花びらと戯れている。
顔は・・・見えない。
しかし、声から、まだ歳若いのではないかと伺える。
「私は西行寺 幽々子と言います。この白玉楼の主。
この冥界の主でもあるらしいわ」
「八雲 藍と言います。紫様の式をしております。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくね。
―――紫は元気?」
互いが顔を全く合わせない顔見せ。
異様な光景であろう中、しかしそれでも失礼のないようにと会話をあわせる。
「はい。紫様は息災でいらっしゃいます」
「そう。良かったです。
あの人はいつも思いつきで無茶をするから―――」
「良く解ってらっしゃる」
「それはもう。でも、深くは知らないでいたほうが良いわね」
「え・・・?」
不意に、声のトーンが落ちたように感じた。
ひゅう、と風が吹き、
幽々子殿の周りを舞っていた花びらはまたどこかへと飛び去っていく。
「・・・冥界にも風が吹くことがあるのよ」
「はぁ・・・」
顔は見えない。
しかし、落胆したような、そんな表情が浮かんだ。
「海も無いのに。変な話よね」
「無いのですか?」
「無いわ。あるのは川だけ・・・それも、流れる事の無い死の川なのよ」
「・・・・・・」
意図が読めない。
風があること、そして海がないこと。
それを私に伝えて何の意味があるのか。
考えを巡らせようとした矢先、その体はくるりとこちらへ回った。
「え・・・あっ・・・」
「意味のない事なのよ。全く」
初めてみたその顔は、満面の笑みだった。

結局幽々子殿が何を言いたかったのか解らないままだった。
あの後も2、3話したが、どれも全く違う話題ばかりで、
関連も何も無さそうな事ばかりだった。
(はぐらかそうとしたのか・・・?いや、しかし・・・)
話した後は満足したのか、
「ありがとう」とだけ言ってまた庭の方に向いてしまった。
それと同じタイミングで襖が開き、老人が現れて屋敷の外へと案内されたのだが。
どうしても気になる。
気になったまま、私は冥界から現世へと戻った。

(続く)
初めましての方初めまして。小悪亭・斎田という者です。
ここまで読んでいただけてありがとうございました。

久しぶりにシリアスを書けたので、
ミニじゃなくこちらに投稿させていただきました。
今回は3話連続投稿です。
全部で6話ですが、一夜でやるには若干時間が足りない為、
半分ずつ投稿することにしました。

書きたいと思ったことを少しずつ盛り込んでいった結果、
全6話というちょっと長い感じになってしまいました。
ただ実際には1話34~40kb程の容量なので、話数ほど文の量は多くないかもしれません。
以前から「分ける必要ないのでは?」という指摘もあり迷ったのですが、
やはり自分としてはこれ位の量の方が読みやすいと思ったのでこの形式で投稿させていただきます。
短いと思った方、また以前上記のような指摘を下さった方には申し訳ないですがお許しを。

ではとりあえずこれにて。ではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.110簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
作者自身が「この長さが読みやすい」と言っているから水を差すこともないのだけど、
無駄に作品集を占領してるように見える、と感じる人もいるんですよと一応言うだけ言ってみる。
2.無評価名前が無い程度の能力削除
正直、これぐらいが読みやすいわ
話もしっかりしてるし続きに期待
4.無評価名前が無い程度の能力削除
作品集ってなんですか
6.60名前が無い程度の能力削除
取り合えず点数入れようぜと